神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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トレーニング疲れ+バイト疲れが蓄積する平日では、更新は難しいかもしれません。
素直に土日更新に切り替えて行った方が良い気がしてきました。


タイトルは、『ひろありけちょうをいること』と読みます。
所謂、漢文です。高校の頃、古典の授業で習った事がある人も多いでしょう。


私の小説は、ジャンルにすると『群像劇』が当てはまるのかも知れませんね。
なんとなく、そう思っただけですけど。


さて、今回は異変解決者のターンです。


-あらすじ-
神社でお留守番をしていた霊夢の元に、綺羅と名乗る男が参拝に訪れる。
“死神の真似事”を生業とする彼は、今回の異変について、霊夢に警告をした。
その頃、冥界では……。


広有射怪鳥事

プリズムリバー三姉妹を退けた彼らは、幽明結界を飛び越えた。

現世(うつしよ)幽世(かくりよ)とを隔てる結界を超え、彼らは冥界へと足を踏み入れる。

 

春の気配が集う、決戦の舞台へと。

 

 

 

冥界へと降り立った彼らは、一様に同じ感想を抱いた。

 

「……随分、暖かいんだな」

 

それは「とても暖かな場所である」という事だ。

 

冥界に、純粋な生き物は存在しない。

それは、冥界が魂や霊、それに準ずる者のみが暮らす場所だからだ。

植物はあれど、生者は存在せぬその場所は、冬空に包まれていた筈の幻想郷とは打って変わって、暖かな春の空気に包まれていた。

 

「ここに、幻想郷中の春が集まっているのね……」

 

口元までを覆っていたマフラーを喉元までずらしながら、そう呟く咲夜。

 

「ああ……いよいよ、異変の元凶とご対面というワケだ」

 

目深に被った帽子の鍔を右手の人差し指で押し上げながら、咲夜の言葉に同調するように不敵に微笑む魔理沙。

 

「……」

 

柴芭は言葉を発することなく、唯静かに、自身の眼前に広がる光景を眺める。

 

彼らの目の前には、非常に長い石段が続いている。

遥か上を見上げても、その終わりが見えない程に、その石段は長い。

 

博麗神社へと続く階段を凌駕する目の前の()()を目の当たりにし、顔を顰める柴芭。

 

そんな柴芭の様子を横目に見ていた魔理沙は、顔を上げて大きく笑う。

 

「あっはっは! こんな階段、律義に上る必要はないって」

 

柴芭の肩を二度、三度叩きながら、明るい口調で、励ますようにそう告げる魔理沙。

最も、彼女にしてみれば、飛行する事が出来るのに、わざわざ長い石段を律義に上ろうとする柴芭が可笑しくて、思わずそう突っ込んだに過ぎないのだが。

 

「そうね。 ショートカットしちゃいましょう」

 

魔理沙の言葉に同調するように、軽い口調でそう続ける咲夜。

少し驚いた様子の柴芭が咲夜の方に顔を向けると、彼女は悪戯っぽく小さくウィンクをするのだった。

 

数秒沈黙していた柴芭は、僅かに口元を吊り上げる。

 

「……ああ、分かった」

 

そう答えた後、眼前の石段に向き直る柴芭。

 

 

その場で身を屈めた柴芭は、次の瞬間には、その場から姿を消していた。

 

数度眼を瞬かせ、互いに顔を見合わせた後、つい先程まで柴芭がいた場所に目を向ける魔理沙と咲夜。

そこには、直径1M程の小さなクレーターが出来上っていた。

 

次いで、柴芭が跳んで行ったであろう場所へと目を向ける魔理沙と咲夜。

既に、二人から見て柴芭は米粒ほどの大きさになっていた。

 

「……やれやれ、よっぽど春が恋しいんだな」

「いや、戦いたくてウズウズしてるんじゃない?」

 

その場に取り残された二人は、本人の与り知らぬ所で、互いにそんな予想を立てるのであった。

 

