【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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本編は2話から。49話のあとにお読みになると良いかもしれません。


1話 「あの日」と「――――――――」 1/2

僕は、長いあいだ……物心ついた頃からこの歳までに歩き慣れた町を。

今となっては僕自身のものだとしか感じない、この小さい体の低すぎる視界から見上げて歩きながら。

 

いつものように、けれど今日ばかりは少しだけ感傷的に考える。

 

だって、今日はここから――――――――――――――――。

 

 

◇◇◇

 

 

――学ばず、働かず、ただ生きているだけを生きる。

 

「ニート」って呼ばれる生き方は、言われているほど悪いものじゃないって僕は思う。

ゴミとかひどいことを言う人もたくさんいるけど、そんなのは気にしなくていいんだ。

 

だって、僕たちは毎日毎日をただ生きたいように生きているだけなんだからさ。

 

イメージと評判は底辺に近いけど、その生活は年を取っていれば「充実した老後」とか「晴耕雨読」とか、時代が違えば「隠居」だったり、あるいはもう少し贅沢に過ごすなら「貴族の暮らし」って言っても過言ではないもののはずだし。

 

最近はアーリーリタイアとか言って目指す人も出てきたくらい。

時代が追いついて来たんだ。

 

「高等遊民」……そんな言葉で呼ばれることもあったらしいし。

他人に振り回されない生活っていうのはそんな感じにいいもので、あこがれで、理想。

 

世間体さえなくて「働きたい人だけ働けばいいよ」っていう世界なら、きっと多くの人が選ぶはずの素敵な生活。

 

僕はそう思う。

 

誰かにひどい迷惑をかけない限りにはしても良いんじゃないかなって。

何かから逃げるんじゃなくって、本当にその人がそうしたいんだったらって。

 

 

ちょっとの迷惑は……勘弁してもらうとしてさ。

 

 

◇◇◇

 

 

……今日はあの日みたいに陽の光がぽかぽかと体を温めて、緑の香りがして、気持ちいい風が吹いて、とても気持ちいい――春の穏やかな日。

 

小さくなったからなのか体質なのか前に比べると冷えやすくなった体も、この天気とあの子にもらったマフラーとでちょうどいい感じに温められている。

 

ふだんは青白い印象の今の僕の顔も、きっとほのかに色づいているはず。

 

ぼんやりと、元の体での今までのことと、今の体での今までのこと……そしてこれから先のことを考えて思い出しているうちに、いつの間にか家の前まで来ていた。

 

………………………………早いな。

本当に、時間が過ぎるのは、早い。

 

いざとなると本当に時間が過ぎるのが、早い。

十数分の距離があっという間に感じてしまう。

 

きっといつも通り、半分以上はまた思考に沈んでいたんだろうけど。

……そんなのはニートをしていたこの数年でしっかりと味わってきたことだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「ニート」の毎日の朝は早い。

 

目覚ましを使わないから多少前後はするけど、目が覚めて起きるのは、世間が起きるのと同じくらいの時間。

身支度を調えたらジョギングで体に少しだけの負荷をかけ、帰ってきたらシャワーを浴びてテレビを見ながら朝食を取って、ふつうの人と同じような朝を過ごす。

 

生活リズムを安定させて世捨て人になりすぎるのを避けて、ふつうの人の精神状態を偽装するために。

 

 

◇◇◇

 

 

前とは違って息を吸って、腕を高く上げないと開け閉めすらできないドアを開けて、ずっと住み続けた僕の家へ――最後に足を踏み入れてみる。

 

外の明るさから一転して真っ暗。

 

暗い玄関からの廊下に目が慣れてくると、ほとんど物が何もなくなった……心なしか寂しい光景が見えてくる。

 

少し前からどこかよそよそしさを感じさせるようになった、僕が生まれてからずっと住んできた家。

 

いなくなった父さんと母さんとの記憶がこびりついている家。

今となってはどこか他人の家のような感じさえ受けてしまう。

 

 

◇◇◇

 

 

家事を済ませたら、昼までは読書をすることが多い。

 

それも趣味の読書ではなく、新書だったり、外国語だったり学術的な本だったりと、硬い本を選ぶようにしている。

 

なるべく。

 

いくらニートをしているといっても、なにも新しいものを頭に入れない生活を続けていると、だんだんと知識が追いつかなくなってくる。

頭が凝り固まるっていうか、気がつくと知識が数年前からアップデートされていなかったりして、ふとしたときにびっくりする。

 

そういう意味ではSNSは、見る専だったけど便利なツールだな。

特に友だちって言うのが皆無だからこそ気軽に見ることができるんだ。

 

……それに、頭に負荷を全くかけない生活を長期間続けていると、頭の回転が自覚できるくらいに落ちる……っていうのを経験したこともあるな。

 

