神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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新年あけましておめでとうございます。

年内投稿とか言いながら年越しちゃったよ、わろす。

年末はとにかく忙しかったですね。
新年の準備であちこち駆り出され、あれよあれよという間に、気が付けば新年、早い物です。



そんなこんなで、本編を迎えていきましょう。


-あらすじ-

異変を解決し、その事後処理もつつがなく終えた解決者たち。
日々の疲れを癒す為、霊夢と柴芭は人里に遊びに行き、その日は一日中楽しんだ。
一方その頃、とある妖怪はある人物への報復に燃えていた……



リベンジャー

春の暖気が人々をうたた寝へと誘う正午過ぎ。

季節の移り変わりさえ遠い過去の事であるかのように、幻想郷には春の色が咲き乱れていた。

 

その端に位置する博麗神社では、ある一つの怪異が発生していた。

 

 

「花見は良いんだけど……」

 

小さくそう零しながら、下を向いていた顔を上げる霊夢。

顔を上げた視線の先には、桜の木の傍に漂う夥しい数の白い浮遊物……もとい、霊魂。

 

「亡霊ご同伴ってのは、ちょっとね……」

 

力無くそう呟き、大きく溜息を吐く霊夢。

眉間に皺を寄せて顔を顰めるその姿は、今にも頭を抱えそうな程である。

 

「もう、どっちも見飽きたぜ~」

 

そんな霊夢の言葉に便乗するように、帽子を目深に被りながらおどけた口調でそう投げかける魔理沙。

 

「目の前に亡霊がいるんですけど~? ちょっとひどくないですか~?」

 

二人の言葉に不満気に頬を膨らませるは、亡霊のお嬢様――西行寺幽々子。

かつて、幻想郷中の春を奪い、終わらぬ冬を齎した“春雪異変”の元凶である。

 

「……ところで霊夢、なんでソイツ(幽々子)はナチュラルにここにいるんだ?」

 

そんな幽々子がさも当然のようにこの場に存在していることに、魔理沙は改めて疑問を抱いた。

 

「……知らない間に、来てた」

 

魔理沙の疑問に答えたのは、先程から退屈そうに短剣をいじる柴芭だった。

 

「それでいいのかお前ら……」

 

片手でペンを回すように短剣を回す柴芭の器用さに一瞬見入るも、すぐさま呆れたような表情を浮かべる魔理沙。

 

「ねぇ~、無視しないでほしいんですけどぉ~」

 

無視されたのが気に食わないのか、両腕を上下に振りながら駄々っ子の様に文句を言う幽々子。

 

「知らないわよ。 大体、何だってこんなに大量に湧くワケよ?」

 

そんな幽々子を冷たくあしらう霊夢は、今現在起きている怪異の……恐らくは元凶であろう人物に対し、そう投げかける。

 

その問いに対し、幽々子は少し難しそうな表情をし、考え込むように扇子を口元に添える。

 

「う~ん、何でかしら? 私にもよく分からないけど……。 もしかしたら、幻想郷に春を戻す時に、一緒になって()いてきちゃったのかしら?」

「『つく』の字違わないか、それ……?」

 

妙に含みのある『つく』発言に、どこか背筋に寒い物を感じた魔理沙であった。

 

「ハァ……。 あんまり厄介事持ってこないで欲しいわ、全く……」

 

再び大きく溜め息を吐き、クスクスと笑う幽々子を横目に睨みつける霊夢。

 

「そんなこと言われても、ゆゆちゃん困っちゃうわ~♪」

 

その元凶はというと、いつもと変わらぬ笑みを湛え、臆面も無くおどけてみせるのだった。

そんな幽々子の言葉に霊夢と魔理沙が絶句していると、不意に柴芭が顔を上げる。

 

彼の目が見据えるのは、境内の先にある鳥居の真下。

それは即ち、この神社を訪ねるものがやってきたという証拠である。

 

「……お迎えが来たぞ、ゆゆちゃん」

 

まだ姿も見えぬ来訪者の気配を読み取り、そう促す柴芭。

『まるで、呼び鈴か何かのようだ』と、魔理沙は暗にそう思ったが、口には出さずにおいた。

 

「お迎えですって? それはまたひょんな話ね」

「こんなひょんな所にお迎えとはな。 ますます人間が来なくなるぜ」

「ひょんなって何よ」

 

そんなやり取りをしている三人を尻目に、柴芭はただ静かに、その来訪者の方を見つめていた。

 

