団長とキスをしたい、オジギソウのお話
(デートイベント前日譚)

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※花騎士のデートイベント前の妄想話
※駄文乱文誤字脱字ある
※デートイベントのネタバレあり

以上が許せそうならどうぞ
楽しんでいただけたら幸いでございます


どうか貴方と口づけを

 

 

 団長様とキスをしてみたい。

 そう思ったのは、一体何時からでしょうか?

 五感が他の人よりも鋭敏で、所謂特異体質な私を他の花騎士たちと同じように接してくれた時から?

 この前の任務で斥候としての役割を果たし、褒めてもらった時から?

 体質のせいですぐに寝てしまう、または恥ずかしがり屋な私を笑うことなく、真摯に向き合ってくれた時から?

 忙しいでしょうに、こんな私の悩み相談に乗り、一緒にあれこれ考えてくれた時から?

 その相談中に団長様と触れ合い、その感触を覚えた時から?

 ……それとも、もしかして。私が団長様と初めて出会った時から?

 思い返して考えてみても、頭の中は団長様のことでいっぱいになり、気が付けば私は体質のせいで眠ってしまいます。

 けれど、夢の中まで団長様は現れて、私に優しくしてくれます。

 

「ですから~、きっと私は~……」

 

 団長様のことが好きなのでしょう。

 いつからなのかも、きっかけも思い出せないけれど、この気持ちだけはハッキリとしています。

 そして、だからこそ。私は団長様とキスをしてみたい。

 好きな人同士がするように。恋人同士がするように。……その、夫婦がするように、口づけを交わしてみたい。

 

「……ぅう~、恥ずかしいですぅ~」

 

 想像しただけで、顔が熱くなるのを感じ、私はいつも手にしているぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、自室のベッドの上で悶えてしまいます。

 恥ずかしい。なんて恥ずかしい妄想なのでしょう。礼儀を両親から教え込まれた私としては、これ以上なく恥ずかしく、また団長様に変な子だと思われてしまいそうな行動です。

 

「うぅ……でも~」

 

 それでも、団長様とキスをしてみたい。もっと触れ合ってみたい。

 そう思うだけで、特異体質なせいか胸は高鳴り、苦しくなりますが、それでも団長様と……。

 最近の私、花騎士のオジギソウはいつもそのことばかりを考えてしまいます。

 

 

 

 

「……」

 

 朝が来て、目が覚めて、私はぼんやり考えます。

 抱きしめているのは団長様、ではなくいつも傍に置いているクマのぬいぐるみ。

 ええっと、私は何をしていたのでしょう? 一体何を夢見ていたのでしょう?

 上体を起こし、寝巻の袖口で寝ぼけ眼の瞼をこすり、私は今一度ぼんやり考えます。

 夢の中で団長様と出会い、とっても優しくしてもらい、抱きしめてもらい、それから互いに見つめ合ってから……。

 

「そうです。私は団長様とキスをして~……」

 

 ハッピーエンド、よかったですね。

 ……と、続けられるわけもなく、私は恥ずかしさのあまりそのまま枕へと顔を埋め、無駄に両手足をバタつかせてしまいます。顔が、顔が熱くて仕方がありません。

 

「うぅ~……」

 

 ひとしきり無造作に動くその両手足は、脳裏に過ぎった団長様の顔によってピタリと止まり、それから脱力します。

 団長様のことを好きだと自覚し、キスをしてみたいと思った日からずっと、同じような夢ばかり見るようになってしまいました。とても優しく、甘く、いつまでも見続けていたいと思えるような、そんな夢を。

 

「んっ」

 

 息が苦しくなってきたので寝返りを打って、いつも自室で目覚めた際に見える天井と向かい合います。ふとその天井の左側が明るいことに気づき、顔をそちらに傾けるとリネンカーテンから柔らかな春の陽光が差し込んでいました。

 

「……すぅ、すぅ、っは!? いけません、いけません~」

 

 その柔らかい日差しを眺めている内に、気が付けばまた眠りに落ちてしまっている自分に気付き、私は慌ててベッドから起き上がります。

 いくら今日と明日が休みだからといって、朝から眠り続けるわけにはいきません。

 まだやや重く感じる瞼をこすりつつも、私はカーテンのかかった窓へと向かい、それぞれを順に開き、そこから外の様子を伺います。

 