「……っと、ゆっくりしている暇はないな」

「ええ、そうね」

 

先行した柴芭に遅れぬように、二人は急いで後を追いかける。

 

 

飛び立った彼らの傍を、一匹の青い蝶が舞っていた。

 

 

 

 

------

 

 

石段を上った先には、二人分の人影があった。

 

一人は、緑の服に身を包み、傍らに謎の物体を連れた銀髪の少女。

右手と左手に、それぞれ長さの違う刀を持っている。恐らく、剣士なのだろう。

見た目は、華奢な印象を与える少女だが、その中身は、間違いなく外見以上であろう。

ヤツが放つオーラは、先程まで相対して来た敵共とは比べ物にならない。

 

そして、もう一人は……オレの、良く知る人物だ。

灯籠(とうろう)に背を預け、腕を組んだまま瞳を閉じている。

此方の存在には……まぁ、気付いているだろう。だが、自ら動く様子は見せない。

 

「……やはり、来たか」

 

目を伏せ、考えに耽っていた様子のその少女は、顔を上げ、静かにそう呟く。

 

「巫女では無いようだが……構わない」

 

少女は、右手に持った、長い刀身を持つ刀の切っ先を此方に向ける。

 

「お前達の、なけなしの春を渡してもらう」

 

静かな口調で、はっきりとそう告げたその少女は、その手に持った刀にも劣らぬ程に鋭い眼で此方を睨む。

 

『なけなしの春』……か。言い得て妙と言うべきか……本当に、なけなしだからな。

 

幻想郷の上空、幽明結界の前で、リリーホワイトに告げられた言葉を反芻する。

 

 

(皆さんの中から、確かに春は感じます。 ……けれど、この門の先に集まっていく春と比べると、ごくわずかしか無いです。 だから、大事にして欲しいのです♪)

 

 

……大事な春は、渡せないな。

 

「お生憎様、貴方達に渡す春なんて無いわ」

 

何時の間に追いついたのか、背後にいた咲夜が、オレの代わりにそう答える。

 

「そういうこと。 さぁ、さっさと春を返してもらおうか」

 

その反対側には魔理沙が。……咲夜もそうだが、何故オレの一歩前に出るんだ?

 

「……なるほど、応じる気は無い……か。 ……紅炎さん」

 

黙して聞いていた少女は、静かにそう呟くと、少し離れた場所に立っていた男に声を掛ける。

 

その男は、おもむろに顔を上げると、此方まで歩み寄ってくる。

起き上がり、歩み一歩に至るまで、全く隙を感じさせない。やはり、この男は別格だ。

 

 

……お前が、オレの敵なのか――紅炎。

 

 

 

「さてさて……色々言いたい事はあるけど、とりあえず……」

 

少女の一歩前に出て、物色するように此方を眺める紅炎。

右へ左へと移動していた紅炎の視線は、やがてオレの所まで来て、ピタリと止まる。

 

「久しぶりッスね、柴芭」

 

何気無い調子で、そう告げる紅炎。

 

「ああ」

 

自然と、そんな返答が口から零れる。

 

「あれからどれぐらい経つんだろうなぁ……元気で安心したよ」

 

久方ぶりの再開……という訳か。果たして、喜んで良いものやら。

此方の安否を気遣ってくれてはいるが、今は敵同士……つまり、

 

「……勝負の、続きだ」

 

「言うと思ったッスよ」

 

()()()の決着は、まだ着いていない。

27勝28敗4分け、このまま勝ち逃げされる訳にはいかない。イーブンにしてやる。

 

「何だ、知り合いなのか?」

「貴方の事、知っているみたいだけれど……」

 

傍らに立つ魔理沙がそう問いかけてくる。咲夜も、同じような事を聞いて来る。

そういえば、話していなかったか。紅炎の隣の少女も、似たような反応を示している。

 

……話すのは苦手だから、紅炎に丸投げしよう。

 

「説明は任せた」

「何でだよ!?」

 

うるさい、それがお前の宿命だ。

 

