神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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お久しぶりでございます。

バイトや引っ越し、舞台に向けての準備等で忙しい時期が続き、執筆がまともに進みませんでした。
あらかた落ち着いてきた為に、今後は多少ペースを回復できそうです。

その反動が、このザマですが。
かなりブッこんでいますが、前回の話を見返しつつ、楽しんでいただければ幸いです。



-あらすじ-
ついに始まった、幽々子との戦い。
底の見えぬ彼女の戦いに、次第に彼らは翻弄されていく。
その戦いの最中、仲間の窮地を救う為、決死の行動に出た咲夜は……



☆BORDER OF LIFE

 

 

胸を青い楔に貫かれた咲夜は、意識を失ったのか、そのまま地上へと落下し始める。

 

 

今まで戦っていた場所は、高さにしておよそ地上15M程。

飛翔はおろか、霊力による防御も行えない今、まともに地上に叩きつけられれば、無事では済まされない。

 

「咲夜ッ!!」

 

魔理沙が咲夜の名を叫ぶと同時に、落下していく咲夜の元へと飛んでいく。

 

咲夜が最後に残していた正方陣(スクウェア)によって、魔理沙に対する一切の弾幕は動きを止める。

触れた物体の時を停止させる事により、使用者に降りかかる一切の脅威を回避する、正に無敵の陣である。

 

陣に守られながら、自由落下を続ける咲夜へと手を伸ばす魔理沙。

 

 

「よっ……と!」

 

地上2M程度の所で咲夜を受け止める事に成功した魔理沙は、そのまま咲夜を安全な場所へと避難させる。

 

その様子を尻目に見ていた柴芭は、安堵の息を吐く。

 

 

そのすぐ後、辺りを覆っていた弾幕の勢いが弱まり、スペルカードが終了する。

 

 

「まずは一人……脱落ね♪」

 

自身の脅威となり得る敵を倒したからか、上機嫌で二人にそう告げる幽々子。

 

「……まだ、オレ達が残っている」

 

竜腕を解かぬまま、目の前の幽々子を睨みながらそう返す柴芭。

次なる攻撃を警戒しているのか、その両足には赤い霊力が滾っている。

 

「そりゃあそうだけど……それよりも、いいのかしら?」

 

幽々子がおどけた様にそう問いかければ、柴芭は片方の眉を吊り上げる。

彼女の言の意図が読めず、解釈に悩んでいる様子である。

 

そんな柴芭の様子を見た幽々子は、更に楽しげな口調で言葉を紡ぐ。

 

 

「お友達、心配じゃないの?」

 

「……ッ!」

 

その言葉を受けて、漸く真意を理解した柴芭は、地上にいる仲間(咲夜)に目を向ける。

 

 

視線の先には、桜の木の根元に横たわる咲夜と、その傍らで頻りに彼女の名を呼ぶ魔理沙の姿があった。

 

 

 

 

「咲夜……? おい咲夜! しっかりしろ!」

 

魔理沙が何度呼びかけても、咲夜はぐったりと横たわり、反応を見せない。

ガクガクと体を揺すられても、力無く頭が上下に動くばかり。

 

まるで事切れたかのように、糸が切れた操り人形のように、咲夜は動かない。

 

 

「咲夜ッ! ……ッ!?」

 

再び咲夜の名を呼んだ魔理沙は、とある事実に気付き、その表情を驚愕に染める。

 

 

 ――咲夜の心臓の鼓動が、止まっている。

 

 

 

心臓が止まるという事。即ち、生命活動が止まるという事。

 

それが意味するのは、ただ一つの解答(こたえ)

 

 

「嘘、だろ……?」

 

目の前の現実に思考が追い付かず、魔理沙はただ力無く、そう呟くのだった。

 

 

 

 

その一部始終を上空から俯瞰していた柴芭は、ゆっくりと幽々子に顔を向ける。

 

「……咲夜(アイツ)に、何をした」

 

表情こそ、普段の()()と何ら変わりないが、静かな口調の裏に漂う感情を、幽々子はその一言で察し、悪戯な笑みを浮かべる。

 

「貴方が思っている通り……と、言ったら?」

 

そう言い切る刹那、竜腕から伸びた鋭い爪が幽々子に突き付けられる。

その凶刃から放たれる凄まじい殺気を前にしても、幽々子は尚も笑みを崩さない。

 

「まぁ、怖い♪ ……けど、安心なさいな。 別に、命までは取っていないわ」

 

「何……?」

 

幽々子がそう説明すれば、その意味を問い質すように柴芭が言葉を発する。

 

「確かに、あの子の心の臓は停止しているわ。 けれど、まだ肉体的な死は迎えていない。

……言ってしまえば、あの子は仮死状態に近いかしらね」

 

仮死状態……即ち、呼吸や心臓のどちらかが止まっているものの、処置の次第ではまだ息を吹き返す事が可能な段階のことである。

 

「私のチカラで、あの子から精神的なモノ……要は、魂をいただいたという事よ」

 

「魂、だと……?」

 

幽々子が放った「魂」という単語に対し、訝しむように眉を吊り上げる柴芭。

 

「そう。 なるべく大人しくしていて欲しいから、こういう手を使わせていただいたのよ。

……別に、そのまま殺すつもりはないわ。 目的さえ済めば、魂も春も必要無くなるから、返すわよ」

 

柴芭の問いかけに対し、呟く程度の声量でそう答える幽々子。

明るい口調とは裏腹に、どこか物憂げなその表情は、自分の能力(チカラ)を疎むが故の物なのか、それは本人にしか判らない。

 

 

「なるほど、そういうワケか」

 

いつの間にか幽々子の背後にいた魔理沙が、納得したような口調でそう告げる。

両腕を組んで仁王立ちの姿勢で構える魔理沙からは、先程の焦燥は感じられない。

 

「あら、聞いてたの? できれば、そのまま戦意喪失してくれた方がラクだったんだけど……」

 

背後の魔理沙の存在に気付いた幽々子は、おどけた調子に戻り、そう投げかける。

 

「悪いが、そんな話を聞かされたとあっちゃ“諦める”なんて選択肢は出てこないな」

 

