神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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リアル忙しかった為に、投稿が遅れました。
もうすぐ資格の検定が待ち構えているので、しばらく投稿が滞るかもしれません。
好きな小説を見て回る時間が足りない…。リアルが忙しいのは、喜ばしい事なのだろうけれど…。


-あらすじ-
森で出会ったくろまくさんは、何処か意味深な言葉を残してて去っていった。
霧の中で路を見失い、気が付けば、彼らはマヨヒガへと誘われていた。
そこに住む化け猫を片付けた咲夜は、他の二人から少し引かれた。



☆ブクレシュティの人形師

再び立ちこめた霧が晴れると、そこには雪景色があった。

マヨヒガに迷い込む直前までの、湖付近の森の中と同じ景色である。

 

己が体を刺し貫くような寒さを感じた瞬間、彼らは元の場所に戻って来たのだという事を認識した。

 

「あ~…さっきまでいた場所がもう恋しいな」

 

(かじか)む手に息を吐きかけながら、魔理沙がそう呟く。

彼らが今までいたマヨヒガは、今いる場所とは違って、吹雪もなく穏やかな気候であった。

急激に変化した天候に順応し切れなかったが故か、思わずそんな愚痴を零したのだろう。

 

「それよりも、私は春が恋しいわ。 さっさと異変を終わらせに行きましょう」

 

緩んだマフラーを巻き直し、尚も雪を降らし続ける暗雲を睨みつけながら、自分自身に言い聞かせるようにそう言う咲夜。

 

「そうだな。 さて、それじゃ改めて魔法の森に進路をとるぜ」

 

咲夜の言葉に答えるかのように魔理沙がそう告げ、魔法の森のある方角へと顔を向ける。

視線を向ける途中、視界に映った柴芭に気付き、魔理沙は柴芭の方へと向き直る。

 

「なんだ、随分暇そうだな? …心配しなくても、お前の出番はすぐに来るさ」

 

自身の上着の襟にあるファーを弄る様子が、魔理沙には暇を持て余しているかのように映ったのだろう。

最も、彼にしてみれば、羽毛の間に混じる雪を取り払っていたに過ぎないのであるが。

 

魔理沙の言葉が自身に対して向けられた物であると気付いた柴芭は、とりあえず頷き返しておいた。

 

「…うん。 じゃあ、行きますか」

 

柴芭の反応を見た魔理沙は、そう告げて彼らに背を向ける。

魔理沙を先頭に、再び彼らは魔法の森に向けて飛行を始めた。

 

 

 

 

数分と経たぬ内に、彼らは魔法の森へと辿りついた。

 

一見何の変哲もない森だが、そこは人間にとって害を成す要素が多数ある。

有毒な胞子を持ち、食すると幻覚作用が生じる恐れのある茸や、濃密な魔素を含んだ瘴気等により、普通の人間であれば立ち入る事すら難しい。

 

また、この魔法の森では、時折幻影が見える事がある。

魔法の森に群生する茸には魔素が含まれており、胞子に交じったそれらが空中に霧散し、辺りに立ちこめる瘴気と合わさる事により、何も無い筈の場所に幻影を生じさせるのだ。

 

そんな魔法の森に居を構える魔理沙が、何故正気を保っていられるのか。

 

その理由は簡単、彼女が『魔法使い』だからである。

魔力の適性を持つ彼女には、魔素に対する強力な耐性がある為、普通の人間とは違い、この魔法の森にいても何ら影響を受ける事は無いのだ。

 

最も、種族としては『人間』である為か、完全に魔素による影響が無い訳では無い。

しかし、日常生活を送る上で支障を来すレベルでは無い為、彼女は気にも留めていない。

 

 

魔法の森の瘴気が目に見えるレベルになった辺りで、咲夜は口元を押さえて顔を顰める。

 

「うっ…やっぱり、ここは酷い瘴気ね」

 

『時を止める』という、規格外の能力を持つ咲夜ではあるが、彼女は普通の人間である。

故に、魔力の適正など存在しない。彼女にとって、この魔法の森は、近づく事さえ(はばか)られる魔境に等しい。

 

それを察してか、魔理沙が咲夜に声を掛ける。

 

「魔力の無い人間には厳しい場所だからな…無理に近づく必要は無いさ。

それこそ、私だけ行って、情報を得てくるのでも良いワケだからな」

 

