神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
この作品を見て下さった方々に、多大なる感謝を。
今後も、皆様のご期待に添えるよう、慎ましく執筆を続けて行きます。
今回は、vs紅炎です。
久方ぶりの10000字超え、戦闘描写は大変です。
今回は、咲夜さんの一人称視点でお送りします。
-あらすじ-
冥界へ辿りついた一行。そこには、二人の剣士が待ち構えていた。
紅炎の炎の壁によって一行は分断され、柴芭は魂魄妖夢と戦う事に。
新たなる能力の覚醒により、柴芭は戦いを制した。
突如として出現した炎の壁によって、私達は分断されてしまった。
あの炎は、彼奴の能力なのだろうか?……熱を感じる辺り、実際の炎なのだろう。
柴芭は一人になってしまったけれど……そこまで心配はしていない。
今の彼ならば、そう簡単に負ける事は無いだろう。
……むしろ、危惧しなければならないのは私達の方だ。
先程まであの男の傍らにいた少女は、恐らく彼の仲間なのだろう。
その気になれば、二人掛かりで此方を迎え撃つ事だってできた筈だ。
だが、あの男は敢えて二つに分断し、自ら2vs1の状況へと持ち込んだ。
それはつまり、私達二人を一遍に相手取る自信があるということ。
無謀……とは思えない。対峙する男からは、一切の緊張や動揺を感じ取れない。
それに、先程見せた斬撃……時を遅めて尚、人間の動体視力では追い切れない程の速度だった。
……今までとは、レベルが違うってワケね。
「さてさて……とりあえず、自己紹介と行きますかね。 俺の名は紅炎ッス」
紅炎と名乗ったその男は、暢気な口調で話し始める。
炎を背に立つ紅炎のシルエットが、陽炎の如く揺らめく。
数度瞬きをする間に、彼は数歩分距離を詰めたのか、少しだけその姿が大きく見える。
あの時傍らにいた少女よりも、頭一つか二つ分程高いであろう背丈。
温厚そうな表情とは裏腹に、対峙する者に対しては、妙な威圧感を与える。
「故あって、
お嬢様……と言うのが、今回の異変の主犯という事になるのか。
「つまり、お前を倒して先に進め……って事になるのか」
私の隣に立っていた魔理沙が一歩前に踏み出し、そう問いかける。
気圧されんばかりのプレッシャーを放つ
「ま、そーッスね。 ……けど、そう簡単に勝てるかな?」
先程とは打って変わって、好戦的な笑みを浮かべる紅炎。
霊峰の頂から地上を俯瞰するかのように、獰猛な眼で魔理沙を見下ろす。
「舐めてもらっちゃ困るぜ? この霧雨魔理沙様をな!」
そう豪語し、霊峰の頂を眺めるかのように、紅炎を睥睨する魔理沙。
霧雨魔理沙……博麗霊夢の傍らで、幾度もの死線を潜り抜けて来た剛の者。
彼女もまた、数々の異変解決に携わって来た、異変解決者。
自信に満ち溢れた彼女の言動も、そういう経験があるからか……或いは、生来の性格なのか……きっと、彼女自身にしか分からない事だろう。
その自信が、今はとても頼もしい。
……ほんの一瞬頭を過った、敗北のイメージ。
それらを全て拭い去ってくれるようで、とても頼もしい。
時折、その自信を羨ましく思う。
「大した自信ッスねぇ。 ……だが、そういうヤツは嫌いじゃねぇ」
魔理沙の言葉を受けた紅炎は、一瞬驚いたような素振りを見せるも、再び不敵に笑む。
臆する様子の無い魔理沙の言葉は、彼の中の何かに触れたのだろうか。
「行くぜ咲夜! ビビって腰抜かすなよ?」
此方に向き直り、そんな言葉を投げかけてくる魔理沙。
……何よ、それは。発破を掛けているつもりなのかしら?
