神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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検定+後のごたごたが終わった為、大分久しぶりの投稿となります。

今回も中々に難産でした。やはり、難しいものです。


最近、ワールドカップが開幕されましたね。
日本はコートジボワールに敗れてしまいましたが、次のギリシャ戦で巻き返しを図りたいところですね。

さて、夏はバイトが捗るぞ~わーい(白目)


……あ、10000字超えました(唐突)


-あらすじ-
異変に関する情報と引き換えに、アリスの魔法の実験を手伝う事になった魔理沙。
鎧の人形を纏ったアリスの猛攻を耐え切り、戦いは魔理沙の勝利に終わった。
アリスから得た情報によると、春の気配は空の上に集まっているという…空の上?



スカイハイ

魔法の森を経ち、彼らは上空を目指して飛翔を続けていた。

雪の絨毯に覆われていた地上は、既にその境界線すら見えぬ程に遠ざかり、上空に目を向ければ、地上よりも暗い白を湛えた雪雲が睥睨する。

 

高空へと近付く程に、彼らを襲う冷気は、その冷たさを増していく。

 

「うぅ…さ、流石にかなりきついな…」

 

箒に跨り、ほぼ垂直に飛行していた魔理沙が、帽子を押さえながらそう呟く。

叩きつけるような冷気に晒され、その表情は一段と険しい物になっていた。

 

「一体どこまで昇ればいいのよ、これは…」

 

右腕で顔を覆いながら、魔理沙のすぐ後ろを飛ぶ咲夜がそうごちる。

 

「さぁな…とにかく、昇る事だけを考えろ。 柴芭(アイツ)みたいにな」

 

その言葉に首を傾げた咲夜は、魔理沙が指差す方向に目を向ける。

 

そこには、宙を蹴り、空高く跳躍する柴芭の姿が見て取れた。

連続して足元を蹴る事で、上方向への移動を行う、柴芭の基本的な移動方法である。

 

しかし、二人の目には、そのペースが普段以上に早い物に見えた。

 

「凄いペースね……余程春が恋しいのかしら?」

「いや、戦いたくてウズウズしてるのかも知れないぜ?」

 

互いにそんな予想を立てている間に、柴芭は更に上へ上へと駆け昇って行く。

柴芭を見失うまいと、二人は慌てて後を追いかける。

 

吹き付ける風も、叩きつける冷気も物ともせず、彼らは遥か上空を目指して進んでいく。

 

 

 

 

 

圧し掛かるような分厚い灰色の壁の、その雲間を抜けて、彼らは雲の上へと躍り出た。

 

眼下に広がるは雲海、頭上に広がるは果てしない青空。

地上では決して味わえぬ絶景を前に、彼らは目的を忘れ、暫しの間、その光景を眺めていた。

 

 

やがて、本来の目的を思い出したかのように、魔理沙が小さく手を叩く。

 

「さてさて、それじゃそろそろ出発だ。 春のあるところに、な」

 

魔理沙がそう告げると、その後ろにいた柴芭はゆっくりと頷く。

だが、咲夜はその言葉に対して何か思うところがあるのか、難しそうな表情を浮かべる。

 

「なんだ、咲夜? 調子でも悪いのか?」

 

目を伏せて沈吟する様子が、何処か具合でも悪いように見えたのか、魔理沙がそう投げかける。

顔を上げ、すぐさま訂正する咲夜。そして、自身の抱いていた疑問を吐露する。

 

「いいえ、そういう訳ではないわ。 少し、考えていただけよ…。 春のあるところとは言うけれど、一体どうやってそれを見つけるのか……」

 

そう言いかけた咲夜が、不意に言葉を止める。

 

「?? どうした……」

 

咲夜の様子に疑問を抱いた魔理沙も、そう問いかけた言葉を止める。

 

言葉を失った二人は、ただ一点だけを見つめていた。

二人の後ろにいた柴芭もまた、彼女らの視線の先にある物を見つめる。

 

 

視線の先にあったのは、一匹の妖精の姿。

 

赤いラインの入った白いワンピースに全身を包み、頭にはそれと同じ色の帽子を被っている。背中から生えた薄い半透明の灰色の羽は、羽毛を思わせるような形状をしている。腰まで届く長い金髪の髪が風に靡き、帽子との境目部分に結んだ赤いリボンが小さく揺れる。

