黒崎君は助けてくれない。 続   作:たけぽん

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7. 黒崎君と繋がり

 

時刻は8時を回った。俺は駅前の古本屋、「ジャンク堂」で有名とはほど遠いであろう推理小説を立ち読みしていた。有名ではないのはやはり理由があり、この作品、トリックも事件の解決法も強引過ぎるのだ。最後の10ページくらいなんて犯人と探偵のリアルファイトで埋まってるし。

まあ、別に面白い推理小説を探しに来たわけじゃない。ここに来たのはただ時間をつぶしたかったからなのだから。

 

「来たか……」

「どうも」

 

俺の隣に立ち、何となく本棚を眺めるのは、先ほどベアトリーチェで別れた木場だった。

 

「なんかおススメあります?」

「いや、残念ながらこの棚はハズレらしい」

「そうですか」

 

雑な会話をしながら木場は俺が読んでいた小説と同じ作者の小説を手に取り、ぱらぱらとめくりだす。

 

「あいつら、怒ってた?」

「そりゃまあ。とくに神崎さん……でしたっけ。彼女は駅前で別れるまでずっと文句言ってました」

「だろうな」

「雪里さんとかは君の考えに気付いてたかもしれないですけどね」

「そうか」

「いいんですか?彼女たちに言わなくて」

「言ったら問題だから言ってないんだよ」

「でしょうね」

 

そこで俺は本を閉じ、棚に戻す。木場も同様に。

 

「それじゃあ、場所を移して始めますか」

「悪いな、面倒事に巻き込んで」

「構いませんよ。黒崎君には体育祭実行委員会の時の借りがありますし、それに……」

 

木場は少し間をおいて再び口を開く。

 

「君と組むのも、結構楽しいですから」

「……そうか」

 

俺たちはジャンク堂を後にし、これまた駅前のネットカフェへと移動する。ここならパソコンもあるし、何より集中できる。その二つの条件さえそろっていれば一晩徹夜するくらいは訳ないだろう。

カウンターで個室の利用を告げて鍵をもらい、階段を昇り、狭い廊下を進んで部屋に入る。

部屋の中にあるのはデスクトップパソコンとタオルケットが数枚、そして飲み物などのメニュー表くらいだ。

 

「それじゃあ、始めるか」

「そうですね」

 

俺たちは腕まくりをして、パソコンを起動した。

 

 

***

 

そして金土日と時間は過ぎ去り、月曜日の授業もこれまたあっという間に過ぎ去り、放課後がやってきた。いつもなら真っ先に帰宅するところだが、今日の俺は違った。

放課後すぐに俺が向かったのは職員室の隣にある大会議室。普段なら職員会議に使われるこの部屋にはコの字に配置された長机と、その前方にホワイトボードが設置されている。そして今現在、長机には赤羽高校の教師陣が、ホワイトボードの前には俺が神妙な顔で着いている。

 

「まったく、なんで我々がこんな茶番に……」

「バスケ部キャプテンの越前君から大事な話があると聞いて来てみれば、誰だいあの生徒は?」

「私たちも仕事があるんですけどねえ」

 

まあ、当然のことながら教師陣は不満たらたらな様子だ。それでも、越前がなんとか作ってくれた場だ。無駄にするわけにはいかない。

俺の後ろにあるホワイトボードには持参したノートパソコンの画面がプロジェクターによって映し出されている。そのパワーポイントの1ページ目には明朝体で『赤羽高校ゲーム部 文化祭企画』と表示されており、教師陣はその画面を見たり、隣同士で雑談をしたりしている。

時計が4時半を指したところで俺は大きく息を吸い込む。

 

「それでは、これから赤羽高校ゲーム部、文化祭企画についてご提案させていただきます。まずは、本日は貴重なお時間を割いていただき心から感謝しています」

 

深々と頭を下げる俺に対し、教師陣は少し真面目な雰囲気になる。

 

「まずは、本企画のコンセプトからお話ししていきたいと思います。スライドをご覧ください」

 

