神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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紅霧異変、始まりました。
幻想郷全土を紅い霧で覆うこの異変の目的は…?


それでは、本編に参りましょう。


紅霧異変
異変の始まり


魔理沙との弾幕ごっこから数日が過ぎた。

…あの時、オレは確かに弾幕ごっこを楽しんでいた。楽しいって、こういう感覚なんだな。

そんな感情は久しく抱かなかったから、なんだかとても新鮮に感じた。

 

魔理沙と戦った次の日から、オレは魔理沙に連れられて弾幕ごっこの修行をさせられた。何でも、『幻想郷で生きて行く上で弾幕ごっこは強い方が良い』らしい。

確かに、魔理沙はとても強かった。…オレも、それぐらい強くなれるんだろうか?

 

修行の相手は、妖精だった。

 

そう、幻想郷には妖精がいる。妖精とはつまりフェアリーだ。オレにも良く分からないが、妖精は弾幕を生み出し、弾幕ごっこをするのだ。

そして、妖精は悪戯好きな生き物らしい。知性も力も人間には劣ると言うが、弾幕を放てる時点で人間にとっても脅威何じゃないだろうか…と、オレは思う。

 

そんな妖精は、弾幕ごっこの練習相手には最適だと魔理沙は言った。だから、オレはこの数日間魔理沙に連れまわされ、妖精相手に弾幕ごっこを挑み続けた。

最初の内は、妖精相手でも苦戦する事はあった。だが、何度も繰り返す内に“コツ”というものを掴んだのか、段々苦も無く勝てるようになっていった。

 

修行の最中、湖のある森に何度も通っている内に、緑色の髪の妖精と出会った。

その妖精は『大妖精』と呼ばれているらしい。聞けば、他の妖精よりも大きな力を持っているらしい。

『“大妖精”という呼び方は堅苦しいので、気軽に“大ちゃん”とでも呼んで欲しい』とその妖精…大ちゃんは言っていた。…意外と自己主張が強いのかも知れない。

彼女は、あまり妖精相手に弾幕ごっこをし過ぎるな警告をしてきた。何でも、この近辺の湖には妖精の中でも一際強い氷精がいるから、余り刺激しない方が良いとのこと。

大妖精と呼ばれるだけあって、他の妖精とは違い理知的な印象だった。そんな彼女の言だから、そこはきちんと受け入れ、その日以降は妖精相手の弾幕ごっこは控えることにした。

 

その日からだった。空が赤い霧に覆われ始めたのは。

 

 

------

 

あの赤い霧が出て、もう二週間が経った。

最初はただの自然現象だと思っていた。そんなことで、わざわざ『異変だ~』なんて出るのも馬鹿らしいから、徹頭徹尾無視を決め込むつもりでいた。

…けど、やっぱりそういう訳には行かなかったわね。

 

 

つい昨日の事、博麗神社にとある男性が訪ねて来た。

人里からやってきたというその人は、『阿修羅』と名乗った。

随分変わった名前だなと思った。刃物のように鋭い眼をしていて、見上げる程の長身であった事が非常に印象に残ってる。

八雲紫の事を知っているって言ってたし、多分外の世界から来た人だと思うわ。…まあ、それはいいとして。

その人曰く、『赤い霧が出てから、人が気分が悪くなって寝込んだり、作物が育たない等の被害が出ている』らしい。

明確に被害が出ている以上、これは異変と呼べるのではないか?そうその人は言ったけど、その時はどうもいまいち気乗りしなかった。

けど、そこに居合わせた魔理沙は完全に行く気満々で、とにかくしつこく私を連れ出そうとした。

聞けば、柴芭を連れて行くつもりらしい。『修行の成果を試す』とか言っていたけど、いきなり今までより格上の相手とやりあって大丈夫かしらね。

…けどまあ、私も柴芭がどれくらい強くなったのか気になる事は気になるんだけどね。

結局私が折れて、異変解決に行く事になった。まあ、帰り際にあの人がお賽銭を入れて行ったからであって、魔理沙の推しに負けた訳ではない事は弁明しておく。

 

 

そして昨日の今日、今日も空は赤かった。色々と準備をしている間に、日が暮れてすっかり夜になってしまっていたが。

今、境内裏には私と魔理沙、そして柴芭がいる。柴芭は今回異変解決初参加と言う事で、基本的には私達のリザーバーになってもらおう。間近で見てもらって、本場の弾幕ごっこを体感してもらいましょう。…場合によっては、頼ることもあるかもだけど。

