神々が愛した幻想郷 ~ Fantasia Variants Dreamed.   作:左右手

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本日、教習所の方に行ってまいりました。
そろそろ免許を取るのにチョウドイイ時期だそうなので…。
暫くは忙しくなるかもしれませんが、頑張って執筆は続けます。


↓ほんへ


華人小娘

立ち込める霧を払い、湖を超えた先には、紅い陸地が広がっていた。

湖を抜けた3人は、その陸地に足を踏み入れる。最も、飛翔しているので土は踏まないが。

 

陸に上がった3人を真っ先に出迎えたのは、赤い服を着た妖精たちであった。

統一した服装を着ている為に、何処かの組織等に属しているのではないかと思われる。

最も、妖精故にその行動に統一性は余り見られない。霊夢の攻撃によりあえなく撃退させられ、撤退を余儀なくされる。

 

「やれやれ、集団で襲ってきても所詮は妖精って所か」

 

半ば呆れた様な口調で魔理沙が呟く。彼女はこの道中一度も弾幕ごっこをしていない為、少々暇を持て余していた。

 

「それにしたって霊夢、本当にこのまま進んで辿りつくのか?」

 

現在彼らは霊夢の先導の元、立ちはだかる妖精を倒しながらひたすらに前進していた。

 

「辿りくわよ」

 

そう断言する霊夢。その顔には一切迷いの色は無い。

 

「どうして?」

 

そう魔理沙が尋ねる。

 

「勘」

 

そんな魔理沙の疑問に対し、たったの二言そう告げる霊夢。

 

「…で、本当の理由は?」

 

「さっきから出てくる妖精達、皆同じ服を着ているでしょう。恐らく、何処かに属しているんじゃないかなと思う訳よ。そして、さっきからその妖精達は私達の進行を妨げるように立ちはだかってくる。

つまり、この妖精達が進ませまいとしている場所こそが、その妖精達が属している場所…つまり、例の館の可能性が高いと思ったのよ」

 

再び魔理沙が問いなおせば、今度は真っ当な理由を述べる霊夢。

その推察力に舌を巻きつつも、魔理沙は納得したように笑みを浮かべる。

 

「なるほどな~、そういう事か」

 

「そういう事よ。柴芭はもう気付いていたんでしょうけどね」

 

少し驚いたような様子で魔理沙は後ろを振り向く。

視線に気付いたのか、柴芭は魔理沙の視線に合わせるように顔を向け、軽く頷く。

 

「なんだよ…気付いていなかったのは私だけか~」

 

そう言って項垂れる魔理沙。そんな状態でも、箒に跨る姿勢は一切崩れない。

 

「ま、どうでもいいでしょ。さっさと異変の元凶を退治して帰るわよ」

 

そんな魔理沙の反応を余所に、淡々とそう告げる霊夢。

魔理沙も渋々といった態度で頷き、柴芭は相変わらず無表情のままであった。

 

「それにしても、この妖精どもはいつまで出てくるんだ?いい加減鬱陶しいぜ」

 

霊夢が撃ち損じた妖精を片付けながら魔理沙が愚痴を零す。その魔理沙の隣で弾幕を放っていた柴芭も恐らくは同じ意見を抱いているだろう。

 

「いや、そろそろ終わりじゃないかしら?」

 

その呟きに対し、意外な返答が返ってくる。一瞬意外そうな表情をするも、直ぐに目を細める魔理沙。

 

「…何でそう言い切れるんだ、また勘なのか?」

 

首を数度横に振り、おもむろに前方を指差す霊夢。魔理沙と柴芭は、その方向に目をやる。

 

 

気が付けば、彼らの目の前には既に妖精達は存在せず、月に照らされて怪しく映える赤い館が目の前に広がっていた。

見れば、その館の門を守るように一人の女性が腕を組んで仁王立ちしていた。

腰から腿にかけて大胆なスリットの入った淡い緑の服、背後に鎮座する館のように赤い長髪、真ん中に『龍』と描かれた星のエンブレムが特徴的な帽子と、どこか幻想郷では見慣れない出で立ちである。