「どういう事なのですか、紅炎さん?」

 

銀髪の少女がそう紅炎に問いかける。最早、説明せざるを得ないだろう。

 

「詳細は伏せるけど、旧友ッス。 ……まぁ、腐れ縁とも言うけどな」

 

「仕方が無い」と言った調子で、此方を睨みながら、そう説明をする紅炎。

“仕方が無い”だろう、そういう宿命なんだから。

 

「ふ~ん……まぁ、例え旧友だろうが、邪魔するなら容赦しないぜ」

 

一連の会話を聞き終えた魔理沙は、紅炎らに向けて八卦炉を突き付ける。

その表情からは、一切の躊躇や迷いは見受けられない。

 

それに続くように、無言でナイフを構える咲夜。

その血のように紅い瞳は、餓えた獣のように、一点に獲物を捕らえる。

 

「容赦しない、ねぇ……」

 

紅炎が、静かにそう呟いたのを、何故かオレは聞き逃さなかった。

 

その呟きの直後、辺りに火の粉が舞い始める。

それと同時に、紅炎を中心として、辺り一帯の温度が上昇していく。

 

周囲の熱と、紅炎が放つ威圧感を受けて、額から汗が流れ落ちる。

オレの前にいる魔理沙と咲夜も、同じように汗を拭っている。

 

……やっぱり、コイツの熱気は凄い。

 

 

そして、紅炎は口元を歪め、好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「そりゃあ、此方(コッチ)の台詞だよ」

 

 

その言葉と共に、目にも止まらぬ速さで、背負った刀を抜刀し、横に薙ぐ紅炎。

 

すると、次の瞬間、目の前に凄まじい閃光が溢れだし、思わず目を腕で覆う。

 

 

 

 

目を開くと、そこに先程の光景は無かった。

 

辺りを囲むように聳え立つ、炎の壁。見渡す限りの、赤々と燃え盛る炎。

 

次に、周りにいた筈の魔理沙と咲夜を探す。

オレの周りには……いない。いない、が……気配は感じる。

恐らく、この炎で隔てられた向こう側にいるのかも知れない。

 

……そして、最後に、こんな芸当ができるヤツ。当然、一人しかいない。

 

「……チッ」

 

「また、勝ち逃げをされた」。そう考えると、思わず舌打ちせざるをえなかった。

恐らく、紅炎の相手をしているのは、魔理沙と咲夜だろう。

あの二人が負けるとは思えないが……ヤツの力は、常識が通じないからな。

 

……まぁ、今は自分の心配をするべきだろう。

二人が紅炎と戦うという事は、必然的に、相手は……

 

「……」

 

あの少女、という事になる。

 

紅炎の実力は知っているが、コイツに関しては全くの未知数だ。

当然ながら、警戒は怠らない。どんな力を秘めているのか、全く分からないのだから。

 

「紅炎さんの考えは分かりませんが……来るが良い、侵入者!

この白玉楼の庭師にして、剣術指南役、魂魄妖夢がお相手する!」

 

刀を此方に向け、そう投げかけてくる少女――魂魄妖夢、か。

庭師というのは、肩書きか何かなんだろうか。……まぁ、どうでもいいか。

 

腰に差した短剣を抜き放ち、切っ先を少女に向ける。

 

「お前を倒して、先へ進む」

 

妖夢の両の眼を見つめ、そう投げかける。

 

「……進ませはしない、一歩たりとも」

 

対する妖夢も、此方の目を一点に見つめ、そう返す。

 

互いに、退く気は欠片も無い。

いつ鍔迫り合いが始まっても可笑しくない、そんな剣呑な雰囲気が漂う。

 

「この楼観剣に、切れぬものなど……」

 

そう呟いた妖夢は、左手に持っていた剣を納め、一本の刀を両手で構える。

 

その瞬間、妖夢の身に纏う雰囲気が変わる。

彼女の闘気に呼応するかのように、背後の炎が揺らめく。

 

 

 

