【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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35話 「ねこみみ病」 7/7

 

ねこみみ病。

 

なんだかバリエーション豊かみたいだし、人によってばらばらみたいだしなよく分からないもの。

当事者……って言うか政府から依頼受けて広報してる人たちがそう言うんだからそうなんだろう。

 

だけど――外見が、姿形が、見た目が、ある日突然に――変わる。

起きてみたら別の何かになっている。

 

それだけは共通しているらしいもの。

 

やっぱりそれなら――成人男性から少女、幼女へと変わった、僕を襲ったこの変化。

 

ねこみみ病と、魔法さん。

 

寝たら戻って、何日かしたらまた幼女になる……みたいにはならないけど、岩本さんみたいに……断言はしていないけどあんなに喜んでいたあたり、きっと永続的に変わり続けるだろう変化。

 

若くなる、見た目が変わる。

それがセットで起きて、性別まで変わった例があればクリアなんだ。

 

性別が変われば顔だって相当変わるだろう。

 

…………性別。

 

男から女へ。

 

そうだ、性別だ。

これさえ合っていれば、僕もこのふたりに仲間なんだって言える。

 

ひとりぼっちじゃ、もう、なくなる。

 

ひとりで悩まないで済む。

 

みんなに説明しやすい概念のそれってことになれば大手を振って説明できる。

――だから、今まで嘘ついてごまかしていたんだって言いやすくなる。

 

嘘は謝らなきゃならないけど、でもこういう事情があったんだよって。

 

「………………すみません」

 

「はい?」

「なんですにゃ? あ、そろそろですか?」

 

「いえ、連絡はまだで――ひとつだけ聞きたいことがあって」

 

心臓がばくばくとうるさい。

 

手のひらから、背中から、じっとりと汗が出ている。

けど、今こそがタイミングの良い「鉄則」のときなんだ。

 

「……興味本位。 そう、なんとなくで思いついたんですけど、それって、その」

 

ちゃんと予防線は張っておく。

 

「……最近読んだマンガであったんですけど」

 

僕がそうだって分かってまずいときのために。

魔法さんにも「たとえだから」って牽制しておいて。

 

「――性別が変わったりする変化。 男の人から女の人へ。 あるいは、女の人から男の人へ。 それとか、顔が親戚の誰にも似ていなくなったり……そういったりするのも、ねこみみ病の症状のうちにあったり……するんでしょうか」

 

僕はとうとうそれを口にした。

 

……けど、すぐに返って来たのは明るい笑い声。

 

「あははっ、響くーん、そこまではありませんよー」

「笑っちゃダメですにゃ。 響さんマジメですにゃ」

「うん、ごめんごめん。 でも、てっきり……だって」

 

目じりを拭う彼女が「本当にごめんね」って言う。

 

「響くんがそんなに真剣な感じで聞いてくるから、てっきり身内とかのお知り合いにもいるのかって思ったの。 ほら、お家の方針でテレビとかネット見ないんでしょ? ならご家族の方も知らないのかなぁって」

「あー、確かに。 今でも知らない人いますもんにゃあ」

 

「でも響くんがマジメな顔で……ううん、バカにしているんじゃなくて、そういう可能性も確かにあるよねって思ったの。 ふふ、ごめんなさい? でもまぁ昔からそういうのいっぱいありますからねぇ。 呪いとか『魔法』とか」

 

ぎゅっとお腹に力を込める――――――けど、魔法さんは無反応。

 

……これもセーフ?

それとも今はここに居ないだけ?

 

「あー、この前やったソシャゲのキャラにもいましたにゃ? なんでしたっけ、てぃーえす、でしたかにゃ? なんか定期的に人気なキャラとか出てきますにゃ。 漫画とかで昔から根強い人気だって聞きますにゃー?」

 

性別が変わることについて直接ではないにせよ間接に聞いてみても、口に出しても……それに対してなんにもアクションが無い。

 

「で、ですね? この病気……っていうよりは症候群とか変化とか変異とか呼び方も学者さんそれぞれなのでどう表現してもいいんでしょうけど、とにかくこのねこみみ病には『それはありえません』ねぇ」

 

「……ありえないんですか?」

「えぇ、ぜったいに」

 

ばっさり切り捨てられた。

 

だって見た目が変わるっていうことは……性別が変わったとしてもおかしくはないはずなのに。

なんでそんなにはっきりと断言できるんだろう?

