神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
トレーニング後のあの強烈な疲労感はどうにかならないだろうか。
-あらすじ-
妖夢を強くするべく、本格的に修行を始める…かと思いきや、まさかの筋トレ。
強くなるには、先ず体作りから。そう意気込んで妖夢は気合いを入れたが湯船には勝てなかった。
紅炎による基礎体力トレーニングが始まってから、約一週間が過ぎた。
体がついていかなかった最初の頃に比べ、ある程度の時間トレーニングを続けても息が切れる事は無くなった。
妖夢は、この短期間で確実に自分に体力がついて行くのを実感していた。
日課となっているトレーニングを行うべく、靴を履いて庭に出る妖夢。
だが、いつもならば紅炎が動きやすい服装で立っている筈の場所に、人の姿は無かった。
疑問を抱いた妖夢の背後から、声を掛ける者が一人。
「おぉ、おはようッス」
普段のこの時間ならば庭に出てトレーニングの準備を済ませているであろう筈の人物、紅炎だった。
「おはようございます、紅炎さん。 …えっと、今日のトレーニングは…」
「あぁ、その事なんスけどね…」
妖夢がそう問えば、記憶を探るように頭を掻きながら応える紅炎。
「実は、今日はお客さんが来るって幽々子が言っていたんだ。
何でも、巷じゃ結構有名な楽団らしいんだけど…妖夢、知ってるか?」
「楽団…? …いえ、存じません」
ここでいう巷というのは、恐らくは幻想郷であろう。妖夢はそう推測する。
この冥界は、幻想郷とは隔離された世界ではあるものの、その境界は実に曖昧である。
紅炎という前例がある事からも分かる通り、幻想郷から冥界へと繋がる手段は幾つか存在する。
その内の一つが、幻想郷の上空に存在する『幽冥結界』と呼ばれる門から出入りするという方法。
幻想郷と冥界とを繋ぐ門として、嘗て閻魔と妖怪の賢者によって設けられた場所であるが、その門の管理は、白玉楼の主である幽々子に一任されている。
冥界に住まう魂の管理を行っているのも彼女である為、妥当な役割であると言えるだろう。
その幽冥結界を通って此方に渡る事が出来るのは、『空を飛べる者』に限定される。
上空にあるのだから、当然である。
「そうッスか。 幽々子は知ってたみたいだけど、一体どんな人達なんだろうなぁ」
天井を仰ぎ見ながら、これから幽々子が招き入れるであろう『楽団』に想いを馳せる紅炎。
「…まぁ、そういう訳だから、今日はトレーニングはお休みッス。 時には羽を伸ばす事も大事ッスよ」
「そうですか…。 わかりました、今日はお休みです」
納得の意志を示すように、紅炎の言葉を反芻する妖夢。何処か滑稽なそのやりとりに、思わず吹き出してしまう紅炎。
耳を赤らめ、頬を膨らませる妖夢の後ろから、何処か間延びした声が響く。
「妖夢に紅炎、二人とも揃ってるわぇ」
いつもと変わらぬ、にこやかな笑みを湛えた幽々子の姿がそこにあった。
「あ、おはようございます、幽々子様」
「おぅッス幽々子」
「おはよう、二人とも」
二人は挨拶をし、同じく幽々子も挨拶を返す。
そして、珍しく早起きをしてきた幽々子に対し、意外そうな視線を向ける妖夢。
「私だって、偶には早起きするのよ」
その視線に気が付いたのか、妖夢に向けてそう告げる幽々子。
慌てて視線を逸らした妖夢の様子を見て、幽々子は静かにほくそ笑んだ。
「ところで、さっき言ってた『お客さん』って、いつ頃来る予定なんスか?」
ふと思い出したように目を見開き、そう幽々子に質問を投げかける紅炎。
「え? そうねぇ、えーっと…確か、午前中には来るって言ってたけど…」
「詳しい時間、分かって無いんスね」
