神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed. 作:左右手
データが飛んで以降、復旧していく内に話が変わって行きました。
元の話とは大幅に変更した為、その分更に時間が掛かってしまった訳ですが。
前の話を見返しつつ、お楽しみください。
今回は、かなり長いので二分割です。
-あらすじ-
いよいよ異変の元凶、幽々子との戦い。
負けられぬ戦いが、今ここに幕を開ける。
「行くぞ、亡霊!」
昂然たる掛け声と共に、右手に構えた八卦炉から魔力弾を射出する魔理沙。
「別に、何処にも行かないわよ」
悠然とした態度で、自身に向けて飛来する魔力弾を見据える幽々子。
そのまま、手に持っていた扇を軽く薙ぎ払う。
すると、目の前まで迫っていた弾幕は、忽然と姿を消した。
「ッ……!」
目の前の現象に対し、驚きを露わにする魔理沙。
その傍らでナイフを構えながら隙を窺っていた咲夜も、同様の表情を浮かべる。
今、魔理沙が放ったのは、単なる魔力弾では無い。
彼女の持つミニ八卦炉を媒介にして火力を増強した弾幕である。
故にその火力、速度共に、普段彼女が用いる弾幕を凌駕する。
だが、その弾幕の火力を物ともしていないかのように、目の前の亡霊は、いとも簡単に弾幕を消して見せた。
その事実が、この戦いが決して楽には終わらないであろう事を魔理沙に実感させる。
上等だ、と言わんばかりに、魔理沙は口角を上げる。
「咲夜!」
弾幕を撃つ手は止めず、自身の隣にいる者へと声を掛ける魔理沙。
呆気に取られていた咲夜は、隣から発せられたその一言で我に返る。
「! ……分かっている!」
簡潔にそう返すと、先程までの呆けた態度が消え去る。
いつの間に取り出したのか、もう一方の手にもナイフが握られている。
低く構えた咲夜の双眸が、夜空の中で紅く光る。
次の瞬間、幽々子の目の前に幾本ものナイフが出現する。
「あらぁ?」
突然の強襲に、思わず声を上げる幽々子。
のんびりとした口調とは裏腹に、その表情には多少の驚きが見て取れる。
さしもの幽々子も、突如虚空からナイフが現れる現象までは予測できなかったようだ。
「不思議な手品ねぇ。 ……でも」
刻一刻と迫る無数の刃を前にしても、余裕を崩さぬ幽々子。
そんな幽々子の様子から、咲夜は、形容し難い不気味さを感じ始めていた。
「宴会芸には、ちょっと物足りないかしら?」
直後、至近距離から聞こえて来たその言葉に、咲夜は目を見開く。
「……ッ!?」
幽々子は、既に咲夜の目の前にまで迫っていた。
移動を大きく阻害する目的で投擲した大量のナイフは標的を失い、そのまま地上に落下していく。
一体どうやって、あのナイフの網を抜けたのか。そんな疑問が咲夜の脳裏に過るも、眼前に翳された扇によって、すぐにその思考は掻き消される。
「くっ!」
咄嗟に両腕で顔を覆い、目を瞑る咲夜。
「tail-incomplete-」
突如、凄まじい風圧と共に、目の前が壁で覆われる。
一拍置いて、その壁の反対側に、何かが叩き付けられるような音がする。
数度瞬きをし、目の前に出現した
「……助かったわ」
壁を放ったのは、柴芭。
その壁は、柴芭自身の脚より顕現せし龍尾である。
悟られぬよう回り込んでいた柴芭は、幽々子がナイフの壁をすり抜けた様を目の当たりにした瞬間、素早く龍尾を顕現させ蹴りを入れる事で、二人の間に文字通り“横槍を入れた”のだ。
「へぇ……やっぱり、おもしろい力ね」
攻撃を阻まれた幽々子は、僅かばかり口元を歪め、そのまま柴芭に狙いを定める。
蹴りを放った龍尾を素早く退き、次の体勢へ移行しようとする柴芭。
「二度も通用なんて、しないわよ」
だが、その動きを通すまいと、すかさず幽々子が弾幕を放つ。
青白い光を放つ蝶のような弾幕は、猛スピードで柴芭へと向かって行く。
自身に迫りくる弾幕を前に、柴芭は小さく舌打ちをした。
身の丈の数倍もの長さを持つ龍尾を顕現させている柴芭は、出現させている右足を使っての移動が行えない。
移動に際して、両脚に送りこんでいた霊力を、片方の脚に集中させている為である。
柴芭自身もまた、まだ完全に龍尾を制御し切れていない為、顕現は素早く行えても、消滅までには時間が掛かる。
