神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
どうやら、近所のケーブルがメンテナンスを行っていたらしいです。
…唐突に始めるのはやめて欲しいです、マジで。
今回はかなり短めです。大雑把に言ってしまえば、次の章へと続くお話です。
前回のお話から数か月の時が経ち、季節は春を迎えようとしている頃です。
ようやく、物語が動き出します。
-あらすじ-
妖夢と一緒に、お買いものという名の人里巡りを楽しんだ紅炎。
その後、白玉楼に訪れていた紫に話を聞かされる。
西行妖の下に眠っている者は…
冥界における四季は、幻想郷の
春が終われば夏が来て、夏が終われば秋が来て、秋が終われば冬が来て、冬が終われば春が来る。
大地を覆っていた雪は解け、その間から植物が芽を出す。
冬が過ぎ去った事で、冥界にも春の
白玉楼の主である亡霊の少女―西行寺幽々子は、今日も自室にて、趣味の書見を楽しんでいた。
生前より詩歌に興味があったという彼女は、様々な詩人や俳人の記した本を読んでは、自身もまた
ものの数10分程で1冊の本を読み終え、次の本を取り出そうと書架へと手を伸ばした幽々子は、ふと何かに気付く。
そこにあったのは、何時の時代に綴られたとも分からない古い書物。ボロボロながら、その表紙は丁寧に装丁されている。
その書物に興味を抱いた幽々子は、軽く埃を払いつつ、その書物を取り出し、表紙を開く。
書物の中身は、何かの記録のような物だった。
とは言え、何時の物とも分からないような記述である為、幽々子には何を書いてあるのかはさっぱりだった。
その頁には、掠れた文字でこう記されていた。
『富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ。
その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。
願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ・・・』
言葉は、そこで途切れていた。
それでも、幽々子にはその記述が何を意味するのか、察しがついた。
「西行妖満開の時…ねぇ。 あの木の下に、誰かが眠っているのかしら?」
その記録を読む手を止め、縁側に足を運び、遠くに見える西行妖に目を向ける幽々子。
春を迎えても尚、花を付けぬその妖怪桜を見据える彼女の表情には、期待と好奇心が見受けられた。
この世界において、能力を持つ者の存在は珍しくない。
だが、多くは日常の延長線上にあるような、持っていた所で対して何かが変わる訳でもないような、凡庸な物ばかりである。
しかし、彼女の能力は違う。
彼女が持つ能力は、主に「死を操る程度の能力」である。
人であろうと妖怪であろうと、生ある者全てを死へと誘うその力は、あまりにも危険すぎる力である。
そんな彼女の傍に生ける者が存在できるのは、彼女がその能力を完全に制御し切っているからである。
それ故に、余程の事が無い限り、彼女は能力を使おうとはしない。
そんな彼女だからこそ、西行妖の下に眠る者の存在が気になって仕方が無かった。
生き物の『死』を、嫌という程見て来た彼女にとって、何かが『復活』する瞬間という物に、強く惹かれるのだ。
「西行妖…。 あの桜を咲かせる事が出来れば…」
静かに零れた呟きは、春風に乗って空へと溶けて行った。
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ある日の事、幽々子が妖夢と俺に『話があるから、後で自分の部屋に来るように』と声を掛けて来た。
普段は妖夢に何かを命じる事はあっても、俺単体を呼び出す事なんてのは稀有だ。最も、大抵の場合は無理難題を押し付けられるだけだったりする訳だが。
きっと、また何か厄介事でも押し付けられるんだろうな…。そう思いながら、俺は幽々子の部屋へと向かった。
「良く来たわね、二人共」
襖を開けた瞬間、良い笑顔で幽々子に迎えられる俺達。
いつも笑みを浮かべている幽々子ではあるが、今の彼女は、普段よりも何処か楽しげに見える。
「幽々子様、話とは一体…?」
傍らに立つ妖夢が幽々子に対して疑問を投げかける。
幽々子は、変わらず笑みを浮かべたまま、数歩歩いて妖夢へと近づく。
「貴方は、『春』って何だと思う?」
妖夢の顔を覗き込みながら、そう問いかけてくる幽々子。
「春…ですか…? それは当然、季節の事では…?」
きょとんとした表情でそう答える妖夢。
俺も妖夢と同意見だ。…というか、季節以外での春という物が存在するだなんて、聞いた事が無い。
妖夢の答えを聞くと、その言葉を想定していたかのように、袖口から何かを取り出す幽々子。
「こういうものを、見た事は無いかしら?」
幽々子が取り出したのは、手のひらに収まる程度の大きさの小さな正方形の物体。
半透明な薄いピンク色をした結晶のような物の中心には、桜の花びらと思しき物体が埋め込まれている。
その物体は、近くにあるだけで何処か温かさを感じさせた。
「幽々子様、これは一体…?」
食い入るように見つめていた妖夢がそう口を開く。
「これは…『春』よ」
幽々子は、何の気無しにそう告げた。春…?この四角いのが…?