 

彼らは館の門の前に降り立つ。その女性は此方の気配に気付いたのか、或いは()()()()()()()()のか、ゆっくりと顔を上げ、来訪者を見据える。

 

「…背水の陣、か」

 

その女性は静かにそう呟く。その言葉に、魔理沙が反応する。

 

「あんた一人で()なのか?」

 

指摘を受け、その女性は苦笑する。

 

「…そうね、私一人では()()陣とは呼べないわ」

 

「…もう?」

 

その発言に疑問を感じた柴芭がそう呟く。魔理沙もまた、小首を傾げて『解せない』とアピールする。

 

「…なるほど、さっきの妖精達はアンタが嗾けたって訳ね」

 

先の発言の意図を汲み取り、簡潔にそう告げる霊夢。

 

「そうなのか?」

 

魔理沙の問いかけに、女性は答えない。だが、否定の言葉は無かった。

 

「…あんた達は一体何者なの?」

 

返答の代わりに発せられた言葉は、何の変哲もない問いかけ。

 

「人に聞く前に、先ずは自分から名乗るのが礼儀なんじゃないか?」

 

牽制するように魔理沙がそう投げかける。

 

「…それもそうね。私の名は(ホン)(メイ)(リン)、この紅魔館(こうまかん)の門を守る者よ」

 

その女性―紅美鈴は名を告げると、今度は『次はお前達の番だ』と言わんばかりに三人を睨みつける。

 

「つまり門番って訳か。私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いさ」

 

「博麗霊夢よ、この霧出してる奴ぶっ潰しに来ました~」

 

「…天月柴芭、今回はリザーバーだ」

 

柴芭の『リザーバー』発言に意表を突かれたのか、吹き出しそうになるのを堪える魔理沙。

そんな彼らの言葉を静かに聞いていた美鈴は、大きく溜息をつき、彼らに告げる。

 

「…引き返しなさい」

 

彼らを斥けんとする旨の言葉を。

 

「客人に対する言葉がそれなの?アンタ一体どういう教育受けてるのよ」

 

美鈴の発言に対して若干不機嫌になりながらもそう答える霊夢。

 

「そう言われても、あんた達を招待したとは仰せつかっていないからね」

 

組んでいた腕を解き、両掌を水平にして『やれやれ』とポーズを取りながら首を振る美鈴。その態度に更に顔を歪める霊夢。

 

「ま、ダメと言われたら勝手にお邪魔するしか無いな」

 

「…それを阻む為に私がいるのだけれど?」

 

そう言いながら二歩、三歩と歩みを進めた魔理沙の前に、無表情の美鈴が立ちはだかる。女性にしては高身長に部類するであろう美鈴を相手に、必然的に魔理沙は見上げる形となる。

 

「どうしてもここを通りたいから、私が勝ったら大人しく通してもらうぜ」

 

威圧するように睨みつける美鈴に対し、全く物怖じした様子も見せずにそう言い放ち、快活な笑みを浮かべる魔理沙。

 

「…普通、そう言うのはこっちのセリフだと思うんだけど?」

 

そんな突飛な発言に呆れた様な表情になるも、太腿のホルスターからスペルカードを取りだし、胸元に構える美鈴。

 

「…物わかりの良い相手で助かるよ」

 

魔理沙もまた、ポケットからスペルカードを取りだし、不敵に微笑む。

そして、後ろを振り返り、事の成り行きを見ていた霊夢と柴芭に言葉を投げかける。

 

「そういうわけだから、まあお前らはゆっくり見物でもしていると良いさ」

 

そう告げられ、柴芭は近くの木に寄りかかり、傍観に徹する体制。

 

「時間が惜しいんだから、さっさと終わらせなさい」

 

去り際にそう告げ、横倒しになった樹木の幹に腰掛ける霊夢。告げられた魔理沙は、頭を掻きながら苦笑し、美鈴の方へと振り返る。

 

