鬼滅廻戦   作:漏瑚可愛いよね

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両面宿儺

 とある村。とある屋敷。そこでは一人の少年が布団で横になっている老人の世話をしていた。老人の世話をする少年に対し、どこか悲しいような、緊張しているような顔で老人が語る。

 

「悠仁…最後に言っておくことがある。オマエの両親のことだが」

「いいよ興味ねーから」

「…」

 

 老人が前々から決めていた遺言を伝えようとするが少年はばっさりと切り捨てた。

 

「オマエの!両親の!ことだが!」

「だから興味ねーって、爺ちゃんさぁ死ぬ前にかっこつけようとすんのやめてくんない?」

「オ、オマエ…」

 

 少年のあっさりとした態度に老人は怒りに震え、爆発する。

 

「男はかっこつけて死にてぇんだよ!空気読め!!」

 

 老人の様子にあきれて物も言えない少年。そんな少年に老人は付け加える。

 

「昼間から屋敷に篭もってんじゃねぇ。ガキはガキらしく外で遊びやがれ。じゃなきゃ宿儺に喰われちまうぞ」

「あのさぁ俺だってもうガキじゃねぇんだからそんなんじゃ驚かねぇよ」

「ケッ、この前まで泣いてたガキがよく言う」

 

 何年前の話だよ、と少年が呟き、老人は寝返りを打ち少年に背を向けたまま話す。

 

「…悠二、オマエは強いから人を助けろ。手の届く範囲でいい、救える奴は救っとけ。迷っても感謝されなくても、とにかく助けてやれ。オマエは大勢に囲まれて死ね。俺みたいにはなるなよ」

「──爺ちゃん?」

 

 

 

***

 

 

 

 とある村。その外れにある神社で2人の青年が何かを探しながら会話をしている。

 

「おーい、虎杖ぃ。そっちは見つかったか?」

「いや、こっちは無いっすね、先輩はどうなの?」

「こっちもねーな、しっかし何処にあるのかねぇ、"呪いの指"ってのは」

「本当にあるの?そろそろ日が暮れそうだから早く帰らねぇと村のじいちゃんたちがうるさいよ」

 

 そうなんだがなぁ、と先輩と呼ばれた男が呟く。"呪いの指"とは2人の青年が住んでいる村で発生している事件に関係しているものである。6人。それが事件に巻き込まれ、村へ戻らなくなった人たちの数である。

 事件は一週間前、夜中に村のはずれの神社へお参りに行ったある家の女性が朝になっても家に戻らなかったところから始まる。この村には1人ずつ毎日、夜中に神社へお参りするという風習がある。その日はある家の女性がお参りしていたがその女性が朝になっても家に戻らなかったため女性の夫が神社へ行ってみるとそこには女性の姿はなく、大量の血があるだけだった。

 これだけでは事件と"呪いの指"が関係あるとは思いない。だが、この村にはこのような言い伝えがある。

 

『"呪いの指"を祀れ、さもなくば鬼が来るぞ』

 

 この言い伝えを守るため、村人たちは毎晩"呪いの指"を祀ってある神社へお参りに行っているのだ。神社で不可解な事件が起きた今、"呪いの指"がこの事件に関係していると考えるのは自然だろう。

 

 "呪いの指"を探しながら虎杖が口を開く。

 

「てかさ、毎晩人がいなくなってんだからお参りに行かなきゃいいじゃん、村長にはなんか言ったの?」

「俺もそう思って村長に人を行かせるなって言いに行ったんだよ。だがな──」

 

『鬼神様の機嫌を損ねてはならない、はやく贄を差し上げなければ』

 

「んだよそれたち悪いな、先輩の言葉を聞かないって本当に先輩って村長の孫なの?」

「孫である俺の言葉がわからないぐらいのやばい事態ってことだろ。7人目の犠牲者が出る前にはやく"呪いの指"を見つけて事件の謎を解かないと、これ以上の犠牲者を出すわけには行かない」

 

 焦る2人だが時間は過ぎてゆく。そして日が半分ほど沈んだとき、虎杖が何かを見つける。

 

「なんだ?この箱…」

 

 何の変哲も無い小さな木箱。しかしその箱から漂ってくる気配。この箱を開けるともう後には戻れない予感。そんな異様な感じが箱から漂う。だが、それだけで止まる理由にはならない。蓋をあけるとそこには1本の指が入ってあった。

 

「先輩!こっち来てくれ!」

 

 近寄ってきた先輩に指を見つけたことを伝える。

 

「この感じ…おそらく本物だろうな」

「だよなぁ、こんな気配今までかんじたことがねぇ。で、この指どうすんの?」

「山に捨てに行く、虎杖は村に帰れ」

「何でだよ、これが事件の原因だったら相当やばいもんじゃねぇの?だったら俺も行くよ」

「駄目だ。これは村長の孫である俺の役目なんだ。元はと言えばこの"呪いの指"だって俺の一族が神社に祀ったらしいんだ。だったら始末をつけるのは子孫の俺がやるってのが道理だろ。だからお前は帰れ、そろそろ日が沈む」

「けどさ…」

「虎杖、たまには俺にもカッコつけさせてくれよ」

「先輩…」

 

 早く村にに戻ってきてくださいよ、そう先輩に言い虎杖は村への帰路につく。

 

 

 

***

 

 

 

「先輩、まだ戻んねぇな…大丈夫かな」

 

 村の入り口で先輩を待つ虎杖がそう呟く。虎杖が心配になるのも当然だろう。日はすでに沈み、時刻は深夜の2時を回っている。今夜、お参りに行った人は無事戻ってきており、次死ぬのは自分かもしれない、という恐怖から解放された村人たちは喜びに包まれていた。だがその中には先輩はおらず、虎杖もまた焦りを感じていた。

 

「やっぱ無理にでも付いて行くべきだった…!いや、今更そんなこと考えても仕方ねぇ、はやく先輩を探しに行かねぇと!」

 

