黒崎君は助けてくれない。 続   作:たけぽん

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5. 黒崎君の決断

屋上を後にした俺がやってきたのは1年生の教室。目的は当然神崎に会うためだ。越前から内情を聞きはしたが、やはり本人からしっかり話を聞くべきだろう。そのうえで答えを出す。

 

「すみませーん」

 

なるべく明るい口調で一年B組の教室の扉を開き、教室内を見渡す。

 

すぐに教室内の視線は俺に集まる。

 

「おい、あれって黒崎先輩だよな?」

「だれ?それ」

「ほら、体育祭実行委員会でひと悶着起こしたっていう」

「あーその黒崎先輩ね」

 

などという声もちらほら聞こえるが、それらは敢えて無視して俺はドアの一番近くに座っていた男子生徒に声をかける。

 

「神崎……さんいる?」

「神崎なら、さっき教室でてきましたよ」

「あ、そうなんだ。……行き先とか分かる?」

「さあ……」

「そっか。ありがとう。神崎が戻ってきたら俺が探してたって言っておいて」

「あ、はい」

 

男子生徒に軽く会釈し、教室を後にする。

さて、神崎を探すにはどうしたらいいのやら……。

 

 

 

「だから~、もう一回戻ってきてほしいんですよ~」

 

俺の歩く先、すなわち一階に下りる階段の方から聞こえるその声は紛れもなく神崎のものだった。少し小走り気味に階段へ向かうと、踊り場に神崎の姿はあった。

そして、その向かいには上履きの色からして3年生と思われる男子3人の姿があった。

 

「断る。僕たちはお前みたいなガチ厨と一緒にゲームは出来ない」

 

そのうちの一人、メガネをかけた生徒が神崎の言葉に拒絶を示す。

 

「で、でも、このままじゃゲーム部は廃部に……」

「知るかそんなこと。どの道僕たちは今年で卒業なんだ。もうゲーム部が無くなってもどうでもいいよ」

「そ、そんな……」

「そもそも被害者はこっちなんだ。お前のせいでゲームを嫌いになって引退した奴もいるんだぞ。それなのに今更戻ってこいだって?自分勝手にも程があるだろ!」

「それは……そうですけど……でも!」

「だいたい、お前みたいなやつならゲームする場所なんて他にいくらでもあるだろ!話は終わりだ、もう僕たちに関わらないでくれ!」

 

3年生たちはそう言い残すとそのまま階段を上がり俺の横を通り過ぎる。当然それを眼で追っていた神崎の視界には俺の姿が映っているだろう。だから、俺はゆっくりと階段を降り、神崎の向かいに立つ。一方の神崎は無言で俯いている。

 

「その、平気か?」

「あれだけ罵声浴びせられて、平気だと思いますか」

「そうだな、悪い。愚問だった」

「恥ずかしいところ見せちゃいましたね」

「さっきの奴らが、元ゲーム部のメンバーか?」

「一応、書類上は今もメンバーです」

「そうか」

「馬鹿みたいですよね、自分の勝手で人を傷つけて、それなのにその人たちにまたゲームやろうなんて」

「お前さ、なんでゲーム部にこだわるんだ?」

 

さっき男子生徒が言っていたように神崎の実力があれば他にいくらでも真剣勝負の場はある。それこそ大会にでるとか。

 

「私は……一人だったから」

「一人?」

「私は小学生の時、初めてゲームをやりました。普通ならそのゲームをやって友達と遊ぶんでしょうけど、私は違いました」

「……」

「周りが『楽しさ』を求める中私は『勝ち』を求めました。周囲の人が1カ月くらいかけてクリアするゲームを私は1日や2日でクリアしました。でも、それをほめてくれる人はいませんでした。私にとっては全てでも、他の人にとってみれば生活の中にある娯楽のうちの一つにすぎなかったから」

 

確かに、俺もゲーセンに入り浸りはしたがそれを人生のすべてだとは思わなかった。でも、神崎は違う。彼女にとってゲームは生きる意味で、だからこそ極め、全国大会でも通用するレベルに達した。でも、その過程で彼女は大切なものを失ってしまった。それは、ゲームを『楽しむ』こととそれを共有できる『友達』だ。ゲームというのは相手がいて初めて成立する。周囲の人間がそれを得ている間、神崎は既に『勝負』の世界で生きていた。当然、対する相手はみな『敵』だ。

それ故に彼女は一人になってしまった。もう周囲には彼女の器を満たせるほどの相手がいなかったのだ。

 

「でも、部活なら、私でも楽しくゲームができるかもって……。でも、やっぱり私には『勝つため』のゲームしか無くて、ついゲーム部の先輩方と口論になってしまって……」

「そっか」

「そっかって……真面目に聞いてくださいよ」

「聞いてるよ」

「嘘つかないでください……じゃあ、私はどうしたらいいと思いますか!聞いてたなら答えてくださいよ!」

 

俺や雪里は確かに居場所を失いかけた。それはとても辛くて、悲しかった。でも、神崎は最初から一人だった。失う居場所さえ彼女には無かったのだ。でも彼女は居場所を求めている。その点はあの時の俺たちと同じ。なら……。

 

「わかった。もういい」

「何が良いんですか……!」

「お前の依頼を受ける。ゲーム部を存続させる。そしてお前の居場所を作る」

「え……?」

「二度は言わないからな」

「黒崎先輩……」

「取りあえずあんまり悠長にはしてられない。部活動縮小案の提出は来週頭。生徒会側に根回ししてもせいぜい水曜に伸ばすのが限度だ。となると早急に対策を立てるべきだ。お前、今日の放課後空いてるか?」

「は、はい。空いてます!」

「よし、それじゃあ放課後正門の前で待ち合わせな。一応言っとくがあの3年生たちにはあまり干渉するな。どう転んでもお前の味方にはなりそうにないからな」

「わかりました……。それじゃあ、よろしくお願いします、黒崎先輩!」

 

 

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