「何も、無い!」

 

 

そう叫ぶと同時に、妖夢の体がその場から消える。……来るか。

 

攻撃の正体を認識するよりも速く、体は動いていた。

短剣を自身の目の前に翳し、顔を防ぐような体勢になる。

 

「……ッ!」

 

その刹那、短剣を構えた右腕に凄まじい衝撃が奔る。

 

攻撃を……つまり、ヤツの斬撃を受け止めたからだ。

 

「……この程度は防ぐか」

 

刀越しに此方を睨む妖夢は、小さくそう呟くと、そのまま短剣を弾いて後退する。

短剣を持つ右手がジンジンと痺れている……あの体躯からは想像も付かない程のパワーだ。

 

向こうから距離を取った事で、此方も体勢を整えるチャンスが出来た。

短剣を左手に持ち替え、逆手に構え直す。……こっちの方が、得意な構えだ。

 

「利き手で勝負という訳か……良いだろう!」

 

再び刀を構え、突貫してくる妖夢。

直線的な動きだが、凄まじいスピードだ……回避は、不可能。なら、受け止めるしかない。

 

キィン――と、金属同士を激しく打ち鳴らす音が鳴り響く。

 

……凄まじい、パワーだ。

一体、どんな鍛え方しているんだろうな、コイツは。

 

続けざまに、二度、三度と金属音が響く。

絶妙な角度から、幾度も、休み無く打ち込んでくる。剣の腕は、相当なものだ。

誰に師事したんだろう……まぁ、答えは目に見えているが。

 

剣戟の刹那、妖夢と目が合う。

鋭い殺気の込められた、人を射殺さんばかりの炯眼(けいがん)が、此方に向けられる。

 

……()()()の、咲夜のようだ。

 

「はっ!」

 

ほんの一瞬、意識を逸らした隙に、妖夢が此方の喉元目掛けて突きを放つ。

反応が遅れるも、何とか直撃は避けるべく、短剣を薙いで応戦する。

 

だが、その奮闘も空しく、短剣は宙を舞った。

 

「ッ……」

 

力負けし、弾かれてしまったのだろう。

短剣の飛んで行った方向には目を向けない。

 

再び、意識を逸らせば……今度は、間違い無く殺される。

それを可能とするだけの力量が、コイツには、ある。

 

 

……なんだ?……『仰け反れ』、だと?

……良くは分からないが、第六感という物もあるだろう。その言葉通りに動く。

 

「……ッ!?」

 

すると、先程まで上体があった場所に斬撃が放たれる。

虚空を掠めたその斬撃は、ともすれば、そこにあった空気をも切り裂いているのではないかと錯覚する程に、鋭く素早い物だった。

 

元あった位置を考えると……もし、あのまま立っていたら、右肩から先が胴体と『さようなら』していただろうな。……危ない所だった。

 

「あの斬撃を避けただと……!?」

 

妖夢が驚いている。まさか、避けられるとは思っていなかったのだろう。

……かく言うオレも、まさか“避けられる”とは思わなかったが。

 

しかし……全く攻撃の軌道が読めなかった。それどころか、予備動作さえも。

一体、何をしたというんだ……?

 

すると、妖夢の傍らに、先程の浮遊物体が現れる。

さっきまで隣にいたと思ったが……何時の間にヤツの傍を離れていたのか。

 

「まさか、人間に半霊の動きが読めるだなんて……」

 

半霊……あの白い餅みたいなヤツの事だろうか。

……と言う事は、妖夢は、()()()が言っていた『半人半霊』というヤツか。

 

半霊は、本人の意志に応え、自在に姿を変える力を持っていると聞く。

もしかすると、あの斬撃は……。

 

「……だが、もうお前に得物は無い。 それでどう戦うつもりだ?」

 

オレの考察を他所に、此方に剣を突き付けたまま、そう妖夢が投げかけてくる。

 

確かに、短剣は手元に無い。手を伸ばして届く範囲にも無い。

仮に取り戻せたとして、あれだけの力量相手だ。何処まで応戦できるか、期待は出来ない。

 