「…だそうだ。ゆっくりはできないから、さっさと始めようか」

 

「ええ、そうね。さっさと決着を付けましょう、あんたの敗北という形でね」

 

「戦う前から勝利宣言とは、おめでたい奴だな」

 

互いに皮肉交じりの言葉投げかけ合いつつも、距離を取る。

 

 

「おめでたい?…違うわね、既に結果は見えているのよッ!」

 

その宣言の刹那か、はたまた同時か、疾風の如く魔理沙に突っ込んでいく美鈴。

それを見た魔理沙はまたも不敵に笑う。そして、前傾姿勢の状態で突っ込んでくる美鈴の肩に両手を添え、その勢いを生かして馬跳びの要領で軽々と回避する。

 

だが、その動きは予期していたのか、魔理沙が先程まで立っていた場所に右手を突き、その場で倒立をするかのごとく体を持ち上げ、魔理沙に向けて蹴りを仕掛ける。

その予想外の動きに一瞬思考を止めるも、すぐさま思考を切り替え、腕を交差させ、体を丸め、防御の姿勢に入る魔理沙。そして、交差させた腕に美鈴の足が直撃する。放たれた蹴りは、大凡常人のそれとは比べ物にならない威力で、防御した筈の魔理沙の体を反対側まで吹き飛ばした。

腕への衝撃と痛みに顔を歪めるも、大したダメージでは無かったのか、地面に付く前に体勢を立て直し、何事も無く着地する魔理沙。

 

「『結果は見えている』だって?それこそおめでたい話だぜ」

 

何処から取り出したのか、自前の箒を右手に構えてそう笑う魔理沙。そんな魔理沙の言動が癪に障ったのか、片眉を吊り上げて目を細める美鈴。だが、その言葉に対して返答はしない。

再び魔理沙目掛けて突っ込む美鈴。先程と同じ動きに対し、わかりやすく嘲弄する魔理沙。だが、美鈴はそんなあからさまな挑発には一切動じていなかった。

 

直後、彼女から放たれたのは拳では無く、弾幕であった。

風に靡く彼女の髪のように紅い弾幕が魔理沙の眼の前に広がる。意表を突かれた魔理沙だが、彼女は自他共に認める百戦錬磨のシューターである。地上の弾幕であろうとも、無駄の無い動きで軽々と回避していく。

 

「この程度の弾幕でこの霧雨魔理沙様を……?」

 

弾幕の壁を越えた先に、美鈴の姿は無かった。

それに気付き、左右を見渡して美鈴を探す魔理沙。突如としてターゲットを見失った為、その表情には幾分か焦りが見られる。

 

直後、鋭い蹴りが魔理沙の背中に命中する。

 

「ぐぁっ!?」

 

前のめりになりながらも、何とか足に力を掛けて吹き飛ぶまいと堪える魔理沙。しかし、その表情は背中に奔る激痛で歪んでいた。

 

「この…ッ!」

 

目尻に涙を溜めながら、右手に携えた箒を美鈴目掛けて力任せに薙ぎ払う魔理沙。

だが、そんな渾身の一撃は片手で受け止められ、次の瞬間には、魔理沙は箒ごと中に放り出されていた。

 

「ひぅッ!」

 

そのまま地面に叩きつけられ、情けない声をひり出す魔理沙。箒に手を伸ばそうとするも、美鈴が箒を蹴り飛ばした事でそれは阻まれた。箒は、数M程先まで転がって行った。

伸ばしかけていた腕から力が抜け、地面に倒れこむ魔理沙。そんな様子の魔理沙を見降ろし、冷たい眼差しを向ける美鈴。

 

 

「…霊夢」

 

「何よ?」

 

観戦を決め込んでいた柴芭が霊夢に質問する。

 

「…()()も、弾幕ごっこの内に入るのか?」

 

「ん~…まあ、別に良いんじゃない?弾幕撃ってるし」

 

