神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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新章突入、原作でいえば妖々夢の開始でございます。
主人公の視点は再び天月柴芭へと移ります。

導入はかなり短め、所謂プロローグという訳です。
主人公の一人称視点でお送りします。


冬が過ぎ去り、何度目とも分からぬ春がまた訪れる…筈だった。
降り頻る雪、花開かぬ桜、終わらぬ冬の異変が始まる…。



春雪異変
☆白銀の春


この世界へと訪れてから、もう半年以上が経った。

 

最初は勝手が分からず、右も左も分からない日々が続いていた。

けれど、霊夢達と出逢えた事で、オレは次第に、この幻想郷というものを知っていった。

周りはどう思っているのか分からないが、オレ自身は、この世界に溶け込んでいる…と思う。

 

夏があっという間に終わり、長いようで短い秋が過ぎ、退屈な冬が去り、季節は春だ。

春になれば、桜の花が咲き誇り、雪の下から新芽が顔を出し、全てが温かな空気に包まれる。

 

…春が、オレの好きな季節だ。

 

夜の空を照らしていた月が西の空へと沈み、東の彼方から太陽が顔を出す。

今日もまた、いつもと変わらぬ朝が幻想郷に訪れる。

 

眠たい目を擦り、縁側へと足を運んだオレを出迎えたのは、

 

「…寒い」

 

境内いっぱいに広がる、真っ白な雪の絨毯(じゅうたん)だった。

 

 

…もう一度言う、季節は春だ。

嘘偽りでは無い。カレンダーでの今日の日付は4月2日、エイプリルフールは昨日だ。

 

本来であれば、既に雪は溶け、温かな空気に包まれている筈だ。

だのに、今目の前に広がる光景は、その真逆の状態だ。

 

桜の木に花は咲かず、新芽は顔を出さず、大地は雪に覆われ、空は冷たい空気に包まれている。

極めつけに、その雪は未だに降り続いている。分厚い雲に覆われた空が、ずっしりと圧し掛かってくるような威圧感を放っている。

 

誰の目に見ても、春とは言えない状態だ。

…というより、これは冬だ。

 

…何故、未だに冬が続いているんだ?

ひょっとして、この世界での冬の季節は、外の世界よりも長かったりするんだろうか?

 

「あ゛~…寒いっ!! いつまで続くのよこの冬はっ!」

 

…いや、それはないな。

そうであれば、オレの横で霊夢が怒号を上げる理由が無い。

 

霊夢は、かつて夏に起きた紅霧異変…つまり、レミリアが起こした異変の時に大怪我を負った。

あれから、仕事の合間を縫って咲夜が看病に来てくれたり、レミリアが従者と兄を伴って見舞いに来てくれたりもした。

…皆にも、感謝だな。

 

その怪我は冬頃には既に完治していたが、怪我が治るまでは霊夢は完全に安静にしていた。

怪我が治った後もリハビリが続いていた為、悪い妖怪の退治等はオレが代わりに行っていた。

 

その為、霊夢は3ヶ月近くのブランクがある。

戦いの勘を取り戻すまでは、妖怪退治等の仕事にもかなり支障が出る。

 

…そんな中で、この長い冬だ。

 

霊夢はきっと異変認定し、自ら解決に乗り出そうとするだろう。…『寒いから』、という理由でな。

 

「これは確実に異変ね。 元凶を探し出して、とっとと冬を終わらせましょう。 いい加減寒いから」

 

…正解だった。別に嬉しくもないが。

 

いくら霊夢とは言え、未だ完全に勘を取り戻せていない今、異変解決に乗り込むのは無謀では無いか…?