……だとすれば、答えは一つだ。

 

 

 

――顕現せよ、龍腕よ。真なる力を集約し、我が鎧、刃となれ。

 

 

あの時とはまた違う詠唱と共に、両の腕の痣が白く眩い光を放つ。

そして、轟音と共に、両腕が光に包まれる。

 

……あの時と、同じ感覚だ。

 

けれど……そう。あの時よりも、はっきりとしている。

はっきりと、自分の力を認識できる。

 

 

光が晴れた先には、あの時と同じ、完全な実体を持った龍腕。

だが、その大きさは、あの時とは一回りも二回りも小さくなっている。

 

ともすれば、元の自分の腕と大差無い程に、その腕は小さく凝縮されていた。

 

……これが、オレの力の、使い方なのか。

 

「なっ……!?」

 

突如現れた腕に驚いたのか、目を見開いてそう零す妖夢。

驚くのも無理は無い。……だが、これがオレの戦法(スタイル)なんだから、仕方が無い。

 

……お前が剣ならば、オレは拳だ。

 

 

「行くぞ……!」

 

両足に霊力を滾らせ、勢い良く地を蹴る。

その一歩だけで、彼我の距離僅か1Mにも満たぬ程までに肉薄する。

 

そのまま右腕のひじを曲げ、揃えた爪を正面へと向け、一気に突き出す。

 

「くぅっ……!?」

 

双刃の一突きを、交差して構えた二本の刀で受け止める妖夢。

だが、その威力を殺しきれなかったのか、石畳に摩擦によって生じた焼跡の轍を作りながら、数十cm程後退する。

 

「なんて、威力……」

 

妖夢のそんな呟きが耳に入る。……はっきり言って、オレもそう言いたい。

先程までの短剣とは段違いの威力、これがオレの能力なのか……だが、

 

「……油断はしない」

 

決して、驕るなかれ。油断は破滅を招くだけだ。

 

それに、相手がまだ全力を出していないとも限らない。

オレもなるべく余力を残す為に、最大限までは出していないが、少なくとも、今までよりは力を出している。

 

この状態で戦いが長期化すれば、不利になるのはオレの方だ。

 

……なるべく、早くに決着をつけたい。

 

「……だが、まだまだ!」

 

既に体勢を立て直していた妖夢が、そう叫んで再び此方に突撃してくる。

今度は、二本の刀を構えた状態だ。……二刀流、ということは、手数で勝負をするのか?

 

……それこそ、オレの本領だ。

 

「……フン」

 

斬り掛かって来た場所に合わせ、龍腕を振るう。

 

すると、辺り一帯に鈍い音が鳴り響き、妖夢の刀が押し返される。

 

「なっ!? 堅い……!?」

 

予想を大きく乖離した手ごたえに、思わず絶句といった様子の妖夢。

恐らく、そこいらの妖獣の腕を斬るつもりで斬りかかったのだろうが……甘かったな。

 

原理は不明だが、この龍腕は、鍛え上げられた鋼鉄にも比肩する程の硬度を持ち合わせている。

 

一薙ぎで空を裂く程の攻撃力と、剣戟を受け止める事が可能な程の防御力……正に、鎧と刃だ。

 

「……その程度か。 ……なら、今度は此方から行くぞ」

 

未だ混乱した様子の妖夢目掛けて龍腕を振るう。

はっとした妖夢だったが、すぐさま刀を構え、龍腕を受け止める。

 

……伊達に剣士じゃ無いワケか。反射的に動ける辺りは、流石といったところか。

 

 

だが、あちらは剣、此方は拳。両者の差は、程無く歴然となる。

 

剣を振るう際には、その手に持っているという性質上どうしても、振ってから攻撃が届くまでにタイムラグが生じる。

対して、此方の龍腕は、振るうという動作を取った所から、タイムラグ無しでそのまま攻撃が届く。

 