俺はパワーポイントを次のページへ切り替え、ポインターで照らす。

 

「本企画のコンセプトといたしましては、2つあります。1つ目はゲーム部の規模の拡大及びPR、2つ目は赤羽高校文化祭での集客による本校の繁栄です」

 

俺は再びスライドを切りかえる。

 

「まずは、コンセプトその1からご説明します。お手元の資料をご覧いただけばお分かりいただけると思いますが、赤羽高校ゲーム部の部員は現在10人。先週先生方から提示された部活動縮小計画の選定基準をギリギリ満たす程度です」

 

ここであえてゲームにとってマイナスな情報を伝えるのは、それ自体がプレゼンの一番の障害になるからだ。ならば最初に伝えることで、こちらもそれを理解したうえで企画しているという意志を見せることに繋がる。

 

「ですが、小規模ながらも部員たちは日々部活動に意欲的に取り組んでおり、部員の中にはゲームの全国大会で上位入賞するほどの実力を持つ者もいます」

 

 

全国大会、と言う言葉に反応したのは一番奥に座る校長と教頭だった。『ほほう』と言いながら興味深そうに俺の言葉を待っている。

 

「しつこくなってしまいますが、ゲーム部が抱える一番の問題は部員の少なさです。本企画ではその解決が目的の一端となっています。また、昨今ではスマートフォンやパソコンの普及に伴い、ゲームというコンテンツがかなり身近な存在となっております。赤羽高校に限らず、現代の高校生の中にはゲームを好む生徒が一定数います」

 

そこで俺はスライドを切りかえる。表示されたのは一つの円グラフ。

 

「こちらのグラフは、とあるゲーム会社のサイトから引用したもので、全国から無作為に選ばれた高校生300人対して行われた『ゲームをやったことがあるか』という問いの統計です。御覧の通り役9割が『ゲームをやったことがある』と答えています」

「そりゃあ、やったことぐらいはあるだろうに」

「そのデータだけじゃなあ……」

 

教師陣からそんな声がちらほらと出る。よし、予想通りの反応だ。

 

「では次のグラフ。これも同じゲーム会社が同じ高校生にとった統計で、質問内容は『最近ゲームを買った、または課金等をしたことがあるか』というものです。これに対し、回答は8割が『買った、課金等をした』 と出ています。先ほどのグラフと比べてもその差は微々たるもので、ほとんどの解答者が現在もゲームをしていることがお分かりいただけると思います」

 

そこで再び教師陣はぶつぶつ言いだす。

 

「そして最後のグラフ。これは全国の小学生以上高校生以下の子どもがいる母親300人に対して行われた調査で質問内容は『子どもにゲームをやってほしいか』というものです。そして結果は7割強が『やってほしくない』 と回答しています」

「ほらやっぱり」

「ゲームが役に立つ場面もないですしね」

 

またもや否定的な発言が出る。

 

「この3つのグラフ、これらの結果を踏まえてみると、子どもたちは『ゲームをやりたい・やっている』。しかし親御さんたちは『ゲームをさせたくない』と思っていることがわかります。逆に言えば、2つ目のグラフの残り2割の中には『世間体』を気にしてゲームを避けている子どもがいると考えることができるのではないでしょうか」

 

俺は小さく息を吸い、言葉を続ける。

 

「つまり、両親、またはそれに近い周囲の大人達に遠慮して、やりたくてもゲームができていない子どもがいると考えることもできます。それは、活動内容的に本来なら人気が出るであろうゲーム部の部員が少ないことからも十分に考えられるのではないでしょうか」

「ちょっとまちたまえ、君は我々のせいで生徒がゲームをできていない、と言いたいのか?」

 

メガネをかけた中年教師が異議を唱えてくる。

 

「まあ、私個人といたしましては、そういった可能性も考えられるかと?」

「大人をからかうのはやめなさい!ゲームをしていないと答えた2割の高校生はただ真面目に勉強をしているだけだ!」

「そういう意味でも私はこの企画は有意義であると考えています」

「は、はあ!?」

 