魔法の森に住まう者にアテがあるのか、少しだけ得意気にそう告げる魔理沙。

その言葉に小さく頷いた咲夜は、一つ(まばた)きをした後、隣にいる柴芭に目を向ける。

 

自身と同じ人間であろう筈の柴芭は、辺りに立ち込める瘴気に晒されても何ら影響が無いのか、平然とした様子で立っていた。

 

「…貴方、気持ち悪くならないの?」

 

そんな柴芭に驚いたのか、目を丸めてそう問いかける咲夜。

 

「…特に、何も感じない」

 

返って来たのは、その問いを『是』とする旨の答え。

 

人間であろう彼が何故魔法の森の瘴気の影響を受けないのか、その理由は誰にも分からない。当然、彼自身にも。

 

「もしかしたら、お前にも魔力の適正があったりしてな」

 

そんな中、顔を此方に向けた魔理沙が横槍を入れる。

「魔力の適正」という言葉に少しだけ首を傾げる柴芭に、魔理沙は続けて告げる。

 

「この瘴気の中で平気でいられるって事は、少なからず魔素に対する耐性があるって事だ。

だから、もしかしたらお前にも魔力が……まぁ、その話はまた今度だ」

 

途中まで言いかけた魔理沙は、そう言って話を切り、柴芭とは正反対の方向に体を向ける。

 

 

眼前に立ち込める瘴気の中に、人一人分の大きさの影が現れる。

それは次第にはっきりとした形になって行き、やがてその影の主が姿を現す。

 

「随分と楽しそうだったけれど、一体何を話していたのかしら?」

 

魔法の森の人形師にして七色の魔法使い、アリス・マーガトロイドの姿がそこにあった。

 

「いや、別になんでもないぜ。 それより、こんな所で何してるんだ?」

 

先の会話に対する問い掛けを流しつつ、目の前に立つアリスに質問する魔理沙。

 

「どちらかというと、それはこっちの台詞よね。

…ちなみに、私はここで日課の魔法の研究をしていたわ」

 

能面の如き無表情で、淡々とそう告げるアリス。

指揮棒を動かすかのように指を振るうと、傍に二体の人形が現れる。

 

彼女の傍らに浮かぶは、青と赤の二体の人形。彼女が操る魔法人形、上海と蓬莱である。

 

「そりゃ研究熱心な事で。 私達は今、この異変の元凶を探して回っている所だ」

 

魔理沙が言い放った『異変』という単語に対し、小首を傾げるアリス。

 

「異変…? まぁ、確かにこの冬の長さはおかしいけれど…」

「だろ? そこで、だ…今回の異変について、何か知ってる情報があったら提供しろ」

 

左手を腰に当て、右手の人さし指をアリスに突きつける魔理沙。

満面のしたり顔を浮かべる魔理沙に対し、瞼を半分閉じ、呆れた様子で溜息を吐くアリス。

 

「随分と上から目線ね…。 まぁ、別に構わないけど…その代わり、条件があるわ」

「条件? そりゃどんな…」

 

アリスから告げられた『条件』という単語に眉を顰める魔理沙。

その様子が可笑しかったのか、少しだけ口角を上げるアリス。

 

「簡単よ。 …私と勝負をしましょう」

 

アリスの口から告げられたのは、自身との勝負を求める言葉。

 

割と好戦的な面もあるアリスではあるが、彼女が自ら勝負を求めるような事はあまりない。

故に、魔理沙は警戒する。「コイツ、何か変なものでも食べたんじゃないか」等と考えながら。

 

そんな失礼な事を考えている魔理沙に、アリスは重ねて告げる。

 

「別に、どっかの戦闘狂(バトルジャンキー)な妖怪に感化された訳じゃないわ。

新しい魔法を考案して、今はその研究の真っ最中なのよ。

スペルカードとしても使えるかどうか試したくて、丁度相手を探していた所なのよ」

 

アリスが理由を告げれば、魔理沙は納得したような表情になる。

 

「なるほど、なるほど…まぁ、そう言う事なら、受けて立つぜ!」

 

高らかに宣言した魔理沙のすぐ後ろで、咲夜が数度咳込む。

そんな咲夜を、心なしか心配そうに見つめる柴芭。

 

「咲夜、お前は少し森から離れていた方が良い。

なるべく新鮮な空気を吸って、取りこんだ瘴気を中和するんだ」

 