精々柴芭の腰程度までしか無いであろうその小さな背丈と、背中に生えた羽が、彼女が妖精であるという確信を彼らに抱かせる要因となった。

 

その妖精は、笑みを浮かべながら辺りを飛び回る。

近くにある桜の花弁に触れては、その度に小さく小躍りする様子を見て、魔理沙は思わず笑みを浮かべる。

 

魔理沙の姿に気が付いたのか、その妖精は彼らの元へと近寄ってくる。

 

「春ですよー!」

 

邂逅…もとい、開口一番、声高らかにそう宣言する妖精。

突然の春宣言に固まった咲夜と柴芭を尻目に、魔理沙は苦笑する。

 

「やっぱりお前さんか、リリーホワイト」

 

その妖精―リリーホワイトに、魔理沙がそう投げかける。

 

「はい、リリーはリリーホワイトなのですよ! 春の訪れを告げる妖精ですよー」

 

腰に両手を当て、「エッヘン」と胸を張るリリーホワイト。

 

リリーホワイトは、春が到来した事を告げる妖精、『春告精』である。

毎年、冬が過ぎ去り、春が訪れる度に、幻想郷中を飛び回り、春が来た事を告げるのである。

 

人々は皆、彼女の姿を見る事で、春の到来を確信するのである。

 

そんな春告精が、何故こんな遥か高空に出没したのか。

それを疑問に思った咲夜は、一歩前に出て、リリーホワイトに尋ねる。

 

「それで、貴方は何故こんな場所にいるのかしら?」

 

そう咲夜が問いかければ、にこやかな笑顔を浮かべていたリリーは、少しだけ悲しそうな表情になる。

 

「…地上は雪に覆われていて、寒いのです」

 

両手を前で組んで、身を縮めるリリー。

まるで、冬の寒さを耐え凌ぐかのように、小さく縮こまる。

 

「お空から雪も降ってくるから、雲の上に避難して来たのです…」

 

そんなリリーの様子を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになる咲夜。

 

 

「けれど、今は4月! 暦の上では春ッ! そう! 春真っ盛りの筈なのですッ!

だというのに、何故雪が降り続けているんですか!! 何故未だに寒いんですか!!

えぇ!? 可笑しいと思いませんか!? ありえねーですよ!! ナメてんですか!?」

 

だが、次の瞬間に、そんな感情は消え失せた。

顔を上げ、突如激昂するリリー。春の精らしからぬその言動に、周りにいた全員が一歩退く。

 

「わ、わかった…わかったから、少し落ち着け」

 

リリーの豹変に冷や汗を流しつつも、息巻くリリーをなだめる魔理沙。

 

「あ……すみません、取り乱してしまいました…」

 

ずれた帽子を直しながら、そう謝るリリー。

 

「それで、話は続くのですが…何も、ただ避難しに来た…というだけでは無いのです」

 

そのまま言葉を紡ぎながら、右手の人差指で天を指差すリリー。

 

「どういう事だ?」

 

リリーの発言の意図が掴めず、そう疑問を投げかける魔理沙。

 

「私は春の精。 春のある所に、私はいるのですよー。

私は、春の気配に導かれて、ここまでやってきたのですよー」

「春ですって? けれど、そんな物何処に…」

 

咲夜がそう問いかければ、リリーは辺りを見回し始める。

 

「そーですねぇ…この辺りにも沢山ありますけど……」

 

そこまで言いかけたタイミングで、リリーは三人の方向に振り返り、彼らの傍まで飛んでくる。

 

「やっぱり、貴方達の中に一番感じます!」

 

そう言って、柴芭の目の前まで躍り出るリリー。

 

「…オレ達の、中に?」

 

呆気に取られつつも、そう問いかけ、数度瞬きをする柴芭。

 

「ええ、そうですよ。 …もちろん、貴方からも春の気配を感じますよー♪」

 

柴芭を見上げながら、満面の笑みを浮かべてそう答えるリリー。

 

そのまま、倒れこむように柴芭の体に抱きつく。

突然の出来事に、少し目を見開いて驚いた様子の柴芭。

 

