【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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38話 「魔法」 2/5

「ふ――……」

 

ぱたぱたとシャツの胸元をゆらゆら。

 

そうして昇ってくる僕の匂い……甘い体臭。

ミルクみたいな匂い。

 

ぐいっとお酒を飲んで少しぽーっとしてベッドでぐったりしていると暑いって感じるんだ。

 

一気に顔までが火照ってくるような感じがして、せっかくあったかくした部屋が真夏のようになってきたみたいに感じる。

 

お酒のせいで一時的にそうなっているだけなのは普段の晩酌で知ってる。

だからもぞもぞとだるくなってきた体を動かしながら靴下を脱ぐ。

 

「………………すんすん」

 

ちょっとお酒で出てきた汗で重くなっている靴下。

今日買ったばっかりのだし臭いはまったくにない。

 

というか普段も……夏のときも汗臭くなったことないしな。

本気で汗をかいてないからかも知れないけども。

 

脱ぎ捨てた靴下はそのへんにぺいって放っておいてぐるぐるしている天井を眺めながら、今日の昼間に起きそうになった冬眠について考え直してみる。

 

ひょっとしたら違うかもしれないけど……でも外で起きたら困るもんな。

 

でも……まずもってなんで3ヶ月とかいう長い時間だったんだろう。

 

もし魔法さんがねこみみ病について聞かせたくなくってただ僕の意識を失わせるためだけだったらあんなに長期間にする必要がない。

 

魔法さんが仮に……どうしても僕をここ、家の中、あるいは僕がみんなと秋に約束していた出かける予定のどこかとか……範囲が広すぎてわからないけど、ともかく現実のどこかにいさせたくなかったんだとしても「3ヶ月寝ててね?」っていうのはちょっと強引すぎる。

 

まぁ理由は考えてもしょうがないし心当たりがあるようでなさ過ぎて……しかも直前での心当たりといえばせいぜいがお酒なわけで、だから余計にわけがわからないんだけども。

 

まぁさすがにお酒のせいで冬眠とかはないでしょ。

 

ないよね?

 

あったらいくらなんでもしょうもなさすぎるし……。

 

でも、3ヶ月僕は寝ていた。

 

眠ったまま起きなかった。

意識は夢の中だった。

 

9月の初めからクリスマス前日だから厳密に言えば3ヶ月半に近いけど、やっぱりこれだけの時間意識がないままなら脱水症状だけで3日持たないし、長くても1週間。

 

エアコンが入っていたとはいえ夏だったしな、もっと短いかも。

 

それにずーっと動かないんだ、寝たきりの人みたいに体がおかしくなるはずだし……足りないエネルギーを補おうとして体のシステムが勝手にせっかく蓄えた脂肪とか筋肉まで使っちゃうから、たとえずーっと健康なまま寝ていられたとしたって……起きようとしても起きられないくらいには弱っているはずだったんだ。

 

つまりは昨日の朝を無事に迎えられて目が覚めたとしたって、まったく動けずに助けも呼べないっていう恐ろしい状況になっていたはず。

 

怖いけど、それが現実。

 

かろうじて手だけを動かして助けを呼べるはずの手元のスマホはとっくに電池切れで電話は下の階にあるわけで、つまりはどうしても距離があるっていうことになって、もしぎりぎり生きていたけど動けなくなっていたのならそこまでたどり着けないわけで。

 

まぁ現実に3ヶ月飲まず食わず動かず起きずで生きていられたんだからどう考えても普通じゃない。

 

異常だ。

 

成人男性が幼女になるくらいに……いや、どっちの方が上かな……異常なんだ。

 

だから僕は熊さんみたいに冬眠していて、体温をすごく落として新陳代謝そのものをすごーくゆっくりにしてちょっとずつ足りないエネルギーをわずかな脂肪から持っていく状態だったわけで。

 

それなら意識がないのも……冬眠中の熊さんはずっと寝ていて夢の中にいるっていう状況的には合う気がするし、目が覚めたら……多少はだるかったりしようともきちんと体が機能して朝もお昼も夜も……朝は意識していなかったんだからしょうがないんだけど、お昼までしっかりとした固形物をいきなり摂ったのに胃とかおなかがやられることもないんだから。