咲夜の容態を考えてか、そう告げる魔理沙。

その言葉に、咲夜は下を向いたまま頷くも、その表情は何処か不満気である。

 

恐らく、二人の弾幕ごっこを見られぬ事が不満なのだろう。

 

「…それなら、(うえ)で戦いましょう。

そうすれば、あの子も戦いを観戦できるでしょう」

 

そんな咲夜に考慮したのか、アリスがそう提案をする。

勢いよく顔を上げる咲夜の表情は、何処か驚いている様にも見える。

 

「なるほど、そりゃいいな。 …なら、早速はじめようぜ」

 

帽子の鍔を指で押し上げながら、白い歯を見せながら笑みを浮かべる魔理沙。

善は急げと言わんばかりに、素早く箒に跨り、そのまま上空へと飛んでいく。

 

「やれやれ…随分とせっかちね。 …あぁ、そう言えば、急いでるんだっけ」

 

マイペースにそう呟きながら、アリスも上空へと向かう。

 

二人に遅れないようにと、咲夜と柴芭もその後を追いかける。

 

 

 

 

鬱蒼とした森から、視界の開けた上空へと移動する。

眼下の森を覆っていた瘴気から解放された咲夜は、何処か安心した様子でその場で深呼吸をする。

 

「ひゃうっ!?」

 

大きく息を吐き切った所に冷たい風が吹き付け、思わず短い悲鳴を上げてしまう咲夜。

 

「おいおい、大丈夫か? 少し休んでいたらどうだ?」

「…平気よ。 それより、さっさと終わらせなさいよね」

 

心配したように魔理沙がそう問いかけるが、咲夜はその提案を撥ね退け、一人そっぽを向く。

 

「…だ、そうだ。 そういうわけだから、早い所はじめようぜ」

 

そんな咲夜の行動に苦笑しつつも、改めてアリスの方向に向き直った魔理沙の表情には、降り積もる雪すら溶かさんとする静かな戦意が燃えていた。

 

 

 

「そう。 なら、遠慮なく」

 

短くそう答えると同時に、アリスは右手を天に向けて(かざ)す。

その掌に魔力が凝縮していき、瞬く間に大きな魔力の塊になり、その塊が急激に膨張して破裂する。

 

唐突に魔力の奔流に晒されるも、その弾幕を危なげ無く回避する魔理沙。

 

「っとと…いきなりだな、全くせっかちだぜ」

「貴方には言われたくないわね」

 

弾幕を回避し終えた魔理沙がそう抗議の声を上げるも、全く取り合う気の無い様子のアリス。

最も、その魔理沙自身、人の事を言えた立場では無い訳であるが。

 

「お返しだ!」

 

その場で宙返りをするように身を翻し、その勢いに乗せて幾つかの弾幕を前方にばら撒く。

足先に魔力を集中させ、宙返りと同時に、蹴りの要領で足先の魔力を弾幕として放ったのである。

 

更に、その姿勢から両掌を前方に向け、その指先から魔力のレーザーを放つ。

それらのレーザーは全て、各々が正確に前方にいるアリス目掛けて放たれていた。

 

弾幕による視界封じ、そして、死角からのレーザーによる攻撃。

この一連の動作は、魔理沙が得意とする戦法の一つでもある。

 

 

だが、その攻撃は阻まれた。

いつの間に展開したのか、アリスの目の前には、大きな盾を構えた人形が合計10体配備されていた。

 

その盾が陣形を崩すと、その中心にはスペルカードを構えたアリスが立っていた。

 

「そんなもので、この盾は破れないわ。 蒼符『博愛の仏蘭西人形」』」

 

スペルを宣言すると同時に、彼女の傍らに立つ上海と蓬莱がそれぞれ人形に号令を出す。

その指示を受けた人形の軍勢は、再び陣形を組み直し、一斉に盾を構え、(アリス)を守る体勢になる。

 

盾の中心で、アリスは再び天に右手を翳し、そこから赤い弾幕を放つ。

 

「自分を守りながら弾幕を撃つのか…」

 

自身の好む戦法をあしらわれたが故か、はたまた守りに重きを置く戦法が気に食わないのか、少々不満気な表情を浮かべる魔理沙。

 

「これも立派な戦いよ。 …まぁ、どうせこの程度は掠りもしないでしょうけれど」

 