 

魔理沙は、持参の箒に跨り上昇。

柴芭は、霊力を纏って跳躍。

私は、特に何も考えず宙へ。

三者三様、思い思いの方法で空に浮き、異変の発生源を目指す事に。

 

…とは言った物の、ぶっちゃけ何処で異変が発生しているのかなんて全員分かっちゃいなかった。

暫しの間、境内裏を飛び回って夜風を堪能する事にした。ついでにほら、何か気の流れ的な感じで発生源も掴めたりするかも知れないし。…それにしても

 

「気持ちいいわね」

 

思わず声が零れる。蒸し暑い昼間の空気を払拭してくれるような涼しい風が体を包み込む。

周りを見渡す。黒々とした木々に覆われた大地から目を離せば、光り輝く星々に彩られた夜空が視界を埋め尽くす。

 

「夜の境内裏も、中々ロマンティックね」

 

そんなのんきな事を、思わず呟いてしまう。

 

「まあ、私は夜は嫌いだけどな」

 

それに対して魔理沙が返答をする。ただのひとりごとのつもりだったんですけど。

隣を見れば、柴芭の視線が魔理沙のいる場所に集中していた。厳密にいえば、魔理沙のいる場所()()()()()()()に。

 

「幽霊やら、変な奴やら出てくるしな」

 

『変な奴って誰の事よ』

 

突如、誰のものでも無い声が響く。先程から柴芭が見つめていた茂みの中からだった。…まあ、何かいるわね。確実に。

 

中から飛び出して来たのは、一見普通の少女。

金髪に赤いリボン、白黒の服と、特徴だけでいえば魔理沙も当てはまりそうな感じだが、背丈は私の胸元程度までしか無さそうで、見た目も幼い印象を受ける。

人里で聞いた噂通りの外見をしている。…確か、“宵闇の妖怪 ルーミア”だったかしら?

 

「別にアンタの事だなんて言ってないぜ?」

 

「それはまぁ、当然」

 

特に驚く様子も無く、落ち付いて返答する魔理沙。…まあ、どうせさっきから全員気付いていたんでしょうけどね。

宵闇の妖怪はその答に満足気な表情を浮かべ、両手を目一杯横に広げた姿勢を取る。

 

「で、何でそんな両手をひろげているんだ?」

 

そう魔理沙が問いかけると、きょとんとした表情を浮かべるルーミア。

 

「『聖者は十字架に磔られました』って言ってるように見える?」

 

「『人類は十進法を採用しました』って見えるな」

 

人類以外は指は十本じゃないのかしら?…まあ、どうでもいいか。

コイツにかまっている時間が惜しいから、さっさと行こう。

 

…と思ったが、一向に目の前から立ち退く気配が無い。

 

「邪魔なんですけど」

 

「実はお腹が空いたのよね~」

 

だから何なのよ。

 

「そう」

 

「私、一応人食い妖怪なんだけど、昼間はあんまり活動出来なくってさ。その癖人間は夜になると活動しないし…」

 

人食い妖怪と言う割にはあんまりそういった邪悪さは感じないわね。…まあ、本人の誇張という線もあるけど。

 

「夜にしか活動しない人間なら食べても良いんじゃない?」

 

「そーなのかー」

 

そうは言うが、未だ退く気配は無い。それどころか、此方を食い入るように見つめ続けている。

 

「で、邪魔なんですけど」

 

そう言うと、無邪気そうにほほ笑むルーミア。

 

「目の前が取って食べれる人類?」

 

…やれやれ、灸を据える必要がありそうね。

 

「“良薬は口に苦し”って言葉知ってる?」

 

さっさと撃退(しまつ)して先に進もう。

 

 

------

 

圧倒的で、一方的な戦いだった。

霊夢に挑んできた小さな妖怪は、霊夢の力の前にあっさりと敗れ去ってしまった。

これが霊夢の実力なのか…とんでもないな。隣で見ていた魔理沙は、いつもの事のように平然としていたが。

 

「“良薬”って言っても、飲んでみなけりゃわかんないけどね」

 

少なくとも、その薬はとても飲めたものじゃないという事は分かった…気がする。

 

