【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
ねこみみ病と僕の今。
ケモノ化と若返り……化とは言わなさそうだな……と、幼女になった僕の関係。
すぐそばに、手を伸ばせば……1回口を開けばその答えは返ってきそう。
でもそのときに魔法さんがどんなことをするのかって思うと……まだ怖い。
そうしている僕の前で、ねこみみと人の耳をセットでつまみ上げられて「たしたしっ」とタップしてようやく解放された猫さんたちは戯れている。
「……しかぁし! しかしですね響くん、ねこみみ病を私が発症したって自覚したのはその経験あってこそだったんです!」
「……というと?」
ちょっともの思いに沈むと直前の文脈が分からなくなるのが僕の悪いクセだ。
むふん、と胸を張りつつあざとい岩本さんが僕を見てくる。
何か良いことあったんだろうか。
「ある日を境に……って言っても私の場合もみさきちゃんみたいに正確には覚えていませんけどね。 私はたいして見た目変わりませんでしたし」
「ほんとですにゃー? だってにじゅうななからじゅう……あ、なんでもないですにゃほんとですにゃ」
「……こほん。 とにかくある時期を境にね? ねこみみ病になったと思しき時期をまたいでからは体が重いとかどこかが痛いとかお肌がーとか、そういったイヤーな老化での感覚がみんななくなっていたのよ! 多少夜更かししても体は軽いままだしお肌のダメージもたいしたことなくって、お化粧のノリがいい……いえ、それ以前にお化粧をしなくても出歩けちゃったりするほどにはコンディションがいいんです! すっぴんで外に出られるって最高って知ったのよ……!」
「私、学校はすっぴんですにゃ?」
「現役女子高生は黙ってなさい」
「にゃー」
僕は男で良かった……お化粧って言うめんどくさいのがないってだけでヒゲ剃りの手間を遙かに上回っているもん。
それに加えて髪の毛のお手入れとかいろいろあるし……本当女の子ってめんどうだよね。
「髪の毛のお手入れも……痛みにくくなったのですっごく楽になりましたし。 それになにより高校生ファッションしても『うわキツ』とか言われないので本当に人生が明るくって……!」
うん、気持ちは分かる。
僕だってただ高校生くらいに若返っただけならきっと喜ぶだけだっただろうし。
幼女にさえならなければ。
いや、せめて高校生くらいの年齢だったら女の子でも……それだといろいろまずいからやっぱいいや。
「私にはまだよくわかりませんけどにゃ、とにかく私のついでに調べてみたらお肌とかだけじゃなくて内臓とか骨とか……科学的に調べてもらったら体のすべてが明らかに高校生くらいのものだった、でしたにゃ?」
「そうなのよ。 もともと私みたいに若返ったっていう報告も前から少しずつ上がっていたみたいだからスムーズに調べて貰えたし!」
――若返ったっていう報告。
つまり……これもまた一般的なものになっていて。
「それに私の場合は……ほら、デビューが中学生だったからその頃の映像とかがばっちり残っているわけで、つまりは骨格とかまでかなり細かく記録されていたってこともあってね?」
「お得でしたにゃ?」
「まぁね……実際若返った直後から『別人じゃない?』とか『替え玉だ』とか。 『妹だ』とかはまだ良くって、ひどいところじゃ『私の子供だ!』とかネットで言われはじめていたしで必要だったっていうのもあるの。 噂だけで大変なことになる業界だしねぇ……私が若作りしすぎだっていうのはまだよかったんだけど、いや、よくはなかったんだけど!!」
「まーお子さんは言い過ぎですにゃー、だって忙しすぎるのとネームバリューすぎてお相手すみませんお口チャックしますにゃ」
――ねこみみ病。
生えたりするだけじゃなくって若返ることもあるよく分からない病気……でもないらしい何か。
そういう人が、少なくともテレビで賑やかになるほどには増えていて。
「それまではいろんな学説で別れていて、こういうのはみんな別の名前がつけられるところだったんだけど……というか実際にそうでしたしね、初期の初期は。 でも、あんまりにも同時期にこうも『人の姿形が変わる』っていう症例が全世界でまとめて出てきちゃったものですから、学者さんたちもついに降参したらしいんです」
「あのころの論戦はなぜか私たちまで同席させられたのでよーく覚えていますけど、ほんとうにわけわかんないものでしたにゃ。 科学者とか政治家さんたちの派閥が大変みたいでしたにゃ」
「まー、お偉いさんたちにも譲れない部分っていうのがあるんでしょう、きっと。 で、ひととおりケンカした後で『もしかしたらねこみみ病は元の体に追加でなにかが生えたりくっついたりするだけじゃなくって、若返ったり、あるいは体のどこかのパーツだったり全身だったり。 そういうように体になんらかの影響や変化を及ぼす現代の科学では説明がつかないモノ、それの一部なんじゃないか』っていう大雑把な区切りになったみたいね」
「………………………………」
「1年くらい前でしたかにゃあ、ひかりさんの若返りの件が宙ぶらりんになったまますったもんだした末にようやく『もうめんどくさいしキリがないから、とりあえずでこういう変化が起きたりしたらもうねこみみ病でいいよね』って言う方向になったって聞かされましたにゃ。 それ以前にもう世間で有名になり過ぎちゃって今さら変えてもたぶん定着しないだろうしっていうことで」
「つまりは現時点ではまだあやふやなものですね。 きっとお偉いさんたちの意見も変わらずにばらばらでしょうし普通の人が持っているイメージもまた、きっとばらばらなはずです」
「説明がしやすい。 ぱっとわかる。 とっても大切なことですにゃぁ。 まーあと何年かすればみんな落ち着いてきてはっきりしますにゃ。 ほら、新種の病気とかでも2、3年経てば……」
――ねこみみ病は、カラダが変わるもの。
その総称。
――成人男性から幼女は?
