神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
どうか、トレーニング後の強烈な倦怠感と睡魔を取り除く方法を教えて下さい。
もうすぐ春も終わりですねぇ…ここ最近夏日が続いてくると、そんな事を考えてしまいますよ。
春に入る前に異変を書けなかったという…何というか、やりきれない感があります。
今回は途中から紅炎視点で話をすすめます。割と原作キャラが多めに登場するかも?
-あらすじ-
妖夢に本格的な剣の修行を教える事にした紅炎。彼が振るったのは、妖夢と同じ二刀流。
自身の動きの欠点を知り、それを認めた妖夢。指摘を受け、最後には紅炎の想像を超える程の動きを見せた。
そして、スカートの下は綺麗な白だったらしい。すごくどうでもいいね!
紅炎が妖夢と本格的な剣術修行を始めてから数日の時が経った。
自身の動きの弱点を指摘された妖夢は、その弱点を克服するべく、更なる動きの研究に意欲を燃やすようになった。
秋の涼しさも紅葉も、今ではすっかり鳴りを潜め、冥界にも秋の終わりが近づこうとしていた。
起床し、大きく体を仰け反らせ、朝の清涼な空気に身を委ねる紅炎。
最も、今ではその涼しさを通り越し、寒さを感じさせるとは彼本人の談であるが。
壁に立て掛けられた、何処か懐かしさを感じさせる時計に目を向ければ、現在の時刻は5時30分。
彼の朝は早い。というのも、朝早くから行われる妖夢の修行に、起き抜けの鈍った身体で望む訳にも行かないからである。
眠たい目を擦りながらも、彼は着替えを済ませ、廊下を渡って台所へ向かう。
台所の襖を開けると、そこには既に起きていた妖夢がいた。
顔を下に向け、顎に手を当てて何かを呟いており、紅炎の存在には気が付いていない様子である。
「おはようッス、妖夢……妖夢?」
声を掛けるも、妖夢は何ら反応を返さない。
普段の彼女ならば、すぐさま挨拶を返す物を…そう疑問におもった紅炎は、再度声を掛ける。
「…はっ! こ、紅炎さん! お、おはようございますっ」
すると、その声に漸く気が付いたのか、顔を上げて慌てた様子でそう返事を返す妖夢。
「どうしたんスか? 何か困り事でもあったんスか?」
紅炎がそう尋ねれば、妖夢はやや答え難そうに顔をしかめ、やや間を空けて答え始める。
「…実は、その…今朝食料の貯蔵を見てみた所、予想以上に減っていて…」
その回答を聞いた瞬間、それまで柔和な笑みを湛えていた紅炎の表情が凍りつく。
「…マジッスか?」
「ああ、いえっ! まだ、2~3日は何とかなる量です…なんですが…」
「尽きるのは、時間の問題…って訳ッスか」
彼の態度が変化した事を悟ったのか、慌てた様子でそう付け加える妖夢。
だが、言葉を紡いで行く内に、次第にその語尾は弱々しくなって行き、結局、紅炎の表情を変える事は失敗に終わった。
「なんて事…これは由々しき事態だわ」
一体何時の間に現れたのか、紅炎の背後に立っていた幽々子が、何時になく真剣な表情でそう呟く。
「ゆ、幽々子様!? …あいたっ!?」
突如として現れた幽々子に驚き、飛び退いた際に戸棚に頭をぶつける妖夢。
涙目で頭を擦る妖夢を尻目に、紅炎は『ひょっとして今のは、「由々しい」と自分の名前を掛けたシャレだったのだろうか』等と、割とどうでも良い事を考えていた。
「朝ごはんを済ませたら、すぐに里に買い出しに向かいなさい、妖夢」
蹲り悶える妖夢に、幽々子はそう告げる。
「は、はい…分かりました…」
起き上がりながら、そう答える妖夢。
体勢を立て直した妖夢は、他の二人に聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟く。
「しかし、何故こうも早く…? いつもなら、もう少しは持つのに…」
「はっきり言ってしまえば、食い扶持が増えたからね」
そんな妖夢の疑問に対し、幽々子ははっきりとそう告げる。
食料の減りが早くなった原因、それは、紅炎という新たな一員が増えた事にある。
単純に考えて、食い分が一人分増すのである。当然、食料の消費も早まる事になる。
それ故の
「あぁ、そういう訳ッスか…」
その事実に気付いた紅炎は、少々気まずそうに頭を掻く。
「…い、いえっ、決して紅炎さんが悪い訳ではないですよ!? きちんと管理できてなかった私に原因がある訳ですし…」
紅炎の態度に気を使ったのか、妖夢がそう訂正し、次第に申し訳無さそうな表情に変わっていく。