それに対し魔理沙は、幽々子の希望とは裏腹に、俄然やる気に満ちた表情でそう答えるのだった。

そんな魔理沙の言葉から、先程とは違った気迫のようなものを幽々子は感じ取る。

 

「へぇ……けど、勝てると思うのかしら? 3人でも()()()だったじゃない」

 

少しの思考の後、挑発するような言動で魔理沙を煽る。

 

 

「……今までの私達と思うなよ、痛い目見るぜ?」

 

そんな挑発に対し、魔理沙は不敵に笑みを浮かべる。

 

 

それと同時に、幽々子の背後から凄まじいプレッシャーを伴う霊力が襲いかかる。

 

振り向けば、そこには4本の竜腕を顕現させ、自身を睨む柴芭の姿があった。

 

 

 

「……なるほどね。 やる気は十分、って訳……なら」

 

 

二人分の圧力を受けながらも、幽々子は一段と笑みを深める。

 

そして、目を閉じ、静かに力を溜め、そして見開く。

 

 

   「試してあげるわ」

 

 

 

 

   亡舞「生者必滅の理 -眩惑-」

 

 

 

 

静かに放たれたスペルカード。 その宣言と同時に、数多の霊が幽々子を取り巻く。

そして、それらが一斉に飛び交い、冥界の空を白く染める。

 

「また(レイ)の弾幕か」

 

「そうね、(レイ)の弾幕よ」

 

噛み合っていそうで微妙に噛み合っていない会話を交わしつつも、魔理沙は的確にそれらの弾幕を回避していく。

柴芭もまた、倍に増えた自身の竜腕を以て、近づく弾幕を悉く破壊していく。

 

「柴芭! いちいち相手するばかりじゃなく、避ける事も大事だぜ」

 

弾幕を蹴散らしながら進む柴芭の動きを見かねてか、魔理沙がそう呼びかける。

 

本来、弾幕ごっこにおいては、相手の弾幕は回避することが定石(セオリー)とされている。

実際には、“魅せる”という点さえ損なわなければ、掻き消そうが壊そうが特に問題は無い。

 

最も、原案者がそこまで細かくルールを決めているわけでも無い上、今回のような異変に際しては、相手の方もそこまで手が回らない

 

事の方が多く、結果として、ルールはほぼ形だけの物になりつつあるのである。

 

「あらあら、以外と心配性? 大丈夫よ、すぐにその余裕は無くなるから♪」

 

魔理沙の言葉を借りて、そんな言葉を投げかける幽々子。

 

「おいおい、おっかない事言うなぁ。 ……なら、()を見せてもらおうじゃないか」

 

弾幕を軽々と回避しながら、次の技を催促する旨の言葉を幽々子に投げかける魔理沙。

辺りを飛び交う弾幕は次第に薄れて行き、既に効果が終了しつつあった。

 

「ええ、見せて差し上げるわ。 ……さぁ、続くわよ!」

 

 

 

 

   亡舞「生者必滅の理 -死蝶-」

 

 

 

 

そんな魔理沙の言葉に応え、終了すると同時に、間髪入れずに次なるスペルカードを放つ幽々子。

すると、辺りを漂っていた霊魂の弾幕達が一斉に光を放ち、その姿を美しい青い蝶へと変える。

 

空を覆う白が、透き通るような美しい蒼へと移り変わり、その光景に目を輝かせる魔理沙。

 

「へぇ……こりゃすごいな。 ……けど」

 

そこまで言いかけた魔理沙は、ちらりと幽々子の方を見やる。

そして、幽々子は魔理沙が言わんとする言葉を理解し、小さく笑う。

 

「ええ、そうよ。 気は抜かないことね」

 

そう幽々子が告げれば、先程よりも速度が増した蝶達が、一斉に辺りを飛び交う。

 

「へっ……当然!」

 

そんな弾幕の嵐の中でも、魔理沙は余裕を崩さず、素早く回避していく。

 

柴芭はと言うと、先の魔理沙の言葉を真に受けたのか、周囲の弾幕はおろか、自身に迫る弾幕さえも回避でやり過ごそうとしていた。

 

「あ~……キツいと思ったら、壊しても良いんだからな?」

 

正直すぎる柴芭の行動を見かねてか、少々呆れたような口調で魔理沙がそう呼びかける。

 

 

「あらあら……ずいぶんと余裕みたいね? 流石に、この程度じゃ物足りないかしら」

 

そんなやり取りを見ていた幽々子は、苦笑しながらそう投げかける。

 

だが、その薄らと見開かれた瞳は、笑ってはいなかった。

 

 

「……その先、か?」

 

横目にみた幽々子の笑顔に、背筋が冷えるものを感じた魔理沙だったが、あえて挑む姿勢を見せる。

 

彼女の中には、未知のモノに対する恐れにも似た感情があったが、それよりも好奇心が勝るのだった。

 

 

「そう。 なら……」

 

静かに呟いた幽々子の言葉を皮切りに、突如として弾幕達が動きを止める。

 

まるで、時が止まったかのように、一瞬にして静寂が世界を支配する。

 

 

(来る……確実に……。 今までよりも、ヤバいモノが……)

 

これから訪れるであろう更なる攻撃を予想し、思わず生唾を飲み込む魔理沙。

近くにいた柴芭もまた、次なる攻撃に備え、身構えている。

 

 

 

 「その余裕、無くしてあげるわ」

 

 

 

 

   亡舞「生者必滅の理 -毒蛾-」

 

 

 

 

そのスペルカードの宣言を皮切りに、静止していた弾幕達が再び動き出す。

だが、そのスピードは、先程とは比べ物にならない程に上昇していた。

 

「なっ!? なんて速度だよっ!?」

 

想像を遥かに超える速度で迫り来る弾幕に対し、そんな感想を漏らす魔理沙。

 

先程まで、ただ辺りを漂っていただけに過ぎなかった弾幕達は、まるで意思を持っているかのように、彼らに対して襲いかかるようになっていた。

 

それに加えて、辺りを漂い続けている弾幕もまた、それらの弾幕と同じ速度になっていた為、難易度も飛躍的に跳ね上がっていた。

 

荒れ狂う弾幕の波を抜けながらも、魔理沙は柴芭のいる方向を見やる。

 

