神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
サブタイトルは、ビートまりお氏率いるサークル「COOL&CREATE」の「疾走あんさんぶる」より。
10000字近いのも、なんだか久しぶりな気がします。
-あらすじ-
白玉楼にプリズムリバー三姉妹がやって来て、演奏を披露してくれた。
演奏を聴き終えた幽々子は、余興として弾幕ごっこを提案し、姉妹はその提案を呑んだ。
まだ夏の暑さが僅かに残る冥界の昼下がり、縁側に腰掛け、庭に出て自前の楽器を手入れするプリズムリバー三姉妹を眺めながら、紅炎は先の昼食時の事を回想する。
三姉妹を交えての昼食は、紅炎にとっては普段以上に騒がしい物であったが、それと同時に、普段以上に楽しい物でもあった。
長女のルナサが予想外の健啖っぷりを披露し、幽々子との大食い合戦にもつれ込み、妖夢が頭を抱えて唸り声を上げていた事を思い出し、少しだけ苦笑する。
それに気付いたリリカが、キーボードを拭く手を止め、顔を上げる。
「すみません…何か、巻きこんでしまったみたいで」
申し訳なさそうな表情で紅炎を見上げ、頭を下げようとするリリカ。
「大丈夫ッスよ、別に何も迷惑してないからさ。 むしろ面白そうッス!」
それを制するように紅炎がリリカを励ます。
後ろで手を組み、快活に笑ってみせると、リリカもそれに釣られて笑顔を浮かべる。
「…そう言っていただければ、私も気が楽になります」
「そうそう、何事も気楽に楽しく行かないとね~!」
そんな会話の最中、唐突に背後に現れたメルランが、リリカの肩に手を回してはしゃぎ始める。
リリカは、自分の肩に回されているメルランの腕を掴み、感情の籠っていないような瞳でメルランを睨みつける。
「メル姉、鬱陶しい」
「…!? …辛辣ねぇ、随分と。 お姉さんビックリ!」
「ハァ…」
辛辣な一言を浴びせるとともに、その腕を払い退けるリリカ。
予想外の一撃に、さしものメルランも数拍言葉を失ったが、すぐさま持ち直し、再びハイテンションではしゃぎ始める。それを見て、リリカは大きな溜息を吐いた。
「…二人とも、準備は済ませたの?」
リリカとメルランのやり取りを遠くで見ていたルナサが、催促の言葉を投げかけながら二人に歩み寄る。
「あ、そうだった。 私は終わったわよ」
「私もよ~」
その質問に対して、揃って答えるリリカとメルラン。
その答えを聞き、小さく頷くルナサ。
「…皆様も、準備は宜しいでしょうか?」
今度は、紅炎達の方向に向き直り、再び先程と同じ旨の質問を投げかける。
「はい、出来ております!」
「オッケーッスよぉ」
「はーい♪」
右から順に、妖夢、紅炎、そして幽々子が返事をする。
幽々子の声が聞こえてから数秒後、妖夢と紅炎は揃って顔を右に向ける。
「幽々子も参加するんスか?」
紅炎がそう質問すれば、きょとんとした顔を浮かべ、首を傾げる幽々子。
「…ダメ?」
「いや、ダメじゃ無いッスけど…」
「私だって楽しみたいんだもん。 良いじゃない♪」
「…ああ、そうだな」
無邪気に微笑む幽々子に釣られ、紅炎もまた笑みを浮かべる。
何処か大人びていて、達観した面もあるが、やはり中身は年相応の少女と何ら変わりは無い。
紅炎は、心の中でそんな感想を抱いた。
「さてさて、皆さん準備ができたとの事ですので、今から簡単なルール説明を行います!」
一通り確認を終えた後、メルランがそう切り出す。
「まず、今回は6人揃っているので、3対3という形を取りたいと思います。
チーム編成、私達三姉妹と、あなた方3人のチーム…というのがベストだと思いますが、何かご意見ご要望は?」
ルナサがそう問いかければ、首を数度横に振る紅炎。
「特に依存は無いッスよ」
それに同調するように、妖夢と幽々子も数度頷く。
「では、その形でいきたいと思います!