 そう言い、村を飛び出そうとしたとき、前方に人影が見える。一瞬、先輩かと思ったがよく見ると人影は3つあり、姿形も先輩とは違うとわかる。

 村へやってくる3人に話しかけようとしたが先に向こうから話しかけてきた。

 

「夜分遅くなすみません。俺は竃門炭治郎(かまどたんじろう)という者です」

「お、俺は我妻善逸(あがつまぜんいつ)です」

「俺は山の王、嘴平伊之助(はしびらいのすけ)だ!お前強いな!俺と勝負しやがれ!」

 

 3人はそうそれぞれ紹介し、我妻と名乗った黄色い頭の奴が猪の毛皮を被った嘴平に「話がややこしくなるからやめろ!」と半泣きになりながら言っていた。そんな2人をよそに竃門と名乗った大きな箱を背負った少年が口を開く。

 

「少し話を伺いたいのですが大丈夫ですか?」

「俺は虎杖悠仁(いたどりゆうじ)だ!あんたらに聞きたいことがある!俺よりも体格の大きい坊主頭の男を見なかったか!?井口っていう名前だ!」

「いえ、見てないです。その方がどうされたんですか?」

「山に行ったから帰って来ねぇんだ!見てわかる、あんたら強いだろ!?一緒に探してくんねぇか!」

「わかりました!善逸!伊之助!行くぞ!」

 

 炭治郎の言葉に善逸は怖がりながら付いてきて、伊之助は俺に指図すんじゃねぇ!と文句をいいながら付いてきた。

 

 なぜ()()()の3人がこの時間にここにいるのか、それは数日前まで遡る。

 

 

 

***

 

 

 

数日前。

 

 炭治郎、善逸、伊之助、そして竃門禰豆子(かまどねずこ)の4名は鼓屋敷での戦いの後、傷を癒すため藤の花の家紋の家屋敷で休息していた。

 

 鬼殺隊、それは鬼を狩る政府非公認の組織。その数はおよそ数百名。しかし、鬼殺隊を誰が率いているのかは謎に包まれている。だが古より存在していて今日も鬼を狩る。

 鬼、それは人を喰う不死身の化け物。いつどこから現れたのかは不明。身体能力が高く傷などもたちどころに治る。切り落とされた肉も繋がり手足を生やすことも可能。体の形を変えたり異能を持つ鬼もいる。しかし、太陽の光を浴びるか、日輪刀と呼ばれる特殊な刀で頸を斬ることで殺すことができる。

 鬼殺隊は生身の体で鬼に立ち向かう。人であるから傷の治りをも遅く、失った手足が元に戻ることもない。それでも鬼に立ち向かう。人を守るために。

 

 炭治郎、善逸、伊之助も鬼殺隊の一員であり、先日、鼓屋敷では子供達を守るため、鬼と戦っていた。その戦いの傷が癒えた頃、鎹鴉と呼ばれるカラスが炭治郎たちに新たな指令を与えた。

 

「指令!指令ィ!竃門炭治郎!我妻善逸!嘴平伊之助ノ3名ハ東ノ村ヘ向カエェェ!ソコデハ!毎夜!人ガ消エテイルゥ!」

 

 本来なら、炭治郎たちは那田蜘蛛山と呼ばれる山に向かいそこに住む鬼と戦う筈であったが、いつの頃からか変わり始めた運命の糸が少しずつ絡まり、そして今日、運命が大きく変わった。

 これが炭治郎たち、鬼殺隊にとって良いことなのか悪いことなのかは誰にもわからない──

 

 

 

***

 

 

 

「井口さんが向かった山にはまだ着かないんですか!?」

「もうそろそろで着く!」

 

 炭治郎と虎杖が走りながら会話をする。2人のすぐ後ろでは善逸と伊之助も走って着いてきており善一が信じられないような目を虎杖に向けながら口を開く。

 

「虎杖さんアンタなんで()()を使ってないのに俺たちと並走出来てんの!?本当に人間!?実は鬼で俺たちを騙して喰おうとしてるんじゃないの!?イィヤァアアアアアーーーッ!!喰われそうになったら炭治郎助けてくれよぉーーーっ!!」

「善逸それ以上虎杖さんの前で恥を晒すな!虎杖さんが不安になるだろ!それに虎杖さんは人間だ、鬼の臭いがしない。善逸だってわかるだろ?」

「そうだけどさそうだけどさ!怖いものは怖いじゃん!?」

「へっ!お前こんな程度でビビってんのか、やっぱり紋一は腰抜けだな!」

「うるさい!怖がらないお前がおかしいんだよ!あと俺は紋逸じゃない善逸だ!」

 

 伊之助が善逸を馬鹿にするようにフンッと鼻を鳴らし走り続ける。

 だが、善逸の疑問も当然のものだろう。

 

 呼吸。空気を吸い、吐く生きていく上で当たり前の動作。しかし、鬼殺隊の剣士が扱う呼吸は通常のそれとは違う。鬼は身体能力が人間と比べて非常に高く、傷をつけても隊どころに治る。そんな存在と戦うために生まれた戦闘技術。それが”呼吸”である。中でも”全集中の呼吸”は体中の血の巡りと心臓の鼓動を速くすることで体温は上がり、人間のまま鬼のように強くなれる。そのため”全集中の呼吸”を扱う剣士は一般人と比べて身体能力が格段に上がる。

 だが、虎杖は一般人だ。虎杖は鬼殺隊の扱う呼吸は知らないし、使ったこともない。だというのに虎杖は素の身体能力で”全集中の呼吸”を扱う炭治郎達と同等の速度で走っている。なぜ、虎杖がここまで速いのか、人間離れした身体能力の起源は何なのか、それを知るものは誰もいない。

 

 しばらく走っていた一行だったが、虎杖が足を止め、それを見た炭治郎達も足を止める。

 