更に、剣には重さがあり、振い続ければ、必ず疲労に繋がる。

だが、此方のそれは、文字通り“腕”である為、必要以上に消耗する事は無い。

 

 

もう幾度と無く重ねて来た、剣と拳のぶつかり合い。

オレの目の前の少女は、目に見えて疲弊していた。

 

鍔迫り合いの状態から、互いに得物を薙ぎ払い、そのまま距離を取る。

 

「ハァ……ハァ……」

 

手に持った刀の切っ先を地面に擦り付け、肩で息をする妖夢。

 

「……潮時、か」

 

その様子を眺めながら、そんな言葉を呟いてみる。

 

無論、このまま戦いが終わるとは考えていない。

『発破を掛ける』というヤツをやってみたかったのだが……果たして、上手くいくだろうか?

 

「ッ! ……まだ、終わってなどいない!」

 

どうやら、上手く行ったようだ。

なるべく早期に決着を付けたいし……何より、このまま終わっては面白くない。

 

「必ず……勝って見せる!」

 

二本の剣を水平に構え、此方へと肉薄してくる妖夢。

先程よりも更にスピードが上がっている……此方を見る眼にも、一切の迷いが無い。

 

それでも、迎え撃つまで……!?

 

 

「何ッ……!?」

 

一瞬前まで、目の前にいた筈の妖夢は、刹那の内に、視界から消えていた。

 

馬鹿な……一体何処に……まさか、後ろか!

 

「覚悟ッ!!」

 

そう声を上げ、妖夢はオレの背中に斬りかかる。

 

拙いな……ガラ空きの背後からの攻撃を防ぐ手段は無い。

回避しようにも、すぐには体は動かない。……とはいえ、このまま喰らう訳にもいかない。

 

どうする……?どうすれば良いんだ……?

 

幾ら思考を巡らせても、良い方法は思い浮かばない。

その合間にも、刻一刻と刃は迫ってくる。現実は非情である。

 

龍翼を出す……実体の無い翼を出した所で、防ぐ術は無いな。

 

……なら、実体のある腕ならば?だが、出来るかどうか……。

 

……イチかバチか、懸けてみるか。

 

 

 

 

――顕現せよ、新たなる龍腕よ。無双なる刃は、一つに非ず。

 

 

脳裏に過る言葉の羅列。その言葉が浮かぶ事で、更なる力が内に滾ってくる。

体を廻っていた霊力が、背中に向けて一点に集中していく。

 

そして、再び轟音が鳴り響き、背を中心に、体が光に包まれる。

 

 

光が晴れた先には、腕に宿ったものと瓜二つの、もう一対の龍腕。

後ろを振り向き、片目のみで見ている為に、その全体像は窺えないが、感覚で理解する。

 

その背にある龍腕で、眼前まで迫っていた刃を、受け止めた。

 

「なっ!?」

 

妖夢の驚愕の声が響く。正直、オレも驚いている。

だが……これは、好機(チャンス)だ。今の内に距離を取ろう。

 

鍔迫り合いをしながら、対峙する妖夢を弾き飛ばし、数歩後ろに飛ぶ。

妖夢の方も、数歩後ろに下がり、体勢を立て直す。

 

 

互いに睨み合う状況が続く。

静寂が、二人の世界を支配する。

 

……それにしても、オレの力は、何処まで進化するんだろうな。

何だか……少し、それが楽しいと、思えてくる。

 

「……何がおかしい?」

 

……また、オレは笑っていたか。

意識していると、中々笑う事が出来ないけど……今は、笑えているのかな。

 

「いや……嬉しいのさ」

 

力を得るのが、怖くない……訳ではない。

自分がどんどん人間から遠ざかっていくのを、否応なしに実感してしまうから。

 

……けれど、それ以上に、嬉しい。

 

自分が強くなる事で……霊夢や魔理沙達と、同じ舞台に立てるような気がして。

 

 

「……貴方は、不思議な人だ」

 

目を伏せ、黙していた妖夢が、静かに口を開く。

 

