【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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36話  準備 4/6

「…………………………………………」

 

みんなが心配そうな目で見てくる。

心配しすぎる感情が響いてくる。

 

常々思っていたことだけど……女の子は感受性っていうか感情が少し強すぎる。

古今東西そういうものらしいけど人生経験の少ない僕にとってはまだまだ新鮮な感覚。

 

僕が大丈夫だって言っているんだから大丈夫だって思ってほしいのにね。

 

……さすがに3ヶ月入院したって聞いたんだ、ここにいるのが男だったってたいして変わらないか。

 

「具合、悪くなったらすぐに言ってちょうだい? 私たちとおはなしするために来てもらったのに、それでまた入院とかになってしまったら申し訳ないし、なにより……いたたまれないもの、ね?」

「だねー、だから来る前になんども聞いたけど、響、大丈夫っていう返事しか送ってこなかったからねぇ」

 

無理もないか。

どのくらい大変かなんて本人しかわからないもんな。

 

「心配しなくてもいいとは言っておくよ。 今日は体調もいいしな。 もちろん悪くなったらすぐに言うさ」

 

決して良くはないけど悪くもない。

ちょっと熱が出て寝込んだあとみたいな感覚だけがしつこく残っているんだ。

 

「……響ってさ、ほんっとうにマジメっていうかそれよりもジブンに厳しいっていうか」

「ストイック……ですか?」

 

「さよちん、そうそれ! ほんとストイックだよねぇ……びっくりするくらい痩せてるし顔色も悪いのに平気だって。 けど、私たちはそれでも響に会えてうれしいよ」

「…………ありがとう」

 

全部僕がやらなきゃ行けないから気が張っているのか、それとも少しでも嘘とウソをばらさなきゃいけないって気持ちだからか、大変ではあるけどここに来る元気があった僕。

 

……そう言えば中学の途中くらいまでは熱が出てようと何だろうと学校は行くものだって思って普通にがんばって行けていたもんな。

 

いつから「今日はなんかだるいからいいや」ってなったんだろうね。

 

「そーやって素っ気ないのもあいかわらずだねぇ……でもみんな、大丈夫だろうっては思っていたけどそれでも心配だったのよ。 ね、りさりん?」

「そうよ、心配だったんだから。 ……まぁゆりかの落ち込みように比べたら私たちはまだ平気」

 

「わわっ!? なに言ってんのさ、りさりん!? 内緒にしてって」

「いいじゃなーい、心配してたってわかってもらいやすいでしょ?」

「だけどぉ……うぅ……」

 

ゆりかが珍しくりさにやり込められている。

 

……人を心配する気持ちって、そんなに強いものなんだね。

 

僕はこれまで、ほとんど経験してこなかったから分からないんだ。

 

「別にストイックじゃないよ。 ただ自分の体調は自分で把握できているだけだ」

 

「私なんて熱とか出るだけでもみんなに甘えるのに」

「ゆりかでも風邪は引くのよねぇ」

「どーゆー意味りさりん!!」

 

「……それで僕は行けなかったし、そもそも連絡すらできなくて申し訳なかったんだけど。 秋とかは忙しかったんじゃないか? 学校も行事も、あのときみんなが決めていたお出かけとかも」

 

この子たちに任せているといつまでも話が続きそうだからある程度は僕が進めないといけない。

いつ魔法さんがやらかすのかも分からないもんな。

 

「いやー、まー去年もやったことだったしそこまでじゃなかったよねぇ? 学校のは。 出かける予定とかは結局やったけど……でもこのみんなではやらなかったし」

 

「……いろいろ行こうって言っていたじゃないか」

「いやいや、響が行方不明……じょーだんよ? そうなのにって思うと……ねぇ? なんとなくばらばらになっちゃって。 りさりんと私でしょ? んでかがりんとさよちんって感じで」

 

まぁ元々この子たちそういう友達同士だったもんな。

 

「そうねぇ。 お出かけだって響ちゃんがいないんだもの、行こうって思っていたところへは結局半分も行っていないわ。 それにお泊まり会も響ちゃん抜きでやったら申し訳ないって思ったからまだしていないのよ」

 