一度に大量の霊力を全く性質の違う物へと変換する事は、博麗霊夢を以てして「難しい」と言わせしめる程の行為である。
当然、それが成功する確率は低い。柴芭は、どうにか他の防御の手立てを考えるも、その間にも死蝶達は迫ってくる。
「させないわよ!」
そんな中、不意に咲夜の声が響く。
次の瞬間には、柴芭に向けて迫っていた全ての蝶達は、ナイフによって刺し貫かれていた。
ナイフを放った張本人は、身動きの取れない柴芭を庇うように、彼の前に立ち塞がる。
串刺しにされた蝶達は、ボロボロと崩れ落ちて行き、全て消え去った。
「蝶々狩りって、案外面白いかもよ?」
再び時を止めたのか、ノータイムで出現したナイフを手で回しながら、背後の柴芭にそう投げかける咲夜。
「オレなら、遠慮したいな……」
顔を少しだけ顰めつつ、両手で胸の前に小さく
そんな仕草に失笑するも、再び顔を前に向け、警戒を強める咲夜。
「人の蝶を勝手に狩らないで欲しいものよねぇ」
攻撃を防がれた為か、少し不機嫌そうな口調でそう投げかける幽々子。
口調とは裏腹に、その表情は何処か楽しげで、咲夜の目には、
「なに、心配するな。 お前もすぐに狩ってやるさ」
投げかけられた言葉に返答を用意したのは、いつの間にやら幽々子の右隣に陣取っていた魔理沙。
幽々子が柴芭と咲夜に意識を向けている隙に、魔理沙は彼女の死角へと回り込んでいたのだ。
その事実に幽々子が気付き、視線を向けるよりも速く、魔理沙はスペルカードを宣言する。
「亡霊狩りだ! 恋符『ノンディレクショナルレーザー』!」
宣言と共に、右手に持った八卦炉を前方へと突き出す魔理沙。
すると、八卦炉の表面を覆うように魔法陣が出現し、光を発しながら回転を始める。
「発射ァっ!」
魔理沙がそう叫ぶと、高速で回転する魔法陣から、4本の閃光が放たれる。
そのまま閃光は螺旋を描き、
『マスタースパーク』よりも細く、火力にも劣るものの、光と紛うばかりの速度のレーザーが一点集中する事よって凄まじい威力を発揮する、魔理沙の得意とするレーザー弾幕の発展型である。
「あら、中々綺麗ねぇ」
口元を扇子で覆いながら、迫り来るレーザーを眺める幽々子。
脅威を前にしても、その白んだ顔には薄ら笑みが浮かぶばかりで、恐怖や焦燥は微塵も感じられない。
「……けれど」
幽々子は、小さく俯き、そう零す。
「精々、一発芸程度かしら?」
次の瞬間、幽々子の身体は、レーザーが貫いた直線状には無くなっていた。
だが、そのレーザーは、幽々子の身体を貫く事は無かった。
レーザーが幽々子の身体に触れんとする刹那、幽々子はそのレーザーを、横に移動する事で回避したのだ。
「……」
信じられない光景を目の当たりにし、言葉を失う魔理沙。
『ノンディレクショナルレーザー』は直線的なレーザー故に、動きを見切る事自体は簡単である。
しかし、それはあくまで発射される前の段階までの話。咄嗟に軌道から逃れる事が出来なければ、亜高速で迫るレーザーを回避する事は人間には不可能である。
だが、目の前の亡霊は、いとも容易く、それを成し得て見せた。
苦心の末に編み出した技を――彼女自身の努力を否定するように。
その事実が、魔理沙自身に重い枷として圧し掛かってくるが、彼女は戦意を失う事は無い。
「……へっ。 なら、また新たな手を使うまでさ!」
再び不敵に笑み、目の前で薄ら笑みを浮かべる亡霊を睨みつける魔理沙。
「それは楽しみねぇ。 ……けど」
「柴芭!」
幽々子の言葉を遮るように、後方から咲夜の叫ぶ声が響く。
その声の方向に目を向ければ、柴芭は何かに追われながら宙を駆けている最中だった。
柴芭を追い掛けているモノを注視すると、それは青い蝶の形をした弾幕であった。
柴芭自身、凄まじい速度で
その光景を見た後、彼に向けて弾幕を放った人物を睨みつける魔理沙。
「貴方と遊ぶのはあ・と・で♪ 早くどうにかしてあげたら?」
わざとらしく人差し指を唇の前に持って行き、小さくウィンクをする幽々子。
その仕草が癪に障ったのか、単に苛立ちからか、苦々しげに顔を歪める魔理沙。
「クソッ、ナメやがって……!」
口では悪態を吐きつつも、魔理沙の思考は非常に冷静であった。
(あの弾幕、一体いつの間に撃っていたんだ……?