「ようやく、着いた…!でも、なんだ、これ…?」

 

 先輩の向かった山には着いた。だが、なんだこれは。見た目はいつもと変わらない普通の山だ。しかしこの濃密な”死”の気配。これ以上足を踏み入れてはいけない、虎杖の本能がそう叫ぶ。

 じり、と後ずさりをする虎杖に対して炭治郎と伊之助は一歩前へ進む。

 

「虎杖さんはここで善逸と一緒に待っててください、俺と伊之助が山に入って井口さんを探してきます」

「え、俺ここに置いてくの?泣くよ?」

「ま、待てよ!俺も行く!ここに向かう途中言ってた鬼だとか鬼殺隊だとかってのは本当なんだろ!?なおさら先輩が心配だ、俺も行く!」

「駄目です、ここで待っててください。話を聞く限り、虎杖さんの村で起きていた事件には間違いなく鬼が関わっています。それにきっと普通の鬼じゃない、鎹鴉も虎杖さんの話を聞いて焦った様子でどこかへ飛んで行きました。きっと増援を呼びに行ったんです。そんな危ないところに貴方を連れて行けない。もし虎杖さんが危なくなっても善逸が守ってくれます」

「でも──」

「虎杖さん」

 

 最後に名前を呼び、虎杖の眼をまっすぐ見つめる炭治郎。虎杖はその視線に耐えきれず眼を逸らしてしまう。それを確認した炭治郎は伊之助に声をかける。

 

「伊之助──」

「俺が先に行く!お前はガクガク震えながら後ろをついてきな!腹が鳴るぜ!!」

「腕が鳴るだろ…」

 

 伊之助の発言に善一が震えながら突っ込みを入れる。猪突猛進!といいながら山に突き進む伊之助の後を追うように炭治郎も山へ向かおうとする。

 

「善逸!虎杖さんを頼んだ!善逸だから任せられるんだ!任せたぞ!」

「炭治郎…」

 

 虎杖の護衛を任された善一は正直鬼が襲ってきても虎杖を守り切れるとは思わなかった。自分は恐がりで人を守れる強さもない。だが、先ほどの炭治郎の言葉。善逸なら出来ると、任せられると言われた。自分にはそんな強さがあるとは思えない。でも、炭治郎の信じる我妻善逸を信じてみようと思った。

 

「えへへ!こっちは任せろ!うふふ!」

 

 否、おだてられて調子に乗っていただけであった。

 

 

 

***

 

 

 

 木々が鬱蒼と生い茂る中、炭治郎と伊之助は虎杖の先輩、井口の捜索をしていた。井口を探しているとき、鬼と何度か遭遇し、炭治郎達はすでに鬼を4匹狩っている。その4匹目を狩り終えたとき、炭治郎はふぅ、と息をつき伊之助に声をかける。

 

「伊之助、山に入るとき鼓舞してくれてありがとう。伊之助がそうしてくれるおかげで俺も怖がらずに山へ入れた。山の中から流れてきた禍々しい臭いに俺は少し身が竦んだんだ、ありがとう」

「……」

 

 それを聞いた伊之助は思考が緩やかになり、ほわほわするのを感じた。

 

『お召し物がずいぶんと汚れていらっしゃいますね、洗ってお返しなさいますからこちらを着てくださいませ』

『肌触りも良くて気持ちが良いですよ、夕飯は天ぷらにしましょうね。そう…衣のついたあれでございます』

 

 先日、傷を癒やすため藤の花の家紋の家で休息を取っていたときの、世話をしてもらっていた老婆の声が蘇る。伊之助は物心がつく前から山で暮らしてきたため、生物の生存競争、命のやりとりを今に至るまでずっと行ってきた。そのため、伊之助は自分が死ななきゃそれでいい、世の中は弱肉強食だ、死ぬのは弱いから仕方ない、そう考えていた。しかし、炭治郎と善逸と出会い、藤の花の家紋の家では老婆と話し、人のぬくもりに触れた。

 それからだろう、伊之助の中の何かが変わったのは。その変化が良いのか悪いのかといったら間違いなく良い変化だろう。だが、感じたことのないこの”守る”という感情、そして変化に伊之助は困惑していた。

 

「俺をほわほわさせてんじぇねぇ!とっとと井口ってやつを見つけるぞ!」

「ああ!井口さんの臭いは虎杖さんに嗅がせてもらった、だいたいの位置はわかる、こっちだ!」

 

 そして炭治郎。山に入る前、彼は虎杖には不安の欠片もないように振る舞っていたが実は今まで感じたことのない臭いに、死の気配に臆していた。

 炭治郎は先の戦いで元・十二鬼月と戦闘し、勝利している。だからもし、十二鬼月と遭遇しても渡り合えると思っていた。しかしこの臭い、先の戦いで戦闘した鬼とは比べものにならないほど、比べるのがおこがましいほどの重圧、禍々しさ。違う。これは十二鬼月なんてものじゃない。そう、これは浅草で遭ったあの鬼。

”鬼舞辻無惨”

 全ての鬼の元凶であり、妹、禰豆子を鬼にした張本人。その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があの山からする。そしてどういうわけかその異様な鬼の臭いと虎杖の先輩、井口の臭いが同じ場所からする。井口を発見するとき、この臭いの主と戦わなければならないだろう。怖い、負けるかもしれない。そういった感情が炭治郎の中で渦巻く。

 そんなとき、伊之助が威勢良く前を進んでくれた。

 そうだ、俺は一人じゃない。一人なら駄目かもしれない。でも今は伊之助が、善一がいる。3人ならどんな鬼だって倒せる。

 決意が固まった炭治郎は山へと入り、伊之助へ感謝を述べた。

 

 そうこうしてるうちに、炭治郎と伊之助は山の中腹まで登ってきており、臭いがする洞窟の前まで来ていた。

 

「この洞窟の中だ、伊之助、もし君が」

「言われるまでもねぇ!中の構造を探れ、だろ!?」

 