同じく観戦を決め込んでいた霊夢がそう答える。発案者公認の瞬間である。

 

「…そうか」

 

その答えを聞き、納得した様子の柴芭。霊夢もまた、再び傍観に徹する。

二人の中には、この戦いを止めるという選択肢は存在しなかった。

 

 

「…今すぐ降参するなら、見逃してあげるわよ」

 

未だ地に伏したままの魔理沙に対し、美鈴はそう告げる。

対する魔理沙は、未だ痛みで立ち上がれないのか、それとも悔しさ故に顔を上げられないのか、未だ地面と顔を合わせたままであった。

 

「…もう諦めなさいよ、人間じゃ私には勝てないわ」

 

美鈴はそう言葉を紡ぐ。彼女は、無益な戦いは好まない。『これ以上続けても無駄に傷つくだけだから、降参した方が身のためだ』という、彼女なりの思いやりであった。

 

「…あき、らめる…だって…?」

 

「…?」

 

突如、下方からくぐもった声が響く。地に伏していた魔理沙の声である。

 

「悪いが、私は、ひねくれものでね…。諦めろ、と言われると、どうしても、諦めたくなくなるのさ…!」

 

そう言い放つと同時に、緑色の弾幕のような物を一発放つ。

美鈴は弾幕を打ち消そうと同じく弾幕を充てるが、それがトリガーとなり、緑の弾幕は爆発した。弾幕の正体はマジックミサイルであった。

 

「くっ…!?」

 

その爆発を予期できず、後方に吹き飛ばされる美鈴。だが、至近距離にいた魔理沙も同じく爆風で吹き飛ばされていた。

 

「そのまま自滅する気なのか!?」

 

「いや…?そんなつもりは、毛頭ないぜ…!」

 

魔理沙は、爆発の勢いを利用して美鈴から距離を取っていた。そして、徐々に落下していき、地面に触れるか触れないかの所で、その場に落ちていた箒を拾って空高く飛翔した。

彼女は、箒に跨らなくとも飛行が可能であった。箒は彼女にとってアイデンティティーに過ぎないのである。そして、その箒に跨り、門を背にして自身を警戒する美鈴を見据える。

 

「さっきはよくもやってくれたじゃないか。私は根に持つタイプなんだ、キッチリとお返しさせてもらうぜ!」

 

先程よりも調子が戻り、はっきりとした口調でそう告げる魔理沙。

治癒の魔法でも使ったのか、戦いの最中にアドレナリンでも分泌されたのか、今の彼女は、痛み等彼方に置き去りにしたかのような態度であった。

 

(あいつ、一体何をしたんだ…?)

 

そんな魔理沙を前に、美鈴は得体の知れない不気味さを感じていた。

 

そして、魔理沙は一枚のスペルカードを右手に構え、声高に宣言する。

 

「見せてやるよ、門番…!これが私の弾幕ごっこ(たたかい)だぜッ!!」

 

そう言い切るか切らないかのタイミングで、スペルカードで虚空を切り払う。

次の瞬間、魔理沙の全身が星の光に包まれたかのように眩く輝きだした。

 

「なにっ…!?」

 

その眩さに、思わず腕で顔を覆う美鈴。

 

「まだ試作段階だけど…みせてやるぜ!『ブレイジングスター』ッ!!」

 

スペルカードが宣言される共に、魔理沙を包む光がより一層光を強める。

そして、魔理沙はその光を纏ったまま、美鈴目掛けて凄まじい速度で突撃してきた。

その軌道は一筋の閃光となり、炎のように広がっていく。最終的に、“マスタースパーク”を彷彿とさせる程の凄まじい密度の光の柱を虚空に生み出した。

 

「何て力なの…けど、そんな単純な動きはあたらないわよ!」

 

一直線に突っ込んでくる閃光を難なく回避する美鈴。だが、そのスペルはそれで終わりでは無かった。

光が走り去った直後、その軌道上に無数の星の弾幕が出現し、辺りを漂い始めた。光の残滓を掻き消すように辺りに散っていくそれは、まるで星屑のようであった。

 

(こ、これは…!見えない…ヤツの居場所が分からない!?)