…次に、スペルカードに関するルールですね。
今回に関しては、スペルカード枚数の上限はありません。
チームで合計何枚使用しても構いませんが、一度使用したスペルカードは二度使えません。これは、普通の弾幕ごっこと変わりませんね。
更に、今回はチーム戦という事で、チーム間で協力してスペルカードを使う事も可能にしたいと思います!」
次いで告げられたリリカの言葉に、紅炎ら一同は首を傾げる。
「あー…まぁ、簡単に言いますと、私達の演奏みたいな感じです!
重ねて告げられた説明を聞き、紅炎は「あ~」と納得したように声を上げる。
「へぇ…何だか面白そうねぇ」
何か思いついたのか、目を伏せてくつくつと笑う幽々子。
「力を合わせて戦う…素晴らしいですね!」
自分達が力を合わせる姿を想像し、目を輝かせる妖夢。
「それと今回、特に被弾回数に関する上限はありません。
その代わり、制限時間を設けます。 今回設ける制限時間は、15分です。
…通常の弾幕ごっこと比べて、かなりの長丁場となるでしょう。
互いのチームが時間内にどれだけの回数被弾したか、その回数によって勝敗を競う事にします。
…故に、仲間を助け合う事も重要になってくるかもしれません」
そんなルナサの説明を受け、互いに顔を見合わせる紅炎達。
「んじゃ、早速作戦タイムに入りましょう! 現在時刻が13時50分なので…今から10分後、試合開始で~す!」
簡潔にそう告げ終えると、リリカとルナサを自分の周りに集めるメルラン。恐らく、作戦会議を始めるのだろう。
それに倣うように、幽々子も紅炎と妖夢を手招きし、作戦会議を始めるのであった。
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「さてさて、作戦会議を始めるわよ~」
「おー」
「お、おー…です」
知らぬ間にリーダーポジションになっていた幽々子の言葉に、掛け声の合いの手を入れる。妖夢は若干遠慮がちだったけど。
「さてさて…まず気になるのは、相手の出方ねぇ。
…やはり、音楽が能力である以上、その弾幕も音楽関係の物である可能性が高いわ」
意外と真面目に考察していたんだな、幽々子。やっぱり、この人の考え全く読めないッス…。
それにしても、音楽関係か…。…となると、やっぱ音符とかその辺なのかな?
「避けるのに関しては、私と妖夢は問題無いわ。
…けれど、紅炎。 貴方は飛べないでしょう? 必然的に、地上で戦う事になるわね」
弾幕ごっこを行う上で避けては通れぬ問題、それが『空を飛ぶ事』だ。
通常であれば、弾幕ごっこは周囲に被害が及ばぬように、空を飛んで行うものとされている。最も、一部の者は好き好んで地上で弾幕ごっこを行っていたりもするが、そういった者達も、緊急時には空を飛んで回避する。
俺に関して言えば、その飛翔が行えないのだ。
これは見過ごせない問題である。何せ、妖夢や幽々子は普通に飛べるのだ。
チームの特攻隊長として急先鋒に立つ事が出来ないのはおろか、弾幕を回避する事に関しても、空中という逃げ場がない以上、大きなリスクを背負う事になる。
…一応、『一定時間空中に浮く』事は出来ない事も無いが、余りにも不安定で危険な為、この方法は保留だ。
回避に関しては、弾幕の量がどの程度になるのかは分からないが、特に問題は無いだろう。物を避けるのは慣れている。
「まぁ、なるべく頑張ってみるッス」
「そう? ところで、今使えるスペルカードの確認をしておきたいのだけど…」
幽々子がそう言うと、先ずは妖夢が懐からスペルカードを出す。
それに続いて、俺も袖口からスペルカードを数枚取り出し、開示する。
幽々子も同じようにスペルカードを取り出し、三人分のスペルカードを展開する。
……
妖夢が現在使用できるスペルカードは4枚。
断命剣「冥想斬」
人符「現世斬」
天上剣「天人の五衰」
人界剣「悟入幻想」
幽々子が現在使用できるスペルカードは3枚。
死符「ギャストリドリーム」
幽蝶「ゴーストスポット」
華霊「スワローテイルバタフライ」
そして、俺が現在使用できるスペルカードは4枚。
火符「ブルーハートラバーズ」
彩火「レインボースペクトラム」
炎符「桜火楼閣」
轟炎壁「藍炎輝炎の遠断」
……
妖夢のスペルカードは、「現世斬」だけならば分かる。他は全く分からない。
幽々子のスペルカードに関しては、今までそれを幽々子が披露した事が無い為、全くの謎である。
一応、スペルカードのイラストからある程度どんな技なのかは把握できない事もない。
妖夢の「冥想斬」は、文字通り斬撃を行うイラストが描かれている。恐らく、現世斬と同じ要領で使う技だろう。
「天人の五衰」…名前は意味不明だが、5色の弾が妖夢を中心に舞っているように見える。普通に弾幕を放つ技なのかもしれない。
幽々子の「ギャストリドリーム」と「スワローテイルバタフライ」には、青白い光を放つ蝶が何匹も舞っているイラストが描かれている。弾幕…なんだろうか?