「そうよねぇ、妖夢。 だらしないわよぉ?」
そこに更に追い打ちをかけるかのように、幽々子が煽るような口調でそう告げる。
その言葉にむっときたのか、目を半分だけ見開き、幽々子を睨みつける妖夢。
「…元はと言えば、幽々子様の食事量が原因だと思うのですが」
妖夢の言うように、亡霊である筈の幽々子は、何故か一日の内に凄まじい量の食事をとるのである。
常人がそれを聞いたら卒倒しそうな程の量の食事、白玉楼のエンゲル係数は、紅炎が来る前から既にカンスト寸前であった。
「うふふふ…何の事かしらねぇ♪」
そんな妖夢の言葉を歯牙にも掛けぬといった面持ちで、艶かしく口に手を当てて微笑む幽々子。
全く反省の色を見せぬ幽々子の態度に、妖夢は大きく溜息を吐いた。
------
「さて、すぐに向かわなければ…」
朝食を済ませ、洗い物も済ませた妖夢は、すぐに里へ買い出しに向かう為の支度をし始める。
「って、もう行くんスか? もう少し休んでからでも…」
食休みを挟む事すらしようとしない妖夢に、紅炎は心配そうに声を掛ける。
「いえ、すぐに向かわせて下さい。 午前中の修行の時間が無くなってしまいますから…」
妖夢が急ぐ理由、それは、紅炎との修行の時間を割く事への懸念と焦りから来るものであった。
その理由を知り、紅炎は小さく溜息を吐いた後、妖夢の目線に合わせるように身を屈め、静かに告げる。
「今日は修行はお休みにするッス」
紅炎の言葉を受け、荷物を入れる為の鞄から手を離し、驚いたような表情で顔を上げる妖夢。
「えっ…!? ど、どうして…」
その口調や表情からは、『納得できない』という感情が見て取れる。
彼女にとっては、日課である修行を行うという事だけでなく、紅炎の教えを一日でも多く受けたいという願望があった。
故に、その修行に間を空けることに納得がいかないのであろう。
そんな妖夢の心中を察してか、紅炎が優しげな口調で語りかける。
「焦ってやったって、身に付く訳が無いッスよ。 …誰だって、すぐに強くなれる訳じゃ無いんだ」
「でも……いえ、すみません。 私、少し焦っていました…」
尚も喰い下がろうとした妖夢だったが、すぐに言改め、自らの行いを悔い改める。
「全然良いッスよ、その意気込みは大事ッスからね」
妖夢をフォローするかのように、そんな言葉を投げかける紅炎。
「…あ、そうだ。 俺も買い物に付き合うッスよ」
その直後、彼は何かを思いついたかのように顔を上げ、さらりとそう告げた。
「…えっ? い、いえ、そんな…! 私一人で…」
「あら、いいじゃない。 行ってきなさいな、紅炎」
『十分です』と言いかけた妖夢の言葉を遮るように、食い気味な幽々子の言葉が響く。
「ゆ、幽々子様!?」
再び唐突に背後に現れた幽々子に驚き、今度は尻餅をつく妖夢。
そんな妖夢の反応を見て小さく微笑んだ幽々子は、隣で呆れた様な表情で見つめる紅炎を歯牙にも掛けぬ様子で言葉を紡ぐ。
「紅炎がいれば、荷物持ちが増えてラクよ? …それに、偶には羽を伸ばすのも悪くないんじゃない?」
幽々子の言葉の後半部分は、恐らく妖夢だけでは無く、自分にも向けられた言葉なのだろう。
彼女なりの気使いなのかもしれない。そう考えた紅炎は、小さく微笑んで、妖夢の方に顔を向ける。
「…っつー訳だから、俺も同行決定!」
「けってーい♪」
紅炎がそう言って右手でガッツポーズをすれば、それに対して左手でガッツポーズを決める幽々子。そのノリの良さを、二人揃って妖夢に見せつけるのであった。
「はぁ…分かりました、宜しくお願いします」
二人の態度に溜息を吐き、半ば諦めに近い形で紅炎の同行を認める妖夢であったが、その表情に不満は見受けられなかった。
身支度を整えた妖夢と紅炎は、白玉楼の玄関の前で幽々子の見送りを受けていた。
「それでは、行ってまいります」
「おみやげよろしくね~」
「…って、オイ」
「うふふふ~、行ってらっしゃい」
妖夢の言葉に対して幽々子が投げかけたのは、「気を付けてね」といった心配する旨の言葉では無く、おみやげの催促をする言葉であった。
思わずツッコミを入れた紅炎に対し、いつものような掴みどころの無い笑みを浮かべた幽々子は、そのまま屋内へと消えて行った。
相変わらず、彼女の考えは良く分からない。二人は、揃って同じ意見を心の中で考える。
数秒の後、紅炎が切り出す。
「…そんじゃ、行きますかね」
「…ええ、そうですね」
