【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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37話 別れはもう少しあとで 2/2

 

クリスマスパーティーなんてのはもはや想像上の存在になって十何年。

 

最後にそういうのに参加したのって……多分小学校低学年とかかもね。

僕も小学生のときはそこそこ友達がいた気がするし、そういう子たちと誕生日会とか……したんじゃないかな?

 

よく覚えてないけど。

 

だってだんだん今みたいな性格になってそういうにぎやかなのとは距離置くようになって行ったんだし。

 

この前読んだ記事によると、小さいころ活発で社交的な子供は大人になると静かに育つらしい。

真偽は不明だけど僕にとっては当てはまってる気がする。

 

子供のころってまるで別人だよね。

そういう意味でも今の幼女な僕は完全な別人なんだ。

 

でもクリスマスって子供にとっては特別なもんだから、父さんと母さんがいたときはイヴの夜とクリスマス当日、家で3人チキンとかケーキとか食べてプレゼントをもらっていた気がする。

 

いや、もらっていたんだ。

 

でもなんだかそういうのが恥ずかしくなってくる年頃にちょうどふたりとも居なくなったから、それからは家で静かにテレビとか観ながら黙って普通にご飯を食べるだけになった。

 

まあプレゼントなんて中学生にもなればもらわないものだろうから良いとしても「世間はやたら騒ぐけど僕は別に……適当な映画でも観て過ごせば良いし……」っていうイベントになったんだ。

 

だから家に置いてあったちっちゃいツリーさえ出さなくなってケーキなんて甘いものも食べなくなって長い。

 

せいぜいその時期に買い物をしに出かけて町のイルミネーションをなんとなく眺める、そんな程度だったもんな。

 

あとはクリスマス特集とかを適当に楽しんだりして。

 

たった、それだけだった。

 

……あれ?

 

もともと興味なかったけど、それにしたってちょっと寂しすぎた?

 

青春時代、青年時代としてはあまりにもさみしすぎない……?

ほら、普通の男女はカップルで過ごすって言うし?

 

……興味もなかったから嫉妬すらしなかったけど……考えてみたらものすごくもったいない時間だった気がする。

 

だって学校って言う場所で強制的に異性と知り合う場所で、せっかくのチャンスを僕から見なかったことにしていたんだから。

 

そうしてひとりぼっちで10年。

 

「……ん」

 

ふとみんなの視線が集まっているのに気がつく。

 

……あぁ、さよの家で派手に飾りつけしていたって話だったっけ。

 

「響、戻って来た?」

「うん……でもそうだったのか」

 

口が勝手に動いたけどなにがそうだったんだっけ?

ああ、みんなでパーティーの準備してたって話か。

 

「そーだったの。 けど今年はおあずけだねー」

「……君たちですればいいじゃないか。 別に止める理由はないよ?」

 

「ケーキとかもったいないし、さよちんのお母さんたちも居るからもちろんするよー? けどなんだかさ……メインゲストが抜けちゃうとねー」

 

「……? メインゲスト?」

「響さんのことよ、響さん」

 

りさりんが軽い突っ込みを入れてくる。

 

……そっか、そうだよな、確かに文脈的に僕のことか……。

 

あいかわらずの察しの悪さが悲しい。

これでも成人男性だったのにね。

 

やっぱり引きこもりとかニート経験すると経験値が貯まらないどころかマイナスになるんだろうか。

 

「さよちゃんのお母さんとかお父さんも楽しみにしていらっしゃったものね」

「……はい。 私と、同じような境遇……だと、はりきっていました、ので」

 

くるんさんがさよにその重いものを2個とも載せている。

 

「あー、そうよねー。 病気がちなひとり娘のさよさんの家にいきなり私たちが押しかける……いえ、大歓迎されたんだけど。 その原因……いえ、この場合はきっかけかしらね、そんな響さんが来られなくなるもの。 そりゃあがっかりするわねぇ」

 

「ノリノリだったもんね、さよちんのご両親。 『4人もお友だちが来るなんて!!』って。 特にお母さんが。 ……さよもおどおどが抜けたら、将来あんな感じになるん?」

「え、えっと……………………それは……その」

 

「こら、困らせないっ」

「りさりんも浮かれてたくせにー」

 

姦しい談笑。

 

……クリスマス。

 

今日はイヴ。

 

別に恋人じゃなくたって、家族とか友人……親しい人と過ごす日だっけ。

 

なぜにイヴに祝うのかっていうところで未だに僕の中では違和感があるんだけど、まぁそういうものだしな。

 

「……残念ながら僕自身はそのパーティー、行くことはできなさそうだけど」

 

「ていうか私たちが止めるんだしね。 ぶっ倒れちゃったらかわいそうだし」

「危ないからでしょ」

 

