神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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諸事情により、数日ほどパソコンに触れられぬ日が続いておりました。
その上、文章も中々良い物が出来ませんでした……これがスタンプか(錯乱)
よって、久しぶりの投稿となります。

もうすぐ夏休みなので、そろそろ投稿のペースを取り戻して行きたいところです。


-あらすじ-
炎によって分断された一行。咲夜と魔理沙の相手は、もう一人の剣士である紅炎だった。
圧倒的な攻撃力と巧みな戦術、そして自在に炎を操る能力も相まって、中々の強敵だった。
退ける事に成功した二人は、柴芭と合流し、先を急ぐ……。



Ultimate Truth

行く手を阻む炎の壁は消え去り、進むべき道が彼らの前に現れる。

 

迷いは無く、唯前だけを見つめて、彼らは突き進む。

 

 

異変の元凶が待つ場所へと進む彼らの間を、一陣の風が吹き抜ける。

先程まで戦いがあったとは思えぬ程に、辺りは静寂に包まれており、その風音だけが、静寂の中に強く響いた。

 

「ケガは、無いようだな」

 

髪をかき上げながら、隣を歩く魔理沙達にそう投げかける柴芭。

 

「当然さ。 私の実力は知っているだろう?」

 

柴芭の言葉に、魔理沙は得意気な笑みを浮かべ、そう言葉を返す。

 

「……そうだな」

 

魔理沙の問いに対し、柴芭はさも『当然の事』だといった口調で答える。

 

柴芭は、彼女が百戦錬磨のシューターである事を、十分に理解していた。

それ故に、柴芭は彼女の実力を信頼し、その勝利が揺るぎない物であると確信していた。

 

「あんまりゆっくり話している暇は無いわよ」

 

話を始めた二人に、咲夜が少し不機嫌そうにそう投げかける。

敵地にありながら、暢気に言葉を交す二人の態度が気に障ったのか、或いは、自分がのけ者にされつつある事に不満を感じたのか、それは本人にしか分からない。

 

「ああ、わかっているさ」

 

咲夜の言葉に苦笑しつつ、緩んだ気を引き締めるかのように、御自慢のとんがり帽子を目深に被り直す。

 

「いよいよ、ラスボスとの戦いよ。 ……覚悟はいいかしら?」

 

腕を組み、後ろを振り返りながら、そう問いかける咲夜。

一瞬の間を置き、柴芭はその言葉が、自身に対するものであると理解する。

 

「……問題無い」

 

そして、その問いに対し、それを肯定する答えを用意する。

真正面に咲夜を見据えて答える彼の瞳には、迷いの色は無い。

 

その言葉を受けて、咲夜は小さく笑む。

 

「なら、行きましょう」

 

咲夜がそう投げかければ、魔理沙と柴芭は小さく頷く。

 

その言葉を皮切りに、再び彼らは歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

------

 

 

彼らの目の前に現れたのは、見渡す限りの桜の木々。

幻想郷中の春が集約されている白玉楼の庭には、その副産物とでも言うべきか、(おびただ)しい数の桜の木が、その身に満開の花を咲かせていた。

 

その光景に圧倒されつつも、桜並木を練り歩く魔理沙達。

 

「しかし、すごい桜だな。 どこもかしこも満開だ」

 

そう呟き、目の前に広がる光景に舌を巻く魔理沙。

 

「確かに……目を奪われそうな光景ね」

 

魔理沙の言葉に同調し、自身も魔理沙と同じ方向を見上げる咲夜。

桜の木を一心に見つめるその瞳は、心なしか普段よりも輝いて見える。

 

「おいおい、やめてくれよ。 目どころか魂まで奪われそうだぜ」

 

そんな咲夜の様子を見て、魔理沙はそうおどけてみせる。

 

「確かに。 人間には目の毒かもね」

 

魔理沙の言葉を受けて、右手で目を覆う仕草をする咲夜。

 

言葉そのままに解釈するあたり、案外天然染みた所があるのかもしれない。

隣で見ていた魔理沙は、言外にそんな事を考えるも、すぐに意識を切り替える。

 

「さっさと異変を終わらせて、夜桜を楽しみたいな。

こんな辛気臭い場所じゃ無くて、神社の境内とかでな」

 

当の神社の巫女がその言葉を聞いたら、あからさまに顔を顰める事だろう。

 

そんな想像を浮かべ、苦笑を浮かべる咲夜だったが、何か違和感に気付く。

 

「……柴芭?」

 

先程まで後ろにいた筈の柴芭の姿が見えない。

 