 

 

『全く、貴方は相変わらずのようね…』

 

境内の方から、霊夢の物とは違う声が響く。

 

雪の上を踏み締め、此方へと近付く人影が一つ。

かつて刃を交した相手、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜の姿が、そこにはあった。

 

季節故か、その装備も冬仕様となっている。

以前見た時は半袖だったメイド服は長袖になっており、薄桃色の傘を差し、降り注ぐ雪を防いでいる。

 

「誰かと思ったら、屋敷のメイドじゃないの。 何か用かしら?」

 

下を向いていた霊夢が顔を上げ、咲夜に向けてそう問いかける。

 

「貴方がこたつで寝てないk……一応、経過を見ておこうと思ってね」

 

開いていた傘を閉じ、体に降った雪を払った後、霊夢の隣に腰掛け、おもむろにそう答える咲夜。

何か言い直したような気もするが…まぁ、いいか。

 

「別にこたつで寝ちゃいないし、体の方も問題無いわ。 それに、どっちかというと…」

 

そこまで言いかけた霊夢が、不意に後ろの方を指差す。

 

「こたつで寝ていたのは、コイツの方よ」

 

その指が差す方向には、魔理沙の姿があった。

 

何故、魔理沙が神社にいるのか、それを先に説明しよう。

昨夜の事、魔理沙が霊夢の元に見舞いと称して、上等な酒を担いでやって来た。

軽い宴会騒ぎになった後、動くのが億劫(おっくう)になった魔理沙は、そのまま家に泊る事になり、今に至る…という訳だ。

 

霊夢の言から察するに、どうやら魔理沙はこたつで寝ていたようだ。

そして、起き抜けに朝一番で風呂にでも入っていたのだろう。頭の上にタオル乗せているし。

 

「しょうがないだろ~、起きるのが面倒だったんだよ~」

 

霊夢の言葉に、気だるそうにそう答える魔理沙。

流石に、もう昨日の疲れを引きずってはいないと思うが…。

 

「…まぁ、いいわ。 それより、そろそろ支度しないと」

 

そう言うと、霊夢は立ち上がって、そのまま部屋の奥へ移動し、戸棚を漁り始める。

 

「支度? 何のだ?」

 

魔理沙が尋ねると、漁る手を止め、振り返る霊夢。

 

「決まってるでしょ。 異変解決よ、異変解決。 この冬を続けているヤツを倒しに行くのよ、今から」

 

どうやら、今から異変解決に行くつもりらしい。

再び戸棚を漁り始めた霊夢を、やや呆れた様な表情で魔理沙が見つめている。

 

「それはやめた方がいいわ」

 

そんな霊夢を制止する言葉を投げかける咲夜。

ピタリ、と霊夢の手が止まり、不機嫌そうな表情を浮かべる顔だけを咲夜の方へと向ける。

 

「怪我はもう治ったとは言え…貴方、まだリハビリ中でしょう? そんな状態で、異変解決なんて出来ると思うの?」

 

咲夜がそう言葉を続けると、霊夢が更に不機嫌そうな表情になる。

…俺としても、同意見だがな。

 

「これだけの現象を引き起こせる存在、幻想郷広しと言えど、そういないわ。

そんなヤツを、今の貴方で相手に出来るとは、私は思えないわ」

「うっ…」

 

文句の一つでも言おうとしたのか、おもむろに口を開きかけた霊夢だったが、重ねて紡がれた咲夜の言葉の前に黙り込む。

 

確かに、咲夜の言う通りだ。

霊夢には、絶対的とも言える位に鋭い、天性の勘の良さがある。

けれど、今はどういう訳か、その勘が全く働いていない状態にあるようだ。

 

その上、弾幕ごっこにおける戦いの勘も完全に取り戻せていない。

そんな状態では、いざ敵との戦いになった時、勝てる見込みは少ないのが現状だ。

 

…けれど、それで霊夢が引き下がるとも思えない。

 

「フン、問題無いわ。 私に掛かれば、そんな敵の1人や2人…きゃっ!?」

 

腕を組み、得意気な表情でそう言いかけた霊夢の額に弾幕がクリーンヒット。

弾幕を放ったのは…魔理沙のようだ。いつの間にか、普段の帽子を被っている。

 

「やれやれ…そんな弾幕の1つや2つかわせないようじゃ、こりゃ異変解決なんて無理だぜ」

「うぅ…」

 