「いや、泊まりは別にどうでもいいんだけど」

「え!?」

 

「だからお泊まり会くらいは君たちですれば良かったじゃないか」

「それはダメよ!」

 

何がダメなんだろう……。

 

「……………………お泊まり…………」

「したいわよね、さよちゃん!?」

「……憧れは、ありますけど……でも……」

 

かがりは積極的すぎるくらいの賛成でさよは控えめな賛成。

 

「ほら、さよちゃんもパジャマパーティーしたいって! ね!」

「…………はい、したい、です……」

 

「む。 かがり、意見の押しつけはよくないよ?」

「押しつけなんかじゃないわ!?」

 

いやいや、これはどうみても押しつけにしか見えないよ?

 

「……見たかいりさりんや、あれがかがりという難敵なのだ」

「難敵ねぇ。 天然って強いわぁ………………………………」

 

うん、強いよね。

あらゆる意味で。

 

「…………………………………………」

 

僕は目の前のお茶……今日は甘いものは飲みたくないって言ったら取ってきてくれた、なんの変哲もないお茶で喉を潤わせる。

 

……よし。

 

きっと、大丈夫。

 

僕はすぅっと息を吸って、思い切って言う。

またああなるかもしれないけど、でもまずはこれから。

 

「……話は変わるけども。 この期間で世間では、たしかねこみみ病◇◆◇◆」

 

――――――――――やっぱり来た。

 

魔法さん。

 

……やっぱりこれがキーワード。

ねこみみ病の何かがダメなんだ。

 

ちりちりちみちみじりじりしてきた僕。

 

けど、◇◆◆◆いい加減にこの感覚にも慣れてきたし、なんとなく予想もできていた。

 

なんというか、魔法さんの気配?

そういうもの、ちょっとはわかるようになってきたかも。

 

でも、これが強引に突破できる類いのものって知っている僕は続ける。

 

「…………っ、それでかなり騒がしかったみたいだし。 それに……◆◆◆っっっ!」

 

ちょっといやな感じにこめかみがぢりってした。

 

この感覚は……初めて。

けど止めることはしない。

 

みんなもねこみみ病については知っているはず。

 

話題になってすぐ……たしか夏の終わりとか言っていたっけ、すぐの政府による正式発表と栗色黒耳ペアの活躍が始まったのが、たしか僕が冬眠したほんの少し……僕の主観では1週間とか2週間前のことで、つまりは3ヶ月のことで。

 

でも僕はそのときこの子たちから解放されたすがすがしさと夢中になっていた小説があって、何巻もあってだからネットもテレビもほとんどせずに◆◆◆◆◆

 

あれ?

 

◆ 僕は、ほんとうに、それを

 

◆◆

知らなかっ

 

◆◆◆

 

「…………………………………………」

 

周りがなんにもわからなくなって、少しだけ真っ暗でしんとした感じになって、それから視界がざらざらとしてきて目の前が切り替わる。

 

4人がいたはずなのに僕の目の前には5人ぶんのコップとメニューが置いてある、僕にとっては少し高いところにあるテーブルがあって視界の左右にはみんながいて、そのさらに先には廊下とほかのテーブル、いや、ブースがあって、ちらちらと店員さんと目が合ったりしていたはずなのに。

 

今の僕の目の前には底上げのクッションでちょうどいい高さになったリビングのテーブルに手元に飲みかけのコーヒーと画面がつきっぱなしのスマホが左右にあって、その先から音と光を届けてくるテレビ、そして僕の家のリビングの光景。

 

さっきまでの暖房とは真逆の感覚でエアコンの風を涼しいって感じていて……あのときはまだ隠れられていたって信じていたから夏だっていうのに閉じっぱなしだったカーテンから漏れてくる外の明かりも今よりもずっと明るくて、温かくて暑くって。

 

ついでに耳を澄ませばときどきセミの声が響いてくるくらいの季節で。

そういう感覚が、五感が入ってくると同時に目の前のテレビからも音と光が漏れてくる。

 

大きくなってくる。

 

……夢。

 

冬眠の直前か、あるいはすでに寝落ちしちゃったあとの明晰夢?

 

だとしたら僕は、もう?