 そう炭治郎に言い、伊之助は自身が持つ2本の日輪刀を地面に刺し、呼吸を行う。

 

”獣の呼吸・漆ノ型 空間識覚”

 

 荒れ山育ちの伊之助は触覚が優れている。我流の呼吸法により研ぎ澄まされた触覚は空気のかすかな揺らぎさえも感知し、直接触れていないものでも捕らえることが出来る。

 

「洞窟の中は一本道でそこまで長くねぇ!奥の方で誰かが倒れてるだけで()()()()()()()!」

「そうかわかった!その倒れてるのがきっと井口さんだ!早く行こう!」

 

 そう言葉を交わし、炭治郎と伊之助は洞窟の中を進む。進みながら炭治郎はあることを考えていた。

 

(井口さん以外には誰もいないのはどういうことなんだ?伊之助の言葉に嘘の臭いはしないし井口さん以外に誰もいないのは本当のことなんだろう。ならこの臭いは何だ?山に入る前から臭うこの臭いの正体は何だ?)

 

 思考を続けるが結局答えは出ることなく、臭いの元へ辿り着く。そこには一人の男と1本の指が転がっているだけだった。炭治郎はすぐさま男に駆け寄り心臓に耳を当てる。

 

「…良かった、この人は生きている。けがも目立ったものはない、臭いからしてこの人が井口さんだ」

「おい炭治郎この指はどうすんだ、これってあいつが言ってた”呪いの指”とかいうやつなんだろ」

「そうか、その指がこの異様な臭いの正体だったのか…本当なら置いていきたいところだけどその指が鬼の手に渡ったらまずい気がするんだ。一応その指も持って行こう」

 

 臭いの謎も解け、井口を見つけた炭治郎と伊之助。伊之助が井口を背負い、炭治郎が指を持って山を下りると言うことになり、この洞窟から出ようとした。ここで2人は異変に気づく。

 

「伊之助…」

「ああ、洞窟の外に鬼が待ち伏せてやがる。それも一体じゃねぇ、10数体いやがる。こりゃどういうこった」

「鬼は基本群れないはずだ、なのにこの数…何か理由があるは筈だ。何か、何がある…?」

 

 洞窟の外で待ち構えている鬼をどうにかするため炭治郎の脳がフル回転する。

 鬼、群れない、井口さん、村、事件、”呪いの指”…!

 

「っ!そうか、そういうことか!鬼達の狙いは俺達じゃない、この指だ!」

「あ?そりゃどういうことだ」

「鬼は人を喰らい力をつける、だけど力をつける方法はそれだけじゃない。鬼舞辻無惨の血を取り込むことで鬼はさらなる力を手に入れるんだ。以前そういう鬼と戦った。そしてこの指からは()()()()()()()()()()()()()がする。つまりこの指を食べることで強くなろうとしているんだ。この指がどうしてそんな力を持っているのかはわからない。だけどきっとこれで合っているはずだ」

「…そのくらい俺でもわかってたわ!当然に!炭八朗!この指をおとりにして鬼どもを斬るぞ!」

「ああ!あと誰だそれは、俺は炭治郎だ!」

 

 炭治郎の考えはおおよそ合っている。

 さらに炭治郎が理解したのは鬼の狙いだけではない、村の事件の真相まで辿り着いていた。

 まず、村では1週間前から毎夜、神社で血を残して人がいなくなっていた。おそらく消えた村人は神社に祀られていた”呪いの指”を取り込もうとした鬼に喰われたのだろう。しかし、1週間もの間、”呪いの指”が取り込まれなかった理由。それは鬼同士で争っていたのだろう。鬼は群れで行動しない。鬼舞辻にそう操作されているからだ。だから仲間意識もなく、1本しかない指の取り合いになっていたのだろう。そうして争っているうちに朝日が昇り、鬼達は行動が出来る夜が来るまで待ち続けた。”呪いの指”を取り込むために。

 

 岩陰に隠れ、伊之助は”呪いの指”を洞窟の外に放り投げた。指に気づいた鬼達は我先にと指の元へ向かい、すぐに争いが起こった。

 

「指を持っていたガキをここまで追い込んだのは俺だ!だから俺が喰うんだ!」

「うるせえ!”宿()()()()”は俺のものだ!」

「どけえ!てめぇら全員殺して俺が”宿儺の指”を喰うんだ!」

 

 争いを始めた鬼達を確認して炭治郎と伊之助は外に出ようとする。井口を戦いの中には連れてはいけないため、炭治郎は洞窟の中に井口を下ろすよう伊之助に言い、井口の隣に背負っていた木箱を置く。

 

「禰豆子、もしこっちまで鬼が来たら井口さんを守ってくれ、頼んだ。…伊之助、1、2、3で外に出て鬼の頸を斬るぞ」

「ふんっ!あんな隙だらけの鬼達、合わせるまでもねぇ!俺が先に行くぜ!猪突猛進!猪突猛進!」

「あっ、こら待て!伊之助!」

 

 先に鬼の頸を斬りに向かった伊之助の後を追うように、炭治郎も鬼の頸を斬りに向かう。

 

 

 

***

 

 

 

『虎杖は村に帰れ』

『ここで待っててください』

 

「何、言うとおりにしてんだ、俺は」

 

 俺は何にビビってる?

 

 

 死

 

 

 そうだな、この山からは死の予感がする。

 

 死ぬのは怖い。

 

 神社でいなくなった人達、村の人達は頑なに口にしなかったけどみんなわかってんだ。消えた人はみんな死んでいる。死体はなくてもあの大量の血。死んだと言ってるようなものだ。

 

 みんな死ぬとき怖かったのかな。

 

 そりゃそうだろう、あの血の量からして普通には死ねてない。

 

 あれは()()()()()だ。

 

 

『オマエは強いから人を助けろ』

 

 

 1年前、寿命で死んだじいちゃんの言葉だ。

 

 

『手の届く範囲で言い、救える奴は救っとけ。迷っても感謝されなくてもとにかく助けてやれ』

 

『オマエは大勢に囲まれて死ね。俺のようにはなるなよ』

 

 

 じいちゃんはそう言って死んだ。

 

 短期で頑固者。見舞いなんて俺以外来やしねぇ。

 

 「俺みたいになるな」?