その言葉に、妖夢が答える。
幽々子の言葉のせいで生じた微妙な空気を払拭するかのように、二人は石段を降り始めた。
------
あれから、特に何事も無く幻想郷へと辿りついた。
現在は、無縁塚から再思の道を抜けて、人里へと繋がる
冥界から幻想郷へと渡る手段は数あれど、最も簡単な方法が、無縁塚へと出る事らしい。
現世と冥界、そして幻想郷。三つの世界の境界が最も曖昧になる場所故に、その間を移動する事も容易なのだという。
俺も冥界へと来る時、ここを経て辿りついた実体験がある。故に、その点に関しては特に心配は無かった。
ただ、
あの門を見た時、何というか…何処か懐かしさのような感覚を覚えた。当然、今までに訪れた事なんてある訳が無いので、ただの気のせいだとは思うけど…。
…まあ、あんまり細かい事は気にしないでおこう。
それよりも、久しぶりの幻想郷だ。今はじっくりと堪能しておこう。
やはり冥界とは違い、幻想郷には生命が溢れている。
当然と言えば当然だが、かれこれ1ヵ月以上も冥界にいた為か、それが何だか新鮮に感じてしまう。
「良い天気ッスねぇ~」
雲一つ無い…訳ではないが、穏やかな気候に恵まれた空を眺めて、思わずそんな言葉が零れる。
「ええ、そうですね」
独り言のつもりだったのだが、妖夢はその言葉を自身への問いかけと受け取ったのか、そう返答を返す。
「…こうして一緒に何処かへ出かけるのって、初めてじゃないですか?」
暫く無言で歩いていると、妖夢がそんな事を問いかけてくる。
言われてみれば、その通りだ。今までは修行で外に出る機会はあったものの、それでも遠出と言える距離では無かった。
思えば、中々に忙しい日々が続いていた。こうして肩を並べて遠出をする機会が皆無だったのは、ある意味仕方の無い事と言える。
「そう言えばそうッスねぇ…」
とりあえず、妖夢の言葉に返事を返す。
すると、妖夢は顔を下に向けて、ぽつりぽつりと呟き始める。
「…なんだか、不思議な感じなんです。
買い物に行く機会は幾度と無くありましたが、こうして誰かと一緒に来たのは初めてで…」
下を向いている為に良く見えないが、その表情は、自分の感情に困惑しているようにも、何処か嬉しそうにも見えた。
きっと、妖夢にとっての普段の買い物というのは、それ程楽しい物でも無いのだろう。
…それなら、今だけでも楽しい物にしないとな。その方が、俺も楽しめるだろうからな。
「そんじゃ、今日は買い物ついでに色々見て回るッスよ!」
「えっ? でも、幽々子様が…」
「ちょっとぐらい平気だって。 …それに、偶には羽を伸ばすのも悪くないッスよ」
悪いな、ちょいとばかり幽々子の言葉を拝借させて貰うッス。
「…そうですね、偶には」
そう告げれば、妖夢も小さく微笑む。何だかんだ言って、彼女には笑顔が似合ってると思う。
今だけは、普段の生真面目さは仕舞っておいてくれて良いんスよ~。
…なんて言った所で、『いいえ、そういう訳にはいきません!』とか言われるのが関の山か。
そんな事を考え、思わず笑みが零れてしまう。
「…? どうかしましたか?」
どうやら妖夢に聞こえていたみたいだ。不思議そうな表情で俺の顔を見上げてくる。
「イヤ、何でも無いッスよ」
そう告げて、再び空を見上げる。
東の彼方から昇り始めた太陽が、未だ眠気に包まれた幻想郷を眩く照らしていた。
暫くして、漸く人里に辿り着いた。
無縁塚から人里まではそこまで距離がある訳では無いものの、如何せんそこへと至る道が獣道である為、結果として時間が掛かってしまう訳である。
「いや~、ここは相変わらず賑やかッスねぇ」
幻想郷において、最も多くの人間が住んでいる場所、それが人里だ。
唯一妖怪に襲われる心配の無い、人間にとっての理想郷ともいえる場所だが、最近では割と妖怪の出入りもあるらしい。
…最も、俺の知る限り、人を襲うような妖怪はいないけど。
「以前にも来た事があるんですか?」
妖夢がそう尋ねてくる。そういえば、まだ話して無かったような…話して無いな。
せっかくだし、この機会に色々教えておいた方が良いだろう。そう思い、話す事にした。
「ああ、冥界に来る前に、暫くいた時期があったんスよ。 多分、何人か顔見知りもいると思うッス」
人里に居たのは精々一週間かそこらであったが、その間に色々な人たちに出会った。
人間だけでなく、中には妖怪と知り合ったりもした。皆、今でも元気にしているだろうか?