それにしてもこの蝶、何処かで見た様な気がするけど…まぁ、今はどうでもいいか。
その他のカードに関しては、イラストからも全く読み取れなかった。
こんな状態で、果たして協力してスペルカードを使うなんて事が出来るんだろうか…?
普通に戦う事から既に高ハードルな気がしないでもないけれど…。
「なるほど、ね…。 …よし、作戦が思い浮かんだわ」
「本当ですか、幽々子様!」
暫しカードを眺めていた幽々子が、手の平を打ってそう呟く。マジッスか…そりゃスゲェ。
「見たところ、紅炎のスペルカードは炎を使う技が全部みたいね。 『桜火楼閣』は私も見たから分かるわ。
あと、他のカードだけど……そうね、この『藍炎輝炎の遠断』が割と大事になってくるかも知れないわね」
「そうなんスか?」
俺の『藍炎輝炎の遠断』のカードを指差しながら、そう答える幽々子。
『轟炎壁「藍炎輝炎の遠断」』、“炎壁”という名が体現する通り、周囲に炎の壁を作り出すスペルカードだ。
ただ単に壁を張るだけでは攻撃が出来ないが、このスペルに関しては、壁を作る範囲も大きさも自由に変えられるのが特徴だ。
特定範囲だけに壁を張って攻撃を防いだり、網目状に張って動きを封じたりする事も出来る。壁は炎で出来ているので、近づけば熱で体力を消耗するし、触れれば当然ダメージも受ける。幻想郷にいた頃は、妖怪相手にかなり遠慮なく使っていたけど、今回はあの三姉妹が相手なので、やりすぎには注意だな。
そんな効果の為に、スペルカードの発動時間はかなり長めに設定されている。所謂、耐久型だ。
俺は上述の概要を噛み砕いて幽々子に説明すると、幽々子は顎に手を当てて、暫し考え込む姿勢を取る。
十数秒後、幽々子は顔を上げる。目を見開いたその顔は、何か妙案が浮かんだのであろう事を示唆していた。
「よし、決まったわ! だいたいの作戦がね♪」
小さくガッツポーズをし、「フフーン」と得意げに鼻を鳴らす幽々子。
…なんというか、こういう面もあるんだなぁ、幽々子って。
「私と妖夢は空、紅炎は地面で戦う…これはまあ、必然だわね。
そして、妖夢は前衛で、私は後衛で戦うわ。妖夢は持ち前の剣術で相手を牽制しつつ、隙があればスペルを叩きこんで頂戴」
「はい、幽々子様!」
一転して淡々とした口調になり、戦力の配置を伝える幽々子。
指示を出された妖夢は、少し大きな声でそう返事をする。相手に聞こえるぞ?
…ちなみに、今までの会話はずっと小声で、互いに最低限聞こえる程度の大きさで喋っていた。
相手に聞かれないようにするのが目的だけど、多分相手の方も同じような事をやっているだろう。
勢いよく返事をした妖夢に対し、幽々子は「ああ、そうそう」と付け加える。
「ただし、『悟入幻想』だけは、私の指示があるまで使わないで」
「…? …まぁ、そうおっしゃるのならば」
幽々子が出したのは、「特定のスペルカードを使用しないように」という指示。
なんだろう…一体何が目的なんだ?
「紅炎も、『桜火楼閣』だけは温存しておいて頂戴」
どうやら、その指示は俺にも当てはまるらしい。…本当に、一体何が目的なんダ?