「貴方こそ、私の足を引っ張らないでよね」
そんな言葉が、自然と私の口から零れる。
売り言葉に買い言葉、皮肉の一つも返せなきゃ、コイツの相手は務まらない。
「……そんだけ軽口叩けりゃ、上等だ」
……!
「期待してるぜ、咲夜」
……。
「……任せなさい」
もう、不安なんて無いもの。
「どうやら、そっちも準備完了みたいッスね」
私達のやりとりを見ていた紅炎が、そう言葉を投げかける。
わざわざ終わるまで待っていてくれたのね……案外、フェアな精神があるわね。
当然、私達は準備完了だ。
互いに目配せをする。……覚悟アリ、って所ね。
「……んじゃ、行くぜ!」
組んでいた腕を解き、背負っていた大刀を腰に据える紅炎。
そのまま体勢を深く構え、剣道で言う所の『居合』の姿勢になる。
あれ程の長さの刀、抜くのにも苦労しそうな気がするけれど……一体どういう、
「伏せろ、咲夜ッ!」
突如魔理沙が叫び、私は魔理沙に押さえつけられ、地面に叩き伏せられる。
直後、頭上を何かが掠める音がした。
「っ……! ちょっと、どういうつもり……」
魔理沙が手を離した為、石畳に打ち付けた額を押さえながら抗議を試みる。
だが、魔理沙は数度小さく首を横に振った後、後方を指差す。
「避けてなかったら、ああなってたよ」
魔理沙が差す方向には、上半分が無くなった灯籠があった。
それだけでは無く、その軌道上にあった、石畳に沿って規則的に並んだ灯籠もまた、全て上部分が消滅していた。
再び前に目を向ければ、既に刀を抜いたのか、大刀の切っ先を此方に向け、口角を上げて此方を睨む。
……成程、ね。
「……助かったわ」
「礼には及ばないさ」
魔理沙はそう謙遜するものの、本当に危なかった。
斬撃が飛んでくると、予測する事すら出来なかった……きっと、時を止めようとしても、間に合わなかっただろう。
……しっかりしなきゃ、私。
「よくもやってくれたな、このロン毛剣士。 今度はこっちの番だ!」
体勢を立て直した魔理沙が、箒に跨り、紅炎に向けて突貫する。
「ロン毛じゃなくて紅炎ッスよ」
目の前に魔理沙が迫っているにも関わらず、間延びした口調でそう訂正する紅炎。
だが、真正面の魔理沙を見据えるその目からは、油断の二文字は窺えない。
「熱ッ!?」
突如、短い叫び声が響く。魔理沙の物だ。
その直後、魔理沙は箒から転げ落ち、地面に叩き付けられる。
「魔理沙!?」
慌てて駆け寄るも、魔理沙はすぐに起き上がり、右手を上げる。
どうやら、特にダメージを負った訳ではないようだ。
けれど、一体何が……?
「くそっ……あれじゃあ、近付けないぜ」
「近付けない、ですって? 一体、どういう……!!」
身体を起こした魔理沙が零した言葉に疑問符を浮かべるも、その意味はすぐに理解した。
紅炎の身体の周囲に、赤い炎が渦巻いていたのだ。
「あれは、一体……!?」
目の前の現象を理解できず、思わず言葉が零れる。
「まぁ、バリアみたいなもんッスよ」
そんな私の疑問に答えるかのように、紅炎が言葉を挟む。
「バリア、ですって……?」
バリア――その言葉の意味が理解できない訳では無い。
それは、障壁や防壁といった意味の言葉で、即ち、攻撃から身を守る物という意味。
魔理沙の突撃を防いだ辺り、身を守るという役割は果たしていると言えるだろう。
さりとて、目の前の炎の渦がバリアだという確証が持てない。
目の前の
「厄介な炎だな……なら、これでどうだ!」
魔理沙が紅炎に向けて星型の弾幕を放つ。
キラキラとした独特のエフェクトを纏いながら、紅炎に向けて迫っていった弾幕は、
「何っ!?」
紅炎を前にして、全て掻き消された。
彼が纏う炎の渦によって、弾幕が焼き尽くされたのだ。
「効かねーッスよ」
嘲笑するでも無く、侮蔑するでも無く、さも当然といった口調で、そう投げかける紅炎。
弾幕を防ぐ……というのならば、私のナイフも……?