 

多少体が重かったりふらついたりする程度、「なんだか具合悪いな」って程度で買い物にまで途中までは歩いて行けたりもしたしな。

 

だから。

 

こんなに「あんまりにも都合が良い冬眠」を人間がしたってことで分かるのは――魔法さんは僕をどうにかしようってはしてないってこと。

 

意志がないものだとしても、呪いとかそういうものじゃないってことだ。

 

それどころか僕が困らないように他人の認識をねじ曲げてまで男女年齢を曖昧にしてまで生きて行けるようにしているんだ、きっと長期間寝たままでもなんとかなるようにしていたんだろう。

 

……年齢。

 

そう、年齢。

普段から幼女って意識してるほどに幼い体。

 

肉体年齢は統計的に、平均的に……認めざるを得ないけどぎりぎり小学生になるかならないかで、個人差っていうことでもりもりに盛って3、4年生、僕的にはそれでも認めたくなかったから5、6年生っていうのも……ムリじゃない範囲だとは思う。

 

でも、そんな僕が中学2年生っていうとんでもないサバ読みをしている。

 

嘘をついてし出したんだ。

 

そんな嘘を……個人差ってレベルじゃないのに、今まで会った人たちみんなが信じてくれて普通の中学生みたいに接してくれる。

 

まぁどの人も初めは疑惑の目で見てきて話しているあいだに……っていうのがほとんどだから、やっぱり見た目は幼女そのものなんだろうな。

 

帽子とパーカーでいろいろ隠して男子みたいに扱ってくれるだけだしな。

 

少年も声変わりし出すまで、遅くて中3までは高い声でもおかしくないから……やっぱり子供って見られてるんじゃないか。

 

男か女か以前に、子供って。

 

「……子供じゃないもん」

 

もぞもぞって胸とお腹と太ももと足の裏でベッドのシーツの柔らかさを味わいながら机まで、腕を伸ばして結構無理な体勢でコップからお酒をこくり。

 

「……ふぅ」

 

子供扱いもしょうがないよね、うん。

 

僕は寛容なんだ。

 

お酒を呑むと気分が良くなるから好きなんだ。

 

「ふむ……」

 

こうして手を上げてみると前の手が懐かしい。

 

浮き出た静脈とか関節の筋張りとか微妙に生えていた産毛とか……特徴はなかったけどぱっと見て男のだって分かる手。

 

でも今僕の目の前にあって腕の先にくっついているのは、そういったものが一切ないぷにっとしてすべすべしているちっこい手。

 

ちょっとだけ汗ばんでるちっちゃい手。

 

「…………………………」

 

今まではぜんぜん疑問にも思うことがなかったけど、実はとっても不確かな状態なんだ。

 

明日をきちんと無事に何ごともなく迎えられるっていうのが本当に幸運だったんだなっていうのが、改めて身に染みてわかった。

 

そもそもが魔法さんっていう得体の知れないナニカに囚われているんだからな。

 

だから、これまでは単純に魔法さんの地雷をたまたま踏まなかった。

魔法さんが怒るなにかを、生活をそこまで変えなかったおかげで一気に溜めることがなくて少しずつしか溜めていなかったからこそ、半年くらいは無事に過ごせた。

 

「ふぁぅ………………」

 

なんだかたまらなくなって枕に顔を突っ込んで抱きしめっぱなしにしてみていたら枕そのものが熱くなってきちゃったから、ごろんと離れて天井を見る。

 

……やっぱり回っているように感じる。

 

ぐるぐるぐるぐると。

 

僕は酔っている。

普段とは違う酔い方。

 

そういうのもたまには良いよね。

だって今日はイヴだもん。

 

彼女とかはこれまでも居たことがなかったから大してさみしいとかは無いけど、どうせ多くの大人はこの時間帯はお酒を呑んだりしているんだから。

 

「ぅ――……」

 