「う~…負けた」

 

妖怪はあっさりと負けを認めた。後腐れを残さぬ決闘方式、それがスペルカードルールだと言っていたな、そういえば。

その妖怪は地上に降り立ち、その場に倒れ込んだ。力を出し切った故か、その表情は幾分か晴れやかなものに見えた。

 

「おなかすいた…」

 

だが、やはり空腹感は続いているのか、しきりにお腹を擦りながらそう喚いていた。

何だか見ていられず、何かを食べさせようと思った。二人には、少し待っていてもいいし、先に行っても良いと言った。とは言え、何処に行ったらいいかわからないから、どの道立ち往生か。

 

…そういえば、オレが見よう見まねで作ったおにぎりがあったっけ。腹を空かせている妖怪の元に急ぐとしよう。

 

 

「う~ん、おいしい!」

 

どうやら喜んでもらえたようだ。おにぎりを口いっぱいに頬張る妖怪、名前はルーミアと言うらしい。…こうして見ている分には、普通の人間と変わりない気がする。…とはいえ、オレは手まで差し出した覚えは無いがな。痛いぞ。

 

「どうもありがとう!お礼と言っちゃなんだけど、最近出てる霧の事について教えてあげるよ」

 

思わぬ収穫だった。もしかしたら、この異変の解決への糸口がつかめるかもしれない。

 

「私が良く行く森があるんだけど、その先に湖あるの知ってる?」

 

「ああ」

 

良く知っている。以前魔理沙に連れられて妖精相手に戦いまくった場所だ。

 

「あの湖の畔に紅い色した洋館があって、その洋館の近くから霧が出てるのを見たわ」

 

洋館…?そんなものがあったのか。あの湖はいつも霧が立ち込めていて見通しが悪かったから、そんな洋館があったなんて知らなかった。

…まあとにかく、これで何処へ行けばいいかははっきりしたな。早速向かうか…

 

「あ、待って」

 

…?

 

「えっと…ごちそうさまでした!」

 

「…ああ、お粗末さま」

 

そのままルーミアは何処かへ飛び去っていった。…さて、そろそろ出発するか。

 

 

境内に戻ると、霊夢と魔理沙がオレを待っていた。

 

「お、やっと戻ってきたな」

 

「用事は済んだの?」

 

オレは用事を済ませた事と、ルーミアから得られた情報の旨を伝えた。

 

「成程ね、あの洋館か…」

 

「知ってるのか霊夢?」

 

魔理沙が霊夢に尋ねる。霊夢は知っていたんだろうか。

 

「うーん、あんま詳しくは知らないけど、今から大分前に幻想郷に来た吸血鬼が住まう館だった気がするわ。まあ、私は実際に見てないから分からないけど」

 

吸血鬼か…そういえば、()()()は今頃どうしてるかな。

 

「そーなのかー。まあどうでもいいや、早く行こうぜ」

 

聞き覚えのある言い回しで催促する魔理沙。…考えても仕方が無いか。あの人は、多分元気にやってるだろう。

そうこうしている内にどうやらもう出発するようだ。二人に遅れないように跳んで後を追いかける。

 

 

鬱蒼とした森の上空を駆け抜け、絡んでくる妖精を(主に霊夢が)適当にあしらい、進んでいく。

あれからどれ程飛び続けたであろうか、漸く湖に辿りついた。

 

相変わらず霧が立ち込めていて視界が悪い。それに…

 

「なんでこんなに冷えるんだ?今季節は夏だってのに…」

 

魔理沙の言う通り、先程から妙に肌寒い。この季節、夜は多少涼しいものが、それでもこの時期の温度としては異常だ。

オレは袖を捲くっているだけだから問題は無いが、魔理沙は半袖だ。霊夢に至っては肩から二の腕にかけてが露出している。余計に肌寒く感じるだろう。…というか、本当にあの服は何の意味があるんだろう?