笑顔を引きつらせ、言葉に詰まる幽々子。そんな幽々子を、目を半分見開いた状態で見つめる紅炎。
「えっと…てへぺろ♪」
「どこで覚えるんスか、そんな言葉を…」
苦し紛れに放たれた言葉は、紅炎を呆れ顔にさせるだけの結果に終わった。
微妙な空気に包まれた二人の会話から逃れるように、脱兎の如く台所へと駆けて行った妖夢の頑張りにより、何時もよりも早めの朝食を終えた三人は、揃って縁側でくつろいでいた。
「はぁ~、平和ッスねぇ…」
「平和ですねぇ…」
風に流され、うつろいゆく雲の形を眺めながら、そう呟く妖夢と紅炎。
その言葉が可笑しかったのか、幽々子が扇子で口元を覆い、くつくつと笑う。
「うふふ、何だかおじいちゃんとおばあちゃんみたいね」
何気なく放たれたその言葉に、妖夢と紅炎が反応する。
「俺まだ全然ピチピチッスよォ」
「幽々子様…失礼ですよ」
紅炎は自身を指差しながらそう軽口を叩き、妖夢は頬を膨らませ憤る。
それぞれの反応を楽しんだのか、幽々子は笑みを浮かべる。
「冗談よ、冗談。 …それより、そろそろ来るかしらね」
「おん? …お客さんッスか?」
『お客さん』という単語を耳にした瞬間、妖夢は素早く立ち上がり、玄関の方へと足早に去っていった。
「あらあら、妖夢ったら真面目ねぇ」
「お客さんが来るなら、普通はそうするもんじゃないッスかね?」
小さくなっていく妖夢の背中を見送りながら、そう呟いた幽々子の言葉に応える紅炎。
その言葉に首を傾げ、きょとんとした表情を浮かべる幽々子。
「そうなの?」
「いや、『そうなの?』って…」
「だって、ほら」
とぼけたような反応を返す幽々子に思わずツッコミを入れようとする紅炎。
それを制するように、『庭を見ろ』とでも言いたげに外の方向を指さす幽々子。
「あっ…」
その光景を見た紅炎は、幽々子が言いたい事を察したようにそう零すのであった。
来訪者は、玄関からではなく、空から訪れた。
人数にして、三人。三人とも外見は少女であり、互いに似通った服装を身につけている。
各々が携えた楽器を見て、紅炎は彼女らが件の楽団であると確信した。
ゆっくりと降り立ったその三人の内、一人が一歩前に出る。
「お初にお目にかかります! 此度はお招き頂き、誠にありがとうございます!」
快活にそう挨拶をしながら、恭しくお辞儀をする少女。
服装に目を向ければ、薄桃色のフレアスカート、シャツの上にはこれまた薄桃色のベスト。顔に目を向ければ、水のように澄んだ青い瞳に、ウェーブのかかった薄い水色の髪と、暖色と寒色の入り混じった容姿である。返しの付いた三角錐のような形をした帽子は、その頂点に太陽のような形をした青い飾りが付いている。
右手にトランペットを持っている事から、彼女はトランペット、あるいは管楽器の奏者であろう。
その少女の一歩後ろに立つように、もう一人の少女が前に出る。
「我々は、プリズムリバー三姉妹と申します。 …姉妹で楽団をやっています。 私は長女の、ルナサ・プリズムリバーです。 そして、この水色は次女のメルランです」
ひざ丈よりも少し短い黒いスカート、白いシャツの上に黒いベスト、頂点に赤い三日月のような飾りがついた黒い帽子…と、見事に黒で統一された服装。優麗な金色の瞳に金髪のショートボブと、行動的な印象を与える容姿だが、半分だけ開いた瞳と何処か陰鬱な喋り方から、その印象は覆る事となるであろう。
背負ったケースの形状から、彼女がヴァイオリンないしは弦楽器奏者であろうと推測できる。
「ちょっとルナ姉ってば暗いよ~! せっかくお呼ばれしたんだから、もっとハッピーにいきましょうよ!」
ルナサと名乗ったその少女にそう指摘する水色の髪の少女―メルラン。