「んっ、ぅ……わぁ~」

 

 予測していなかったためか、私の視覚触覚からすると少し強めの日差しと風を受けて一瞬だけ目を瞑りましたが、再び開いた先にある光景を見て、私は思わず声を漏らしました。

 雲一つない真っ青な澄んだ空。風は時折吹くも柔らかく、冷たくない。そして太陽は温かな日差しで全てを照らすという、素敵な一日の始まりを感じさせる素敵な光景。

 

「ん、すぅ、すぅ。……ふわぁ!? いけませんよぅ~!」

 

 しかし、そんな光景を前にしても私は感動よりも先に瞼を閉じてしまい、またしても軽く寝かけてしまいました。

 完全に寝落ちしてしまう前に何とか持ち直したものの、やはり眠気はどうしても頭の片隅に残る感触を覚えてしまいます。

 

「あぁ……」

 

 空はこんなにも青いのに。風はこんなにも暖かいのに。太陽はとっても明るいのに。

 どうしてこんなに眠いのでしょう?

 

「んっ、んんっ……ふぅ」

 

 何とかこれ以上眠りに落ちないよう体を伸ばしながらも、私は頭の中で睡眠不足の原因を探ります。

 ですが、その原因はハナから分かり切っていることなのです。

 体が火照るのも、たくさんやることがあるのに頭がちっとも働かないのも、全ては団長様の……いえ、あの方のせいにしてはいけません。

 いつも眠い私が、眠れなくなるほどに、団長様のことを想い悩んでしまいます。

 全ての原因は私自身にあります。私が彼のことを好きで、団長様とキスをしたい、という思いをずっと引きずっているからでしょう。

 けれど、いつまでもそのことについて悩んでいてはいけません。

 優柔不断な私にさよならを。私、オジギソウは今ここで決め、そのことを宣言し、有言実行しようと思い立ちました。

 

「団長様と、き、き……キスをしますぅ~!」

 

 けれど、今までずっと思っていたことを口にして実行しようという恥ずかしいことをそう簡単に出来るはずもありません。

 尻すぼみになっていく宣言の後、私は自室にも関わらずいないはずの他の人を気にするように周囲を見回した後、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じ、そのまま意識を失いました。

 その後、用事があって部屋を訪ねてきた他の花騎士さんによると、私は立ったまま眠り続けていたそうです。

 体質とはいえ、感情が高ぶり過ぎた時、情報を処理しきれなくなる時に眠りに落ちてしまうのはよろしくありません。仮にそれが、寝不足であることを考慮しても、です。

 団長様とキスをするところを想像しただけでこうなってしまうのであれば、実際にキスをしてしまったら、私は一体全体どうなってしまうのでしょう?

 

 

 

 

「団長様……どこへ行ったのでしょう~、団長様」

 

 失った意識を戻し、起こしてくれた花騎士さんにお礼を言い、着替え、朝食を済ませた後、私はブロッサムヒルの街中を足取り重く歩きます。他の方から見たら、とぼとぼ歩いているように見えたでしょう。実際、とぼとぼ歩いていたのですが。

 自室とはいえ、一人であれだけ盛り上がっておきながら、肝心の団長様に会えないとは何ということでしょうか。

 というよりも、団長様のスケジュールを把握しておくべきでした。

 花騎士を統括する身分なのですから、団長様は常日頃から忙しいことは分かり切っていたことです。休日を共にするには彼にスケジュールを合わせるか、お願いして合わせてもらうかのどちらかになります。

 そして、後者については既に私の体質の一件でお世話になっています。つまりは、団長様のスケジュールに合わせて、こちらの日程を調整しなければならないのです。

 

「むぅ~……」

 

 しかし、互いのスケジュールを見比べた後だからこそ、私は小さく抗議の唸り声を上げずにはいられません。

 いくらなんでも、スケジュールが合わなさすぎです。

 これでは、えーっと、団長様と、その……何時まで経ってもキスが、出来ません。

 

「……はぅ!?」

 

 ゴニョゴニョと口ごもりながら考えていますと、頭の中で団長様とのキスのシミュレーションが勝手に行われ、その恥ずかしい妄想を前に私はまた意識を失いかけていることに気付き、慌ててその妄想を振り払います。