 

捲っていた袖を戻していると、不意に反対側から声をかけられる。

 

「あ、柴芭さん…それに、魔理沙さんも」

 

声の主は、大ちゃんこと大妖精だった。大ちゃんはどうやら、この湖の近くの森に住んでいるらしい。

 

「大ちゃんか、久しぶりだな。霊夢、コイツは大妖精の大ちゃんだ。無闇に悪戯したり攻撃したりするような奴じゃ無いからその札を降ろすんだ」

 

問答無用で倒そうとしていた霊夢を魔理沙が諌める。…見境がないな。

 

「それで、一体何のようなんだ?」

 

魔理沙がそう問うと、少し躊躇うような素振りを見せるも、ゆっくりと答える大ちゃん。

 

「えっと…実は、今湖にはチルノちゃんが…あ、チルノって言うのは、この間お二人にお話ししたと思いますけど、この辺に住んでいる氷の妖精の事です。

それで、そのチルノちゃんが…なんというか、ちょっと今気が立っているというか…とにかく、今は無闇に近寄らない方が良いと…」

 

「この冷気の原因はその妖精な訳?」

 

それを聞いていた霊夢が質問を挟む。

 

「はい…」

 

「そう、なら決まりね」

 

どうやら、決まったようだ。…何がだ?

 

「氷精退治よ」

 

さいですか。

 

「別に放っておいてもいいんじゃないか?目的地はこの先なんだし、こんな所さっさと通過するだろう」

 

魔理沙と同意見だ。なるべく消耗は抑えるべきだろう。…最も、この道中で霊夢は些かも消耗している様には見えないが。

しかし、氷精か。あの時言っていた氷精が何故今ここにいるのかは余り考えないでおくとして、気が立っている…か。

考えられる理由はあるにはあるが…だとしたら、少々厄介だな。

 

「…その氷精は、何と言っていた」

 

思い切ってそう大ちゃんに尋ねてみる。

 

「えっ?えっと、確か…『最近妖精を倒しまくってる奴がいるらしいから、あたいがとっちめてやる』って息巻いていました」

 

「……」

 

確実に、オレの事だな。

 

「こりゃあ柴芭、責任とって相手するしかないんじゃないか?」

 

何故、そうなる。

 

「…時間が惜しいんじゃなかったのか」

 

「所詮妖精だし、そんな時間はかからないだろう」

 

大ちゃんは『妖精の中でも一際強い』と言っていた気がするのだが…。

 

「…それにだ、柴芭。これはお前の実戦経験も兼ねているんだぜ?」

 

急に声のトーンを落とし、真面目な雰囲気になる魔理沙。…言っている事は正しい気がするな。

確かに、これまでオレが戦ってきたのは、魔理沙曰く『取るに足らない雑魚』ばかりだったらしいからな。

…ここらでレベルアップしようという訳か。

 

「…わかった」

 

ならば、特に拒否する理由は無いな。強いて言えば、この寒さが辛いって所だが…まあ、その氷精をどうにかすれば治まるだろう。

 

 

『見つけたわよ!アンタがシバねっ!』

 

霧がかった水平線の奥から声が響く。

靄の中から姿を現したのは、年端も行かぬ少女という印象を受ける妖精だった。

ただ、背中には羽の代わりに6つの水晶の様なものが浮いていて、普通の妖精とは大きく違うという事が見てとれる。

そして、次第に周囲を覆う冷気も強まる。どうやら、あの妖精が氷精チルノであるようだ。

 

「ち、チルノちゃん…」

 

「大ちゃん、下がってて。あたいはソイツに用があるのよ」

 

此方を指差し息巻く氷精。…まあ、何が言いたいかは大体想像が付く。

 

「アンタがアマツキシバね!このあたいを差し置いて(さい)(きょー)の座に就こうだなんていい度胸じゃない!アンタ、あたいと勝負しなさい!(さい)(きょー)になるのはこのあたいよ!」

 

同胞の弔い合戦かと思いきや、意外な言葉を贈られた。オレが妖精を倒しているのを、道場破りか何かだと思っているのだろうか?…まあ、強くなろうとしていたのは間違っていないが。

どうやら、この氷精は自身が一番で無いと気が済まない性質であるみたいだ。どうあっても、今この場で決着をつける心算でいるらしい。それが証拠に、既に氷精はスペルカードを構えている。

…仕方が無い、腹を括ろう。

 

「…良いだろう、相手をしてやる」

 

…我ながら実に稚拙な言葉だ。こういう時、もっと皮肉の利いた言い回しが出来ると良いのだろうけどな。

 

「ナメきってるわね~、目の前に強敵がいるってのにさ!」

 

「…標的?そいつは驚きだな」

 