……ひょっとして、
……自分の攻撃を悟られない為? ……だとしたら、相当厄介な相手だな)
思考を続けつつも、次に魔理沙は、走り続けている柴芭の方を見やる。
(アイツは何故、弾幕から逃げ続けているんだ……?
攻撃で打ち消せないから……だとしたら、私達が手を出した所で、どうこうなる代物じゃ無いな。
だが、さっきのは咲夜のナイフを喰らって消えた……。 これは一体……どういうことだ?)
そんな思考を続ける最中も、自身の前にいる
向こうが動けば、此方もすぐに動く。そう警戒を続けつつ、魔理沙は更に思考する。
(咲夜は……まぁ、動けないわな。 しかし、どうするか……。 迂闊に手は出せないが、このまま長引かせる訳にもいかない……。
だが、アイツも動かないのは何故だ……? ……向こうにとっても、今は攻撃する絶好の機会だ。 なのに手を出してこない辺り、恐らくあっちの弾幕に意識を向けているのだろう。 ……最も、単におちょくられているだけかも知れんが)
思考の最中、不意に疾走し続ける柴芭と目が合う。
相変わらず無表情な柴芭だが、その瞬間だけ、ほんの僅かに口角を上げた。
(……! もしかして、柴芭がわざわざ弾幕から逃げ続けている理由は……)
その瞬間、魔理沙は柴芭の考えを悟った。
そして、素早く意識を切り替え、未だ立ち尽くす咲夜に檄を飛ばす。
「咲夜! 早くどうにかするぞ!
「魔理沙……? ……! そうね、急ぎましょう!」
魔理沙の言葉から、本意を汲み取った咲夜は、小さく頷き、ナイフを構える。
そして、二人はそのまま柴芭の走る方向へと駆けだした。
「漸くお友達が助けに来てくれるみたいね、化け物さん?」
追尾する弾幕を自在に操りながら、自身が狙いを定めている
「そうか……」
走りながらである為か、或いは、返答するのが億劫なのか、簡潔にそう返す柴芭。
「感動で言葉も無いのかしら?」
「いや……お節介なヤツらだと思っただけだ」
言葉を掛け合いながらも、互いに動きを止める事は無い。
「あらあら、随分と素気ないのね。 孤独な化け物さんには、お友達なんて必要無いのかしら?」
幽々子がそう言うと、突如柴芭はその場で動きを止める。
不思議そうに首を傾げる幽々子を尻目に、柴芭は自身の右脚に霊力を込め、迫る弾幕を蹴り飛ばす。
すると、続けざまに後方の弾幕もそれに巻き込まれ、結果、全ての弾幕が消し飛んだ。
目を見開いた幽々子に、柴芭は更に言葉を投げかける。
「俺はこれで、タイムアップだ」
その言葉に疑問符を浮かべる幽々子だったが、直後、柴芭の狙いを悟り、勢い良く後ろを振り返る。
そこには、既にスペルカードを発動した魔理沙と咲夜の姿があった。
その光景を目の前にして、幽々子はこの戦いの中で、初めてその表情を驚愕に染めた。
「……オレの“お友達”を、ナメるなよ」
「そういうこった! 魔符『スターダストレヴァリエ』!」
「ナイスな時間稼ぎよ、柴芭! 幻在『クロックコープス』!」
柴芭の言葉に続くように、魔理沙と咲夜がそれぞれ言葉を投げかける。
二人は、勝利を確信したように笑みを浮かべ、各々の誇る弾幕を以て、幽々子に襲いかかる。
「……やるじゃない」
迫り来る二人を見上げていた幽々子は、そのまま俯き、小さな声でそう呟く。
「少し本気、出しちゃおうかしら」
ゾクリ――と、背筋が凍えるような感覚に襲われる柴芭。
冬の冷気でも無く、幽霊特有の寒気でも無い。
――幽々子自身の、只ならぬ殺気を、その肌で感じ取ったからだ。
亡郷「亡我郷 -さまよえる魂-」
刹那、幽々子はスペルカードを宣言する。
その瞬間、辺り一体は時が止まったかのように静寂に包まれる。
魔理沙と咲夜の弾幕も、柴芭も幽々子も、決して止まった訳では無い。
だが、ただ無音の静寂だけがこの場を支配し、柴芭は妙な胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
(何か……来る……! 確実に……!)