 

「うぅ、うぅ~……はっ!」

 

 自身の体質を恨めしく思いながら唸っているところで、私の頭には天啓とも呼ぶべき妙案が浮かび上がりました。

 団長様とスケジュールを合わせる必要はありません。何故ならば、彼が寝ている時を見計らって、キスをしてしまえば目的を果たすことが出来るからです。

 我ながら妙案です。幸いにも団長様の任務は今日一日だけであり、明日の朝には部屋で眠っていることでしょう。

 

「となると後は~」

 

 団長様とのキスのシミュレーションですが、これは問題ありません。散々夢の中で繰り返し、そして……その、クマのぬいぐるみさんとも練習を行いました。

 なので、団長様が寝ているのであれば、キスをすること自体は容易くできるでしょう。

 ……問題は、そこに至るまで私が逃げ出すことなく耐えられるか、ですが。

 

「……そういえば~」

 

 それとは別に、私の中で一つ疑問が思い浮かびました。

 

「キスって、どういう感触なのでしょうか~……どういった味がするのでしょう~?」

 

 今まで疑問に思わなかったことが不思議ではなりませんでしたが、キスをするという目的が果たせそうだからこそ、浮かび上がってきたと言えます。

 しかしながら、こればっかりは夢の中でも、ぬいぐるみとの練習でも分かりません。

 私の中では柔らかく甘いイメージがありますが、それはあくまでも想像上の話。いざ、団長様とのキスで硬かったり、酸っぱかったりしたら大変です。

 人よりも鋭敏な五感を持っている私だからこそ、その感触や味は他の人よりも強く感じてしまいます。訓練でもしない限り、すぐさま顔に出てしまうに違いありません。

 そして何よりも、キスの後に眠り続けていたとしても団長様に失礼です。

 

「こうしては、いられませんね~」

 

 団長様とのキスをする算段は整いました。ならば後は、団長様とのキスがどのような感触や味であったとしても動揺しない訓練をする必要がありそうでした。

 今は十時。丁度おやつの時間となり、ここはブロッサムヒルの街中。団長様とのキスの感触や味を予習するにはうってつけです。

 私は腕まくりをしながら、あくまでも団長様とのキスの為に、その足を繁華街の方へと向けて歩き出しました。

 

 

 

 

 口の中へ温かさと滑らかさを運んでくれるホットミルク。一口齧れば分かる程に甘く蕩けるチョコレート。冷たさと少し痛み、それらを癒すように後からやってくる上品な香りを運んでくれるバニラアイスクリーム。

 見た目も感触も、食感も硬いのに、食べれば口の中の水分と引き換えにジワリと甘さを運んでくれるクッキーに、様々な味と甘さを振りまいてくれるキャンディー。

 柔らかい生地を掴んで食べれば、柔らかふわふわのホイップクリームと旬の果物の味が調和して新しい味と食感を生み出すクレープに、最初から最後までふわふわ甘く柔らかいショートケーキ。

 眉を顰めるような渋い匂いと、それに違わぬ苦い味をしたコーヒーは砂糖とミルクを入れずにはいられません。こんなにも苦い飲み物を飲んでいる団長様はやはり凄い人だと思います。

 それから痺れるような痛みと、弾けるような刺激が口いっぱいに広がるレモンスカッシュなるものも試飲してみました。痺れと痛みの後にくる、清涼感のある爽やかな甘みの前に何とも言えない気持ちになる私に、店員さんが「それが初恋の味だよ」とどこか嬉しそうに言っておりました。

 

「……ふぅ」

 

 それらの感触や味を全て思い出し、覚え、頭の中で繰り返しながら、私は自室のベッドの上で仰向けになっていました。

 時刻は既に夜の七時を回っており、一日中食べ歩きをしていた私は夕食を控え、お腹と足を休ませながら明日に備えております。

 団長様は既に今日の任務を終え、このまま執務室で書類をまとめ、部屋に戻って休むはずです。

 私は明日の早朝にその部屋の前で団長様が寝ていることを確認し、それから部屋の中へとお邪魔をし、キスをします。感触も味も、今日の予習で覚悟は出来ています。

 ……もし、団長様とのキスが砂糖もミルクも入っていないコーヒーの味でしたら、ちょっと顔をしかめちゃうかも知れませんが。

 