「まぁ、良いッスけど…。 何するつもりなんスか?」
その指示の理由が気になった為、思い切って聞いてみた。
「ひ・み・つ♪ 後でのお楽しみよ~」
見事にはぐらかされた。右手の人差し指を立てて、口元に添える幽々子。同時に行った小さなウィンクも併せて、あざとさ全開のポーズである。確かに、合ってるけど…。
「…大丈夫、私を信じて。 私がその都度指示を出すから、なるべくそれに沿って動いて頂戴ね」
不安そうな表情を浮かべていた妖夢を気にかけてか、そう投げかける幽々子。
口調こそ先程までと変わらなかったが、その表情からは普段の飄々とした感じや、ふざけた態度は見受けられなかった。
隣に立つ妖夢から、ゴクリと唾を飲み込んだ音が聞こえてくる。普段の幽々子らしからぬ態度だから、緊張したのかな?
「了解ッス!」
「わ、わかりました!」
幽々子の言葉を理解したという旨の返事を返す。
妖夢の方も、やや反応が遅れたが、何とか返事を返せたようだ。
そう答えれば、幽々子は再び楽しそうな笑みを浮かべ、言葉を紡ぎ出す。
「大まかな流れとしては、先ず…」
……
…
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そして、13時50分から10分が経過した現在、時刻は14時ちょっと前、間もなく試合が開始する時間である。
共に作戦会議を終えたチームが、開けた庭園の中心へと集まる。
幽々子ら率いる白玉楼チーム、プリズムリバー三姉妹の楽団チームの闘いが、幕を開けようとしていた。
「お互いに作戦は決まったみたいですね。 …この時計が14時を差したら、試合を開始します」
胸元から下げた懐中時計を指差しながら、そう告げるルナサ。
「負けねーッスよ」
「簡単に勝たせる気はないですよ?」
腕を組みながら、得意気にそう豪語する紅炎と、それに対抗するように不敵に笑うリリカ。
刻一刻と、試合の開始時刻が近づく。
紅炎と妖夢はそれぞれ得物を構え、幽々子はごく自然体で立つ。
リリカ、メルラン、ルナサの三人は、それぞれ楽器を構え、宙に浮く。
時計の針が14時を差し、試合の開始を告げる音色が響く。
それと同時に、妖夢と幽々子、そしてプリズムリバー三姉妹は、それぞれ宙に浮かび上がる。
上空を見上げた紅炎に、幽々子が瞬きでサインを出す。
それを受け取った紅炎は、スペルカードを取り出し、宣言する。
「そこだッ! 轟炎壁『藍炎輝炎の遠断』!」
スペルカードの宣言と共に、紅炎は跪き、大地に両手を翳す。
すると、何処からともなく巨大な炎が噴き上がり、三姉妹の周囲を『コ』の字状に取り囲むような形の堅牢な炎の壁が形成された。
「な、何コレ!? どうなってんの~!?」
「炎の…壁? …あつっ」
突如として現れた炎の壁を前に狼狽するメルラン。その壁に指を近づけるも、あまりの熱さに思わず指を引っ込めるルナサ。
出鼻を挫かれる運び出しとなったプリズムリバー三姉妹だが、更なる責め苦に喘ぐ事となる。
「よそ見してもいられないみたいよ…!」
炎の壁に気を取られていた二人に対し、そう声を掛けるリリカ。
次の瞬間、彼女の目の前には、両手に刀を構え、此方目掛けて突貫してくる妖夢の姿があった。
「なっ…!? えっ、ちょ…」
後ろに控えるルナサとメルランに声を掛けるべく、正面から視線を逸らした一瞬の隙を突かれ、瞬時に間合いを詰められたのである。
突然の事に反応が追いつかず、慌てふためくリリカ。
そんな状態のリリカに、容赦無く斬りかかる妖夢。
隣にはメルランとルナサ、背後は炎の壁…と、リリカは既に袋の鼠状態であった。
「覚悟ッ!!」
「う、うわあぁー!!」
目の前まで迫っていた斬撃から逃れられないと悟ったリリカは、目を瞑り、顔を両腕で覆った。
そして、鋭い金属音が鳴り響く。
だが、いつまで経っても痛みは訪れない。