対峙する魔理沙の心情を汲んでか汲まずか、そんな言葉を投げかけるアリス。

 

その言葉通り、魔理沙は掠りもせずに次々と弾幕を回避していく。

跨っていた箒の上に乗り、サーフボードを操るかのように軽快な動きで弾幕の波に乗って行く。

 

その軌跡に、天を流れる星の如き弾幕を残しながら。

 

「まー、ご覧の通りだ。 …それじゃ、今度はこっちの番だ!」

 

乗っていた箒から飛び降り、再び右手に箒を引き寄せながら、左手に持ったスペルカードを掲げる。

 

 

「魔符『ミルキーウェイ』!」

 

その宣言と共に、魔理沙の背後に光が奔る。

背後には、彼女がアリスの弾幕を回避する際に軌道上に残していた、星の形をした色取り取りの弾幕が光を帯びていた。

 

「天の川を見せてやるぜっ!」

 

魔理沙がアリスを指差すと、その背後の星々が一斉に光を放ち、アリス目掛けて飛び散る。

視界を覆い尽くす無数の星の奔流を前にしても、アリスは表情一つ変える事は無い。

 

そして、アリスは一つ小さな溜息を付き、右手の人差し指と中指を魔理沙に向ける。

 

「…生憎だけど、天の川なんて」

 

その二本の指の間に光が集まり、やがて一枚のスペルカードの形となる。

 

「もう、見飽きたのよ」

 

スペルカードを天に翳し、自らがそのカードを宣言した事を示す。

 

 

 紅符「紅毛の和蘭人形」

 

 

その宣言と共に、スペルカードは光と化して霧散する。

代わりに、その光が糸のように細くなり、アリスの指にはめられた指輪と繋がる。

 

刹那、その糸の先に、先の仏蘭西人形と同じく10体の人形が突如として現れる。

そして、同じく上海と蓬莱がそれぞれ人形に身ぶり手ぶりで号令を出す。

 

その号令を理解した人形達は、その光の糸が続く限界に近い場所まで広がって行き、そこで小さな両手を目一杯前に突き出す。

 

すると、その手の先から赤と水色の弾幕が放たれ、次々に魔理沙目掛けて飛んでいく。

自身が狙われている事を瞬時に理解し、咄嗟に回避の体勢に入る魔理沙。

 

 

だが、狙われていたのは魔理沙では無く、背後にある弾幕の方であった。

次から次へと星の弾幕は落とされて行き、天の川は次第に形を失い、崩れ去ってしまった。

 

背後を眺めながら呆気に取られている魔理沙に、アリスは言葉を投げかける。

 

「天体観測のお誘いなら、遠慮しておくわ」

 

声を掛けられた魔理沙は、おもむろにアリスの方に振り返る。

 

その表情は、何処か不敵に微笑んでいるように見えた。

 

「あらら、そりゃ残念。 …なら、今度はお花見だな」

「…今は、冬よ」

「心配はいらないぜ。 この私が見事に咲かせてみせるさ」

「…そう。 果たして、どんな花を咲かせてくれるのかしらね」

 

他愛の無いやり取りを繰り広げながら、互いの距離を詰めて行く二人。

互いを見据えるその瞳は、虎視眈眈と獲物を狙う獣の如く、鋭く研ぎ澄まされていた。

 

アリスの問い掛けを受け、より一層笑みを深める魔理沙。

 

「ド派手に咲かせてやるさ、この冬を終わらせてな」

 

そんな魔理沙の答えに、肩を竦め、小さく笑ってみせるアリス。

 

「そうね、期待しないで待っているわ。 …上海、蓬莱」

 

自身の周りを飛んでいた上海と蓬莱の二体の人形を呼び寄せるアリス。

その指示を受けた二体は、瞬時に主の元へと飛んでいく。

 

それぞれ盾と槍で武装した二体の人形を使役し、魔理沙へと肉薄するアリス。

それを迎え撃つかの如く、右手に魔力を凝縮し、握りこぶし程の大きさの光球を生み出す魔理沙。

 

どちらが先に動こうとも、必ず迎え撃って見せる。

 

二人の中には、そんな自信が確かにあった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

先ず動いたのはアリス…の人形たち。

 

盾を構えた上海が道を作り、槍を構えた蓬莱がその後に続く。

正面からの攻撃を受け止めた上で、開けた所を蓬莱が突撃する作戦である。

 

