神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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昨日からのネット接続不良により、投稿ができませんでした…(小声)
最も、執筆の段階でまにあってませんorzとにかく、時間が欲しいです。

今回は一貫して妖夢視点で物語を進めて行きます。
いよいよ剣の修行、妖夢はどれだけこの時を待ちわびた事でしょうね。


5/15(木) 修正&挿絵を挿入しました。

-あらすじ-
プリズムリバー三姉妹との弾幕ごっこは、白玉楼組の勝利で盛大に幕を閉じた。
そして、桜の木の下で佇んでいた女性の想いと言葉を、紅炎はしっかりと受け取った。



☆刀光剣影

プリズムリバー三姉妹との弾幕ごっこがあった日から、今日でおよそ1ヶ月が過ぎた。

 

あの日以来、三人は何度か白玉楼に足を運ぶようになった。

最初の方こそ、未だ何処か遠慮がちで他人行儀な所があったが、同じ時間を過ごす機会が増える内に、次第に打ち解けて行った。

 

今では、ルナサさんが私の事を「妖夢」と呼んでくれる程だ。…幽々子様やお師匠様…それに、紅炎さん意外からそう呼ばれた事なんて殆ど無かったから、何だかとっても新鮮だった。

 

三人が遊びに来る日は、紅炎さんのトレーニングもお休みになる。

鍛錬の時間が減ってしまうのはちょっと残念に思ったけれど、楽しい時間が増えると考えれば、とっても嬉しい気持ちになった。

 

…もう、かれこれ1月以上、紅炎さんのトレーニングメニューを続けている事になるな。

最初の方は、体中の筋肉や関節を痛めたり、終わった後にクタクタになって倒れたりしていたけれど…。

 

今はもう、息も切らさず、体も痛めず、格段に楽に行えるようになった。

楽になった…と言うよりも、自分の体が鍛えられて順応していっているんだろう、と考える。

 

日課の素振り…あれも紅炎さんに指摘された事で、刀1本で行うようになった。

それが功を奏したのかは不明だが、素振りもかなり楽になった。

体に負担が少ない分、鍛えられているという実感が湧かなくて不安になったけれど、紅炎さんが言うには『今の状態がベスト』らしい…。

 

そう考えると、今の紅炎さんのトレーニングは、かなり効果的だという事になる。…まるで、本当に剣術の師範のようだ。

この人に師事したのは、少なくとも間違いでは無かったと思っている。

 

…ひょっとして幽々子様は、それらを見越した上で紅炎さんを白玉楼(ここ)に住まわせたのでは…なんて、流石に考えすぎか。

 

さあ、朝ご飯の支度を済ませよう。

今日もまた、トレーニングが待っているのだから。

 

 

 

朝食を終えた後、紅炎さんが食器洗いを手伝ってくれた。

わざわざ手伝ってもらって申し訳ない気持ちになったが、紅炎さんは『気にするな』と言っていた。

 

それにしても最近、紅炎さんが家事を手伝ってくれる機会が増えた気がする。

ひょっとして、気を使ってくれているんだろうか?…私は全然、平気なんだけどな…。

 

…よそう、考えたって仕方の無い事だ。

それよりも、早く庭へと向かおう。紅炎さんが首を長くして待っている筈だ。

 

縁側に向かい、石畳の上に乗せていた靴を履き、楼観剣と白楼剣を携えて庭へと向かう。

 

朝日が差し込む白玉楼の庭を望めば、塀に沿って生える桜並木が目に映る。

…手入れをしている自分が言うのもなんだが、我ながら見事な仕上がりだと思う。

 

赤く色付いた葉桜も、いずれは全て散ってしまうのだろう。

そして、冬が過ぎ去れば、また美しい桜の花を咲かせるのだろう。

 

輪廻のように、生と死を繰り返す桜の木…亡霊たる幽々子様には、どんな風に見えているのだろう。

人である紅炎さんも、いずれは死が訪れてしまうのだろうか…そう考えると、悲しい気分になってしまう。

 

「おお、早いッスね~」

 

そんな暗い考えを払拭するかのような明朗な声が後ろから響く。紅炎さんだ。

その声のした方向に振り返り、顔を見つめて挨拶をする。

 

「おはようございます、紅炎さん…?」

 