 

凄まじい密度の星に囲まれ、気が付けば美鈴は魔理沙を見失っていた。

 

『こっちだぜ!!』

 

遠くから聞こえてきた叫び声と共に、再び閃光が美鈴目掛けて襲いかかる。

再び回避しようとするも、今度は勝手が違う。周囲は既に大量の星屑に囲まれており、自由には動けない。

 

「くっ…!」

 

間一髪で回避に成功するも、再び散りばめられた星屑が、今度こそ美鈴の自由を奪った。

もう彼女に逃げ道は残されていなかった。再度、閃光と共に魔理沙が飛来する。

上手く弾幕を回避していけば、閃光には当たらずには済むだろう。しかし、彼女にはそんな余裕は残されていなかった。

 

眼前に迫る彗星を前に、彼女は成す術も無く呑み込まれていった。

 

 

美鈴を呑み込んだ彗星は、やがて勢いを失い、光を失っていく。

それと同時に、魔理沙の体を包んでいた光もまた消えていく。スペルの終了を告げる瞬間であった。

 

魔理沙は大地に降り立ち、後方を見据える。視線の先には、ボロボロになり、ふらつきながらも立ち上がる美鈴の姿。

 

「まだやるのか?もう諦めたらどうだ?」

 

皮肉にも、先程美鈴が告げた言葉と同じ言葉を告げる魔理沙。

 

「ッ…!…冗談じゃない!!」

 

その言葉に激昂し、声を張り上げる美鈴。

そして、敗れた服の隙間からスペルカードを取りだすと同時に飛翔し、間髪入れずに宣言する。

 

「私は、こんな事では倒れはしない!虹符『彩虹の風鈴』ッ!!」

 

淡い輝きを放つ虹色の弾幕が紅い夜空を彩る。その輝きに、遠くで戦いを見ていた霊夢と柴芭も魅せられていた。

 

「綺麗だなぁ…凄く綺麗だよ、アンタの弾幕。けど、私だってそう簡単にやられてはやれないのさ!」

 

その光景に感嘆の声を漏らすも、決して被弾することなく軽やかに空を飛び、虹色の弾幕を回避していく魔理沙。その動きに心の動揺は見られない。その瞳に一切の迷い見えない。

やがて、全ての弾幕を撃ち終わったのか、スペルが終わりを迎える。それと同時に、再び次のスペルが宣言される。

 

「ならば、これでどうだ!華符『芳華絢爛』!!」

 

辺り一帯に花ような弾幕が広がる。赤と黄色に彩られた弾幕の花弁が、心地よい花の香りと共に広がっていく。

幾度となく弾幕を潜り抜けて来た魔理沙にとって、規則的に展開されていく弾幕の隙間を見つける事は容易かった。だが、彼女にとってはそんな事は重要では無かった。

『全てにおいて、弾幕の美しさにこそ意味があり、その相手の考えもまた、その弾幕の中にある』それが魔理沙の考えである。そして今、魔理沙はその考えに則って、目の前に対峙する華人小娘、紅美鈴の本質に気付き始めていた。

弾幕の嵐を掻い潜って行く魔理沙を見据えながら、口元に弧を描く美鈴。彼女もまた、知らず知らずの内に、この弾幕ごっこを楽しんでいたのだった。

 

夜空に咲いた弾幕の花が散っていく。2枚目のスペルもまた、終わりを迎えた。

 

「…ふふふ、奇妙な感覚ね。何だか、今まで気負っていたのが馬鹿らしくなってきた」

 

静寂の中、突如として笑いだす美鈴。それを見つめる魔理沙も、苦笑いで答える。

 

「おいおい、どうしたんだいきなり。…まあ、その方が良いんじゃないのか?」

 

「そうね、私も久々に楽しめたわ。…けど、あんたはまだ()()()()()()になりたければ、最後まで攻略して見せなさい!」

 