途中から足音が途絶えていた事に、話に夢中で気が付かなかったようだ。

隣の魔理沙も、柴芭がいなくなっていた事に気が付いたようで、はっとした表情を浮かべ、辺りを見回し始める。

 

 

数秒の後、柴芭の姿はすぐに発見される事となる。

 

「いた……あいつ、何やってんだ?」

 

捜索されかけた当の本人は、二人の後方にある桜の木の前で片膝を突いていた。

そこに何かがあるのか、一点に根元を見つめ、微動だにしない。

 

「おい、何かあったのか?」

 

その様子が気になった魔理沙は、しゃがみ込んでいる柴芭に声を掛ける。

 

その声に、一度は顔を上げ、魔理沙の方を見るも、再び視線は根元へと向かう。

やはり、あの木の根元に何かがあるのだろう。そう確信を抱いた咲夜は、柴芭の元へと近付き、彼が食い入るように見つめる物の正体を覗き込む。

 

「桜の……花びら?」

 

そこにあったのは、桜の花びらに似た一輪の花。

 

満開の桜の下、ひっそりと咲くその花は、何処か哀愁を感じさせる。

 

「似ているけど、これはシバザクラの花だな。 春に咲く花ではあるが、本来なら開花の時期にはまだちと早いぜ。 ……これも、春の集まった影響かねぇ」

「へぇ、そうなの」

 

咲夜の言葉を訂正しつつ、その花に関する解説を交えて説明する魔理沙。

魔理沙の花に対する造詣の深さに、少しだけ驚いた様子の咲夜は、そう相槌を打つ。

 

 

「シバザクラ……」

 

自身の名に似た、その花の名を反芻する柴芭。

 

 

天月柴芭という人間が、一体どういう人物なのか。

彼に近しい物であっても、その実態を知る者は少ない。

 

語る事も無ければ、表情に現れる事も無い為、『彼』を知る事は困難を極める。

外の世界の隠里にて、彼と共にいた者達でさえ、理解し切れてはいないのかも知れない。

 

好きな物、興味の対象、それらに対して抱く感情。

全てにおいて、彼はそれを表に出さない。

 

故に、彼という人物を、魔理沙は推し量り切れずにいた。

 

だからこそ、シバザクラの花に対して興味を持っているような素振りを見せた柴芭の行動が、彼女の中で、妙に強く印象に残ったのだ。

鉄仮面の如く無表情な彼が時折見せる、僅かな表情の変化一つを取っても、彼女にとっては大きな発見なのだ。

 

 

そんな考えを心の内に仕舞い込み、誰にも悟られぬよう、小さく笑みを零す魔理沙。

 

「そういや、お前の名前も『柴芭(シバ)』だな。

お前の名付け親も、そのシバザクラを見てたりしたのかな?」

 

何気無い調子で魔理沙がそう問いかければ、柴芭は無表情のまま目を伏せる。

 

「……さあな」

 

その問いに対する答えを仄めかすように、柴芭は呟く。

 

表情の無い瞳が一点に見つめる花が、吹き抜ける風に揺らぐ。

 

 

「……そうか、覚えていないんだっけ」

 

幾度目かの静寂の中に響いたのは、魔理沙のそんなか細い言葉。

 

過去に柴芭と交わしたやり取りを思い出し、その事実を噛み締める。

 

 

 

そのやり取りを最後に、二人は言葉を発さなくなった。

春の温もりが消え去ったかのように、凍て付くような静寂が冥界を支配する。

 

 

柴芭の目はシバザクラを、魔理沙の目は柴芭を、一点に見つめ続ける。

 

まるで、視線の先にあるモノに、己が求める答えを探すかのように。

 

 

 

「……二人とも、そろそろ進みましょう。 桜を堪能するのも、そのシバザクラを堪能するのも、この先に待つ元凶を倒してからにしなさい」

 

静寂を打ち破ったのは、少々辟易したような咲夜の言葉。

 

「おお、そうだな。 ……それじゃ行こう、柴芭」

 

言葉の発された方向に振り返り、そう頷く魔理沙。

そして、再び視線を落とし、地面に片膝を突く柴芭に催促の言葉を投げかける。

 

「ああ……」

 

その言葉に小さく頷き、柴芭は立ち上がる。

 

 

そして、再び三人は歩みを進める。

 

遥か見据える先に聳える、巨大な桜の樹を目指して。

 

 

 

 

 

------

 

 

壁のような威圧感を放つ桜並木の路を超え、彼らは小高い丘の上に出た。

正確に言えば、それは丘では無く、膨大な根の一部であった。

 

