【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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35話 「ねこみみ病」 3/7

 

「……みさきちゃん? その、個室とはいっても一応は公共の場で、それも初対面の小さい男の子……女の子でもあるけど、でも男の子に触られて……誤解されるような声を上げるのって。 ちょっと……いやごめん、今度は私の方がかなーり引くよ? ……というかぶっちゃけヤバいって思うのよ……うん」

 

僕をイスに座らせて「半分くらい残っているケーキ食べたら?」って言い残して、ふたりしてイスを少しテーブルから僕から離してこそこそ話を始めている。

 

なんか聞かれたくないらしいからちまちま食べてあげるけど……耳、今の僕のは前の僕よりもなんだか聞き取りやすいから聞こうとすれば聞こえるんだけどなぁ……悪口って訳じゃないらしいから良いけども。

 

でも、なにがまずいんだろうか。

 

くすぐったいのはしょうがないだろうに。

我慢しすぎたことかな?

 

まぁいいや。

 

内緒話を聞くのっていうのはなんだか悪いしな。

それに僕としてはもふるというやつをできて大変満足だし。

 

いつのまにか中から染み出していたお酒のビターな部分がもったいないし、ちょっとだけ胃が空いたみたいだからもうちょっとだけ食べておこう。

 

うん、苦い。

 

こういうのが好きだ。

香りも上品だし。

 

そうそう、こうやって美味しいのをちょっとだけなのが……って、なんだか年寄りっぽくてやだな。

 

こんなに幼くなってるのに中味は元のまんまだからかな。

学生のときから「大人びて見えるね」って言われてたのってそれかも?

 

「……ごめんなさいですにゃ……ホント、その、前にも言いましたけどこの生えている状態だと……ふぅ……どうしても猫としての本能が理性を私を思いっきり上回ってせいぎょ……ん、できなくなって」

「うん、知ってる。 けど押さえる練習しようね? 生放送だったらおしまいよ? お堅い番組でそんな色気出したら即打ち切りね」

 

「止めてもらって助かったですにゃぁ……あのままだと、もっとその、猫として、猫としてですけどにゃ! もっと気持ちいいところをっていう本能でもっと奥を求めていたかもなんですにゃ」

「奥とか言わないでお願いだから」

 

「だってつけ根と……のあいだが、いちばん、その、なので」

「分かったから止めて。 さっきので変な気分になっちゃったのみさきちゃんだけじゃないの」

 

変な気分ってなんだろ。

 

くすぐったいのこらえる気分?

 

「ですので、あくまで本能なんですけどもっと痴態を晒すことになっていたのは確実で、つまりは救われたのですにゃあ……それにしても実にいい具合の撫でっぷり過ぎたので……油断していましたにゃ。 でも、あれは正に猫が求める手つき……」

 

「うん、それも知ってた。 ……知ってたけど正直さっきのアレとか今の声の感じとか、あと、顔。 どう考えてもアウトだからね? 声だけでもやばいし絵面ももっとやばい。 来週のちっちゃい子との触れあい体験とか生放送とかで気をつけなきゃいけないこと、増えそうねぇ……万が一響くんみたいなことしてくる子がいたらって思うと。 お耳とか尻尾に触るのは女の子限定で、しかもちょっとだけってしないと……」

 

「でも、あぁいうのはもっと小さい子で」

「小学生みたいな背丈の中学生の男の子に触られてあぁなったみさきちゃんがそれ言えるの?」

「にゃ」

 

僕がちっちゃいのは知ってるから怒らない。

今は満足してるから怒らない。

 

「ああいう感じで、クール系でマジメ系でおとなしい系の子にさっきみたいにじっくりとつぶらな瞳で見つめられつつ触られちゃったら?」

 

「……んっ」

 

「…………………………………………………………………………」

「すみませんにゃ。 ドン引くの止めてくださいにゃ……」

 

「……事前に人目のないところで……店員さんに見られちゃったけど。 ドアも閉まっていたしさっきみたいな大声じゃなかったから外の人にも気がつかれていなかったようだけど……店員さんに見られちゃったけど。 でも今でほんっとよかったわねぇ……あの人だけ口止めすれば済むから」

 

「………………面目ないですにゃぁ」

「いや、冗談じゃなく政府からの依頼とか以前にアイドル終わってたかもよ?」

「でも私は響さん相手なら何年待っても……」

「その発言もおさえましょーね?? あとさりげなくズルいわよ?」

 

僕に関係のないひそひそ話しかしていないし、残っているうちにもういっかい手のひらの匂いを嗅いでみる。

 

「すんすん……」

 

……シャンプーとみさきさんの匂いと、あと……毛の匂い。

 