 

数秒の後、その姿が露わになる。

 

一人は人間。吸血鬼の館に仕えるメイドである。

もう一人は半分人間。冥界のお屋敷に仕える剣士である。

 

二人の従者は境内に足を踏み入れると、一人は軽く手を振り、一人は深々とお辞儀をする。

 

お辞儀をした方の従者――魂魄妖夢は顔を上げると、視界に自身の主の姿を捉える。

 

「……やっぱり、ここにいましたか」

 

「あら……?」

 

その言葉を聞き、漸く従者の存在に気付いたのか、幽々子は顔を正面へと向ける。

 

「幽々子様! 外出なさる時はせめて一声お掛け下さい! 心配したんですよ!?」

 

「えっ?」

 

腰に手を当て、憤りの感情を露わにしながらそう投げかける妖夢。

対する幽々子は、どこか困惑したような表情を浮かべ、口元に人差し指を宛がう。

 

「私はちゃんと紅炎に伝言を頼んでたんだけど……」

 

「えっ」

 

幽々子の言葉を受け、今度は妖夢が面食らったような表情になる。

その反応から何かを察したのか、幽々子が新たに質問を投げかける。

 

「……聞かずに飛び出しちゃった、とか?」

「……」

「やっぱり……」

 

沈黙という名の回答を『正答』と解釈し、思わず苦笑を浮かべる幽々子。

自ら墓穴を掘る形となった妖夢は、耳まで真っ赤に染めて俯いた。

 

「あっちの亡霊漫才は置いておいて、と……よぉ、咲夜。 こんなひょんな所に何か用か?」

「だから、ひょんなって何よ」

 

幽々子と妖夢のやり取りを視界から追いやり、霊夢の言葉を聞き流し、魔理沙は咲夜に尋ねる。

自分が呼ばれた事に気付いた咲夜は、亡霊漫才を眺めていた視線を魔理沙の方へ移すと、難しい表情を浮かべる。

 

「最近、紅魔館(おやしき)の方にも亡霊共が湧くようになってね。

美鈴は怖がるし、お嬢様は花見が楽しめないと仰るし、旦那様は実験に使おうとするし……」

アイツ(ジーク)は何をしようとしてるんだ」

 

約一名現状を楽しんでいる者の存在に魔理沙が思わずそう零すも、咲夜は流して話を続ける。

 

「それで、除霊をお願いしようと尋ねたら、道すがらアレと出くわしたってワケ」

 

そう告げ、未だ幽々子と口論を続ける妖夢を指さす咲夜。

 

「あぁ、手土産じゃ無かったのね」

 

咲夜の言う『アレ』が何を指すのか理解した霊夢が、興味も無さそうにそう呟く。

 

「欲しかった?」

「いらないわよ」

「でしょうね」

「ひどい話だぜ」

 

何とも冷淡なやり取りに、魔理沙は『この会話を本人(妖夢)が聞いていなくて良かったな』等と思案するのであった。

 

「……と、とにかく! 私が言いたいのは、こんなみょんな所で遊んでいる場合では……」

「みょんなって何よ」

 

話半分に聞いていた会話の途中で発せられた不思議な単語に思わず突っ込む霊夢。

 

「うーん、そう言われてもなぁ~……。 まだ帰りたい気分じゃないし~……」

「気分って、そんな悠長な……」

 

そんな幽々子と妖夢のやり取りの最中、再び柴芭が顔を上げる。

 

「……お迎えが来たぞ、ゆゆちゃん」

「え? またお迎え? みょんな事もあるものね~」

「だから、みょんなって何よ」

 

再び発せられたみょんな……もとい妙な単語に、再び突っ込みを入れる霊夢。

柴芭はただ静かに、その来訪者の方を見つめ続ける。

 

 

暫しの後、来訪者の姿が露わとなる。

 

炎の如き赤い着物、艶やかな黒い長髪、その背に負った身の丈以上の大太刀が、境内から見据える彼らの目に飛び込んで来る。

長い階段を登り切ると、その来訪者は疲弊気味に姿勢を曲げ、肩で息をする。

 

「あ゛ぁ゛~……し、しんどい……。 何でこう長い階段ばっかなんだよ……何なんスか? 流行ってんスか?」

 

呼吸を整えた来訪者は、顔を顰め、誰に向かって投げかけているのか分からない文句を垂れる。

 

この場にいる全員にとって、その来訪者には覚えがあった。

 