「ふあぁ…とっても暖かいです…。 ぽかぽかしますぅ……」

 

柴芭に抱きついたま、恍惚とした表情を浮かべるリリー。

そのまま眠ってしまいそうな程にまどろんだ春告精を前に、柴芭は少しだけ眉を下げて困惑した様な表情になる。

 

「ははは、すっかり懐いちまったようだな」

 

その様子を横で見ていた魔理沙が快活に笑う。

 

「戯れるのも良いけれど、本来の目的を忘れないでよね」

 

和やかな空気に包まれる中、咲夜がそう忠言する。

けれど、普段の彼ならば滅多に見せないであろう表情を見せている今、止めるのが惜しいと思う感情が、彼女の中に芽生えていた。

 

「さてさて、そろそろ進もうぜ」

 

そんな咲夜の葛藤等知る由も無い魔理沙は、未だリリーホワイトを装備したままの柴芭に対してそう投げかける。

それに対して、柴芭は『見ていないでコイツ(リリー)を離してくれ』と、魔理沙に目で訴えかけるのであった。

 

「…ん? 皆さんこれから何処かに向かうんですか?」

 

柴芭の腹に顔を埋めていたリリーが、顔を上げてそう問いかける。

 

「ああ、ちょいと春の気配が集まってる場所にな」

 

魔理沙がそう返すと、リリーは目の色を変えて魔理沙の言葉に飛びつく。

 

「春の集まっている場所ですか!? それは凄く気になります! せっかくなので、私もついて行っていいですか? 邪魔にはなりませんからー」

 

目の前まで迫って来たリリーの怒涛の発言に、若干後ろに倒れる魔理沙。

 

「おぉう…何か凄く威勢がいいな……。

…まぁ、別について来る位なら良いんじゃないか? なぁ、お前らはどうだ?」

 

気圧されつつも、その提案を是とし、咲夜と柴芭に意見を求める魔理沙。

 

「私は、別に構わないわ」

 

普段と変わらぬ表情で、そう簡潔に答える咲夜。

 

「…構わない」

 

先程まで抱きついていたリリーを眺めながら、柴芭もまた、そう答える。

 

「…だ、そうだ。 ついて来るなら、好きにすると良いぜ」

「はーい! 好きにさせていただくのです~♪」

 

魔理沙がそう告げると、右手を高々と掲げて、はきはきとした様子でそう答えるリリー。

 

 

そして、リリーホワイトを伴い、彼らは再び春の気配を求めて進み始めるのであった。

 

 

 

 

------

 

 

リリーを連れだって、彼らが再び歩みを進めてから10分少々が過ぎた。

 

彼らは、天に聳える巨大な門の前に立っていた。

 

リリーホワイトは、春を告げる妖精であり、春の気配を敏感に察知する事が出来る。

よって、彼女の先導の元に進み続けた結果、目の前の門に至るという訳である。

 

「また随分と立派な門がお出迎えだな」

 

眼前に迫る巨大な壁を前に、「ヒュー♪」と口笛を吹いて、不敵な笑みを浮かべる魔理沙。

 

「この門は『幽明結界』と呼ばれる門ですよ。 幻想郷と冥界との境目らしいです」

 

彼らの傍らに立つリリーが、門を指差しながらそう告げる。

 

「……となると、この先は冥界って事になるな」

 

リリーの言葉に、魔理沙が頷きながらそう呟く。

 

「冥界ねぇ……一体どんな場所なのかしら?」

 

魔理沙の言葉を受け、門の先にある世界を想像する咲夜。

 

「さぁ……それは私も良く分からないです。 行った事無いですから」

 

そんな咲夜の言葉に、少し苦笑しながらそう答えるリリー。

 

冥界は死後の世界である為、本来ならば生者が訪れる機会は皆無である。

それ故に、この場にいる誰一人として、冥界の存在等認知してはいない。当然、リリーホワイトも。

 

最も、『死』の存在しない妖精にとっては、どの道縁の無い世界であるのだが。

 

「そりゃそうだな。 さて、春はこの先にあるらしいが…ん?」

 

ふと、何かに気が付いたのか、魔理沙はそこまで言いかけた言葉を止める。

 