とっても良い匂い。

 

「……こほんっ、じゃあ気を取り直して!」

「島子さん、くすぐったかったのはもう大丈夫ですか?」

 

「……響さん、お互いに忘れた方がいいこともありますにゃ」

「?」

「はーい!! 気を取り直しましてぇ!!!」

 

なんだかみみとかしっぽがしおれている猫さんと元気すぎるポニーさん。

 

なんでだろ。

 

「で。 ……響くん? 聞いてる?」

「あ、はい岩本さん」

 

さっきまでの騒動がウソのように真剣な感じになったおふたりが僕を見ていた。

 

いや、何分の1かは僕のせいだったかもしれないけど。

いやいやでも許可を出したふたりのせいだろう、きっと。

 

「話を戻すとね? 今みさきちゃんを触ってもらってわかったように、みさきちゃんみたいに猫……他にも犬、ウサギ、鳥、そのほかいろんな生きもののものがあるんだけど。 とにかくね? ある日突然に『本物の動物の一部が人の体に直接生えてくる』のよ、『ねこみみ病のケモノ化』って」

「といってもヒトに存在しない部位、こういう耳とかしっぽとか羽とかなことがほとんどですにゃ」

 

くるんと丸くなるしっぽ。

 

さっき僕はあれをじっくり堪能して……。

 

「それでね? 『小さいころからずっと生えていたかのように』違和感なく自然と自由自在に使えるようになるのが、まさしく体の一部になるのがねこみみ病のケモノ化です。 ……急に説明しちゃったけど理解、あ、いえ、信じてもらえましたか?」

「はい、あんなに細かい動きとか、あたたかさとか力の強さとか。 機械では無理でしょうしね」

 

「………………………………んぅっ……………………」

「はいはい思い出すの止めてねみさきちゃん」

 

くすぐったがりなの、べつに恥ずかしがらないでもいいと思うんだけどなぁ。

どうせテレビでも触られたりして慣れているんだろうし。

 

「…………………………………………」

 

ねこみみ病なる不思議な病気……じゃないんだっけ、生えるやつ。

 

僕が知らなかっただけで、どうやら世間一般的には認知されているものらしい。

 

でも……自己紹介で魔法さんが起きた。

 

自己紹介と言うからにはこの話題も出たんだろうし、僕に掛かっている魔法さんが何らかの形でねこみみ病に関係している可能性もある。

 

っていうか自分にない部分が生えるとかは体が完全に生まれ変わったみたいになっちゃってる今の僕の状態と関係がありそう。

 

……どうせだから聞いてみよう。

 

大丈夫、キャンセルして戻って来る方法は、もう分かったから。

 

「えっと、その……それって、マンガとかアニメで昔からよくある……『魔法とかで変身する』っていうもの」

 

……ひと呼吸のあいだにつばをごくりと飲み込む。

 

「……それで、その状態が続くようになるっていうもの……っていう理解でいいんでしょうか?」

 

かなりどきどきしながら口にしてみた……けど、今度は何も起きてない……っぽい?

 

「そんな感じでOKですにゃ」

 

さらっとすぐに答えが返って来る。

 

……どうやら大丈夫だったみたい。

 

じゃあこれは関係なかったのかな……。

 

「若い世代……って言ってもゲームとかマンガに馴染みのある人だから大半の人なんですにゃ? そうやってお手軽に理解してもらえるのが手っ取り早いのですにゃ」

「こう言う表現で嫌になったりしませんか?」

「にゃ? 別に抵抗はないですにゃ」

 

「……それじゃあ……それはいきなり生えるものだったりしますか? たとえば」

 

大丈夫なはず。

 

「――――――――――『ある朝いきなり生えている』とか」

 

「あれ? 響くん、知ってたの?」

「……いえ、マンガとかだとそうなので」

 

「あ、確かにそうねぇ。 何でか知らないけど寝ていた内にって言うのが多いわよね、マンガだと……現実もそうなのは偶然なのかな?」

 

……これも、僕が女の子になったときとおんなじ。

 

「あ――……恥ずかしいからあんまりじろじろ見ないでくださいにゃ? 私のときはですね、さっき言ったとおりにある日突然……もう2年くらい前になりますけどにゃ、その日の朝に起きて『なんだかちょーっとなにかが変だな』くらいは思っていましたにゃ。 でも『気がつけなかったんです』にゃ。 コレが生えていたのを鏡でも見たはずですし着替えのときも違和感こそあったものの、あ、着替えにいちいち邪魔でやっぱりなんだか変な感じはあったんですけど、それ自体を……ぜんぜんなんとも、不思議だとも思いませんでしたにゃ」

 

ねこみみがぴこぴことしている。

 