そう言い掛けたタイミングで、ふと何か違和感を覚えた事に気付く。

紅炎さんの全身を瞳に写すように、まじまじと見つめると、その違和感の正体に気付いた。

 

紅炎さんが、普段所持している筈の大太刀を背負っていない事だ。

それに加えて、腰には二本の刀のような物を帯刀している。

私の楼観剣と白楼剣と同じように、片方が長く、片方が短い、二振りの刀だ。

 

一見すれば、何の変哲もない刀だ。

だというのに、その刀からは妙なエネルギーのような物を感じる。

 

対峙しているだけで、心がざわめくような…そんな、プレッシャーに近い物を感じさせる。

きっと、余程の業物か…或いは、曰くつきの代物なのかもしれない。

 

そう思っていると、視線に気づいたであろう紅炎さんが口を開く。

 

「…ん? ああ、もしかしてこれッスか?」

 

そう言って、腰に差していた二振りの刀を鞘ごと引き抜き、胸の前で交差して見せる紅炎さん。

 

「よくぞ気付いたッス。 実はこれは…」

「これは…?」

 

何だろう…?やっぱり、すごい代物なんだろうか…?緊張のあまり、思わず固唾を呑む。

 

「修学旅行先の土産物屋で買ったものッス!」

 

予想外すぎる回答に、思いっきりずっこけた。

 

「…というのは、もちろん冗談ッス」

「冗談だったんですか…」

 

冗談だと笑う紅炎さん。流石に、あれ程思わせぶりな事を言っておいて、修学旅行のお土産だなんて、本当だったら色々と大変だ。

ずっこけた拍子に鼻を打った…いたい…。

 

「これは、俺の家の蔵で埃被ってたっぽい刀ッス」

「…というと、外の世界の家ですか?」

 

紅炎さんが外の世界にいた頃の家…紅炎さんにも、きっと家族がいたのだろう。

だとしたら…この世界に来てしまった事を、本当は後悔しているのではないだろうか。

 

「まぁ、その時の事なんて覚えて無いから、今更どうでもいいんスけどね」

 

二振りの刀を指先で回しながら、紅炎さんは小さく笑ってそう答えた。

本当に覚えていないだけなのか…それとも、私を不安にさせない為に、あえてそう言っているのか…。

 

…これ以上の邪推は無用だ。何か、別の話題を振ろう。

 

「…ちなみに、その刀の銘は?」

 

一目見ただけで、あの二振りは単なる打刀とは比べ物にならない代物であろうと推測できる。

それに加え、あれだけの威圧感を放っているのだから、きっと名のある職人が鍛えた業物であるに違いない。

 

「確か…こっちの長いのが『建布都(たけふつ)』。 んで、こっちの短い方が『豊布都(とよふつ)』って名前ッス」

 

そう言って、紅炎さんは二振りの刀をそれぞれ長い方から順に抜刀して見せる。

その二振りともが、美しく剃り返り、青みを帯びた白い刀身を持ち、それぞれ楼観剣と白楼剣より一回りも二回りも大きい。

 

光に照らされ、眩く輝く刀身に反射した光に目を薄める。

見ただけで分かる…凄まじい切れ味を持っているであろう事が。

 

長い方の刀の名は『建布都』、そして短い方の刀は『豊布都』…どちらも知らぬ名だ。ひょっとして、外の世界では有名なんだろうか?

…最も、私自身が楼観剣と白楼剣意外の刀を知らぬのだから、知れた名なのか否か等見分けられる筈も無いのだが。

 

「とはいっても、普段は使わないんスけどね。 …けど、今回は別ッスよ」

 

刀を納めた紅炎さんがそう告げる。今回は別…?それは一体どういう…?

 

「…! もしかして…」

 

期待に胸が高鳴り、思わず一歩前に乗り出す。

 

「そう、今日から本格的に剣術の修行に入るッスよ」

「…!!」

 

歓喜のあまりその場ではしゃぎそうになる衝動をなんとか抑える。

そついに…ついに紅炎さんに剣術を指導してもらえる…。そう考えると、期待せずにはいられない。

 

「メニューを色々考えた結果…先ずは、コイツを使っての修行に決めたのよ」

 

そう言って、腰に差した建布都と豊布都を抜刀する紅炎さん。

二振り…即ち、二刀流という事になる…。紅炎さんの剣術は、あの大太刀を用いた一刀流の筈なのに、どうして…?