「……なら、これはどうかしら?」
太腿のポーチからナイフを数本取り出し、紅炎に向けて投擲する。
魔術による補正も呪いも受けていない、何の変哲もない普通のナイフ。
霊力や魔力によって生み出される弾幕とは違い、完全な無機物に過ぎない。
もしあの炎が、霊力や魔力等を防ぐ為の壁ならば、このナイフは防げない筈……。
「だから、効かねーっつーの」
少々辟易した様子の紅炎が、そう呟く。
投擲したナイフがバリアに接触した瞬間、その部分だけ炎が青く染まる。
すると、ナイフの刀身はたちどころに溶解し、柄諸共、跡形も無く燃え尽きてしまった。
まさか、ナイフまで効かないだなんて……。
鉄で出来たナイフが溶けた所を見ると、少なくとも、表面の温度は1500℃を優に超えるだろう。
……接近は、無理みたいね。
「くそ~……一体どうやって戦えばいいんだよ!」
悔しさに表情を歪めながら、地面を強く踏みつける魔理沙。
確かに、気持ちは分かる。このままでは手の出しようが無い。
何か、何か突破口は無いのだろうか……?
「一つ、ヒントをやるッスよ。 ……『周りを良く見ろ』ッス」
考えに耽っていると、不意に紅炎がそう語りかけてくる。
ヒント……?『回りを良く見ろ』……?一体どういうつもりなの……?
「俺は基本的に、ゲームをやる時は攻略本とかを見ない主義ッス。
そうした方が考える力が養われるし、何よりそっちの方が面白いからな」
此方の反応等歯牙にも掛けず、そう言葉を続ける紅炎。
言っている言葉の内容は良く分からないけれど……要するに、『突破口は自分で見つけ出せ』って事なのかしらね。
ヒントは、貰った……見つけて見せるわ、必ず。
「……さぁ、攻略してみろ! 火符『レッドホットスノウ』!」
紅炎が手を翳すと、そこから赤いスペルカードが出現する。
炎の中から生まれ出でた
すると、空から何かが降り注ぎ始める。
注視すれば、それらは赤い色をした雪のような物体だった。
それらはしんしんと降り注ぎ、やがて地上へと舞い落ちて行き……
耳を
「なっ……!?」
魔理沙が驚愕の声を上げる。私だって同じ気持ちだ。
ただ色が赤いだけの雪かと思われた物が、まさか爆弾だったなんて……。
「アレへの接触は拙いわ……避けて、魔理沙!」
「わ、わかってる!」
そう檄を飛ばせば、はっとしたように顔を上げ、返事をする魔理沙。
降り注ぐ赤い雪は、速度こそ遅いものの、その密度は非常に濃い。
触れれば爆発するという性質上、接触しないよう慎重に動かざるを得ない。
降り注ぐ弾幕の合間を縫いながら飛翔する魔理沙。
一発一発、危なげ無い動きで、着実に回避している。あちらは問題無いだろう。
私は、私に出来る事を……否、
目を閉じ、内に眠る力を滾らせ、脳裏に唱える。
――時よ、止まれ。
閉じた瞳を開けば、先程までと変わらぬ光景が広がる。
降り注ぐ赤い雪、爆炎の中を突き進む魔理沙、炎の渦を纏った紅炎。
全てが、先程までと何一つ変わらない。
それら全てが、動かない事以外は。
私の能力は、『時を操る程度の能力』である。
時間を支配するこの能力を以てすれば、世界の時を止める事だってできる。
吹き付ける風も、燃え盛る炎も、何も感じない。
ただ、静寂だけが支配する世界で、私は自分の仕事を始める。
何か……何か、ある筈だ。
彼のあの発言を鑑みるに、きっと何処かに、あの
時の止まった空間を駆け巡り、手掛かりを探し回る。
空を覆う無数の赤い雪も、止まってさえいれば全く脅威では無い。
反則と思うかも知れない。……けれど、これも立派な戦術だ。
能力を最大限活かし、勝利に繋げる。何も、おかしなことでは無い。
……あれ程、忌まわしいと思ったこの力が、今では欠かせない存在になっている。
だからこそ、私は
「あれは……?」
私達を閉じ込めている炎の壁の一部分に目を向けると、何か違和感に気付く。
良く見れば、その赤い壁の一部分だけが、青い炎になっている事に気が付いた。
ひょっとすると、これがバリアを解くカギなのだろうか……?