疑問に思ったリリカが目を開くと、そこには、リリカを庇うようにルナサが立っていた。
振り降ろされた妖夢の斬撃を、彼女はヴァイオリンの弓で受け止めていた。
攻撃が不発に終わったと悟った妖夢は、剣で弓を払い、そのまま後ろに退く。
剣を受け止めた弓を収めたルナサに、後ろから抱きつくリリカ。
「ル、ルナ姉ぇぇ~」
「よそ見をするなと言ったのは誰…?」
涙目になっているリリカの頭を撫でながらも、視線は確実に妖夢と幽々子を見据えるルナサ。
「それじゃ、こっちからも行くよ~! 騒符『ソウルゴーハッピー』!」
反撃の狼煙を上げるべく、メルランがスペルカードを宣言する。
宣言と同時に、メルランのトランペットから陽気な音が奏でられ、その音と共に「へにょり」という効果音が似合いそうな湾曲の仕方をするレーザーが放たれる。
「…わかったわ、メル姉! 騒符『ソウルノイズフロー』!」
それに続くように、リリカもルナサから離れ、スペルカードを宣言する。
宣言と同時に、リリカのキーボードから不思議な音が奏でられ、その音と共に楔のような形状の弾幕が7方向に発射され、蛇行しながら妖夢らを狙う。
メルランとリリカ、レーザーと楔の弾幕が合わさり、正面からは突破不可能な弾幕の壁が形成され、妖夢と幽々子の前へと迫る。
「くっ…! 幽々子様ッ」
眼前に迫り来る壁を睨みながら、幽々子に声を掛ける妖夢。その弾幕を幽々子が回避できるのか、妖夢にとってはそれが不安材料であった。
「大丈夫よ、妖夢」
その問いに対し、静かに、諭すような口調でそう答える幽々子。
直後、眼前に迫っていたレーザーと楔の壁は、真下からせり上がって来た炎の壁にぶつかり、全て掻き消された。
炎の壁の正体は勿論、紅炎の『藍炎輝炎の遠断』である。未だスペルカードの効果が適用される時間内であった為、新たに出現させる事も可能でる。
こうなるであろうと予測していた幽々子は、事前に蝶を飛ばして紅炎に炎の壁を出現させるように指示を出していたのだ。
「あらら~…あちらさんも、凄いチームワークだねぇ!」
「一筋縄では、いかない…」
炎の壁を挟んだ向こう側の相手に対し、称賛の言葉を発するメルラン。
相手の力量を知り、更に気を引き締めるルナサとリリカ。
「まさか接近戦も強いだなんてねぇ…。 …ちょっと予想外だったけど、これなら
「ええ、
接近戦での相手の実力が予想を超えていたものの、作戦自体に支障は出ないと判断し、妖夢に指示を出す幽々子。
その指示を受け取った妖夢は、壁から遠ざかり、刀を構えて力を溜めるように体勢を低くする。
10M程度上空にいた幽々子は、素早く降下し、今度は地面にいる紅炎に指示を出す。
「2回も炎の壁を作った訳だし、そろそろ狙われそうよ。 …
「…正直あんまりやりたくないけど、仕方ないか。 了解ッス!」
そう確認をとると同時に、幽々子は上空に飛び上がり、紅炎は正面から噴き出していた炎の壁を能力で掻き消す。
互いの陣営が責めあぐねる要因となっていた壁が取り払われた事で、再び試合が動き出す。
「お、あの壁が消えたよ! それじゃさっそく…」
「…まって」
再び攻め手に回ろうとしたメルランの手を引っぱり、止めるルナサ。
「メル姉?」
「何か、嫌な予感がする…。 何を、仕掛けてくるつもりなの…?」
ルナサが見据える先には、口元を扇で覆い、妖艶な笑みを浮かべる幽々子の姿。
小さく零したルナサの呟きに対し、回答する幽々子。
「さぁ? 悪いけど、それは言えないわね。 死符『ギャストリドリーム』!」
口元を覆っていた扇を閉じると、その扇が1枚のスペルカードに姿を変える。
スペルカードを宣言すると、再び両手に現れた扇を掴み、舞踊の如く宙を華麗に舞う幽々子。
その優雅な姿に、一瞬心奪われそうになるも、仕掛けてくる攻撃にいつでも対応できるように集中する三姉妹。