柴芭はというと、急激に速度を増した弾幕相手に手こずっているようで、大半はかわしつつも、時折幾つかの弾幕が竜腕に被弾していた。

 

だが、竜腕に弾幕が当たっても、柴芭は何ら反応を見せない。

竜腕自体の防御力が凄まじいのか、或いは弾幕を無効にする能力が備わっているのか、それは判らないが、恐らく()()は被弾にカウントされないだろう。そう捉え、魔理沙は再び視線を幽々子に向ける。

 

 

幽々子は笑みを浮かべている。先程と変わらぬ、冷たい笑みを。

彼らを見ているようで、何処も見ていない。虚ろげながら、何処か悍ましい目。

 

そんな幽々子の目を見ていると、言葉では言い表せないような不安がこみ上げてくるのを、魔理沙は自覚せずにはいられなかった。

 

 

弾幕と格闘している最中、不意に魔理沙は幽々子と目が合う。

 

その視線を受けた幽々子は、ニヤリと笑みを浮かべ、魔理沙に向けて指を指す。

 

 

(……? 一体何を……ッ!?)

 

いきなりの行動に疑問を抱いた魔理沙は、次の瞬間、その行動の意図を理解する。

 

突如、幽々子の指先から、赤いレーザーが放たれたのだ。

 

「うぉっ!?」

 

反射的に身を捩らせ、直撃を避ける魔理沙。

だが、標的を失った光線が行き着く先を見て、再び魔理沙は驚愕する。

 

そのレーザーが向かう先には、柴芭の姿があった。

 

(拙い……! 今、柴芭は気付いていない……このままじゃ、当たるぞ!?)

 

「柴芭ッ!!」

 

魔理沙の声を受けて、柴芭がその方向へと見やる。

 

「……ッ!」

 

そして、自身に迫るレーザーに気付き、目を見開く。

 

すかさず両の竜腕を前方に翳し、防御の体勢へと移行する柴芭。

 

 

 

そのレーザーは、竜腕に当たった途端、大きな爆発を引き起こした。

 

「ッ!?」

 

その爆発の衝撃に耐え切れず、大きく仰け反る柴芭。

 

「柴芭!? ……って、おわっ!?」

 

「よそ見してて良いのかしら~?」

 

柴芭を心配して声をかける魔理沙だったが、その言葉は幽々子の弾幕によって阻まれる。

 

(くそっ……柴芭は、無事なのか……?)

 

飛来する弾幕を回避しながら、魔理沙は柴芭の身を案じる。

 

 

 

やがて、爆煙が晴れ、柴芭の姿が露わになる。

 

そこには、両の竜腕がボロボロになった柴芭の姿があった。

 

「なっ……!? 竜腕が!?」

 

その姿を見て、魔理沙が驚きの声を上げる。

 

鉄壁とも言える防御を誇っていた竜腕が、たかがレーザー一発でこれ程までのダメージを受けるとは、完全に予想外であった為である。

 

 

肘から先の竜腕は大きく抉られ、元の腕が露わになっていた。

 

辺りには、竜腕が砕けた事によって剥がれ、飛び散った鱗が漂っている。

竜腕の霊力の残滓を纏った鱗は、ともすれば、一種の弾幕のようにも見て取れた。

 

その鱗を見て、何か思いついたのか、柴芭は右手を大きく前へ突き出す。

 

すると、その右手を中心に、周囲に漂っていた鱗が一斉に集まりだす。

そのまま鱗は渦を巻き、その中心たる右腕に吸い寄せられ、小さな光のひと固まりとなる。

 

 

その光が晴れると、そこには一枚のスペルカード。

柴芭は、戦いの中で、新たなスペルカードを生み出したのだった。

 

その事実に舌を巻きつつも、魔理沙もまた、辺りに残っていた鱗の欠片を手に取り、()()に魔力を込める。

 

 

「あら、また何か新しい事を見せてくれるのかしら?」

 

その様子を見ていた幽々子は、期待するように柴芭に問いかける。

 

「ああ……見せてやろう。 ……即興だが、な」

 

そう告げると、柴芭は右手に持ったスペルカードを頭上に掲げ、宣言する。

 

 

「……逆鱗『スケールインパルス』!」

 

彼にしては珍しく、声に出してスペルカードを宣言する柴芭。

その宣言の直後、竜腕を覆っていた無数の竜の鱗が虚空から出現する。

 

「……往けッ」

 

柴芭が指示を出すと同時に、無数の鱗が一斉に幽々子目掛けて飛来する。

それぞれの鱗は霊力を纏っており、外に広がるにつれて暖色から寒色へと色が変化していき、辺りを飛び交う蝶の弾幕に照らされ、まるで虹のように輝いていた。

 

「まぁ……名前通り、すごいスケールねぇ」

 

レーザーを撃った手を戻すのも忘れて、その光景に目を輝かせる幽々子。

 

 

「おっと、スケールの大きさに気を取られている場合じゃないぜ?」

 

そんな幽々子に対し、上空から魔理沙の声が響く。

 

魔理沙もまた、柴芭の竜腕から剥がれ落ちた鱗を手に集め、一枚のスペルカードを取り出していた。

その手に集まった鱗に魔力が凝縮して行き、やがて一つの巨大な光の塊となる。

 

「悪いな柴芭、ちょいと(コレ)借りるぜ! 星符『ドラゴンメテオ』!」

 

スペルカードを宣言すると同時に、両手を前に突き出す魔理沙。

すると、その手に集まっていた光が一斉に拡散し、流星の如くに幽々子目掛けて降り注ぐ。

 

地上からの竜鱗、上空からの流星、二つの波に挟まれ、弾幕諸共光に包まれる幽々子。

 

 

「……死ぬまで、か?」

 

煌々とした光を前にして、柴芭は上空から戦場を俯瞰する魔理沙に言葉を投げかける。

 

「この異変が終わるまで、だな」

 

魔理沙がそう言葉を合わせれば、柴芭の口元が僅かばかり吊り上がる。

だが、それと同時に顔を下ろしていた為に、魔理沙からはその表情を窺う事は出来なかった。

 

 

 

「確かにすごいスケールだけど……」

 

そんなやり取りをしていた彼らの耳に、突如、光に包まれているであろう人物の声が響く。

 