「……試してみる価値は、ありそうね」
再びナイフを取り出し、その青い炎に接近する。
そして、その炎に向けてナイフを投擲する。
時の止まった世界では、私以外に動く事は出来ない。
故に、私の手元を離れたナイフは、その場でピタリと止まる。
その刃が炎に到達する事は、再び時が動かない限り、決して無い。
――そして、時は動き出す。
時間にして、0秒経過。
そう……時が止まった瞬間から、1秒たりとも進んではいない。
時が止まっていたのだから、当り前ではあるのだが。
再び世界が動き出し、情景は目まぐるしく変わっていく。
そして、止まった時の中で私が投擲したナイフが、青い炎に到達する。
刹那、パキン――と、何かが割れるような音が響く。
「ッ!!」
すると、紅炎の身に纏っていた炎のバリアが、音も無く消え去った。
どうやら、あの炎が、彼のバリアを発生させていたようだ。
攻撃を与える事が可能になったと確信し、思わずその場で小さくガッツポーズを取る。
「やったぜ咲夜! これでアイツのバリアが消えた!」
魔理沙の歓喜の声が聞こえてくる。弾幕の雪の中、まだまだ健在そうだ。
喜ぶのも無理は無い。……だが、油断は禁物だ。
……きっと、これからが本当の勝負なのだろうから。
降り注ぐ雪が止んだ事で、スペルカードの終了を察知する。
箒に跨って飛行していた魔理沙は、私の傍まで戻ってきて、地上に降り立つ。
俯いていた紅炎は、顔を上げて、小さく笑う。
「やるッスねぇ。 こうもあっさりバリアを解いちまうかい……」
自身を守る盾を失ったにも関わらず、その表情から焦燥は感じさせない。
それどころか、何処か嬉しそうに微笑んでいるようにも見えた。
「……けど、本番はこっからッスよ」
そう投げかけ、再び好戦的な笑みを浮かべる紅炎。
「まぁ、そうだろうな」
その言葉に、魔理沙が小さく頷く。
互いに睨み合う両者の眼には、紛れもない闘志が宿っていた。
「俺は剣士だ。 ……剣士の本領、見せてやるよ」
再び大刀を握り締め、剣先を此方に向けて威嚇する紅炎。
「なら、私は魔法使いの本領発揮だ! 咲夜も、メイドの本領を見せてやれ」
そう矢継ぎ早に告げた魔理沙は、再び紅炎に突撃し、弾幕を放つ。
魔理沙に遅れないように、私も続けて前に出て、ナイフを数本投擲する。
……「メイドの本領って何よ?」というツッコミを入れる暇さえ与えてくれなかったわね。
「うぉっとっ! アッハッハ、イキナリ飛ばすッスねぇ~!」
そう快活に笑いながら、走り回って弾幕を回避していく紅炎。
なんて言うか、危機感が無いというか、緊張感が無いというか……。
だが、そうやって逃げ回っていられるのも、もうすぐ終わりでしょう。
紅炎の走る軌道の先には、自身の能力によって生み出したであろう炎の壁。
行き止まり……つまり、墓穴を掘った事になるワケね。
「どうやら、逃げ道はもう無いみたいだな」
まるで勝利を確信したかのように笑みを浮かべる魔理沙。
「いや、そ~でもないッスよ?」
そんな魔理沙の言葉に対して紅炎が用意したのは、それを否とする旨の答え。
直後、紅炎は、炎の壁を、駆け登った。
まさか……一体どうやって、人間が……イヤ、生き物が炎を登るって言うの!?