「なんだありゃ?」

 

そして、目の前の門の方を見ながら、そんな言葉を発する。

咲夜、柴芭、リリーも、その言葉に釣られるように、魔理沙が見つめる方向に目を向ける。

 

 

彼らが見つめる門の前には、3つの人影。

目を凝らしてみれば、そこには3人の少女の姿があった。

 

『ねぇ、まだ時間じゃないの?』

『宴には、まだ早い』

『もう少しリハーサルしていきましょうよ』

 

門の前でそんな会話を交わす少女達。

 

「何だ、何か話しているみたいだが……?」

 

そう魔理沙が呟けば、少女達は、彼女らの前に立つ魔理沙らの存在に気が付いたのか、彼らの方向に振り返り、少しだけ警戒した様子を見せる。

 

「何アレ? 妖怪?」

「亡霊……かしら?」

「或いは、上昇気流か」

 

三者三様、口々に予想を立てる少女達。

 

「そう見えるか? 私は人間だ」

 

三人の問いかけに、おどけた口調でそう答える魔理沙。

 

「右に同じよ。 ところで、貴方達は一体何者なのかしら?」

 

魔理沙の隣にいた咲夜がそう同調し、続けて三人の少女達に問いかける。

 

「私達は騒霊演奏隊、プリズムリバー三姉妹よ!」

 

白い服に身を包んだ青い髪の少女が、一歩前に出てそう答える。

 

「右からリリカ、メルラン、そして私はルナサ」

 

その青髪の少女の一歩後ろに立ち、そう言葉を紡ぐ黒い服装の金髪の少女―ルナサ。

 

「今日は、宴の席にお呼ばれされたの。 今はそのリハーサル中って訳よ」

 

一番右にいた、赤い服に身を包んだ銀色の髪を持つ少女―リリカ。

 

「お呼ばれだと? ……ひょっとして、この門の先にか?」

 

プリズムリバー三姉妹のその答えに、疑問を抱いた魔理沙がそう問いかける。

 

「ええ、そうなるけれど……何、貴方も行きたいの?」

 

魔理沙の言葉を受けたリリカは、小首を傾げながらそう投げかける。

 

「この先に春の気配が集まっているそうじゃない。

異変の元凶もきっとこの先に違いないわ。 ……なら、スグに門の先に進ませて貰うわ」

 

その問いに対する答えを咲夜が用意する。

真っ直ぐに正面を見つめるその目には、三姉妹の背後に聳える結界しか映っていなかった。

 

「何だかよくわかんないけど……宴会のジャマするつもりなら、通す気は無いかな~」

 

そう答えた昨夜の目の前に、得物(トランペット)を構えたメルランが対峙する。

薄らと見開かれた瞳が、眼前の咲夜を標的に定めるかのように妖しく光る。

 

「勝負をお望みか?」

 

帽子の鍔を上げ、腕を組みながら、目の前に立つリリカを見下ろす魔理沙。

 

「そうだねぇ~……せっかくだから、一曲聴いて行ってよ」

 

宙に浮く自身の楽器(キーボード)に手を添え、眼前の魔理沙を見上げるリリカ。

 

「……」

 

体の力を抜き、自然体で立つ柴芭。

その鋭い灰眼は、前方に聳える門の先に待ち受ける世界を見据える。

 

「本番前の、最後の調整」

 

自身の眼と鼻の先にいる柴芭を見つめながら、己が剣と盾(ヴァイオリン)に手を掛け、静かに音色を奏でるルナサ。

 

「できれば、もっと忙しくない時に聴きたかったんだがな。 まぁ、仕方ないか」

 

そう言って、魔理沙は苦笑しながら「やれやれ」と首を二、三度横に振る。

 

「それで…お前さんはどうするんだ?」

 

そう言いながら、魔理沙は振り返り、同行者に声を掛ける。

 

だが、当の本人はと言うと、辺り一帯に満ち溢れる春の気配に魅了され、完全に有頂天になっていた。

右も左も、上も下も関係無しに、引っ切り無しに辺り一帯を飛び回り、あらぬ方向に弾幕を放っているリリーの姿を見て、魔理沙は小さく溜息を吐く。

 

「……仕方がない、アレは人数にカウントしないでおこう」

 

