【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
高校生ってことは17歳くらいって考えるとそれより3歳くらい下のあの子たちにとって僕の世代はさらに上になるということ。
先輩に向かって……って言うか17歳にとっての27歳って力関係とかその他もろもろ圧倒的なんだろうによくおばさんなんて言えたね……それほど仲が良いんだろうって思っておく。
そうして僕がおじさんおばさん問題にもんもんとしているあいだにもコントは続いていたらしい。
「…………み・さ・き・ちゃーん? さっきからナニ失礼なことばっか言ってるのかなー?」
「いだだだ暴力は反対ですにゃ! だいたいいっつもおんなじこと隣で聞かされ続けてきた私の身にもなってくださいにゃ! 尊敬してい『た』はずの先輩が!」
「あぁん!?」
さっきまでとはまるでちがう声がおんなじ岩本さんのはずの人の口から出ている。
……やっぱり女の子も女の人も怖い。
「譲りませんにゃ! だから暴力反対! あ、ちょ、痛っ! ……いい加減耳タコなんですにゃこのやりとり! しかも中学生の子に同い年くらいに見られたからって言って年甲斐もなくはしゃいで! 今は私と同じくらいの肉体年齢で同い年ってことにしてもらっているんですから年増って言ってもいいじゃないですかにゃ! どーせネットじゃとっくにそういう扱いですし! 持ちネタなんだから良いですにゃ! センパイならセンパイらしく大人な対応を!」
「たしかにその通りね。 けど、それとこれとは別」
「に〝ゃ――――――――――――――っ!?」
こめかみを器用にぐりぐりと……あれ痛そう……したりしながら、いつもやっているらしいコントを続けているふたり。
ねこみみとしっぽが荒ぶっている。
けど本当に慣れているんだなぁ、ふたりでこうして説明するっていうの。
だってボケとツッコミが違和感なく、まるで今「本気で怒って怒られている」ってしか感じないくらいだし。
すごいなぁ。
さっきの怒った声も多分演技で、本当に怒るとこんなもんじゃないんだろうなぁ。
……それにしても、「若返り」。
それがはたして島子さんみたいなねこみみ病なのかはともかく……いや、本人たちがそういうニュアンスで言っている以上そうなんだろうけど……でも、話を聞く限り……10歳。
「くらい」っていうのはきっと正確にはわからないからなんだろう。
だって肉体年齢ってちょっとした生活習慣でだいぶ変わるもんだし。
実際、僕が引きこもっていたときに買った体重計とかでの肉体年齢は30を超えていたのに、それが運動とかをし始めて健康になってきたときにふと測ってみたら10代にまでなっていて当てにならないなぁって思ったし。
つまりは機械での肉体年齢っていうのはあんまり当てにならなくって、それよりもお肌の調子とか生活とか運動習慣とかストレスとか。
あとはこれも個人差だけど、成長期の終わりのタイミングな20代中盤とか……本人の意識とで判別するしかないわけで。
いや、病院とかで厳密に調べたらある程度はわかるのかな。
でも同い年ってことにしてるってことはやっぱり曖昧なんだろう。
「…………その」
でも聞いておかないと。
僕にも関係あるはずだもんな、若返りって。
「だーかーらーいい加減子どもっぽい怒り方は、あ、ひかりさんひかりさんっ! 響さん! 響さんがお話ししていますにゃっ」
「……しょうがない、今はこれで許す。 ごめんねー響くん、いつもの調子で、つい」
やっぱりいつもしていたらしい。
染みついちゃっているんだろうな、きっと。
「いえ。 それより、その、若返ったというのはどうして……いえ、どうやって分かったんでしょうか。 あと、その若返るというのは先ほどのケモノ化……耳やしっぽが生えるのとはずいぶんとちがいますし、それでもねこみみ病なんですか?」
「あら響くん、急に興味津々。 ……若返りの逆とかで大きくなりたかったりするのかな?」
「いえ別に」
子供が大人になる……確かに子供は大人に憧れるけどそのパターンがあるとしたら地獄。
いや、でも……若返るならその逆って。
「あ、先に言いますとそれはないですにゃ。 少なくともまだ確認されてないですね」
「そうですか」
「ですねぇ。 で、若返りですけど……こほん。 響くんにはまだまだ先の話ですけど、背が伸びたり、あとは響くんの体は女子だし……だよね? ……うん、で、そろそろ胸が大きくなってきたりもするんだろうけど、その時期、成長期って遅くても大学生のうち……20くらいですね、そのくらいで終わるんです」
………………………………胸。
僕にそのおっぱいとやらがきちんと育ってくるのか、それ以前に成長できるのかはともかく。
ついでに言えば僕はもう少しあとまで背とか伸びていた気がするから、成長期ってのは個人差がありそう。