「こうも容易く、私の想像を遥かに超えてくる」

 

刀の柄を持つ手を緩め、脱力したように顔を上げる妖夢。

 

「全く……驚かされっぱなしだよ」

 

その顔には、笑顔が浮かんでいた。

 

それは、純粋な気持から来る笑顔では無いのかもしれない。

それでも、笑顔には変わり無かった。

 

……やっぱり、これも“弾幕ごっこ”なんだな。

 

なら……最後はやっぱり、後腐れ無く、終わらせたい。

 

 

「……けど、私も黙って負けるつもりは無い」

 

再び刀の柄を強く握り締め、此方を見据える妖夢。

 

「さあ、今度は何を見せてくれるんだ、侵入者!」

 

二本の刀を構え、笑顔は崩さぬままに、そう投げかける。

 

 

 

「……ならば、とくと見るが良い」

 

腕と背、両の龍腕に霊力が滾り、その手の先から光が溢れだす。

 

「そして、その胸に刻み込め。 我が名と共に」

 

その光は、それぞれ一つのスペルカードとなり、その掌へと収まる。

 

 

深く瞳を閉じ、そして、ゆっくりと見開く。

 

「……オレの名は、天月柴芭だ」

 

相対する妖夢もまた、瞳を閉じ、小さく笑う。

 

「……覚えておきましょう、その名を」

 

 

「……行くぞ!」

 

「……来い!」

 

腕の龍腕と背の龍腕、両の拳に握られたスペルカードを、ここに宣言する。

 

 

 竜符「閃光の轍断ち切る烈爪」

 竜符「閃光の轍断ち切る烈爪」

 

 

二枚のスペルカードが同時に光を発し、その光が集まり、一つに凝縮していく。

 

やがて、それは新たなスペルカードとなる。

そして、そのスペルカードを、迷うこと無く宣言する。

 

 

 双竜符「刹那を断つ二重の烈爪」

 

 

天高く掲げた4本の龍腕を、勢い良く振り下ろす。

光を纏った二重の爪から、無限の刃が生まれ出で、視界を埋め尽くす。

 

閃光の轍すら断ち切り、永劫の刃で切り刻む。

 

刃の光に呑まれ行く刹那、視界の端に捉えた彼女の表情は、何処か清々しげな物に見えた。

 

 

 

 

 

「……勝負、あったな」

 

未だ光を発し続ける着弾点を眺めながら、後ろを振り返り、そう呟く。

多少の傷は負えど、死ぬ事は無いだろう。……その為の、スペルカードルールなのだから。

 

 

そんな思考を巡らした刹那、頬を何かが掠める。

 

「……?」

 

掠めて行ったものの正体も掴めぬまま、オレは後ろを振り返っていた。

 

 

 

そこには、ボロボロになりながらも、刀を持って立ち上がる妖夢の姿があった。

 

そこで、漸くオレは理解する。

今しがた頬を掠めて行ったのは、斬撃によって生じた剣圧だ。

 

まだ、それ程の余力が残っていたとは……。

 

 

「……まだ、勝負はついていない!」

 

満身創痍になりながらも、妖夢はそう吠える。

その手に持った刀の刀身には、周囲の炎の壁の如く、青白い炎が燃え盛っていた。

 

……それが、隠し玉という訳か。

 

 

 「……この力、最後に使わせて貰います! 刃符『焔世斬』!!」

 

 

スペルカードの宣言と共に、頭上高く掲げたその刀を、勢い良く振り下ろす妖夢。

直後、剣先からあふれ出た剣圧が、炎を伴い刃となり、此方目掛けて飛来する。

 

4本の龍腕で正面を覆い、その斬撃を受け止める体勢になる。

 

 

……だが、その斬撃は、いつまで経っても此方には飛んで来ない。

妙だな……龍腕による防御を解き、対峙する妖夢の方を見る。

 

妖夢は、事切れたかのように、その場に倒れ込んでいた。

 

