リクエスト内容
・45か9
・ハッピーエンド
・45か9
・ハッピーエンド
「45姉が人間の店につれてってくれるなんて珍しいね」
半歩後ろを歩く9がそう呟く。そうかもしれない。あの日からというもの、私は人間の店にはあまり立ち入らないようにしていた。
でも、あの店だけは別だった。短い私の人生の中で、唯一輝いている思い出の場所。
「いらっしゃいませ」
森の匂いを感じる扉を押せば、初老の男性と女性が落ち着いた声で迎えのあいさつを告げる。あの時と変わらぬまま、その店は維持され続けていた。
「わ~!すごい雰囲気のいいお店!」
「9、はしゃがないの」
9は目をキラキラと輝かせながら、店内を見回す。壁にかかる味のある絵。カウンター上に飾られた著名人のサイン。そして店内を満たす木の匂い。あの時のなんら変わりのない店内だ。
「もしかして……これって天然木?」
9はカウンター席に座ると、机をコツコツと叩いた。適度な空洞が返す音は、プラスチックや金属とはまったく違っていた。
「ああ、この地域の東にはまだ天然木が自生している地域があるんだよ」
店の主人は立派な髭を撫でながらそう言った。9も興味津々に話に聞き入っている。
「9、先に注文をきめましょう?」
「あっそのほうがいいね。45姉はどうする?」
「私はこの日替わりセット」
前に来たときは、いちごののった甘いパンケーキだった。ともにでてきたコーヒーも素晴らしかった。思い出の中でも色褪せない味が、再び私の足をここに向けさせたと言っても過言ではない。
「じゃあ私はこのチーズのパンケーキと、それから45姉のと同じコーヒーで!」
店の主人は笑顔でうなずくと、フライパンにバターをのせた。
「それで、45姉はこの店をなんで知ってるの?」
「……私の過去は見たのよね」
「うん……」
うつむく9を見てため息が出そうになる。どうやら9は私の過去について、見たことで自責の念を感じているようだった。
「別に気にする必要はないわ」
開いた窓から外を眺めてみる。今日も大通りは人が多く、すこし騒がしくも感じる。しかし店内は、外から流れ込んでくる涼しい風で心地よい空間になっていた。
「40が……連れてきてくれた店なの」
「なるほど……」
なんとなく会話のしづらい空気を変えたのは、料理が置かれてからだった。
「すごい美味しそう!」
9ははしゃぎながら携帯端末で写真を撮っている。
「ほら、45姉も!」
9が笑って、カメラのレンズをこちらに向ける。
『ほら!45、笑って笑って!』
その笑顔が、まるで40のようで……
「……45姉?」
「えっああ、ごめん。少し考え事を」
「もー、せっかくのパンケーキが冷めちゃうよ」
9は既にナイフとフォークを持っている。まるで待てと命令された忠犬のようだった。
「じゃあ、食べましょうか」
私がフォークに手を触れた、その時だった。
「へえ、ここ?」
「うん、あたいイチオシのパンケーキ屋!」
何気ない会話だった。ここもある程度知名度のある店だ。他の客がいてもおかしくない。
しかし、その外から聞こえた声の片方は、聞き覚えがあった。忘れるはずもない、しかし、けっして聞けるはずのない声だった。
「K2もきっと気に入ってくれると思うよ!」
「からいのはあるかな!?」
「からいのは……、どうだったかなぁ……」
へへへっと苦笑いしながら、その声の主は店の扉を押した。
「45姉……アレって」
「何を言ってるの9。私の知る40はもういない。きっとアレは新造されたのよ」
「えっでも……、いやなんでもないよ」
9は逃げるように、パンケーキを食べる手を早めた。私は今、どんな酷い表情を浮かべているというのだろうか。
私もパンケーキを食べる手を早める。一刻も早く、後ろのテーブル席で楽しそうに談笑する彼女の声から遠ざかりたかった。
パンケーキを流し込むように、コーヒーを飲み切る。カップをソーサーに置くと、カチャンと小さな音がした。
しかしその小さな音は、なぜか静まり返っていた店内では大きく響いた。
「……45?あんたもしかして45?」
背中側から聞こえる声も、もちろん静かな店内では鮮明に聞こえた。
404の私をUMP45であると認識してくれる戦術人形UMP40は、この世界に一人しかいない。
感想・評価・批評、お待ちしてます