神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
久々にポケモンをやり始め、フリーの余りのガチっぷりに落胆しております。
少々遅れてしまいましたが、漸くの投稿となります。
キャラクター一人一人の物語が違うように、一人一人の心情も違います。
その辺の分け方が難しいですが、頑張って書いていきたいです。
紅炎編、始めて行きます。
風の吹くまま気の向くまま
秋風爽やかに吹き抜ける、幻想郷は本日も晴天なり。
薄赤く色付き始めた山並みを眺めながら、今日も今日とて彷徨の一日。
もう本格的に秋だなぁ。 夏は長いけど、終わると何だかあっという間に感じてしまう。
そう考えると、何だか終わって欲しくないとも思えてくる。それこそ、夏休みに宿題を最後の一日まで手を付けずにいたヤツのように。
自己紹介が遅れたッス…俺の名前は
生まれた時の事なんて殆ど覚えていない上、親の顔すら覚えていないけど…碌に人と関われなかった今までの人生で、今がイチバン楽しい時なんだろうな、って事だけは分かる。
俺は以前、こっちでは外の世界と呼ばれる場所から、仲間と共にこの幻想郷へとやって来た。
その時に俺達は散り散りになったけど、きっと皆今頃楽しくやっているに違いない。
かくいう俺も、この幻想郷を渡り歩いて、いろんな人との出会いを楽しんでいる真っ最中だ。
ここの人達は皆良い人ばっかりだ。俺の事を怖がったり、白い目で見たりなんてしない。
着流し着て刀持った男なんて、向こうだったらコスプレ扱いか、即通報だったからなぁ…。
「全てを受け入れる世界」…あのスキマ妖怪が言ってた事は、本当だったみたいッスね。
現地であったのは、モチロン人間だけじゃあ無かったッスよ?
妖精や妖怪…あとは、神様もいたッスよ!姉妹で秋の神様だって言っていたなぁ。
あの二人…二柱は、今年も秋の豊穣と紅葉をお届けしてくれたみたいッスね。
「…腹減って来たなぁ」
豊穣の妹さんから貰ったおイモでも焼こうかな。
落ちてる葉っぱを軽く掻き集めて…と、こんなモンかね。
「さてと、そんじゃ…着火!」
指先から小さな火の玉を飛ばして、葉っぱに火を付ける。たき火だたき火だ落ち葉焚き。
良い感じに燃えて来た…さて、焼くとしますか。
今俺が指先から出した火の玉は、俺が持っている不思議な力による物。
当然ながら、普通の人間は指先から火の玉を出したりなんてしない。
何故こんな力を持っているのかさっぱり分からないけど、重宝しているので深くは考えてない。
…最も、その力のせいで人間社会じゃ生きられなかった訳だけど。
人間から見れば、こんな力持ってる奴は危険極まりないだろうし、仕方ないとは思う。
実際、今までに何度かこの力で人に怪我を負わせてしまった事もある。絡まれて、不可抗力だったとはいえ…正直、悪い事したよなぁ。
「…と、そろそろ良いかな?」
焼き上がった芋を手に取り、それを半分に割ってみると、湯気と共に甘い匂いが漂ってくる。美味そうッスねぇ~…。
…そうそう、どういう訳かは知らないけど、俺は熱に強い体質らしい。
それが証拠に、新聞紙か何かで包んでない焼き芋を素手で持っているのに、火傷一つない。
温かいとは思うが、熱いとは感じない。何とも奇妙だけど…まぁ、便利だからそこまで気にしてないッス!
冷めない内に、頂くとしよう。
「う~ん、美味い! 秋神様様ッスねぇ」
一口かじると、口の中に芋の甘味が広がっていく。焼き芋と言えばこの味ッスね!