「お前は……」

 

来訪者が一歩踏み出すと同時に、魔理沙がそう呟く。

 

「ようッス、久しぶり」

 

魔理沙に対し軽く右手を振るは来訪者――紅炎である。

 

「あの時の……ちょっと髪型が変わったかしら?」

 

そう問いかける咲夜の目には、以前に会った彼とは違った姿があった。

腰まで届く長い髪は頭頂に近い後頭部で纏められ、ポニーテールのようになっている。

 

「まー、気分ッスよ」

 

手で髪を軽く梳きながらそう答える紅炎。

 

「……イメチェン、イメチェン」

 

そんな紅炎の容姿を見ていた柴芭が小さくそう呟く。

 

「お、ジークっぽいなソレ」

「だろ」

 

柴芭の呟きに紅炎が反応を返せば、そこから話が盛り上がる二人。

 

『何だかんだと言いつつも、この二人はやはり親友同士なのだろう』。

二人のやり取りを横目に見ていた咲夜は、心の何処かでそう思い、同時に、それが何処か羨ましくも感じていた。

 

「やれやれ……今日は良く人が来る日だこと」

 

昨今見ぬ来客の多さに、霊夢は何処か諦観めいた感情を抱いていた。

会話についていけないが故なのか、誰一人として賽銭を入れていかないが故なのか、それは本人にしか分からない。

 

「紅炎さん、いつの間に……。 というか、家を留守にしては……」

 

唐突な紅炎の登場に絶句していた妖夢は、はっと気付いたかと思うと、慌ててそう問いかける。

 

「それは問題ねぇッスよ。 家は守護霊達が守ってくれてるからな。

俺がここに来たのは、ちょいとメイドさんに用事があったからッスよ」

 

紅炎は手短にそう答えると、次いで咲夜の方へと顔を向ける。

 

「私?」

 

まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、きょとんとした表情で首を傾げる咲夜。

 

「そうそう。 お屋敷を尋ねたら、アンタは神社に向かったってジークが言ってたからな。

おかげで結構な距離を移動させられたッスよ……俺、飛べねーってのに」

 

疲れたように苦笑を浮かべる紅炎の様子を見て、少しだけ申し訳ない気持ちになるも、自身の疑問を払拭するべく質問に移る咲夜。

 

「それで、私に用事って何なの?」

 

咲夜がそう問えば、困ったように少しだけ眉を下げる紅炎。

 

「実は今、白玉楼に変なヤツが来ててな~」

「変なヤツ?」

 

紅炎の言葉に、聞き耳を立てていた魔理沙が反応を返す。

その言葉に対し相槌を打つと、そのまま言葉を紡ぎ始める紅炎。

 

「ああ、赤い服着て尻尾が二本生えた猫みたいなヤツでさ、ソイツが『メイドに会わせろ』って言って聞かないんスよ。 流石に意味わかんねーッスよ、ウチはメイド喫茶じゃねーっつーの」

 

「……」

 

紅炎が発した「メイド喫茶」という単語に興味津々な様子の魔理沙を尻目に、咲夜はその言葉の中に当てはまる存在を思い出し、次第に表情を曇らせる。

 

嘗ての春雪異変の際、マヨヒガにおいて撃退した化け猫――橙。

 

(……間違いなく、(アイツ)ね)

 

『全く、厄介な事になったものだ』。口には出さずに、咲夜は心の中で呟いた。

 

 

「何か心当たり、無い?」

 

その一言が決定打となり、咲夜は観念したように小さく呟く。

 

「……めっちゃあります」

「マジッスか」

 

紅炎も思わず、そう呟かずにはいられなかった。

 

「リベンジってワケだな。 どうする、咲夜?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう咲夜に問いかける魔理沙。

既に魔理沙の興味のベクトルは、咲夜の橙との再戦の方へと向いていた。

 

「どうするも何も……」

 

対する咲夜はあまり乗り気では無く、渋るように言葉を濁す。

 

「……挑まれた勝負には、応じるものだ」

「えぇっ!?」

 

予想だにしていなかった柴芭からの提言に、思わずたじろぐ咲夜。

 

「ほら、柴芭もそう言ってるぜ?」

「ぐぬぬ……」

「なにがぐぬぬよ」

 

辺りを見渡せば、既に自分がこの場にいる全員の視線を浴びていることに気が付いた。

最早、完全に自分が戦うという以外の選択肢は残っていないと悟った咲夜は、大きく溜息を吐く。

 