「そうなんですか…ならば、買い物ついでにその人たちにご挨拶に向かうというのはどうですか?」
妖夢から意外な提案がかかる。なるほど、それは名案かもしれない。…けど、
「良いんスか? 他に見る物とか…」
「いいえ、私は特にないです。 それよりも、紅炎さんのお知り合いの方に興味があるので…」
口調、態度共に、どうやら本心からの言葉であるようだ。
そうであれば、その行為に甘えさせてもらうのが道理と言えよう。
「んじゃ、そうするッス!」
「ひゃっ! うわわっ!」
そうと決まれば善は急げだ。妖夢の手を引き、いつもよりも大きめの歩幅で街道を練り歩き始める。
暫く歩いた先、大きめの民家の軒先に、俺の知り合いの一人がいた。
『焼八目鰻』と書かれた
俺は屋台に近寄り、その人物に声を掛ける。
「みすちー!」
名前を呼ぶ声に反応したその人物は、ピクリと羽を動かしたかと思うと、ゆっくりと此方を振りかえる。
「お客さーん、今は仕込み中なんでお店は午後から…って、紅ちゃん!?」
漸く此方の正体に気付いたのか、ビックリした様子で口に右手を当てるその人物。
正確には、人にはあらず。
彼女の正体は、夜雀の妖怪。その名を、ミスティア・ローレライという。『みすちー』というのは、彼女の愛称である。
幻想郷において初めてであった妖怪であり、俺に弾幕ごっこのノウハウやスペルカードの事等を色々と教えてくれた恩人である。
彼女は人里において、
その味は、里の人々からも高い評価を得ており、売り出した当初から、その人気は文字通り『鰻登り』になっていったという。
そんな彼女の屋台がオープンするのは午後からである。今は、その仕込みを行っていたのだろう。
「久しぶりだねぇ~、あれからもう1月以上は経つけど、元気? 今の生活はどう? 今でもスペカやってる?」
「おかげさまで、今でも元気ッスよ~。 生活の方も何不自由無く…って感じッス。 スペカの方は…あんまり上々とは言えないッスねぇ」
捲し立てるように矢継ぎ早に質問を重ねるみすちー。そんな物量戦法にもめげずに、此方も答えを重ねて行く。
「そっかぁ…まぁ、飛べないからって、何が悪いって訳でも無いんだけどね! …ところで、隣の子はどちら様?」
隣に立つ妖夢の存在に気がついたのか、みすちーがそんな質問をしてくる。
呆気に取られた様子だった妖夢だったが、その言葉にはっとしたような表情になり、慌てて前に身を乗り出す。
「は、初めまして! こ、魂魄妖夢と申しますっ!」
緊張しているのか、上ずった声でそう答える妖夢。みすちー思わず苦笑い。…助け舟を出してやるか。
「俺の奉公先…って言うと変だけど…まぁ、今住んでいる所の従者なんスよ。 真面目で良い子ッスよ?」
俺がそう言えば、みすちーは「あ~…」と納得したように声を漏らす。
「だろうね~、なんとなくそんな雰囲気出てるもん。 宜しくね~、妖ちゃん♪」
「よ、妖ちゃん…」
突然のちゃん呼びに困惑した様子の妖夢。…そりゃあ、そうなるだろうな。俺もそうだったし。
「紅ちゃんのお友だちだから『妖ちゃん』…ダメかな?」
『紅ちゃん』というのは、言うまでも無く俺のあだ名。みすちーは時折、人の愛称として「○○ちゃん」と名付ける癖がある。
“紅”炎だから“紅”ちゃん…シンプルイズベストというか、なんというか…みすちーも中々にフリーダムな所があるな。
「い、いえ! そんな事はないです! 宜しくお願いします、みすちーさん!」
「ぷっ…あははは! みすちーさんって…!」
妖夢の発言に、思わず噴き出すみすちー。あんまり笑ってやるなって、妖夢がオロオロしてるぞ~。…まぁ、俺も吹きそうになったけど。
「いやいや、ごめんね~。 そういえば、私の名前言って無かったもんね。
私の名前はミスティア・ローレライ。 皆からは『みすちー』って呼ばれてるよ~♪ だから…『みすちーさん』って呼んでくれても、全然構わないよ?」
そう言って、みすちーが悪戯な笑みを浮かべる。アレは完全に、新しい
みすちーも案外、Sな面がある…気がする。
「あぅう……もう、つ、次行きましょう! 次ッ!」
顔を真っ赤にして俯いたかと思うと、いきなりそう切り出して、ずんずんと前へ突き進んでいく妖夢。
「あらら~、嫌われちゃったかな?」
「どーだか…そんじゃ、俺もそろそろ行くとしますか」
ああいう手の子は、大抵いじられ慣れて無いんだよなぁ。…まぁ、すぐ復活するだろうし、放っておくか。
それより、妖夢を見失う訳には行かないな。人里は意外と広いから、迷いでもしたら大変だ。…主に、妖夢が。
「あ、もう行く? それじゃね~紅ちゃん」
「おーッス、またなー」
みすちーに別れを告げ、妖夢を追って街道を歩き始める。
妖夢に追いつき、数分程歩いた所で、俺のもう一人の知り合いと出くわす。
手前を歩いている、一人の人物。後ろ向きな為に顔は窺えないものの、見紛う筈も無いその非常に長い白い髪、そして札を模したリボン。
俺は数歩近づき、その人物に声を掛ける。
「もこたーん!」
「誰がもこたんだ! …って、紅炎!?」
俺の呼び掛けに対し、キレのあるツッコミを返したその人物は、俺の顔を見た瞬間、その表情を驚愕に染める。
「誰かと思ったら、アンタだったのね…。 …って、だから私の事を『もこたん』って呼ばないでよ!」
何処か懐かしむような表情を見せたその人物は、直後に頬を膨らませて抗議の声を上げる。
その人物の名は、
彼女は、ここからは少し離れたとある竹林の付近に居を構えて、そこの案内役を務めているらしい。
俺が幻想郷に来た時、一番最初に出会った人間が彼女だ。
この世界でのルールについてや、妖怪の対策等、大事な事はほぼ彼女から教わったようなものだ。
その時、『自分には必要のない物だから』と言って、幾らかの路銀も恵んでくれた。…感謝してもしきれない程だ。
ちなみに、『もこたん』と呼ぶと何故か怒る。俺は良いと思うんだけどなぁ…。
「悪かったッス、妹紅。 それにしても、元気そうッスねぇ」