 

突如、目の前の光の塊が、音を立てて四散した。

 

「なっ!?」

「……!?」

 

突然の出来事に思わず目を疑う二人。

 

光の中から現れ出たのは、夥しい数の蝶を侍らせた幽々子その人だった。

 

 

「ちょっと、物足りないかしら?」

 

 

 

 

   亡舞「生者必滅の理 -魔境-」

 

 

 

 

そして、四度目となる生者必滅の理(スペルカード)を宣言する。

直後、幽々子の周囲を漂っていた蝶達が、一斉に柴芭達に向けて飛来する。

 

今までの速度に加え、更に密度と複雑な機動が加わり、更に攻略を難しい物とさせていた。

 

「ちぃっ! まだ足りないってか!? 随分ハードル高いぜっ!」

 

更なる弾幕に翻弄されながらも、軽口を叩くだけの余裕を見せる魔理沙。

だがその表情には若干の焦りが見え始めていた。

 

「この程度じゃ、満足できないでしょう? ……私も、貴方達も」

 

弾幕を操る手は止めずに、魔理沙の言葉に対してそう返す幽々子。

 

「……もう、満腹だ」

 

そんな幽々子の言葉を食欲に例えて、満腹と表現する柴芭。

竜腕を前に突き出し、前方からの攻撃をガードしながら疾走する彼の顔は、傍からは窺い知れないものの、辟易しているであろう事が

 

読み取れる表情になっていた。

 

「あら、まだまだイケるわよ♪ デザートは別腹って言うじゃない」

 

柴芭の言葉を歯牙にも掛けず、遠方を(はし)る柴芭に対してレーザー(デザート)を差し向ける幽々子。

 

 

そのレーザーの存在に気付いた柴芭は、竜腕の顕現を解き、その場で歩みを止めた。

 

「な、何して……!? ……! ああ……」

 

突然の柴芭の行動にギョッとする魔理沙だったが、その行動の意図を読み取ると、小さく笑みを浮かべる。

 

「……仕方が無いな」

 

刻一刻と自身に迫るレーザーを前に、柴芭は俯きながらそう呟く。

 

「なら……頂くとしよう」

 

そして再び顔を上げると、右手の指の間に挟んだスペルカードを宣言する。

 

 

 

「暴牙『タイラントアギト』!」

 

 

再びの声に出しての宣言と同時に、柴芭は両腕を前方に突き出す。

先程、魔理沙が放った「ドラゴンメテオ」の時と同じような体勢だが、此方は構えた腕を水平にしており、ちょうど上下の腕が重なる形となっている。

 

そして、重ねた腕をそれぞれ上下に大きく引き離す。

まるで、竜がその大きな口を開くかのように。

 

直後、柴芭の両腕に膨大な霊力が集まっていく。

それらは素早く形を変えて行き、やがて巨大な口のような形になる。

 

魔理沙の目には、それは巨大な(ドラゴン)(アギト)のようにも映って見えた。

 

 

そして、大口を開けた竜が、勢いよく両の牙を噛み合わせる。

 

その瞬間、辺りに凄まじい衝撃が発生し、周囲の弾幕諸共、迫っていたレーザーを跡形も無く呑み込んだ。

 

 

「……ごちそうさま、だ」

 

弾幕を喰い尽した暴食の牙は姿を消し、柴芭は小さく舌舐めずりをする。

 

「ふふ……やっぱり、イケるんじゃない♪」

 

その光景に唖然としていた幽々子は、こみ上げてくる笑いを堪えもせず、そう楽しげに柴芭に言葉を投げかける。

 

辺りを飛び交っていた蝶は大幅に数を減らし、やがて全てが冥界の空へと霧散していく。スペルカードの時間が終わりを迎えたのである。

 

 

 

「さて……もうディナーは終わりなのか?」

 

形成が変わった事で、多少の余裕を取り戻した様子の魔理沙が、挑発染みた言葉を幽々子に投げかける。

その右手にはミニ八卦炉が握られており、その砲口を突き付けるように幽々子に向ける。

 

そんな魔理沙の言葉を否定するかのように、小さく首を横に振る幽々子。

 

「……いいえ、これからが本当のメインディッシュよ」

 

そして、顔を上げてそう告げれば、今度は自身の背後にある巨大桜に目を向ける。

その視線が動くのに合わせるように、魔理沙と柴芭もまた、その方向に目を向ける。

 

 

そこには、満開近くまで花を開かせ、煌々と光を放つ西行妖の姿があった。

 

「桜が……」

 

西行妖から放たれる凄まじいプレッシャーを真正面から受け、頬を一筋の汗が伝うのを感じ取る魔理沙。

 

目に見える程に妖力を湛えた西行妖と、それを取り巻く夥しい数の霊魂。

 

 

それはまるで、この世にある、ありとあらゆる不吉を象徴しているようで、

 

それはまるで、自らが「死」そのものを体現しているかのようである。

 

 

「ええ、もう満開がすぐそこまで迫っている証拠よ。 ……いよいよ、私の願いが成就する時が来たのよ」

 

そう呟きながら、恍惚の表情で西行妖を眺める幽々子。

その刹那に、ふと一瞬だけ見せた悲しげな表情に魔理沙は気付くも、些事と切り捨てる。

 

「願いだか目論見だか知らんが、ソイツを成就させる訳には行かないな!」

 

そして、八卦炉を握る右手に力を込め、魔理沙は力強くそう宣言する。

 

 

「そう……。 あくまで、拒むというのなら……」

 

そう呟いた幽々子は、俯き、目を伏せ、何処か諦観にも似た感情を醸し出す。

 

 

そして、再び顔を上げた幽々子からは、

 

 

 「眠らせてあげるわ」

 

 

笑顔は、消え失せていた。

 

 

 

 

   桜符「完全なる墨染の桜 -封印-」  

 

 

 

 

その手に握られていたスペルカードを、上空高く放り投げる幽々子。

それが宣言の合図となり、幽々子の背後に、桜模様を象った巨大な扇が出現する。

 

幽々子が手を振るう。その動作と共に、何処からとも無く桜の花びらのようなモノが出現する。

そして、その花びら達は、一斉に柴芭達に襲い掛かった。

 

「くっ……凄まじい勢いだ」

 

襲い来る花びら達は、速度、密度、全てにおいて、今までの比では無い。

それでも、正確に、一枚一枚、紙一重で回避を重ねて行く魔理沙。

 

(桁外れだろ……これが幽々子(アイツ)の本気だって言うのか!?)