 

「見た目が変わるとは言いましたけど、それは家族とか親しい人が見ても見た目はすこーし変わってはいるけど、でも昨日までの本人だってわかるレベルの話です」

 

「そうですにゃ。 なので、みみとかしっぽが生えたりした私みたいな場合には、それ以外の変化は起きません。 それにパーツが変わるといってもせいぜいが雰囲気が変わったとか色素……お肌とかお目々とか髪の毛の色がほんの少し変わる程度ですにゃ。 最近増えてきたような顔認証とかそういうもので引っかかるようになるレベルの変化は、つまりは骨格までが変わるっていうことはほんっとうにレアケースなんですにゃ」

 

……確かに少し変わる程度だって、さっきも言っていた。

 

「つまりは周りの人が……その人のなにかが変わったって気がついたとしても、絶対に元の見た目から連想できるとか、その人だってはっきりとわかる。 その程度ですね」

「まー見た目が別人になっちゃったら……子供ならまだしも大人でなっちゃって。 顔とか性別が変わったら別人になりますにゃ? そしたら大問題ですにゃ。 今の程度じゃ済みませんにゃ」

「若返りだって私みたいな極端なのはすごく珍しい部類だしねぇ」

 

確かにそうだ。

 

僕だってこうなったからすごく困っているだけで、もしちょっと変わった程度なら「まあいっか」で済ませちゃっただろう。

 

「でも、それなら…………とても珍しいという範疇なら……今まで例はないんですか?」

「おろ、なんだか熱心ですにゃ?」

「……気になっているので」

 

ちょっと「ん?」って感じになってるけど気がつかないフリをする。

 

「まー確かに。 けど、あとひとつ性別が変わると大問題があって、このせいでたぶん無いだろうって考えられてますにゃ。 それはなんだかわかりますかにゃ?」

 

「…………………………」

 

分からない……けど、見た目が変わるのなら、僕みたいに性別が変わる人だって。

 

「あー、みさきちゃんみさきちゃん。 いくら頭良くても中学生だとまだやってないかも……いや、どうなんだろ。 昔とずいぶん違うだろうし……ほら、生物学の授業。 内容自体は知ってるかもしれないけど、もう時間もないしさっさと教えてあげて?」

 

「あ、意地悪じゃなかったんですにゃ、ごめんなさいですにゃ響さん。 それはと言いますとにゃ、男の子と女の子は……肉体の、あくまで一般的な話ですにゃ? 響さんみたいな場合を含めても肉体の性別の話ですにゃ? ……中学生くらいまでには、顔の感じも体の感じもだいぶ変わってきますにゃ。 第二次性徴っていうもので、男の子と女の子は骨格から変化してくるんですにゃ。 これは心の性別に関係なく……響さんにとっては辛いかもですけど、生物としてなってしまいますにゃ」

 

「………………………………………………………………」

 

「……その変化は男の子と女の子をわけるもので、つまりはDNAっていうものが違っているんですにゃ。 正確には染色体というものなんですけど今はいいですにゃ、多分ちょっと調べたら響さんならすぐ分かりますにゃ。 とにかくそれで……私たちみたいにねこみみ病で見た目がどんなに変わっても、DNA、体の設計図、これは元の体とおんなじなのですにゃ。 ですので性別が変わるなんて極端なのはありえないのですにゃ」

 

有り得ない。

 

染色体。

 

……そうだよな、僕って人種すら……。

 

「そんな耳とかが生えていても同じっていうのは不思議よねー」

 

「不思議ですけどそうなっているらしいんですにゃ。 だからこそこんなものが生えたりするのにDNA、遺伝子がまったく変わっていないのにもお医者さまたちがオテアゲなのですにゃ。 ……私たちみたいになってもDNAが変わらないっていうことは染色体も……男の子と女の子を完全に違う見た目にする、このミクロレベルのものまでもが『変わっていない』んですにゃ。 じゃあにゃんで私たちはこうなってるのかとかはぜんぜん分からないそうですにぇー」

 

「性別が変わったら細胞の元になる設計図に書かれているっていう男の子の成分と女の子の成分。 その情報までが変わるっていうことで、つまりは『別人になる』っていうこと。 だからそれはありえない、だったっけ。 ま、私だっておんなじ遺伝子でDNAだけど……実はお化粧する前の顔つきとか全然変わっててびっくりしたけど、でも変わったものねぇ。 この程度は誤差……ってことなのかしらね?」

 

「………………そう、なんですか」

 

せっかく見つけたって思ったのにな。

仲間に入れる、そう思ったのにな。

 