「ああ、おかげさまでな…。 …ハァ、アンタも全然変わってないわね」
そう言って、溜息を零す妹紅。何か呆れられてるっぽい…。なんでだろうなぁ。
「まぁ、良いわ。 ところで、アンタの隣に居る子は誰かしら? 何か、傍らに変なのが浮いてるけど…」
傍らに変なの…っていうか、半霊を浮かべた妖夢を指さす妹紅。
「…魂魄妖夢です。 あと、変なのじゃ無くて半霊です」
半霊を変なの呼ばわりされた事が癪に障ったのか、妖夢は少し不機嫌そうな態度で答える。
「半霊…? …ああ、半人半霊ね。 という事は、アンタは…」
「お察しの通り、冥界の住人という訳ッス」
『冥界』という単語を聞いた瞬間、妹紅の表情が曇る。
「そうかい…。 …ん、まぁ、久々に顔も見れたし、私はそろそろお暇するわ。 …そんじゃね」
目に見えてそっけない態度になり、そのまま妹紅は何処かへと去って行った。
暫くして、妖夢が口を開く。
「何だったんですか、あの人は…」
先の妹紅の態度が気に入らなかったのか、妖夢は不機嫌そうにそう愚痴る。
「まぁ、色々理由があるんスよ。 あんまし、責めないでやってくれよな」
理由は分からないが、妹紅は老いる事も死ぬ事も無い、不老不死の人間なのだ。
目の前で腕を斬り落とし、その腕が瞬時に復活する様を目の当たりにしているので、その辺は事実である。
死ぬ事の無い彼女は、きっと気が遠くなる程に長い生を歩んできたのだろう。
25年しか生きていない俺からすれば、それがどれ程のスケールなのかなんて、想像もつかない。
…けれど、親しかった人達が、皆自分を置いて逝ってしまうと考えると、きっと辛く寂しい事だろう。
かつての外の世界の隠里の仲間たちの中にも、そういう経験を何度もしてきたヤツがいたから、何となく分かる。
冥界…死せる者達の住まう世界の事を、彼女はどう想っているのか、それはきっと、彼女自身にしか分からない。
ただ、今は現在の生活に満足しているらしい。ならば、俺がとやかく言う事は何も無いだろう。
「紅炎さんがそういうのなら…」
妖夢は、渋々といった口調でそう納得してくれた。
頭では理解できていても、実際それを受け入れられる人なんてのは、少ないと思う。
それが『人間らしさ』なんだと、俺は思うけどな。
------
何だかんだで買い物も済ませ、一気に食料を確保した。
あれだけの量を買える程に資金が潤沢だった事には驚いたが、考えてみれば、あれ程の大きさの屋敷を持っているのだから、資産なんかもそれ相応にあるだろう。最も、何を生業にして稼いでいるのか等知らないが。
「随分買ったッスねぇ…よっと、結構重いなぁ」
大体1月分の食料を積んだ鞄を背負う。正直、よく入ったなと思う。
「あの…やはり持ってもらうのは…」
対して、片手に収まる程度の荷物を抱えている妖夢。
「いや、大丈夫ッス。 この程度なら、問題無いッス」
「そうですか…でも、無理はなさらないで下さいね?」
逆に考えれば、妖夢は普段からこれ位の重さの荷物を一人で抱えているという事になる。
…半人半霊、パネェ。
帰り道は元来たルートと同じだが、より道が無い為に若干スムーズだ。
大きな荷物を抱えている為、物珍しそうに此方を見る視線を幾つか感じる。…そりゃあ、こんなの見かけたら気になるだろうさ。無理もないさ。
大通りに差しかかったところで、『甘味処』と書かれた暖簾が目に入る。
甘い物かぁ…幽々子のおみやげにでも買って行こうかなぁ?持てるかどうかが不安だけど。
『…あぁ、親父さんにもヨロシク言っといてくれ』
そう思っていると、何やら聞き覚えのある声が店の中から響く。
その声の主は暖簾を潜り抜け、店の外へと出てくる。
「んお?」
声の主は、俺が良く知る人物であった。
「あれ、紅炎じゃん! スゲー久しぶりに見たなぁ~!」
「緋月! いや、ホントに久しぶりッスね!」
右側だけ伸ばした赤い髪、体格の良い褐色の男、かつて隠里で共に過ごした仲間の一人、
その性格は熱血家にして自信家、さらに酒好き女好き…まさに『豪放磊落』という言葉がピッタリな男だ。
「そういや、お前アレから何処着いたんだよ?」
「俺? 俺は~…今冥界の方に居るんスよ」
「冥界だぁ? 何だ、お前もうお迎え来たのか?」
「ちげーよ! まだ生きてるっつーの」
勝手に殺されちゃかなわん。俺はまだまだ人生謳歌真っ最中だ。
「にしてもお前、随分とまぁ大荷物じゃねーか。 引っ越し作業でもすンのか?」
「いや、買い出しッスよ。 食料のな」
「それにしたって多すぎじゃねぇ? …まぁ、よく分からんが、お前さんも大変そうだなぁ」
これで1月分だと知ったら、コイツはどれだけ驚くんだろうか。
反応を見てみたい気もするが、あんまり悠長に会話をしていると、また妖夢が暇を持て余しそうだ。
…とはいえ、久々に朋友と出逢えたのだ。少しくらいは語らいたい気分だ。
「そういうお前は、今何してるんスか?」
「俺? 俺ァなぁ、今はお空の上の方に居るんだぜ」
「何スか? とうとう天に召されたんスか?」
「ちげーよ! …と言いたいところだが、強ちその表現も間違って無いんだよなぁ」
「ハァ…まぁ、良く分からんけど、お前も大変みたいッスねぇ」
結論、良く分からん。
「ま、最終的にはそこに行きつくわな。 …ところで、あんまりツレを待たせて良いのか?」
おっと、また妖夢が固まってる。…よくないな、この癖は。
緋月には悪いが、そろそろ帰りを急ぐとしよう。あんまり妖夢を待たせるのもアレだし。
「悪ぃ、そろそろ急ぐッス」
「そうかい。 んじゃま、気を付けてな。 …っと、ああそうだ、ちょい待てや」
そう言うと、緋月は再び店に入って行ったかと思うと、1分と経たずして再び現れる。
よく見れば、その手には何かが入った白い袋のような物を下げている。
「そこの嬢ちゃん…あ~、傍らに何かを連れている嬢ちゃんよォ」
「えっ? あっ、はい!」
緋月が呼びかけると、意識を取り戻したかのようにはっとする妖夢。…本当に意識飛びかけてたんじゃ無いか?