そう呟きながら、魔理沙はリリーホワイトに対し戦力外通告を出すのであった。

 

「なら、3vs3の弾幕バトルをお望み?」

 

魔理沙の言葉を聞き、リリカがそう問いかける。

 

「ああ、それで……」

 

そう言い掛けた魔理沙は、ふとそこで言葉を止める。

 

というのも、そこまで言い掛けた魔理沙の言葉を、柴芭が手で制したからである。

 

「柴芭……?」

 

突然の柴芭の行動に、困惑した様子の魔理沙。

普段であれば、事の成り行きを静観する傾向にある柴芭が、このような行動に出るという事が皆無であるが故に、魔理沙は戸惑いを隠せずにいた。

 

遮っていた手を下ろした柴芭は、困惑する魔理沙の方向に振り返り、

 

「……オレがやる」

 

淡々とした口調で、たった一言、そう告げる。

 

「ッ……!」

 

予想外の発言を受け、眼を見開いて驚愕する魔理沙。

 

「へぇ…貴方一人で、ねぇ……。 後悔しても知らないよ?」

 

真っ向に立つ柴芭に、挑発的な視線を投げかけるリリカ。

 

「本気なの、柴芭?」

 

構えていたナイフを仕舞い、心配そうに柴芭に問いかける咲夜。

 

「……」

 

その問いかけに、柴芭は答えない。

唯、無言で手を軽く振り、『助けは要らない』のサインを出す。

 

そんな仕草を見た魔理沙は、大きく溜息を吐く。

 

「なんか…最近アイツ、霊夢に似てきたな」

 

帽子を深々と被り直しながら、そう呟く魔理沙。

 

背を向ける柴芭の姿に、今は神社にいる霊夢の面影を重ねて見る。

 

自信に満ち溢れていて、頼り甲斐があるように見えて、どこか危うげな姿。

それでも、魔理沙は柴芭に対し、淡い期待を抱かずにはいられなかった。

 

「…悪影響でしょう、これは」

 

頭痛を起こしそうな頭を押さえ、魔理沙の言葉にそう返す咲夜。

 

嘗て刃を交えた時とは比べ物にならない程に、今の彼からは強さを感じる。

そんな考えが、既に咲夜の中を支配していた。

 

故に咲夜は、彼を止めよう等とは微塵にも思わない。

1人で戦う事に対する懸念よりも、彼の自信の根拠に対する好奇心の方が勝ったからだ。

 

 

「さて……観客は1人になっちゃったけど、演奏に関して、私達は一切妥協しないわよ」

 

相変わらず、自然体を崩さぬ柴芭に対し、リリカはそう投げかける。

魔理沙、咲夜の2名は後ろに退き、1人残った柴芭が、対峙する三姉妹を毅然と睨みつける。

 

「…退屈な演奏なら、聴く気は起きないな」

 

普段の彼らしからぬ言い回しを以て、三姉妹を牽制する柴芭。

 

「心配しなくても、退屈なんてさせないよ~♪」

 

その掛け合いに合わせるかのように、明るい調子でそう告げるメルラン。

 

「お代は聴いてのお帰りよ。 さぁ、行くわよ姉さん達!」

 

その言葉をリリカが締め括り、いよいよ以て、戦いの幕が切って落とされようとしていた。

 

 

先ず、先頭に立っていたリリカが指を鳴らす。

その音に反応するかのように、彼女が持つキーボードが持ち主の手元を離れ、ゆっくりと浮遊をし始める。

 

続いて、メルランが両手を大きく前方に振る。

その動きに合わせて、彼女のトランペットが大きく前方にせり出し、柴芭の方向に狙いを定める。

 

最後に、ヴァイオリンの弓を持ったルナサが、指揮棒のようにその弓を振るう。

その指揮の元、ヴァイオリンは宙高く舞い、ルナサの頭上まで来た辺りで、その先端部を柴芭に向ける。

 

3人のコンビネーションの元に成り立つ、隙の生じぬ鉄壁の布陣。

それは同時に、相手を確実に追い詰めて行く、難関の弾幕でもある。

 

プリズムリバー三姉妹が最も得意とする戦法にして、彼女らの切り札の一つ。

 