 

言葉には出さないものの、確実に、魔理沙の中では余裕が無くなりつつあった。

回避し続けるのがやっとの状況故に、攻勢に回ることも不可能である。

 

「何時まで……続くかしらね?」

 

幽々子の、感情がこもっていないような冷たい言葉が投げかけられる。

その言葉を受けて、苦々しげに歯噛みする魔理沙。

 

(っ……そうだ、何時までも回避に徹し続けられるワケじゃない。

 

今までのスペルカードがそうだったように、このスペルカードも恐らく、一度では終わらない。

……だとすれば、今よりも更に辛くなるのは、火を見るよりも明らかだ。

 

けど、一体どうすれば……)

 

 

 

 双竜符「刹那を断つ二重の烈爪」

 

 

思考を続けていた魔理沙の耳に、突如として轟音が響く。

振り向けば、4本の竜腕を顕現させた柴芭が、幽々子目掛けて腕を振っていた。

 

「柴芭!?」

 

それは、柴芭が最も得意とするスペルカード。

圧倒的な破壊力を以て、立ち塞がる全てを断つ烈閃の轍。

 

 

だが、その刃は、幽々子へと届くことは無かった。

 

「!? そんな……」

 

幽々子へと放たれた無数の刃は、その前に立ち塞がった無数の桜の花びらに呑まれ、傷つけられ、跡形も無く消えてしまったのだ。

 

「チッ……」

 

事の顛末を見越していたのか、そう小さく舌打ちをする柴芭。

彼にとっても、その試みは無謀で、成功する確率の低いものであったようだ。

 

 

(全く……無茶しやがるぜ、柴芭の奴。

……けど、そうか。 そうだよな……)

 

柴芭の行動を横目に見ていた魔理沙は、その行動から何かを読み取り、気付く。

 

(そうでもしなきゃ、道は開けないよな……なぁ、咲夜)

 

そして、今はこの場にいない戦友(咲夜)の名を心の中で呼ぶ。

 

 

彼女の中で、決心は固まった。

 

 

 

「しぶといわね……なら、これならどう?」

 

中々倒れない二人に痺れを切らしたのか、幽々子が次なるスペルを発動する。

 

 

 

 

   桜符「完全なる墨染の桜 -亡我-」

 

 

 

 

放たれたスペルによって、更なる威力を得た弾幕達が、容赦無く魔理沙達を襲う。

魔理沙は再び飛び回り、柴芭は疾り回りつつ、竜腕で攻撃を防いでいく。

 

しかし、襲い来る弾幕を防ぎ続けていた竜腕は、次第に表面を削られ、その形を保てなくなりつつあった。

度重なる攻撃によって、柴芭自身も消耗していた為に、竜腕の顕現にも影響が出始めていた。

 

(竜腕が回復していない……? 柴芭ももう、ヤバいって事なのか……)

 

その様子を傍目に観察していた魔理沙は、いよいよ決断を迫られていた。

 

 

(道を開くには……やるしかない!!)

 

己の内にて覚悟を決めた魔理沙は、一枚のスペルカードを取り出し、宣言する。

 

 

「……星符『ミルキーウェイ』ッ!」

 

その宣言と共に、魔理沙の指先に光が集中する。

辺りに舞う花びらを回避していく傍ら、その軌道上に残していた、星の形をした色取り取りの弾幕達が、同じように光を帯びる。

 

「行くぜ!!」

 

そして、魔理沙は幽々子を指さす。

それと同時に、辺りに(ちりば)められた星々が一斉に光を放ち、幽々子目掛けて飛散する。

 

一直線に進む星の瞬きが、夜空に舞い散る花びらを照らし、幻想的な光景を映し出す。

だが、そんな光景の中でも、対峙する幽々子は眉一つ動かさない。

 

 

今、きっと彼女は、戦いを楽しんで等いないのだろう。

 

それを察した魔理沙は、何処か寂しい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。

 

 

「そんなもの、効かないわよ」

 

そんな場違いな思考を遮るかのように、幽々子が扇を一薙ぎする。

すると、そこから無数のレーザーが射出され、次々に瞬く星々を落としていく。

 

「ッ!!」

 

すぐに思考を目の前の状況に戻した魔理沙だったが、咄嗟の回避が遅れ、わき腹をレーザーが掠める。

 

「ぎッ……!!」

 

直後、凄まじい激痛が襲いかかるも、根性で意識を保つ魔理沙。

そして、痛みに耐えながらも、今のレーザーは先程の弾幕と同じく、触れただけで痛みを伴うタイプの弾幕と同じ性質を持っているのだろう、と推察する。

 

 

「魔理沙!」

 

魔理沙が思考を奔らせていると、柴芭が魔理沙の名を呼ぶ。

恐らく、魔理沙の安否を気に掛けているのだろう。その言葉に、魔理沙は小さく右手を上げる。

 

 

(お前の方こそ、もう限界ギリギリじゃないかよ……柴芭)

 

そして、今度は柴芭の様子を横目に見ながら、そう思考する。

 

背中から生えた竜腕は、既に肘から先が千切れ飛んでおり、原型を留めていない。

元あった竜腕も、右腕はほぼ無くなっており、左腕も大きく損傷している。

 

既に回復する余力は無くなっているのか、肩で息をしながら、残り僅かな霊力で竜腕を維持している。

 

 

(あんな腕じゃ、もう防御はできないな……。 ……ッ)

 

思考しながら回避を続ける魔理沙の体が、不意にガクリと崩れ落ちる。

すぐさま体勢を立て直すも、既に魔力の残存は尽きかけ、視界はぼやけ始めていた。

 

(私も……限界が近いって訳か……)

 

今にも手放しそうな意識を必死に保ち、目の前に対峙する幽々子を睨む。

 

 

(……最後まで、抗ってやるぜ)

 

 

 

「……」

 