そして、遥か高空へと飛び、最後のスペルカードを掲げる美鈴。

その言葉の中で何かを感じ取ったのか、深々と被った帽子の下で満足げに微笑む魔理沙。

 

「…ああ良いぜ、来いよ!お前の全開を見せてみな!」

 

「これが最後…!見せてやるわ!彩符『極彩颱風』!」

 

宣言と共に放たれしは、極光の如き弾幕の雨。催花雨の如く降り注ぐ虹色の雨が、紅々とした夜空に彩りを灯していく。

その雨は美しく、そして苛烈に降り注ぎ、眼下を飛ぶ魔理沙を射止めんとしていた。

 

「凄い雨だなぁ、傘を持ってくれば良かったぜ。…いや、傘なんか必要無いな。私自身の力で突き進んでやるぜ!この雨の中をな!」

 

「面白い…やってみなさい!出来る物ならね!」

 

虹色の雨を挟んで、互いに啖呵を切り合う二人。その表情は、混じり気の無い笑顔で満たされていた。

 

「やってみせるさ!()()()でな!」

 

魔理沙が取りだしたのは、八角形の手のひらサイズの箱のような物体―ミニ八卦炉。

そして、その八卦炉を持った右手を自分の後方に翳し、左手の指の間に挟んだスペルカードを宣言する。

 

「ぶっちぎるぜ!恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

手にした八卦炉から凝縮された魔力が撃ちだされる。その光線の膨大な魔力は、爆発的な推進力となって彼女の体を空高く舞い上がらせた。

 

「な、なんて事を考えるのよ…!けど、そんなんじゃ直ぐにぶつかるのが関の山よ!」

 

「この霧雨魔理沙様を甘く見てもらっちゃ困るぜ!」

 

眼前に迫る虹の雨粒を、右手を僅かにずらし、軌道を変える事で次々と回避していく魔理沙。その大胆かつ繊細な動きに、既にその場にいた全ての者が魅入っていた。

降り注ぐ雨は止まることなく、更に勢いを増していく。そんな豪雨の中を、一筋の閃光と共に突き進む魔理沙。最早彼女の眼には、雨雲の上で待ち構える美鈴の姿しか映っていなかった。

 

閃光は突き進む。幾千、幾万の虹を超えて。その姿はまるで、地に落ちた雷光が再び天へと遡っていくかのような光景であった。

 

 

「あっ…」

 

「チェックメイト、だぜ…美鈴」

 

降り注ぐ雨を突き破り、戦いを制したのは雷光であった。魔理沙が美鈴の眼の前まで辿りつくと同時に、互いのスペルの時間が終了したのである。そして、最後に魔理沙が美鈴に付きつけたのは、彼女の最後のスペルカード。最後までスペルカードを温存していた魔理沙の勝利は明瞭であった。

閃光はついに、雨雲を貫いた。戦いの最中、二人は終ぞ笑顔のままであった。

 

 

「…あーあ、負けちゃった」

 

口調こそ残念そうであったが、その表情は憑き物が落ちたかのように晴れやかであった。

『弾幕ごっこは、この世で最も無意味で、最も楽しい決闘だ』。満足げに目を閉じる美鈴の様子を見て、魔理沙は頭の中でその言葉を反芻していた。

誰がいつどこで言い出したのかは魔理沙には分からなかったが、それはきっと些末な事なのだろう。何故なら、彼女もまた、美鈴と同じような表情を浮かべているからだ。

 

ふと、糸が切れたかのように倒れこむ美鈴。それを黙って受け止める魔理沙。

 

「申し訳ありません…お嬢様…。そして……な、様…」

 

掠れるような声が魔理沙の耳元に響く。最後までは聞き取れなかったが、それは紛れも無く主君への忠誠を誓う言葉と、無念の意志の表れであった。

 

「…悪いな」

 