そう言葉を投げかければ、青い氷精の顔がみるみる赤くなっていく。羞恥ではなく怒りの感情で、だろうが。

 

「ふざけやがって~!アンタなんか英吉利牛と一緒に冷凍保存してやるわ!!」

 

…悪い病気でも移されそうなフレーズだな。最も、オレは英吉利牛なんて食べた事は無いが。

 

 

「目に物見せてやるわ!氷符『アイシクルフォール』!!」

 

いきなりスペルカードを宣言する。それが開始の合図となった。

宣言と同時に、チルノの周囲に大量の氷の柱が展開され、それらが滝のように此方に向けて流れ落ちてくる。

正面には弾幕…成程、逃げ道は無いという訳か。だが、甘い弾幕だ。

降り注ぐ弾幕の合間を縫い、僅かな動作だけで回避していく。…魔理沙の弾幕の方が余程難しいな。

 

やがて、周囲に展開されていた氷の弾幕が消える。どうやら、スペルブレイクしたようだな。

 

「ふん、やるわね。けど、まだまだこんなもんじゃないわよ!」

 

油断は禁物、如何なる相手でも思わぬ勝ち筋があるのが弾幕ごっこ。そう教えられてきた。

今度はスペルカードでは無く、通常の弾幕。他の妖精に比べるとかなり弾速が早いが、如何せん軌道が読み易い。難なく回避に成功する。

途中、弾幕に合わせてレーザーを飛ばしてきたが、自機狙いだったのでこれも難なく回避する。

…もしかして、余り考えるのが得意ではないのだろうか?

 

「む~、これならどうよ!?凍符『パーフェクトフリーズ』!!」

 

今度はカラフルな弾幕を辺り一帯にばら撒く。成程、中々綺麗だな…って、そうじゃない。

てんでバラバラな方向に撃っているが、一体どういうつもりなん…

 

…?何だ、これは…。弾幕が凍っている…?

 

ばら撒かれた弾幕は、凍りついたように色を失い、全てが空中で静止していた。

その凍りついた弾幕の影から突然青い弾幕が飛んでくる。遮蔽物を利用するとは…妖精らしからぬ戦法だ。

 

だが、その弾幕が通り過ぎた瞬間、制止していた弾幕が突然動き出した。

凍りつかせた物をまた溶かして動かしたのか、それとも、凍らせたものを自在に操れるのか…どちらにせよ、厄介だな。

 

二度三度とその攻防が続いた後、スペルの制限時間に到達する。

これで2枚、か。…あと何枚あるのかは知らないが、オレはまだスペルは使っていないから、暫くは平気だな。

 

対するチルノは、俯いて肩を震わせている。どうしたというんだ。

 

「…何でスペルカード使わないのよ!それどころか弾幕の一つも撃ちやしないし!馬鹿にしてるの!?」

 

突然金切り声を上げるチルノ。…そう、オレはまだ弾幕一つ撃っていなかった。先の事を考えて温存しようとしていたからだ。

どうやらそれが鶏冠に来たらしい。…弾幕ごっこというよりも、一方的な攻撃になってしまっていたな。

 

「…悪かったな」

 

弾幕を撃たなかった非礼は詫びよう。

その代わり…もう()()()は出来ないがな。

 

「今さら謝っても遅いのよ! くらえっ!雪符『ダイアモンドブリザード』ッ!!」 

 

大量の氷粒が辺りにばら撒かれる。演出する弾幕というよりは、やけくそ気味の弾幕のようにも見えなくは無い。

…なるべく力は温存しておきたかったが、仕方が無いか。

 

 

「『fang-incomplete-』」

 

頬の痣に力が滾るのを感じる。宣言した刹那、大口を開けた巨大な竜の頭部がオレの前に出現する。

その顎門(アギト)は全てを砕く。万象一切を呑み込む巨大な牙、それがこのスペルだ。

 

「えっ!?な、なに?何なのよコレ!?」

 

氷精が何やら喚いているが、今さら後悔しても遅い。

放たれる氷粒は全て牙の前に掻き消され、無残に散って行く。どうやら、この牙の前では奴の弾幕は掻き消されるらしい。

 

「何で効かないのよ!?わけわかんないっ!!」

 

オレにも良く分からん。良く分からんが…一つだけ、確実な事がある。それは…

 

「お前はこれで満身(ゲーム)創痍(オーバー)という事だ」

 

