神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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時間的にはまだ26日ですから(震え声)


-あらすじ-
妖夢、幽々子と顔を合わせ、本格的に白玉楼の一員として迎え入れられた紅炎。
幽々子との会話は、妖夢にはちょっと難しい内容だったかも。


半人半霊の庭師

ここは冥界、現世(うつしよ)とは対極に位置する、死者の住まう世界。

だが、そこは現世と何ら変わりなく、木々が生え、水が流れ、太陽が昇る世界。

 

そんな世界に、今は一人の生者が住まう。

幻想郷をさすらう剣士だった彼は、幽々子の計らいで白玉楼に定住する事となった。

 

まだ太陽が顔を全て出し切っていない黎明期、春には満開の花を咲かせるであろう桜の木、その葉から朝露が零れ落ち、地面を濡らす。

静かに木霊する鹿(しし)(おど)しの音色に耳を傾けながら、紅炎は一つ、大きな欠伸をする。

 

その声に気付いたのか、先に庭に出ていた妖夢が振り返る。

彼女は、その身の丈に不釣り合いな程に大きな刀―楼観剣を右手に持ち、左手には、もうひと振りの短刀―白楼剣を構えていた。

相対する紅炎を見つめるその表情からは、歓迎会が行われた昨日の疲れ等は微塵も感じさせない。

 

「おはようッス。 気合い入ってるッスね」

「おはようございます、紅炎さん。 …ええ、これを毎朝やるのが日課ですから」

 

挨拶を交した妖夢は、そう言って二振りの刀を虚空に向けて振り始める。

彼女が行っているのは素振り、剣を振るう上での基本的な筋力を付ける為のトレーニングである。

通常、剣道においては刀一本で行うのが主流であるが、二刀流である彼女の場合、そのトレーニング方法も他とは一線を画す物であると言える。

 

二振りの刀を交互に振るい、両腕の筋肉を均等に鍛えようという心算なのであろう。

だが、そのトレーニング方法は、紅炎の眼には些か不安定な物に見えた。

 

「その振り方、あんまり良くないかも知れないッスね」

「えっ?」

 

そう指摘を受ければ、振るう手を止める妖夢。

両手を降ろし、再び紅炎の方を向く。その表情には不満と疑問が入り混じって見えた。

 

「今までこのやり方だったんスか?」

「ええ…でも、何故このやり方は良くないんですか?」

「そうッスねぇ…」

 

紅炎はそう呟きながら、妖夢の立つ庭の中心まで近づく。

そうして、妖夢のすぐ傍まで来る紅炎。互いの距離は三歩程度といった所だろうか、手を伸ばせばすぐに届くような距離である。

困惑している妖夢を他所に、紅炎は彼女の右腕を掴んだ。

 

「ひゃっ!?」

「なるほど、なるほど…。 それなりに筋肉はついているみたいだな。 けど…」

 

妖夢の二の腕辺りを掴み、筋肉の付き具合を確かめるように二度、三度と揉む紅炎。

紅炎が手を離すと同時に数歩後ずさる妖夢。その顔は紅葉の如く真っ赤に染まっていた。

 

「い、いきなり何を…」

「大分筋肉が硬くなってるッスねぇ。 ストレッチとかしてほぐすと良いッスよ」

「そ、そうですか…」

 

抗議の声を歯牙にも掛けず、そのまま話を続ける紅炎に、あっさりと妖夢は折れた。

 

「ちょうどいいし、効果的なストレッチの方法から教えていくッスよ。 とりあえず、刀はしまってな」

「は、はい!」

 

言われたとおりに両手に持っていた刀を納刀する妖夢。

それを見て軽く頷いた紅炎は、袖をまくってストレッチを行う体制を整える。

 

「先ずは腕をよ~く伸ばす事からッス。 腕全体を伸ばす事を意識するッスよ」

 

両腕を組み、頭上に伸ばす紅炎。それに倣って、妖夢も同じく腕を伸ばす。

 

「背筋も真っ直ぐに伸ばすと良いッスよ~。 …そうそう、そんな感じ。 腕の筋肉が伸びてる感じするだろ?」

「確かに…伸びている感じがしますね」

 

ある程度の時間が経ち、頭上に伸ばしていた腕を下ろす紅炎。

今度は、胸の前で右腕を横に伸ばし、左手で伸ばした右腕を抱え込む動作を取る。

 

「アーム・プルってヤツッスね。 なるべく右腕は胸につく位に意識してみるッス」

「こ、こうですね…」

 