 

「「「騒葬『スティジャンリバーサイド』!!」」」

 

 

リリカ、メルラン、ルナサの3人が、同時に掛け声を放つ。

その宣言と共に、各々の楽器が一斉に演奏を始め、辺りに音色が響き渡る。

 

何処か聴く者の心を騒がせるような音色と共に、色取り取りの弾幕が撃ち出される。

赤に青、レーザーに楔弾、自機狙いにばら撒き…等、至れり尽くせりの弾幕の嵐が展開される。

 

そんな弾幕の壁を前にしても、柴芭は動揺一つ見せない。

 

おもむろに右腕を前方に掲げ、手を広げてみせる柴芭。

 

 

「……フンッ」

 

そして、開いた手を、思い切り握り締めた。

 

 

その瞬間、彼の拳を中心に、凄まじい勢いで霊力が放たれる。

一気に放出された霊力の奔流は、後方にいた魔理沙と咲夜が思わず顔を覆う程の衝撃波を放ち、彼の周囲に迫っていた弾幕を悉く掻き消した。

 

「なっ……!?」

「嘘ぉ!?」

 

眼前の光景に驚愕し、思わずそう叫ぶリリカとメルラン。

言葉こそ発さぬものの、あんぐりと口を開け、文字通り『開いた口が塞がらない』様子のルナサ。

 

誰もが、その光景に驚愕し、目を疑った。

 

 

だが、柴芭は何も難しい事等してはいない。

 

柴芭が放ったのは、簡単に言ってしまえば、霊夢の技である『霊撃』に近い。

自分自身の持つ霊力を外部に放つ…と、原理としては霊撃と何ら変わりはしない。

 

だが、彼はその霊力を、右手に一点集中させる事で、更なる威力を生み出した。

 

一か所に集中した霊力は、そこに圧縮されて行く。

そして、その圧縮された霊力が一気に膨張すれば、そこには凄まじい破壊力が生じる。

 

理屈は簡単ではあるが、自身の霊力を精密にコントロールする技術と集中力が要求されるが故に、体得には並大抵でない努力が求められる。

(たゆ)まぬ修行によって身に付けたその技は、霊夢よって『霊握(れいあく)』と命名された。

 

 

その霊握を受け、思わず怯んだ三姉妹。

掻き消された弾幕の中に道を見出した柴芭は、すかさず突貫する。

 

霊力を湛えた両の脚は、ほのかに淡い赤色のオーラを放つ。

一歩、空を蹴る毎に、柴芭の体は加速して行き、虚空に赤い轍を残す。

 

弾丸の如き速度で突貫する柴芭を前に、三姉妹の表情から『余裕』の二文字が消え失せる。

 

「ま、マズイよこれは……!」

 

演奏の手を止め、焦燥の色を浮かべるリリカ。

 

「こんなの相手だなんて、聞いてないんですけど~!?」

 

トランペットを抱えながら慌てふためくメルラン。

 

「落ち着いて。 まだ勝敗は決まっていない」

 

混乱するリリカとメルランを宥めるルナサ。

だが、その顔には冷や汗が浮かんでおり、二人と同じく、彼女にも余裕が無かった。

 

「……そうね、そうだよ! まだ演奏は終わって無いわ!」

「了解! 行くよ~姉さん!」

「ええ」

 

ルナサに叱咤され、二人の瞳に戦意が戻る。

それを見たルナサは、メルランの掛け声に応えるように、スペルカードを掲げる。

 

 

「…スペルカード、大合葬『霊車コンチェルトグロッソ』ッ!」 

 

その宣言と共に、リリカ、メルラン、ルナサの3人が集まり、柴芭を囲むように陣取る。

 

そして、それぞれの持つ楽器から、赤、青、緑に輝くレーザーが放たれる。

それらのレーザーが、三姉妹を頂点として、三角形(トライアングル)を描くように広がる。

 

その三角形の檻の中に囚われた柴芭目掛けて、無数の弾幕が放たれる。

 

横への逃げ道を完全に失い、弾幕を逃れる術は、上か下しか残されていない。

だが、その逃げ道に関しても、このスペルカードには隙が無い。

 