対峙する者達を睥睨する幽々子の目は、先程までの冷徹さを失っていた。

その瞳に宿る感情は、「蔑み」よりも「憐み」という表現が相応しいであろうか。

 

何に対する「憐み」であったのか、それは、彼女自身にしか判らない。

 

 

「……そろそろ、終わらせてあげましょう」

 

そう呟いた幽々子は、三度目となるスペルカードを取り出し、宣言する。

 

 

 

 

   桜符「完全なる墨染の桜 -春眠-」

 

 

 

 

更に暴威を増す桜の嵐。空は完全に桜に覆われ、最早その色さえ窺い知れない。

 

放たれた桜は凄まじい勢いで、しかし、確実に彼らを取り巻いていた。

「ひと思いにかたを付けてやろう」と言わんばかりに、幽々子は、一撃の慈悲を以て勝負をつけんとしていた。

 

だが、それで戦いを終わらせる気等、()()には毛頭なかった。

 

 

 

「終わり……だと……?」

 

 

荒れ狂う花びらの中で、掠れた声が響く。

その声と共に、まるで時が止まったかのように、辺りが静寂に包まれる。

 

 

「冗談じゃ……ないぜ」

 

 

その声の主は、ゆっくりと顔を上げ、対峙する(幽々子)を睨む。

ともすれば、鬼神とも見紛う程の気迫に気圧され、思わず息を呑む幽々子。

 

 

「終わらせるのは……」

 

 

そして、右手をゆっくりと掲げ、幽々子に向ける。

その手には、彼女の愛用する武器――ミニ八卦炉が握られている。

 

 

「私達だ……ッ!」

 

 

右手に持った八卦炉に、残り僅かな魔力を全て集中させる。

 

そして、力強く笑顔を浮かべ、そのスペルを宣言する。

 

 

 

 「恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

 

 

魔力の全てを集約した、超極太の光線が、右手に持った八卦炉から放たれる。

その光線を右へ左へと薙ぎ払い、吹き荒れる花びらを焼いていく。

 

 

その光景に、幽々子は驚愕する。

 

(どうして……? なぜ、そこまで……)

 

眼前の光景が理解できず、ただ一人、自問するばかりであった。

 

 

数多の嵐を焼き払った光線は、発動者(幽々子)に届く事無く、そのまま消え去った。スペルカードの効果時間が終了したのか、はたまた、わざと終わらせたのか。

その真意は、闇の中。

 

力を使い果たした魔理沙は、僅かに残った意識を振り絞り、柴芭へと向き直る。

 

そして、右手に持った八卦炉を、柴芭に投げ渡す。

 

「これ……預けとく、ぜ……」

 

困惑半分、驚愕半分といった様子の柴芭に、魔理沙は微笑みかける。

 

「お守り……だぜ。 勝てよ、柴芭……」

 

そう言い残すと、魔理沙はゆっくりと体を降下させ、地上へと降り立ち、そのまま倒れこんだ。

 

 

 

 

------

 

 

「……お守り、か」

 

左手に持った八卦炉を握りしめ、そう呟いてみる。

 

ミニ八卦炉、魔理沙の最も大事にしているアイテム。

それをオレに預けた……つまりは、そういうことなんだろう。

 

なら……もう、答えは一つだ。

 

「負けられない、な」

 

受け継いだからには、全うする。

 

……それに、

 

 

「……わからないわ」

 

……?

 

「どうして……どうして、そこまで抗うの?」

 

振り返れば、幽々子が心底「理解できない」と言いたげな表情をしていた。

 

「……どうして、そこまで必死になれるの? ……死ぬかもしれないっていうのに」

 

確かに、無謀な賭けだっただろう。死の危険だってあっただろう。

 

それでも……、

 

 

「負けたくないから、な」

 

理由なんて、それだけで十分だ。

 

 

 

「……まるで子供ね」

 

「……お互い様だ」

 

 

そして、オレと幽々子は笑い合う。

 

いつの間にかオレ達は、目的なんて忘れて、ただ勝つ事だけを考えていた。

……小難しい事を考えるよりも、そっちの方が性に合っている気がする。

 

 

一頻り笑い終えた幽々子が、不敵な表情を浮かべる。

 

「なら、私だって負けないわよ!」

 

「……上等だ」

 

これが……最後の勝負だ。

 

 

「私のありったけ……ぶつけてあげるわ!」

 

 

 

 

   桜符「完全なる墨染の桜 -開花-」

 

 

 

 

最後のスペルカード。その宣言と共に、桜の嵐が巻き起こる。

今までの、どのスペルよりも、強く輝いていて、それでいて、美しい。

 

これが……アイツの、ありったけ……。

 

……ありったけ、か。

 

 

「……?」

 

不意に、左手に温かな何かを感じる。

その温かさを感じる方へ、視線を向ける。

 

左手には、握られた八卦炉。その温かさは、八卦炉から感じ取れる。

それが何なのかは、オレには判らない。

 

……まだ、残っているのか?

オレにも……まだ、チカラが、残っているのか?

 

 

無意識の内に、八卦炉を握る手の力が強くなる。

そして、ただ只管に、その温かさを、左手へと注ぐ。

 

何も考えず、ただ……ありったけを、注ぎ込む。

 

 

 

 

 ――顕現せよ、魔の瞳。竜の器に宿り来て、光を以て勝利へ導け。

 

 

 

その言葉が脳裏を過ると同時に、体の奥から温かいものが込み上げ、左手に集約していく。

 

そして、左腕が光に包まれ、竜腕が顕現するように轟音が鳴り響く。

 

 

 

「これは……」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

左腕に現れたのは、竜の頭部と思しき物体。

竜腕と同じく紫色の鱗に包まれており、口からは青白い炎を燻らしている。

 

だが、その質感は金属のように堅く、根元にあたる肘の先からは管のような物が通っていたりと、何処か機械的な印象を与える。

 

 

初めて見るオレの新たな形態(すがた)。ともすれば、それは異形の象徴とも呼べるかもしれない。

 

だが、オレは()()に対して、抵抗は感じなかった。

初めて触れるハズの力なのに、体に馴染む感じがした。

 

これが……今のオレの、ありったけ。

 

 

「……本当に貴方、不思議だわ。 一体、貴方にはどれだけの秘密が隠されているのかしら?」

 