「私はこれでも、ハッピーに振る舞っているつもり」
「えぇ~、も~ちょっと頑張れよー!」
言い合いが始まった様子の二人を尻目に、最後に残った一人が大きく前に出る。
「騒がしいですけど、これいつもの光景なんです。 残る私は三女、リリカ・プリズムリバー! 得意はパーカッション、つまり楽器全般イケるけど、メインは大体鍵盤楽器です!」
白いシャツに赤いベスト、頂点に緑色の流れ星のような飾りがついた赤い帽子と、上部分は姉妹の二人と同じような服装だが、彼女の場合は下に赤いキュロットを身につけている。燃えるような赤い瞳に、銀色とも亜麻色とも取れる不思議な色合いの髪と、快活な印象を与える相貌である。
赤い少女―リリカは、左手に携えたキーボードに
ひとしきり自己紹介を終えた彼女らに続くように、幽々子が一歩前へ出る。
「まぁまぁ、ようこそおいで下さいました♪
私はこの白玉楼の主である、西行寺幽々子と申しますわ」
それに続くように、紅炎も幽々子の一歩後ろに出て、自己紹介をする。
「初めまして、自分は紅炎と申しまス。 外の世界出身の剣士ッス。
一応、妖夢の剣術指導師…っていう肩書きがあるらしいッスよ」
妖夢の剣術を教えるのが仕事である為、紅炎は幽々子から剣術指導師という肩書きを授けられていた。
紅炎の口から出た『外の世界』という単語を聞いた瞬間、目を丸める三姉妹。
「外の世界から!?」
そう叫び、驚愕した様な表情で紅炎を見つめるリリカ。
リリカの大げさなリアクションに気圧され、一歩後ずさる紅炎。
それに気付いたリリカは、慌てた様子で頭を下げる。
「あ…す、すみません。 人間…それも外の世界の人が冥界にいるのって、すごく珍しくて…」
「あー、そうらしいッスね。 別に良いッスよぉ」
そう言って紅炎はリリカの発現を赦免する。恐らく、以前にも同じ様な事を言われた経験があるのだろう。
「…ところで、妖夢という方はどちらに…?」
ヴァイオリンを手持ち無沙汰で弄んでいたルナサが、先の発言を思い出して首を傾げる。
紅炎が放った『妖夢の剣術指導師』という言葉を思い出し、その妖夢がこの場にいない事に疑問を感じていた。
「あぁ、妖夢は…」
紅炎がそう言いかけたタイミングで、忙しない足音が廊下の奥から響く。
その音がした方向に全員が一斉に目を向けると、そこには、肩で息をしながら此方に走ってくる妖夢の姿があった。
「も、申し訳ありません~! ただいま戻りましたぁ~っ!」
妖夢が肩を上下に揺らす度に、傍らの半霊も同じく揺れる。
その様子を興味深げに観察していたリリカは、何かを手帳にメモし始める。
「…この子のことッス。 ホラ妖夢、自己紹介ッスよ」
「えっ!? は、ハイ! えっと、こ、魂魄妖夢です!」
紅炎に催促され、慌てて頭を下げる妖夢。
「これはどうも、ご丁寧に。 ほら…やっぱり、玄関から入るべきだったじゃない…」
「まぁ~、細かい事は気にしなさんなって!」
それに対して深々と頭を下げた後、隣で頭を掻くメルランを半目で睨みつけるルナサ。対するメルランは、どこ吹く風といった体。そのやり取りから、庭に降り立とうと提案したのがだれであるのか、紅炎には大体想像がついた。
「ところでさ、リリカさん、だっけ?」
紅炎がそう名を呼べば、それに反応するように顔を上げるリリカ。
「リリカで全然構いませんよ~! なんでしょう?」
「さっきの、手使わずに楽器弾いてたよな? あれって、アンタの能力だったりするの?」
その質問を受けると、一度自分の楽器に目を落とし、再び顔を上げるリリカ。
「ああ、それはn」
「よくぞ聞いてくれましたッ!! 何を隠そう、これこそ我らプリズムリバー三姉妹が持つ不思議な能力!
