【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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36話  準備 2/6

お風呂の鏡で見るのに抵抗がなくなった僕自身を眺めていると、ふと気になったことがある。

 

前髪、ちょっと伸びた……?

 

いや、全体的に伸びているんだ。

寝ていたとしても時間は経ってるんだもんな。

 

朝は慌てていたしまだ夢の中かもって思っていたしでそこまでくわしくは見ていなかったけど、とりあえずざっくりと1、2センチくらいは伸びているのがわかる。

 

だって、前髪の束のひとつが眉毛にかかるくらいだったのがつまむと目の下まで引っ張れるくらいだし。

 

「ながい」

 

まぁ意識のない寝たきりの人だって髪の毛は伸びるっていうしな。

僕もそういう感じだったんだろう、きっと。

 

けど爪とかは……大丈夫みたいだな。

なんでかは分からないけども。

 

で、ねこみみ病のことに戻ってみると。

 

エレベーターで下りているときにも聞いたんだけど、ねこみみ病って容姿がほんの少しだけ変わるっていうケース……肌とか髪の毛とか目の色とか形とかがちょっとだけ変わったり、ちょっとだけ若返ったりするケースの方がずっと多いらしい。

 

しかもねこみみ病って、なってからしばらく自分でも気がつかないっていう島子さんみたいなケースも珍しくないらしく、さらにほんのちょっとの変化だとすれば……とっくにねこみみ病で姿形が変わっているのにまだ誰も気がついていないっていうケースも多いはずで。

 

別にその程度なら生活に支障はないし……とも思うけど、一応は数を把握しないといけないってことらしい。

だからこそああやって広報の役を……半ば強制的にらしいけど、とにかく買って出た様子。

 

ねこみみ病のメジャーかつわかりやすいねこみみしっぽと、けっこう……いや、かなりらしい……僕は知らなかったけど……人気で有名でデビュー当初に近い年まで若返った女の子のペアとして。

 

……ほ、ほら、僕が芸能人とかに詳しくなったのって今年になってからだから……。

 

あの子たちの反応を見るに大半の人が知っていたらしいアイドルって存在を全く知らなかった僕自身の無関心さはともかくとして。

 

――でも、違ったんだ。

 

あのときに「もしかして僕の、このちっこい体の原因がわかったかも……!」って思って最後の確認で聞いてみたあれ。

 

結果的に「僕もそうなんです」って先に言わなくて正解だった……男から女になるというもの。

 

僕がなっているこれ。

これは、ありえないことらしい。

 

これまでで……ちょうど僕が冬眠し始めた辺りからテレビやネットや新聞や雑誌で話題にならない日は少ないっていうほどには話題になっていたらしいねこみみ病だけど、性別が変わったとか見た目が別人のようになったっいていう報告は――――――ゼロ。

 

「ちょっとしかいない」じゃなくって本当に「誰もいない」そうで。

 

……だからもし僕がねこみみ病で若返ったんだとしても、そもそも10歳……いや、幼女だってこうしてお風呂でじっくりと今の僕の体を観察してしまうともう認めるしかないんだけど……15年くらいは若返っているはずで。

 

でも、今までのねこみみ病患者……って呼んでいいらしい、その患者さんの中でも最長が岩本さんの10年程度。

 

まぁ若返りについては成長期の子供以外には実害はまったくないし、むしろ利益しかないんだから放っておいてもいいんだろうけど……とにかく僕がねこみみ病で若返ったんだとすると、残りの5年程度の時間。

 

……これをなんとか無理やり個人差の範囲で、いや、ねこみみ病の症状の差っていう範囲で大目に見るとしたって、やっぱりちがうものなんだ。

 

見た目が人種ごとで性別ごと完全に別人の……銀髪幼女という生きものになっちゃったことには説明がつかないことになるもん。

 

DNAとか面影とかまるっと無視しているこの感じは、やっぱりねこみみ病じゃないんだろう。

 

だから、あの場で早とちりして「僕も」って言わなかったのは正しかった。

ぐっとこらえられた僕は偉かった。

 

そうは思ってもショックは大きいもの。

 

「……ふぅ」

 