その発言の意図が掴めず、妖夢も思わず唸り声を上げている有様。…ひょっとして、またからかっているのか?
「まぁ、疑問に思うのも無理無いわね。 普通、誰もこれを『春』だとは思わないもの。
…けれど、これは紛れもない『春』なのよ。
正確に言うと、『春のほんの一部』に過ぎないんだけれどね。
この冥界や幻想郷において、始まりを象徴する季節である『春』の齎す力は絶大なもの。
その強力な力を、こうして結晶の形にして切り取った物…それが、この『春』の結晶なのよ」
幽々子の口調は、真剣そのものだった。嘘偽りなど、欠片も感じ取れない。
その話から察するに、この世界における『季節』というものは、概念だけでなく『結晶』として形にも現れ出る物のようだ。
…だとすると、秋ならば紅葉、冬ならば雪…といった感じになるのだろうか?その辺はよく分からない。
妖夢の方も、幽々子の説明に納得がいった様子で、小さく何度か頷いた。
「…それじゃあ、そろそろ本題に移るわ」
俺達が理解したのを確認したのか、幽々子がそう話を切り出す。
「貴方達に、この『春』を集めてきてほしいの」
『春』を集める…とは簡単に言うが、果たして『春』というのはその辺に転がっていたりするものなんだろうか?
「そんなに難しく考えなくても良いわよ。 この時期なら『春』は至る所にあるから、すぐ分かるわ」
面食らった様子の妖夢と、俯いて考え込む俺を見てか、幽々子がフォローに入る。
すぐ分かる…のか?という事は、やはりあの結晶の姿で転がっているという事なんだろうか…?
「…とはいえ、もう冥界中の『春』は集まってしまったわ。
それでも、まだまだ全然足りないの。 だから、幻想郷まで行って、『春』を集めてきて頂戴」
幽々子が言うには、どうやら冥界にも『春』は散らばっていたらしい。
それらを以てしても足りないとなると、最終的にはやはり幻想郷位しか選択肢が無い。
「それは良いのですが…どうして、『春』を集めようと…?」
『春』を集める事を疑問に思った妖夢が、そう幽々子に尋ねる。
質問をした妖夢をちらりと垣間見た後、窓から外の庭の方を見つめる幽々子。
その視線の先にある、未だ花を咲かせぬ巨大な桜の木を見つめながら、幽々子は静かに答える。
「西行妖を、咲かせる為よ」
……やっぱり、そういう事か。
「西行妖を…?」
『意外だ』とでも言いたげな表情で、妖夢がそう尋ねる。
「ええ、そうよ。
あの木が満開の花を咲かせる光景を、一度でいいから見てみたいのよ」
「そうなんですか…」
「そういうことよ。 …それじゃあ早速、行ってらっしゃ~い♪」
ひとしきり説明を終えた幽々子は、俺と妖夢の背中を押して、部屋の外へと押し出す。
そのまま、どういう訳か俺も幻想郷へ行って春を集める流れになっていた。
…いつか、来るだろうとは思っていたが…それが今だなんてな…。
「全く、幽々子様は強引です…。
…仕方ありません、頑張りましょう紅炎さん。 ……紅炎さん?」
「…えっ? あ…あぁ、そうッスね!」
妖夢が声を掛けている事に気が付かず、慌ててそう返す。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題無いッス」
心配そうに顔を見上げてくる妖夢に、とりあえずお決まりの台詞を返しておく。別に、フラグでは無い。
…けど、本当に大丈夫なのかと言われると、YESとは言えないな。
「…やっぱり、私一人で行かせてもらいます」
暫く考えるように俯いていた妖夢が、顔を上げてそう告げる。
「えっ? いや、別に俺は…」
ひょっとして、気を使わせたか。弁明しようとするも、妖夢に手で制される。
「無理は良くないです。 前に、そう自分で言っていたじゃないですか。
私は、一人でも大丈夫ですよ。 だから、紅炎さん…今は、ゆっくり休むべき時なんですよ」
過去の自分の発言を引用されては、ぐうの音も出ない。
…やっぱり、気を使わせてしまったのもしれない。無理をしているつもりは、無いんだけどな…。
「…紅炎さん。 何か、辛い事や悩んでいる事があったなら、いつでも私に相談して下さいね?