同じ動作を取る妖夢。 十秒程度伸ばした所で、今度は反対の腕も同じように伸ばす。

 

「それじゃ、次は背中に手を回して…後ろで右腕を掴んで、そのまま引っ張るッス」

「んっ…」

 

腕が伸びる心地よさからか、目を閉じる妖夢。その様子を見て、小さく笑う紅炎。

反対側の腕もまた同様に伸ばす。それを終えたタイミングで、紅炎は次の動作へ移行する。

 

「…効果テキメンッスね。 さて、お次は手首ッスよ」

 

左手を前に伸ばし、指先を上にした状態にする紅炎。その左手の平を右手で掴み、左手首を曲げる動作をする。

 

「腕の内側が伸びている感じです…」

「そうそう、それが効いてる証拠ッスよ。 十分伸びたら、反対側も同じようにやるッスよ」

 

反対側も同じく伸ばす二人。傍から見れば、その光景は仲睦まじい兄妹のようにも見えた。

 

「そしたら、外側もッスね。 さっきの上下逆みたいな感じで、こう…そうそう、そんな感じッス」

「ん……」

 

再び左手を前に伸ばし、今度は指先を下に向けた状態にする。その左手の平を右手で掴み、手のひらが自分に向くように手首を曲げる。

 

「後は、軽く肩を回す…って感じッスかね」

「こう、ですね…」

 

肘を曲げた状態で、肩だけを前後に回す紅炎。妖夢もそれをまねて肩を回す。

 

顔を全て出し切っていなかった太陽は、いつの間にかその全貌を露わにしていた。

 

「あ…もうこんな時間…。 朝ごはんの準備をしないとっ」

「お、もうッスか? 時間が経つのは早いッスねぇ」

 

地面に置いていた二振りの刀を腰に戻し、足早に建物に戻ろうとする妖夢。

縁側に上がる直前、振り返って紅炎の方を見据える。

 

「朝ごはんを終えたら、修行に付き合って戴けますか?」

「ん? おう、おっけーッスよ!」

「ありがとうございますっ!」

 

そう言うと、深々とお辞儀をしてその場を後にする妖夢。遠目に見えたその顔には笑みを湛えていた。

 

「…うし、期待に応えるッスよぉ~」

 

右手で小さく握りこぶしを作り、小さな決心をする紅炎であった。

 

 

朝食を終えた頃には、空はすっかり明るくなっていた。

朝から食欲全開な幽々子の対応に追われる妖夢、その様子を苦笑しながら見つめる紅炎。

そんな朝の一幕を経て、彼らは再び庭に出ていた。

目的はと言えば当然、妖夢の修行である。無論、食後の休憩は挟んでいる。

 

「さてさて…お待ちかねの修行タイムッスよ~」

「はいっ!」

 

ユルイ調子でそう告げる紅炎の言葉に、意気込んだ様子の妖夢。

 

「…と、言いたいところだけど、それはまだおあずけッス」

「…はい?」

 

直後に続いた言葉に、その意気込みは見事に空回りする結果となった。

 

「えっと…どういう事ですか?」

「修行に入りたいのはヤマヤマッスけど、今までの修行の方法がアレだとして、かなり体に負担が掛かってしまうッス」

「はぁ…」

「力を付ける為に無理をして、それで体を壊したりなんかしたら、元も子も無いッスよ」

「うっ…」

 

そう指摘を受ければ、言葉に詰まる妖夢。自身の中でも、思い当たる節があったようだ。

 

「だから…これからやるのは、基礎的な筋力作り…簡単に言っちまえば、筋トレッス」

「き、筋トレ…」

 

期待が外れたことから来る落胆か、或いは筋トレに対する苦手意識からか、顔を歪める妖夢。

 

「そう、腹筋腕立て背筋…ってな感じで、基本的な事()やっていくッスよ」

「基本的な事“も”…? …ということは、他にも何かあるのですか?」

「一応、特別なメニューも考えているッスよ。 …まぁ、その辺は様子を見てやって行くつもりッス。 余裕そうならやるし、厳しそうなら…まぁ、見てもらうだけッス」

「そうですか…わかりました」

 

ちなみに、紅炎は動きやすい服装に着替えている。上は袖の無い黒の肌着、下は動きやすい白のスウェットである。

腰まで伸びた長い髪は、動く際に邪魔にならないように、後ろの部分を後頭部付近で一本に束ねてある。

対する妖夢は先程と同じ服装である。その服装を見た紅炎が、訝しげな表情を浮かべる。

 