 

「刀二本使うのが気にかかるッスか?」

 

そう尋ねられたので、素直に頷く。

 

「今はその理由は言えないッス。 …けど、ちゃ~んと考えての事だから、心配すんなって」

 

理由は問うたものの、返って来たのは答えに非ず。

別に、紅炎さんの事を疑っている訳でも、心配をしている訳でもないのだけど…。

 

…きっと、紅炎さんなりの考えがあるのだろう。これ以上の追及は無用だ。

 

 

二振りの刀を両の手に握り締めた紅炎さんは、その場で後ろを向いたかと思うと、私との距離を取る。

 

彼我の距離が10数M程になったところで、紅炎さんが此方に向けて声をかける。

 

「とりあえず、先ずは好きに打ちこんで見るッスよ」

 

そう言って、紅炎さんは建布都を目線の上に、豊布都を目線の下になるように、それぞれ交差させる構えを取る。

確か、それぞれの刀を用いて、攻撃を受け流す事に特化した構えだった筈。まずは手堅く様子見、という事だろうか。

 

背負った楼観剣と白楼剣をそれぞれ鞘から抜き、自分の得意とする構えで紅炎さんを見据える。

紅炎さんは此方を見て、小さく頷いた。準備は万端、という事だろうか……ならば、遠慮無く行かせてもらう!

 

「はぁっ!」

 

かけ声と共に、勢いよく地を蹴り駆け出す。視線の先に対峙する紅炎さんとの距離がどんどん詰まっていく。

今の紅炎さんの構えでは、周りから打ちこんでも防がれる。…先ずは正面から攻めて、あの構えを崩す!

 

真正面へと迷い無く楼観剣を振るう。…だが、手ごたえは無い。

元より然程変わらぬ位置に立つ紅炎さん。恐らく、回避されてしまったのだろう。…流石に、真っ直ぐ過ぎたか。

 

「っ…! なら…!」

 

左手に持つ白楼剣を振るい、その直後に楼観剣による突きを放つ。

ブラフである白楼剣の攻撃に意識を奪われている間に、楼観剣による突きが決まる…という戦法だ。

 

だが、その戦法は通用しなかった。

紅炎さんは、左手に構えた豊布都を軽く楼観剣の切っ先に宛がっただけで、その突きの軌道をずらしてしまった。

 

明後日の方向へと飛んでいく突きの勢いに体が引っ張られ、思わずバランスを崩してしまう。拙い…このままでは…!

 

だが、紅炎さんは一切攻撃をしてこない。

相手のバランスを崩した今こそ、絶好のチャンスだというのに…。

 

「どうしたんスか? もしかして、もう終わりッスか?」

 

依然構えを崩さぬまま、そう問いかけてくる紅炎さん。

 

…よくよく見れば、紅炎さんは最初の場所から殆ど動いていない。

この程度では、まだ足りないという事だろうか…。

 

「…まだまだっ!」

 

再び構え直し、今度は楼観剣と白楼剣を同時に振るう。

本来、二刀流において脇差は防御用なのだが、時には攻撃にも転じられ、その破壊力は実質的に倍となる。

 

左右からの挟撃に近い形での攻撃、これならかわすのは難しくなる。

だが、まともに受け止めようとすれば、少なからずダメージを負うことになる。

 

これならば、いくら紅炎さんとて回避は……!?

 

「なっ!?」

 

当たらない…!?何故…狙いは完璧だった筈…。

 

「あと1分後に、タイムリミットを設けるッス」

 

依然として最初の構えを崩さぬまま、紅炎さんはそう告げる。

…やはり、最初にいた位置から全く動いていない。それ故か、目の前に立つ彼の表情は至って涼しげだ。

 

 

それから1分間、私はひたすら紅炎さんに向けて攻撃を続けた。

だが、それでも私は、紅炎さんに防御をさせる事はおろか、移動さえさせる事が出来なかった。

 

どれだけ打ちこもうとも、まるで『予め何処に攻撃が来るのかが分かっている』かのように、悉く攻撃を回避されてしまう。

いったい、どうして…未来予知ができる訳でも無いだろうし…。

 

「なるほど、なるほど…うん、大体は分かったッス」

 

ひたすらに剣を振るい続けた所為で荒れた息を整えている横で、紅炎さんはそう呟く。

『分かった』…?一体何が分かったんだろう…?