貴方はいつだって、私の悩みを聞いてくれた。 …だから私も、貴方が悩んでいる時には、力になりたいんです」
そんな言葉をかけてくれる妖夢。…相談できたら、どれだけ楽なんだろうな。
「…ああ、サンキューッス。 んじゃ、その時が来たらお願いするッスよ」
「ふふ…では、行って参ります」
そう言葉を返してやれば、妖夢は安心した様子でそう返事をする。そして、石段を蹴って、幻想郷へと続く道まで飛んでいく。
普段は、飛べない俺に合わせているのか飛行は行わないが、今回は普通に飛行していった。便利だな。
…さて、残された俺はどうすればいいのやら。
……本当に、どうすればいいんだろうな、俺。
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…
……
『…あの木の下には、とある人物の亡骸が眠っているのよ』
『もう、今から大分昔の事だけれど…この白玉楼には、一人の人間のお嬢様が住んでいたの』
『その昔、大層名を馳せた歌聖の一人娘だったそのお嬢様は、自身も歌人として人生を謳歌していた』
『けれど、その少女には、人とは違う不思議な力が備わっていた』
『現世に留まり、
『そう…いつしか彼女の力は、生ける者達を死へと誘うものへと変わっていったの』
『人を容易く死へと誘ってしまう自身の力を疎み、悩み苦しんだ末に…彼女は、自ら命を断った』
『あの桜…西行妖の元で、ね』
『…そう。 あの木の下に眠っているのは、そのお嬢様…つまり、生前の西行寺幽々子よ』
『彼女が亡霊として冥界に留まっていられるのは、その西行妖の力が原因よ』
『強い想いを残したまま果てた彼女の力によって、西行妖は更なる妖力を得た』
『その結果が、
『強い封印によってこの地に縛られた幽々子は、消える事も転生する事も無い』
『けれど、もし…その西行妖の封印が解けてしまったら…』
『もし、再び満開の桜を咲かせてしまったら…』
『止まっていた
『再び、彼女は死んでしまう』
『…西行妖が再び花を咲かせる程の春が必要となると、当然幻想郷にも影響は及ぼされる』
『そうなれば、それは異変となって、当然博麗の巫女も動く事になるでしょう』
『…けれども、今彼女は手傷を負い、療養している最中』
『もし、春が訪れる前に治らなかった時は、動ける人間はごく限られてくるわ』
『…そうなったら、止められるのはきっと、貴方しかいないわ』
『私は…貴方を信じたいのよ、紅炎』
……
…
脳裏に浮かんでくるのは、あの時交した紫との会話。
あの時紫が俺に告げた言葉が真実なら、もし春が集まって西行妖が満開になってしまったら…。
だけど、もし止めようとすれば、それは幽々子の期待を裏切る事になる。
かといって、真実を告げる訳にもいかない。…結局、俺には何もできない。
何故あの時、俺に真実を告げたのか、その意図が分からない。
俺なら西行妖の開花を阻止できると思ったから?それとも、何か先んじて対策を打てると思ったから?
…どちらにせよ、買い被りが過ぎる話だ。
紫のように頭が良い訳でも、みすちーや妹紅のように弾幕勝負に強い訳でもない。
出来る事なんて、せいぜい炎を飛ばすか、剣を振るう事くらい。
…西行妖を止める事なんて、俺には出来ない。
俺の能力で、その木を燃やさせでもするつもりだったのだろうか?…いや、それはない。
西行妖に封印されているという事は、その西行妖が消えてしまえば、彼女を縛る物も同時に消えてしまい、結果は変わらない。
そうなると、やはり俺に出来る事は何もない。
『貴方を信じたい』…だなんて言われても、俺はその期待に応える自信が無い。
…けれど、このまま黙って行く末を見守る事なんて、出来る訳が無い。
このままじゃ、本当に幽々子が消えてしまうかも知れないんだ。
白玉楼に来てから今までの生活は、毎日が彩りに満ち溢れた新鮮なものだった。
妖夢と御前試合をしたり、その後はトレーニングに勤しんだり、プリズムリバー三姉妹と弾幕ごっこをしたり…。
…思えば、色々と忙しい日々が続いたものだ。
けれど、その生活を苦に感じた事は一度たりともありはしない。
その日常には、いつだって傍らに妖夢がいて、いつでも笑っている幽々子がいたからだ。
あの時、幽々子の計らいが無ければ、俺は今でも根無し草のままだっただろう。
俺はいつだって、幽々子に助けられたり、支えられたりしていた。
いつの間にか、俺に取って幽々子は、掛け替えの無い存在になっていった。
そんな幽々子がいなくなってしまう…絶対に、あの木を満開にはさせてはいけない。
けど……
「…俺に、どうしろって言うんだよ」
目の前に
我ながら、普段の自分らしからぬ言葉だ。けれど、そう呟かずにはいられかったのだ。
…そういえば、こうやって何か悩みを抱えたりするのって、初めての事だな。
だからだろうか…その重さに押し潰されそうになっている自分がいる。
誰かに相談すれば、多少は軽くなるんだろうか…。 …誰にだよ、ったく…。
「…クソッ!」
焦燥と苛立ちを紛らわすように、目の前の巨木の幹に拳を叩きつける。
…右手に伝わる衝撃で、多少は思考が冷静になった。
焦ったって仕方が無いのは、理解できる。…けれど、俺に一体何ができるんだ?