そして、静寂が打ち破られる音と共に、柴芭の予想は的中する事となる。
「うわっ!?」
「何っ!?」
頓狂な声を上げる魔理沙と咲夜。
突如として、幽々子を中心に、夥しい量の弾幕が展開されたのだ。
青色と黄色の、楔の形を模したような形状の
そして、その楔に呑み込まれた二人の弾幕は、音も無く掻き消された。
呆然と立ち尽くす二人に、更なる追撃を加えんと、弾幕はその毒手を伸ばしてくる。
「避けろ、二人ともッ!」
その言葉を受けた二人はハッと我に返り、素早く弾幕から逃れる。
柴芭自身も、後方まで迫ってきていた弾幕を巧みな体裁きでかわして行く。
その弾幕の動きは複雑なものの、速度自体はそこまでではない。
故に、三人は慣れた調子で軽快に回避していくも、その表情に余裕の色は無かった。
(私の『スターダストレヴァリエ』と咲夜の『クロックコープス』、どちらも生半可な威力や密度じゃない筈だ……。 それを容易く打ち破るなんて、一体どれ程の火力なんだ、あの弾幕は……!?)
不意に、死角から飛び出した青い楔弾幕が、考察しつつ回避に専念していた魔理沙の肩口を掠める。
その弾幕は、魔理沙の身体に触れると、質量を持っていないかのように、そのまま身体をすり抜けて行く。
だが、その弾幕がすり抜けた瞬間、魔理沙は肩口に激痛を覚える。
「いッ……!?」
(い、痛い……!
痛みで完全に弾幕に意識を戻した魔理沙は、素早く弾幕の射程外へと逃れ、肩口を抑えながら呼吸を整える。
(外傷は……無い。 不可解だ……あの弾幕、一体どんな秘密が隠されているんだ……?)
すっかり体勢を立て直した魔理沙は、次に周囲を見渡し、仲間の現状を把握する。
(咲夜は……問題無く避けれている。 被弾もしていないみたいだ。
柴芭も……いたな。 いつの間にか龍腕出してるし……って、あれは……?)
魔理沙が目を向けた方向には、自身の両腕に顕現させた龍腕を豪快に振るい、辺りを飛び交う楔の弾幕を次々と叩き落とす柴芭の姿があった。
(弾幕がすり抜けていない……アイツの龍腕には、あの弾幕を無力化する力みたいなのがあるのか?
……まぁ、考えても仕方が無いか。 今はとにかく、このスペルを攻略する事だけ考えよう)
そこで考察を打ち切った魔理沙は、再び弾幕の花弁が舞い散る空間へと飛び込んでいく。
彼女の中には、『時間切れまで逃げ切る』という選択肢は存在しなかった。
次第に弱まって行く弾幕の勢い。疎らになり始めた楔弾幕。
スペルカードの効果時間が終了する間際なのだと、魔理沙は直感した。
「よし、ここいらで反撃に……」
安堵の表情を浮かべる咲夜と、いつも通りの無表情の柴芭に対し、そう投げかけようとした魔理沙の言葉は、
亡郷「亡我郷 -宿罪-」
続けざまに発動されたスペルカードによって遮られる事となった。
「なっ……!? 連続してスペルカードを!?」
スペルカードの連続使用――それ自体は、珍しい物ではない。
通常、スペルカードは、己の能力や技術をアピールし合い、競う為の物であり、それを戦いに昇華させた物が弾幕ごっこである。
それ故に、連続でのスペルカードの使用は、その芸術性をより高めるモノとして、好んで使用する者もいる。
だが、魔理沙にはその弾幕が『アピールの為の物』には到底思えなかった。
(あの弾幕……間違いなく、本気で私達を“殺す”気だった。
それだけの殺意が籠っていた……。 これが、“弾幕ごっこ”だって言うのか……?)