焼きたてで非常に熱いんだろうが、当然ながら熱さは感じない。ホカホカで暖まるけど。
まぁ、フーフー冷ます手間が省けて儲けもんッス。…猫舌じゃ無くて良かったぁ~。
紅葉が広がりつつある野山を眺めながら焼き芋…中々風流ッスねぇ。
ごちそうさまでした。丸々一個食べ終えて腹が膨れてきた。
…さて、しばらく食休みとしよう。食べてすぐ寝たら太りそうな気もするけど…ちゃんと運動はしてるッスよ?
そのまま草原の上に寝転がる。…刀は邪魔になるので、隣に置いておこう。
この刀とも、大分長い事連れ添っている。
物心付いた時、既にこの刀は俺の手元にあった。
いつ手に入れたのかも、いつ頃使うようになったのかも覚えていない。
…けれど、ずっと昔から使い続けていたような、そんな感覚もある。
10年、20年とかじゃなく…もっと、そう…何百年も前からみたいな。
とはいえ、俺は今年で25。当然そんな昔から使っている訳が無いし、そもそも生まれて無い。
何とも謎が多いけど、俺はこの刀は気に入っているのでそこまで気にしない。
アレコレ考えて悩むより、それよりも楽しい事を考えた方が、人生は楽しいに決まってるッス!
……
「……ん、何だアレ?」
寝転がりながら空を眺めていたら、不意に視界を何かが横切った。
起き上がってその横切ったモノの正体を見てみれば、それは青い羽根を持った光る蝶のような物だった。
「蝶…なのか? あんなの見た事無いけど…」
その蝶は、青く輝く粒子の軌跡を残しながら、ゆっくりと俺の周りを飛び回っている。
俺は花じゃないッスよ~。…もしかして、俺に興味でもあるのかな?
「……? あ、もう行っちゃうんスか?」
しばらく俺の周りを飛んでいた蝶は、俺から離れて森のある方角へと進む…
…と思いきや、その場に留まった。何なんスか、一体?
蝶は何も喋らない。まぁ、蝶だから当然なんだけど。
けど、そのせいで何を言いたいのかがイマイチ伝わらない。
俺の周りをグルグル飛び回ったかと思えば、何処かへ移動しようとして…けど、俺の場所に留まって…
「…もしかして、『付いて来い』って言いたいんスか?」
…問いかけてみはしたけど、蝶に人間の言葉って通じるんスかねぇ?
『……』
その蝶は、当然何も答えない。
答えの代わりに、俺の周りを小さく飛び回った。
「『正解』…ッスか?」
実際にそう喋った訳じゃ無いけど…なんとなく、言いたい事は伝わって来た。
蝶に案内されるだなんて、何ともメルヘンチックな話ッスね。長生きはしてみるもんだなぁ。…と言っても、俺まだ若いんだけどね。
「…っと、待ってほしいッスよ~」
そんな事を考えている間に、その蝶はどんどん先に進んでしまっていた。
蝶のペースは割とゆっくりだったため、慌てる事無く歩いて追いかける事にした。
それに、多少離れていても見失う事は無いだろう。
光輝いている上に色鮮やかな青い体である為、辺りが木々で覆われている中でも一際目立つ。
…というか、本当にコイツは蝶なんだろうか?
この森に入ってから大分経った気がする。周りは大分薄暗く、奥の方が見えない。
蝶はというと、まだまだ奥へと進んで行っている。暗い中でも光っていて分かりやすいな。
それにしても、一体何処に向かって行ってるんだろうな…そして、いつになったら着くのかな。
更に歩く事十数分、突如視界が光に覆われる。どうやら開けた場所に出たみたいだ。
先程まで暗がりの中を歩いていた為か、光に目が慣れずに視界がぼやける。
数度瞬きを繰り返し、漸く目が光に慣れてくる。
そこには、墓標のように大量の石が建てられていた。
だが、それらはお世辞にも立派な墓標とは呼べない程に簡素な造りで、殆どが崩れ掛けか、或いは崩れ去り風化してしまっていた。
辛うじて形を保っている石も幾つか見えたが、そこに名前は刻まれていない。
ここに眠っている者達を弔う者は、果たしているのだろうか…?