「紅炎の奴が色々世話になってるみてェだからな。 お礼と言っちゃ何だが、受け取ってくれ」
そう言って、緋月は妖夢に袋を手渡そうとする。
「えっ!? で、ですが…」
当然、妖夢はそれを突き返そうとする。見ず知らずの人から貰うのは、流石に抵抗があるわな。
それでも、緋月は更に押しを強める。
「なぁに、気にすんなって。 こういうモンはよ、貰っておいた方がお得なのさ!」
「あっ……あ、ありがとうございます…」
半ば強引な形で妖夢に袋を持たせる緋月。確かに、妖夢見たいなタイプには、押しが重要かもしれない。
荒っぽいっちゃ荒っぽいが、ああ見えていつでも相手の事を思いやっている。人はみかけによらないとは、まさにこの事。
袋の中身を覗いてみると、お菓子の箱と思しき物がいくつも入っていた。
「どーよ? 俺サマはこうして、小さい事から好感度稼いでるのさ…へっへっへっへっ!」
「ハァ…」
小さな所から心遣いというのは良い事だと思う。最も、それを自分から暴露していくのはどうかと思うが。
妖夢は少々呆れた様な表情を浮かべているが、悪い人間だとは思っていないだろう。
不良のような見た目で誤解されがちだが、緋月は別に喧嘩っ早い訳でも、ガラが悪い訳でもないのだ。
少々自己主張が激しいだけで、至って常識人であると俺は思っている。
そうでなければ、こんな心遣いはしないだろう。
幽々子が多く食べることを想定して、かなりの量の菓子折りを持たせようだなんて、考える事もしないだろう。
「そんじゃ、そろそろマジで行くッスよ」
「おお、元気でな。 あのお嬢様にもヨロシク言っといてくれな!」
「はいよ、そんじゃな~。 …ホレ、行くッスよ妖夢」
「えっ? あ、は、ハイ! 失礼します!」
再び意識が飛びかけていた妖夢に声を掛け、その場を後にする。
緋月に逢った事で、他の皆の事も気になり始めていたが…まぁ、いずれまた逢えるだろう。
そう考え、妖夢と共に冥界への帰路についた。
------
気持ち行きよりも速い時間で、冥界へと戻って来た。
大抵の場合、行きよりも帰り道の方が長く感じる物だと思うけど…考えてみれば、この世界で「大抵」なんて通用するようなものでもないな。
長い石段を登り切り、白玉楼の屋敷内へと足を運ぶ。
玄関で靴を脱いで、荷物を抱えて台所へ…その前に『幽々子様に帰宅を告げておきますね』と、妖夢は幽々子の部屋の前で立ち止まる。
「ただ今戻りました、幽々子様」
妖夢がそう呼びかける。だが、襖の向こうからは返事が返って来ない。
普段ならば、間延びした声で『あら、お帰りぃ~』なんて返ってくるものなのだが…ひょっとして、席をはずしているのだろうか?
蔵に荷物を仕舞いに行った後、廊下を渡っていた際、客間の方から誰かの声が聞こえてくる。
二人分の声、一人は分かる。幽々子の声だ。
もう一人は…何処かで聞いたような声だが、普段から聞く声では無い。
襖の隙間からその部屋を覗くと、その声の主が分かった。
境界の妖怪、八雲紫。かつて俺達を幻想郷へと誘った張本人だ。
今は幽々子と二人で、何処か楽しげに談笑をしている様子だった。
…そう言えば、幽々子とは友だちなんだって言っていたな。だとすれば、今はお取り込み中かな?