今行おうとしていた攻撃は下策と悟り、魔理沙はその手に持った魔力球を上空へと放る。

 

すると、その光球が膨れ上がり、そこから光の矢が雨の如く降り注ぎ、二体の人形へと迫る。

天より迫る光に慌てふためく上海と蓬莱に、アリスは素早く糸を繋いで、手繰り寄せて回避させる。

 

間一髪で回避した二体の人形を眺めながら、満足気に微笑む魔理沙。

 

「あの魔法使いの魔法も、なかなか参考になるもんだな」

 

そう呟きながら、三度の飯より本が大好きな隠者の魔法を思い出す魔理沙であった。

 

「…何があったのか知らないけれど、以前よりも技術が向上しているわね」

 

魔理沙の魔法を目の当たりにし、少しだけ驚いた様子でそう呟くアリス。

 

「この魔理沙様は、いつだって進化しているんだぜ」

 

アリスの言葉に気を良くしたのか、「ヘヘン」と得意気に鼻を鳴らす魔理沙。

 

 

「…なら、もう少しだけ力を出すわ。 咒詛『魔彩光の上海人形』」

 

そんな魔理沙の態度を歯牙にも掛けず、続けざまにスペルカードを宣言するアリス。

 

その直後、彼女の傍らにいた上海人形が、突如として何体にも分身する。

最も、正確に言うと「上海人形が分身した」訳では無く、アリスが魔法によって「新たな人形を出現させた」のであるが。

 

数の増えた上海人形は、瞬時に魔理沙を取り囲み、一斉に槍を突き付ける。

 

「なんだと? …っと、これは拙いな」

 

アリスの言葉に食って掛かろうとするも、周囲の状況を認識し、魔理沙はそれを諦めた。

 

周囲を取り囲む人形の内の一体が、正面の魔理沙目掛けて突貫し、槍を突き立てる。

 

「よっと」

 

それを難なく回避する魔理沙。勢いよく突っ込んだ人形は、その場で急ブレーキをしてよろける。

続けて迫る槍による突きの攻撃も、魔理沙は平然と見切ってのける。

 

「ホラホラどうした? そんなんじゃ当たらないぜ」

 

人形達は更なる攻撃を仕掛けるも、それらを全て回避していく魔理沙。

人形に話した所で無意味であろうと理解した上で、魔理沙はそう煽って見せる。

 

その後も、人形達は幾度と無く魔理沙に挑んでは、その都度悉く回避される。

単調な動きばかりを繰り返す人形に、次第に苛立つ魔理沙。

 

「…えぇい、じれったいっ! まとめて消し去ってやる!」

 

やがて、その苛立ちが頂点に達したのか、そう叫んで八卦炉を構える魔理沙。

 

八卦炉に魔力を集中させると、中心部に光が集まっていく。

短時間でその光は大きくなって行き、目に見えて膨張していく。

 

 

「喰らえ! 恋符『マスタースパーク』!!」

 

宣言すると共に、膨大に膨れ上がったエネルギーが放出される。

そのエネルギーは、光の柱となって、目の前の人形目掛けて放たれる。

 

魔力の塊である光の極太レーザーは、辺りに散らばる上海人形達を全て呑み込んでいく。

 

全ての人形を呑みこんだその光の柱は、今度はその人形の持ち主…即ち、術者(アリス)の方に迫っていた。

 

 

「さぁ、これで私の……!?」

 

勝利を確信し、満面の笑みを浮かべた魔理沙は、直後、その表情を驚愕に染める事になる。

 

 

 

アリスの目の前まで迫っていたマスタースパークが、跡形も無く掻き消されていたからである。

 

 

 

「一体、何をしたんだ…?」

 

突然起きた現象に理解が追い付かず、そんな言葉を零す魔理沙。

吹雪さえも描き消す魔力の奔流が消え、そこには爆煙のみが広がっていた。

 

煙の向こう側にいる相手に、魔理沙は視線を向ける。

 

 

「…ッ!?」

 

煙が晴れると、そこにはアリスの姿があった。

負傷も無く、体調も普段と変わりない。健在な姿であった。

 

「お、お前…その姿…!?」

 

一つだけ、違う点があるとすれば、

 

そのアリスが、()()()()()()()()()という事であろう。

 

 

魔理沙の声に反応するように、静かに顔を上げるアリス。

 