 

紅炎さんは、先程私が立っていた場所まで移動すると、再び刀を構える。

だが、その構えは先程のそれとは異なったものだった。

 

「そんじゃ、次はこっちの番ッスよ。 さっきと同じように、今度は俺が打ちこんでみるッス」

 

今の紅炎さんの構えは…間違いなく、私の構え方と同じだ。

さっきの打ちこみの最中に模倣したのだろうか…わざわざ構えを変えるだなんて、一体何が目的なんだろう…?

 

…深く考えても仕方が無い。今は、目の前の相手に集中しよう。

 

「ほっ!」

 

やや気の抜ける掛け声と共に、紅炎さんが真正面から突っ込んでくる。

しかし、その動きは分かり易く、どう回避すれば当たらないか、すぐに糸口を見いだせる。

 

普段の彼の動きからは到底考えられない…一体何故…?…何か、違和感を感じる。

…細かく考えても仕方が無いか。回避が容易とあらば、無理に受け止める必要は無い。

 

体の軸を横へずらし、振り降ろされた刀の軌道から逸れる。

反撃のチャンス…だが、今はあくまで回避に徹するようにとの指示を受けている。

 

故に、そのままの体勢で次の攻撃に備える。

 

「それっ!」

 

次に紅炎さんは、左手に持った豊布都を振るう。刀の長さや角度からして、先ず此方を攻撃する意志は無いだろう。

それに何より、右手に構えた建布都を持つ手に力が入っているのが、はっきりと目に見えて分かる。

 

恐らく、先に豊布都によるブラフを行い、建布都による突きを決めるという算段なのだろう。

簡単に戦略が読めてしまう。やはり、二刀流は苦手だったのでは……?

 

案の定、建布都による突きが飛んでくる。

それを回避すれば、紅炎さんはバランスを崩したように片足で数度跳ねる。

 

…やはり、おかしい。何かが、おかしい。

 

「そんじゃ、コイツでっ!」

 

今度は、建布都と豊布都を同時に振るって来る紅炎さん。

 

「…ッ!」

 

その構えを見た瞬間、私は確信した。

 

この動きは…()()()()だ!

 

「…どうやら、気が付いたみたいッスね」

 

振りかけた刀をすんでのところで止め、ニヤリと笑みを浮かべる紅炎さん。

 

漸く、気が付いた…。紅炎さんが二刀流を用いた、その理由が。

 

「自分の弱点に、な」

 

私の動きは、単純過ぎたのだ。

それ故に、剣を交える相手に容易く動きを読まれてしまう。

 

剣術に限らず、常に2手3手先を考えて動く戦いにおいて、その思考が読まれてしまうのは致命的過ぎる弱点といえる。

 

一度戦略が崩されてしまうと、最早その剣士に勝ち目は無い。

故に、今の私は、まごう事無き敗者である。

 

今の戦いがもし真剣勝負であったなら、私は殺されていた。

…まあ、半分死んでるんだけど。

 

「とにもかくにも、その動きを変えて行く必要があるッスね」

 

今までの動きを改める…簡単に言うけれど、本当にできるだろうか?

 

「…あぁ、何も根っこから全部変えて行く訳じゃないからな? ある程度、読まれにくい動きを取り入れて行こうって話ッスよ」

 

多分、私は難しい顔をしていたんだろう。内心を察したのか、紅炎さんがそう告げる。

読まれにくい動き…というと、フェイント等を取り入れるのだろうか?

 

「それじゃあ…試しに、俺が一発やってみるッスよ!」

 

紅炎さんはそう言って再び私の構えを取り、此方に肉薄していく。

今度も真正面から…ならば、その攻撃も回避して見せる!

 

再び体の軸を横へずらし、振り降ろされた刀の軌道から逸れる…事は無かった。

 

「…えっ!?」

 

回避した筈の刀の切っ先が、突き刺さる一歩手前程度まで迫っていた。

馬鹿な…!?確実に、回避した筈なのに…!