アルコールや不規則な生活と合わせると、自覚するのにも時間がかかるくらいには酷い有様になる。

 

お酒は止められないし止めたくないから、それ以外のところでなんとかしないと。

 

学生時代には、人より少しだけ頭の回転が速いという自負を持っていた僕にとって、信じられなかったくらいにひどくなってからがんばったんだ。

 

肉体とは違って脳みそはただ維持するだけではだめらしい。

いや、しばらく引きこもったりしたあとの体力の衰えとか声が出ないとかと同じなのかもしれないな。

 

だって、この幼い体でもそうなるんだから。

 

 

◇◇◇

 

 

……通知、こんなにたくさん。

 

歩いているあいだわざと見ないようにしていたスマホ。

 

今の僕のちっちゃな手には大きいそれの通知欄に何人もの会話が最初の行だけ映っている。

別れてきた「友人」からのそれらは、きっと長いんだろう。

 

まぁ後でいいんだけど、かんたんなものなら返しておこう。

またいつできなくなるか分からないんだから。

 

この1年で……10年近いブランクを経て、たったの1年で増えた人たちから来るメッセージへ、返事を返していく。

 

いつも通りに簡潔に、でも、ていねいに。

 

 

◇◇◇

 

 

午前に知的好奇心を満たしつつ本を読んだあとは、お昼。

 

お昼は外に出る日もあるけどたいていは家で食べる。

インスタントで済ませることは少なくて、そのときの気分で簡単だったり凝ったりしたものを作ることにしている。

 

もちろん節約もあるけど、ゆっくりとだけど料理のレパートリーを増やして少しでも昨日より進む感覚を得たいのと、薄目の味付けが好きなこともある。

 

――ちなみにあの日は、たしか――――――だったはずだ。

 

……たぶん。

 

僕の記憶はあてにならないけど、たぶん、きっと。

 

 

◇◇◇

 

 

午後は趣味の時間。

 

流行りの本を読んだり映画やドラマを見たり、ゲームをしたり、アニメやマンガを見たり……何をするかは全く決めないでそのときに熱中していることをする。

 

一時期は現実逃避の手段としてこうした娯楽にのめり込んでいたけど、今ではあくまで好きなことをすることを意識している。

 

「好きだからする」のは大事。

「好き」が分からないほど悲しい時間はないもんな。

 

特に悠久の時間を孤独に過ごすニートには必要なことだって思う。

 

――今思えば、このおかげで健康を維持できたけど、このせいで安定してしまったのかもしれないから諸刃の剣なんだろう。

 

けど、趣味が高じてって言うのは何度となく体験してきたから無駄じゃないはずだ。

 

 

◇◇◇

 

 

夕方になってきたら1、2時間の散歩だ。

 

この散歩が、僕が長年ニートをしていてもまずまず健康でいられた一番の理由だって思ってる。

 

適度に頭を空っぽにして適度に疲れるというのが心身にとっていちばん良い……っていうのを何かの本で読んで試してみたら、もっと前に引きこもっていたときによくあった、もやもやした感情とか動悸とか不眠などとは無縁になったから。

 

やっぱり人も動物、動かなきゃダメなんだろうな。

たとえ幼い子供になっちゃったとしても、それはきっと同じはず。

 

 

◇◇◇

 

 

片づけ切って物の少ない居間や台所を見ながら、とんとんと軽い足音で廊下を歩いて洗面所へたどり着いた僕は、すっかり慣れた手つきでパーツは多いけど脱ぐのは楽な、女の子……女児向けか、の服をしゅるしゅると解いていく。

 

男のときは決まり切った組み合わせだけだったけど、今はもう、そうじゃない。

 

下着を解いて初めてわかる、かすかだけど男じゃないって分かる胸のあたり……いや、この時期の子なら体脂肪で誤差なんだし胸らしくなってないのは当然なんだろうけど……と、なくなってからずいぶんと経った、さびしい股のあいだ。

 

ふだんは服装でいくらかはごまかせても、こうして裸になると……どう見ても、元成人男性な僕からすると「幼女」にしか見えない。

 

今だって口を開かなければ、初対面の人からはそういう扱いだし。

 

この体になってからは中性的だって言われるし、髪の毛さえもう少し短くしてタオルで隠したら、男湯女湯どちらでも気づかれずに入れるだろうし。

 

隠さないで男湯に行っても父親か誰かと来ているだけだと思われる程度だろうな。

……まあ、目立つことはまちがいないから行かないけど。

 

それにしても……この体型、いくら食べても結局は何も変わらなかったのが少し悲しい。

 

どうせ女の子になるんだったらちょっとでも胸の膨らみがほしかった気がする。

 

けど、やっぱり僕なんだ。

無くて良かったんだろう。

 

意気地のない僕にはちょうど良い体なんだ。

鏡の前の裸の幼女は、そんな目をしていた。

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