りさりんのツッコミが冴えている。

 

「や、だって響ってそういうの響自身はぜんっぜん気にしていないみたいだし。 てことは外に出てあーなってもだいじょーぶっていうお墨付きがあるからこそ来てくれたんでしょ? 響ならそーいうの律儀に守る方だし」

 

「……まぁね」

「どっちかっていうと倒れちゃったりしてそのまま病院に連れて行かれたりしたらさ。 お見舞いにいざ行ったら『あぁ、祝えなくて残念だったな』ってこの調子で言いそうだし。 そうじゃない?」

 

「確かに響ちゃんならそうかもしれないわー」

「……そういうのに慣れている身としては……そう、言いたくなります……よ?」

 

僕が結構分析されている中でさよは僕と感性が似ているらしい。

 

でも、今日はこの子たちと顔を合わせられた。

心配は掛けちゃったけど……でも、生きてるって見せられたから安心もしただろう。

 

「……そのことも、サプライズパーティーをしようとしてくれたことも」

 

長居できないから告白のほとんどはおあずけだけど……足りないくらいでちょうど良いんだ、きっと。

 

「僕をそれに招こうとしたくれたこと自体にも、とても感謝しているよ。 みんな、ありがとう」

 

「うひょー、かっこえー」

「こら、茶化さない」

「きちんと言えるのは響ちゃんの良いところよねー」

「わ、私も見習わないと……」

 

ちょっと気恥ずかしいけども、この子たちに3ヶ月も心配させ続けたんだ……ちょっとは我慢。

 

「……あ。 そういやさ、お別れだって言うけど」

 

いつも話題を切り替えるのはゆりかだ。

 

「入院しているあいだとか……病室がダメなら中庭とか外とかでもスマホとか使えないの? もし使えないんだとしても私たちが病室とか知ってたらさ、お見舞いとかにも行けるし。 良いんなら教えてほしいんだけどなー」

 

「そうよね! 響ちゃんと連絡が取れなかったこの秋なんてずっと! 響ちゃんにお家の電話番号とか住所とか、そういうのも聞いておけばよかったってずーっと後悔していたもの! それにお見舞い! 楽しそうよ! ぜひ行きたいわ!」

 

ゆりかはともかくかがりは本当にもう……。

 

「……入院。 していると……退屈で、心細い、ですから。 自分だけ、世界から……取り残された感じがして」

「さよさん実感こもってるわね――……。 ま、ほんのちょっと、誰かがときどきにでも顔出せば響さんも元気が出るんじゃないかなって思ってね、みんなでいつか行きたいねって行っていたのよ。 どうかな?」

 

む……なるほど。

 

確かに入院と来たらお見舞いまでがセットだ。

 

でも実際には前の僕でも今の僕でも病院になんか縁はないんだし、それに多分またなるとしたって家の中だろうからお見舞いはできないんだ。

 

「……え、えっと。 とても言いにくいこと、なんだけど」

 

どうしようか……面会謝絶とか言ったらすっごく心配しちゃうしな。

 

「響が言いにくそうになるってことはもしかして『お家の事情』とやら、ここで出てくるん? ほら、いつものやつよ」

 

「あ、あぁ……そう、だけど」

 

……そう言えばそんなのもあったな。

 

僕的には3ヶ月すっ飛ばしてるんだけどすっかり忘れてた。

だから嘘ってのはよっぽど頭が良くなければ難しいんだよね。

 

「なんでかって、そりゃすぐわかるよ。 響がそうやって困った顔になるのってさ、病気とか病院の関係の話とかお家のこと……家族のことだけじゃん。 普段私たちが聞きたいこと、さっきみたいに……唐突なこともあるけど、でも先回りして結論から教えてくれたりするのに、そのことについてってなると急に申し分けなさそーな表情になるしさ」

 

「嘘をつきたくないけど、でも本当のことは言えないしって感じよねー」

「それがミステリアスよねーってりさりんとよく話してるのよ」

 

「あらそうなの? 響ちゃん、ミステリアス?」

「…………そうらしい、です」

 

なんか僕のことを僕以上に分かっているみたいなゆりかとりさ、その少し後にさよ……知り合った順番で言えば確かいちばんのはずなかがり。

 

……うん、まぁこの子はこれが良いところでもあるから……。

 

「……えっと。 でも、あまり長話すると響ちゃんの体に障るし、ひととおりの話も聞いたわ? だからそろそろお開きにしないといけないわよね?」

「……うん、そうしてもらえると助かるかな」

 

ほら、急に真面目になる。

やればできる子なんだ。

 

やらないのが大問題なだけで。

 

「……だけど。 もし具合がまたこの前みたいに悪くならなければ。 ……またこうして会っておはなしとか……できるのよ……ね?」

 