額を抑える霊夢を見下ろしながら、呆れた様な表情を浮かべ、そう投げかける魔理沙。

 

「魔理沙に同意。 …貴方は、もうしばらくリハビリに専念していなさい」

 

魔理沙の言葉に、咲夜が同調する。

対する霊夢はというと、すっかり縮こまってしまい、こたつの中に潜り込んでいた。

 

「…けど、それなら誰が異変解決に行くって言うのよ」

 

少し不貞腐れたような表情を浮かべ、吐き捨てるようにそう言う霊夢。

 

確かに、そこが問題になる。

異変が起きた時、解決する為に動ける人間と言ったら、博麗の巫女位しかいない。

その巫女が動けないとなると、異変解決に赴ける人間がいなくなってしまう。

…まぁ、魔理沙という例外はいるがな。

 

「その点に関しては問題ないぜ。

この霧雨魔理沙様と、そこの咲夜、そして柴芭がいるからな」

 

いつの間にか、異変解決に向かうメンバーに咲夜が組み込まれていた。…無論、オレも。

 

「…私も行くの?」

 

いきなり名前を挙げられた咲夜は、困惑半分不満半分といった様子だ。

 

「あぁ、そうだ。 なるべく人数はいた方がいいからな。

…どうせ、今日はお嬢様から休暇でも貰ったんだろう?」

 

魔理沙がそう言うと、咲夜は少しだけ考えるように黙り込んだ後、静かに答える。

 

「…まぁ、正解よ。 ただし、お嬢様じゃ無く、旦那様の配慮ですけれどね」

 

旦那様というと…あの人(ジーク)か。割と、従者想いな所もあるんだな。

…とはいえ、あの人のことだ。咲夜の事を『従者』として等見てはいないだろう。

 

魔理沙と咲夜のやりとりを見ていた霊夢は、少し間をおいた後、口を開く。

 

「…咲夜は分かるけど、柴芭も? 大丈夫なの…?」

 

…冗談というよりも、割と本心で心配してそうだ。

幻想郷に来て大分経ったとはいえ、未だ弾幕ごっこに関しては、咲夜や魔理沙と比べれば素人に近い。

 

けれど、オレも唯何もせずにこの冬を過ごしてきた訳ではない。…が、説明が面倒だ。

 

「霊夢、お前は知らないだろうけどな…柴芭はこの冬の間、かなり特訓を重ねて来たんだぜ?」

「えっ?」

 

オレが説明するのを面倒臭がっていると、代わりに魔理沙が説明を始める。

それに対し、霊夢は心底意外そうにそう声を上げる。…まぁ、霊夢には特に教えていなかったからな。

 

「忘れたのか? 一体誰が、お前の代わりに妖怪退治を請け負ったのかをさ」

 

魔理沙の言葉に、少しだけ目を見開く霊夢。

 

妖怪退治…まぁ、大半は大した事の無い木端妖怪相手だったから、そこまで大それた事では無いと思うが。

スペルカードルールは浸透してきているとは言え、まだまだ雑多な妖怪には知れ渡っていないようだ。

 

肉弾戦ともなると、大抵の場合。有利になるのはオレの方だったがな。

 

けれど、弾幕ごっこで戦う相手も、中にはいた。

当然、弾幕ごっこの歴は相手の方が上になる。…正直、かなり苦戦を強いられた戦いもある。

 

だが、お陰で鍛えられたという実感はある。

…少なくとも、紅霧異変の時に比べれば、実力はついたと言えるだろう。

 

「私も、彼の力は知っているわ。 貴方程では無いと思うけれど、実力的には申し分無いんじゃないかしら?」

 

魔理沙の言葉に重ねるように、咲夜が横から言葉を挟む。

…ベストコンディションの霊夢の強さは良く知っている。正直、勝てる気がしない。

 

 

暫く顔を伏せて考え込んでいた霊夢が、漸く顔を上げる。

 

「…仕方ないわね。 わかったわ、アンタらに任せる」

 

渋々といった口調で、霊夢は異変解決への挑戦を辞退する旨の言葉を告げた。

 