俺は咳払いを一つして、再びスライドをいじる。

 

「それでは、今の話を踏まえてコンセプト2の説明をしていきたいと思います」

「2つ目は赤羽高校文化祭での集客による本校の繁栄、だったな」

 

俺の視界の隅の席に座る生徒会顧問の結城先生が独り言のように呟く。

 

「はい。昨今ではゲームはエレクトロニックスポーツ、すなわちEスポーツという競技形式で世界規模で盛り上がりを見せています。スライドには載せていませんが、お手元の資料にはEスポーツの概要を載せていますので詳しくはそちらをご覧ください」

 

少し口が渇いてきたが、水分補給なんぞでテンポを崩されるのも癪なので俺は我慢して口を開く。

 

「コンセプト2はこのEスポーツという観点から、それを文化祭イベントという形で応用しようというものです」

 

そこで俺は一呼吸置く。ここからが重要なポイントだ。

 

「赤羽高校文化祭は毎年かなりの集客を得ていることは私も去年経験しました。そしてその中には当然中学生、もっと言えば進路に悩む中学生も含まれています。で、あるのなら、ゲーム部の存在をPRする本企画があれば、来年以降の本校を受験する生徒の数も飛躍的に増えることが見込まれます」

 

俺の提案に、教師陣がさっきとは違う雰囲気でざわめく。俺の言っていることは、要約してしまえば『新入生が増えればお前らも食いっぱぐれることは無いだろ?だから承諾しろ』という生意気すぎる内容だが、それっぽい話の組み立てと、さっきのグラフデータの流れが教師陣をほんの少し肯定的な方向へ向かわせている。

 

「だ、だが!今現在知名度も部員数もほぼない君たちが行うイベントがそれほどの集客効果を生むとは思えないね!」

「それが生めるんですよ。しかも、わが校のゲーム部ならではの集客効果が」

「な、なにい?」

「お手元の資料を今一度ご覧ください。8ページ目には先程いったゲームの全国大会についついて取り上げた中高生向けの雑誌の記事のコピーが載っています」

 

教師陣は急いでページをめくりだす。

 

 

「この大会は2年前の6月に東京で行われた『ファイヤー・ファイター』という対戦ゲームの全国大会です。当時このゲームは大流行していて、私もプレイしていました。そして、その大会のベスト4に名前が載っている神崎亜美は、赤羽高校1年B組の生徒で、ゲーム部の部員です」

 

 

教師陣はひたすら雑誌のコピー記事を目で追っている。

 

「しかもこの大会の実況動画は人気動画投稿サイトにアップされており、再生回数は20万を超えています。つまり、当時少しでもゲームをやっていた人たちにとっては神崎亜美はとてつもない知名度があります。そして、本企画はその神崎亜美にゲームで挑戦するという形を予定しています」

「なるほど、それは確かに人は集まるだろうな」

 

結城先生の言葉に、校長と教頭も顎を手のひらで撫でながら頷く。

 

「いいんじゃないですか。やっぱり生徒の自主性こそが赤羽のモットーですし」

「そうですねえ。確かにわれわれ年寄りはゲームと聞くとつい否定的に見てしまいますが、彼のプレゼンはそういった点も加味して組みたてられている。それに、文化祭もだんだんマンネリ化してますしねえ」

「ちょ、ちょっと待ってください校長、教頭!たしかに彼の言い分も少しは分かりますが、もしそれが失敗し、何の効果も生まなかったらどうするんですか!」

 

中年教師の言葉に再びざわめきが起きる。正直ここまでやって反応がどっちつかずだとは予想していなかった。校長教頭は肯定的ではあるが、さすがにあの二人だって他の教師に無理に承諾させる権利はないだろう。

一応、切り返すための文言はある。そのために伏線も張った。だが、それは否定の意志が全体にある場合にしか使えない。肯定と否定が入り混じったこの状況で言っても、微妙な反応になるだろう。