 

 確かにね。

 

 でもさ、

 

 

 

 爺ちゃんは正しく死ねたと思うよ。

 

 

 

***

 

 

 

 とある場所、そこに建つ1つの大きな屋敷。そこでは鴉を膝に抱え縁側に腰をかける男と背後に正座をしている二人の男がいた。

 鴉を抱える黒の長髪の男が口を開く。

 

「そうか、”宿儺の指”らしきものが見つかったのか。よく戻ってきてくれたね。ありがとう」

 

 そのような言葉を鴉にかけ、優しい手つきで撫でる。

 

「報告を聞く限りその”宿儺の指”は本物だろう。そうなると”柱”を向かわせないとならない。義勇、実弥」

「御意」

 

 縁側に腰をかける男に返事をした二人の男。

 片方は赤銅色と黄、緑の2色で描かれた模様の半々羽織を来ている男。

 もうひとりは白髪に白色の羽織を着ており、顔と大きく開けた胸元に見える夥しいほどの傷跡。

 

 実弥、と呼ばれた白髪の男が義勇と呼ばれた半々羽織の男に声をかける。

 

「”宿儺の指”があるってことは周囲には鬼がいるはずだなぁ。何体いようが鬼は皆殺しだぁ、なぁ富岡ぁ」

「目的は”宿儺の指”の捜索だということを忘れるなよ」

「んなの当たり前だろうがぁ…!いちいち癪に障る野郎だぜ…!」

 

 

 

***

 

 

 

 鬼を狩った数はすでに10を超える。いくらこの場にいる鬼が弱いからといって、これだけの数。炭治郎と伊之助の体にはいくつもの傷がつけられていた。

 

「くそがぁ!どんだけいるんだよ鬼ども!次から次へとわいて来やがる!」

「踏ん張れ伊之助!幸い、集まってきている鬼たちは強くない!きっと弱い鬼が強くなるためにここに集まってきてるんだ!はやくこの場にいる鬼を倒して井口さんを連れて山を下りるぞ!」

 

 そう、はやくしなければ強い鬼がやってくる。炭治郎はそう感じていた。

 

 全ての鬼とつながっている鬼舞辻無惨がこのことを知らないわけがない。指を取り込むだけで簡単に強くなれるんだ。だからこんなにも多くの鬼をここに送り込んでいる。ここに来た鬼が弱いのは様子見だ。強い鬼を簡単には動かせない筈だ。強い鬼を動かせば動かすほど自分の守りが手薄になるからだ。

 今はまだ大丈夫だけどこれ以上時間をかけると俺と伊之助に疲れが出始める。強い鬼も出始める、それこそ十二鬼月のような鬼が…!

 

「伊之助!残り三体、一気に決めよう!合わせてくれ!」

「俺に指図すんじゃねぇ!」

 

 伊之助は炭治郎の呼びかけに答えず、残る鬼の内の一体を仕留めるため鬼に近づく。そして鬼は指に夢中になっててこちらに気づいてない。チャンスととらえた伊之助は両腕を交差させ、自身の呼吸の型を放つ。

 

”獣の呼吸・参ノ牙 喰い裂き”

 

 仕留めた、そう思った伊之助だが頸を斬った感触はない。仕留めたと思っていた鬼は上体を反らし、こちらを睨み付けていた。

 

(躱されたのか!?死角から放った一撃だぞ!)

「ずいぶんなめた攻撃をしてくるじゃねぇか、ああ?鬼狩り様よぉ!」

(くそっ!指に夢中だったのは振りか!俺を殺して確実に指を取り込むために!)

 

 思考は進むが体は動かない。それもその筈だ。すでに狩った鬼の数は12を超える。それも息をつく暇もなく。疲労もダメージもかなり蓄積されている。

 体が動かない伊之助の顔面に鬼の拳が迫る。

 

(まずい!攻撃が速い!躱せない、このままじゃ死──)

 

 自身の状況に死を連想した伊之助だったが、突如、頸元を引っ張られ後ろに投げ飛ばされた。

 

「伊之助!そのまま頸を斬れ!」

 

”全集中・水の呼吸・壱ノ型 水面斬り”

 

 その声に自分の窮地を救い、後ろに投げ飛ばしたのは炭治郎だとすぐに理解する。そして拳を振り抜いて隙だらけの鬼の頸を斬ったのも横目で見ながら確認した。そして自分が投げ飛ばされた方向には足を切られて身動きの取れない鬼の姿も。

 

(畜生、なんだこれ、腹が立つぜ。あいつの指示で全てが上手くいく。あいつは自分だけの戦いを見てるんじゃない、全ての戦いを把握して戦いの流れを見ているんだ。そうじゃなきゃこれだけの数の鬼を今の俺達だけで倒せるわけがねぇ)

 

 思考は進み、体は、動く。炭治郎の介入により冷静になったからだ。伊之助はそのままの勢いで炭治郎が動きを止めた鬼の頸を斬る。

 

「やった、伊之助!あと、一体、どこに…」

「お前に出来ることは俺にも出来るボケェエエ!」

 

 伊之助はいらだちながら、炭治郎に突っ込みそのまま力に任せて木々の中に投げ飛ばす。

 炭治郎ははじめ伊之助の行動を理解出来なかったが、投げ飛ばされ、着地地点をみると伊之助の意図を理解する。

 

(最後の1体!今、()()()()()()()()から伊之助が代わりに探してくれたんだ!伊之助の思い、無駄にしない!)