彼らの目の前に聳え立つ、大山と見紛う程に巨大な桜の樹、その根の一部。

 

 

「でかいな、随分と」

 

驚き半分、呆れ半分といった口調で魔理沙が呟く。

目の前の巨木は、魔理沙にとっての常識では推し量れぬ程の巨躯であった。

 

「本当ね……」

 

そんな魔理沙の呟きに、ただただ同調するばかりの咲夜。

普段の瀟洒な振る舞いや言動は鳴りを潜め、ただ純粋な驚きだけが彼女にはあった。

 

「……」

 

言葉を発する事は無かったが、二人と同じように顔を上げ瞠目し、灰色の瞳を輝かせる柴芭。

見つめる先の巨大な樹の頂には、その視界を埋め尽くさんばかりに桜花が広がる。

 

絶景、壮観、優麗なる繚乱。

 

しかし、それでもその桜は、未だ完全に咲き揃ってはいなかった。

 

「これが満開になったら、どうなるんだろうな」

 

八分咲の巨大桜を眺めながら、魔理沙がそう呟く。

 

 

 

 

 

 『それはきっと、とても素敵な事でしょうね』

 

 

そんな魔理沙の疑問に答えを用意したのは、この場にいた三人とは別の声。

 

声がした方向に、一斉に振り返る三人。

各々その表情に疑問の色はあれど、その事実に対する驚愕の意志は見られない。

 

皆、その声の主の存在を予期していたからである。

 

 

「あら、驚かないのね」

 

突如三人の背後に現れたその人物は、少しだけ意外そうな表情を見せる。

 

青い装束を身に纏い、同じく青い特徴的な形状の帽子を被った少女。

傍らには白い霊魂が漂い、不気味さと同時に幽玄さを醸し出している。

 

その手に持つ扇を小さく煽げば、その桜が如き桃色の髪が小さく揺れる。

 

 

白玉楼の主にして、異変の元凶たる亡霊の少女、西行寺幽々子の姿がそこにあった。

 

 

「ああ、何となく、そんな気はしてたからな」

 

亡霊の主を前にしても、臆することなく不敵な笑みを浮かべる魔理沙。

 

「そんなことよりどう? この桜、素晴らしいと思わない?」

 

そんな魔理沙の言葉を適当に流し、幽々子は子供のようにはしゃぎながら、目の前の桜の樹に対する感想を聞き始める。

少し不機嫌そうに顔を歪める魔理沙だったが、眼の前の亡霊の奔放な態度に、何処か毒気を抜かれたように小さく苦笑する。

 

「ええ、そうね。 素晴らしすぎて怖いくらいだわ」

 

幽々子の問い掛けに応えたのは、腕を組み、目の前の大樹を睨む咲夜。

 

その大樹から放たれる威圧感は、見る者に得も言われぬプレッシャーを与える。

そんなプレッシャーに気圧されぬよう、咲夜自身もまた、冷徹なプレッシャーを放ち、美しくも悍ましい桜の樹を睨みつける。

 

「この程度で怖がってちゃ、もっと素晴らしい物は見れないわよ?」

 

そんな咲夜の剣呑さを柳の如く受け流し、扇で口元を覆い小さく笑う幽々子。

その態度から、余裕こそあれ、一切の動揺や緊張は見られない。

 

「……アンタは、何が目的なんだ?」

 

沈黙を続けていた柴芭が、眼前の亡霊を睥睨し、問いかける。

 

その問いを受けた幽々子は、その言外にある真の問いを理解し、再び小さく笑む。

 

 

「……復活よ」

 

薄く見開いた幽々子の両眼が、眼前の柴芭を捕える。

 

すると、先程までの何処か柔らかな表情は一変し、見る者全てに威圧感を与えるような、刃のように鋭い雰囲気を放つようになる。

 

「復活だと……?」

 

そんな幽々子の変化に気圧されつつも、疑問をぶつける魔理沙。

 

「ええ、そうよ。 この西行妖(さいぎょうあやかし)の下には、名も顔も知らない()()が眠っているのよ。

それを目覚めさせる事が、私の本当の目的。 ……ご理解頂けたかしら?」

 

そう幽々子が投げかければ、三人は一様に唸りだす。

目の前の少女から発せられた突拍子も無い回答に、返す言葉を考えあぐねているのだ。

 

「……理解はできたが、納得ができない。 一体どうやったら死者が復活する?」

 

その答えによって生じた、新たな疑問を幽々子に投げかける魔理沙。

 

