神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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思うように文章が出来あがらず、結局投稿が大きく遅れてしまいました。
GW中にとは何だったのか。忙しいとはいえ、この体たらくはイカンな…。


それにしても長い…16000文字オーバーとは…。これでも、結構削った方なんですがねぇ。
これ以上の文章量で連載している人がいると思うと、本当に凄いと思います。


-あらすじ-
プリズムリバー三姉妹vsチーム白玉楼の決闘が始まった。
幽々子の作戦の元、見事な連携を見せる三人。そのまま三姉妹を圧倒するも…


届け、レクイエム

「「「さぁ、第二楽章の始まりよ!」」」

 

宣言と共に、音階や音符を彷彿とさせるような弾幕を張るリリカ。それに応じるように、幽々子も青い蝶のような弾幕を張る。

 

「…今が、駆け抜ける時!」

 

右手に楼観剣、左手に白狼剣を構え、眼前に迫る弾幕の海へと翔ける妖夢。

両の手に持つ剣を交差させ、素早く切り払う。すると、傍にあった弾幕は真っ二つに切り裂かれ、消滅する。

幽霊10匹分の殺傷力を持つ楼観剣と、霊の力を断つ性質を持つ白楼剣の力により、霊力によって生み出された弾幕を消滅させる事が可能なのである。

 

迫り来る弾幕の(ことごと)くを切り捨て、妖夢はルナサへと肉薄していく。

三姉妹の中で、唯一肉弾戦に対応できるルナサの相手を、自らが買って出ようという腹積りであった。

 

彼我の距離は10Mも行かぬ程度まで迫った所で、相対するルナサは不敵な笑みを浮かべる。

 

「私の相手をしてくれるのですか? …ですが、下の彼は宜しいのですか?」

 

不意に掛けられたその言葉に疑問符を浮かべる妖夢。歩みを止めつつ、警戒は解かぬまま、目前の敵に目を遣る。

 

幽々子は蝶の形をした弾幕を展開し、リリカも音符のような弾幕を放ち、互いに牽制し合っている。

そして、自分の目の前には、ヴァイオリンの弓を細剣(レイピア)のように構えながら対峙するルナサ。

 

…おかしい、先程までいた筈の人物がいない。

その事実に気付き、はっとした表情になる妖夢。

 

「…! まさか…!」

「おっと、行かせませんよ。 …私の相手をしてくださるのでしょう?」

 

真下で戦う紅炎の元に加勢に行こうとするも、その前にルナサが立ち塞がる。

 

「くっ…! 紅炎さん!」

 

紅炎の援護に回る事が出来なくなった妖夢は、苦虫を噛み潰したような表情でルナサを睨みつけるのだった。

 

 

一方その頃、地上では紅炎がメルランの弾幕に襲われていた。

 

「地上のお方、お覚悟~!」

「おあぁっ!? あ、危ねぇッ!?」

 

楔のような形状の青い弾幕を次々と地上に撃ち込まれては、それを紙一重で交していく紅炎。

口調こそ慌てた様子だったが、その動き自体は至って冷静であった。

右へ左へ、体の軸をぶらし、弾幕を回避する。腕を曲げ、足を上げ、体を捻り、弾幕を回避する。

決して単調では無い筈の弾幕の動きを瞬時に見抜き、僅かな動作で回避していく。

 

中々弾幕が当たらない事への苛立ちか、はたまた紅炎の動きが自分の予想を超えていたのか、腕を組んで唸るメルラン。

 

「むむむ、当たらないなぁ…。 中々やりますねぇ」

「そりゃどーもッス。 一応、剣士名乗ってるんで、動体視力は良いッスよ?」

 

ひとしきり弾幕を撃ち続けたルナサがそう投げかければ、得意気に胸に手を当てて答える紅炎。

その回答を聞き、ニヤリと妖しげな笑みを浮かべるメルラン。

 

「そ~ですかぁ。 …なら、これならどうかな!?」

 

今度は青いレーザーを紅炎に向けて放つメルラン。一見何の変哲もないレーザーの弾幕に、紅炎は安堵の息を吐く。

 

「なーんスかぁ、そんなんタダのレーザー…」

 

そう言いかけた矢先、突如レーザーが不規則な方向に「へにょり」とねじ曲がる。

 

「って、何だコレ!?」

 

予想外のレーザーの動きに吃驚し、思わず動きが止まる紅炎。レーザー達は、そのまま紅炎を取り囲むように旋回を始める。

その上空では、勝ち誇ったような表情で紅炎を見下ろすメルラン。

 

「どーです! いくら動体視力が良くっても、この動きは見切れない! そのままピチュ確定!」

 

メルランの言う通り、自身の周囲を不規則に飛び回るレーザーを、紅炎は目で追い切れていなかった。

このままでは、メルランの言うように被弾し(ピチュッ)てしまうであろう。

 

しかし、紅炎とてこのままやられる心算は無い。

 

彼は、この逆境を乗り越える術を予め用意していた。

 

「仕方ないか…悪く思わないでくれッスよッ!」

 

そう言うと、紅炎は背負っていた大太刀を勢いよく抜き放ち、周囲のレーザーに向けて振りかざす。

 

次の瞬間、レーザーを含めた彼の周辺一帯が突如爆発を起こした。

爆炎に呑み込まれ、レーザーは全て消滅する。更に、爆発の余波はメルランにも襲いかかってくる。

 

「わひゃあっ!?」

 

炸裂する爆風に思わず顔を覆うも、飛来する石の破片を巧みに回避していくメルラン。

それらを全てやり過ごしたメルランは、爆発が起きた場所へと目を向ける。

 

立ち上る黒煙の中から、爆発の中心にいたにも(かかわ)らず、無傷の状態の紅炎が顔を出す。

 

「貴方、本当に人間なんですかぁ~!?」

 

驚愕した様に目を見開き、そう叫ぶメルラン。

 

メルランの疑問は最もである。

普通、爆発に巻き込まれた人間が無傷でいられる事は無い。まして、その爆発の中心にいたとあっては、五体満足である保障など皆無に等しく、生きている確証すらも無い。

 

だというのに、目の前に立つ男はどうだ。

爆発に呑まれても平然としているどころか、その爆発を自ら意図して起こしたのだ。

 