その様子を見ていた幽々子がそう問いかける。

その目は、まるで子供が未知の物に触れた時のように、キラキラと輝いていた。

 

自分でも、自分にどれ程の謎があるのか、判らない。

けれど……それを不安に思う事は……無い。

 

「さぁな……だが、」

 

オレの能力(チカラ)が何であれ……オレは、オレの“今”を生きるだけだ。

 

 

「これが……今のオレの“ありったけ”だ」

 

左腕を前に突き出し、そこに宿った“竜砲”を掲げる。

 

……これが、正真正銘……最後の勝負という訳だ。

 

 

「……成程、ね。 ……なら、勝負といきましょうか!」

 

そして、幽々子もまた、両手に持った扇を此方に向ける。

 

 

 

 「さあ、往きなさいッ!!」

 

幽々子が扇を払うと、一斉に桜の嵐が此方に襲い掛かる。

 

……すごい、スケールだな。……だが、オレは決して負けない。

 

 

「……借りるぜ、せんせい」

 

魔理沙(アイツ)から預かったこのチカラ……今こそ、使うッ!

 

 

 

 

  「……『マスタースパーク』ッ!!」

 

 

 

 

宣言と共に、左腕の竜が甲高い咆哮を上げる。

そして、その口から、青白い光を伴った膨大な光線が発射される。

 

 

光線は一直線に突き進み、前方に展開していた桜の嵐とぶつかり合う。

 

力と力のぶつかり合い。互いに一歩も退かぬ光の奔流。

押し返されそうになる左腕に、ありったけの力を込める。

 

絶対に……負けない!

 

 

 

「……うぉおおおおおォォォッ!!」

 

 

 

蒼き奔流は更に勢いを増し、遂には、墨染の桜を呑み込んだ。

 

眼前に広がる光の中に、幽々子の姿を見る。

 

 

彼女は、決着が付く最後の瞬間まで……終ぞ、笑顔だった。

 

 

 

 

------

 

 

長きに渡る戦いは、異変解決者側の勝利で決着が付いた。

力を使い果たした柴芭は、そのまま地上へと降り立ち、落下してくる幽々子を受け止める。

 

「……」

 

安らいだ表情で寝息を立てる幽々子を見て、肩の力を抜く柴芭。

そのまま彼女を寝かせ、すぐ傍に聳える西行妖へと視線を移した。

 

 

 

その瞬間、突如西行妖から凄まじい妖力が放たれる。

 

 

「……ッ!?」

 

その凄まじいプレッシャーに耐えきれず、思わずその場で片膝を突く柴芭。

 

 

悍ましい妖気を放つ西行妖から姿を現したのは、その木の下で眠る者。

完全に目覚めつつある西行妖は、()()の力を取り込み、満開にならんとする。

 

 

柴芭には、何が起こっているのか分からなかったが、彼の本能は悟った。

「アレを目覚めさせてはならない」、と。

 

 

――今動けるのは、自分だけ。その自分も、今は満身創痍の状態。

 

「……万事休す、か」

 

立ち上がる事も儘ならず、苦々しげに悪態を吐く柴芭。

 

 

 

 

『いや、そうでもねーッスよ?』

 

 

そんな柴芭の言葉に応えたのは、先程まではこの場にいなかった筈の人物。

その人物は、悠々と歩きながら、柴芭の前まで躍り出る。

 

炎模様の着物を羽織り、身の丈以上の大刀を背負った、黒い長髪の男。

柴芭にとっても、()()にとっても、この場にいる全てに縁のある人物。

 

 

「紅炎……」

 

陽炎の剣士、紅炎の姿があった。

 

 

「……ナイスファイトだったぜ、柴芭。 後は俺が、引き継いだッス」

 

紅炎はそう告げると、背負った大刀を引き抜き、戦闘態勢に入る。

 

「だが……お前は……」

 

そう言いかけた柴芭を、紅炎は手で制する。「みなまで言うな」とでも言いたげに。

 

「心配すんなって、俺は死なねーよ。 それに……」

 

そう言って、紅炎は柴芭の背後に目を遣る。

視線の先には、柴芭達が進んできた道。

 

その彼方を見やり、小さく口元に弧を描く紅炎。

 

「ヒーローは、必ず来るさ」

 

その言葉に瞠目する柴芭を尻目に、紅炎は再び前を向き、歩みを進める。

 

 

 

「さぁ! ヒーローが来るまで俺と遊ぼうぜ、西行妖!」

 

まるで西行妖を挑発するかのような口調で、両手を広げながらそう投げかける紅炎。

すると、その言葉に反応するかのように、一本の枝が紅炎の立つ場所目掛けて槍のように伸びる。

 

紅炎はそれを大刀で切り裂き、同時に後方に倒れていた幽々子ら目掛けて伸びてきた複数の枝を、背後に炎の壁を出現させることによって全て焼き払う。

 

「悪いが、指一本たりとも触れさせねーよ! サシで勝負だ!」

 

 

そして、紅炎は懐から一枚のスペルカードを取り出し、宣言する。

 

 

「持久戦と行こうぜ! 炎渦『赤光の不知火』!」

 

宣言と同時に、紅炎の体を取り巻くように炎の渦が巻き起こる。

それは、紅炎が妖夢と咲夜との戦いで見せた炎のバリアであった。

 

「便利だよなぁ、炎のバリア。 ……さぁ、破れるかな?」

 

 

その言葉に乗るかのように、西行妖から再び凄まじい重圧の妖気が溢れ出る。

 

 

 

 

   「反魂蝶」 

 

 

 

 

それは、西行妖自身のスペルカード。

死という概念すらも覆す反魂の力が、蝶の姿となって襲いかかる。

 

「……さぁ、行くぜ!」

 

燃え盛る炎を纏い、紅炎は反魂蝶の渦へと飛び込む。

 

 

この戦いを終わらせることが出来る、ヒーローの到着を待って。

 

 

 

 

------

 

 

 

 

進む。ただ只管に、進む。

 

冬の寒気も、突き刺さるような風も、漂う霊魂も、纏わりつく死の気配も振り切って、ただ只管に、進み続ける。

 

 

その先に、自分を待つ者達がいる。

 

その先に、自分の存在を必要とする者達がいる。

 

 

……私にしか、できない事がある。

だからこそ、私は今、全力でそこへと向かっている。

 

 

段々と、巨大な桜の木が見えてきた。あれが、西行妖なのだろうか。

 

 

……なんて、悍ましい死の気配なのかしら。

アレと対峙しているのは、柴芭なのか……はたまた、それとも……。

 

どちらにせよ、今は急ぐしかない。

 

 

私が駆け付けるまで、死ぬんじゃないわよ……!