この不思議な力を、人々はこう呼ぶ…『手足を使わずに楽器を演奏する程度の能力』と!」
説明しようとしたリリカを押しのけ、メルランが大きく前に出る。
そのままメルランが説明を続けた事で、リリカの言葉は最後まで発せられる事無く掻き消された。
メルランの説明を聞いた紅炎は、心の中で『そのまんまじゃねーか』とツッコミを入れずにはいられないのであった。
「ちょっ、メル姉…」
「そしてさらにもう一つ! 私達には楽器を弾く能力の他に、もう一つ固有の能力が備わっているのです!」
一瞬放心していたリリカが意識を取り戻し、メルランに対して抗議しようとする。
だが、再びその抗議の言葉を再び遮るように、メルランは矢継ぎ早に、饒舌に言葉を紡いでいく。
リリカは、あからさまに不機嫌そうな顔になっていった。
「固有の能力?」
不思議そうな表情を浮かべながら、メルランの言葉を反芻する妖夢。
「そう…私達は、人の心に作用する音を奏でる事ができます。
…私が奏でるのは、『鬱』の音色。 …さしずめ、『鬱の音を演奏する程度の能力』…とでも言った所でしょうか」
そう告げると同時に、指揮棒を振るうように虚空を指でなぞるルナサ。
その動作にリンクするように、ヴァイオリンが宙に浮き、自ら動いて音を奏で始める。
「鬱…と聞くと、あまり良いイメージを持たれないかも知れません。
…ですが、本来鬱の音とは、聴く者の気持ちを落ち着かせる事ができる音の事。
静かなる音色で心を落ち着かせ、長閑な気分に浸る為のもの…。 …故に、鬱という言葉はネガティブな面だけでは無いのです」
そんなルナサの言葉を裏付けるかのように、先程まで騒いでいたメルランもリリカも、静かにその音色に耳を傾けていた。
「なるほど…」
その様子を見て、妖夢はさも納得したように力強く頷いた。
ヴァイオリンの音が止むと同時に、目を閉じて静聴していたメルランが突如覚醒する。
「そんでもってぇ~? 私の音色は、『躁』ッ!! 『躁の音を演奏する程度の能力』で~す!」
『鬱』の音色の次は、アップテンポなトランペットの『躁』の音色が響き渡る。
「おぉう、随分元気良いッスねぇ!」
今度は勢いに気圧される事無く、ノリの良い言葉を返す紅炎。
その言葉に気を良くしたのか、更に上機嫌で演奏を続けるメルラン。
「そりゃもちろん! 元気いっぱいですよぉ~! 躁の音は、聴く者の気持ちを高揚させる事ができる音色!
激しく移り変わる曲調と共に、暗く沈んでいた心だって、ウキウキ小躍りしたくなるくらい明るくなっちゃいますよ~!」
間近で音色を聞いていたリリカはもちろん、殆ど無表情だったルナサまでもが笑顔になっていた。
「確かに、とっても元気になれる感じねぇ♪」
そう言いつつ、手拍子を取りながら、メトロノームのように体を左右に揺らす幽々子。
この場にいる誰の眼に見ても、楽しげであると言える様子であった。
音色が途切れると同時に、楽しそうに笑っていたリリカは、ふと我に返ったように真顔になり、大きく溜息を吐く。
「ハァ…結局私が最後になるのね。 …私の音色は『幻想』です」
一つお辞儀をしたリリカが指を鳴らすと、宙に浮いたキーボードが自ら音を奏でる。
紅炎の耳には、その音色は何処か聞き覚えがあるようで、今までに聞いた事の無いような不思議な音に聴こえた。
「なんというか、不思議な感じの音ッスねぇ」
「まぁ、外の世界出身とあらば、無理も無い話です。
幻想の音というのは即ち、外の世界で失われてしまった音。 自然には存在しない音…まぁ、音の幽霊みたいなものですね」
『音の幽霊』という、今までに聞いた事の無い表現を知り、目を丸める紅炎。
「音に幽霊がいるなんて、初めて知ったッスよ」
紅炎の隣にいた妖夢も、その言葉に同調するように数度頷く。
いまいち解せない様子の二人を見て、リリカは演奏の手を止め、おもむろに説明を始める。
「植物や道具に魂が宿るように、音にも魂が宿ったりするんですよ。
特に、強い想いが込められていたりすると、それらは形を得て、幽霊になったりもするんですよ」
その説明に、揃って感嘆の声を上げる紅炎と妖夢。
「そして、幻想の音の話に戻るんですが…実は、この音は単体では特に効果が無いんです」
「えっ、そうなんスか?」
リリカがそう言うと、心底意外そうな顔をする紅炎。