だが、ここは幻想郷に最も近い冥界。常識には囚われぬ世界。

とはいえど、人の身でありながらそんな力を持っている彼を、メルランは人間だとは思わなかった。否、思えなかったのだ。

 

そんなメルランの心中を察してか、頬を掻いて苦笑する紅炎。

 

「…あー、良く言われるッスよ。 …それより、良いんスか? よそ見してても」

「えっ…?」

 

そう言うと、苦笑から一転、何かを企んでいる様な妖しげな笑みを浮かべる紅炎。

不気味な笑みに冷や汗をかきつつ、メルランは辺りを見回し始める。

 

右を、左を、前を、後ろを、下を…何処を見ても、なにも怪しい点など無い。

何事も無いと判断し、リリカらの支援に回ろうと上を見上げた時、異変に気付く。

 

まるで獲物を取り囲む鳥のように、自分の頭上をぐるぐると回る数多(あまた)の蝶。

青く透き通った(はね)は、陽の光を受けて美しく映える。それが()()だという事さえ、忘れさせてしまう程に。

 

紅炎を仕留める事に集中していたメルランは、周りに意識を向けていなかった。

それ故に、リリカの弾幕の合間を縫い、隙を突いて下方に自身の弾幕を飛ばしていた幽々子の策に気付けなかった。

 

「や、ヤバい…!」

 

すぐさま蝶から逃れようと前方へ翔けるも、その動きと同調するかのように蝶も追ってくる。

次の瞬間、メルランは理解する。『この弾幕は、どう動こうとも自身を追尾する』、と。

 

「…逃げ場ナシ!?」

 

その問いに答える者は無く、ただその弾幕がメルラン目掛けて降下していく。

 

蝶は既に目と鼻の先まで迫っている、最早逃れる術は無い。

猛禽類に捕食されるのを待つ草食動物のように、諦めの感情を抱きながら、静かに目を閉じるメルラン。

 

 

「冥鍵『ファツィオーリ冥奏』!!」

 

突如、上空からスペルカードを宣言する声が響く。

その声は、リリカのものだった。彼女は、幽々子が自身から目を離した瞬間、すかさずスペルカードを発動したのだ。

 

リリカを中心として、規則的に並んだ赤と青の楔形の弾幕が、8本の弾列を成す。

そして、それぞれが赤い弾列、青い弾列となり、交差しながら地上へ降り注ぐ。

 

交差した赤と青の双壁は、メルランの周囲に群がる蝶達を貫きながら、彼女の周囲に展開していく。

それらは形を変え、姿を成し、やがてメルランを守るように球状に広がっていった。恐らく、傍に立つ紅炎の弾幕が届かぬように、というリリカの配慮であろう。

 

「無理しないでよね、メル姉!」

 

上空から声を掛けるリリカに、メルランは涙目になりながら手を振る。

 

「リリカありがとおぉ~! 大好きだよぉ~!」

 

恐らくは軽口のつもりで告げたであろうメルランの言葉に、「な、何言ってんのよ!?」と顔を赤らめるリリカ。

 

その光景を地上から眺めながら、内心で『コイツら仲良いなぁ』等と考えていた紅炎の耳元に、不意に幽々子の声が響く。

 

『紅炎、今よ。 「ラバーズ」を使いなさい』

 

先程掻き消された蝶の弾幕に残されていた霊力の残滓を通して、幽々子は自身の思念を紅炎に向けて送りこんだのだ。

 

その指示を受け、紅炎は素早くスペルカードを取り出し、宣言する。

 

「よっし、了解ッス! 火符『ブルーハートラバーズ』!」

 

宣言と共に、紅炎は左胸の前で両手を合わせ、「(ハート)」のマークを作る。

念の為に言っておくが、彼は決してふざけている訳ではない。

弾幕ごっこにおいて、無意味な行動はタブーである。相手に魅せるという“意味”があるからこそ、“無意味”な戦いに“意味”が生まれるのだ。

故に、彼が行っている動作も、決して無意味な行動では無い。

 

彼が両手で作ったハートの中で、青い炎が渦を巻き始める。

見るからに高温であるが、彼は全く熱さを感じていない。そのまま、その炎を凝縮していく。

 

やがて、その炎は手と同じハートの形となり、その両手から溢れ出んばかりに肥大化していく。

そのまま両手を胸から離し、リリカらが戦う上空へとその両手を向け、その炎をリリカとルナサ目掛けて射出した。

 

弾丸もかくやと言わんばかりに高速で打ち出された炎は、瞬く間にリリカらが戦う高度まで上昇する。

突如現れた青いハートに疑問符を浮かべるリリカ。

妖夢と対峙していたルナサは最初は気付いていなかったが、妖夢がその炎を垣間見、素早く身を引いた事で、漸くその存在を認知する。

 

次の瞬間、青いハートが勢いよく弾けた。

それらが分裂し、無数の小さな青いハートとなって、リリカとルナサに襲いかかる。

 

「なっ!? あ、熱っ!?」

「これは…炎…!?」

 

前方に展開されたハートで視界が埋め尽くされ、思わず硬直する二人。

接触する程に傍にある訳でもないのに、凄まじい熱量を伴ったそのハートに、二人は揃って声を上げる。

 

そして、炎に気を取られている二人目掛けて、接近する影が一つ。

 

それは、白楼剣を納め、楼観剣のみを構えた妖夢だった。

刀で突くような姿勢になり、凄まじい速度で灼熱のハート群へと突貫していく。

 

このまま行けば、自ら蒼炎の中へと突っ込む自殺行為であるが、当然何も考えていない訳ではない。

 

妖夢が炎にぶつかる直前、突如その炎の壁に大きな穴が空いた。

予め幽々子の作戦を受けていた紅炎は、妖夢が近づくと同時にその炎に通り道を作るよう細工をしていた。

自分の意志一つで自在に炎を操る事が出来る彼にとって、その程度は造作も無い事であった。

 

リリカを庇う形で前に出ていたルナサは、再びその剣を受け止めようと、ヴァイオリンの弓を構える。

だが、妖夢はそれを見越していたのか、傍らにいた半霊を自身の姿に変化させ、背後に回す。

 

「しまっ…!」

 

背後のリリカも狙われる。そう悟ったルナサは、焦燥と熱気から汗を流す。

 

 

「管霊『ヒノファンタズム』~!」

 