「髪を梳かしたり、着替えたときもだよね?」

「はいですにゃ。 髪の毛を梳かすときに、最初に耳……猫の方の……に引っかかってちょっと痛くって不思議だとは思いましたけど、それがついていること自体にはなんにも思いませんでしたし。 パンツ……あ、いえ、男の子にはズボンって言ったほうがいいんだったような」

「そうね、一応は。 テレビとおんなじ感じでお願い」

 

「はいですにゃ。 ……その日はズボンだったんですけどにゃ? ズボンも、腰のところでしっぽに引っかかっていつものところまで、腰まで上げられなくって。 それでも『なんだかおかしいなー』くらいでしたにゃ」

 

「だから今日も。 いえ、それからずっとスカートなんですか?」

 

と、さっきしっぽのつけ根近くを触ったときのことを思い出して島子さんのしっぽの先を見てみる。

 

確かシャツの下、スカートの上から生えていたような。

 

「いえ、ちょっとだけ下ならズボンでも問題ないですにゃ。 腰の位置が低いデザインのものならそもそも問題ありませんし。 ベルトをきつく締めすぎたり硬すぎる素材のものだったりしなければたいていのはなんとか履けますし。 ……まぁちょっとだけかさばりますしズボン自体も下げないといけないものの方が多いので、今では私のしっぽの位置にあったメーカーとかデザインのだけしか履きませんけどにゃ。 あとケモノ化の宣伝とかで私たち専用の服とかも作れられているので、そのモニターを兼ねていっぱいもらったりしていますにゃ」

「そうなんですか」

 

ということは、あのしっぽは島子さんのおしりというよりは腰から生えているということになるのかな?

 

まぁくわしい場所は……相手は女の子だし、さすがに聞くと失礼だな。

もう僕が男って言ってあるし……帰ったらネットで調べてみよう。

 

「それに、ねこみみ病でしっぽ生えるのは男性でもいますし。 男性がズボン履けなくなったら大変ですにゃ?」

「そうですね」

 

男がズボン履けない……危機的状況だ。

スカート穿くか露出するかの極限の二択。

 

僕なら嫌だ。

 

「だからだいたいの場合は違和感はあっても普通の服のままでもなんとか過ごせるんですにゃ。 しっぽの太さにも種族差とか個人差も大きいですし。 …………慣れてくると体型的にどうしても身につけられないっていう服が増えちゃった、そのくらいですにゃ」

「なるほど」

 

「というわけでとにかく私にこういう……耳は手のひらサイズの大きいので、しっぽに至ってはだらんとしたら立ったままでも毛先が地面についちゃいそうなくらいの長さのこれがいきなり生えていても『それが私の体の一部だっていう感覚で、違和感なんてゼロだった』んですにゃ」

 

「………………………………不思議ですね」

「不思議ですにゃあ。 これも個人差なんですにゃあ」

 

「でね? 響くん。 ケモノ化するとね、運動神経とか筋肉量とかが生える……いえ、くっついたところだけじゃなくてそれ以外の全身に至るまで、その元となった動物にかなり近いところまで発達していることが多いんですよ。 例えばみさきちゃんなら猫……というよりはネコ科のヒョウとかをイメージしてもらうといいんですけど、そのサイズになった動物とでもいうように」

 

「筋肉も前よりもずっと増えましたにゃ。 おかげで体重もびっくりするぐらいには増えているんですけど、でも引き締まったおかげで前よりはむしろスタイルよくなったんですにゃ。 ケモノ化で体重爆増したので別にバレてもこのせいだからって平気なくらいにですにゃ」

 

「よく折れないわねっていうくらいには体柔らかくなったしね?」

「関節の可動域もなんとかってことらしいので体じゅうが造り変わってるのですにゃ」

 

「………………………………」

 

つまり猫島子さんは、やろうと思えば岩本さんを担いで、それこそ映画みたいに建物の上とかを飛び越えて逃げたりもできたんじゃ……いやそれだと余計に目立つどころじゃないか。

 

なにより危ないしな、電線とかアンテナとか。

 

そうでなくても目立つんだ、なんとか手を引いて走るくらいしかできなかったんだろう。

ドラマのロケにしては派手すぎるし映画だったら町中でそんなアクションシーン撮らないだろうしなぁ。

 

……そうか、別に、ヒトより優れた……超人的な身体能力を手に入れたってそれをいつも全力で使えるわけじゃないのか、こんな時代じゃ。

 

なんだか世知辛いなぁ。

 

そんなすごいことが起きてるのに肝心のその人たちは見た目が変わる以外ほとんど普通に過ごさなきゃいけないもんね。

 

ちょうど、僕みたいに。


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