「はぁ~……。 ……分かったわよ」

 

観念したかのように、長い溜めの後に小さくそう呟いた。

 

「一人じゃ心細いだろう? 私もついて行ってやるよ」

 

そう告げて快活に笑いながら、項垂れる咲夜の肩を軽く叩く魔理沙。

 

「ただ決闘が見たいだけでしょ、アンタは」

 

肘を膝に乗せた状態で頬杖を突きながら、魔理沙に冷めたような視線を向ける霊夢。

 

「ばれたか」

 

霊夢がそう投げかければ、小さく舌を出して笑う魔理沙。

最も、咲夜自身、わざわざ心配される筋合い等無いと考えていたが。

 

「俺としちゃあ、ソイツさえ何とか出来れば何でも良いんだけどな。

おとなしくさせるのは良いけど、あんまり暴れられると妖夢の仕事が増えるんで、そこん所はヨロシクな」

 

境内から発とうとする咲夜に対し、軽く注意を促す紅炎。

決闘を行う事自体は、彼にとって然したる問題でも無いようである。

 

「分かっているわ」

 

振り向かずにそう告げると、咲夜はそのまま飛び立ち、幽明結界へと向かう。

その後を慌てて魔理沙が追いかけ、直ぐに二人の姿は見えなくなった。

 

「……本当に分かってるんでしょうか?」

 

不安そうな表情を浮かべ、飛び立った空を見つめる妖夢だった。

 

「んじゃ、私達はのうのうさせてもらいますかね……」

 

そう呟くと、霊夢はそのまま座敷へと引っ込もうとする。

 

「……あぁ、そうそう。 柴芭と霊夢、お前ら二人も行って来いよ」

 

それを制止するかのような紅炎の言葉は、柴芭と霊夢を硬直させるには十分な言葉だった。

 

「……は? 何で私達が……」

 

昼寝でもしようかと考えていた所へいきなりの宣告を受け、不満気にそう尋ねる霊夢。

柴芭の方も、紅炎の言葉の意図を掴めず、訝しげに目を細める。

 

「俺もよく分かんねーよ。 ……けど、紫がそう言ってたし、何か大事な用事なんじゃないッスか?」

 

紅炎が発した『紫』という一言を受け、霊夢と柴芭の表情が変わる。

 

「紫が? 一体、何で……」

 

顎に手を当て、自身の記憶の中に心当たりを探る霊夢。だが、それらしき事柄は一切記憶に無い。

考え込む霊夢を横目に見て、それまで黙していた幽々子がおもむろに口を開く。

 

「……あの紫がわざわざそんな事言うって事は、これは何かありそうね。 行った方が良いんじゃない?」

 

幽々子の口から告げられたのは、紫の指示に従うよう促す旨の言葉だった。

見れば、幽々子からは先程まであった笑みは消えており、いつになく真剣な雰囲気を放っていた。

 

その進言を受け、暫しの逡巡を経て、霊夢は漸く決意をする。

 

「……仕方ないか。 柴芭、私達も行くわよ」

 

その言葉を掛けられるであろう事を予測していたのか、おもむろに立ち上がる柴芭。

 

「ところで、アンタらはどうするのよ?」

 

身支度を終え、今まさに飛び立たんとしていた霊夢が、ふと気が付いたように幽々子達に問い掛ける。

 

「私達はしばらくここに留まるわ。 霊達をどうにかしなきゃいけないからね」

 

幽々子はそう答えると、辺りに漂っていた霊魂を数匹捕らえ、掌の上に浮かべる。

 

「そう……なら、留守番頼んだわよ」

 

「ええ、気を付けてね」

 

その確認を終えた霊夢は、そう告げると共に、柴芭を伴い遥か高空へと飛翔する。

 

 

 

雲間を超え、幽明結界へと続く空へと彼らが消えていった後、幽々子は静かに口を開く。

 

「さて……私達はいつまでいればいいのかしらね、紅炎?」

 

その問いを受けた紅炎は、目を伏せ、小さく口角を上げる。

 

(アイツ)の仕事が終わるまで……だな」

 

「……ええ、そうね」

 

紅炎の答えに満足したのか、扇子を開いて口元を覆い隠し、くつくつと笑う幽々子。

 

「……?」

 

二人の会話を理解できず、妖夢はただ困惑するばかりであった。

 

 

 

 

 

 