もはや、絶体絶命か…。そうルナサが思いかけた矢先、やや気の抜ける宣言が地上から響く。

その声は、メルランのものだった。奇しくも、先程リリカがメルランを助けた時と同じような状況で、メルランはスペルカードを放った。

 

メルランが吹くトランペットから、5本のレーザーが放たれる。

放たれたそのレーザーは、凄まじい速度で妖夢の方へと迫っていく。

それに気付いた妖夢は、斬りかかろうとしていた手を止め、後ろを振り向く。

 

「ッ…! この程度…ッ!」

 

多少の苛立ちが含まれたような声を発しながら、迫っていたレーザーを全て切り裂く。

 

レーザーが切り裂かれた瞬間、メルランは自信に満ち溢れた笑みを浮かべていたが、それに気付く者はいなかった。

 

次の瞬間、切り裂かれたレーザーから、突如として赤い楔形の弾幕が飛び出す。

赤い楔は瞬く間に拡散して行き、辺りに散らばった青い炎のハートを掻き消していく。

 

「なっ…!」

 

完全に不意を突かれた妖夢は、その赤い楔に絡め捕られるかのように、弾幕に呑み込まれてしまった。

窮地を救われたルナサとリリカは、楔を放った張本人のいる場所を見下ろす。

 

「め、メル姉…!」

「メルラン…」

 

地上付近で弾幕の壁に守られていたメルランは、舞い上がって二人の傍まで来ると、親指を立てて勝気に微笑む。

 

「へへ~ん! メルランさまの手助けも役に立つでしょう~?」

「メル姉…ありがとう」

「…助かった」

 

メルランが自信満々にそう告げると、素直に感謝の言葉を告げるリリカとルナサ。

 

「いやいや、気にする必要は……!? 二人とも、伏せて!」

 

へらへらと緊張感の無い笑みを浮かべていたメルランが、突如として真剣な表情になり、力強い口調でそう指示する。

ただ事では無いと判断した二人は、その指示通りに体を曲げ、空中で伏せる体勢を取る。

 

直後、青い蝶の弾幕が二人の頭上を掠め通る。

メルランの指示が無ければ、今頃二人揃って被弾していただろう。二人は心の中で再びメルランに感謝の言葉を告げた。

 

二人は体勢を直し、後方に対峙する幽々子を見据える。

彼女の傍らには、先程被弾した妖夢がいた。刀を両手で構え、いつでも動けるように待機している。

 

「よそ見をしていて良いのかしらねぇ? 幽蝶『ゴーストスポット』!」

 

幽々子がスペルカードを宣言する。両手に持った扇から、ひらひらと青い蝶が舞い始める。

今までの弾幕程のスピードは無くとも、それなりの速さで迫って来たそれらは、突如としてその姿を変える。

 

轟音と共にそれらは弾け、元よりも更に数を増した赤い蝶の姿となってプリズムリバー三姉妹へと襲いかかる。

 

その弾幕を前にして、三姉妹は互いに顔を見合わせ、小さく頷き合う。

そして、ルナサはヴァイオリンの弓を構え、勢いよくその弾幕へと突っ込んでいった。

 

「えっ!?」

 

無謀とも言えるその行動に、弾幕を撃った張本人である幽々子は驚愕する。

自らが想定した動きとは正反対の対応をルナサが取った事に、焦りを感じ始めていた。

 

赤い蝶は、数も速度も先程のそれとは段違い。もしそのまま突っ込めば、あえなく弾幕の餌食になるだろう。

 

当然、そんな自爆がルナサの目的では無い。

直進する彼女の周囲に、赤と青の楔形の弾列が出現する。リリカの弾幕バリアである。

それにより、ルナサは赤い蝶を気に留める事無く、速度を上げて幽々子の元へ肉薄する。

 

最も、それを見逃す妖夢では無い。

得物を構えて迫るルナサから幽々子を守るべく、彼女は楼観剣を握り締め、ルナサの前へと立ちはだかる。

 

幾度目かの剣戟が鳴り響く。真っ向から対峙する妖夢とルナサ。だが、ルナサは不敵に微笑む。あたかも『妖夢と対峙する事が目的であった』と言わんばかりに。

入り混じり飛び交うリリカと幽々子の弾幕の隙間から、後方を窺う妖夢。そして、その笑みの理由に気付いたが、時既に遅しであった。

 

「きゃあっ!」

 

完全に意識が逸れていたメルランの弾幕に、幽々子は呆気なく被弾してしまった。

それと同時に、弓で刀を弾いて身を引くルナサ。いつの間にか、リリカが纏っていた弾幕バリアも消えていた。

 

ルナサが身を引くと同時に、素早く幽々子の元へ駆け寄る妖夢。

 

「幽々子様! …くぅっ!」

「私は大丈夫よ。 それよりも、紅炎が…」

 

自らの主を守り通せなかった事に憤慨する妖夢。

そんな妖夢を宥めながら、幽々子は下方にいる紅炎を心配する。

 

 

「マジッスか…!」

 

地上において、そんな彼女らの攻防を見ていた紅炎は、思わず感嘆の声を漏らす。

 

「紅炎、後ろよ!」

 

上空から聞こえて来た幽々子の叫び声を聞き、すかさず振り向く紅炎。

 

「へっ?」

「スキあり!」

 

彼の背後には、何時の間にかリリカが陣取っていた。

先程ルナサに弾幕のバリアを張った後、気付かれないように背後に忍び寄っていたのだ。

 

生者の気配しか見抜けぬ紅炎は、騒霊たる彼女の気配を捉える事が出来なかった。その為、幽々子にそれを指摘されるまで、真後ろに立たれている事に気付けなかった。

 

「ヤベッ…うおっ!?」

 

逃げようとしたものの、彼我の距離は僅かに1M。

リリカの手元から放たれた弾幕を回避する術等無く、彼はそのまま被弾してしまった。

 

「やったー!」

 

紅炎に弾幕を当てられた事が嬉しかったのか、その場で小躍りするリリカ。

その様子を、紅炎は唖然と見ている事しかできなかった。

 

「上手くやったわね」

「うん! これで同点よ!」

 

上空でリリカの活躍を見下ろしていたメルランとルナサは、満足気に頷く。

 

「まずいわねぇ…。 完全に、想定外だわ」

 

顎に指を当て、他には聞こえない程度の声量でそう呟く幽々子。

一見普段通りに見えるその表情からは、紛れもない焦燥の色が見られる。

 