だが、その集中は、突如下から響いた爆発音によって遮られる事となる。
「な、何!?」
「下から何か来るよ!」
再び狼狽するメルランを尻目に、下から迫る気配を察知するリリカ。
せり上がる爆炎と共に姿を現したのは、背中から蝶のような炎の翼を展開した紅炎だった。
まるで、小さな太陽の如くその場に佇む紅炎。その異様なまでの存在感を前にリリカは、
「…空、飛べたんですか!?」
割と場違いな質問を投げかけた。
「一時的に、だけどな! 彩火『レインボースペクトラム』!」
その問いに律義にも答えながら、紅炎は右手に持ったスペルカードを宣言する。
宣言の後、両手を前に突き出し、手のひらを正面に向ける構えを取る紅炎。
すると、
虹色に眩く輝く火球の弾幕に、思わず目を覆うリリカ。
「うぅっ!? ま、眩しい…!」
目を覆う事はしないが、その弾幕の熱量にのたうち回るメルラン。
「凄く綺麗だけど…熱い!」
ただ一人、その弾幕の異常性に気付いたルナサは、目を細めながら沈吟する。
「これは、いったい…」
そう、その虹色の弾幕は、ただの一つとして『プリズムリバー三姉妹を狙ってはいなかった』のだ。
本来の弾幕は、演出として魅せるものであれど、少なからず相手に当てようとする事がセオリーである。
故に、完全に演出ないしは目くらましの為だけに打ちだされる弾幕というのは、ルナサにとっては型破りな物に見えた。
次に気が付いた瞬間、紅炎の姿は既にそこには無かった。
未だ先の虹色の炎によってくらんだ目が回復していない中、朦朧とした視界の中央に何かを捕らえるルナサ。
「…! あれは…」
ぼんやりとした輪郭が、次第に明らかになっていく。
ちょうどルナサの直線上で、深く腰を落とし、刀を構える妖夢の姿だった。
右手には刀、左手には鞘、両手がふさがっていた妖夢は、口に咥えていたスペルカードを落としながら宣言をする。
「人符『現世斬』ッ!!」
宣言の刹那、妖夢の体が凄まじい速度でルナサ目掛けて飛来する。
常人ならば目で追う事すら叶わぬであろうその速度は、ルナサに『音速の域に達している』とさえ錯覚させるほどの物だった。
「ひっ…! く、来るっ!」
悲鳴にもにた声を上げながらリリカが叫ぶ。先程妖夢に斬られかけた事が、彼女の中ではトラウマになりつつあるようである。
再びヴァイオリンの弓を構え、その斬撃を迎え撃つ体勢を取るルナサ。
だが、その斬撃がルナサに届く事は無かった。
ルナサとの距離残り1M足らずという所で、突如として妖夢の姿が消えたのだ。
あまりにも唐突な出来事に、唖然となるルナサ。リリカとメルランも、困惑の表情を浮かべる。
だが、リリカとメルランの二人に取っての困惑は、眼前に迫っていた妖夢が突如姿を消した事から来るものでは無かった。
妖夢の方に気を取られていたルナサは、漸く周囲の状況を理解する。
後方から噴き上がっていた炎の壁はいつの間にか消え去っており、周囲には大量の蝶が飛び交っていた。
光を放つ蝶…恐らくは弾幕なのだろう。ルナサはそう確信する。
だが、本来であれば青い光を放っている筈のその蝶らは、今はその大半が虹色の光を放っている。
困惑する三人に、幽々子は静かに語りかける。
「ねぇ…忘れていないかしら? さっき、私がスペルカードを使った事…」
「……!」
その言葉を受け、先の出来事を思い出し、はっとした表情になるリリカ。
蝶の正体は、先程幽々子が放ったスペルカード「ギャストリドリーム」によって生み出された弾幕であった。
更に、その殆どが虹色の光を湛えている虹色の光は、紅炎が放った「レインボースペクトラム」の炎が放つ光そのものである。
そこから導き出される答えを理解した瞬間、三人は次第に表情を青くしていく。
「私のスペルと、紅炎のスペルと、そして妖夢のスペル…三重の罠って所かしらね?」
虹色の炎をその身に宿した蝶達は、次第にその輝きを増して行き、