 

”全集中・水の呼吸・捌ノ型 滝壺”

 

「くそっ!”宿儺の指”を喰えば俺だって十二鬼月になれるのに!鬼狩りがいるなんて聞いて…っ!?く、頸を斬られたぁ!?」

 

 こんなところで、と言い鬼は体が塵になって消えた。

 

「斬ったならとっとと山下りるぞ!これ以上鬼が来ると面倒だ!」

 

 背中に禰豆子が入ってる箱を背負い、肩に井口を担いでいる伊之助が急かしてくる。禰豆子の入った箱を伊之助から受け取り、背負う。指は、と聞くと伊之助が持っているようだ。

 

「そうだな、はやく山を下りよう!すまないが伊之助が先に行ってくれないか?今、俺の鼻が効かなくて鬼の索敵が出来ないんだ!」

「はっ!最初っからそのつもりだぜ!」

 

 猪突猛進猪突猛進!と叫びながら突き進む伊之助に、叫んだら鬼が寄ってくるんじゃ、と心の中でつっこみを入れ後ろを着いてくる。

 

 洞窟の外に集まっていた鬼を退け、少し余裕が出来た炭治郎は山を下りながら考えごとをする。

 

 俺の鼻が効かないのはたぶん指の所為だろう。山に入る前から強烈な臭いを放っていた指が今はすぐ隣にある。この指は鬼と同じような、それでいて凶悪な臭いがする。だからこの指の前じゃ人の臭いはかすかに嗅げても鬼の臭いなんてかき消されてしまう。そして、虎杖さんと井口さんが住んでいる村の神社にこの”呪われた指”が祀られていたのも似たような理由だろう。

 先ほど、炭治郎が倒した鬼からは僅かにだが二つの感情を嗅ぐことが出来た。力を得ることが出来る”喜び”、そして指に対する”恐怖”だ。きっと”呪いの指”は元々鬼ですら近づくことが出来ないほどの力を持っていたんだ。だから、それを村の近くの神社に祀ることで鬼を村から遠ざけていたんだ。

 あの指は見た目からして、かなりの年代物。何十年、何百年と時が経つ内に力は薄れ、鬼が指を取り込めるほどまで弱くなったんだ。これなら全ての説明がつく。

 

 そしてもう1つ。洞窟の外にいた鬼と戦っているときに聞いた”宿()()()()”という言葉。この指の正体が”宿儺の指”というのが本当ならこの指は相当──

 

「炭八朗!とんでもない速さで鬼がこっち向かってる!接触は逃れない!構えろ!」

 

 炭治郎が名前の訂正をするまもなく、風と共に1体の鬼が目の前に現れる。その場はすぐにやってきた鬼のすさまじい圧に制され炭治郎と伊之助は身動きが取れなくなった。鬼が出す圧に身動きは取れないが少しでも情報を得ようと眼を動かす。

 突如現れた鬼の背は炭治郎と同じくらいで、白いシャツに黒のズボン。紙は黒くオールバックにしており、顔には額から頬にかけて戦のような痣が浮かんでいる。そしてその鬼の左目には──文字が刻まれていた。

 

「下弦の、陸……!!」

「”宿儺の指”は…てめぇか」

 

 そう呟き、鬼は指を持っている伊之助に向かって歩いていく。

 

(歩いている!俺達なんかに負けないという自信なのか!?それともだまし討ちを狙っているのか!?どちらにしろ動かないと伊之助が危険だ!伊之助は井口さんを背負っているから大胆な行動は取れない!俺が、俺がなんとかしないと!)

 

 頭では、そう考えるが体は動かない。先ほどまで戦い続けていた疲労によるものなのか、突如現れた強大な敵に対する恐怖か、それとも両方か──

 

(動け!動け!動け!!型を繰り出せ!一撃で決めようなんて思うな!まずは伊之助から俺に注意を引け!まずはそこからだ!だから動け!俺の体!)

 

”全集中・水の呼吸・弐ノ型 水車”

 

「あ?」

「フーッ、フーッ」

(斬れた!右腕を切り落とした!次だ!次の型を繰り出せ!)

 

”全集中・水の呼吸・捌ノ──

 

「邪魔だ」

 

”血鬼術・血翼”

 

 鬼は炭治郎を睨み付け、背中から血の翼を作り出す。そして翼を羽ばたかせ周囲に強風を吹き付けながら空を飛ぶ。

 

「くっ…!」

 

 型を出し切れずに強風を間近で受けたことでバランスを崩し、地面に倒れ込む。その隙を突かれ、炭治郎に迫った鬼は炭治郎を思いきり蹴り飛ばし黄に叩きつける。

 

「がはっ!」

 

 ぎりぎりのところで受け身を取ることが出来、致命傷を避けた炭治郎。敵はどこだと視線を巡らせる。

 

(禰豆子は…無事だ!はやく鬼を探さなければ!伊之助は、井口さんは、指はどうなった!?)

 

 必死に鬼を探していると鬼と伊之助が戦っているのが見えた。炭治郎が隙を作った内に井口を木の陰へ隠し、炭治郎が木に叩きつけられると同時に、鬼に斬りかかったのである。

 実力は拮抗しているかに見えたが、伊之助の攻撃を躱しその隙に拳を数発叩き込む。伊之助は耐えきれずじ地面に倒れ込むが、眼は、戦意はまだ生きている。だが、猪のかぶり物からは血が流れ出ており、先の鬼の集団との戦いでついた傷に加え、何時ついたのか新たに切り傷がいくつもついていた。どこからどうみても伊之助は死に体だった。

 

「てめぇじゃ下弦の陸であるこの釜鵺(かまぬえ)には勝てねぇよ。わかったらさっさと”宿儺の指”を渡せ」

「げふっ…そんなに欲しいんだったら、俺を、殺してから、盗って見やがれ…!」

「てめぇ…!お望み通りにしてやるよ!」

 

 伊之助の挑発に乗った鬼、釜鵺が力を込め伊之助の頭をつぶそうとする。炭治郎は伊之助を助けようと体に力を込めようとするがすでに限界がきているのか、体を上手く動かせない。

 

(体が動かない!禰豆子に頼もうにもこの距離じゃ間に合わない!このままじゃ伊之助が!伊之助が!!)