「これが、私の新しい魔法…。 武操(ぶそう)人形騎士(プーペ・ド・シュヴァリエ)』」

 

そう告げると、アリスは両手を大きく広げる。

すると、何処からともなく二振りの剣が現れ、そのままアリスの手に吸い寄せられる。

 

その剣を握ったアリスは、再び魔理沙の方を向き直る。

 

「さあ…いくわよ!」

 

そのままアリスは両の手の剣を構え、魔理沙目掛けて突貫する。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に身を捩じらせ、斬撃を回避する魔理沙。

 

だが、剣を振った事により生じた真空の刃が、彼女の頬に小さな傷を作る。

 

「なんちゅうパワーだよ…お前一体何が起きたんだ…?」

 

頬の傷を押さえながら、呆れた様子でそう問いかける魔理沙。

 

「おしゃべりしてるヒマは無いわ…! ホラ、まだ終わりじゃないわよっ!」

 

そんな魔理沙の問い掛けには答えず、更なる追撃を仕掛けるアリス。

 

「ホラホラホラ、ホラッ!」

「うわわっ! わ、わ、ちょ…」

 

二本の剣による突きを主体とした攻撃は、魔理沙が回避に徹する程に苛烈な物であった。

 

避けたと思った所に更なる攻撃、息つく暇さえ与えぬ猛攻に、魔理沙は次第に追い込まれていく。

 

(ま…まさかここまで強いだなんて…そろそろ、集中が途切れそう…!)

 

ほんの一瞬、僅かに意識を逸らした隙を突き、アリスは魔理沙へと肉薄する。

 

「ひっ…!」

 

余りにも素早い動きに、思わずそんな声を漏らす魔理沙。

彼我の距離は2Mにも満たぬであろう、腕を伸ばせば、剣の一撃が届いてしまう距離だ。

 

(やられる…!)

 

最早逃れる術は無いと悟った魔理沙は、強く目を瞑り、自らに降りかかる痛みを覚悟した。

 

 

 

だが、いつまで経ってもその時は訪れない。

 

「……?」

 

気になって、恐る恐る目を空ける魔理沙。

 

 

先程と変わらず、目の前には鎧を纏ったアリスの姿。

両手には剣を構え、鋭い目つきは、見る者全てを射殺さんとする程である。

 

だが、彼女は動かない。

まるで、玩具のロボットの電池が切れたかのように、ぴたりとその場で動きを止めてしまったのだ。

 

「……れた」

「へっ?」

 

静寂の中、アリスの掠れた声が響く。

何を発言したのか理解できず、頓狂な声を上げる魔理沙。

 

「…つかれた」

 

まるで魂が抜けたかのように、魔理沙の胸元に倒れこむアリス。

 

「え…えぇぇ~!?」

 

困惑に満ちた声音で、そう叫ばずにはいられない魔理沙であった。

 

 

 

 

------

 

 

 

「…なるほど。 つまり、あのスペルは人形ごと自分を操って戦うスペルだったワケだ」

 

戦いを終え、地上へと戻って来た魔理沙とアリス。

疲れ果てたアリスを咲夜が介抱した後、元気を取り戻したアリスに、魔理沙は先のスペルに関する話を聞いた。

 

 

武操「人形騎士」。名前の通り、武装を操るスペルである。

 

鎧や剣を模した人形を操り、それらを自身に装備する事によって、その鎧ごと自分自身を操って戦うというのがスペルの概要である。

操る術者の技量や魔力に依存する為、使い手によっては、凄まじい力を発揮する。

 

「ええ、そうなるわね…。 …けれど、本当につかれたわ。

やっぱり、慣れない事はいきなりするもんじゃないわね…」

 

無論、この技にも欠点はある。

 

それは、体力の消耗が著しいという点である。

アリスの場合、多数の人形を、糸を用いて自身の手足の如く操る戦闘スタイルである。

その人形達は、事前に魔力によってインプットされた動きをパターン化して行う。

登録されている動き自体はかなり大雑把な為、アリス自身に負荷は殆ど掛からないのである。

 

しかし、この人形騎士の場合、その操る対象の動きが、かなり細かく洗練された物となる。

その為か、通常よりも遥かに多い魔力を要求され、結果として、体力を大きく消耗してしまう。

 

「まぁ、無理はしない事だな。

…それより、私が勝ったんだから、ちゃんと情報を渡してもらうぞ」

 