魔法さんのあれは?
「目の形とか色、まぶたとかまつげとかそういうちょっとしたところが変わっていたり、女の子だったらバストサイズがちょびっと増えたり減っていたり、『気のせいかな』っていうレベルの小さな変化から、私たちみたいに明らかに変わっちゃうもの。 そういう本人では気がつかない……もっとも私の場合も初めはなんでか気がつかなかったんですけどにゃ、目立たない変化でさえもねこみみ病なケースである可能性もあるらしいのですにゃ」
ほんのちょっとした変化から、自分どころか他人から見てもはっきりとわかる変化まで。
……島子さんみたいに自分では気がつかないくらいから、その時期に感覚でなんとなくわかっていた岩本さんみたいなパターンまである。
そんな幅の広すぎる、けれど普通ではありえない……ありえなかった、魔法さんがなにかをしたんじゃない限りは起き得ないそんな変化までが世間では許容されている。
僕が情報に疎かっただけで、世間はとっくにそれを受け入れていて。
まるでウラシマだ。
3ヶ月だもんな。
――「魔法」、超常現象、未知の病気、ありえないもの、あるいは運命のいたずら。
魔法さん。
ねこみみ病。
もし。
もしそうだとしたら僕は。
やっぱりこの子たちに「僕もそうかも」って言えば――すぐに楽になれる。
でもそうじゃなくて――洋画の怖いシーンみたいに酷い目に遭うかもしれない。
「あ、そう言えば私のこの耳としっぽだってずーっと生えているわけじゃないんですにゃ」
「………………………………そうなんですか?」
意識が一気に引き戻されて島子さんのねこみみとしっぽにぜんぶの意識が飛んでいく。
……あの柔らかくていい匂いのあれが消えることがある……っていうこと?
信じたくない、いや、信じられない。
そんなのは人類の損失じゃないか。
「ややっこしいことにそうなんですにゃー。 ずっと生えていたかと思ったら寝ているあいだに消えてそれから何日かいなくなっていて、次に目が覚めたら『あ、また生えてる』っていうこともあるくらいで。 まぁそう滅多にはないんですけど……私だけじゃなくて『たまーに戻る人も居るらしい』ですにゃ。 お医者さまも学者さまも頭抱えてましたっけ? そうなるタイミングも完全にランダムですし、なにかがあったからとかそういうわけでもないですしにゃぁ……『身体能力まで変わるとなるとただ消えただけではないはず……』とかぶつぶつ言ってましたにゃ」
「あー、みさきちゃんのもまたレアケースらしいしねー。 フツーはいちど生えたらそれっきりらしいよ?」
ふつーは生えっぱなし。
それなら良いんだ。
「知ってますにゃ。 だからこそこうして担ぎ上げられているわけで……ひかりさんだって同じですにゃ? 10年なんてものすっごく珍しいらしいですし? おかげで最初のころは満足に外も出歩けませんでしたにゃー」
「まぁね―、6年ものさんとか8年ものさんがポツポツ出てきてくれたおかげで、やっとそこまでじゃなくなってきたかんじかな――」
「10年モノ……まるでお酒みたいな。 やはり、おば……いえなんでもにゃああ!?」
「いちいち余計よー? みさきちゃーん?」
「にゃー!!」
「………………………………」
10年モノのワインとかワインセラーにあったっけなぁ。
そろそろ飲んでもいいかも。
あぁいやでも、ここまでため込んだんだからいっそのこともっと熟成させたい気もするな。
……そんなことを考えて決断を先送りにしようってしている僕自身をはっきり自覚している。
うん、分かっているんだ。
ただ勇気が無いだけ。
「というわけでー、だいたい分かったかな? ねこみみ病っていうのはまだまだよくわかっていない、病気かどうかすらもわかっていない『なにか』。 でもたくさんの人が、それはもうバリエーション豊富なもんだから現実に存在する未知だけど既知になりつつあるなにかなの。 ……って感じでいつも教えているんだけど……どう?」
「よく分かりました」
「あ、ちなみに生えていないときはこんな感じですにゃ?」って言ってしっぽを僕から見えないところに隠して、耳も自分でぺたりと髪の毛の上にのっけて両手で隠すようにしている島子さん。