大きく口を開き、歯をかみ合わせる。その動作に反応するかのように、開いていた牙が閉じて氷精を呑み込む。轟音と共に目の前が閃光に包まれる。

 

 

光が晴れた先に、氷精の姿は無かった。どうやら、一回休みになったようだな。

妖精は、肉体が消されても暫くすると何事も無かったかのように復活するのだという。

自然そのものというのが妖精の正体なので、自然がある限り何度でも復活するとは魔理沙の談。事実かどうかは知らないが、後ろで見ていた大妖精はそれほど心配した様子も無さそうなので、恐らく事実であろう。

 

「バカは死ななきゃ治らない…か」

 

恐らく、その言葉はあの氷精には当てはまらないだろう。そんな予感がする。

 

「新しいスペルも凄い威力と迫力だな~。流石はこの魔理沙さんの弟子だ」

 

弟子…まあ、間違っていないか。

 

「なんでアンタが得意げなのよ。…それにしても、大分強くなったわね。数週間前とはえらい違いだわ」

 

霊夢がそう声をかける。…オレも強くなっているって事か。

あの氷精みたいに、ひたむきに最強とやらを目指すのも、まあ…悪くないかもしれないな。

とはいえ、オレは最強だとかそう言うのにはあまり興味が無いな。競う相手がいなければ、それはきっと退屈な事だろう。

 

「あーあ、すっかり冷えちゃったわ。冷房病になっちゃうわ」

 

聞いた事の無い病名だな。まあ、気にする必要は無いか。

 

「あんまりここにいると体に悪そうだ。さっさと探そうぜ、お茶でも出してくれそうなお屋敷をさ」

 

…多分、そのお屋敷の連中からすれば、オレ達は招かれざる客に該当するものだと思われるがな。

 

「そういうわけだから、私達はそろそろ行くぜ。じゃあな大ちゃん!」

 

「えっ?あ、は、はい、お気をつけて!」

 

我に返ったようにそう返事をする大ちゃん。チルノの事が心配なのだろうか。

 

「いえ、大丈夫ですよ。どうせすぐに復活しますから」

 

少し苦笑しながらもそう大ちゃんは言う。顔に出ていたか、それとも、そう思っていると予測されたか。まあ、これで懸念は無くなったな。

 

「そうか…なら、氷精が復活したら、伝えておけ。…『リベンジ歓迎』とな」

 

「…フフ。はい、わかりました」

 

今度は屈託のない笑顔を浮かべる大ちゃん。そういう笑い方の方が、良いな。

…今は先を急ごう。魔理沙がにやついた表情を浮かべているが、特に気にしないでおこう。

 

目指すは、霧の向こうの紅い館。

 

 

 




柴芭は、表面上は冷めているように見えますが、結構熱くなりやすかったりします。

弾幕ごっこを柴芭の視点で描くとどうも淡白な感じになってしまいますね。
最も、本当の強敵はここから出てくるんですけれどね。

次回は、華人小娘が登場すると良いなあ。


今回登場したスペルカード

・氷符「アイシクルフォール」
お馴染みチルノの代名詞スペル。
サイドから迫る滝のような弾幕と正面から来る弾幕の両方を避ける必要がある。
難易度Easyだと正面が安置になる。有名なネタである。
ちなみに、難易度Hard以降では“雹符「ヘイルストーム」”というスペルになる。
雹をどうすることもできないのなら、家にいるのがよいでしょう。

・凍符「パーフェクトフリーズ」
これまたチルノの有名なスペルカード。
ばら撒いた弾幕が凍りつき、一定時間後に再び動き出す。
その特異な攻撃に、初見で見事に思考がパーフェクトフリーズした方も多いだろう。
語頭に「親の視線が」を付けてはいけない(戒め)

・雪符「ダイアモンドブリザード」
その名の通りダイヤモンドのような弾幕を大量にばら撒く。
特殊な演出等は特に無いが、弾速が割と早い為油断はできない。
事実上のラストスペルだが、前座のパーフェクトフリーズのインパクトの陰に隠れがち。

・「fang-incomplete-」
柴芭のスペル。不完全な牙。
弾幕で構成された巨大な牙で丸呑みにするという豪快な技。氷精すら一撃で屠る。
溜めこそ長いが、逃げ遅れたらほぼ逃げ道は無いので注意。

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