左右以外の方向へと逃れようとすれば、すかさずレーザーが追撃を行う。

楽器から放たれているレーザー故に、三姉妹にとって、その取り回しは自由自在なのだ。

 

「この包囲網から抜け出せる者はいない!」

 

檻の中の柴芭を見つめながら、勝利を確信したように笑みを浮かべるリリカ。

 

「さぁさぁ、クライマックスだよ~!」

 

メルランがそう高らかに宣言し、更なる弾幕を放つ。

 

 

「……クライマックスだと?」

 

弾幕の檻の中にいる柴芭が、小さくそう呟いたのを、ルナサは聞き逃さなかった。

 

次の瞬間、彼女は身構えた。

予知能力等では無く、己が本能からの行動だった。

 

 

次の瞬間、重く響くような轟音と共に、凄まじい風が吹き荒れる。

ともすれば、魂ごと肉体を吹き飛ばされてしまうのではないかという錯覚さえ生じさせる風によって、彼の周囲に展開されていた弾幕が纏めて消し飛ばされる。

 

唖然とするリリカとメルランを尻目に、ルナサははっきりと意識を保っていられた。

故に彼女は、自身の先に立つ柴芭の姿をはっきりと認識できた。

 

背中から生えた半透明の巨大な翼。

鳥とも蝙蝠とも形容し難いその物々しい翼は、得も言われぬ存在感とオーラを放っていた。

 

「悪いが……ここから先は」

 

そう呟きながら、静かにスペルカードを取り出す柴芭。

 

白と黒に彩られた、不完全なそのスペルカードを、天高く掲げる。

 

 

「オレの、独奏(ソロ)だ」

 

 

 「wing-incomplete-」

 

 

宣言と共に、柴芭は背中の翼を大きく逸らせ、勢い良く羽ばたかせる。

 

 

次の瞬間、ルナサの隣に立っていたメルランの姿が消えた。

 

 

何が起きたのか理解できず、二度、三度と眼を瞬かせるルナサ。

同じくメルランがいた場所を見ていたリリカと目が合う。リリカも同じく、何が起きたのかが理解できない様子だ。

 

 

『あぐぇっ!?』

 

次の瞬間、鈍い音と共に、短い呻き声が響く。

その声がした方向に目を向ければ、そこには、幽明結界の外壁に叩きつけられたメルランの姿があった。

 

ここで、漸く二人は、メルランの身に何が起きたのかを理解する。

 

メルランは、吹き飛ばされたのだ。

凄まじい風の弾幕によって、目にも止まらぬ速度で、壁まで吹き飛ばされたのだ。

 

その事実を理解した瞬間、リリカの顔が目に見えて青ざめる。

 

 

「余所見をしている余裕があるのか?」

 

その声を受け、はっとしたように振り返るリリカ。

彼女の目の前には、先程の翼を失い、代わりに新たなスペルカードを掲げる柴芭の姿。

 

そして、そのカードを頭上に掲げ、宣言をする。

 

 

「tail-incomplete-」

 

 

宣言と共に、柴芭の左脚に霊力が滾る。

再び轟音が周囲に響き渡ると、そこには、左脚から竜の尾を生やした柴芭の姿があった。

 

その尾は、長さだけでも彼の体の数倍はあろうかという程であり、一度振るえば、辺り一帯の空気を切り裂けるのではないかと言う程に、リリカの目には恐ろしい物に映った。

 

「ひ…」

 

悲鳴を上げるか否かというタイミングで、今度はリリカの姿が消える。

 

竜の尾を伴った蹴りは、巨竜の尾の薙ぎ払いにも匹敵する。

 

『がふぅっ!?』

 

凄まじい威力で蹴り飛ばされたリリカは、僅か1秒にも満たぬ時間で壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 

 

立て続けに自分以外が壁まで吹き飛ばされる様子を傍らで見ていたルナサは、最早言葉を失っていた。

力無く両腕を下げ、生気の籠っていない瞳で、ただ虚空を見つめていた。…最も、元々霊なので、生気など最初から無いのであるが。

 

「残るは1人……」

 

静かに告げられたその言葉に、「ビクッ」と肩を震わせるルナサ。

彼女の耳には、その声が、死神の宣告か何かのように聞こえていた。

 