 

 

「そうだな、仮に失敗したとなれば我々教師陣としては面目丸つぶれだ」

 

そのざわめきの中、結城先生が口を開いた。

 

「校長たちは肯定的だが、私は甚だ疑問だよ。はたしてゲーム部の企画は成功するのかとね。正直5分5分ってところだが、我々も5分で了承するのはリスキーだ。それとも、失敗しても『何度も』やればいいと、そんな都合のいいことを考えているのか?」

「そ、そうですよ結城先生!失敗した上に何度もされたりしたら我々も責任が取れませんし!」

 

中年教師の言葉に、結城先生の口角が少し上がったように見えた。その意味を瞬時に理解するのは困難を極めたが、俺は大脳を必死に働かせ、その意図を読みとることに成功した。

 

「そうですね、何度もは出来ないでしょうね……ですが……」

「ですが?」

「『一回』やってみる意義はあると私は考えています」

 

俺の言葉の意味を理解できた者はこの場に何人いるだろうか、それでも、校長と教頭、そして結城先生だけは小さく笑みを浮かべていた。

 

「先ほどのお言葉通り、周囲の大人たちが子どものゲームの妨げになっていると言うのは私個人の考えでしかありません。ただ、そうじゃないと言い切れる材料も先生方には無い。なら、試してみるべきではないでしょうか?」

「試すとは、具体的にどういうことだ、黒崎」

「はい。先ほど出したグラフデータにもあったとおり、昨今の学生はゲームをプレイしている。それはもしかしたら勉強の妨げなのかもしれないし、もしかしたらEスポーツという分野への新たな可能性であり、赤羽に進学したいと思う中学生を増やせるキーなのかもしれない。なら、それをはっきりさせるいい機会なのではないかと私は思うんです」

「なるほどな、確かに今まで赤羽高校がそういった取り組みをしたことは無い。それを試してみるのは悪くない案だ。一回試して効果がなければ来年度からはやらなければいいのだから」

 

結城先生の言葉に他の教師たちも少しずつ賛同の声をあげる。

 

「い、いやしかし!一回やるにしてもそれに関する費用は我々が負担することに――」

「費用は要りません」

「な、何を言ってるんだ君は?費用も無しに君の言った文化祭企画の実行なんて不可能じゃないか!」

「まあ、これが飲食店をやる、とか演劇をやる、とかならそうでしょうけど。ゲーム部には既に有り余るほどのゲームが置いてあります。ゲーム機も同様に。必要なのはせいぜい私が今お借りしているプロジェクターぐらいですね」

「だが、場所はどうするんだ場所は!君が言うように相当の集客が見込めるとしたら教室一個程度では収まりきらないんじゃないか!?」

「場所なら、既に考えている場所があります」

「な、なにい!?」

「屋上ですよ。先日屋上に毎日訪れているという生徒に話を聞きましたが、赤羽高校の屋上はほとんど人気がなく、昼休みでさえ、わざわざ昇ってくる生徒はいない。仮に他の部やクラスが企画をやるとしても、物を運ぶ手間や、天候によっては準備そのものができなくなるリスクがある屋上を選ぶことは無いはず。ですが、ゲーム部は違う。機材の準備も、会場の設置も、そのすべてが前日の一日で完了します。なぜなら、準備するのはゲームだけだからです」

 

中年教師は尚も何か言いたげだ。だが、それよりも先に口を開いたのは校長だった。

 

「なるほど、確かに屋上を企画に使おうとする申し出は今現在出ていない。それに過去の文化祭でも屋上を使った団体もない。なにせわが校は屋上以外にも場所がたくさんありますからねえ」

「少子化社会ですからねえ、私たちとしても赤羽高校を志望する生徒が増えるのは喜ばしいことです」

 

教頭も校長の発言に頷く。

 

「ですがねえ、えっと……」

 

校長は俺に対し何か言おうとするが、どうやら俺の名前が出てこないらしい。

 