頭からじんわりと汗がにじみ出てきた感覚。

僕の体はようやくに温まってきたらしい。

 

こうやって芯からあったまるのって大事だし、もうちょっとお湯でぬくぬくしていよう。

 

だから僕はねこみみ病っぽかったけど違う謎の状態って分かり直した形だからってさっきまでがっくりときていたけど、よく考えたらそもそもとして……朝、目が覚めたら体が変わっていたって言ってもねこみみ病なら変化はひとつだけだから、僕はそれに該当するはずがない。

 

仮に今後僕みたいに複数……えっと、年齢と髪の毛の色と肌の色と顔の形と体の形、人種とが1度に変わる、っていうものすごくレアなケースが出てきたとしたって。

 

遠い親戚……僕にこんな北国出身的な親戚がいるのかどうかはさっぱりだし多分居ないだろうけど、とにかく仮に親戚にいたとして、そのくらい離れた親戚くらいまではDNAが変わったりする人が出てきたとしたって。

 

そういう好都合すぎる展開が起きたとして……魔法さんのことは?

あんな非科学的な物理をどう説明できるんだっていうことになる。

 

だって特定の動作で物が勝手に動いたり、特定のキーワードで人の認識を……下手をすれば広範囲で僕からのキーワードが聞こえていた人たちまでを巻き込んで認識を変えて改ざんして隠蔽するっていう、どう考えても物理現象としても心理現象としてもありえない、それこそ超常的な魔法みたいなことが起きるっていうの。

 

これもまた「ゲームとかアニメみたいに」って予防線を張って聞いてみた限りでも、やっぱり笑われただけだし。

 

帰り際に粘ってみたけど、それでもダメだった。

 

『仮にそうだったとしたら、それはもう、みんなまとめて魔法にかかったみたいなものじゃない』って。

 

……そうだよなぁ。

 

だからこそ最初の頃にありえないんだって思って引きこもったんだもんなぁ。

 

ぽちゃぽちゃという天井からの水滴の音とぴちゃぴちゃという僕の髪の毛とかあご伝いの汗の音で、お風呂場がうるさくなってきた。

汗がしたたり落ちるくらいになってきたからじゃぶっとお湯から出て、シャワーを髪の毛に馴染ませながらシャンプーを手に取って。

 

「………………………………」

 

なんで起きたのかも、どうしてあれだけの期間だったのかも……なんで痩せる程度で済んでいたのかわからない冬眠。

 

魔法さんの仕業。

 

魔法さん――魔法。

 

あんなものが起きるんだったらもっと前から大騒ぎになっていたはずだ。

だっていきなりの意識不明が月単位だもんな。

 

たとえ何ヶ月か経ってけろりと目が覚めるって分かっていたって……誰だってびっくりする。

 

警戒する。

恐れる。

 

そんな人があちこちで全世界で起きたとしたら……寝ちゃったとしたら、きっと未知の病気とかいう扱いになって、ねこみみ病だってこんなに簡単に好意的……なのは国内を始め一部の国でだけど受け入れられるはずがない。

 

頭皮と髪の毛の毛先にまで無意識に優しくシャンプーを染みこませるようにして洗い終えて時間をかけて流し、続けてリンスを塗りたくる。

 

これも染みこませるようにした方がいいらしいんだってかがりから教え込まれて、それをマジメにやってきたんだけど……冬眠のあいだまったく痛んでいなかったんだ。

 

多分シャンプーで洗って雑に拭いて雑に梳かして雑に乾かすだけでもせいぜいが枝毛ができるだけなんだろう。

 

けど習慣化しているんだし無理に止める必要もないかなぁ。

 

もうめんどくさいとも感じなくなっているんだし。

めんどくさくないんだったらどうでもいいもんな。

 

3カ月間意識不明だった冬眠のあいだの僕……あの夢は夢だからどうでもいいとして、ああやって普通に寝たらそのまま月単位で寝ちゃうっていうのはどう考えてもまずい。

 

とてもお泊まり……あぁ約束破ったこと謝らなきゃなぁ……とかできる状態じゃないし、なによりこれがもし昼間にうとうとしたときだったり、起きている状態でもいきなりなるっていう最悪の事態を想定してみたら……今日の昼間みたいになりそうだったら危なっかしくて家から出られない。