「…一応言っておくけど、結構汗かくッスよ?」

「大丈夫です、着替えは用意してありますから」

「あ、そうッスか。 …まぁ、動くのに支障が出なければ何でも良いッスよ」

 

彼らが立つ庭の上には、事前に花見の席のようにシートが敷かれていた。

そのシートの上に両膝を突き、四つん這いの体勢になる紅炎。

 

「とりあえず、最初は軽く行くッスよ。 先ずは腕立てからッスね」

「は、はい」

 

手と手の間を軽く開いた状態で、足を伸ばして爪先で立つ紅炎。

それに倣い、同じ体制をとる妖夢。

 

「軽く10回、やってみるッスよ」

「わかりました」

 

そのまま体を地面すれすれまで下げ、今度は下ろした体を腕の力だけで上まで持っていく。

紅炎は涼しい顔で、妖夢は多少腕が震えはしたものの、危なげなく10回をやり切る。

 

「流石にこの程度は余裕ッスかね。 それじゃ、次は…」

 

再び爪先と手で体を支え、腕立て伏せの状態になる紅炎。今度は、体を下ろした状態をそのまま維持し始める。

 

「これを10秒間キープするんスけど…キツイと思ったら5秒でも良いッスよ」

「わ、わかりました…」

 

言われた通りに腕立て伏せの状態になり、ゆっくりと体を下ろす妖夢。

下まで体が下りたタイミングで、体をその場に固定する。

見る見る内に顔が赤くなって行き、手が震えだす妖夢。息も段々と荒くなっていき、今にも崩れ落ちそうである。

 

「5秒経ったから、その辺で終わりで良いッスよ」

 

紅炎がそう告げると、そのまま崩れ落ち、シートの上にへたり込む妖夢。

 

「はぁ…はぁ…」

 

仰向けに寝転がり、荒くなった呼吸を整える最中、紅炎は妖夢に語りかける。

 

「5秒って、意外と長いだろ?」

「は、はい…とても…」

「これを10秒、苦も無く続けられるようになるのが目標ッスね」

「はうっ…」

 

5秒だけでも凄まじく体力を消耗しているにも関わらず、目標である10秒にはあと5秒届いていない。

それどころか、その10秒間を苦も無く続けるという目標は、妖夢にとっては巨大な壁に思えた。

 

「…がんばります」

「おお、その意気ッスよぉ」

 

だが、妖夢はへこたれはしない。

目の前に壁があればある程、彼女はそれを乗り越えるべく挑み続ける、そんな芯の強さがあった。

 

「じゃ、次は腹筋運動ッスね。 これは割と簡単ッスよ」

 

そう言って、今度は膝を立てて座り、両手を頭の後ろに回す紅炎。

 

「先ずは、このまま10回ッス」

「はいっ」

 

そのまま上体を寝かせ、その体勢から胸の位置に膝が当たる程の高さまで上体を起こす。

紅炎に一拍遅れる速度で10回を終えた妖夢。それを確認した紅炎は、妖夢に向けて次の指示を出す。

 

「今度は、右の膝に左のひじが来るように腹筋するッスよ~」

「ひじを…」

 

再び上体を寝かせ、今度は体を捻りながら上体を起こし、右膝に左肘を当てる動作を取る紅炎。

同じ動作を妖夢も取るが、5回を越えた辺りから、上体を起こす速度が遅くなっていく。

 

「キツイッスか?」

「い、いえ…まだ、大丈夫です…っ」

 

紅炎に大分遅れる形で10回を終えた妖夢は、そのまま上体を倒す。

先程の腕立て程ではないにしろ、再び呼吸が荒くなる妖夢。

 

「はぁ…」

「休憩はもうちょっと先ッス。 次は逆バージョン、行ってみるッスよ~」

「は、はいぃ…」

 

そんな妖夢を尻目に、紅炎は平然とした顔で続けるように促す。

悲鳴にも似た返事をしながら、先程とは逆の膝に逆の肘を付けるように腹筋運動を行う。

紅炎もまた、同じ動きを、これまた平然とした顔で行う。

 

10回を終える頃には、再び仰向けに倒れて荒い呼吸をする妖夢の姿があった。

 

「普通の腹筋運動に違う動きが加わるだけで、かなり腹筋を使うんスよねぇ」

「はぁ…はぁ…」

「さてさて、少し休憩するッスかね」

「はい…ありがとうございます…」

 