ルナサとメルランの音色にそれぞれ効果があるのに、リリカだけの音色にはそれが無いという事が、彼にとっては意外だった。
「ええ、そうなんです。
…この音色の真骨頂は、『調和』。 姉さん達の『鬱』と『躁』の音色を纏めて、耳障りの良い音にする事にあるんです」
そう言って、リリカは再びキーボードを奏でる。何処か心地の良いその音色に、その場にいた全員が聞き入っていた。
静かに、されど力強く響くその音色には、精神に作用する力こそ無いものの、何とも形容し難い安心感のような物があった。
「『鬱』も『躁』も、そのままでは聴き過ぎると悪い影響を及ぼしてしまうもの…。
『静』と『動』が調和する事で、その音色は聴き易いものになるのです。 何事も、適切な域という物があるのですよ」
リリカが軽く指を振ると、キーボードの演奏が止まる。
聞き入っていた者達は、各々が普段通りの状態に戻っていた。感情に何ら作用は無い為、当然と言えば当然の光景である。
「えっと…少々ややこしかったでしょうが、ご理解いただけましたでしょうか?」
ずれた帽子を直し、少し申し訳なさそうに上目遣いで幽々子らを見つめるリリカ。
「とてもわかりやすかったわぁ、ありがとうね♪」
両手を合わせ、笑顔でリリカにお礼を言う幽々子。
「いえ、聞いていただきありがとうございます! …ですが、本命はこれからです!」
幽々子の言葉を受け、恭しく頭を下げるリリカ。そして、顔を上げた彼女は、その容姿に似合うような快活な笑顔を見せる。
「おおっ! 演奏ッスね! 良いぞ~!」
いつの間にかその場に座っていた紅炎は、合いの手を入れて活気を煽る。
その紅炎に倣うように、幽々子と妖夢も腰を下ろし、静聴の構え。
「その通~りぃ!! 楽団といえば音楽! それ以外に何がある! というわけで、早速奏でて行きたいと思いま~す!」
その煽りに応えるように、持ち前のテンションで繋げた二の句で更にボルテージを上げて行くメルラン。
「チューニングは…問題無い。 …何時でも行けるわ」
宙に浮いたヴァイオリンを手に取り、OKサインを出すルナサ。
そして、縁側に座る
「これより披露いたしますは、我らプリズムリバー三姉妹の代表曲とでも言うべき曲。
…題して、『幽霊楽団』。 優麗なる幻騒の音色を、どうぞ、心行くまでご堪能下さい」
ルナサがそう言い終えると同時に、拍手をする紅炎。それに続くように、妖夢と幽々子も拍手をする。
互いに目配せをし合う三姉妹。彼女らなりの、タイミングを合わせる方法なのだろう。
「さぁ、演奏開始よ~!」
リリカの言葉を皮切りに、彼女らの演奏が始まった。
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静かで激しい、そんな幻騒的な音色が、白玉楼に響き渡る。
全10分に及ぶその楽曲は、聞き入っていると短く感じる程に、目まぐるしく曲調が変わるものだった。
途中アンコールもあり、その演奏は約20分近く続いた。
鬱と躁、そして幻想の入り混じったアンサンブルは、見事に聴衆の心を掴んだ。
演奏の最中、テンションが上がった紅炎が、自身の能力でケミカルライト代わりの色取り取りな炎の棒を生み出して振っていたりしたが、その事を気にする者は、
演奏が終わり、紅炎達はスタンディングオベーションで歓声を送る。
お辞儀をしながら、満足気に笑みを浮かべる三姉妹。
彼女達の中では、今回の演奏は大成功に終わったと言えるだろう。
宙に浮いていた楽器を手に取り、揃ってお辞儀をする姉妹。
「ご清聴、誠にありがとうございました!」
メルランがそう告げると、再び拍手が巻き起こる。
閑静な冥界に響く、歓声と拍手の中、プリズムリバー三姉妹の演奏会は幕を閉じた。
「いや~、凄かったッスねぇ!」
「本当ですね! 素晴らしい演奏でした! ね、幽々子様!」
「あらあら、子供みたいにはしゃいじゃって…。 けど、そうね、凄かったわ♪」
三者三様、各々が抱いた感想をそれぞれ三姉妹に告げる紅炎達。
「…そう思っていただけたなら、我々も楽団冥利に尽きるというものです」
三人の言葉を聞いたルナサは、多少頬を赤らめ、口元を緩める。
「てれちゃって、可愛いんだ~♪」
「…メルラン、後でお話があるわ」
「ちょっ!? そ、それは勘弁願いたいわぁ!」
何やら揉め事が始まった二人を他所に、リリカは紅炎の方へと近づく。