普通、生者は一度死が訪れれば、二度と目覚める事は無い。

『死者の復活』等という夢物語が目的だとすれば、魔理沙が疑問を抱くのは当然である。

 

 

そんな魔理沙の胸中を察してか、幽々子は笑みを消し、静かに語り始める。

 

「……以前、私が見つけた家の古い書物に、こう記されていたわ」

 

そこまで言いかけた幽々子は、おもむろに瞳を閉じ、その書物に記されていた言葉を詠み上げ始める。

 

 

 

 『富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ。

  

  その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。

 

  願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ・・・』

 

 

 

詠み上げたのは、嘗て幽々子が自室の書架にて見つけた、古い時代の書物に記されていた一節。

その一節こそ、幽々子が今回の異変を起こすに至った発端であった。

 

「幽明境を分かつ……即ち、それは死を意味する。

それが、西行妖が満開時に起きた……だからこそ、あの花を封印した。

 

……再びその封印を解いた時、この下に眠る者は呪縛を解かれ、目覚める。

この桜が満開になった時、きっとその呪縛は解かれるわ」

 

そこまで言うと、幽々子は目を開き、西行妖に視線を移す。

 

「……けれど、この冥界にある春だけでは、西行妖を満開にさせるには至らない」

 

「だから、幻想郷の春を集めて来た……って訳か」

 

幽々子の言葉に続けるように、魔理沙が結論を述べる。

 

「そうなるわね。

……最も、それでもまだ、足りないのだけれどね。 なけなしの、『春』が」

 

再び視線を落とし、今度は魔理沙達を品定めするように眺める幽々子。

 

「私達のなけなしの『春』がありゃ、その桜は満開になるのか?」

 

その言葉を辿るように、幽々子の目が魔理沙を捉える。

 

「さぁ、どうかしらね? ……まぁ、妖夢はそう思ったのかも知れないわね。

……それで、どう? なけなしの『春』は渡してもらえるのかしら?」

 

幽々子がそう答えれば、先の半人半霊の剣士の言葉を脳内で反芻する咲夜。

更に幽々子は、その春を要求する旨の言葉を続ける。

 

「そう……残念だけれど、その『春』を渡す訳にはいかないわ」

 

咲夜の口から出たのは、拒否の言葉。

 

「あら、そうなの? この桜でお花見とか、興味無いかしら?」

 

その答えを受けても、さして残念がるような素振りは見せず、むしろ何処か楽しげな表情を浮かべる幽々子。

 

「悪いけれど、花見なら地上(幻想郷)でやりたいの」

 

そんな幽々子の態度を前にしても、自分のペースを崩さぬ咲夜。

 

「あらあら、交渉決裂ね」

 

これ以上の追及は無駄と悟ったのか、肩を竦めておどけて見せる幽々子。

 

 

直後、再び幽々子は目を細め、鋭い視線を柴芭に向ける。

 

「貴方、なんだか不思議ね……これ程濃密な『生』の気配は見た事が無いわ」

 

幽々子の口から放たれた言葉に、柴芭は疑問符を浮かべる。

「こいつは一体何を言いたいのだ?」。そんな考えが柴芭の脳裏を過る。

 

「何でかしらね? ……貴方から『死』の気配を感じないの」

 

話半分に聞き流していた柴芭は、『死』という単語を聞いた瞬間、少しだけ目を見開く。

 

「『死』だと……? お前は、一体……」

 

柴芭の問いかけに、幽々子は何かを思い出したかのようにはっとする。

 

「ああ、そういえば話していなかったわね。

私の能力は、『死を操る程度の能力』。 どんな生き物でも、簡単に死に至らしめる事が出来てしまう、とても素敵で恐ろしい能力なのよ」

 

幽々子は、自身が持つ『死を操る程度の能力』の説明を行う。

その内容に、魔理沙と咲夜は、鳥肌が立つ感覚を覚えた。

 

「おいおい、そんなおっかない能力使わないでくれよ」

 

その内心に悍ましい感情が湧いて出るも、それを表情(おもて)に出す事はせず、普段通りの態度でそう投げかける魔理沙。

 

「大丈夫よ、普段は全く意識していないからね。

……まぁ、その副産物といってはアレだけれど、私には、人の生き死にに関する情報……つまり、いつ死ぬのか、どのようにすれば死に至るのか……とか、そんなどうでも良い情報が頭の中に入ってくる事があるのよ」

 

「いや、どうでもよか無いだろうよ……」

 