「自分で言ってたじゃない…よそ見しちゃだめだって♪」
虹色の爆炎を上げながら爆発し、華々しくその命を散らした。
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「ゲホッ…あぁ、死ぬかと思った」
「いや…私達、霊だから」
「あっはっは! リリカってばお茶目だな~!」
煙の中から姿を現した三姉妹は、漫才染みたやり取りをしながら、自らの健在をアピールする。
「先ずは3回…かしらね?」
「先制点ッスよ~!」
「良い調子です!」
対する白玉楼チームも、地上に降り立って互いにハイタッチ、絶好調ぶりをアピールする。
三姉妹も降下し、幽々子達から少し離れた場所に降り立つ。
先程の攻撃等最初から無かったかのように、平然とした笑顔で幽々子らに声を掛けるメルラン。
「いや~、お強い! 正直ここまでチームワークがあるだなんて、驚きですよ!」
彼女にしてみれば、それは紛れもない称賛の言葉なのである。
「…ですが、我々はこの程度では終わらない」
「ここからが、我らプリズムリバー三姉妹の本領発揮!」
それに続くように、戦意に満ちた目で幽々子らを見据えながら、言葉を投げかけるリリカとルナサ。
そんな二人の言葉に応えるように、再び構える紅炎と妖夢。
そして、メルランはトランペットを強く鳴らす。
開戦の音色が幻想郷に響き渡り、彼女らは再び宙を舞う。
息を合わせ、足並み揃え、三姉妹は声高らかに宣言する。
「「「さぁ、第二楽章の始まりよ!」」」
後半へ続く。cvキートン山田
久々に一話が長くなりました。戦闘描写があると、やはりこうなりますね。
こういう形での戦闘は、割と書いていて楽しいです。
何気にこの戦いを一番楽しんでいるのは幽々子だと思います。
作者の中での幽々子は、タクティクスオウガとかのシミュレーションゲーム好きそうな印象です。
リリカが近接戦闘もこなせるのは、この小説独自の設定で御座います。
長女の持つカリスマは、案外凄い物だったりする…のかもしれませんね。
次回、「届け、レクイエム」。チームバトルは更に加速する!
5月5日、投稿予定です。(追記)
今回登場したスペルカード
序盤の方で名前だけが大量に出てきましたが、今回紹介するのは、実際に使用されたスペルカードのみとさせていただきます。
騒符「ソウルゴーハッピー」
メルランのスペルカード。初登場は花映塚。
トランペットの穴部分から、所謂「へにょりレーザー」を射出する技。
あのレーザーがトラウマになっている人も多い。トラ的な意味で(星蓮船)
騒符「ソウルノイズフロー」
リリカのスペルカード。初登場は↑と同じく花映塚。
楔のような形のみょんな弾幕が7WAYで飛んでくる。
付随する米粒弾幕と合わさって、避けるのが非常に面倒である。
死符「ギャストリドリーム」
幽々子のスペルカード。身の毛もよだつ恐ろしい夢。
その辺の弾幕と同化したり、その性質を得たりすることができる蝶を生み出す。
作中では、紅炎の弾幕の性質を吸収し、自爆能力を得た。南無三。
ちなみに作者は近年まで、名前の由来は「ドリームキャスト」だと思っていた。
轟炎壁「藍炎輝炎の遠断」
紅炎のスペルカード。藍炎輝炎は「あいえんきえん」と読む。
形状範囲自由自在な炎の壁を一定時間生み出す技。触ると当然熱い。
名前の由来は、明治時代の小説家、坪内逍遥の小説「当世書生気質」の一文、
「合縁奇縁ハ見てわからず。 然るを梅屋舗の腰掛にて。 一寸見た計りで縁談沙汰」より。
彩火「レインボースペクトラム」
紅炎のスペルカード。全10色の火の玉を弾幕として飛ばす。
炎の色が変わる炎色反応が起こる際、その過程で輝線スペクトルが放出される事が由来。
実際は10色以上あるけれど、その辺は気にしない方針で。
次回はスペルカード合戦になりそうな予感がします。