【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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38話 「魔法」 5/5

 

「……けほっ……」

 

なくなっていた音が……なんにも聞こえなかった耳が、次第に戻って来たらしい。

 

「けほ」

 

僕の荒い息づかいも心臓がばくばくしている音も、それはもううるさいくらいにちゃんと聞こえる。

体も温かくなってきてぬくもりがあって指の先や耳までぽかぽかしている。

 

そうしてぶわっとあふれてくる汗。

何が起こったのかが分かって、止まっていた思考が動き出したからなんだろう。

 

「…………………………」

 

ちりちりっていう魔法さんの……いや、あの夢の中で感じた感覚はもう居なくなっている。

 

銀色の◆/星みたいだったあれも、もう……すぅっとどこかに行っちゃっている。

なにもかもがきれいさっぱりに消えている。

 

五感は戻っているけど、どこにも変なところはない……らしい。

 

「ふ――……ふ――……」

 

耳を澄ませているとだんだん僕が息をしている音だけが聞こえるようになってきた。

 

手や足に気を配ってみると思っていたとおりの、……しなきゃって思っていた卵みたいに丸まっている姿勢な様子。

とっさの受け身なんて無理って思ったけど……体が軽くって邪魔するものが無かったからかちゃんと丸くなれたらしい。

 

そしてときたまぱらぱらと何かがはじけるような落ちるような音。

 

……なんともない……痛くも何も……?

 

そろそろと目を開けてみる。

 

入って来るのは僕の腕。

 

感覚のとおりに頭を守ろうとしてぎゅっとしていたらしい……筋力が足りていないからかぷるぷると震えている僕の細い腕が見えた。

 

ゆっくりと、折れたりしていないか確かめるためにことさらにゆっくりと腕を下げてみる。

 

……大丈夫、なんにもなっていない。

 

その腕を動かして頭を触ってみるけど痛いところもないし血だって出ていないし、たんこぶですらない様子。

 

今のところは。

 

事故とかに遭うとその日はぜんぜん平気なのにってことが良くあるらしいから油断はできないけど。

 

髪の毛が目の前に散乱しているけど……ちょっとびっくりしたけどそりゃそうか、だって2回から飛んできて1回に着地、したんだもんな。

 

髪の毛だって釣られて動いて僕の前のほうでばさぁっともなる。

 

……こういうどうでもいいことを考えられるくらいには思考は正常で、少なくとも今のところ……アドレナリンがどばどば出ているからかもしれないけど、でも体も動かせて、少なくとも折れてはいない。

 

……最後にちらっと見えたけど、たしか僕は頭から下に突っ込んだんじゃ……?

なのにどうしてこんなにきれいな姿勢で。

 

「……ふむ」

 

もうちょっと体をぐねぐねしてみる。

 

ぱらぱらぱちぱちと、やっぱり……なにか小さいものが落ちるような、そんな音がする。

 

……でも、首も肩も、背中もおなかも、腰もおしりも脚も……あ、ぶつけた小指だけ痛いけど、でもそれ以外にはどこも痛くもない。

 

そろそろと体を起こしてみる。

 

……打ちどころがとてもよかった……?

 

そう思って一瞬油断した僕はびくっとなる。

 

「……ひぅぁっ!?」

 

やだ、変な声……こつっと頭になにかが落ちてきて死ぬほどびっくりした。

 

これまた反射的に頭を抱え込んで、気がついたときとおんなじような姿勢を取っていた。

 

2度目だからかそれは見事な卵になって。

……こういうのって小学校のころの避難訓練とかが身に染みているんだろうか。

 

けど別に痛くもないしじーっとしていてもなにも起きないみたいだから、今度こそゆっくりと体を起き上がらせてみる。

 

「……あ、あー。 ……問題なし」

 

声も出せる。

それが聞こえる。

 

おしりは下についたまま首と腰をひねって後ろを見てみると僕がうずくまっていたのは踊り場、ちょうど落ちるとしたらって思ってた場所で、さっき転げ落ちたはずの階段もしっかりと見えて。

 

僕はなんともなかった?

実際にどこも痛くもないし血もなにも出ていない。

 

けど、今こつんと落ちてきたのは?

 

なんだか体じゅう……髪の毛とかにいろいろと乗っかっているなって思っていたうちのひとつをつまみ上げてみると、それは薄っぺらい素材のなにかだったり、あるいは木の破片だったり。

 

「……壁の、もくざい?」

 

剥がれ落ちたもの?

 

そう思って僕がぶつかったと思しき踊り場の壁を見あげてみると「まるでなにか大きなものを横向きに落としたかのように」――ちょうどこの前に測ったときの体重の20キロっていう重さ……よりもずーっと重くて硬いようななにか、そんな感じのものがぶつかったような、そんな亀裂が入っていてへっこんでいて。

 

ぱらぱら……ってときどき欠片が落ちてきて中の建材がむき出しになっている。

 

「……こわ」

 

なんだか怖いから脚に力を込めて少しずつ起き上がって、ぱらぱらと僕の体から破片みたいなものが落ちる音を聞きながら立って様子を見る。

 

それをもうちょっと遠くに離れて……だって危ないし……見ようとしたら足元がごつごつしている。

 

「?」

 

なんで?