 

「死ね」

「お前がな」

 

 釜鵺が拳を振り下ろすよりも先に伊之助がなけなしの力を振り絞り釜鵺の足を強引につかむ。一瞬、釜鵺が眉をひそめるがすぐに何事もなかったかのように拳を振り下ろし、そして──

 

「伊之助ェ!!」

 

 頭が拳に殴りつぶされる──

 

 

 

 ──釜鵺の頭が何者かの拳に殴りつぶされる

 

 

 

「なっ…!」

 

 釜鵺の頭を拳で握りつぶした張本人を見て、炭治郎の顔は驚愕に染まる。

 

「竈門!嘴平!無事か!」

「い、虎杖さん!?」

 

 何故、どうして、どうやってここに、善一は、今の力は…

 炭治郎の中で疑問が尽きず、思考がぐるぐる回るが無理矢理疑問を押さえ込み虎杖に指示を出す。

 

「まだ鬼は死んでないです!鬼が来る前に構えて!」

「え、まじ?」

 

 完全に不意の一撃。確実に仕留めたと思っていた鬼が生きていると知らされすぐに構えるが遅かった。釜鵺は頭を修復しながら翼を強く羽ばたかせ空中へ身を浮かせると同時に、突風を起こし伊之助と虎杖を炭治郎のそばまで吹き飛ばす。

 

「…それ、早く言ってくんない?」

「だから山の麓で待っててくださいってい言ったじゃないですか!鬼はこの”日輪刀”で頸を斬るか太陽の光に当てるかでしか殺せないんです!」

「ほわほわするぜ…」

「い、伊之助っ!大丈夫か!?」

 

 伊之助は体中から血を出しており今にも力尽きそうな姿をしている。応急処置を施すため、体を引きずり師である鱗滝からもらっていた傷薬を伊之助の傷跡に塗りたくる。

 

「これでしばらくは大丈夫な筈です。ただ伊之助はもう戦えない、俺と、禰豆子と、虎杖さんでなんとかしないと…!」 

 

 伊之助の処置を終えた炭治郎と虎杖、そして炭治郎の背負っていた箱から出てきた炭治郎の妹、禰豆子は空中で頭部の修復をする釜鵺を睨み付ける。頭部の修復を終えた釜鵺は目が血走っており、怒り狂った様子でこちらを睨み付ける。

 

「よくもやりやがったなぁ!しかもなぜ鬼が鬼狩りと一緒にいる!!絶対に許さんぞてめぇら!!」

「鬼?炭治郎どういうことなんだ?」

「虎杖さん、大丈夫です。詳しい説明は省きますが禰豆子は俺の妹で人は喰いません、絶対に。とりあえず今は俺達二人でなんとかしないと」

「そうか、竈門がそう言うなら信じる。あと3人じゃねぇ、()()()

「え?」

 

 どういう意味、と炭治郎が虎杖に聞こうとした、その瞬間。

 

 山に雷鳴が轟いた。

 

 

”雷の呼吸・壱ノ型・霹靂一閃”

 

 

「がっ…!?」

「善逸!?」

 

 突如として現れた善逸が空中に浮かぶ釜鵺に雷が落ちたかのような速さで迫り、頸に刃を振るった。誰もが斬った、と思ったが善逸の刀は釜鵺の頸の半分ほどで止まっていた。このままだと攻撃の的になると判断した善逸がすぐに刀を頸から引き抜き、釜鵺の体を踏み台にして炭治郎達のところまで一気に跳躍した。

 

「炭治郎、すまない遅れた」

「善逸、なのか…?いや、寝ている…?」

「面白いよなこいつ、ここに向かおうとしたら必死に止めてくるもんだからちょっと驚かしたらすげぇ驚いてよ、そのまま気絶したんだ。そしたら寝たまま起き上がってこう言ったんだよ」

 

『俺は周囲の鬼を斬りに行く、虎杖さんは炭治郎達を助けに行ってください』

 

「善逸がそんなことを…」

「見た感じ相当ヤバい状況だったんだろ?後で我妻に礼言っとけよ」

 

 はい、と炭治郎は答え、怒りで体を震わせている釜鵺に向き直る。奇襲はもう期待できない。この場を切り抜ける方法は二つ。

 一つ、夜明けまで粘り続ける。夜明けまではあと2,3時間程だろう。善逸、虎杖が来たからといってそれだけの時間を戦い続けるのは得策じゃない。

 そしてもう一つ。釜鵺の頸を斬る。こちらの戦力は炭治郎、善逸、禰豆子、虎杖の4人。鬼を殺せる手段を持っているのは炭治郎と善逸のみ。加えて炭治郎の体はすでにボロボロでまともに戦えない。善逸も周囲の鬼を斬ってきたということは相当消耗している筈。炭治郎は善逸をちらり、と見ると体は傷つき、息も上がっている。

 

「善逸、霹靂一閃はあと何回使えるんだ」

「1回だ、ここに来るまで相当使ってきたから1回が限界だ。1回でも使うと足が駄目になる」

 

 炭治郎はここへ来て積み、という言葉を思い浮かべた。釜鵺を倒したからといってそれで終わりじゃない。次は下弦の伍が来るかもしれない。さらにはその上、上弦が来る可能性もゼロじゃない。

 炭治郎の思考がどんどん悪い方へ向かう。そんなときである。虎杖があることを聞いてきた。

 