「くっ…! 何とか巻き返さなければ! 天上剣『天人の五衰』!!」

「ちょっ、妖夢!?」

 

その傍らで、幽々子以上に焦燥していた妖夢は、幽々子の指示を待たずにスペルカードを発動する。

更なる想定外の行動をし出した妖夢に、思わず素で突っ込んでしまう幽々子であった。

 

妖夢が虚空を切り裂くと、そこから黄色、茶色、赤色、紫色、青色をした楔形の弾幕が一斉にあふれ出る。

今までの物とは比べ物にならない程の速度、量を伴って打ちだされたそれは、正面に立つ二人を呑み込まんとしていた。

 

普通に考えれば、その弾幕を回避するのは限りなく難しい行為である。

その質量、速度を考慮すると、気合いでも避ける事は厳しいだろう。それが可能な者は、幻想郷においても恐らく限られてくるだろう。

 

だが、それでも目の前の姉妹は動じない。

それどころか、弾幕の速度に対応するほどの速度でその弾幕を回避していく。

 

「天人の五衰」の最大の特徴であり、最大の弱点でもある、とある効果故に起きた現象である。

それは、「技を受けた相手の体感時間が遅くなる」という効果である。

 

達人同士の真剣勝負や、死の危機に瀕した時などに、時間の進みがゆっくりに感じる事がある。

極限まで研ぎ澄まされた集中力によって、刹那が何分もの長さに感じるようになり、結果的に時間の進みが遅れているよう感じる現象である。

 

この「天人の五衰」においては、その現象が強制的に引き起こされてしまう。

それ故に、極度に研ぎ澄まされた感覚を用いて、三人は弾幕を回避する事が出来たのだ。

 

「くそっ…! ならば…!」

「妖夢」

 

スペルカードを攻略され、更に焦燥する妖夢。

再びスペルカードを発動しようとした所で、幽々子が妖夢の腕を掴んで止めさせる。

 

「焦る気持ちも分かるけど、いったん落ち着いてね」

 

そう諌めれば、次第に落ち着きを取り戻していく妖夢。

自らの行動を思い返し、はっとした表情になり、次に悔恨の表情を浮かべる。

 

「…申し訳ありません。 焦るあまり、あのような真似を…」

「気にするな…と言っても、するわよね。 それよりも、彼が気がかりだわ」

 

そう答えた後、幽々子が下に目を向ける。妖夢も続けてそちらを見る。

 

地上では、紅炎の残機を奪った事で絶好調のリリカが、再び紅炎に向けて弾幕を撃っていた。

 

「ホラホラホラ! 逃げ回っていては勝てませんよ?」

「いやいやいや、これは戦略的撤退ッスよ~!」

 

上空から爆撃機の如く地上に弾幕の雨を降らせるリリカから逃れるべく、ひたすらに駆け回る紅炎。

妖夢や幽々子の支援も望めない今、頼りになるのは自身の足のみ。対して、リリカの方は姉二人によるサポートもある可能性がある。

 

片や地上、片や上空。片やサポート無、片やサポート有。

自分にとって圧倒的に不利な状況であるにも拘らず、紅炎は笑みを浮かべる。

 

 

かつて無い強敵、絶体絶命のピンチ、逆境苦境もなんのその、決して弱音は吐かない。

それが、紅炎という男だ。

 

何事も楽しい事を第一に考え、全てをプラスに捉える思考の持ち主。

故に、決して悲観はせず、諦観も無い。

 

今の状況とて、彼にとっては自身を文字通り『燃え上がらせる』燃料に過ぎない。

諦めるどころか、逆にその状況を乗り越える事しか考えていなかった。

 

意を決した彼は、上空にいる幽々子に向けて叫ぶ。

 

「妖夢、幽々子! 悪いけど、ここからはアドリブで行かせてもらうッス!」

 

その言葉に、目を見開き、驚愕した様な表情を浮かべる幽々子。当然、その様子は紅炎からは見えない。

 

「何をするつもりなんですか?」

 

弾幕を打つ手は止めぬまま、リリカがそう尋ねる。

 

「こうするんスよ!」

 

紅炎が両腕を横に広げると、その両手に二振りの剣が現れる。

赤々と燃え盛るその剣は、紅炎の能力によって生み出されたものであると見て、間違いは無いだろう。

 

両の剣をそれぞれの手に構え、目の前に迫る弾幕を見据える紅炎。

 

紅炎は、目の前の弾幕を真っ二つに切り裂いた。

 

「えっ!?」

 

その様子を見ていたリリカは驚愕する。

 

剣の形をしているとはいえ、それは炎で構成された物。

切れ味のある刃を持っている訳でもないのに、一体何故…そんな疑問は、次の瞬間に解消される事となる。

 

紅炎がその炎の剣と剣同士を擦り合わせた際、剣特有の金属音が鳴り響いた為である。

原理は不明だが、その炎が今は剣と同じ性質を持っているという事実を、リリカは理解した。

 

迫りくる弾幕を次々と切り裂いていく紅炎。その剣捌きに、上空で戦っていた者達も思わず魅入っていた。

 

「くぅっ…。 マズイ、このままじゃ…!」

 

弾幕を切り裂かれ、徐々に肉薄されている事に気付き、そう呟くリリカ。

次第に弾幕を撃つペースが落ちて行くリリカ。その表情にも焦りが見え始める。

 

そして、弾幕が途切れた一瞬の隙を突き、素早く間合いを詰める紅炎。

高く跳躍する事によって、リリカと同じ高さまで肉薄する。

 

「うわぁっ!」

「スキありッス!」

 

先程リリカが自身に向けて放った言葉と同じ言葉を以て、リリカに攻撃を仕掛ける紅炎。

 

「…なんてね!」

 

それを事前に予期していたのか、素早く上空に逃れるリリカ。

対象がいなくなった斬撃は空しく空を切る。それでも尚、紅炎は笑みを絶やさない。

 

「…甘いッスよ!」

 

その場で素早く宙返りをし、その勢いで二振りの剣をリリカに向かって投げつける紅炎。

 

「と、飛び道具!?」

 

思わぬ動きに動揺を見せるも、それらを間一髪で回避するリリカ。

 

次の瞬間、リリカの体は地面に叩きつけられた。

 

リリカが回避した炎の剣が、突如爆発したのである。

思わぬ形で背後を取られたリリカは、それに対応できずに被弾する事となった。

 