軽い調子で凄まじい内容を語る幽々子に思わずツッコミを入れる魔理沙。

 

だが、その口調とは裏腹に、何処か物憂げな表情を浮かべる幽々子。

初めて見せるその表情に、言葉を詰まらせる魔理沙。

 

 

一瞬見せたその表情は消え去り、再び鋭い笑みを浮かべる幽々子。

 

「……けれど、貴方からはそれを一切感じなかった。

 

……貴方は、一体何者なのかしらね? ねぇ、()()()さん?」

 

幽々子が放った『化け物さん』という単語に、少しだけ眉を顰める柴芭。

知らずに選んだ言葉か、はたまた意図して発したのか、それは本人にしか分からない。

 

柴芭に揺さ振りを掛けて愉しんでいるかのように、何処か嗜虐的な笑みを浮かべる幽々子。

 

 

「……さぁな」

 

そんな幽々子の言葉を、意に介する事無くそう答える柴芭。

その答えが意外だったのか、狐につままれたような表情になる幽々子。

 

「この桜の下に何が眠っているのかも、オレが何者なのかも……どうでも良い」

 

静かな口調で語る柴芭の背中に、この場にいない霊夢の姿を重ねる魔理沙。

 

周りのモノに興味を示さず、ただ己の目的の為に直走る。

何処か危うげながらも、頼り甲斐のある背中を。

 

 

「オレの……いや、オレ達の目的は、ただ一つだ」

 

咲夜もまた、彼の中に生じた変化を、心の中で噛み締めていた。

 

無口で無表情、冷静でありながら何処か愚直。

何処か危うく朧げなその姿に、何時の間にか背を預けていた。

 

 

「幻想郷の『春』を、返してもらう」

 

柴芭は、簡潔にそう言い放つ。

 

「そういうわけさ。 悪いが、アンタの企みもここまでだ」

 

その言葉に、魔理沙も同調し、八卦炉を幽々子に突き付ける。

 

「いい加減、地上にも暖気が欲しいのよ」

 

咲夜もまた、自身のナイフを数本取り出し、胸の前で構える。

 

 

武器を向けられて尚、笑みを崩さぬ幽々子。

それどころか、その笑みはどんどん深まっていく。

 

「……やっぱり、貴方、興味深いわ」

 

ひとしきり笑った後、幽々子が顔を上げ、そう投げかける。

その目は、一点に柴芭を捉え、離す事は無い。

 

「紅炎との修行で強くなった妖夢を退けた実力の程、見たいと思っていたのよ」

 

先の戦いの事を、どうやって知ったのだろうか。

柴芭の頭に、そんな疑問が過るも、それも些事と切り捨てる。

 

「それに……死すら拒むその力、試してみたくなったわ」

 

幽々子が扇を自身の肩と同じ高さまで掲げる。

すると、何処からともなく、数匹の青い蝶がひらひらと舞い始める。

 

「……眠るなら、満開の桜の下が良いな」

 

「なら、お望み通りにして差し上げますわ」

 

柴芭が軽口を叩き、その言葉に幽々子がノリを合わせる。

 

だが、二人の目には、既に交戦の意志が宿っていた。

 

「……冥界(ここ)は、オレの死地じゃない」

 

柴芭が右手を前に出すと、手袋越しに、その右手の甲が光を放つ。

轟音と共に、その右腕の上に龍腕が出現する。

 

その龍腕の出現に、更に笑みを深める幽々子。

 

「いずれ、そうなりますわ」

 

そう言うと、幽々子は宙に浮き上がる。柴芭達も、それを追う。

戦いの場を上空に移した彼らは、各々の得物を構え、一斉に動き出す。

 

いよいよ、戦いの幕は切って落とされた。

 

 

 

 

  「泡沫に消えるがいい、深潭の魂!」

  「花と共に散るがいい、空漠の龍!」

 

 

 

 




空を覆う桜の下、龍と蝶はぶつかり合う。

今回は少しだけ、柴芭についてフィーチャーしてみました。
最も、肝心な所には一切触れていないので、余計謎が深まったかもしれませんが。

霊夢の性格を継承しつつある柴芭。
身近な人に影響されるというのは、現実世界でもままあることです。


最後の掛け合いは、絶対にやろうと思っていました(小並感)

「深潭」は、奥が深く底知れないという意味。(≒深淵)
「空漠」は、漠然としており捉えどころが無いという意味。

だそうですよ奥さん。


次回、「幽雅に咲かせ、墨染の桜」。ラスボス戦本番です。
7月27日、投稿予定です。


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