しかし、思考はそこで打ち切られる。
先程よりも数段増した速度と密度を持って、再び弾幕が襲いかかって来たのだ。
「……ッ!! とにかく、被弾はマズい!」
不意を突くような弾幕の襲撃にも冷静に対応し、素早く回避行動に移る魔理沙。
速度が増しているとはいえ、先程の弾幕は、魔理沙にとっては欠伸が出そうなほどスローな物だった。
故に、速度の増した弾幕を前にしても、普段通りの調子で対応していく。
「へんっ、この程度じゃ私は倒せないぜ!」
(これが普通の弾幕なら、スリリングで楽しいと思えたんだがな……)
軽口を叩きながら弾幕を回避していく傍らで、そんな、何処か憂えにも似た感情を抱く魔理沙。
「それにしても、ふわふわと漂う弾幕なんて……なんだか不気味ね」
飛び交う弾幕の間を通り抜けながら、咲夜は自分に聞こえる程度の声量でそう呟く。
「それに、ナイフを投げてもすり抜けるし……アレ本当に弾幕なの!?」
最後の方は少々語気が荒くなっていたが、それでも咲夜は冷静に弾幕を一つ一つ確実に回避していく。
先程の魔理沙の
(……けれど、柴芭の方は、何故かあの弾幕に触れられる。 ……正確には柴芭の『龍腕』が触れられる。 ……一体、どういう原理なのかしら?)
速度も威力も増した弾幕を、素早く龍腕を繰り出して打ち消して行く柴芭の姿を横目に捕える咲夜。
その不可解な現象に疑問を抱くも、すぐにその思考は、目の前の敵へと移行する。
「……この弾幕の事が知りたいのかしら?」
咲夜の視線に気付いたのか、先程まで黙していた幽々子が、静かに口を開く。
その言葉に、咲夜は答えない。青と黄色の弾幕の中、一瞬でも気が抜けずにいた。
「そうね……別に減るものでも無いし、教えてあげるわ」
幽々子は一方的にそう告げると、再びその手元に楔のような形の弾幕を出現させる。
「この弾幕は、私が操る霊魂達。 私の意志一つで、幾らでも動く事が出来るわ」
「霊魂ですって……?」
淡々とそう告げた幽々子の言葉に対し、未だ半信半疑といった様子でそう問う咲夜。
「ええ。 例えば……こうやって、私の力を注いであげれば……」
幽々子の掌の上で淡い光を湛えたその霊魂は、そのまま咲夜の方へと飛んでいく。
弾丸の如きスピードで放たれたその弾幕に、思わず咲夜は反応が遅れる。
「ッ……!」
回避しようと身を
「ぐっ!? あ……!?」
その瞬間、凄まじい痛みが咲夜の身体を襲う。
持つ力が抜けたのか、左手に持っていたナイフがそのまま地面に落下する。
「あら、残念♪ ……けど、凄いでしょう? それ。
ちょっと掠っただけでも、そんなになっちゃうんだものね」
左腕を抑えながら自身を睨みつける咲夜に対し、子供のような笑みを浮かべながらそう語りかける幽々子。
「けど……これがもし直撃したら、どうなっちゃうのかしらねぇ?」
「ぐッ……何、を……言って……っ!?」
痛みの所為で呼吸も儘ならない咲夜は、それでも言葉を紡ごうとする。
だが、その言葉は、直後目の前に飛び込んできた弾幕によって遮られる。
「あっ……」
その弾幕は、今しがた幽々子が放った物と同じく、幽々子の力が込められた霊魂。
今自分が立っているのは、その弾幕の軌道上……このままでは、確実に被弾してしまう。
その事実を理解した瞬間、咲夜の顔が目に見えて蒼白になる。
回避しようとするも、思うように身体が動かない。
これから自分の身に襲いかかるであろう痛みを覚悟し、そのまま強く眼を瞑る。
「咲夜ッ!」
自身の名を呼ぶ声と共に、閉じかけた瞳を再び瞠る咲夜。
声のした方向に目を向けると、先程まで後方にいた柴芭が咲夜の前に陣取り、咲夜を守るように、四本の龍腕を同時に後ろに回していた。
「柴芭っ……!」
「大丈夫か、咲夜」
顔は此方に向けず、正面を向いたままそう投げかける柴芭。