……たしかに以前ちらっとだけどちょっと昔の島子さんの写真を載せているページとかで見たこの子の姿になっている。
トレードマークが黒髪に緑メガネだけっていう、わりとおとなしめな見た目の子に。
「……なるほど」
「ごめんねー、これくらい知っててようやくさっきの話について行ける感じだったもんね。 気がつかなくってごめんなさい! 本当ならもう1回話したいけど……そろそろよねぇ」
「いえ、先ほど言わなかった僕が悪いのでお気になさらないでください」
ねこみみ病。
見た目が変化。
――だから魔法さんは僕をさっきみたいに変な感じにして「隔離」して。
けど今はなぜか隔離されていなくって。
あいかわらずにさっぱりな魔法さん――だけど。
「……つまりその、ねこみみ病は」
やっぱり踏み出したい。
例えその先が……でも。
「形態、あるいは種類を問わずになんらかの変化が……肉体上のなんらかの変化。 それが目に見えるか気がつけるかは別としてある日突然に現れるもの……」
「……響くんって難しい本とか読んでるよね? 言い回しとか」
「私よりずっと読んでそうですにゃ」
確認するために……ついでになんとなく髪の毛が偏っている感じがしたから顔を反対側に傾けつつ「あ、これ、わからないときのジェスチャーじゃないかな?」って思いながら言ってみる。
あ、髪の毛がいい具合に戻った。
なんだかしっくりくる。
よし。
「やだ、響くん自然にかわいい」
「男の子にかわいいはNGにゃ?」
やっぱり量が多いと風とか動作とかちょっとした加減で髪の毛、偏るよなぁ。
重いし前髪が目を隠してくるからすぐにわかるんだけど、とにかくいちいちめんどくさい。
……前にかがりとりさりんさんにつけられちゃったときみたいにヘアピンとかしてみようかな……そのくらいなら魔法さんも怒りはしないだろうし。
いくらなんでもさすがにヘアピンひとつでぶち切れて吹っ飛ばして壊したりなんかしたら逆に笑っちゃうし。
そんなどうでも良いこと考えてひと呼吸。
……大丈夫だ、きっと。
「……でもちょっと、この子ホントに中学生? 今どきの中学生ってこんなに知的なの? ナントカ世代って言うんだよね? なんだか私、もっと上な気がしてきたんだけど」
「だーからこそこそ話すのは悪いクセですにゃ。 私みたいなケモノ化している人には筒抜けなんですにゃ? それに聴覚が敏感な人だって。 響さんもドアの外の音とかちらちら気になっていたみたいですし、耳、とてもいいほうなんじゃないですか? ねぇ?」
ひそひそ話始めたポニーさんに……そう言えば耳が4つならそりゃあ聞こえるだろうなぁって思いつつ「今の僕の聴力とか視力もおんなじ理由なのかな」って。
「え〝……ウソ」
「……あ、はい、聞こえはしますけど気にしていません」
僕は嘘はつきたくない。
少なくともこんなことくらいじゃ。
「あ――…………ごめんね……?」
「平気です。 年齢はいつも間違えられますから」
相手のためのウソなら許容範囲。
嘘じゃない範囲のウソなら僕自身が耐えられる。
「学校……せんぱいでも小学校なら通ってましたし、クラスとかにも昔からいましたにゃ? 他の子よりも大人びていて本とかたくさん読んでいて頭も良くって、まるで学年がいくつか上みたいな子。 お嬢様……じゃないんですにゃよね、ならお坊ちゃまみたいですし、きっと英才教育と元からの響さんの素質なんですにゃ」
「そっか」
……魔法さんがわざわざ僕に知らせまいとしてきた、ねこみみ病。
起きたら見た目が変わっている……つまりは寝ているあいだに変わっている、ねこみみ病。
――寝ているあいだといえば、あの夢、あの3ヶ月……にもなんらかの関係があるようにも感じられる、ねこみみ病。
もう9ヶ月も前になった、この、銀髪幼女への変身……魔法さん。
――このタイミングを逃したら聞けるのは最後かもしれない。
言おう。
それでどうなるかは分からないけど……この子たちが無事なんだ、きっと僕だって……。