苔むした石を見るに、墓参りに来る者など誰もいないのかもしれない。
もうずっと長い間野晒しになっているんだろう、人の手が入った場所が見られない。
「…何か、寂しい場所だな」
俺は会った事は無いけど、多分こっちには幽霊とかもいるのかな?
だとしたら、弔われなかった魂はどんな思いだったんだろうか。
もし、今もこの世を彷徨い続けているんだとしたら、それはきっと辛いだろうな。
…俺に何が出来るかは分からないけど、祈っておこうかな。
せめて、安らかに眠れるように…ってね。出来れば、花なんかもあると良いんだけど…辺りには彼岸花くらいしか無いな。お供えにはちょっと向いてないか…
『……』
さっきの蝶が一本の木の傍に飛んでいく。何だ?何かあるのか?
「…菊の花?」
木の根元に近寄って見ると、そこには白い菊の花が小さく咲いていた。
彼岸花だらけの中で菊の花だなんて珍しいな…花に関しては良く知らないから、どんな場所に咲くのかなんて分からないけど。
けど、そこにあるのならちょうどいいや。せっかくだし、この花を供えておこう。
何処にしようかと考えた結果、一番近くにあった墓石にお供えする事にした。
倒れてはいるけど、積み直せばこの場所では一番大きな墓標なるだろう。
ここに眠る者達の代表として…一つ、弔われてくれッス。
「…さて、と。 よし、これで良いか」
倒れた石を積み上げ、立派な墓標になった。
背負った刀を地に降ろし、墓前に跪き、白い菊を添えて、両掌を合わせる。
「安らかに、眠ってくれッス」
月並みな言葉だけど、祈りは届くと信じている。
…さて、届いたかな?届いていると良いな…っていうか届け。いや、マジで。
届いていると勝手に確信し、置いてあった刀を背負い、立ち上がる。
『……』
蝶は俺の祈りが終わるまで待っていてくれたのか、俺が振り返ると同時にそこから移動を始める。
「実は、結構律義なんスかね?」
まぁ、なんでもいいか。それより、あの蝶見失わないようにしないと。
『……』
蝶は少し進むとぴたりと止まった。止まったと言っても、流石に羽ばたいてはいるが。
「そこに何かあるんスか?」
その場所を注視してみたが、何かがある訳でも、別段大きな変化がある訳でも無い。
強いて言えば、周りよりも少しだけぼやけて見えるというだけだ。
その蝶は、そのままぼやけた場所まで進むと、そこに吸い込まれるように消えて行った。
「えぇっ!? ど、どうなってるんだ…?」
何か変な技でも使ったのか?…だとしたら、やっぱりアレは普通の蝶では無かったのか。知ってるよ、そんなの光ってる時点で。
恐る恐るその場所に近づき、手をそっと伸ばしてみる。
すると、伸ばした手が関節の辺りまで消えた。
そこから手を引くと、再びその手は現れた。まるで、何かの境のようだ。
ここから先は、どうやら何処かに繋がっているみたいだ。
ここよりも危険な場所かも知れないけど、あの蝶が気になるし…何より、面白そうだ!
「この先に何があるのかは…行ってみなきゃ分からねぇな!」
たとえ何が待ち受けていたとしても、きっと何もかもが新鮮に違いない。
そう強く意気込んで、俺はその境界へと足を踏み入れた。
……
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トンネルを抜けると、そこは雪国だった。…なんて事は無かった。
森を抜けた先には、またも森が広がっていた。緑豊かなのは好きッスけどねぇ…。
…けど、何だか妙だ。どうしてこうも静かなんだ?