 

ナルコレプシーっていう突然寝ちゃう病気の酷いものに近いナニカになっちゃったら。

 

「前の僕の家」に「今の僕」がいるっていう事案になっちゃうからなるべく見られないようにしたかったのと注目されたくなかったのと、なによりもめんどくさかったからっていうのもあったんだけど……今はそういう僕のわがままとかじゃなくって意図しない冬眠を防ぐためっていう切実な問題のために。

 

あまり外にいる時間……長くしないほうがいいだろうな。

遠出は避けるべきなんだ。

 

少なくともすごく眠くなってもどうにかして戻って来られる距離止まり。

 

今までだってたまたまそうならなかっただけかもしれないし、あるいは魔法さんが冬眠させたのはなんらかのなにかを蓄積した結果かも知れないんだし――路上で昏睡とかしたら大騒ぎだもん。

 

原因が完全に突き止められていないのが怖い。

仕組みが分からないのが怖い。

 

僕が幽霊とかが怖いのって怖い見た目なのはもちろん、因果関係や理屈がないから怖いんだ。

 

「………………………………ん」

 

いつのまにかトリートメントまで行っていて、馴染ませているあいだに体を両手で塗りたくるように……だってごしごしするとすぐに荒れるから……洗っていたら自然と、全くの無意識で。

 

僕の指が軽く、僕の中を――おまたに空いてしまった穴のすごく浅いところとその周りにたまるらしい汚れを洗っていて。

 

男のときだったら生えていたそれを洗っていた程度の軽い気持ちで、特に何も感慨もなく脚を広げて洗っていて。

 

必要ないだろうって思ってずっと触らないようにしていたけど、かがりから借り……いや、押しつけられたファッション雑誌とかのちょっとアダルティーなコーナーに書かれていた「体のケア」とかいうところで目にした衝撃の事実のせいで、いやいやながら……恥ずかしく感じながらもなるべく意識しないようにして洗うようにし始めた、ここ。

 

「…………………………………………」

 

顔を上げて、鏡越しに僕の中に僕の指を突っ込んでいる僕自身を見ても……なんとも思わない。

 

僕の指がほんのちょっとだけ入っているそこを目にしたり、中に入っている感覚が僕自身にあったりしたり、温かい穴の中に差し込んでいる感覚があっても、なにも感じない。

 

男のときに見たこともなかったそれを平然と見てするようになっていて。

でも恥ずかしさもいやらしさも、違和感すらなにひとつなくって。

 

まるで僕が、はじめから今の僕だったみたいに。

年相応の幼女として育ってきたかのように。

 

20年以上も男として生きてきたのに、たったの数ヶ月でもうこんなにも慣れ切っている。

 

記憶が、それこそ魔法さんに書き換えられているだけで……前の僕として生きてきたっていう記憶だけがすり込まれているだけの、ただの子供のように。

 

幼女のように。

 

……洗い終えて、石けんを洗い流すためにシャワーを軽くそこに当てて、いつものようにきれいにする。

 

もちろん特に感じるものは無い。

おしりまで肛門までしっかり洗うっていうのとおんなじ程度なんだ。

 

でもなぁ……幼い女の子の恥ずかしいはずのところを躊躇なく洗えちゃうっていうの、それはそれで、こう……来るよなぁ……。

 

多分慣れるっていうのはこういうところ、根本的なところなんだろうって思うから。

だからこそ僕が女の子になっている事実がはっきりしている。

 

まぁ幼女だし……女の子らしい女の子でもないっていう理由が大きそうだけども。

普通の男でも普通は中学生未満の女の子じゃあ裸でもどきどきなんてしないはずだしな。

 

……そっか。

 

毎日のこれと、いつかは来るかもしれない月のもの。

 

そういうものを考えると、まだ女性としての機能が本格的に働いていない女の子未満の幼女になったっていうことは僕にとって……せめてもの救いだったのかも。

 

だって女の子らしい女の子になっちゃっていて普通に暮らせちゃっていたら……僕の中の男の感覚なんて、あっという間に塗りつぶされていただろうから。


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