……恐らく、技を出し切る前に、力尽きてしまったのだろう。

 

それと同時に、周りを覆っていた炎の壁が消える。

……どうやら、向こうも決着がついたようだな。

 

一先ずは、オレ達の勝利だ。……流石に、疲れたな。

 

 

 

 

 

……さて、と。

 

 

「……何の、つもりですか」

 

その場に倒れ伏した妖夢を抱え上げ、灯籠を背に凭れ掛けさせる。

 

「敵に情けを掛けるなど……」

 

……。

 

「オレは、お前の事を『敵』とは思っていない」

 

「……!」

 

あの時、掛けられた言葉を、そのまま反芻する。

あの言葉を言われた時、どれだけ嬉しかったか、今でも覚えている。

 

「良い、戦いだった」

 

口元が吊り上がっているのが、自分でも分かる。

妙な感覚だ……だが、決して気持ち悪いとは思わない。

 

それが、あるがままのオレなのだろうから。

 

 

「……ええ」

 

妖夢は、静かにそれだけ答えると、そのまま瞳を閉じる。

 

「あ~あ……きっと、怒られるなぁ……」

 

その言葉を最後に、背後の灯籠に背を預け、そのまま眠りについてしまった。

 

 

 

「おお、お前も終わったか」

 

その声がした方向に目を向けると、そこには魔理沙と咲夜が立っていた。

目立った外傷も無く、そこまで消耗した様子も無いが、何処か疲れた様な表情になっている。

 

「大変だったわ……色々とね」

 

どこか不機嫌そうな表情を浮かべた咲夜がそう愚痴る。

 

「ああ、全くだ。 あんなヤツは初めてだ」

 

その言葉に同調するように、魔理沙がため息混じりにそう呟く。

 

 

……一体、何があったんだろう?……まぁ、いいか。

 

それよりも、これからが本番だ。

 

 

「さて、それじゃあいよいよ、親玉とのご対面だ」

 

八卦炉を構え、好戦的な笑みを浮かべる魔理沙。

 

「いい加減、幻想郷の春が恋しいわ」

 

お気に入りのナイフを構え、遥か先の桜を見据える咲夜。

 

 

「……待っていろ、異変の元凶」

 

 

もうすぐ、雌雄を決する時だ。

 

 

 

 




気を付けな、戦場でのヤツはクレイジーだ。


妖夢vs柴芭、ほぼ肉弾戦でした。
刀と腕では、繰り出す速度の関係で、やはり腕の方が早かったようです。

妖夢には圧倒的なスピードと、相手を翻弄する技がありました。
でも、主人公が勝つ(暴論)


・おまけ・
中盤辺り、妖夢が使った、瞬時に相手の背後に移動する技ですが、あれは、紅炎編の「刀光剣影」のお話で、妖夢が編み出した技です。凄まじい瞬発力と筋力が成し得る技で、今回は柴芭相手にも十分効力を発揮しました。ちなみに、パンツは見えません。
技名は『転廻(テンカイ)』(という設定)。


次回、「冥府に炫やく影桜」。闇の炎に抱かれてアッチッチ。
更新予定は、7月5日を予定しております。


◇今回登場したスペルカード◇

少ねェ上に全部オリジナルですよ奥さん。

双竜符「刹那を断つ二重の烈爪」
柴芭のスペルカード。ダブル爪爪。
「閃光の轍断ち切る烈爪」を2枚同時に発動した事で発動。
威力は前者に劣るものの、手数と範囲は倍になっている。
発動時には背中からもう一対の腕が生える。きもいね。

刃符(じんぷ)焔世斬(えんせざん)
この作品のみのオリジナルスペル。妖夢が使用。
炎を纏った刀身から発する剣圧によって、炎の刃を生み出す。
この炎、何処かに当たると分散し、弾幕として広がっていくとか。
作中では、最後まで発動できなかったので、いずれどこかで使用したい。
名前の由来は、妖夢の「人符『現世斬』」をもじったもの。



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