こうしてちゃんと不安にもなる、ごく普通の女の子。

ただ少しばかりお胸に栄養が行き過ぎてるだけの子。

 

「そうだね、これくらいなら」

「……そうっ!」

 

「前からこのくらい……30分とか1時間くらいの外出なら平気だしな。 体調さえよければもっとでも。 夏もそうだっただろう?」

 

また魔法さんで冬眠しなければ、これから新しいなにかが起きなければ、だけど。

 

「……だったらさ!」

 

はいはいっとりさりんが腕を上げる。

 

「今は退院したばかりだっていうのがあるからダメだけど、もう少しだけお家で休んでもらっててね? 年越しとかお正月とかそういうのならどうかしら! これから1週間あるし!」

「お、りさりん、いいアイデアじゃーん? そうだよね、せっかくイベントがぎゅうぎゅう詰めになってるこの時期なんだから、別に今日ダメだからってそこまで落ち込むこたーないんだよね!」

 

それに釣られる……きっとそうしたかっただろうみんな。

 

「そうね! 少しだけなら。 ほんの少し来週に会って少しでもお祝いできたら嬉しいわねっ」

「……念のため、人ごみを避けて……あとは、響さんに直接、その……車とかタクシーで、来てもらえば、そこまでの負担、では……ないと……思います。 あるいは、その……どなたかのお家とか、でも」

 

「広さと歓迎っぷりからして、またさよちんのとこになっちゃうんじゃない? でも毎回は悪いよねぇ」

「でも他の家だとそこまで……5人だと狭いし。 いえ、別に平気だけど」

「さよちんの家、すっごいからねぇ」

 

「あ、でもりさりんとこも」

「うちは年末年始忙しいから……」

 

 

 

 

「また連絡するから」「もし来られそうだったら来てね」とか。

 

「だけどムリはしちゃダメ」だとか。

 

矛盾していそうでいて、でもそれがきっと本心なみんなの言葉を聞きつつ外に出て、頼んでいた車に乗り込んで帰ってきてから……ベッドの上で、クッションの下で、だらんとしている。

 

……タクシーって今はアプリなんだな。

 

そんな変な感想しか浮かばなかった帰り道。

まぁ10分くらいだし。

 

でも、僕……変わったんだな。

 

だって中学の頃から友達の家に遊びに行ったり……そもそもその友達とやらでさえも作る気もなくて、10年近くひとり静かに暮らしてきたのに。

 

それなのに、それと比べるとたったの少しだけだったのに……ここまで、「今の僕」としての生活を手放すのが惜しくなっているんだ。

 

魔法さんが荒ぶるっていうアクシデントのせいもあって嘘とウソについて告白できなかったけど……でもまた会う約束はしたんだ。

 

それで今日は充分。

元々無理をしていたんだから。

 

嘘について言うのはもっと条件がそろったときまで待てばいい。

もう……伝えるっていうのは決めているし、そのための勇気も今日でしっかりとできた気がするし。

 

「…………………………」

 

ごろんと寝返り。

 

――僕と小さいもの同志とやらで、なんだかやけに古いものと新しいものが好きで、いつもおちゃらけていて、でも人のことはよく観察している……距離を取ってくれているようで気がつくと顔が近いっていうことが多い、ぱっつんとぱっちりお目々なゆりか。

 

――そのゆりかにいつも振り回されているっていっつもぼやいていて、でもそれはゆりかに誇張しすぎだって言われたりしている、いつもちがうヘアピンとか髪型とかなおしゃれさんで会うたびに抱きしめ……ハグされるときにはみんなの中でいちばん、なんていうか包まれているっていう感じがする、りさ。

 

――みんなと話すのにだいぶ慣れてきているのか、さっき会った感じではつっかえたり言うのをためらったりはあいかわらずにしているけど、でも僕みたいに話しても聞き取ってもらえないっていうのがなくなっていた……いつもだぼっとした服を着ていて、それがメガネと、さらに伸びた前髪とで雰囲気が出てきた、さよ。

 

――着せ替え人形にしてくるのとときどきのしかかってくるの以外はだんだんとマシになってきたけど、いつも小さい女の子扱いしてくるっていう困った性格をしている……僕が女の子だっていう生きもの、それも中学生の……への立ち回りを実践させられる元凶となった、けど今ではちょっと感謝している……けどやっぱりもうちょっと距離を置いてほしい、かがり。

 

「そっか」

 

あの子たちは、とっくに友達なんだ。

 

あの子たちからだけじゃなくって、僕からも。

 

歳も性別もなにもかも違うけれど、でも――こういう関係が、友達。

 

きっと、そういうものなんだろうな。


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