炎はあくまで、光と熱を発するだけの現象に過ぎない筈……その炎が、一体どうやって実体を持ったりするのよ……!?
私の隣にいる魔理沙は、口をあんぐりと開けて放心している。
信じ難い物を見たのだから、仕方ないと言えば仕方が無いだろう。
……それにしても、面白い顔ね。
ついに紅炎は、その炎の壁の一番上まで登り切った。
そして、そこで何かを取り出し、此方に向けて投げつける。
一直線に落下して来たその物体は、良く見ればスペルカードだった。
地面に刺さったそのカード、辛うじて名前だけは確認できた。
天符「天道如意輪剣」
その直後、空から何かが降ってくる音が聞こえる。
それを聞いた瞬間、私は悟った。
――アレだけは、避けねばならない。と。
「魔理沙ッ!!」
隣に立つ魔理沙の名を叫ぶ。
その声で我を取り戻したのか、魔理沙が慌ててその場から飛び退く。
私も同様に、落下予測地点から大きく離れた場所へと移動する。
刹那、目の前が閃光で埋め尽くされる。
瞬息、凄まじい轟音と共に、大地が崩壊する。
土煙が晴れると同時に、破壊が起きた場所に目を向ける。
「ッ……!!」
そこには、まるで蜘蛛の巣の如く、幾重にも連なった亀裂が奔っていた。
俯瞰すれば、それは、仏の後光のようにも見えた。
なんて破壊力……これが人間の力なの……?
もし、アレが直撃していたら……いや、やめよう。考えるだけでも、怖い。
「……すまない、助かった」
「礼には及ばないわ」
どこかデジャヴを感じるようなやり取りを済ませる。
それよりも、気になるのは、先程炎を登った事……あれも、能力なのだろうか。
「……多分、二人が今抱いているであろう疑問、それを先ずは解決しておくッス」
いつの間にか体勢を立て直していた紅炎が、此方に向き直り、そう告げる。
魔理沙も、その言葉に耳を傾けていた。……ここは、清聴させてもらいましょう。
「俺の能力は、『炎を操る程度の能力』ッス。 ……そのまんまだ、とか思うなよ」
そのまんまね……ハッ!?
「その名の通り、炎を自由自在に操る事が出来る。
焚火の火だったり、蝋燭の火だったり……全てを焼き尽くす炎だったり、な」
全てを焼き尽くす炎……そんなおっかない物、存在して欲しくないわね。
「俺の意志一つで、炎はあらゆる物に形を変える。
……例えば、鉄をも断つ刃になったり、三途の川すら渡り切れる橋になったり」
形を変える……即ち、性質を変える……まさかっ!?