結局、俺じゃ……
『……ねぇ、聞こえている?』
不意に、誰かの声が頭の中に響く。
頭に直接語りかけてくる…?一体、誰が…?
『貴方には、この声が届いているのね。 よかった…』
辺りを見回していると、更にそんな声が続く。
その動作を見て『聞こえている』と判断したという事は、この近くにいるんだろうか…。
『怖がらないで…私のことは、貴方も良く知っている筈よ』
俺が良く知っている人…?でも、この場には俺と西行妖位しか…
…もしかして、この声の主は…
『…あの子、とっても楽しそうよね。
亡霊といったって、普通の人間の女の子と、全然違わないわ。
…本当に、楽しそうだわ』
…羨ましいんスか?
『羨ましい? …そうね、確かに、少し羨ましいかもしれない。
…けど、それ以上に、嬉しいの。 幸せそうなあの子の顔を見ていると、とても嬉しい気持ちになるの』
嬉しい気持ち…?
『私だけじゃないわ。 皆も、いつも笑顔じゃない。
従者の子も、貴方も…あの子と一緒に居る時は、いつも笑顔でいる。
…私も、貴方も…皆、あの子の事が好きなのよ』
好きだから…か。確かに、そうなのかもしれないな。
主従だとか、師弟だとか…そんなんじゃなくて…。…そう、例えるなら『家族』のよう。
深い絆で結ばれている…って、言うんスかねぇ。
『この桜が満開になったら、あの子は消えてしまう。
そうなってしまったら、皆悲しむわ。 貴方も、従者も、私も…紫も、きっと…。
…そんなの、イヤでしょう?』
それは…イヤだ。
俺は、幽々子を失いたくない。
『そう、自分の気持ちに正直になりなさい。 自分にはできない、なんて…考えないで。
…私は、貴方を信じているわ』
できるできないじゃない…か。俺が言った言葉、言われちまったな。
『…大丈夫。 貴方なら、きっとできるわ。
太陽みたいに眩しい、貴方の笑顔に、
……悩んでいるのは、俺らしくないな。
なら、俺のやる事は一つだ。
決心は固まった。期待されたなら、答えるっきゃ無いからな。
『うふふ…とっても頼もしいわ。 期待してるわね、陽炎の剣士さん♪』
ああ、しっかり見ておけよな。俺の活躍をな!
たとえ西行妖が目覚めようとしても、俺は止めて見せる。
できるかどうかなんて分からない。ただ、俺はやるだけだ。
妖夢には悪いけど…まぁ、運が無かったと諦めてもらおう。
幸い、アイツは無茶ぶりには慣れてるからな。
博麗の巫女が来なけりゃ、俺が異変を解決するまでだ。
俺の一人舞台…そう考えると、何だか楽しみになって来たッス!
「さぁ~て…燃えて来たッスよぉ!!」
さぁ、春よ来い。
必ず最後は、大団円にしてみせる。
どこまでもポジティブな彼だって、人並みに悩むんです。
それでも、決してめげない芯の強さ、それを彼女らは信じているんでしょうね。
たとえ困難な状況におちいっても、その中に楽しみを見出す。
それこそが、紅炎という男なのです。
ここまで続いた紅炎編は、一先ず終了となります。
次回以降は、再び柴芭が主人公となります。
霊夢ら異変解決者の側にいる以上、彼の出番は必然的に多くなりますね。
次回以降も、気長に見て頂ければ幸いです。
次回更新は、5月24日を予定しております。今度はちゃんと間に合わせてくれよ~…?