「もちろん個人差はありますよ? 身長とか中学生くらいで止まっちゃう子もいれば30くらいまで伸びていた人とかもいましたねぇ」
「同世代の方でしたにゃ?」
「いちいち言わないの、もうっ。 とにかくそうして成長期が終わって成長しきって、成長が止まって……つまりは老化が始まっても。 しばらく……数年はなにも起きないもんですから『私の体はこのままずっと若いんだ』って思っちゃうの」
わかる。
すっごくわかる。
だって僕も、前の僕だったころ。
……その、老化というやつを実感し始めていたんだし。
だからこそ前の僕から今の僕になったあの朝に、見た目のことはもちろんだけどそれ以上に体の不快感がなくなっていたことに……気がついてびっくりしたわけで。
まぁそれ以上にベッドから下ろした脚で、ズボンで、男物のパンツで分かったんだけど。
「……ごめんなさいですにゃぁ……だからそろそろ許してぇ……」
「けど、だいたい25くらいだったかなぁ」
「やっぱりオバサンじゃないですかにゃ」とかまた余計なことを言って折檻された様子。
……こめかみのぐりぐりってそんなに痛かったっけ?
けど、ねこみみもしっぽもしおれているんだから相当なダメージはあったみたい。
「……うう、痛かったですにゃ……」
頭を抱えて涙ぐんでいる島子さんと、それとは対照的にどこか黄昏れた感じになっている岩本さん。
「私のときは25くらいかな。 そのくらいからだんだん体がだるいって感じるときが増えてきたり、あとはお肌もちょっと寝不足なんかするとすぐに荒れてきたりして……『あ、私もとうとう老化する歳になっちゃったんだ……』って自覚……してしまったんですよ」
なんだかわかる気がする。
ある時期を境に寝起きのだるさっていうのを感じるようになったような。
あとはお酒を思いっ切り呑めなくなったりとか。
「わかりやすいたとえで言うなら、そうですね。 ……お昼寝、学校の机とかでしたことある? そう、ならそうしてちょっとうとうとして起きるとさ、お肌に腕とか服とか、あるいはノートとかの形に跡が残るでしょう? けど、その跡……ほっぺたとかについたそれ、響くんの歳なら気がつかないうちにすっと消えるけど、そうならなくなってなかなか消えなくなったりするようになるのよ」
そうだっけ?
「そうなんですか?」
「そうなの。 寝起きの顔のむくみなんかもなかなか取れなくなるの。 だから朝は寝坊なんかできなくって、早く起きておいてからお化粧しないといけないのよ……おとなの女性って」
僕はそういうの特には気にならなかったけどなぁ。
……まぁ滅多に外出もしない、誰とも会わない、家の中にいたって鏡を見るのは朝とおふろくらいだったし、なにより顔なんかぜんぜん気にしていなかったっていうせいで、ただそうなっていたのに気がつかなかっただけかもしれないけど。
あと、顔にそこまで気を遣わなくてもいい男だった……からっていうのもあったか。
「……あとはね、徹夜明けがとてもつらくなって……いえ、そもそも徹夜そのものが、どんなに楽しいことをしていても体の限界って感じで厳しくなってきたり。 ほかにもあっちこっちの痛みとか、どこも悪くないはずなのに出てきたりしてねぇ……そうなる前までは……たったの、1年前の24のときとかにはこれっぽっちもなかった感覚が、体の衰えというものが現れて来ちゃうのがそのくらいなのよ」
「老化ってイヤですにゃぁ」
「みさきちゃんも、どんだけ始まるのが遅くたって10年後にはそうなっているわよ? イヤでも、どれだけ抵抗しても。 だって人間なんだもの」
「いやですにゃぁぁぁ……」
「健康診断とかも、ひととおり、それも毎年。 30超えたらまちがいなく受けておかないとって言うしね?」
「もう止めましょうにゃあ、年、取るのこわくなってきましたにゃぁ……」
「みさきちゃんならまだまだ先のことじゃない。 お酒飲めるようになって慣れてきてから焦ればいいの」
「どう考えてもそれじゃ遅いですにゃ」
「むむ」
今まで大丈夫だったお酒の飲み方とか飲む量とか、そういうのがある時期……覚えていないけど、でもここ1、2年で急につらくなって、意地になって飲むとダウンしやすくなったり。
二日酔いっていうの、今まではしたことすらなかったのに初めて経験したり。
……なるほど、これが老化だったのか。
てっきり引きこもりのときに体が弱ったせいだって思っていたけど、もしかしたら老化、僕にはもっと早く来ていたのかも。
考えたくはないけどそう考えてみると引きこもりで自律神経がおかしくなっていたっていうのじゃないかもっていう体の不調も、いくつか思い当たるし。
たとえば一時的に汗とかがひどいことになって、けど収まっても前みたいには戻らなくって。
たとえば飲んだ翌日の胃もたれとか、おなかの痛みとか。
老化なんて30過ぎてからの話だろうって思っていたんだけど……もしかして意外と早い?