「……そっちのメイドは、察しがついたみたいだな。
その通り、俺は炎の性質を変えて、炎の壁を文字通り“壁”にしたって訳さ」
何でもありね……本当に人間なのかしら、彼は。
とはいえ、霊夢や柴芭……それに、私という前例がいる訳だし……。
改めて、彼が幻想郷の住人なのだと実感した。
……とはいえ、此処は冥界なのだけれどね。
「さて……それじゃあ、不正解だった魔法使いの方は、罰ゲームッス!」
そう言って、未だ呆けた表情の魔理沙を指差す紅炎。
何時の間にクイズをやっていたのだ、というツッコミを入れたい衝動に駆られたが、寸でのところでそれは堪えた。
指を差された魔理沙が、突如炎の中に閉じ込められたからだ。
「へっ? ちょっ……!? えぇっ!?」
素っ頓狂な声を上げながら、自身を取り囲む炎を見上げて慌てふためく魔理沙。
檻のように格子状に張り巡らされた炎、人一人が抜け出すスキマは、無い。
「くそっ! 出しやがれ! って熱っ!!」
「おいおい、じっとしてろよ~。 炎の性質は鉄格子のように変えてあるけど、触れば火傷するのは炎と変わらないからな~」
炎の檻に囚われた魔理沙は、何とか脱出しようと足掻くも、炎の熱を前に折れる。
……どうにか助け出したいけれど、
「心配すんなって。 一人ずつ、片付けてやるよ」
それは、心配要素しか無いのではないだろうか。
そんな思考を彼方に捨て去り、目の前の敵に意識を向ける。
明確な敵意を込めた視線を投げかけるも、相手はそれを意に介さない。
まるで柳に風……或いは、炎にナイフといったところか。
睨み合いの最中、不意に紅炎の眼が獰猛さを湛える。
来るか……!何が来ようとも、回避して見せるっ
「仕留めてやるッスよ! 人符『不空羂索斬』!」
そう叫んだ紅炎が、スペルカードを宣言する。
再び大刀を腰に据え、深く構える紅炎。……二度も、同じ手は食わないッ!
――時は、減速する。
時間の進みが遅くなり、世界がスローモーションのようになる。
この世界で、正常に動けるのは、私一人。
他からは、今の私は、目にも止まらぬ速さで動いているように見える事でしょう。
紅炎が抜刀の動きに入る。
時が遅くなっているというのに、その動きは、常人が刀を引き抜く速度と何ら変わりない。
……もし、時間が普通に進んでいたのなら、避ける事は不可能だっただろう。
抜き放った刹那、その斬撃によって空が裂かれ、衝撃波となって此方に飛んでくる。
当たる訳にはいかないので、その場でしゃがんで回避する。
人間の全力疾走にも匹敵するであろう速度の衝撃波が頭上を掠める。
……本当に、時間を遅めて正解だったわ。
――そして、時は加速する。
再び時間の進みが元に戻ると、凄まじい風圧が私を歓迎する。
物体が超音速で飛来した際に生じる衝撃波……だとは、思いたく無い。
「マジッスか……」
流石に、今の斬撃を回避されるとは思っていなかったのだろう。
驚いた様子の紅炎が、そう言葉を零す。
……少しだけ、胸がすくような気持ちになった。
「……けど、甘いッスよ」
なっ……!?甘い、ですって……?いったい、どういう……
「咲夜ッ! 後ろだ!」
魔理沙の言葉を受け、後ろを振り返る。
「なっ……!?」
回避した筈の斬撃が、軌道を変え、此方目掛けて飛んで来た。
そんな……いったい、どうして……!?
「……狙った獲物は逃さない。 何処までも追いかけて、捕まえる」
逃げなきゃ……でも、身体が動かない。
拙い……!このままじゃ……!動いて、身体……!
そう祈っても、願いは届かない。
身体を置き去りにして、思考の時間だけが早まっているかのよう。
「ッ……!」
斬撃はもう、眼と鼻の先。
これから起こるであろう惨状と痛みを想像し、思わず目を瞑る。
……
…
『マスタースパークッ!!』
その叫び声と共に、目の前が七色の光で埋め尽くされる。
眼前まで迫っていた斬撃は、その光に呑み込まれ、跡形も無く消え去る。
魔法……否、それは魔“砲”と呼んだ方が相応しいだろう。
レーザーと呼ぶには余りにも太い、膨大なまでの魔力の奔流。
その技を放てる者を、私は一人しか知らない。
「魔理沙!!」
驚愕、歓喜、高揚……様々な感情が湧き上がり、光を発した者の名を叫ぶ。
「ああ、私だぜ」
自信に満ち溢れていて、何処か頼もしいその姿は、今の私には救世主のように見えた。
「けど、一体どうして……」
一体どうやって、魔理沙は炎の檻から抜け出したのだろう。
それを質問しようとするも、魔理沙に手で遮られる。
みなまで言うな、という事なのだろうか?