「はぁ、ドキドキしてきました~」

 

 まだ明日にもなっていないのに、既に胸の動悸は高鳴り、少し呼吸が苦しくなります。けれど、これ以上睡眠不足になって、明日起きられないともなれば一大事です。この機を逃せば、次は団長様といつキスが出来るかも分かりません。

 だからこそ、いつもよりも更に早い時間に寝ようとしているのですが、明日のことを思うと緊張して中々寝られません。

 

「うぅ~」

 

 ベッドはこんなにも柔らかいのに。クマのぬいぐるみはこんなにも暖かいのに。お腹も膨れ、足も疲れているのに。

 どうしてこんなに眠れないのでしょう?

 寝たい時に眠れずに、寝てはいけない時に眠くなる。

 睡眠不足とは厄介なものだと、本当にそう思います。

 

「……むぅ!」

 

 けれども、私は寝なければなりません。何としても寝なければなりません。

 全ては団長様ともっと触れ合うために。団長様とキスをするために。

 夢の中だけではなく、妄想の中だけでなく、現実で彼とキスをするために。

 

「おやすみなさぁい~」

 

 私はクマのぬいぐるみを抱きしめ、頭の中でそのぬいぐるみを数えながら、明日のために半ば無理やり眠りに落ちるのでした。

 

 

 

 

 いつもよりも早く起きて、歩き回る城内は少し肌寒く感じる空気もあって、とても新鮮なものでした。

 しかし、目的の場所へと運ぶ足取りはいつもよりも重く感じ、また近づく度に逃げ出したくなる気持ちが募っていきます。

 けれども、気持ちで負けてはいけません。何故ならば既に私は団長様がいらっしゃる部屋の前まで来ており、中で彼が寝ているのかどうかの聞き耳を立てているからです。……逃げてはいけません。

 

「ん~……大丈夫、そうですね~」

 

 高鳴る胸の鼓動が、全身に響いていつものようには上手く聞き取れませんでしたが、団長様の呼吸音は寝息のそれに違いありません。そうであって欲しい、という願望がやや勝ったかもしれませんが、今が好機です。

 私は慎重に、且つ丁寧に、音がなるべく鳴らないように、そっと団長様が眠っている部屋の扉を開け、中へと入ります。

 そして、視界の端に映る、ベッドに横になって目を閉じている彼を見て、安堵します。

 

「おはようございます……。やはり聞こえていたとおりです、この呼吸は寝息でした~。団長様……、寝ている間に忍び込む私を許してください~」

 

 聞こえていないと分かっていても、一応挨拶と謝罪をしながら、私は眠っている団長様へと近づきます。

 彼との距離が縮まる度に、胸の鼓動は更に高鳴り、止まりません。

 それを誤魔化すためなのか、私は眠っている団長様へと話しかけます。

 

「あと少しだけ、起きないでくださいね~。すぐに……終わりますから……、すぐに……。緊張してきました~、心臓の音が大きく聞こえます~」

 

 これから団長様とキスをする。

 あれほど予習をし、そしてそのために早く寝たというのに、そう思うだけでどうしたらいいのか分からなくなってしまいます。

 

「ドキドキを止めないと……団長様の寝息の変化に気づけません~。どうしましょう、どうしましょう~……一旦、撤退した方がいいのでしょうか~……」

 

 今のところ、団長様に変化はない、と思います。寝息はともかく、目は瞑っておりますし、動く気配もありませんでした。

 故に、彼に気づかれずに部屋を後にするのは今しかありません。

 

「いえ、今日は目的を果たすまで、逃げないって決めました……。私……頑張って早起きしたんだから……」

 

 熱くなる頬を冷やすように両手であてて、私は今一度覚悟を決めます。

 全てはこの時のために。

 全てはこの想いのために。

 どうか、団長様とキスを。

 

 

 どうか貴方と口づけを。

 

 

 

 デートイベントに続く

 




団長、花騎士のオジギソウはいいぞ(断言)

これを見て好きになった人が増えたら幸いでございます


追記1 原作タグの誤りを修正しました
追記2 最初の方の地の文の乱れを訂正しました

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