「黒崎です」

「ああ、黒崎君。部活動というのは本来余暇活動であり、それ自体が勉学の妨げになってはいけない。仮に運動部や芸術系の部活ならば教養や経験、それらが勉学の糧となる。では、ゲーム部の……というよりはゲームが勉学にもたらす恩恵とはなにかね?」

「それは……」

 

その問いに俺の言葉は詰まってしまう。そうだ、確かに部活は余暇活動であり、学生の本分は勉強だ。で、あるならば校長の疑問は最もだ。

大学生や社会人の団体であるならEスポーツだとか、帰属する集団の利益だとかで話は通るかもしれない。だが、校長が聞いているのは学業への恩恵。

正直なところを言えば、答えがないわけじゃない。だが、俺がいくら言葉を労しても、それらしい理論を並べても。それは詭弁としか思われない。なぜなら、俺自身がゲームというジャンルの本質を知らないから。

例えば、サッカーに全く興味のない人間に、『サッカーが○○に与える恩恵は何ですか』ときいても、帰ってくるのはありきたりな、誰にでも思いつくようなつまらない答えだ。なぜならその人はサッカーに本気じゃないから。それと同様に、ゲームに本気じゃない俺が出す言葉は誰が聞いても、薄っぺらい戯言にしか聞こえない。

 

「……」

 

俺の沈黙に先ほどの中年教師は勝ち誇った顔をしている。

 

――何か、ないか

 

――ねーよ、んなもん

 

――ゲームを本気でやってる人じゃないとそんなことわかるかよ

 

――ゲームを……本気で?

 

『私は……一人だったから』

 

記憶の隅にあったのは、神崎亜美のそんな言葉だった。一人だったからこそ彼女は自分の居場所がなくて、それ故に居場所を欲した。それはゲームに本気であるがゆえのジレンマ。

なら、俺の言葉が仮初めだとしたら、神崎のあの言葉はそれより遥かに真実だと言えるのではないか。

 

「一人じゃ……ない」

「……ん?なんですか?」

 

校長の問いに俺は大きく息を吸い込み、口を開く。

 

「多分、ゲーム自体が勉強にもたらす恩恵はほぼありません。ゲームをやっても公式は憶えられないし、足が速くなるわけでも、頭が良くなるわけでも、成績が上がるわけでもない。でも、あいつが……俺たちが求めるのはゲームを通じて生まれる繋がりです」

「繋がり?」

「はい。ゲームは一人ではできません。ゲームを作る人、売る人、そして買う人いることでゲーム事業は回り、そしてゲームを買う人には同じくゲームをするための仲間が必要です。人一人で出来ることなんてたかが知れてます。人はそれを自覚しているからこそ、仲間をもとめ、協力して目標を達成し、次へ向かう。それは人生の縮図ともいえるでしょう。

そして、それを可能にするのが、繋がりです。初めは細い糸で、一人繋がってるかさえ分からない。でもそれが、誰かとぶつかり合い、励まし合い、時にはつながりが切れることもあり、でも、それでも繋がっていたいと思う気持ちが、俺たちを繋げてくれる。その媒体がゲームなんです。たとえそれが知恵にはならなくとも、勉学に直接影響しなくても、つながろうとする心を教えてくれるのがゲームだと俺は思います」

 

その言葉に、一瞬全体が静まりかえる。が、その沈黙を破った人物がいた。それは、先ほど俺に助け船を出してくれた結城先生だった。

 

「なるほど。確かに最近はSNSの発達で誰かと意思疎通するのも電子化されていたり、他者の心ない言動によって心を病む者、それを見ても何もしない者、それを面白がるものさえいる。で、あるならば確かに生徒たちのモラルの向上という点でゲームは一つの手と言えるだろう」

「そう……ですね。黒崎君。君の言う繋がりは、確かに昨今ではあまり意識していないものだ。だが、社会というのは一人で生きるには余りに過酷だ。そのための仲間を作るために、君たちゲーム部は今回の企画をやりたい、と捉えていいのかな?」