「いたた…まさか、そんな技をもっていただなんて…」

 

むくりと起き上がり、強打した顔を手で押さえるリリカ。

 

「これで同点じゃ無くなったッスね」

 

リリカを見下ろしながら、紅炎は得意げな表情でそう告げるのだった。

 

 

「アドリブ…ねぇ」

 

先の紅炎が放った言葉を反芻しながら、顔を下げて一人沈吟する幽々子。

リリカと紅炎、2人の攻防を上空から見ていた、幽々子を含む4人は、2人に魅入る余り戦いを止めていた。

 

「…妖夢」

 

顔を上げた幽々子は、妖夢の名を呼び、彼女の両肩に手を添え、

 

「もう作戦なんてかなぐり捨てて、思うように動いて良いわ」

 

妖夢の知る限り、恐らく本日一番の良い笑顔でそう言い放った。

 

「え? し、しかし…」

 

そう口を挟みかけた妖夢は、その言葉を詰まらせる。

目の前の主人(幽々子)が、まるで純真な子供のように無垢な笑顔を見せていたからである。

 

「だって…その方がワクワクするじゃない!」

 

彼女の口から出たのは、何とも単純で稚拙な理由。

それでも、妖夢はそれを諌める事も、非難する事もしない。

 

理屈では無く、心にその意志が伝わってくるのを感じたから。

 

「…はい、幽々子様!」

 

その言葉に、従者(妖夢)は答える。

主と同様、屈託の無い満面の笑みを、その顔に湛えて。

 

そして、再び楼観剣を両手で握り締め、対峙するメルランとルナサを見据える。

 

「それでは…好き勝手させてもらいます!」

「最初のスペルは残しておいてねー」

「わかってます! 断命剣『冥想斬』」

 

右手の指の間に挟んだスペルカードを宣言すると同時に、楼観剣に妖力を注ぎ始める妖夢。

 

そして、楼観剣の刀身が光に包まれ、緑色に輝く巨大な刃へと形を変えた。

 

「でか!?」

 

その刃の巨大さに腰を抜かすメルラン。圧倒的なまでの存在感を放つ刃の前に気圧され、弾幕を撃つ事すら出来なかった。

地上にいる二人も含め、この場にいる妖夢以外の全員が同じ感想を抱いた事だろう。

 

「行きます…ッ!」

 

持ち前のスピードを活かし、ルナサがその速度に反応するよりも速く肉薄する。

見るからに重そうな巨大な刀身を持った楼観剣を構えながらも、普段と何ら変わらぬスピードを維持できるのは、その刃が妖力で構成された、“重量を持たぬ刃”であるからだ。

 

ヴァイオリンの弓を構え、再び妖夢の刃を受け止めようとするルナサ。だが…

 

「な…!?」

 

その巨体に見合った質量を持つ妖力の刃は、いとも容易くルナサの弓を弾き飛ばした。

 

続く二の太刀が、バランスを崩したルナサの体を切り裂いた。

 

「…ッ! ……? 痛みが…」

 

光の刃は、ルナサの体を傷つける事は無かった。

妖夢自身が自由自在に操る事が出来る妖力。仇成す者を討つ刃となるも、他が為の盾となるも、己の意志次第である。

 

故に妖夢は、冥想の刃がルナサの体を切り裂く寸前、その光の刃を形作る妖力を操り、その刃から殺傷力を失わせたのだ。

 

「傷は無くとも、刃は届いたのです。 これは、被弾と言えますよね?」

 

刀を収めた妖夢は、呆然と立ち尽くすルナサにそう告げる。

数拍置いた後、ルナサは肩を竦め、苦笑を浮かべながら答える。

 

「…そうですね。 …メルラン、リリカを呼んで」

 

そして、未だ腰を抜かしていたメルランの頭にチョップを叩きこみ、そう指示を出す。

 

「ほぐっ…はっ! わ、わかったおっけー了解! おーいリリカー!」

 

叩かれた頭を押さえながら、メルランは思い切り下に向けて叫ぶ。

 

 

数秒と経たぬ内に、地上にいたリリカが二人の元へと、文字通り『飛んで』くる。

 

「もう試合時間も僅か。相手はリードしている。 …アンサンブルで行くわ」

 

ルナサがそう告げると、メルランとリリカは驚いたような表情になるも、すぐさま笑みを浮かべる。

 

「マジですか! りょうか~い!」

「わ、分かったわ」

 

二人はそれぞれ了承のサインを出し、ルナサはそれを見て静かに頷く。

 

そして、三人はそれぞれ楽器を構える。

それを見た妖夢が身構えるも、それを手で制し、幽々子が前に出る。

 

「今度は何を奏でてくれるのかしら?」

 

幽々子がそう尋ねると、メルランは満面の笑みで答える。

 

「とっておきの一曲ですよ! さぁ、リリカ! ルナ姉!」

 

メルランの掛け声に合わせるように、リリカとルナサが左右に展開し、三角形(トライアングル)の陣形となる。

 

「我ら三姉妹の大合奏(アンサンブル)、とくとご堪能下さい」

 

そんなルナサの言葉と共に、ルナサが三角形の頂点に位置するように移動する。

そして、ルナサ、メルラン、リリカがそれぞれ右手を前に(かざ)すと、その中心が光に包まれる。

 

その光のなかから1枚のスペルカードが出現し、三人同時に右手を頭上に掲げ、そのカードを宣言する。

 

「「「 合葬『プリズムコンチェルト』!」」」

 

宣言と共に、リリカとメルランが散開する。

一人その場に残ったルナサは、ヴァイオリンを奏でながら弾幕を放つ。

 

「なんて弾幕の量…! あれが彼女達の本気ですか…!」

 

四方八方から迫る弾幕を、時に切り払い、時にいなし、何とか被弾だけはすまいと必死に空を翔け回る妖夢。

 

「もうすぐ試合時間だし…本気にもなるわよねぇ」

 

今の今まで試合時間を気にする辺り、口調も相まって余裕を感じさせるような言動を取る幽々子だが、その表情には余裕の色は見られない。彼女とて、その弾幕の前に攻め手を失っていた。

今までとは比にならない程の質量の弾幕を前に、妖夢と幽々子は回避に専念する事しか出来ずにいた。

 

「凄い綺麗な弾幕…ッスけど、流石に楽しむ余裕は無ぇ~!」

 