そう告げると、美鈴を抱きかかえたまま、魔理沙はゆっくりと地上へ降りて行く。

そして、美鈴頬を伝っていた一筋の水を、誰にも悟られぬよう指で掬った。きっと雨粒のせいだろう、そう心の中で呟きながら。

 

 

地上へと戻った魔理沙は、門の傍らに美鈴を寝かせると、既に支度を整えていた霊夢と柴芭の方へ向き直り、勝利宣言をする。

 

「へへっ…。決着、さっさと…つけ…た…ぜ」

 

だが、そんな彼女の方も限界が来ていたのか、膝から崩れ落ちる。地面に付く前に、間一髪で柴芭が受け止める。

 

「大丈夫…じゃ、無いわよね。アンタ、あの丸薬使ったのね」

 

「ああ、まあ…な」

 

あの時、魔理沙が痛みを忘れて動けたのは、事前に用意していた丸薬の効能であった。地に伏している間に、相手に悟られぬようにこっそりと服用していた。

その効果が切れた為、今現在魔理沙は事切れたように動けなくなっているのである。

 

「…だから言ったでしょう、無理はするなって。…後は私達に任せて、暫く休んでいなさい」

 

「けど、柴芭は…」

 

口を開きかけた魔理沙を手で制する霊夢。

 

「アンタが鍛えたんでしょう?なら、信じて待つのがアンタの仕事よ」

 

「……ああ、任せた」

 

微笑を浮かべ、安心しきったように目を閉じる魔理沙。どうやら、疲労から眠りに付いたようだ。

暢気なものだと苦笑を浮かべる霊夢。魔理沙をおぶって門の前まで移動する柴芭。

 

門の前まで来た柴芭は、門扉で眠りこける門番の傍らに魔理沙を寝かせる。そして、霊夢は柴芭に声をかける。

 

「これからは、アンタが私のパートナーよ。…魔理沙の分も、しっかり頼むわね」

 

「…任せろ」

 

霊夢の問いかけに対し、簡潔にそう答える柴芭。

その回答に笑みを浮かべる霊夢。そして、彼らは迷うことなく門をくぐる。

 

月に照らされた紅き夜、二人は紅き館へと足を踏み入れる。

敵陣を見据える灰色の瞳には、空を覆う霧よりも赤々と燃え盛る闘志が宿っていた。

 

「…待っていろ、吸血鬼」

 

 

 




※魔理沙は主人公ではありません。
作者は原作キャラの活躍も書きたい派なので、そこら辺をご了承頂けるとありがたいです。

華人小娘、紅美鈴との戦い、如何でしたでしょうか。
肉弾戦にするとどうしても美鈴有利になってしまうので、結局は弾幕ごっこという形式で落ち付かせました。

まだ三面なのd…今後もこういった戦闘描写が増えるので、文字数が増えてしまうかも知れません。
まだ10000文字は超えていないから大丈夫…なるべく分かり易く書くよう努力はいたします。

次回、メイドと血の懐中時計。瀟洒なアイツが登場!(予定)


今回登場したスペルカード

・虹符「彩虹の風鈴」
紅魔郷で美鈴が使うスペルカード。
渦を巻くように虹色の弾幕が展開される。
作中でも屈指の美しさなので、原作に興味のある方は是非見てもらいたい。

・華符「芳華絢爛」
同作での美鈴のスペルカード。
花が咲くように白い弾幕が広がる。ハナガサイタヨー
規則性があるので正直言って避けやすいが、絵としてはとても映える。

・彩符「極彩颱風」
同作で美鈴がラストに使うスペルカード。
雨のように虹色の弾幕が降り注ぐ。ジョウロを振り回している訳では無い。
原作では横視点でしか見られないが、下から見れば物凄い綺麗なのだろう(適当)

・「ブレイジングスター」
魔理沙のスペルカード。燃え上がる星。
光に包まれ、彗星の如く突撃するという豪快な技である。
本来なら紅魔郷では登場せず、初出は永夜抄なのだが、先駆けて登場させてしまった。


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