 

「面食らってるッスね。 まぁ…無理も無いッスよ、それが狙いなんだからな」

 

紅炎さんの言う通り、意表を突かれた私は、完全に動きを止めてしまっていた。

 

構えこそ私のそれと何ら変わりないのに、全く動きが予見できなかった。

動き一つでここまで変わる物なのか…そう考えると、改めて自分に足りない物をひしひしと感じた。

 

「こんな感じの動きを取り入れて行けば、今よりも確実に読まれにくくなるッス」

 

その後『まぁ、相手からすれば鬱陶しい事この上ないだろうけどな』と付け足して、紅炎さんは笑う。

確かに、相手の不意を付けるような立ち回りを身に付ければ、今よりも格段に強くなれるだろう。けれど…

 

「私に、できるでしょうか…?」

 

俯きながら、そんな発言をする。

相対する紅炎さんの表情は、此方からは窺えない。…けど、きっと難しい顔をしている事だろう。

 

…分かっている。…これは、弱音だ。

けれど…どうしても、あの動きができるようになるビジョンが見えない。

 

やはり、私程度では届かぬ領域……

 

 

「できる、できない…じゃ、無ぇ」

 

頭上から響く紅炎さんの言葉に、思わず顔を上げる。

そこには、普段の温厚な笑みを湛えた紅炎さんの姿は無かった。

 

「やるか、やらないか…ただ、それだけだ」

 

……。

 

「できないと決めつけて、そこで諦めるのか?」

 

紅炎さんの口から告げられたのは、今までに無く力強い言葉。

普段の温厚な態度からは想像も出来ない程に、今の紅炎さんは厳しく見えた。

 

けれど、それと同時に、今まで以上に頼もしくも見えた。

 

私の為に、そんな厳しい言葉を投げかけてくれる。

その事実が、私にはとても嬉しかった。

 

「…分かりました、やってみます。 …やってみせます!」

 

胸を張って、そうはっきりと告げると、紅炎さんは満足気な笑みを浮かべる。

 

「…良い返事ッスよ、妖夢」

 

いつもの笑顔、いつもの口調。…いつもの、紅炎さんだ。

その安心感から、つい気を緩めてしまいそうになるも、修行の最中である事を思い出し、再び気合いを入れ直す。

 

数歩距離を取った紅炎さんは、三度剣を構え、此方を見据える。

 

「古臭い考えかも知れないけど…戦いの中で、自分の動きを見出す! それが一番ッス!」

 

そう言い終わるか否かといったタイミングで、紅炎さんが再び肉薄する。

『戦いの中で、自分の動きを見出す』。先達の言葉に倣ったのであろうそのフレーズが、何故か妙に印象に残った。

 

だが、そんな考えは今は捨て置こう。…相手は、目の前だ。

 

「ハァッ!」

 

雄たけびと共に、両の刀を同時に振るう紅炎さん。…振るう勢いも、その速度も、全てが桁違いだ。

 

…だが、ここで怖気付く訳にはいかない。

 

できるかできないかなんて、そんな事は考えるな。

 

決して迷わずに…ただ、やるだけだッ!

 

 

「……ッ!」

 

刃が振り降ろされる刹那、しゃがみ込み、身を屈める。そして、そのまま足を伸ばし、相手の死角へと潜り込む。

その勢いを維持したまま、大きくその場で側転をし、相手の周囲を反時計回りに回りこむように移動し、相手の背後を取る。

 

紅炎さんは、きっとこの動きを予測できなかったのだろう。

首筋に刃を突きつけられる寸前まで、前方を見据えたままだった。

 

「…やるッスねぇ。 こればかりは、マジで予想外だったッスよ」

 

両の刀を鞘に収めながら、紅炎さんがそう告げる。

…正直な所、私も予想外だった。無我夢中だったとはいえ、あれ程の動きが出来るだなんて…。

 

「自分の意志に、体が付いてきたのを感じれただろう?」

「…あっ!」

 

言われてみれば…今までは、そんな動きを試みても、どうしても上手く行かなかった。

今思えば、それは自分の体が思考についていけてない証拠だったのだろう。

 

それが出来るようになった…きっと、今までのトレーニングの賜物だ。

 

「お見事ッス、妖夢」

 

この人に師事したのは、間違いなどでは無かった。

 

 

 

「そうね、本当に見事だったわ」

 

楼観剣と白楼剣を鞘に納めた瞬間、縁側の方から声が響く。…この声は、幽々子様のものだ。

 