さっきまでは生き物の声や木々の揺れる音なんかが聞こえていたのに、ここは何も聞こえない。
まるで、生き物が存在しないみたいだ。…微妙に肌寒いし。
暑さには強いけど、寒さに関しては人並みに感じるようだ。
当然、着の身着のままで雪山に放り出されたら死ぬ。誰だってそーなる。俺もそーなる。
…俺の力で火をおこせば、暖くらいは取れそうだけどな。
さっきの蝶は…いた、また先に進んでいる。この先に俺を連れて行こうとしてるのか…?
「まぁ、ついていくんスけどね」
全く未知の場所だし、何より今までと違って生き物の気配が無い。
その中で唯一俺以外に動いているモノがあの蝶しかいない以上、それについていくしかない。
再びその蝶を追い、森の中を歩き始めた。
先程まで青々としていた空は、徐々に夕焼け色に染まりつつあった。
もう日が暮れるか…今日も何処かで野宿か。…正直、ここで野宿はしたくないな。
静かなのは良いけど、如何せんここは静かすぎる。蟲の声一つ聞こえないのは流石に寂しい。
野生の妖怪とかに襲われる心配は無いだろうから、その点は安心できるか。
真っ直ぐ進んでいた蝶は突然曲がって、木々の間に入った。
「曲がるのかよっ」
見失わないように、少し急ぎ足でそれについていく。
その道を曲がり、木々に覆われた獣道を抜けると、少し開けた場所に出た。
先程までずっと森の中だった為、小休憩にはうってつけと言えるだろう。
「あれ、あの蝶どこいった?」
気が付けば、今まで先導していた蝶が何処かに消えていた。
もう案内は終わり…って事ッスかね?じゃあ、ここが目的地だ。
とはいえ、ここには何も…
「…ん? なんだあの階段?」
自分から見て右に目を向けると、そこには石段と思しき物を発見した。
上に目を向けると、その石段の先に建物のような物が見える。誰かが住んでいるのだろうか?
「もしかしたら、人に会えるかも知れないな。 行ってみるか」
お邪魔だったら帰れば良いし、もしかしたら色々話を聞かせて貰えるかもしれない。
あわよくば、一晩泊めて頂いて…なんて、それは流石に虫がいい考えッスね。
兎にも角にも、行ってみない事には始まらないか。…それにしても、この石段長いなぁ。
……
残り5段、4段、3段…やれやれ、漸くゴールだ…。
もう最初の地点が随分と小さく見える。
2…1……ッ!?
「ッ!!」
最後の石段を登りきろうとした刹那、視界に何かが飛び込んできた。
それが何なのかを認識するよりも速く、体は動いていた。
回避する為に仰け反った勢いを利用し、そのまま宙返りをして数段下の石段に着地する。
改めて体制を整え、意識を石段の上に向けると、そこには一人の少女が立っていた。
白いシャツの上に深緑色のベスト、同色のスカート、胸元には黒いリボンを身につけている。髪色は銀色、髪型は短いおかっぱ、頭には黒いリボンを付けている。
遠目に見ても小柄と思しき彼女の右手には、その体格に不釣り合いな程に長い刀、左手には脇差程度の刃渡りの刀を持っている。
傍らに連れた白い半透明な物体の正体は分からない。深くは考えないでおこう。
二刀流…少なくとも、単なるコスプレではない事は確かだろう。
今しがた目の前に飛んできたのは、恐らくあの少女の刀の切っ先。
視界に入るまで、気配に気が付かなかった。それだけでも、彼女が実力のある剣士だと分かる。
後ろの…結構大きなお屋敷みたいだし、もしかして用心棒か何かかな?