そういった事情を理解し、アリスをいたわる言葉を投げかける魔理沙。

その直後、本来の目的を思い出したのか、アリスを指差しながらそう投げかける。

 

「あぁ、そういう約束だったわね。 …春の気配が、この空の上に集まっているわ」

 

その問いかけに、若干天然染みた反応を返すも、情報自体はしっかりと提供するアリス。

彼女の言を受け、疑問符を浮かべる咲夜。

 

「空を目指せっていうの?」

 

アリスの言葉が理解できない咲夜は、隣に立つ柴芭共々、腕を組んで首を傾げる。

 

「春が恋しいって言うのなら、そうしなさいな。

…どちらにせよ、春のある所に行かなきゃ、春なんか訪れないでしょうしね」

 

そう告げたアリスは、唸りながら立ち上がる。

痛む節々を魔力で補いながら、その場から立ち去ろうとする。

 

瘴気に彩られた白塗りの森の中へと消える直前に、アリスは振り返り、彼らに言葉を残す。

 

「それじゃ、精々頑張ってね」

 

彼女なりの、応援の心であったのだろう。

そう解釈した魔理沙は、背後に立つ二人の方向を向く。

 

 

「…よし、それじゃあ、進路変更だ。

目指すはこの空の上だ! 春はもうすぐ目の前だ!」

 

そう告げれば、頷く柴芭と咲夜。

 

箒に跨り、魔理沙は空高く飛翔する。

それに続くように、二人も同じく空を飛ぶ。

 

 

異変を終わらせる為、彼らは先を急ぐ。

 

目指す先に、果たして何が待ち構えているのか、それは誰にも分からない。

 

 

 

 




人形遣いは囚われない。ある意味、自由な子です。


戦闘描写が難しいですねぇ…文章力の低下が懸念されます。
魔理沙の活躍を描けたので、良しとします()

今回は挿絵を2枚用意いたしました。
物語を読み易く…なっていると良いなぁ(懇願)

さて、久しぶりの投稿となりました。
というのも、やはり今週末の検定の影響が大きいです。
あと、挿絵の方にm…ゲフンゲフン

今週が過ぎれば、暫くは時間が確保できそうです。
7月までは忙しい日々が続きそう…ですが、小説の方もなるべく頑張ります。


次回、「スカイハイ」。空の上でハイテンション!
投稿日は未定ですが、6月9日以降を予定しております。


◇今回登場したスペルカード◇

魔符「ミルキーウェイ」
魔理沙のスペルカード。天の川の流れのように。
綺麗な星の弾幕を大量にばら撒き、天の川を生み出す。
夜に見たら、きっと幻想的なことだろう。

蒼符「博愛の仏蘭西人形」
アリスのスペルカード。フランス人形と読む。
博愛主義の盾を掲げ、自身を守る人形の陣形を作る。
守りながら戦うというのは、中々斬新な気がする。

紅符「紅毛の和蘭人形」
アリスのスペルカード。オランダ人形と読む。
赤い人形ががんばる。がんばって弾幕を撃ちまくる。
密度は大したことは無いが、非常に縦横無尽に撃ちまくるので、中々怖い。

咒詛「魔彩光の上海人形」
アリスのスペルカード。上海×いっぱい。
大量の上海人形が織り成す槍術で相手を追い詰める。
動きは単純ながら、その数に押されることうけあいである。


武操「人形騎士」
この作品のみのオリジナルスペル。アリスが使用。
鎧の人形を自身に装備し、そのまま自分ごと操って戦う。
凄まじい戦闘能力を発揮できるが、消耗が激しいので長持ちしない。
名前の読み方は「プーペ・ド・シュヴァリエ」。フランス語で「人形の騎士」という意味。


-おまけ-

人形騎士状態のアリスを描いてみました。完全な想像です。


【挿絵表示】


大まかなデザインは、非想天則のゴリアテ人形を参考にしています。
細部などのデザインはオリジナル。故に、割と適当です。

どうでもいいですが、それぞれの部位は全て人形(という設定)です。

それぞれの部位は、

右の剣=オリヴィエ
左の剣=ローラン
兜=ジラール
鎧=ルノー
籠手=アストルフォ
足具=オジェ

という名前があったりします。
どれも皆、フランスのシャルルマーニュ伝説に登場する聖騎士の名から来ています。


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