「アイツが言っていただろう? 炎の性質が云々って事をさ。
私を閉じ込めていた炎が鉄格子と同じ性質だって言うんなら、それをこじ開けてしまおうって思ったのさ。
……ま、結果的に咲夜も助けられて、一石二鳥ってヤツだな」
魔理沙……あの一瞬の間に、そこまで考えていたのね。
「……全く、無茶するわね」
「弾幕は、パワーだぜ」
八卦炉をこめかみに持ってきて、小さくウィンクをする魔理沙。
どうやら、全く反省する気は無いらしい。……まぁ、彼女らしいけれどね。
「マジッスか……って、これ二度目だし」
流石に、こればかりは本当に予想外だったようだ。
心底驚いた様子の紅炎は、思わず先程と同じ言葉を繰り返し、自分でツッコミを入れる。
翻弄され続けてきた分、翻弄してやったという事実が、より一層カタルシスを生む。
「咲夜」
人知れず高揚していると、不意に魔理沙が声を掛けてくる。
「ちょいと、作戦があるんだ」
作戦……?
「良いか? ―――」
……成程、ね。それは、さぞかし楽しいでしょうね。
「分かったな?」
「ええ、分かったわ」
短くやり取りを終えた魔理沙は、改めて紅炎の方へ向き直る。
「さぁ、そろそろ決着を付けようぜ、紅炎」
魔理沙は、いつもの自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、紅炎にそう投げかける。
「……そうッスね」
紅炎の方も、全てを理解したかの様に小さく笑い、そう答える。
ひょっとして、彼は……
「……行くぜッ!」
目の前の紅炎目掛けて、魔理沙が星のような弾幕を放つ。
夜空に浮かぶ星の如く煌めく弾幕は、炎に包まれた空間を彩っていく。
「効かねーぜ、こんなモン!」
弾幕を前にしても、全く怯む様子の無い紅炎。
大刀を水平に寝かせ、横に一閃、薙ぎ払う。
その瞬間、目の前に展開していた弾幕は、全て真っ二つに切り裂かれた。
……かかったわね。
「うぉっ!?」
切り裂かれた弾幕は、突如として眩い光を発する。
突如生じた光によって、紅炎は思わず目を覆う。……今が、チャンス!
「幻世『ザ・ワールド』!」
――再び、時よ止まれ。
光の中でも動けるよう、魔理沙に手渡された丸薬を口に放る。
多少の苦味はあったものの、そこには目を瞑った。
これにより、光によって目を塞ぐ必要は無くなった。
……心おきなく、動ける!
動きの止まっている紅炎の周囲に、ナイフをばら撒きまくる。
呆れるくらい、大量に。時が止まっているからこそ、出来る芸当だ。
……手持ちのナイフが無くなった。もう、この辺で良いだろう。
――そして、時は動き出す。
世界の時間が動き出し、彼の周囲のナイフもまた、一斉に動き出す。
果たして、このナイフの壁を超える事ができるかしら?