「いつから、見ていらしたんですか?」

「そうねぇ…紅炎が『あきらめたらそこで試合終了ですよ』って言った辺りからかしらねぇ?」

「俺そんな事言ったッスか!?」

 

そう尋ねれば、幽々子様はよく分からない台詞を放ち、それに対して紅炎さんが突っ込んだ。

 

…やれやれ。やはり、この人が現れると、真剣な空気は続かない。

 

けれど、それでいいのかもしれない。

剣呑な雰囲気の中で刃を交えるよりも、和やかな空気の方が良いのかもしれない。

 

幽々子様の考えは分からない。…けれど、幽々子様の良い所は良く知っている。

だからこそ、私は幽々子様に仕えているのだ。この白玉楼の、庭師兼幽々子様の剣術指南役なのだ。

 

いつか私も、幽々子様をお守り出来る程、強くなるんだ。

できるできない、じゃない。“なる”んだ。なってみせる、きっと。

 

 

「…あぁ、そうそう」

 

何かを思い出したかのようにそう切り出す幽々子様。一体、どうしたんだろう?

 

「さっきの動き、凄かったけど…あんなに激しく動いちゃうから、モロに見えてたわよ?」

 

……。

 

「…へ?」

 

思考が追いつかず、つい変な声が出てしまう。この人は今、何と言った?

 

「見えちゃってたわよ、スカートの下の物がね♪」

 

え……ということは…私…ぱ、ぱん……見え……。

 

「おま…今それ言う事ッスか!?」

「うふふふふ~♪ それじゃ、後はよろしくね~♪」

「えっ!? ちょ、オイ!?」

 

ま、まさか…み、見られて……紅炎さんに…私の……うぁあっ

 

「えっと…妖夢?」

「……記憶を、斬らせてもらいますッ!!」

「うぉっ!危なっ!?」

 

気が付けば、私は紅炎さんに斬りかかっていた。

 

「ちょっ待て、落ち着け妖夢! 色々と落ち着け!」

「うわああぁぁぁ!! 断命剣『冥想斬』!!」

「いきなりスペルカード使うなよ!? って危ねぇ! …オイ幽々子、笑ってないで助けてくれッスよ!」

「うふふふ…綺麗な白だったわね、妖夢♪」

「煽ってどーするんだぁぁ!!」

 

やっぱり私には、幽々子様の考えは分からないっ!!

 

 

 




紅炎と妖夢の壮絶な追いかけっこ。タイムリミットは妖夢が正気に戻るまで。

ちなみに、紅炎は見えていませんでした。あの角度からじゃ、目の前にいた妖夢が突如その場から消えたようにしか見えませんもの。
後日、妖夢はあの動きを封印する事に決めたのだとか。なぁ魂魄くん、ズボン買おう!


今回登場した紅炎のサブウェポン、銘を『建布都』と『豊布都』。
どちらの名前も、日本神話に登場する刀の神『タケミカヅチ』の持つ異名から来ています。
…この名前も、地味に紅炎の正体を仄めかす要因になっているんですよねぇ。


「できるできないじゃなく、やるかやらないか」
私の通う学校でも、先生が良くこの言葉を口にしています。

シンプルだけど、とても大事な言葉だと思います。


次回、「妖々なる夢」。隙間にご注意ください。
更新予定日は、5月17日を予定しています。



---おまけ---
主人公の挿絵を入れてみる事にしました。初挿絵です。
ペイントツールはsaiを使用…どうにも色塗りは難しいですね。精進いたします。

【挿絵表示】

最初のイラストは、オリ主の一人である紅炎です。

腰まで届いている長い黒髪、手入れが大変そうですね。
所持しているのは、彼が愛用している大太刀です。
真っ赤な刀身は、伝説の鉱物である『ヒヒイロカネ』で出来ているんだとかいないんだとか。

炎をモチーフにした羽織、その下には青い着物を身につけています。
袴の下にはズボンを履いています。この袴、ポケットの部分が大きく空いているのが特徴です。
ベルトは革製、バックルは分かり難いですが『太陽』をイメージしています。


総じて奇抜ファッションとも取れる服装ですが、幻想郷だとそこまで違和感は…いや、あるか。

まだまだ作者の実力ではこの程度しか描けませんが、これから他のオリ主のイラストも投稿していく予定です。


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