「すみません。 貴方の先程のカラフルな炎、もう一度出していただけますか?」
紅炎の目の前まで来たリリカは、身を乗り出して紅炎にお願いをする。
「え? 良いッスけど…」
そういうと紅炎は、指を開いた状態で両手を立てた状態手のひらを前に向ける。
すると、指先から色とりどりの10色の炎が、バーナーのように噴き上がる。
赤、オレンジ、紫、青等を筆頭に、黄色、白、ピンク、緑等…明らかに自然に発生したものでは無い色も混じっている。
「ありがとうございます! …ふむふむ、なるほど…」
「顔近付けると危ないッスよ?」
その炎を、至近距離でまじまじと見つめるリリカ。
明らかに熱そうな位置であるが、何ら熱がるような反応は見せない。
暫くして、近付けた顔を戻したかと思うと、今度は先程の手帳に何かを書き始める。
「えっと…それ、何なんスか?」
気になった紅炎は、手から炎を出し続けながら、リリカが手に持っている手帳について問いかける。
「ああ、これですか? 実は私、こういった日常に散らばっている『音ネタ』を集めるのが趣味なんです。木々が風に揺れる音だったり、水面に水滴が垂れる音だったり…そういう何気ない音を集めるのが好きなんですよね」
「へぇ~…そうなんスか…」
そう言葉を発しつつも、メモを行う手は止めないリリカ。
「バーナーみたいな音…と。 …うん、なるほど、高い音にはもってこいな気がするわ! どうもありがとうございます!」
そうこうしている内にメモが終わったのか、手帳を仕舞い、丁寧にお辞儀をするリリカ。
顔を上げ、メルランとルナサがいる場所へ声を掛ける。
「さあ、そろそろお暇しましょう姉さん達!」
そう声を掛けると、意外そうな表情を伴って振り返るメルランとルナサ。
「え? 何言ってるのよ、まだ帰らないわよ?」
「…へ?」
突如告げられたメルランの言葉に、面食らったような表情になるリリカ。
「まだ、午後の部が控えている。 午後は弾幕ごっこ…の予定よ」
「…え? ちょ…聞いてないんだけど!?」
追い打ちで告げられたルナサの言葉に、声を荒げて抗議するリリカ。
どうやら、リリカが紅炎の炎に気を取られている間に、二人と幽々子の間では何かの話があったようである。
紅炎が幽々子の方をちらりと見ると、幽々子はわざとらしく口元を扇子で覆って笑う。
「やれやれ…。 アンタも色々苦労してるみたいッスねぇ」
「…はぁ」
溜息を吐きながら、リリカの肩を優しく叩く紅炎。
リリカもまた、大きく溜息を吐く。奔放な姉二人に対し、呆れかえったような様子であった。
この時、リリカから何処となく妖夢と似た様なオーラを感じていた紅炎であった。
「お昼の事も考えないとねぇ。 妖夢、そろそろ支度なさい」
「え…は、はい! ただ今!」
「あ、ちょっとストップッス」
立ち上がり、台所へと駆けようとした妖夢を引き留める紅炎。
「あ~、俺も手伝うッスよ」
「えっ? ですが、紅炎さんは…」
「これだけの人数になった訳だし、人手は多い方が良いと思うッスよ。
それに、自炊ならよくやってたし、料理に関しては問題ないッスよ!」
顎に手を当てて、少々考えた妖夢は、やがて顔を上げて頷く。
「…では、よろしくお願いします」
「任せるッスよ!」
そして、二人は昼食の準備をするべく、台所へと向かった。
台所で二人並んで立つ姿を後ろから眺めながら、幽々子は笑みを浮かべていた。
いつもよりも騒がしい冥界を、太陽は静かに照らしていた。
音楽は時として、人の心を動かす。
ほのぼの展開が続くと、割と書き易くて良いですね。
果たして、このノリが何処まで続くか…異変始まるまでは、なるべくこのノリを維持したいです。
劇中で演奏したのは、題名通り「幽霊楽団」です。
正確なタイトルは、「幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble」だったりしますけどね。
明るく楽しく、且つ疾走感がある曲で、作者もお気に入りの音楽です。
多分、この曲のアレンジメドレーっぽい感じの曲を演奏したんでしょうね(適当)
妖夢≒リリカ説。末っ子って割と苦労人なイメージがあります。なんででしょう…?
次回、「疾走するアンサンブル」。プリズムリバー三姉妹と弾幕ごっこ!
5月3日、投稿予定です。ゴールデンウィークを、最大限生かす!