遥か上空から、地上にも降り注ぎ続ける無数の弾幕の雨の中を掻い潜りながら、必死で地上を駆け回る紅炎。

白玉楼の庭を埋め尽くさんばかりに大きく広がったその弾幕は、術者から遠く離れる程にその色を変えて行く。

 

まるでプリズムによって光が分散するように、虹色の光を伴った弾幕が拡散していく。

 

「逃がさないよ~!」

 

リリカとメルランは、演奏と共に赤い弾幕とレーザーを放って、地上と空から幽々子らを追い詰める。

それぞれのレーザーは、先程妖夢が見せた光の刃のように形を伴って襲いかかり、逃げ惑う彼らを切り裂かんとする。

 

更なる脅威に晒され、次第にその表情に疲弊の色が見えてくる妖夢。

それを知ってか知らずか、幽々子が一つの指示を紅炎と妖夢に飛ばす。

 

「妖夢、紅炎! 今こそ、私達の力を合わせる時よ!」

 

弾幕の海の中を泳ぎまわりながらさらりとそう告げた幽々子に対して、驚きを隠せない妖夢と紅炎。

 

「ゆ、幽々子様!?」

「本気で言ってんスか~!?」

 

弾幕に加え、リリカとメルランのレーザーに追いまわされている紅炎と妖夢は、揃ってそう声を上げる。

 

「言ったでしょう? アドリブで乗り切るって!」

 

先の自分の発言を思い出し、静かに笑みを浮かべる紅炎。

妖夢もまた、何処までも純粋に楽しむ彼女の心意気に、笑みを浮かべる。

 

「全く、とんでもないアドリブッスね! …行くぜ、妖夢!」

「…はい、紅炎さん!」

 

紅炎はその背から蝶の羽のように炎を放ち、リリカの追跡を振り切って飛翔する。

ブースターのように背部から噴出される炎の勢いのみで飛翔している為、細かな移動等は出来ないが、これが今現在の紅炎が持ち得る、唯一の飛翔手段であった。

 

「…空、飛べたんですか!?」

「一時的に、な!」

 

何ともデジャヴを覚えるやり取りをリリカと交しながら、紅炎は上空へと向かう。

その紅炎の飛ぶ進路上の弾幕を、幽々子と妖夢が打ち消して行き、ついに紅炎は二人と同じ高さにまで達する。

 

そして、紅炎と妖夢は、二人揃ってスペルカードを宣言する。

 

「炎符『桜火楼閣』!」

「人界剣『悟入幻想』!」

 

紅炎の持つ大太刀が炎に包まれ、まるで炎の塔が如き巨大な刃が生み出される。

そして、妖夢の周囲に結界のようなものが発生し、そこから上に向けて大量の赤い弾幕が放たれる。

 

辺り一帯に舞い散る炎の鱗粉にその弾幕が包まれ、立ち上る火球とって周囲を赤く照らす。

その光景はさながら、赤い提灯に下から照らされ眩く輝く楼閣のようであった。

 

「決めてみせるわ! 華霊『スワローテイルバタフライ』!」

 

そんな光景に見とれる間もなく、幽々子がスペルカードを宣言する。

宣言と共に、幽々子の背後に扇の如きオーラが展開され、そこから無数の青い蝶が放たれる。

 

その蝶達は、楼閣の周りを覆う赤熱の火球の中へと一斉に突っ込んで行く。

 

すると、その火球が内側から弾け、中から紅い炎を纏った黒い蝶が生まれ出る。

弾け飛んだ赤い弾幕の欠片は、炎に包まれ、まるで桜の花びらのように周囲に舞い始める。

 

「名付けて、冥炎剣『墨染桜-紅火影蝶(べにひかげ)-』。 これが、私達のラストスペルよ!」

 

 

舞い散る炎の欠片が墨染桜の花びらならば、黒き蝶はさながらベニヒカゲの如し。

 

墨染めの桜は虹を断ち、黒き蝶は道を拓く。

その先にある勝利の道へと、突き進む炎の為に。

 

「これで…終演(フィナーレ)だ!」

 

幽玄なる炎に包まれし楼閣が振りろされると同時に、盛大なる舞台が幕を閉じた。

 

 

 

 

------

 

その夜、白玉楼ではささやかな宴が催された。

というのも、戦いを終えたプリズムリバー三姉妹に、幽々子が「今日はもう泊って行きなさい」と告げたのが事の発端である。

 

戦いの結果はというと、楽団チームの被弾数6、白玉楼チームの被弾数3で、白玉楼チームの勝利に終わった。

 

勝負に負けて悔しい想いはあったであろうが、それでも三人は終始笑顔であった。

そして、リリカは紅炎に再戦を誓い、メルランとルナサに「帰ろう」と告げた矢先に、泊っていく旨を告げられ、再び大きく溜息を吐く羽目になった次第である。

 

 

そんなこんなで、宴会の最中である。

今宵は無礼講とし、6人という大所帯での夕飯は、軽い宴会に発展したという訳である。

 

「いや~、それにしても最後のアレは本当に見事でしたよ!」

「全くですね! あんなに綺麗だったから、思わず私達も手を止めて見入ってしまいましたよ!」

 

先の戦いを(さかな)に、豪快に酒を煽るメルランとリリカ。

 

「いやいや、俺としてはアンタらの弾幕にも驚かされたッスよ!」

「そうですね。 それにしても、ルナサさんが剣術を嗜んでいただなんて…」

 

料理に舌鼓を打ちながら、紅炎がそう投げかける。幽々子はというと、絶賛大食い真っ最中だ。

幾度も剣を受け止められた事を思い出し、少し悔しげに顔を赤くする妖夢。最も、大半は酒のせいであるだろうが。

 

「あ~、わかりますソレ! 皆驚きますもん! ねぇ、ルナ姉…って、あれ? ルナ姉何処行くのさ?」

 

部屋から出ようとしたルナサを引き留めるメルラン。

 

「…厠に行ってくる。 暫く席を外させて貰うわ」

 

メルランを一瞥すると、そっけない態度でそう告げるルナサ。

 

「そうなの~? あ、もしかして大きいほごふっ!?」

 

食事の場に不適切な発言をしかけたメルランの脇腹に蹴りを入れて、ルナサはそのまま廊下へと出て行った。

 