 

そう思って足元を見た。

見てしまった。

 

「――――――――――ぴぃっ!?」

 

いつぞやに聞いた覚えのある変な声。

汗がぶわっと指先までじわっと出てきて「危ないかも」ってわかっていても反射でぱっと後ずさる僕。

 

……木の床だったところ……踊り場ってやつ、階段の下の床だったところ。

 

毎日何回も踏みしめていて、目をつぶったって1階と2階を往復できるくらいには慣れ親しんでいた、階段を上り下りするための最初の段。

 

――――それがクレーター状に壁よりも大きくへっこんでいるんだから。

 

めりこんでいるんだから。

ちょうど僕くらいの大きさに丸く、卵のように。

 

何か見えない楕円な球体に押し潰されたみたいに。

 

木だってもちろんひしゃげるどころか……あちこち裂けて折れているし、その下からはなんだかよくわからない白っぽい素材のなにかが顔を覗かせているし。

 

「ひぃっ……」

 

……たとえこれが僕が落ちた衝撃で、家が古いせいで――いや、それでも壁と同じようにおかしい。

 

だって、たかが20キロだ。

子供の体重で子供の体の柔らかさだぞ……?

 

そもそも1回壁にぶつかっての落下だろうし、落ちた衝撃で……落下モーメントっていうやつでこうなったとしてもそれにしては派手すぎる。

 

裂けていない木なんかはぐんにゃりと曲がっているし。

むしろ僕の方がずっと柔らかいはずなのに。

 

なによりこれだけの被害をもたらしたはずのやわやわな僕の体は、このとおり……とっさに動けて声が出るくらいには、痛いのがさっきの小指から中指くらいしかないくらいにはなんともなくって。

 

……明日どこかが痛くなったら病院行こう。

大丈夫、不審に思われる前に魔法さんで認識変えられるから。

 

今は分からないけど……でもなんとなく、根拠のない「僕は傷ついてなんかいない」っていう絶対的な自信があって。

 

ということは――これもまた魔法さんのしわざ。

 

あるいはおかげ。

 

それしか考えられない。

 

僕が運良くバウンドしてケガをしなかったとしても家がこんなにぼろぼろになるはずがないし、木材が経年劣化で……築20年経ってないのにないって思うけど……そうだったとしてもこんなにぼろぼろになってる時点で僕の体も同じくらいぼろぼろになってなきゃおかしいんだ。

 

今度こそ裂けた木のとげとげとかでケガをしないようにそろそろとそこを離れ、無事な廊下についた僕は……そのまま脚の力が抜けて、ぺたりと。

 

普段からよくしているように、クセになっちゃったいわゆる女の子座りに両手を真下に下ろす感じにして……なんだか安心するからってふとももの内側で両手を抱え込んでぎゅっとして、あったかくなって。

 

……腰が抜けた感じなのかな、これ。

 

よく分からないけど……どこも痛くない。

 

落ちてから数分は経っているはずだけど、だから落ちたばっかりのときの興奮はとっくに収まっているはずなんだけど、でもそれでも痛くもなんともない。

 

明日にならないと分からないんだけど、たぶん僕は……あんなにも憧れて、けどやっぱり心残りがあるからって戻って来たけど、でも――「死ぬ」ことすらできないのか。

 

魔法さんのせいで。

魔法さんのおかげで。

 

今までさんざん僕をもてあそんで振り回して苦労させられた、その存在。

 

「……ぼくを、どうしたいんだ」

 

呟いても当然に答えは返ってこない。

 

……僕にはもう、本当にもうなにひとつ分からない。

 

魔法さん。

 

それは僕をここに……この得体の知れない体に閉じ込めるものなのか、それとも僕を助けるものなのか。

 

それともなにか別の。

 

「………………………………もう、いいや」

 

どうしようなんて考えるのもばからしい。

体の力を抜いて床へ寝そべり、こつんと頭を床にくっつけてひんやりする。

 

もう、どうでもいい。

 

いちいち魔法さんについて考えるのも落ち込むのも……もう、疲れた。

 

緊張が解けたからか一気に眠気が襲ってきて、今度はお酒のせいじゃない自然な感じの眠気が舞い降りてきた。

 

……もう、このままここで寝ちゃお。

 

落ちていたときの緊張とさっきのとで火照っていた体が、ほっぺたが、ちょうどいい冷たさの床にへばりついて気持ちがいいし。

 

だんだんと心臓が落ち着いてきて息も収まってきて、ほんの数分で僕は元に戻る。

 

何ごともなかったかのように。

家をこんなに破壊したとは思えないほどに。

 

「……でも、夢じゃない」

 

ここは現実。

 

僕は――――――――――やっぱり、永遠に幼女なんだろうか。

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