「よし、任せておけ! そうと決まれば、早速出発だな!」

 

そう言って笑う魔理沙。…今すぐ行くつもりか?まだ準備が整っていないんだが…。

 

「貴方も大概ね…。 貴方が良くても、柴芭はそうもいかないでしょう」

「あ、そっか…。 それじゃあ、柴芭の準備が済んだら行くか」

「別に、焦らなくて大丈夫だからね」

 

焦ってはいないが…まぁ、いいか。さっさと済ませよう。

 

 

 

ものの数分で、準備は整った。

 

スペルカードの確認を済ませ、いつから持っていたのかすら覚えていない、不思議な色合いの刀身を持つこの短剣を腰に携え、防寒用に愛用のジャンバーを羽織る。今は冬なので、袖は捲らない。

 

 

身支度を済ませて、真っ白な絨毯に覆われた境内へと出ると、既に魔理沙と咲夜が待機中だった。

 

「さてさて、これで全員そろったな」

 

普段とは違い、長袖の魔女服に身を包んだ魔理沙。マフラーも相まって、温かそうだ。

右手に箒を構え、左手には八卦炉を握っている。…やる気は十分、という訳か。

 

「それじゃあ、そろそろ出発しましょうか」

 

ナイフの手入れをしながら、そう声を掛ける咲夜。こちらも、気合い十分のようだ。

首に巻いたマフラーが血のように紅い色をしているのは、やはり主の趣味なんだろうか。

 

二人の元へ行く為に、一歩足を前に出し、歩み寄ろうとする。

 

 

「柴芭」

 

一歩前に出た瞬間、後ろから霊夢の声が響く。

振り返れば、わざわざこたつから出た上で、此方を見送るべく縁側へと出ていた。

 

「…がんばりなさいよ」

 

そうぽつりと呟くと、そのまま霊夢は部屋の襖を閉めた。

恐らく、体が冷えたから、再びこたつへ潜り込むのだろう。

 

「やれやれ、こりゃさっさと解決させないとな」

 

霊夢の様子を後ろから見ていた魔理沙がそう呟く。

 

「ああ…」

 

オレとしても、いつまでも春が訪れないのはイヤだからな。…満開の桜の木を見てみたい。

 

 

そうして、オレ達は境内から飛翔し、魔法の森の方角に向けて飛び始めた。

手掛かりを探すのなら、そこがうってつけとは魔理沙談。

 

…霊夢の代わりに、なれるだろうか。

まぁ、とにかく精一杯、やってみるか。

 

 

…待っていろ、異変の元凶。

 

 

 

 




冬の寒さを乗り越えて、春の温もり取り戻せ。


導入という事で、かなり文字数少なめでお送りいたしました。
普段の半分近くしか無いと、かえって新鮮に感じるものですねぇ。

さてさて、相変わらずこの主人公は無口です。
本文中で台詞が2つしか無いことからも、その辺は窺えるかと思います。
モノローグ(+地の文)ではかなり喋るんですけどねぇ。

今回の異変は、霊夢無しでの挑戦となります。
いきなり主役が降りましたが、霊夢の出番は後ほども用意しておりますのでご安心を(?)


次回、「マヨヒガの黒猫」。黒幕の出番?タイトルから察してください。
5月27日、登校…投稿予定です。



---おまけ---
今回の章の主人公、柴芭の絵を描いてみました。ペイントツールはsai。


【挿絵表示】


細い瞳孔を持った灰眼、目付きが鋭く見えますね。
腕や頬に刻まれた刺青は、それぞれが龍の部位の一部を表しています。
所持している短剣は、刀身が青や紫に見える不思議な代物。いつ作られたのかは分からない。

黒地に赤いラインの入ったTシャツの上から、ファー付きの黒いジャンバーを羽織っています。その下には、普通のジーパン。
ベルトのバックルのデザインは、『珠をくわえた龍』の意匠が凝らされています。


刺青を除けば、割と普通の外の世界的ファッションだと思います。

他のキャラクターのイラストも、時間がある時に描いております。



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