「あははは! メル姉ってば、まだ潰れるのは早いよ?」

「それ確実に酔って倒れたんじゃないと思うッスよ~」

 

大分酒が入っていたリリカは、最早箸が転んでもおかしい状態であった。

メルランの負傷すらも笑いの種として、宴会は更に盛り上がっていく。

 

 

 

 

 

宴もたけなわ頃、多少酔いの醒めた紅炎は、夜風を浴びて涼もうと縁側へと出る。

 

吹きぬける秋風が火照った体を冷やし、彼方に浮かぶ青白い月の光が、静寂に包まれた大地を優しく照らす。

風が揺らす木々の音色に耳を澄ましていると、ふと紅炎は別の音を聞き取る。

 

静かで、優しく、心安らぐようで、何処か寂しさを感じる、そんなヴァイオリンの音色。

 

音のする方に目を向ける紅炎。視線の先には、一本の大きな桜の木。

花は未だ咲かねど、その姿は大きく、存在感に溢れている。

 

その桜の木の下には、一つの人影。

影の正体は、先程宴会の席を立ったルナサだった。

 

手足を使わずに楽器を奏でる事が出来る彼女だが、今はその能力を使わず、自身の手を用いて演奏をしていた。

 

その様子を眺めていた紅炎の存在に気付いたのか、演奏の手を止めるルナサ。

 

「…聞かれていましたか。 迷惑でしたら、申し訳ありません」

「いや、そんな事は無いッスよ。 続けてくれて、構わないッス」 

 

紅炎がそう訂正すれば、ルナサは再び演奏を始める。

再び夜空に流れ始めた優麗な音色に、紅炎は静かに耳を傾けるのであった。

 

 

演奏が終わると同時に、桜の木に歩み寄り、その根元に腰を下ろす紅炎。

その隣に立っていたルナサは、訝しげな表情で紅炎を見つめる。

 

「…話、しないッスか?」

「え…? ……そうですね。 では…失礼します」

 

唐突にそう告げられ、返答に困る様子を見せるも、それを承諾し、紅炎の隣に腰掛けるルナサ。

 

「あの曲だけどさ、どんな意味があったんスか?」

 

紅炎はルナサに問いかける。

 

「…あの曲は、ある人に捧げる、鎮魂歌(レクイエム)

 

少し言い淀んで、そう答えるルナサ。

 

「…そう、ッスか」

 

そのやり取りを最後に、再び夜は静寂に包まれる。

 

 

「…一つ、昔話をしても、宜しいでしょうか?」

 

不意に顔を上げ、ルナサはそんな提案をする。

自ら多くを語る事の無い彼女が、自ら率先してそんな話をする事は稀有であると、他の妹二人ならば言うだろう。

 

「聞かせてくれッス」

 

「…私達には、かつて妹がいました。

その子の名前は、『レイラ』。 …レイラ・プリズムリバーという、人間の子でした。

 

楽しみも何も知らなかった私達に、その子は音楽を教えてくれた。

音楽だけじゃ無く、もっといろんな事も教えてくれた。

美味しい料理、綺麗な景色…数え切れない位にいろんな事を、私達はあの子から教わった。

 

あの子はいつでも、私達を『姉さん』と呼んで慕ってくれた。

…あの頃の思い出は、今でも私は忘れていない」

 

ルナサの昔話を、ただ静かに聞く紅炎。その表情から、普段の陽気さは窺えない。

淡々と語っていたルナサの表情は、次第に暗い物になっていった。

 

 

「…でも、今は、もういない。

私達は騒霊、あの子は人間。 …同じ時は、過ごせなかった。

 

いつもと変わらぬ日だと思っていた、あの日の朝…。

 

あの子は、目を覚まさなかった。

 

何度声をかけても、何度名前を呼んでも…。 …あの子は、二度と目を覚まさなかった。

 

…生まれつき体の弱かったあの子は、普通の人より短い生を運命付けられていた。

そんな短い生の中で、あの子は私達に、数え切れない程の事を教えてくれた。

 

 

…あの子は、もういない。

 

ちゃんとお礼を言いたかった。

最期は傍にいてあげたかった。

 

…ずっと、一緒にいたかった。

 

私は……私は…ッ」

 

 

膝の上で握り締めた彼女の拳の上に、ぽつりと雨粒が零れ落ちる。

2つ、3つと続けざまに零れ落ちたそれは、やがて止め処なく溢れだす。

 

込み上げた想いを嗚咽に変えて、声を殺して泣き続ける彼女の背中を、紅炎は優しく撫で続ける。

 

 

堪えていた感情を吐き出し、落ち着きを取り戻したルナサは、目を擦り、紅炎に頭を下げる。

 

「…ごめんなさい、みっともない所を見せてしまいました」

 

ルナサがそう告げれば、紅炎は首を横に振る。

 

「気にしないって。 …誰もみっともないなんて、思わないッスよ」

「…ありがとうございます」

 

紅炎の言葉に安心したのか、ルナサはほっと息を漏らす。

そして、一呼吸置いた後、再び話し始める。

 

「…私が奏でていたのは、あの子に捧げる鎮魂歌(レクイエム)

 

…ここは、冥界。 死せる者達の魂達が住まう場所。

だから、ここでなら、届くと思ったんです。 …あの子に。

 

私達の想いを込めた、この曲が」

 

そう告げ、この冥界の何処かにいるであろうレイラを想い、空を見上げるルナサ。

星々が瞬く夜空に、一筋の流れ星が翔けた…ように、紅炎には見えた。

 

 

顔を下ろしたルナサは、立ち上がって紅炎に向き直る。

 

「…色々、ありがとうございました。 大分、楽になった気がします」

 

ルナサがそう礼を告げると、紅炎は「良いって事ッスよ」と声をかける。

 

「…さぁ、宴に戻りましょう。 今頃、幽々子さんが大方の料理を食べつくしているでしょうけれど」

 

今現在の宴会の状態がどんな事になっているか、想像して苦笑を浮かべるルナサ。

そんなルナサの誘いを、紅炎は右手を軽く振って断る。

 

「ああ、俺はもう少し涼んでいくッスよ」

「そうですか…。 では、風邪を引かぬよう、お気を付けて」

 

そう告げると、ルナサは宴会の場へと戻っていった。

 

 

去っていくルナサの背中を見届けた紅炎は、ゆっくりと空を見上げる。

漆黒の夜空に瞬く星々が、優しい光を湛える月が、この冥界を包み込む。

 

