黒崎君は助けてくれない。 続   作:たけぽん

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3. 黒崎君の休日

それから2日後。今日は国が決めた立派な祝日であり、天気予報では気温も安定し、天気も一日中晴れだと禿げたリポーターが言っていた。その予報通り空は澄んでおり、母も洗濯物を意気揚々とベランダに吊るしていた。

そんな祝日、本来なら昼ごろに起き、のんびりと読書でもするところなのだが、俺は駅前の大きなショッピングモール『ジャスト』の入り口で佇んでいた。

その理由は言わずもがな、神崎の『デートしてほしい』という意味不明な言葉が発端であり、俺がここに佇んでいるのはその神崎を待っているからである。

まあ、デートというのは恋人がするような甘いものを指しているのではなくて、俺にゲーム部の話を聞かせるための誘い文句でしかない。当然俺は断る気満々でいたのだが、最初に安城に「話だけ聞く」と言ってしまったことと、その安城が必死に頭を下げてきたことが、俺から撤退の選択肢を消してしまったのだ。

 

「俺、将来は社畜になれそうだな……」

「先輩の性格だと残業めっちゃしそうですよね」

「そうそ……ってお前いつから後ろに居たんだよ。まじでビビったわ」

 

いきなり後ろから聞こえた声に振り向いた俺の言葉に神崎亜美はただにっこりと笑うだけだった。

 

「先輩、そんなに後ろが無防備だとうしろから女の子に抱きつかれちゃいますよ。あ、でもお姉ちゃんだったらむしろご褒美ですかね?」

「誰であろうと勝手に後ろから抱きついてきたら即通報だ」

「相変わらずノリ悪いですね。クラスでボッチなのも頷けます」

「何言ってんだお前、俺がクラスで一人なのはノリが良い悪いの問題じゃない。そもそも誰も話しかけてこないからだ」

「こんなに悲しい自慢、私初めて聞きましたよ」

 

これ以上この話題を続けても俺の祝日が無駄に削れるだけだ。そう思い俺は自動ドアの前に立つ。すぐにセンサーは俺を認識してくれたらしく、ドアが開かれる。センサー優しいな。クラスの奴らなんて都合のいい時しか認識してくれないのに。

 

「ほら、さっさと行くぞ。そして4時には帰る」

「待ち合わせてそうそう帰宅時刻の宣言って、先輩女の子と出かけたことないんですか?」

「今出かけてんだろ」

「うわー、屁理屈ですね」

「やかましい。ほら、行くぞ」

 

入口付近でうだうだしてても悪目立ちするだけなので俺はさっさと店内へと踏みいる。神崎もそれ以上は何も言わず隣をついてくる。

 

「そんで、どこ行くんだよ」

「丸投げですか、デートなのに」

「何もないんだな。じゃあ帰る」

「ちょっと待ってくださいよ!あります、行くところありますって!」

 

神崎は必死に俺の腕をつかみ引き留めようとする。それと同時に周囲の客もざわめきだす。もしかして男女の別れ話の最中だとでも思われたのだろうか。なんか売り場の店員もちらちら見てるし、出禁になる前に騒ぐのをやめるべきだろう。

 

「……はいはい。それじゃあ、どこ行くんだ?」

「こっちですこっち!」

 

神崎は俺の腕を掴んだままずんずんと進んで行く。こういう強引なところはたしかに安城のいとこだと言われれば納得できる部分だ。

そして、連れてこられたのはモールの2階にあるゲームコーナーだった。設置されているゲームの数はそれほど多くは無いが、それでも結構大きな音が混ざりあいいかにもゲームコーナーといった感じだ。祝日なだけあって親子連れや学生カップルも多いように見える。

 

「で、なんでゲームコーナー?」

「ゲーム部の事を知ってもらうにはゲームが一番じゃないですか」

「いや、別にゲームせんでも話だけしてくれればいいんだけど」

「おやおや?先輩逃げるんですか?」

「そんな挑発に乗るほど陽キャじゃなくてな」

「陽キャが短気、みたいな差別的発言に聞こえますけど、確かに黒崎先輩は乗らないですよね……」

「それじゃ、適当にフードコートにでも……」

「まった!それじゃあ先輩がゲームしてくれたらお姉ちゃんの可愛い写真をあげます!」

 

安城の可愛い写真?それは一体どういうものだろうか。何か特別な衣装を着ているのか、それとも今とは違う髪型だったりするのだろうか。

 

「あ、先輩揺れてますね?」

「そ、そんなことはない」

 

図星をつかれてつい言葉が詰まってしまった。

 