そう思い退散しようとした矢先、襖の向こう側の気配に気が付いたのか、此方の方に振り返る幽々子。
「あら、もう帰ってたの? もう少しゆっくりしてきても良かったのよ?」
隣に座っていた紫がすっと指で虚空をなぞると、目の前の襖がひとりでに開いた。
手を掛けていた襖がいきなり開いた為に少々バランスを崩し、目の前に膝を突く形となる。
同じ高さにある紫と目が合う。紫は、何処か妖艶な笑みを浮かべて此方を見つめる。
「お久しぶり…かしらね、陽炎の剣士さん? 別に、気を使わなくても構わないわよ」
別に気を使ったつもりは無かったんスけどねぇ…。後ろに立っていた妖夢は、漸く二人の存在に気付いたのか、慌てふためいた様子。
「ゆ、紫様! いらしていたんですか!? す、すみません、すぐにお茶をお持ちしますっ!」
お菓子の入った袋をその場に置いたまま、妖夢は足早に台所へと飛んで行った。
「あらあら、気を使わなくても良いって言ってるのに…」
「しょうがないわよ、あの子の性分だもの」
妖夢の態度に苦笑する幽々子と紫。その様子を見るに、妖夢の生真面目さは周知の事らしい。
「…あら? それは何かしら?」
幽々子が目を向けるのは、床に放置されたままのお菓子が入った袋。
食べ物の類には人一倍敏い幽々子ではあるが、まさか中身が見えない袋に入った状態でも見抜けるのだろうか。
次の瞬間、その袋の真下の空間が裂け、そのまま袋はその空間へと呑みこまれる。
後ろに向けていた顔を前に戻せば、袋は既に紫の手元にあった。…便利だな、スキマワープ。
「これって…里でも有名な、結構高いお菓子じゃない。 わざわざ買ってきてくれたの?」
袋の中身を覗きこんだ幽々子が、少し驚いたような態度でそう問いかけてくる。
どうやら、割と良い値段のする代物らしい。…緋月、随分と奮発したな。今度会ったら、改めてお礼言っとくか。
「ああ、実は…帰り際、里で緋月に会ってな。 俺が世話になってる礼だとか何とか言って、
そう理由を説明すれば、納得が行ったような表情になる二人。
「へぇ、彼がねぇ…。 なんだか、ちょっぴり意外かも♪」
そう紫が呟く。紫は以前にも
「緋月って、前に紫が言ってた人よね? 一体どんな人なのかしら?」
紫経由で緋月の事を知っていたであろう幽々子は、姿も分からぬ緋月に思いを巡らす。
「そうねぇ…まぁ、彼はなかなか面白いと思うわよ♪」
そう言って紫はくつくつと笑う。それに釣られて、幽々子も笑みを浮かべる。
彼女の中での『面白い人間』の定義は分からないが、少なくとも気には掛けているのだろう…多分。
そんなやり取りをしていると、台所の方から足音が聞こえてくる。妖夢の帰還だ。
「それじゃあ、改めてお茶としましょうか?」
「ええ、そうね…」
戻って来た妖夢も交えて、改めてお茶会が催される事となった。
その後、紫も一緒にお昼ご飯を食べ、久方ぶりに3人よりも多い人数で卓を囲む事となった。
やはり友だちと一緒だと会話に花が咲くのか、幽々子がいつも以上によく喋っていた。
紫の方も、何だか楽しげな様子だった。スキマを使って妖夢を弄ってたからかもしれないが。
賑やかな時間も過ぎ、太陽が西の方へと傾き始めた昼下がり。
庭の手入れをしている妖夢を眺めながら自主トレーニングに励んでいた処、何やら客間の方で揉める声が。
何やら気になった為、トレーニングを中断して様子を見に行くと、そこでは案の定何かが起きていた。
9本の大きな尻尾の生えた女性が、畳の上に転がり駄々をこねる紫を見下ろして溜息を吐いている光景を、何と形容すれば良いのか、俺には分からなかった。
「駄々をこねないで下さい、紫様。 ほら、早く帰りますよ?」
「やぁ~だぁ~、かえりたくない~」
「ハァ…。 全く、子供じゃないんですから…」
どうやら、お取り込み中のようだ。見なかった事にして、トレーニングに戻ろう…。
「…あっ! ま、待って下さい! 無視しないでぇ!」
…と思ったが、どうにもそうはいかないらしい。尻尾の女性に呼びとめられてしまった、割と必死そうに。
「な~んスか? …っていうか、どちら様ッスか?」
「あっ…これは申し訳ない。 私は
藍と名乗ったその女性は、丈の長い厚手の袖を合わせ、丁寧にお辞儀をする。中国の道士服のような感じの格好だ。
狐の耳のような形をした帽子、それに何より、後ろの9本の尻尾がが目立つ。少なくとも、人間でない事は確かだろう。
その藍は紫…そこで転がってぶーたれてるスキマ妖怪の式だという。…なんというか、この人からは妖夢やリリカと似た様なオーラを感じる。
「お昼を過ぎても帰らないので、心配して来てみれば…紫様は『帰らない』の一辺倒で…」
それで、今に至る…と。子供か。
「あら、今何か失礼な事考えなかったかしら? 私が子供っぽいだなんて…」
此方の存在に気付いたのか、一変して凛とした態度になる紫。ただし、床に転がりながら。
無理矢理取り繕ったようにしか見えない。というか、実際そうだろう。
「ま、まぁ、その……そうよ、藍。 貴方には、まだやるべき事があった筈よ?」
冷やかな視線に耐えかねてか、唐突にそう告げる紫。…やるべき事とは、一体何のことだろう?
「あっ…!」
そんな紫の言葉を受けて、何かを思い出したかのように口を開く藍。
やっぱり、何らかの仕事を請け負っていたりするんだろうか?