 

「………………………………………………………………………………………………」

 

魔法さんが怒るっていうことは、やっぱりねこみみ病は魔法さんと深く関係が◆◆

 

『…………ただいまご紹介にあずかりました◇◇◇◇ と』

 

画面にはどアップからの引きで、昨日会ったばかりのあざとい栗色さん17歳が。

 

声の感じとか体の動きとかがちょっとだけあざとい感じになっている。

 

……お堅い会見なのにコレなのか。

ということはふだんテレビとかに出るときはもっとあざといんだろうか……これでも抑えてるんだろうし。

 

若作り……年増。

 

……実年齢を知っているとたしかに……いやいや失礼だし、それは声とか表情の練習とか服装とかでいろいろと僕に返ってくるから止めておこう。

 

そもそもアイドルとはキャラクター性で覚えてもらうものだしその辺はしょうがないんだろうな。

ふだんはきゃぴきゃぴしている子が急に素に戻っていたりしたらファンもびっくりするだろうし。

 

別に不祥事起こしたわけでもないしって許可も下りたんだろう、きっと。

 

『……◇◇◇◇です』

 

一方の黒猫さんはなんだか声が詰まっていた。

 

風邪でも引いていたのかな?

それに語尾が「にゃ」とかじゃないし。

 

……さすがに島子さんの方は場の空気を読んだか。

 

それにしても――「見ていたはずなのにこうして再現されるまで完全に忘れていた」あの会見。

 

萩村さんが映っているっていうのまではしっかりと見ていたんだし、ということはやっぱり僕はちゃんと見ていたわけで。

 

「………………………………………………………………」

 

ということは。

 

僕がこの子たちの話をきちんと認識……できていなかったっていうことになって。

 

つまりは僕もまた、これもまた先週のように魔法さんに認識をぐちゃぐちゃにされていたっていうことの証で。

 

でもどうしてこれを見た記憶もなぜかよく聞こえない……いや、認識できていないこの子たちの会話を、僕が◆◆◆

 

……ぢりぢりするけどお腹に力を入れてふんばる。

 

……そもそも岩本さんと島子さんの名前すら……なんだか◆◆◆みたいにぼんやりしてうまく聞き取れないというか、うっかりテレビをつけたままうたた寝しているときみたいに聞こえてはいるんだけど理解が追いつかないというか、そんな感覚。

 

「私たちは……◇◇◇◇……を受けて私が……」

「私は…………◇◇◇◇……したんですにゃ◇」

 

◆◆◆

 

◆◆

 

 

ぷつっと……静かに、なった……?

 

夏休みも終わりのころの僕の家の、エアコンで涼しくなっているリビングに戻らされたのは同じだけど、五感がしっかりとあるのも同じだけど……けど、まだまだ強かったざらざら感が完全になくなって、違和感もなにひとつなくなって。

 

まるで僕が今、あのときの……冬眠前の、3ヶ月前のあのときに見ていたはずだった光景を……ちょうど今、家の中で見て聞いているように。

 

『……私たちはねこみみが生えちゃう症候群、通称ねこみみ病の変異を受けて。 私が若返りを』

『私はねこみみ病の名前の通り、こうして…………んしょっ』

 

と、ここで今まで帽子をかぶっていた……ベレー帽だっけ?

緑色の帽子とメガネって似合っているよなぁ……じゃなくて、そのうちの帽子を外す黒島子さん。

 

すると、あの触り心地のとてもいいねこみみがふたつ、ぴこんと出てきて記者の人たちがざわっとしたところで、こんどはしっぽをにゅるにゅると上げてきて。

 

そしてみんなをまとめて……あえて見せつけているんだろうけどいろんな感じに動かして……マイクをしっぽで持ってみたりねこみみ同士でがんばって帽子を挟んでみたり、くるくると回してみたり。

 

そうしてざわざわががやがやになって、それが落ちついたところで。

 

『まずはケモノ化。 獣化とも書くらしいですけど、とにかくこうして私の場合には猫さんのみみとしっぽが生えちゃったんです……にゃ!』

 

僕が堪能したねこみみと尻尾がテレビの中でぶわっとなっていた。


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