顕現している龍腕は、先程の物よりも数倍は大きく、彼が初めて顕現させた時とほぼ同じ程度の大きさだった。
咲夜は、龍腕の数が増えている事が気になったが、その疑問捨はて置く事にした。
「……大丈夫、もう動けるわ」
「そうか……」
呼吸を整えた咲夜が柴芭に向けてそう告げれば、柴芭は籠のように咲夜を守っていた龍腕を消す。
「……へぇ。 やっぱり不思議ね、その
そう呟いた幽々子は、視線の先の柴芭を品定めするように眺める。
次第に勢いが弱まって行く弾幕の中で、柴芭は戦いの手を止めずに幽々子を見据える。
「ますます貴方の事が気になったわ。 ねぇ、化け物さん?」
相手の反応を待たぬまま、煽るような口調で更に言葉を投げかける幽々子。
その言葉を隣で聞いていた咲夜は、自分の事では無いにも関わらず、義憤にも似た感情を抱いていた。
「……」
だが、その言葉を飛ばされた当の本人は、幽々子の言葉に全く反応を示さない。
単に興味が無いだけなのか、或いは返答に困っているのか、それは本人にしか分からない。
「……むぅ。 反応が無いと、つまらないわねぇ」
無反応な柴芭が面白く無かったのか、子供のようにむくれる幽々子。
その仕草に一瞬毒気を抜かれるも、咲夜は再び警戒を強める。
辺りを覆っていた弾幕が消え、スペルカードの発動時間が終了したからだ。
(さっきも、スペルカードの終了と共に、新たなスペルカードを発動した……。
……きっと、また新たなスペルカードが来る筈。 ……それも、今以上の物が)
そんな咲夜の予想に対し「正解」だとでも言うかのように、幽々子が再び新たなスペルカードを唱える。
亡郷「亡我郷 -道無き道-」
3枚連続のスペルカードの宣言に、咲夜達は更に警戒を強める。
誰もが『今以上の弾幕が襲ってくる』と確信を抱き、緊張に顔を歪める。
そして、その予想通り、更に威力と物量を増した弾幕が咲夜達に襲いかかる。
青と黄色の奔流は、まるで吹雪のように空を覆い、彼らの逃げ道を奪って行く。
「へっ、ようやく本調子ってワケか!?」
弾幕の中を高速で飛び回りながら、弾幕の嵐の中心にいる幽々子にそう投げかける魔理沙。
口調こそ未だ平時の状態を保っているも、その表情には焦燥の色が見え始めていた。
(流石に余裕が無くなって来たな……。 これより更に上があるとして、私はともかく、あの二人は大丈夫だろうか……)
そう思考を巡らせる魔理沙の眼前に、突如、一筋の赤い閃光が奔る。
「おわっ!?」
被弾するまいと、慌てて状態を逸らし、そのレーザーを回避する魔理沙。
しかし、回避した所に、更に数発の楔弾が魔理沙目掛けて飛来する。
「しまっ……!」
全く想定していなかった場所からの挟撃を受け、驚き瞠目する魔理沙。
回避しようにも、先のレーザーを避けた為に無理な姿勢になっている今では、自由に動く事が出来ない。
(マズい……このままじゃ……! どうにか、手立ては……)
逃れる術を模索する間にも、刻一刻と迫る弾幕。
風の抵抗を受ける両手を動かし、顔の前で防御するように交差させる魔理沙。
その弾幕が腕の先まで近づいて来た瞬間、魔理沙の耳元で聞き覚えのある声が響く。
「奇術『エターナルミーク』ッ!」
声の主は、時を止めて現れた咲夜であった。
ナイフを使い切った為、その手にはスペルカードの他には何も握られていない。
スペルカードを宣言すると共に、咲夜の全身から霊力が迸る。
そして、全身から一斉に霊力を放ち、魔理沙と自身を覆うように霊力の球体を形成する。
その球体に触れた弾幕は、時が止まったようにピタリとその場で動きを止める。
続けざまに、魔理沙に迫っていた弾幕が、全て球体の外側に張り付くように制止する。
「動けるかしら?」
その様子を唖然と眺めていた魔理沙は、その咲夜の言葉を受け、はっと我に返る。
「あ、ああ……大丈夫だ」