「ふふふ…それじゃあ、ごゆっくりどうぞ♪」
それだけ告げると、紫はそそくさとスキマを開いて何処かへと去ってしまった。
「あっ…また、逃げられた…。 ハァ…全く、あの方は…」
言いたい事だけ言って去っていったな…こりゃあ、式も振り回される訳だ。
…っていうか、『また』って事は、今までにも前例があるって事か。…本当、苦労してるんだろうな。
最も、それぐらいで無ければ、幽々子の友人なんて務まらないのかも知れないけど。
さてさて…紫は『ごゆっくり』と言っていたが、これから何が始まるんです?
「…実は、私は紫様からとある仕事を仰せ付かっているのです」
やっぱり何か命令されていたようだ。さて、それは一体…?
「それは…貴方について、知る事です」
俺について…?何だ、俺の事を調べたりとかするのかな?
「その為に、これから貴方に対して色々質問をさせてもらいたい。
…とはいえ、そんなに踏み込んだ質問をするつもりは無いので、安心して下さい」
質問…ねぇ。まぁ、暇つぶしにはもってこいかな?
「まぁ、良いッスよぉ」
「ご協力、感謝します。 それでは、まず…」
……
…
「…なるほど、分かりました。 質問は以上です。 改めて、ご協力を感謝します」
メモを取る手を止め、質問を終える藍。
質問内容は、至って普通だった。
年齢や血液型といった所に始まり、自分の得意とする戦い方なんかも質問されたりした。
ただ…外の世界に居た頃に関しての質問には、あんまり 答えられなかった。
答えたくない、という訳では無く…何と言うか、記憶が曖昧なのだ。
そこら辺は汲んでくれたのか、それ以上外の世界に関する質問は行ってこなかった。
「…それにしても、そんなこと聞いて、一体どうするんスか?」
そう問いかければ、藍は下を向いて数度首を横に振る。
「今は、まだ言えません。 …ですが、近い将来、必ず役に立つ物です」
なるほど…ここから先は、企業秘密ってヤツか。なら、これ以上は聞かない方が良いだろう。
「…まぁ、良く分からないけど、頑張ってくれッス」
「ええ。 ハァ…やれやれ、紫様は何処へ…?」
そう言うと、藍は何処かに消えた紫を探しに行くのか、ふらりとその場から去っていった。やれやれ…大変ッスね、式。
……
「…んで、今度は何の要件ッスか?」
「あら、つれないわねぇ」
すぐ隣に、スキマから身を乗り出し、肘を突いて微笑む紫の姿があった。
相変わらず、何を考えているのかを掴ませない表情だ。
幽々子と言い、自分の本心を全く表に出そうとしない人ってのは、どうにも苦手だ。
今だって、そうだ。紫は、ただ笑って此方を眺めるばかりだ。言葉に出さなきゃ、本心は伝わらないのにな。
「…ねぇ、今の生活は楽しいかしら?」
紫が唐突にそんな質問をしてくる。何スか、いきなり?…まぁ、楽しいかと問われれば、答えはYESだ。
「そうッスね。 幽々子も妖夢も、良い奴だし…一緒に居て、かなり楽しいッス」
「…そうなの、それは良かったわねぇ」
俺の言葉に対し、満足気に数度頷いて、そう返す紫。
何なんだ…?世間話…という雰囲気でも無いみたいだけど…。
「…大事な話があるの。 …聞いてくれるかしら?」
暫くして、紫がそう切り出す。
相変わらず唐突だが、その表情には、先程までの笑顔は無かった。
とりあえず、俺は頷く。
それを確認した紫は、おもむろに話を始める。
「幽々子が亡霊なのは、貴方も知っているでしょう?」
それは知っている。確か、初対面でそう明かしていたからな。
「本来、冥界は転生を待つ魂達が住まう世界。 普通ならば、亡霊が住んでいるのはおかしい事なのよ。
転生も消滅もする事無く、何故亡霊としての姿を保ったまま、彼女は冥界に存在できるのか…疑問に思った事は、無いかしら?」
…そういえば、そんな感じの話を妹紅から聞いた事がある。
それを考えると、亡霊である筈の幽々子が何故冥界に存在するのか、今更疑問に思う。
紫は、縁側の方に向き直り、庭の奥の方に見える大きな木に向けて指を差す。
「ここからでも良く見えるでしょう? あの大きな木が、ね。
あの木の名前は、『
妖怪桜…という事は、あの桜は意志を持っていたりするんだろうか?
「…あの木の下には、とある人物の亡骸が眠っているのよ。 もう、今から大分昔の事だけれど」
亡骸…?けれど、一体誰の…?
「…あの木の下に眠っているのは、」
―――― ―――― ―――― 。
願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ…
今回は、本文中に挿絵を入れてみました。
図中左の人物が紅炎です。紅炎のイメージは、前話の後書きの方をご参照ください。
日常回…と見せかけての、キャラクター放出回でした。
紅炎が冥界へと訪れる前に、幻想郷で辿った軌跡を地味に紹介してみたり。
みすちー&もこたんとの絡みもありましたが、フラグは別に立たないと思います(予言)
緋月は、この作品のオリ主の1人です。
彼メインの話も、いずれ描く予定ですので、気長にお待ちください。
原作妖々夢の幽々子のキャラ設定を読んでいると、何だか色々と想像が膨らみます。
そして、紫の考えている事なんかも…シリアス路線不可避の予感がしますねぇ。
次回、「西行妖」。更新予定日は、5月21日です。