「……あ、響さんのスマホ。 ひかりさんひかりさんお会計頼んでもいいですか?」

「はいはい。 済みませーん」

 

岩本さんが席を立つ。

 

「長ーい説明になっちゃってごめんなさいですにゃ?」

「……いえ。 僕の方こそ変な思いつきで」

「良いんですにゃ、むしろいろんな質問に応えると後で楽なんですにゃ!」

 

……前の僕が今の僕になったのも魔法さんのおかしなあれやこれやも、もしかしたらねこみみ病とかいう一般的に周知されているっていう……僕ひとりだけじゃなくって、もっとたくさんの人がなっているっていうその現象。

 

そのひとつかもしれないって思った矢先に「それだけはない」って断言された。

 

そのことがよほど響いたのか……多分ようやく仲間ができて相談もできて、それでもうひとつの嘘もきちんと言えるようになるんだって思いたかったんだろうな。

 

若返りについては岩本さんも喜ぶはずだったんだ。

自分よりももっと長い時間を巻き戻ったっていう僕っていう例が出てきて、注目が少しは逸れて。

 

代わりに僕が……それはもう注目されはするだろうけど、でも今みたいになんにも分からないままでただただ自分で考えて、ときどき魔法さんに怒られるくらいしかできない今とは全然違うんだし。

 

でも、そうじゃなかった。

 

振り出しには戻らなかったけど……それどころか今日だけでとんでもない情報が手に入ったけど。

 

でも、ぬか喜び。

 

……そうだよな、ただ期待しただけなんだもんな。

 

そうしてぼーっとしている僕に気づくこともなく岩本さんはドアを開けて出て行ってしまい、空いたドアからは外の喧噪とか空気とか匂いが入ってきて一気に現実……僕たちは駅ビルの上の階で話していたんだっていうことを嫌というほどに知らされて。

 

鳴っていたスマホからは駐車場に着くって言う電話。

それを、いつもみたいにオートに任せる。

 

そうしてちょうど窓の外、真下には、僕がこれから……歩けないだろうからまたタクシーで帰るだろう、真っ白になった、僕の家があるはずの方向の町並みが広がっていて。

 

そしてふわふわと、しんしんと降り続けている雪。

 

「……んーっ、結構話しましたにゃー。 つまり響さん、ねこみみ病っていうのはあくまで自分は自分のままで、中身はほとんど変わらなくって。 でも私たちみたいに見た目だけがちょこっと変わったりするだけなんですにゃ」

「……はい」

 

「でも響さんのその考えもマジメに議論されてる話ですから荒唐無稽でもないんですにゃ。 こんだけいろんな種類があるんだったら性別だって変わるんじゃないかって言っている学者さんもいるそうですけど……今のところはあり得ないでしょって域を出ていないわけでして」

「……そうですか」

 

「でも、今のところはですからにゃ? この先でそういう人が出てきたんだったら話は変わるかもしれませんけど……でも大変なことになりそうだから公表されるかどうか、にゃ」

 

……そうだよな。

 

男が幼女になる事件が多発して、魔法さんみたいなハサミとか冬眠とか認識がおかしくなるとかになったら……世の中大騒ぎなっているはずだもんなぁ。

 

「あ、検索してみるとやったらとねこみみの女の子の画像が……ウィキとかお役所さんとか病院のホームページとかにまで載っていますけどにゃ? あれはねこみみ病の擬人化っていうもので、つまりはいつものマンガカルチャーで生まれた子なのですにゃ。 たぶんSNSとか……やってますかにゃ? あ、いえ、なんとなく、お家が厳しそーなので特に深い意味はないのですにゃ。 それで話題を追っていけばおんなじような子がいっぱい出てくるはずですにゃ」

 

そう言いながら島子さんも、席を……さりげなかったけど、たしかにしっぽも使って席を立ち。

 

しっぽを意のままに、新しい腕のように扱っているのをしっかりと見定めて。

 

先っぽの方だけちょっとぐんにゃりしながらも力強くイスのクッションを押し、立ち上がったら少しだけ後ろに押すっていうとっても便利そうなことをしていて。

 

「といってもこの子のおかげでかわいいとかぱっと見てわかりやすいとかっていう要素が揃ったマスコットキャラクターが自然に定着したおかげで、宗教的にねこみみ病が厳しい国でも比較的かんたんに受け入れられたっていうことらしいんですにゃ。 やっぱりかわいいは正義かもですにゃ?」

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