体勢を立て直し、再び帽子を被り直す魔理沙。
「……けど、この弾幕はどうするんだ?」
魔理沙がそう問いかければ、咲夜は魔理沙の方を向かずに答える。
「このバリアごと相手にぶつけるわ」
「……通じるのか?」
魔理沙の疑問に、咲夜は数度首を横に振る。
「分からないわ、やってみないとね。 道を作るわ、そこから抜け出して」
「……わかった。 気を付けろよ」
そうやり取りを交すと、魔理沙の背後に人一人抜け出せる程度の大きさの穴が開く。
その穴から素早く抜け出すと、残存する弾幕を回避しつつ射程外へと飛ぶ魔理沙。
その場に残った咲夜は、自身の指先に、球状に広がった霊力を再び集めて行く。
取り込まれていた弾幕諸共、一つの霊力弾へと姿を変えて行く。
狙いを定め、幽々子目掛けて霊力弾を撃ち込む咲夜。
「あら、中々面白い事するじゃない」
自身の攻撃を利用する戦法にも動揺は一切見せず、飄々とした笑みを浮かべる幽々子。
二人分の霊力を伴った弾は、辺りの弾幕を打ち消しながら、凄まじい勢いで幽々子に肉薄していく。
その弾幕との距離が数M程度になった辺りで、幽々子は再び手元に扇を出現させる。
幽々子がその扇を軽く薙げば、その霊力弾は呆気無く霧散する。
「……! やはり、駄目か……」
駄目で元元の一撃であったとは言え、いとも容易く策を破られ、咲夜はショックを隠しきれずにいた。
「……そうねぇ。 やっぱり、厄介なのから潰すのが一番ね♪」
楽しげな口調とは裏腹に、まるで感情が籠っていないかのような笑みを浮かべる幽々子。
魂の宿っていない冷酷なる瞳は、真っ直ぐ一点に咲夜を見据えていた。
「……私の存在が、目障り?」
能力の酷使により呼吸が乱れ、肩で息をしながらそう投げかける咲夜。
それでも、幽々子を睨む眼光の鋭さは、ナイフの切れ味にも比肩する程である。
「もう、手品は見飽きたのよ」
短くそう告げた幽々子は、最後の
「それじゃあ、ご退場願いましょうか♪」
亡郷「亡我郷 -自尽-」
放たれた弾幕は、最早人一人分の隙間さえ見つける事が難しい程に、その物量を増していた。
荒れ狂う青と黄色の海の中を掻き分け、被弾すまいと必死に逃げ回る魔理沙と柴芭。
「クソッ! なんて量なんだ!」
「くっ……」
二人とも危なげ無く回避に徹してはいるものの、その表情には疲労の色が浮かんで来ている。
そんな二人の様子に不安を抱いた咲夜は、自分の回りで起きている異変に気が付く。
「……一体、何のつもり?」
辺りを飛び交う弾幕が、意図的に自身を避けているかの様に飛んでいる。
まるで、自分一人をそこに隔離するかのように。
「折角だから、選ばせてあげるわ。 貴方の最期を……ね」
端的にそう告げると、喜劇を見物するかのように、楽しげに魔理沙達の方向を眺める幽々子。
突然の選択肢を付き付けられた咲夜は、目前の敵を睨みつけたまま沈吟する。
(……これは、明らかな罠。 私の動揺を誘っているのは、間違いない。 ……けど、)
「咲夜! 私達は大丈夫だ! ……くっ!」
身動きが取れずにいる咲夜に向けて、そう言葉を飛ばす魔理沙。
しかし、その動きは次第におぼつかなくなって行き、明らかな疲労の色が見て取れた。
反対方向にいる柴芭も、龍腕を振るう勢いも、反応速度も明らかに落ちていた。
このままの状態が続けば、二人とも被弾してしまうのは、火を見るより明らかであった。
(このまま唯敗北を待つなんて、私には出来ない……)
顔を上げ、天蓋の如く空を覆う弾幕を見つめる咲夜。
無限の空から咲夜を見下ろす弾幕達は、ともすれば、恐ろしい悪霊のようにも見えた。
(私自身、どうなってしまうのか……無事でいられる保証なんて、無い。 ……それでも、)
咲夜は瞳を閉じ、自身の胸に手を当てる。
(……ただ指をくわえて見ているだけなんて、私には出来ないわ)