「いいのかな~。せっかく露出多めなのにな~」

 

正直にいって写真に興味がないわけではない。だが、ここで小一時間ゲームをしたところで神崎からゲーム部の話を聞くと言う今日の目的は何ら果たせない。

だが、向こうがゲームに対して対価を払うつもりがあると言う事は負ける気は無いと言う事だろう。それなら、ひとつ俺にもこの話しに乗る意味がある。

 

「わかった。付き合ってやる。その代わり、俺が勝ったら安城の話禁止な」

「あれ、写真じゃなくていいんですか?」

「お前にしつこく安城関連の話をされるよりましだ」

「写真に興味がない、とは言わないんですね」

「……」

「わかりましたよ。その条件でいいです。だからそんな怖い顔しないでくださいよ」

 

よし。後は勝負に勝てば神崎の俺に対する交渉の札を一枚減らせる。安城を盾に無理やりにでも俺をうなずかせようとされたらたまったもんじゃないからな。

 

「それで、何のゲームをするんだ?」

「あれです」

 

神崎の指し示す方にあったのは最近携帯版がリリースされた大人気ゲーム『ソード・エレメント』のゲーム台だった。俺の記憶が正しければ中学時代に矢作恭子とプレイしたゲームの中にこれもあったはずだ。その名の通り、属性の違うソードを3本選択し、キャラクターを選んでそれらを用いた勝ち抜き戦を行うゲーム。ソードの属性には相性があり、例えば炎属性のソードは水属性が弱点で攻撃を喰らうとHPが通常の2倍削られる。それゆえ相手の使うソードの属性を予想しながらソードを選び、上手く使い分けて行くことが重要となる。なんだかソードのゲシュタルトが崩壊してきたな。

 

「ほらほら、先輩はやく」

 

いつの間にかゲーム台の前の椅子に座り小銭を投入している神崎にせかされながら俺も向かいの台につく。

小銭入れから100円玉を取り出し台に投入、起動するまでの間感触を確かめるようにボタンを適当に押す。

 

「なんか、手なれてますね、先輩」

 

そういえば、こいつの知っている俺の情報は安城から聞いたものだ。それなら、中学時代の俺の情報はほとんどないと言える。つまり、恭子とゲーセンに入り浸っていた俺について、神崎にはデータがない。

 

「そう見えるか?」

 

だから、無駄に情報を与えないためにも当たり障りのない返答をする。

 

「まあ、私の気のせいかもしれないですね。じゃあ、ゲーム始めちゃいましょうか」

「あいよ」

 

ようやく起動したゲーム台を操作し、対戦モードに設定する。次に出てくるのはキャラ選択の画面。このゲームでは4種類のキャラが存在し、それぞれが得意とする属性のソードが異なる。俺は一通り使ったことがあるので、一番使いやすいバランス型のキャラクターである『ライア』を選択……しようとしたが、画面を見て手を止めた。

 

「なんだこいつ」

 

俺の記憶では確かに選択できるキャラは4種類だった。だが、画面にはキャラが5種類表示されている。どうやら俺の知らない間にアップデートが入ったらしく、『ジャーロン』という見たことも聞いたこともないキャラが表示されていた。

 

「先輩、決まりましたかー」

「あ、ああ。今決める」

 

取りあえず、ジャーロンは置いといて最初に選ぼうとしたライアを選択し、ソードの選択に移る。

このゲームのソード属性は5つ。炎、水、雷、土、風。俺の選択したライアはどのソードも苦手とせず、また得意ともしない。なのでこれまた使い慣れた炎、雷、風を選択する。

 

「決まったぞ」

「私も決まりました~」

 

神崎の応答を確認し、対戦開始のボタンを押す。

すぐに横スクロールの画面にキャラクターが表示される。俺の選んだライアは炎属性のソードを持って画面の右側に立っている。

そして、神崎のキャラは……

 

「ジャーロン」

「カッコイイでしょ。私の推しです」

 

そのジャーロンのソードの属性はどうやら雷らしい。この時点で属性相性による有利不利は無し。つまりはキャラの性能とプレイヤースキルによる戦いだ。

 

「それじゃあ、準備いいですか?」

「問題ない」

「それじゃあ、試合開始~」

 

神崎のゆるい掛け声と共に対戦がスタートする。このゲームのルールはターン制のコマンドバトル。両者がソードごとに振り分けられた技を選択し発動。先に相手のHPをゼロにすれば勝ちとなる。

 

「さて、どうするか……」

 