木の幹に背を預け、静かに目を閉じる紅炎。

 

「…ちゃんと、届いてたッスか?」

 

自身の()()()()()()()に、そう告げる紅炎。

 

その女性は、ゆっくりと頷き、笑みを浮かべる。

彼女の視線は、宴会の場…即ち、この場にいない三姉妹に向いていた。

 

「心配ッスか?」

 

そう紅炎が問えば、その女性は首を横に振る。

そして、再び視線を宴会の場に向けた後、今度は紅炎の方へ顔を向け、にっこりと微笑む。

 

「…別に、あんまり大層な事はしてないんスけどねぇ」

 

紅炎がそうはにかめば、その女性も同じように笑顔を浮かべる。

 

やがて、その女性は立ち上がり、紅炎の正面に立って、深々とお辞儀をする。

顔を上げた彼女の顔は、どこか安らいで見えた。

 

「もう、行くんスか? …レイラ」

 

その女性は頷いた後、紅炎に何かを告げる。

 

「ああ…ちゃ~んと伝えるッスよ」

 

紅炎の返事を聞き、安心したように微笑む女性。

再びお辞儀をし、彼女はそのまま何処かへと去っていった。

 

 

「『ありがとう』…ねぇ」

 

彼女が最後にそう言ったのかどうかは、紅炎自身にもわからない。

妖夢ならば、きっとこう言うのだろう。『理屈では無く、心に伝わってきた』のだと。

 

そんな事を考えて、紅炎は一人ほくそ笑む。

 

 

「…さて、飲み直すかねぇ」

 

腰を上げ、宴会の場へと戻る紅炎。

 

冷え切った体を温める為、そして、レイラの最初で最後の願いを果たす為に。

 

 

 

……

 

 

『姉さん達に会ったら、伝えて下さいますか?

 

…私は決して、後悔なんてしていない。

姉さん達と過ごせた人生は、本当に楽しかった。

 

私はいつでも、姉さん達の事を見守っているから…。

だからこれからは、楽しい未来の事を、もっと考えて。

 

ルナ姉…演奏、素敵だったよ。

またいつか、聞かせて欲しいな。

 

…それじゃあ、元気でね。

 

皆、大好きだよ』

 

 

 

 




知らないのか?4人目は正直者にしか見えないって話だぜ


2話に渡ってお送りしました、プリズムリバー三姉妹のお話でした。
果たして紅炎は一字一句違わず伝えられるのか、ちょっぴり心配ですねぇ。

まぁ、その辺は大丈夫でしょう。
ルナサ達三姉妹も、きっとレイラの言葉は『理屈では無く、心で理解する』でしょうし。


戦いは激しく、ラストのシーンはちょっぴり切なく、そんな感じの仕上がりになったと思います。
レイラに関する設定等は、割とオリジナル入っています。所謂、ジコカイシャクですな。


次回、「刀光剣影」。妖夢の修行も、いよいよ本格剣術に!
5月11日、投稿予定です。


◇今回登場したスペルカード◇

今回も大漁大漁、かなりの数が出てきましたね。

冥鍵「ファツィオーリ冥奏」
リリカのスペルカード。名前の由来はイタリアの高級ピアノメーカー。
赤と青の楔形の弾幕を交互に撃つ。弾の軌道は自由自在。

管霊「ヒノファンタズム」
メルランのスペルカード。弾けるへにょりレーザー。
レーザーの軌道上から全方向に分裂する赤い弾幕が炸裂する。
名前の由来は、日本人のジャズトランペッター「日野皓正」氏から。まだまだ現役の方です。

合葬「プリズムコンチェルト」
プリズムリバー三姉妹の合同スペルカード。プリズムのコンサート。
ルナサが放つ無数の弾幕を避けながら、リリカとメルランのレーザーも避けねばならない。
全く持って面倒だが、演出はとても綺麗なのである。

天上剣「天人の五衰」
妖夢のスペルカード。超人薬分泌コーナー。
弾幕が自身に到達する刹那、互いの時間が遅れて感じる事から、実は避けるのは難しくない。
天人の五衰とは、天人が死ぬ際に見られる5つの兆候の事。色々つまらなくなって、頭がボサボサになって、汗かいて、服が汚れて、臭ってくる、何とも嫌な現象である。

断命剣「冥想斬」
妖夢のスペルカード。でっかい緑のライトセーバー。
妖力を纏わせ、巨大な緑の光る刀身を得た楼観剣でぶった切る。
紅炎の桜花楼閣とちょっと似てるが、実際はこっちの方が先だったりする。

人界剣「悟入幻想」
妖夢のスペルカード。悟りを開くよ!
下から上へと弾幕が迫る珍しい技。元祖天邪鬼スペルともいう。
今回は、チーム白玉楼の合同スペルの為の素材となった。

幽蝶「ゴーストスポット」
幽々子のスペルカード。心霊現象はおともだち。
遅い弾幕かと思いきや、いきなり加速する心臓に悪い弾幕である。
赤い蝶と聞くと、どうしても「煉獄蝶」という単語が思い浮かんでしまう作者である。

華霊「スワローテイルバタフライ」
幽々子のスペルカード。名前は「アゲハ蝶」の英語読み。
発動と共に、背景に扇が出現するのが特徴で、非常に美しい演出を伴う弾幕として人気(かも)。
今回は、チーム白玉楼の合同スペルの為の素材となった。

火符「ブルーハートラバーズ」
紅炎のスペルカード。青いハートでLOVEドッきゅん。
青いハート型の炎の弾幕を飛ばす。一定距離まで来ると分裂するよ。
名前の由来は、作者が好きなイギリスのボーカルグループ『Blue』の“Hurt Lovers”という曲から。


冥炎符「墨染桜-紅火影蝶-」
チーム白玉楼の合同スペル。命名は幽々子(という事にしてください)。
人界剣「悟入幻想」、華霊「スワローテイルバタフライ」、炎符「桜火楼閣」が合わさった。
蝶やら火花やら纏った剣でぶった切る、割とシンプルな攻撃。
名前の紅火影蝶は、ベニヒカゲの漢字読みの「紅日陰蝶」に、紅炎のイメージである「火」と、妖夢と幽々子のイメージである「影」をとり入れたもの。
ネーミングセンスは…レミリアよりは、ましだと思いたいです。


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