そして、胸元に忍ばせた1枚のスペルカードを取り出す。
逡巡する時間すら無く、覚悟に満ちた瞳を見開き、一点に幽々子を睥睨する。
彼女には、もう『恐れ』は無かった。
「……これが私の答えよ! 時符『プライベートスクウェア』ッ!!」
宣言と共に、正方形の平らな魔法陣のような物が幾重にも咲夜を取り巻く。
刹那、咲夜の姿が消える。否、消えたと錯覚するほどの速度で駆けたのだ。
その軌道上に残光を残しながら、雷光の如く弾幕の海目掛けて駆け抜ける咲夜。
周囲の弾幕は、彼女を包む陣に触れた瞬間、音も無く消えて行く。
彼女の道を阻む物は、何一つ存在しない。
「咲夜……!? 一体、何を……」
突然の咲夜の行動に、困惑と驚愕が入り混じった様な表情を浮かべる魔理沙。
柴芭もまた、その行動の意図が掴めず、訝しげな表情になる。
魔理沙の前まで来ると、咲夜は自身を取り巻いていた正方形の陣を幾つか魔理沙に向けて飛ばす。
そのまま陣は魔理沙の身体を取り巻き、魔理沙を守る結界となる。
「……!? おい咲夜!」
魔理沙の呼び掛けには応じず、そのまま柴芭の前まで移動する咲夜。
そして、柴芭にも自身の陣を飛ばし、自身を守っていた陣は全て無くなる。
「咲夜……お前は……」
そう言いかけた柴芭の言葉は、咲夜が首を横に振る事で飲み込まれる。
「……これが、ありったけよ。 ……後は、任せたわ」
そう告げた咲夜の胸元を、青い楔が貫いた。
踏み出す勇気は、託す勇気。恐れぬ勇気は、信じる勇気。
咲夜がどうなったのか、それは次回に続く。
スペルカードの演出を、他とは違った感じにしてみました。
難易度毎に変化するスペルで、一つの物語が出来あがっているのって、幽々子位じゃないですかね?
多分、今回の戦いは、過去最大量のスペルカード合戦になりそう(予言)
次回、「BORDER OF LIFE」。戦いは最終局面へ……。
更新日は未定です。が、なるべく急ぎます。
◇今回登場したスペルカード◇
多いッスね。
恋符「ノンディレクショナルレーザー」
魔理沙のスペルカード。無誘導性レーザー。
螺旋を描く4本のレーザーで敵を弾幕ごと貫く。
マスタースパークと似た様なレーザーだが、範囲で劣り、威力で勝る。
幻在「クロックコープス」
咲夜のスペルカード。時計と死体。
時を操り、大量のナイフを呼びだす。よくある技。
劇中では大した見せ場も無く終わってしまった。無念。
奇術「エターナルミーク」
咲夜のスペルカード。永遠の従順。
全身から霊力を放出し、触れた物体の時を止める球体を展開する。
主を守る従者らしい、防御に徹した技と言えるが、その球体を圧縮して攻撃にも転用できる。
時符「プライベートスクウェア」
咲夜のスペルカード。咲夜の世界。
あらゆる攻撃を受け付けない正方形の陣を纏って突撃する。
発動中は自身の時が加速し、高速+無敵という状態で攻撃出来る。……が、消費が激しく、燃費が悪い。
亡郷「亡我郷 -さまよえる魂-」
幽々子のスペルカード。原作ではEasy仕様。
速度も密度も無い青と黄色の楔弾を放つ。
実は、弾は掠るだけでもヤバい代物である。
亡郷「亡我郷 -宿罪-」
幽々子のスペルカード。原作ではNormal仕様。
「さまよえる魂」よりも速度と密度が増している。
まだ簡単な方ではあるが、本当の地獄はこれからだ。
亡郷「亡我郷 -道無き道-」
幽々子のスペルカード。原作ではHard仕様。
いよいよ本格的に弾幕してきた。普通に難関。
このスペルを攻略した先に、本当の絶望が待ち構えている。
亡郷「亡我郷 -自尽-」
幽々子のスペルカード。原作ではLunatic仕様。
まさに狂気の沙汰。余程の実力が無ければ、全てを避け切るのは困難。
自尽とは、自ら命を断つという意味。
自らを疎んで果てた者の魂は、己が宿罪を忘我の境へと置き去りにした。