「……はい」

「なら、私はもう君に聞くことは無い。後は先生方に聞いてみよう」

 

校長はにこやかな笑顔で周囲の教員を見渡す。教員たちはその視線に、少し委縮していたが、それぞれが自分の中で答えを出したらしく、俺の方へと視線を向けた。

 

 

 

「というわけで皆さん。このプレゼンを聞いてゲーム部の文化祭企画の実施に賛成の方は拍手をお願いいたします」

 

校長の言葉に、部屋の中に拍手が広がる。それは教師陣全員からの拍手だったが、けして盛大なものでは無かった。

 

 

***

 

大会議室でのプレゼンが終わってから2時間が経過した。俺は購買の横の休憩スペースの長椅子にどっしりと腰を下ろしている。

当然だが購買の営業時間はとっくに過ぎ去っており、そんな購買に用がある生徒もいなく、俺は薄暗いこの空間で一人寂しい時間を過ごしていた。

 

「あ~、まじで疲れた……」

 

ふだん使い慣れていない敬語を喋り続けるのも、周りの反応をいちいち気にしながら話すのも、ほとんどアウェーの環境でプレゼンするのも、ストレスにはなってもリフレッシュには絶対ならない。

取りあえず、目的は完遂した。それはつまり、ゲーム部の存続とイベントの実施について教師陣から了承を得られたこと。これでひとまず延命は出来た。後は文化祭でのイベントの実施とそれによる部員の確保ができれば神崎の依頼は半分クリアだ。もう半分は部員の質だが、それはやってみないことには分からない。

 

「いや、それでもまだ渋いな……」

「こんなところに居たのか」

 

そんな声をかけてきたのは今回の会議をとりつけてくれた越前だった。

 

 

「なんだ、お前か」

「ひどいなあ。せっかく先生たちに頭を下げて集めたって言うのに」

「まあ、その点に関しては感謝しかねえよ。ありがとな」

「初めてだな。君に直接礼を言われるのは」

「そうだったか?」

「そうだよ」

 

自嘲気味に笑いつつも、越前は俺の隣に座り、手に持っていたペットボトルを俺に渡してくる。

 

「綾鷹茶……」

「君はこれが好きだって、雪里さんに聞いてね」

「え、なにそれ。雪里がそんなこと言ったの?流石、イケメンは女子と打ち解けるの早いな」

「いや、雪里さんが話してくれたのは、君の事だからだと思うけど……」

「え?なんか言ったか?」

「……いや、何でもないよ」

 

越前は少し真剣な面持ちで虚空を見つめる。俺はそれを横目に綾鷹のキャップを開けてグビグビと飲み始める。

 

「正直、驚いたよ」

「……」

「君が繋がりなんて言い出した時にはさ」

「ふぐ……!げふ、げふ!」

 

俺は思わずむせてしまい、回復するのに10秒の時間を要した。

 

「お前、聞いてたのか?」

「そりゃあ、俺が先生たちを集めたんだから、いて当然だろ?」

「……あれは、別に、ただああいうハートフルな内容は教師受けいいと思ったんだよ」

「本当にそうかい?」

「は?」

「君の言った繋がりって言うのは、確かにゲーム部の事も加味してるのかもしれない。でも、本当は君自身が周囲との繋がりを大切だと再認識したから、だから、あの言葉が出たんじゃないかい?」

「……そうみえたか?」

「少なくとも、俺にはね」

 

越前はそこで話を切る。

 

「というか、お前こそよく協力してくれたよな。いくらお前が良い奴だとしてもゲーム部の存続云々なんてほとんど関係ない話なのに」

「そうかい?それは君にも言えることだろ?」

「なんだよそれ?」

「以前の君なら、ゲーム部の存続なんてそれこそどうでもいい話で、例え安城さんに頼まれていても無関係だと、そう貫いていたはずだよ」

「……貫いても結局手を貸しちまうんだよ」

「それは、どうしてだい?」

 