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――冥界、白玉楼の庭にて。

 

 

「とうとう見つけたわよ悪魔メイド! あの時の恨み、今こそ晴らしてやる!」

 

白玉楼へと降り立った咲夜は、いきなり怒声によって出迎えられる。

声のする方へと顔を向けてみれば、案の定そこには自身の思い描いていた人物の姿があった。

 

赤い服装に赤い帽子、ピンと立った耳や二股の尾、紛れも無い、橙その人(?)であった。

 

「悪魔メイドって……」

 

「おお、本当に化け猫がいたぜ。 しかも、お前さんをご指名だ」

 

後からたどり着いた魔理沙は楽しげに笑い、不名誉な二つ名を賜り不満気な咲夜の脇を小突く。

その行為にムッとしたのか、咲夜は魔理沙のつま先を踵で軽く踏ん付けた。

 

「あの時と同じと思うなよ! 今の私は憑きたてのホヤホヤだから、強さだって格段に違うよ!」

 

そんな二人のやり取りを尻目に、既に橙は毛を逆立たせ、臨戦態勢へと移行していた。

その言葉に偽りは無いらしく、以前とは比べ物にならない程の威圧感を咲夜は感じ取っていた。

 

「やれやれ……魔理沙、下がっていなさい」

 

「いてて……なんだ、結局やる気なんじゃないか」

 

踏まれたつま先を押さえながらも、その言葉通りに魔理沙は後退していく。

 

開けた戦場に立ち、今にも飛びかかってきそうな橙を見据え、咲夜もナイフを構える。

鋭く光るその赤眼には、最早寸分の迷いすら映ってはいなかった。

 

 

「行くぞッ!」

 

その掛け声と共に、橙から凄まじい妖気が放たれ、その回りを取り囲むように渦巻いていく。

 

「……!」

 

一瞬その妖力に押されそうになるも、何とか持ちこたえる咲夜。

 

伏せかけた目を開いた瞬間、咲夜の目の前に巨大な壁が広がった。

 

「これは……」

 

咲夜の目の前に現れたのは、巨大な体躯を持つ赤と青の鬼。

赤の手には棍棒が、青の手には巨大な鉈がそれぞれ握られており、その二体が咲夜を見下ろし、獰猛な目で睥睨する。

 

「スペルカード、鬼符『青鬼赤鬼』。 私の修行の成果ってヤツで、こんな物も操れるようになったワケさ」

 

そう得意げに胸を張る橙を遠目に見やる魔理沙は、その鬼達を見て、一人沈吟する。

 

「式神の行使……ねぇ。 確かに大したもんだが……」

 

(何か、足りない気がするんだよなぁ……)

 

目の前の式神から感じる何かの『欠如』、それに伴う違和感を魔理沙は理解していたが、言葉にすることは無かった。

 

 

「行けっ!」

 

橙が指示を出すと、二匹の鬼は一斉に動き出し、咲夜に襲い掛かる。

そのまま、咲夜の近くにいた赤鬼が棍棒をふるい、眼下の咲夜を潰さんとする。

 

当然、そんな一撃を貰う筈も無く、素早く棍棒の射程圏外へと逃れる咲夜。

その瞬間、先程まで咲夜がいた場所には、小規模なクレーターが出来上がっていた。

 

「なるほど、力はあるみたいね。 ……けど、その程度の動きで私を倒せるとでも?」

 

続く青鬼の一撃も回避しながら、鬼を差し向けた張本人である橙へとそう問い掛ける咲夜。

 

「まさか、こんなのは布石でしか無いさ」

 

「なるほど……」

 

二匹の鬼の攻撃を『布石』と笑う橙の言葉を受け、漸く魔理沙は自身の感じた『違和感』の正体に気付いた。

 

(『殺意』が無かった……って事か。 なら、次が本当の勝負ってワケだな)

 

そんな魔理沙の考え通り、スペルカードの時間が切れ、鬼達の妖力が一斉に橙の元へと戻る。

 

「……本番は、こっからだ!」

 

全ての妖力を自身に戻した橙は、その掛け声と共に凄まじい初速を以て咲夜に肉薄する。

 

「なっ!? なんて速さだ!」

 

あまりの速度に、思わず魔理沙が叫ぶ。

 

弾丸の如き速度で突貫して来た橙を、直線的な動きだった為に咲夜は何とかその場で回避する。

鬼達の攻防を退けた直後だった咲夜は、思わぬ不意を突かれた形となった。

 