そうして、二人はシートの上に座り込む。

苦しげな表情を浮かべ、額から汗が流れ出ている妖夢に対し、紅炎は至って涼しい表情で、汗一つかいていない。

 

「あらあら、張り切ってるわねぇ。 タオルとドリンク、持って来たわよ~」

 

縁側の方からゆったりと間延びした声が響く。

その方向に振り返れば、二人分のタオルと飲み物の入った容器を持って、幽々子がにこやかな表情で見つめていた。

 

「おぉ~、どうもありがとうッス!」

「ゆ、幽々子様…!? どうして…」

 

笑顔で幽々子に手を振る紅炎。それに対し、妖夢は驚愕した様な表情を浮かべる。

 

「どうしてもなにも、休憩は大事でしょう?

それに、紅炎に教えてもらったスポーツドリンクを作ってみたかったのよ♪」

「そ、そうなんですか…」

 

そう言って、妖夢は幽々子からドリンクを受け取り、それを軽く口に含む。

 

「…! おいしいです…!」

「そう、よかったわ♪ 砂糖と塩とレモン果汁だけで、本当に作れるのねぇ」

 

二人は幽々子から受け取ったドリンクを飲んだ後、妖夢はタオルで汗をふき取った。

 

すっかり息も整った妖夢を見て、紅炎は休憩の終了を告げる。

 

「それじゃ…キリの良い所で、2セット目行くッスよ~」

「えっ…もう1セットあるんですか…?」

「ああ、あるッスよ~。 これを4セットやるんスけど…まぁ、今回は3セットまでで良いッスよ」

「わ、わかりました…」

 

4セットという単語に一瞬顔を引きつらせるも、続く言葉に多少表情を穏やかな物に変えていく妖夢。

1セット少ないとはいえ、3セットでも彼女にとっては辛い物であったが、それでも彼女には4セットよりもマシだと妥協せざるを得なかった。

 

 

3セット目まで終える頃には、妖夢は既にぐったりした様子であった。

汗が滴り落ちる事を気に掛ける余裕すら失っているようである。

それに対し、多少汗はかいているものの、紅炎は依然余裕がある様子であった。

 

「結構良い運動になったろ? どうッスか、妖夢?」

「は…はい…かなり、きつかった、です…」

「あはは、はっきり言うッスねぇ…。 けど、いずれは出来るようにならないとッスよ?」

「わ、わかって、ます…!」

 

紅炎がそう語りかければ、毅然とした口調でそう返す妖夢。

未熟ながらも、強い意志を感じさせるその言葉に、紅炎は僅かばかり口角を上げる。

 

「分かってるなら、問題無いッスね」

 

そう告げると、紅炎は静かに立ち上がり、妖夢と距離を取る。

 

「…? まだ、何か…?」

「ああ、ここからは特別メニューッス。 今妖夢はやる必要は無いッスよ、見ていてくれるだけで良い」

「そうですか…」

 

紅炎がそう告げれば、妖夢は納得したように頷き、シートの端の方へ移動する。

どんなメニューかは把握できてはいないが、紅炎の邪魔にならないようにという配慮であった。

 

「サンキュー。 でもそんなに幅は取らないから、大丈夫ッスよ」

「そうなんですか…?」

 

四つん這いになり、そこから腕立て伏せの体勢になる紅炎。

その部分だけを見れば、先程までの腕立て伏せと何ら変わりは無いように見える。

だが、直後にその考えは否定される事となる。

 

「なっ…!?」

 

つま先立ちをしていた足を持ち上げ、そのまま足を体と平行にする紅炎。

つまり、両腕の力だけで体を支えている状態である。

その状態のまま、腕を曲げて腕立て伏せの動きを取る紅炎。

 

「あらあら、すごいわねぇ」

 

後ろで見ていた幽々子が、のんびりとした口調で称賛の声を掛ける。

その言葉に賛同するように、無言のまま数度首を縦に振る妖夢。

10回目を終えた辺りで、紅炎が口を開く。

 

「今度は、こうやって…」

 

ゆっくりと膝を曲げ、後ろを蹴るように足を伸ばし、その勢いのまま体を上へと持ち上げる紅炎。

そして、曲げていた腕を伸ばす。所謂、倒立の姿勢になる。

 

「この体勢で、10回…腕を曲げるッス」

 

倒立の姿勢から腕を曲げる動作を繰り返す紅炎。

その様子を、ただただ唖然とした様子で見つめ続ける妖夢。

10回目を終えたところで、再び体を下ろし、先程の腕立ての姿勢になる。上げていた足を戻す際に、つま先を付けたのは一瞬、それも片足のみであった。

 