だとしたら、そりゃあいきなり見知らぬ人間が近づいたら警戒もするか。
「もしかして、ここのお屋敷の人ッスか?」
此方に刀を向けたまま見降ろしている少女に、そう尋ねてみる。
「…何者だ?」
「あっ、自分は紅炎って名前ッス」
何者かと聞かれたので、すかさず自己紹介をする。
此方からは絶対に戦意を向けない。刃を交える意志が無い事を示すのだ。
「…何をしに来た?」
対する少女は、無表情で此方を見降ろしながら次の質問をする。
それでも、突き付けていた刀はゆっくりと降ろしてくれた。モノ分かりの良い相手で助かった。
「何をしに…かぁ。 何というか…気が付いたら此処に来ていたんスよね。
それで、人のいる場所を探して回っていたら…此処に着いたってだけッス」
間違った事は言っていない。あの蝶の導きのお陰で此処に来ちゃったけど、着いてきたのは俺の意志だ。…まぁ、その結果がこれなんだけどな。
「何…? 生者が迷い込むだなんて…もしかして、お盆の時の影響がまだ…」
正直に答えた所、その少女は少し驚いたような顔をして、何やら独り言を呟き始めた。
何の話かはさっぱり分からないけど…もしかして、ここに俺がいるのってマズかったりするのか?
「あのー、もしもーし?」
「へっ? …あ、えっと…と、とりあえず、少々お待ち下さいッ」
声をかけると、はっと我に返る少女。
両手に持っていた刀を鞘に納め、そう告げて屋敷の方に走っていった。隣の白い物体も一緒に。
…アレもしかして、あの子が使役していたりするのかな?
『あら、お客さんかしら?』
突然後ろから声が聞こえてくる。
振り返り、その声のした方向を見ると、そこには先程とは別の少女がいた。
所々に白いフリルのような装飾が付いた独特な薄い青色の着物を身に付けており、ピンク色の髪を上から覆っているのは、これまた独特な形状の薄青色の帽子。
にこやかな笑みを浮かべたその少女の顔は、俺の目線と同じ高さにある。
ちらりと足元を見てみれば、浮いて高さを合わせている事が分かった。
この世界の住人の中には何らかの能力を持っており、空を飛ぶ事が出来る者が割といるらしい。
…以前人里の屋台で知り合った夜雀妖怪の受け売りだけど。
…え、俺?飛べる訳無いッスよ。そもそも、そこまで飛びたいとは思わない。
「ども、初めまして。 自分は紅炎と申しまス」
初対面の人には、まずご挨拶&自己紹介。
「あら、ご丁寧にどうも。 私の名前は
この
どうやら、この少女がお屋敷で一番偉い人らしい。
こんな大きなお屋敷を持っているなんて、余程凄い人なんだろうなぁ…。
それにしても、『西行』って何処かで聞いた事があるような…まぁ、どうでもいいか。
「…貴方、見たところ生者のようだけど、一体どうやって此処に来たのかしら?」
生者、生者って…まるで此処が死後の世界か何かのような言い草ッスね。
まぁ…こうも生き物の気配を感じないような場所じゃ、死後の世界と言われても何ら驚きはしないッスけど。
…って、生き物の気配が無い?…なら、目の前の西行寺さんはよ?
「…失礼を承知で一つ尋ねたいッス」
「あら、何かしら?」
「アンタ、ひょっとしてもう死んでたり…する?」
我ながら何とも酷い質問だ。これで違った場合ドゲザするっきゃ無いッスよこれは…。
「正解~♪」
「やっぱりなぁ、そんな訳ある筈が……え?」
ちょっと待て、何つったこの人今。
「だから、正解よ。 私は亡霊、もう死んでるのよ~」
「…マジッスか?」
「マジッスよぉ」
口調マネされた!?…じゃなくて、もう死んでる!?
「ということは、此処って…」
「…お察しの通り。 ここは
死後の世界…本当にあったのか…。
…ってことは、俺は今死後の世界に来てるのか!スゲェ!
「いやぁ、人生何が起こるか分からねぇなぁ~!」
「あらあら、随分と楽しそうねぇ」
「楽しいッスよぉ~、人生は楽しいッス!
こんな貴重な体験が出来るなんて、夢にも思って無かったッスからね!」
「まぁ、そうなの…」
死んでる側からすれば『何言ってんだコイツ』と思われそうだけど、俺はかなりテンション上がってるんだ、仕方ないね!