地を駆け、木々を跳ね、屋根を走り抜け、一向に止まる様子の無い橙。

その速度は、以前に相対した時以上のものとなっており、魔理沙はおろか、咲夜でさえ、目で追う事が出来ずにいた。

 

「鬼神『飛翔毘沙門天』!! 今の私の速度を捉えられるか!? 追いつけるか!?」

 

次第にその速度は増して行き、最早赤い残像が視界の端に映る程度にまでになっていた。

 

 

だが、対する咲夜は、不気味な程に冷静な状態にあった。

目の前の獲物が加速し続ける程に、咲夜の感覚はナイフの如く鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「……甘いわね」

 

そして、咲夜は静かに言葉を紡ぐ。

 

「どれだけ速く動けようが……」

 

懐に忍ばせた懐中時計に手を伸ばし、そのまま一呼吸を置き、目を見開く。

 

「なッ……!?」

 

次の瞬間には、咲夜の体は橙の目の前にあった。

突如として眼前に現れた敵を前にし、思わずその動きを止める橙。

 

「私の前では、意味を為さないのよ」

 

呆気にとられ、身動きできない橙を他所に、咲夜はスペルカードを放つ。

 

 

「スペルカード……」

 

そして、両手にナイフを構え、胸の前で交差させる。

 

 

瞬間、咲夜の体は橙の背後にあり、交差させたその腕は、薙ぎ払ったかのように大きく開かれていた。

 

何が起こったのか分からぬ橙の後ろで、咲夜は静かに宣言する。

 

 

「……メイド秘奥義『時空一閃(じくういっせん)』ッ!」

 

両手のナイフを打ち鳴らした瞬間、橙の体は大きく十文字に切り裂かれた。

 

「ぎにゃあああぁぁぁぁーーっ!!」

 

直後に奔る激痛を受け、断末魔の悲鳴を上げながらその場に倒れ伏す橙。

 

戦いの勝者となった咲夜は、ナイフに付着した血を払いながら、ゆっくりと振り返り、

 

「これも私の『修行の成果』……ってヤツね」

 

今日一日で最もいい笑顔をであろう表情で、そう告げた。

 

「……えげつないぜ」

 

その様子を間近で見ていた魔理沙は、力なくそう呟くのであった。

 

「ぐっ……くそぉ……!」

 

目尻に涙を浮かべ、悔しげに咲夜を睨みつける橙。

傷を押さえながらふらふらと立ち上がるその様子から、これ以上の戦闘を行える気配はない。

文字通りの、満身創痍であった。

 

「あら、まだ息があるのね。 それじゃあそろそろ引導を……」

 

そう言いながら咲夜がナイフで止めを刺そうとした瞬間、何かが橙と咲夜の間を掠める。

 

掠めた物の正体は、謎の文様が描かれたお札だった。

そして、咲夜はゆっくりと首を曲げ、そのお札を投げた犯人の姿を捉える。

 

 

『流石に、そこまでは黙認できないな』

 

その人物は静かにそう告げると、橙を庇うように咲夜の前に立つ。

 

全体的に白く、所々に青の意匠が取り入れられた服は、とある国に伝わる道士のような格好である。

金色の瞳に金色の髪、頭には動物の耳と思しき形の、お札が張られた不思議な帽子。

そして何より目を引くのは、その人物の腰辺りから生える巨大な9本の尻尾。

 

その人物の正体は、スキマ妖怪の式――八雲藍(やくもらん)であった。

 

「中々やるじゃないか、人間。 あれでも橙には、結構強力な式を付けておいたんだがね」

 

そう言うと、藍はそっと橙を抱き起し、その体に謎のお札を張り付ける。

 

「式……? ということは、貴方がその化け猫を……」

 

藍の発言を受け、疑問を抱いた咲夜は、そう問い掛ける。

 

「そう、式神として扱っている。 とはいえ、まだまだ未熟だがな」

 

そう回答すると、気を失った橙を抱き抱え、おもむろに立ち上がる藍。

 

その瞬間、咲夜を見つめる藍の眼は、一気に冷たく悍ましい物へと変化した。

橙とは天と地ほどもあろうかという程に凄まじい殺気を受け、思わず咲夜は一歩引く。

 

「それでも、私にとっては大事な式なんだ。 これ以上、橙を傷つけるというのであれば……

 私も、()()()()()()()ぞ?」

 