「……終曲(フィナーレ)だ」

 

そう告げて、再三となるスペルカードを宣言する。

 

だが、ルナサは確信していた。

それが、彼の最後のスペルカードになるであろう事を。

 

 

 「fang-incomplete-」

 

 

そして、自分達の敗北を。

 

光か輝く半透明の牙に呑みこまれる刹那、ルナサは独白する。

 

 

今日は、運が悪かった。と。

 

 

 

 

 

------

 

「……なんていうか、すごいな」

 

戦いの一部始終を遠目に観ていた魔理沙は、簡潔にそう呟く。

 

「ええ、そうね……」

 

魔理沙の言葉に、咲夜が同調する。

 

だが、彼女の中には、恐怖と同時に、高揚感もあった。

 

「春がいっぱいでサイコーですよ~♪」

 

そして、リリーホワイトは平常運転だった。

 

 

 

プリズムリバー三姉妹を退けた柴芭を迎える魔理沙と咲夜。

魔理沙が柴芭の実力を讃える一方で、咲夜は、何故か魔理沙の影に隠れていた。

 

目を覚ましたルナサの情報により、幽明結界を越える方法を彼らは知った。

 

 

それは、『門を飛び越える』、ただそれだけである。

 

 

余りにも呆気ない回答に肩透かしを食らった一行。

だが、有益な情報である事には変わりない。彼らはルナサに感謝を告げた。

 

その後、ルナサはリリカとメルランを抱えて、足早に飛び去って行った。

まるで、自身を倒した柴芭から逃げるように。

 

その様子を柴芭が複雑そうに眺めていた事が、咲夜は強く印象に残った。

 

 

ちなみに、リリーホワイトはこの場に残り、春を堪能するのだという。

ここまで付き添ったリリーホワイトに別れを告げた彼らは、冥界へと進路を取る。

 

 

 

春の集う先に何が待ち受けているのか、彼らは未だ何も知らない。

 

 

 

 




眠れる竜を呼び起こすな。お前も牙に呑みこまれるぞ。


柴芭vsプリズムリバー三姉妹。今回は3vs1でお送りしました。
戦いの最中であれば、彼は割と饒舌になります。
彼のモノローグを読んで頂けば分かると思いますが、割と語彙は豊富な方です。

多分、気分が高揚していたか……或いは、戦いたくてウズウズしていたかも知れません。


三姉妹は犠牲となったのだ……。
彼がここまで無双出来るようになったのも、一重に弛まぬ努力のお陰です。
その描写も、後々描いて行きたいですね。


……ですが、余裕ムードが続くのもここまで。
幻想郷を越えた先には、彼らが予期せぬ強敵が待ち構えているのです。

果たして、彼らの行く手に待ち受ける者とは……。

そんな彼らの事等知る由も無い霊夢の元に、尋ねる者が一人。
次回、「新雪の警告」。真実を知る者の言葉を聞け。
6月22日、更新予定です。


◇今回登場したスペルカード◇

騒葬「スティジャンリバーサイド」
プリズムリバー三姉妹の合奏スペルカード。三途の川辺。
それぞれの持ち味を生かした演奏で、相手を追い詰める。
長調と短調が入り混じった音楽で、精神的にも焦らせてくる。
Hard仕様であり、Normalでは『合葬「プリズムコンチェルト」』になる。

大合葬「霊車コンチェルトグロッソ」
プリズムリバー三姉妹のラストスペル。世紀の大合奏。
三角形状に相手を囲み、絶え間ない弾幕で追い詰めて行く。
ほぼ死角の無いスペルだが、柴芭には通じなかった。
「霊車」とは、要するに霊柩車の事である。


「wing-incomplete-」
柴芭のスペルカード。不完全な翼。
翼で羽ばたき、風の弾幕を放つ。喰らった相手は、数10M先まで吹き飛ばされるという。
動きは見切り易いものの、風の方向は完全にランダムなので避け辛い。

「tail-incomplete-」
柴芭のスペルカード。不完全な尾。
脚の先を竜の尾に変え、蹴りの要領で薙ぎ払う。当たったと認識する頃には、既に宙を舞っている。
ちなみに本人は、鞭のように薙ぎ払えないか研究中らしい。


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