ぼんやりしていると、さっきまでしていたみんなとの会話が……意識したくなくても思い出される。

 

……そうか、こういうものだっけ、日常のモヤモヤって。

 

昔は、子供のときは、学生のときは……誰かしらと話したり楽しんだり失敗したりしていたときの僕は、こうしてよくその日の会話を思い出して楽しんだり落ち込んだりしていたんだっけ。

 

こんなに長いあいだろくに話してこなかったから、こんなのはもう忘れていた気がする。

なにもかもを放りだして、ただその日その日を楽しむ生活しかしてこなかったから。

 

……きっと平和にニートできていたのも幸せだったんだろうな。

 

「ふぅ」

 

さらにぼーっと見るともなく部屋を眺めていたらちょっとだけ落ちついてきたらしい。

 

ぐるぐるしなくなってきてる。

だんだんと眠気がやって来る。

 

だって幼女の夜は早いから。

 

その気になっても深夜を越えることはできない体なんだ。

 

「………………………………すぴ」

 

……っと危ない危ない、寝落ちするところだった。

 

なんだか鼻から変な音が出ているのに気がついて時計を見てみると15分くらい経っている様子。

 

僕自身は寝た覚えはないんだけど眠気が取れているような気がするし、ぼーっともしなくなっているし。

 

……これだけ呑んだんだ、そりゃあ出してから寝たくなるよね。

 

いや、このままでいいかな?

 

漏らそうとしてもどうせ魔法さんがなんとかしてくれるだろうし……いやいや油断は禁物だ。

 

漏らす程度はひとりさみしくぱんつとシーツを洗うだけだからってどうにもならずに盛大に漏らすかもしれない。

 

「といれ、といれ……」

 

みのむしみたいにずりずりと体を動かしながらベッドの上を移動していく。

 

体が小さくなったおかげでベッドが広く使えるようになって嬉しいんだけど、ベッドから降りるときとかにはあいかわらずに不便。

 

世界が相対的に大きく広く高くなっているんだ、しょうがないんだけども。

 

おととい……3ヶ月前は今日以上に呑んで寝たはずなんだけど、でもそれは魔法さんに襲われて冬眠したからっていう特殊な場合だから当てにしない方がいいはず。

 

……男と女の最大の特徴として、日ごろから実感するようになって久しいこれ……尿意。

 

耐えがたい、我慢しようとしても無理な、これ。

 

感じるのもすぐだしガマンできる時間が短くて「今いいところだからもうちょっと……」っていうのが失敗の元に繋がりそうな、膀胱とガマンするための筋肉の問題。

 

あとついでに歯も磨いていないし口の中がもやもやするしな。

 

「…………………………」

 

ふと思い、ぴたっと止まっておなかの中を意識する。

 

……そういえば僕は今女の子なわけで、つまりは体の仕組みも……病院とかで調べてこそいないものの、でも外から察するに――「中」まで女の子なわけで。

 

だから、たとえこんなちっぽけな幼女だとしたって――膀胱は男のときの半分くらいしかなくって、その上には「子宮」っていう男としては想像もしたくないものが、僕のお腹のおへそのあたりにあるはずで。

 

まだ機能していないだけで、そのうちに機能し出せば内臓ってはっきりと分かるはずのそれ。

 

だからトイレが近くなって、こんなに苦労しているんだ。

そしてもし仮に成長して、それが、子宮が……女の子としての機能を持ち始めてしまったら。

 

僕は――どっちとして生きたらいいのか分からなくなっちゃいそうだ。

 

人の心って言うのは脳みそが作りだしたもので、その脳みそは体が動かしているもの。

だから子宮ってのが動き出して、おっぱいが膨らみだして女の子になっていったら……心まで少しずつ女の子になっちゃうかもしれない。

 

でも男の子っぽい女の子も、男らしい女の人も居るわけだし必ずしもそうじゃない。

 

……僕はどっちになるんだろうね。

 

「…………………………」

 

さわさわ、さわさわ。

 

おへそのちょっと下を撫でてみる。

 

その内側にあるだろう、男とは絶対的に違う見えないそれを意識しながら。


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