俺は1ターン目のライアの行動を考える。炎属性のソードの技の選択肢は4つ。そのうちの3つが攻撃技で、もう一つがサポート技だ。

まあ、定石通り初手から攻撃安定だろう。俺はコマンドを入力し、決定ボタンを押す。

すぐに神崎も入力したらしく、1ターン目が始まった。

 

『ライアのファイアジェットスラッシュ!』

 

俺の選択した技は8割の確率で先制攻撃の出来る技。威力は小さいがこのゲームにおいてダメージレースの先行は重要な要素だ。

 

『ジャーロンのエナジーチャージ!』

 

神崎のキャラは最初からサポート技を使用。たしかあれは自身の攻撃値を1、5倍にする技だ。しかもこの効果はソードを変えても引き継がれる。

とはいえ、その戦法は他のキャラでも出来ないことは無い。どうやらこのジャーロンと言うキャラも既存キャラと使える技は似たり寄ったりらしい。

 

『ライアのバーニングブレイド!』

 

2ターン目。俺の攻撃で既にジャーロンのHPは半分を下回る。

 

『ジャーロンのエナジーチャージ!』

 

2ターン続けてのエナジーチャージ!か……。攻撃値を最大にされる前に倒すのが無難だな。

 

『ライアのバーニングブレイド!』

『ジャーロンのエナジーチャージ!』

 

おい、なんだこいつ。受験期の学生のごとくエナジーチャージしてるんだが。もうHPはレッドゾーンだぞ。

 

『ライアのファイアジェットスラッシュ!』

『ジャーロンのソードは砕け散った!』

 

呆気なく一本目を先取。なんだこれ、恭子とやった時よりワンサイドなんだけど。

 

それから次に出てきたソードは土属性で、相性は普通。俺が攻撃を繰り出すのに対し神崎はエナジーチャージを繰り返し、2本目も俺の勝ち。

 

「おい、お前勝つ気あるのか?」

「もちろん!」

 

こいつ、ひょっとしてゲーム下手か?部室に他に誰もいなかったのはそのせいなのだろうか。

考えても仕方ない。次のソードを倒してさっさと終わらせてしまおう。

 

 

『ライアのバーニングブレイド!』

 

これでジャーロンのHPは風前の灯。後一撃で勝負は決まる。

 

「呆気なかったな……」

「ふ、ふふ……」

「ん?」

 

急に笑いをこぼす神崎。一体どうしたんだ?

 

「先輩今、『勝てる』と思いましたね?」

「は?」

「でも残念。この勝負は私の勝ちです!お楽しみはこれからですよ!」

「……?」

 

この状況で神崎が勝つには俺の1本目のソードを破壊し残る2本をノーダメージで破壊することが必須条件だ。いくらエナジーチャージしてるといってもそれは流石に無理なはず。

 

「見せてあげますよ!私の、『クリティカルソードスキル』を!」

「クリティカルソードスキル?」

「自分のソードが残り一本で、HPが半分以下の時、このスキルは発動できる!」

 

おい、なんだこのカードゲームアニメみたいな口上は。

 

『ジャーロンのクリティカルソードスキル、バニッシュブレード!』

 

「は?え?」

 

その一撃でライアのHPはぐんぐんと減っていく。そしてそのままゼロに。まあ、エナジーチャージ連打してたし、これくらいはあるか。

でも、次の俺のターンで……。

 

「次のターンなんてありませんよ!バニッシュブレードのエクストラエフェクト!この技で相手のソードを一撃で破壊した時、私はゲームに勝利する!」

「……はい?」

「ゲームに勝利する!」

「いや、ちょっと何言ってるか……」

 

『ライアは目の前が真っ白になった!』

 

俺が状況を理解する前に画面には敗北を告げる表示。そしてタイトル画面へと戻ってしまう。

 

「どういう……ことだ」

「だから、クリティカルソードスキルですって」

「なんだそれ」

「この間、携帯版がリリースされたじゃないですか。この技はその新要素です。ちなみに、今のところジャーロンしか使えません」

「なんだそれ、クソゲーじゃねえか……」

「先輩ったら自信満々だったのにライアを選択するから、正直笑いこらえるのに必死でしたよ」

 

なんだこいつ、めちゃくちゃうざい……。

 

「まあでも、情報アドの差があったとはいえ、先輩のプレイング自体は文句なしです」

「そりゃどうも」

「ここで先輩に一つ提案があります」

「提案?」

 

そこで、俺は猛烈なデジャヴを感じた。あれはたしか、今年の4月の出来事。こんな風に何かを成し遂げた後に続く言葉は……。

 

「ゲーム部に入りませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

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