「あの鬼の目的は何なんだ?」

「”宿儺の指”を食べるです、虎杖さんの村で言う”呪いの指”のことです」

「なんでその”宿儺の指”?を食べようとしてんだ?」

「指を食べてさらなる力を得るためです。だからこそ指を渡してはいけない、”宿儺の指”というのが本当なら俺の考えだと大変なことになる」

「力ってのはなんだ?まさか同族の鬼を殺せる力でも手に入るのか?」

「そこまではわかりません。それに鬼を殺せるのは鬼の親玉だけです。いや、でも指からは鬼舞辻無惨と同じ臭いがする…もしかしたらそういう力が手に入るのかも」

 

 そこまで聞くと、虎杖は伊之助が横たわっている方へ向かう。伊之助のそばまで行くと伊之助が持つ”宿儺の指”を手に持つ。

 

「なんだ、あるじゃん。全員助かる方法」

「え?」

 

 虎杖が何をする気なのか、それを聞く前に虎杖は躊躇せずに”宿儺の指”を口に入れ、飲み込んだ。

 

「駄目だ!!」

「てめぇ!それは俺が喰う筈だったんだぞ!!」

 

 炭治郎が静止の声を上げると同時に、これまで怒りなのか力を貯めていたのかわからないが体の動きを止めていた釜鵺が虎杖に向かって突撃する。その速度は炭治郎、善逸、禰豆子の3人が反応できないほどの速さだった。しかし、炭治郎は虎杖が危ない、という思いとは別の事を考えていた。

 

(”宿儺の指”を食べた!?あれの実態はおそらく鬼と変わらないかそれ以上の猛毒だ!そんなものを食べてしまえば虎杖さんは死んでしまう!でも、万が一、万が一……!)

 

 虎杖に向かって前例の力を叩き込まんとしている釜鵺。それに対する虎杖の対応は、非常に軽いものだった。

 

 

 

「ケヒッ」

 

 

 

 虎杖が笑い、腕を少し振るう。

 

 たった、それだけ。

 

 それだけで釜鵺の姿は跡形もなく消え去った。

 

 

 

ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ

 

 

「ああやはり!!光は生で感じるに限るな!!」

(最悪だ!最悪の万が一が出た!()()宿()()()()()()()!!)

 

 

 両面宿儺。

 その名は大正を生きるものなら、否、どの時代に生きるものでも知っている名だ。

 

『悪い子にしてると宿儺に喰われるぞ』

 

 古くから伝わる言葉だ。大人達は子供をしつけるときには必ずこの言葉を使う。当然炭治郎も母や町の人達からそう言われ育てられた。両面宿儺というのは何百年も昔の平安の時代に暴力の限りを尽くした鬼だと伝わっている。

 しかしこれはよくあるお伽噺の一つだといわれておりその存在は信じられていなかった。

 だが、鬼と出会い、鬼を狩る鬼殺隊の一員となった炭治郎には、両面宿儺が実在していたという事実に動揺はなく納得していた。

 

「鬼の肉などつまらん!人は!女はどこだ!!」

 

 そう言い、虎杖は、宿儺はあたりを見渡す。

 

「!…良い時代になったのだな。女も子供も宇治のようにわいている」

(虎杖さんはどういう状態なんだ?虎杖さんが宿儺になったのか?それとも虎杖さんの中に宿儺が現れたのか?)

「素晴らしい」

(どちらにせよ、俺のやることは決まっている。でも…)

「鏖殺だ」

 

 炭治郎は迷う。言い伝え通りなら宿儺は生きていてはならない。ここで確実に殺さなければならない存在だ。それはわかる。炭治郎も理解している。しかし、僅かな時間とはいえ、虎杖と触れ合ってしまった。虎杖の優しさに触れてしまった。それが炭治郎に迷いを生んでしまっている。善逸と禰豆子を見てみる。善逸も同じ考えに至っているのか悔しそうな、迷っている表情をしており、禰豆子は何が何だかわからないような表情をしている。

 炭治郎が迷っている間に宿儺を考えがまとまったのか、どこかへ歩き出そうとする。

 

 

 

「人の体で何やってんだよ、返せ」

「あ?」

 

 宿儺から聞こえた声、炭治郎は確かに聞いた。あの声は間違いなく虎杖の声だと感じた。

 

「お前なんで動ける?」

「?いや俺の体だし」

(抑え込まれる──)

 

 宿儺がそう感じたとき。状況は再び動いた。

 

 

 

「ようやくみつけたぜぇ、鬼ぃ」

 

 

 

 この場に新たな乱入者が現れた。

 

(なんだ!?誰かが来たのか!味方なのか!?敵なのか!?)

 

 炭治郎は思考をいったん止め、乱入者の姿を見る。

 一人は白髪で白の羽織を着た傷だらけの男。背中には大きな文字で殺、と書かれており日輪刀を持っている。

 鬼殺隊だ。応援が来たのだ。だが素直には喜べない。虎杖は自我を取り戻していた。なら戦う理由はもうない。しかしそれはこの応援に駆けつけた隊士にはわからない。このままだと無用な争いが起こるかもしれない。そう考えた炭治郎は状況を伝えようと口を開く。しかし、もう一人の応援に駆けつけた人物が目に入り、思わず動きが止まってしまった。

 赤銅色と黄、緑を組み合わせた模様の半々羽織を来ている長髪の男。

 

 見覚えがある。

 

 会ったことがある。

 

 あの雪が降る日に。

 

 禰豆子が鬼となったあの日に。

 

 

「一般人は木の陰に隠されており気を失っているが命に別条は無い。隊士は3人。2人は何とか立てているようだが一人は重傷」

「普段からそれぐらい喋れてたら嫌われてないんだがなァ」

「俺は嫌われてない」

「んでそこ気にしてんだよ!善処するとか言えば良いだろォがクソがァ!」

 

 ちっ、と舌打ちをしながら白髪の男は虎杖へ日輪刀を向ける。

 

「冨岡はあの女の鬼を殺せェ。俺はこの鬼を殺す」

「謂われるまでも無い」

 

 

 

「鬼は皆殺しだァ」 




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