もしそうなら今の僕にそういう感覚が皆無っていうのとか説明がついちゃうし。
幼女だからってわけじゃなくて、ただ単純に成長期だからってことで?
……知りたくなかったかも。
なんだか前の僕に戻りたくない気持ちがほんのちょっぴり芽生えてきちゃったし。
いや、戻らないわけにはいかないんだけども。
「……あとは、そうですねぇ。 女の子的には、いえ、油断した男の人もあっというまにそうなるので、これはみさきちゃんも覚えて置いたほうがいいと思うけど。 食べる量です」
「にゃ?」
「ご飯の量。 特に夜。 それまで以上に気をつけておかないと、ほんとうに1ヶ月とかそのくらいでおなか周りのお肉が、ウエストが、ズボンを履いたら自分でもわかるし、他の人からでもなんとなーくわかっちゃうようになること。 あとは地味にふとももとかね?」
「おっそろしいですにゃ……」
太りやすいっていうのは……なかった、かな?
というよりは僕は元から少食だったし。
甘い物好きで、しかも外食がどうしても多くなっちゃうお仕事柄のせいっていうの、あとは女性っていうのが大きい気がするんだけど。
「でっ、でもっ! 私はこうして猫の体になっているわけだし、きっと大丈夫」
「ほんとうに? ネット探せばデブ猫なんていっくらでもいるわよ?」
「デブ猫はいやですにゃ用心しますにゃ、サボってたトレーニングもひかりさんにおつきあいしますにゃ」
「それがいいわよ? もっとも、これはむしろそのくらいになってきてからが大切な習慣なんだけどね、筋肉の維持って。 ……あ、ごめんね響くん、嫌なことばっかりで」
「いえ」
「……で、こうしてひとつひとつ挙げてみたら、もういちど、いずれは来るだろう10年後くらい……いえ、おんなじようにふ、ふ、……老ける、のなら、あと7年くらいがリミットかな? とにかく思い出すだけで私もつらくなってきたからもう止めるけど、とにかく私の元の肉体年齢っていうのはそういうものなんです」
「言われてみれば、ぜんっぜんそうは思っていませんでしたけどにゃ、ひかりさんの顔とかもシワがいだだだだ!!」
こんどはねこみみがやられている。
「……わかりました? 響くん。 たしかに今の私は概算で……おおざっぱに言えばみさきちゃんと同い年くらいだけど、でも、元は君よりもずっと年上だったっていうこと」
「はい」
よくわかった。
岩本さんは、少なくとも前の僕と同世代だっていうことを。
……けど、なるほど。
敏感なんだから、ねこみみ、つまみ上げるだけで痛いんだ。
かわいそうになぁ。
じゃなくて……そうか。
若返り。
目の前に座っているこの人もなったんだ。
僕みたいに10歳くらいを……いや、僕は15歳くらいかな……下手すると20歳くらいなんだけど、とにかく若返った。
お医者さんが「そういう現象がある」って認めてる。
……だったら僕のこれも、性別が変わるってことさえクリアすれば……。