やっぱりこの世界って面白い!八雲様様、ゆかりありがとう!俺今凄く楽しい!
「ところで、貴方」
「ん? 何スか?」
「その風貌を見る限り、貴方って剣士なのよね?」
「そうッスよ」
頬に手を当てて笑みを浮かべていた幽々子が、唐突にそう問いかける。
一応、俺は剣士だろう。なので、素直にそう答える。
「実は…貴方を見込んでお願いがあるのよ」
「オネガイッスか?」
初対面の人間に頼みこむなんて、一体どんなお願いだろう?
前の質問から察するに、剣士である事が条件みたいッスけど…。
「うちの妖夢…さっきの剣を持った女の子の事。
この白玉楼の庭師であり、私の剣術指南役なんだけど…どうも最近、伸び悩んでいるらしいの。
…そこで、妖夢の修行相手になって欲しいの」
「シュ?」
どうやらその妖夢なる子の修行の相手になれとの事。
随分と唐突だな…初対面でそんなお願いされるとは夢にも思って無かったッス。
「もちろん、タダでとは言わないわ。 修行を付けて下さるのなら、この屋敷に住まわせてあげますわ。 当然、衣食住も保障します。 …どうかしら?」
おお~、それは魅力的な…って、ん?
「な~んで俺が根無し草だって分かったんスか?」
「あら、別にそんな事言っていないわよ? …けど、それなら都合が良いんじゃないかしら?」
むぅ…何と言うか、掴みどころが無い感じッスね、この人…いや、亡霊?
ただまぁ、好都合なのは確かだ。野宿は避けたいと思っていたし。
「良いッスよぉ、それ乗った!」
「やった!」
サムズアップで承諾のポーズ。幽々子も同じくサムズアップ。
実は結構ノリの良い性格なのかもしれない。良いねぇ、良い人に会えた!…あ、人じゃ無かった。
「ゆ、幽々子さまぁ~…どちらにいらっしゃるのですかぁ~…」
遠くの方から少女の声が聞こえてくる。幽々子が言っていた、妖夢って子ッスね。
もしかして、今の今までずっと幽々子の事を探していたのか…?
「あ、いたいた。 妖夢~、こっちよ~」
「…ってそこにいらしたんですか!?」
幽々子が声をかけた事で、漸く此方にいる事に気が付いたようだ。
うーん…なんというか、
「この紅炎さんが貴方の修行相手になってくれるわよぉ」
「えっ? 幽々子様、いきなり何を…」
「ほらほら、早速御前試合と洒落込みましょうか~♪」
「ちょ、幽々子様ぁ!?」
おぉう…随分とマイペースな人ッスね…。人じゃ無いけど。
今来たばかりの妖夢には、何の事かさっぱり分からないだろうに。
…『御前試合』と言う事は、早速もうやり合おうって事なんスかねぇ?
「ほら、貴方も早く来なさい」
妖夢を引っ張って行く幽々子が此方に振り返り、そう告げる。
それはまるで玩具を前にした子供のように無邪気な笑顔に見えた。
「了解ッス!」
そう返事をし、小走りでその後を着いて行く。
振り向いた幽々子の傍らに、一匹の青い蝶が舞っているのが見えた気がした。
幽明の墓標に花を添え、蒼き蝶に導かれ、亡霊の少女と出会う。
陽炎の剣士の新たなる物語の幕開け。
…というわけで、始まりました紅炎編。この章では紅炎が主人公となります。
彼は非常にポジティブな性格で、何事も楽しむスタンスを崩しません。
妖々夢のストーリーや背景のエピソードは結構暗いので、なるべく明るい話にしたいと思います。
もうすぐ新学期スタートな為に少々忙しくなりますが、連載速度は落とさぬよう頑張ります。
次回、「丁丁発止」。御前試合の始まりだ!