 

 

 

 

 

------

 

 

 

 

あれから、どれ程の時間が経っただろうか。

 

留まることを知らない死の奔流は、次第に紅炎を呑み込みつつあった。

炎の渦を身に纏っていた紅炎は、既に息も絶え絶えになり、その身に燃え盛る炎は、最早風前の灯と化していた。

 

それでも尚、反魂の蝶は増え続ける。

底無しの西行妖の妖力を、そのまま体現するかのように。

 

 

不意に、紅炎は一つの気配を感じる。

 

その気配は、既に背後まで迫ってきている。

そして……その気配は、自身が「待ち望んでいたもの」であった。

 

僅かに託した希望は、今、形となって、彼の元へとやってきたのだ。

 

 

俯いていた顔を上げ、小さく笑う。

 

 

「……遅ぇッスよ、ヒーロー」

 

炎の壁を突き破って、紅炎の目の前に降り立ったヒーローは、小さく振り向いて、告げる。

 

「ヒーローは、遅れてくるものよ」

 

そう告げれば、紅炎は「まいった」と言わんばかりに苦笑する。

 

「はは……違いねぇ……ッス、ね……」

 

そこまで言いかけて、そのまま紅炎は地面に倒れ伏す。

 

 

「……貴方も、ありがとうね」

 

小さな声で礼を告げた彼女は、改めて西行妖へと向き直る。

 

 

「……ここまでよ、元凶。 この博霊の力を以て、今一度封印してあげるわ!」

 

異変解決者――博霊霊夢は、右手に一枚のスペルカードを掲げ、西行妖を睨む。

 

 

そして、大きく息を吸い込み、スペルカードを宣言する。

 

 

 

  「……霊符『夢想封印』!!」

 

 

霊夢の体から七色の光が溢れ、それらは光の弾となって、西行妖を襲う。

 

光に包まれた西行妖は、断末魔の声にも似た音を上げながら、静かに、その花を散らし逝く。

 

 

博霊の血筋のみが代々扱う、封印の力。

 

その力を以てして、西行妖は今度こそ、完全なる封印を遂げた。

 

 

 

「……これで、フィナーレね」

 

 

 

かくして、幻想郷を襲った異変は、終わりを迎えた。

 

 

 

 

 




全力でぶつかり合えば、きっと最後に後悔は残らない。


長く掛かりましたが、妖々夢6ボス篇、いかがでしたでしょうか。
最後の方はかなり急ピッチになってしまった気もしますが、元々2部構成で終わらせるつもりでしたので、このような形を取らせていただきました。

挿絵ェ……もう少し頑張りたいですねぇ。


やはり、最後は封印によって、ケリを付ける形になりました。
その為の「夢想封印」にしようと、前々から考えておりました故。


リハビリがてら、日常回なんかも書いていきたいですね。


次回、「休息」。貴重な(?)日常回でございます。
更新日は11月8日を予定しております。


◇今回登場したスペルカード◇

過去最大級の数でございます。

星符「ドラゴンメテオ」
魔理沙のスペルカード。降り注ぐ流星。
魔力によって凝縮された竜の鱗をメテオの如く降らせる。
劇中では柴芭の竜腕から剥がれた鱗を使用した。

亡舞「生者必滅の理 -眩惑-」
亡舞「生者必滅の理 -死蝶-」
亡舞「生者必滅の理 -毒蛾-」
亡舞「生者必滅の理 -魔境-」
幽々子のスペルカード。まとめて紹介。
それぞれ蝶の形をした弾幕を飛ばすスペルであり、
眩惑から魔境へと行くにつれて難易度が跳ね上がる。
上からEasy、Normal、Hard、Lunatic仕様。

桜符「完全なる墨染の桜 -封印-」
幽々子のスペルカード。封印されし妖。
今までの弾幕は何だったのか、最初から桁違いの難易度。
しかし、悪夢はまだ序章であった。

桜符「完全なる墨染の桜 -亡我-」
幽々子のスペルカード。その下に眠る者とは。
更に難易度が跳ね上がり、凶悪さを増した弾幕。
幽々子の本気が見て取れる。しかし、まだ先はあるのである。

桜符「完全なる墨染の桜 -春眠-」
幽々子のスペルカード。春眠暁を覚えず。
この時点で既に幽々子のスペルの中でも最強クラスの強さを誇る。
パワーの権化たるマスタースパークと相打ちに成る程の威力。

桜符「完全なる墨染の桜 -開花-」
幽々子のスペルカード。花開くとき。
劇中、幽々子が最後に見せた「ありったけ」の技。
今までのそれよりも遥かに力強く、美しい弾幕を展開する。

「反魂蝶」
???のスペルカード。
反魂……即ち、死者を蘇らせる力を持つ蝶。
その反魂の果てに待ちうける存在を、彼女は終ぞ知る事は無かった。


逆鱗「スケールインパルス」
柴芭のスペルカード。鱗の衝撃。
竜の腕から剥がれた鱗を用いて、弾幕として飛ばす技。
虹色に光るその姿は、正にビッグスケール。

暴牙「タイラントアギト」
柴芭のスペルカード。暴君の牙。
両手を牙に見立て、そのまま霊力で噛み砕くスペル。
暴飲暴食は体に悪い。

「マスタースパーク」
柴芭が使用したスペルカード。
元は魔理沙の物であったそれが何故使用できたのか、それは判らない。
本家とは違い、青白い光線を放つ。

炎渦「赤光の不知火」
紅炎のスペルカード。炎の渦。
自身を守る高熱の炎のバリアを発生させ、持久戦に持ち込む。
名前の不知火とは、蜃気楼と同じような現象。及び、それを元にした妖怪である。

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