「っ!? ……なんの!」
一瞬眼を見開くも、素早く意識を切り替え、迫るナイフを叩き落とす紅炎。
流石に、剣士である。その一挙一動、全てがナイフを無駄無く叩き落としていく。
……だが、これで良い。
「へっ、この程度で……!?」
そう言いかけた紅炎は、上空を見上げて、言葉を失う。
……まぁ、無理も無いだろう。
光を纏って突撃してくる魔理沙が、目の前まで迫っていたのだから。
「コイツで最後だぜ! 彗星『ブレイジングスター』!!」
そう、最初から私のナイフは、ブラフに過ぎなかった。
最初に魔理沙の弾幕で紅炎の目をくらまし、その上で私が時を止めてナイフをばら撒く。
すると当然、相手はそのナイフに意識が向かう。
そこで、魔理沙が決める……という訳だ。
二重の罠……この戦法には、彼も気付かなかったようね。
「……やれやれ、負けたよ」
小さく苦笑した紅炎は、己の敗北を認め、光に呑まれていった。
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少々長引いたものの、戦いは何とか勝利に終わった。
一筋縄ではいかないだろうと思ってはいたけれど、まさかあれ程とはね……。
……けど、戦いには勝った。それは紛れもない事実だ。
「はぁ~……やっぱ、負けちまったかぁ」
石畳の上に尻餅をついたまま、がっくりと肩を落とす紅炎。
「足止めは成功した、のかなぁ? ……まぁ、いいか」
そんな事を呟きながら、一人頷いては顔を綻ばせる紅炎。
割と適当……というか、あまり引きずらないタイプなのかも知れないわね。
「戦いはそっちの勝ちだ。 行く手を阻む壁は、もう無いッスよ」
そう言われれば、辺りを囲っていた炎が消えている事に気付く。
「後は、せいぜい頑張ってくれッス。 ……それじゃあな」
それだけ告げると、紅炎はそのまま階段の歩いて行き、去って行った。
「……なんというか、疲れたぜ」
その場にへたり込んだままの魔理沙が、そう小さく呟く。
「ええ、そうね……」
その言葉に私も同調する。確かに、今回の戦いは疲れた。
……少しだけ、休憩してから、向かおう。
本当に負けられない戦いが、まだ控えているのだから。
自分を信じて、勇気を出して、一歩踏み出せば、世界は変わる。
紅炎vs魔理沙&咲夜、いかがでしたでしょうか。
時を操る咲夜の能力を、最大限生かした戦いを演出してみたかったんです。
紅炎の能力判明。オリ主の中では、一番早くに能力を明かしました。
炎の性質を変えるという点に関しては、紅炎編のプリズムリバー三姉妹との戦いの中で、それらしい事を仄めかしてはいました。
伏線が分かりにくい事で、有名になりたい(錯乱)
次回、「Ultimate Truth」。ついに、異変の元凶との戦い。
7月12日、更新予定です。
◇今回登場したスペルカード◇
オリジナルなのが多めです。
彗星「ブレイジングスター」
魔理沙のスペルカード。「ブレイジングスター」の完成形。
試作段階よりもより洗練された光の弾幕で、相手を包み込む。
この名前で登場したのは、原作の萃夢想からだが、フライング。
火符「レッドホットスノウ」
紅炎のスペルカード。赤くて熱くて雪だぜ。
赤い雪のような弾幕を降らせる。雪は地面に落ちると爆発する。
名前の由来は、アメリカのロックバンド『Red Hot Chili Peppers』の“Snow(Hey oh)”という曲から。
単に作者が好きなだけです。
天符「天道如意輪剣」
紅炎のスペルカード。六道をイメージした剣技の一つ。
遥か高空から地面に向けて、叩きつけるように切り裂く。
ぶった切ったところは、後光のように亀裂が広がる。
名前の由来は、六道における「天道」を司る「如意輪観音」から。
人符「不空羂索斬」
紅炎のスペルカード。六道をイメージした剣技の一つ。
所謂、『飛ぶ斬撃』だが、この斬撃は、相手を追尾する。
速度も非常に速いので、上手く何かに当てて撒くしかない。
名前の由来は、六道における「人間道」を司る「不空羂索観音」から。
「羂索」とは、狩猟の際に用いられる投げ縄で、その辺も由来になっている。