「またこの体勢に戻って…んで、これを合計4セット繰り返すッス」

 

下を向いていた顔を横に向け、妖夢を見る紅炎。

 

「…これ、出来るッスか?」

 

そう問えば、刹那もかくやという速さで首を横に振る妖夢。

紅炎と、後ろの縁側に座っていた幽々子は思わず苦笑いを零す。

 

「ですよねー。 …まぁ、いきなりやる必要なんて無いッスよ。

それに、これ結構…ハァ、しんどいんスよねぇ」

 

そう話を続けつつも、体を動かす手は止めない紅炎。

 

そうして4セット目を終え、紅炎はゆっくりと立ち上がる。

先程よりも汗の量が増え、呼吸も多少荒くなっていた。疲労の量は歴然の差であろう。

 

「いやぁ~、良い汗かいたッスねぇ。 それじゃ、使った筋肉をほぐす為に軽いストレッチッス」

「はい!」

 

タオルで汗をふき取りつつ、そう告げる紅炎。

トレーニングの終わりを示唆する言葉を聞いた為か、多少元気を見せる妖夢。

 

「ハハハ、まだ初日ッスからねぇ?」

「うっ…」

「あらあら、大変ねぇ♪」

 

ストレッチをしながら、そんな談笑を繰り広げる二人。

その様子を、後ろで温かな目で見守る幽々子。

 

清涼な秋風が庭に吹き抜け、鹿威しの音色が静かに木霊する。

冥界を照らす陽が、東と西の間にさしかかり、昼時が訪れた事を告げていた。

 

 

------

 

昼食を終えた後、妖夢は幽々子に風呂に入るよう告げられた。

妖夢としても、早急に体を休めたかった為、好都合ではあった。

 

彼女は、自身以上に体力を消耗しているであろう紅炎に先に入るよう提案したが、

『良いんスよ、問題無いッス! ごゆっくりどうぞ~』と言われ譲られる事となった。

 

少し広めの脱衣所で、汗で濡れた衣服を脱ぎ、脱衣かごの中に入れる妖夢。

身につけている下着までもが汗に濡れていた為、それを脱いだ事で嫌悪感と不快感から解放される。

 

タオルを持って、風呂場へと向かう妖夢。

個人で使うには余るほど広い風呂場には、古風な屋敷の外観に似合わず、割と近代的な設備が整っている。

 

蛇口を捻り、頭からシャワーを浴びる妖夢。

そのシャワーは、半日分の疲れが一気に洗い流されるような感覚を妖夢に与える。

 

「ふぅ…」

 

汗ばんだ体を念入りに洗った後、妖夢は浴槽へと体を沈める。

適温よりも少し熱めに沸かされた湯船は、疲れた肉体を癒すにはもってこいであった。

 

「はぁ…気持ちいい…」

 

全身が温まり、不思議な安心感に包まれる妖夢。大きく背伸びをし、顔が天井に向く。

そのまま天井を見つめ、午前中のトレーニング内容を回想する。

 

「それにしても、あれ程のトレーニング内容だなんて…」

 

そう呟くと、それまでの蕩けたような表情から一転、真剣そのものな表情となる妖夢。

天井を見上げていた顔を降ろし、自分の手を見つめながら暫し沈吟する。

 

「…やってみせる! 絶対に、目指して見せるっ! あの人のいる高みへと、近づいて見せる…っ」

 

慎ましい胸に右手を当て、決意を固める妖夢。そのまま立ち上がる…素振りは見せず、湯船に肩を沈める。

 

「でも、今はこうして、ゆっくりしていたい…」

 

胸中に抱いた彼女の決意は、温かな湯船の誘惑にあっさりと根負けするのであった。

 

 

数十分後、湯船に浸かったままのぼせていた妖夢は、心配して駆け付けた紅炎に無事救出された。

 

 

 

 




まさかの、筋トレ回。

本格的な修行に入る前に、先ずは基礎から作っていこうって話です。
今回のトレーニングは、普段私がやっているトレーニングを若干参考にしています。

ちなみに、文中で紅炎がやっていたトレーニングは危険ですので真似しないでください。


決して妖夢の入浴シーンが書きたかっただけでは無い、いいね?
ラッキースケベ的な展開は、ご想像にお任せします。


次回、「幽霊楽団」。あの姉妹が登場!(予定)
4月29日、投稿予定です(投稿するとは言っていない)


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