それは、俺が誰かを助ける『理由』を得たから。だから、それを言えばいいはずなのに、何故か違和感が働き、俺はそれを言えなかった。

 

「ってか、お前が手伝ってくれた理由、聞いてないんだけど」

「……俺は、君みたいになりたかったから、かな」

「は?お前何言って――」

「それじゃあ、俺は帰るよ。ゲーム部のイベントの事も、出来る限り手を貸すから」

「お、おい!」

 

越前は俺の言葉には足を止めず、そのまま去ってしまった。

 

 

「結局何の用だったんだ?あいつ……」

 

 

俺が疑問を募らせていると、再びこちらへやってくる足音が聞こえた。

 

「こんなところにいたのか」

 

やってきたのは、結城先生だった。

 

「……どうも」

「ああ、お疲れ。……よっと」

 

唐突にこちらに投げられた物体をなんとかキャッチして見ると、それはミルクココアのペットボトルだった。手に伝わる温かさからして、どこかの自販で買ったばかりの物らしい。

 

「奢りだ、のめ」

「いや、俺今お茶飲んでるんですけど……」

「脳を使った後は糖分を摂取しろ糖分を」

 

ミルクココアを強制しながら、先生は俺の隣に座る。

 

「……」

「……」

「……なんか用ですか?」

「見事だった。わずか数日であのプレゼンの完成度。並みの高校生では出来ないだろうな」

「そりゃどうも」

「誰を使った?」

「……全部俺が勝手にやったことですよ」

「君の勝手でいきなりゲーム部の部員が3人も増えるか?」

「……偶然ですよ」

「これが偶然なら、もはやホラーの領域だな」

「……あいつらは、関係ないんで」

「あくまで自分一人に責任を向ける、ということか?」

「……」

「だがあのプレゼン資料や文言は、流石に君一人では用意できるものではない。少なくとも経験者1人以上の協力は必須だと思うがね」

 

俺はその話題を遮るようにミルクココアのふたを開けグビグビと飲む。

 

「まあ、君が言いたくないのならこれ以上の詮索はよそう」

「……」

「では、感触はどうだ?」

「辛くも勝利ってとこですかね。あの場に居た半分くらいの拍手は純粋な承諾じゃないでしょ」

 

あの拍手の理由は、俺のプレゼンに心を動かされたからじゃない。ただ単にゲーム部の今後をつぶすための手だ。

今回みたいな面倒事を何度もされてはいちいち対応するのは彼らにとっては時間の無駄で、俺が出した切り札に応じることで、企画が成功すれば儲け物、失敗したらゲーム部は廃部という形で終わらせることが最適解だと思ったのだろう。

とはいえ、校長と教頭は多少乗り気だったようだが。

 

「やはり君は他の生徒とは違うな。普通ならここまでこぎつけられればもっと喜ぶものだろうに」

「喜んでますよ。……先生が助け船を出してくれましたし」

「……」

「先生は、俺の味方なんですか?」

「教師という立場からすれば、君の味方ではない。だが、一個人としては君の味方をしてもいいかなと思っている」

「その自己矛盾、教師としては致命的ですね」

「ふっ、そうだな」

「開き直ったよこの人……」

「それで、今後はどうする?」

「どうするって、文化祭に向けてのイベント企画を……」

「安城が君に頼んだのはゲーム部の廃部の阻止、では無かったのか?」

「……どういう意味ですか?」

「君はいつの間にか目標を変えてしまっていないか、という事だ」

「それは……」

「君の役目は既に終わっているんじゃないのか?」

「いや、でもイベント企画提案したの俺ですよ?ここで投げるってクソ野郎じゃないですか」

「別に投げろとは言ってない」

 

そこで結城先生は立ち上がり、俺の方へ視線を向ける。

 

「黒崎、君が人を助けるのは君の自由だ、きっと相応の理由もあるんだろうし、助けを必要とする人もいる……だがな」

「……」

 

 

 

 

「君は、君に助けられただけの者の末路を考えたことはあるか?」

 

 

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