口調こそ穏やかだが、言外に放たれるプレッシャーや殺気を理解した咲夜は、観念したように溜息を吐く。

 

「……わかった、やめとく」

「うむ、よろしい」

 

ナイフを仕舞い、戦う意思が無い事を示した咲夜に、藍は小さく笑った。

 

「……やれやれ、おっかないな」

 

その一部始終を横目に見ていた魔理沙は、『八雲藍は敵に回さないようにしよう』と心に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

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「……何というか、派手にやったものね」

 

そんな咲夜達の戦いを遠方から見ていた霊夢は、そんな感想を零す。

 

「……ご愁傷様、妖夢」

 

同じく戦いを見ていた柴芭もまた、この場にいない妖夢の近い未来を案じるのであった。

 

 

『来たわね、二人とも』

 

そんな会話をしていた二人の後ろから、二人にとっては聞き覚えのある声が響く。

 

「紫……」

 

この場に霊夢と柴芭を誘った張本人、八雲紫の声であった。

 

「私達に来るようにって言ったらしいわね。 一体何が目的なのよ?」

 

そう食って掛かる霊夢を抑えるように手を翳す紫。

 

「簡単に言えば、近況報告よ」

 

近況報告、という単語を聞き、ますます顔を顰める霊夢。

 

「なら、わざわざ私達が出向かなくても……」

 

「オレ達()()じゃなきゃならない」

 

そんな霊夢の言葉を遮るように、柴芭が静かにそう告げる。

 

「えっ……?」

 

「……そういう事なんだろう、紫」

 

固まった霊夢を気にせず、紫にそう確認を取る柴芭。

 

「……ええ、そうなるわね」

 

柴芭の言葉は、紫にとっては『正解』であった。

 

理解の追いつかない様子の霊夢の為に、紫は説明を始める。

 

「私は過去に、彼が一人きりの時にコンタクトを取っていたわ。 ……そして、その時私は彼と一つの約束をしたのよ」

 

一体、いつの間に……。そう考え、ちらりと横目に柴芭を見る霊夢。

対する柴芭は、一点に紫の方を見つめたまま、視線を動かすことは無かった。

 

「貴方の力について、何か分かった事があった時、貴方と霊夢を呼んで、その事実を教える。

そして、私は約束の通り、貴方達をここに呼んだ。 ……つまりは、そういう事よ」

 

そう告げられた霊夢は、漸く紫の意図する所を理解した。

 

「話してあげるわ。 私がこの冬の間に調べた限りの事を、ね」

 

 

 

 

 




語らるる真実は、その者に何を齎すのか。



新年一発目、次の話への繋ぎ回となりました。
原作でもあった「ひょんな」やり取りを、是非とも会話に取り入れたかった為に、今回は会話やキャラの量がかなり多く、地の分が少なかったかもしれません。

橙のリベンジ回も、またも勝利ならず。憐れ橙よ、お前は泣いていい。
いつか、彼女の輝く回を……書けたらいいなぁ(遠い目)

盛大に暴れたが故に、白玉楼の庭はボロボロ。
多分、帰ったら妖夢は人知れず泣いているかもしれない。


次回、「Awakening Incomplete」。柴芭の持つ力、その真相が明らかに……!?
1月3日以降、更新予定です。


◇今回登場したスペルカード◇

少な目でございます。

鬼符「青鬼赤鬼」
橙のスペルカード。某ブルーベリー色の巨人では無い青鬼だ。
赤鬼と青鬼の二体の式神を呼び出し、敵を攻撃させる技。
鬼自体はパワーはあれど、敵を倒すという意思が無く、細かな動きもできない。
作中では、完全に牽制用の技として使われたが、その応用力は高い。

鬼神「飛翔毘沙門天」
橙のスペルカード。星ちゃんが飛翔する訳ではない。
嘗ての敗北の後、鍛え続けた末に橙が体得した技である。
過去のスペルカードで見せた以上のスピードを誇り、相手は残像しか捉えられない。
しかし、そんなハイスピードな技も、時間の前には無力であった。

メイド秘奥義「時空一閃」
この作品のみのオリジナルスペル。咲夜が使用。
時を止め、一瞬にして相手の懐に潜り込み、そのまま切り抜ける、居合のような技。
切られた相手は、自分の身に何が起こったのか、切り裂かれるその瞬間まで認識できない。
彼女が美鈴から教わった技をヒントに独自で編み出した、文字通りの秘奥義である。


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