【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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40話 「男の子」/「女の子」 2/7

つけっぱなしのテレビの向こうでは、知らない芸人の人たちがお酒を片手にわいわいとやっている。

 

いいなぁ……僕の手には甘酒しかないというのに世の中は理不尽だ。

でもこんな時間にお酒飲んだら寝ちゃいそうだししょうがないか。

 

たまには飲まない日っていうのも大事なんだ。

まぁ来る前にちょっとだけ呑んだけどあの程度は呑んだうちに入らないからいいんだ。

 

景気づけの1杯だったんだもん、なんの問題もないよね。

僕の本当の年齢はお酒オッケーなんだ、何も問題はない。

 

そのお酒も、肝臓がどうこう以前になんとなくの習慣で無意識で飲むようになっちゃうとなんだかお酒のおいしさと楽しさが減るからこういう日も必要なんだ。

 

たまに忙しかったり気が向かなかったりして飲まない日が続いたあとの1杯はまた格別なもの。

 

だから今夜は素直に諦めよう。

どうせ飲めないんだし。

 

いや、帰ったら……いやいや今日くらいは、年が明けた今日くらいは止めておこう。

 

厳密にはもう昨日だから帰ってからならいいかもしれないけどって屁理屈が思い浮かぶけど……さすがにここまでこだわるのはアル中っぽいって感じるからやっぱやめとこ。

 

ともかく今、ここではお酒は飲まないし飲めない。

だから口が寂しいんだけど食べものは喉を通らない。

 

かといってばかばかお茶とかコーヒー飲んでいるとさっきみたいに動悸みたいなのがしてきちゃうみたいだし。

 

たしかアルコールだけじゃなくってカフェインでもあんな状態になる人がいるって聞いたことがあるけど……まさかそれのせい?

 

それでさっきのあれが?

 

……いやいや今までそんなのいちどもなかったじゃないか。

 

だったらさっきの体が揺れたみたいな衝撃、あれはいったいなんだったんだろ。

 

なんかああ言うのって怖いけど……多分ネットとかで調べると「末期です」とか出て縮こまるけど実際には大したことないあれだって思っておく。

 

あの後しばらく身構えていたんだけども何ともなかったんだ。

それよりも今はせっかくの新年のお祝い中なんだ。

 

かがりの話はやっぱり思ったとおりにあっちこっち行っていたけどようやく戻って来たみたいだし聞いておいてあげないと……そもそも僕からの話題だしな、珍しく。

 

みんながそれをまじめに聞いてくれるっていう奇跡まで起きているんだし。

 

「……それでね?」

 

ずいぶんあっちに行ってこっちに行ってってしてた感じの話がようやく戻って来たのを感じ取った僕の耳が彼女の言葉を認識し出す。

 

「その人に合うお洋服を選んだり、あるいは作ったりもいいわねぇ……お化粧とかを手伝うお仕事だったりエステとかでお肌から綺麗にしてあげたり! それからそれから!」

 

「……あの。 かがりさんは、その……かがりさん自身が綺麗になるのは」

 

さっきから軌道修正をがんばっていたさよの顔には疲労が浮かんでいる。

 

「それももちろん好きなんだけれどね? ……そうね、響ちゃんのときにはっきり分かったのよ」

「……ん? 僕?」

 

なんで?

 

「えぇ」

 

えぇじゃないけど。

 

……おもむろに僕のそばににじり寄って来た彼女は……何を思ったか僕の顔をのぞき込みながら、ぱさっと髪の毛をひとふさ持ち上げてくるんくるんとされてふわっとされた。

 

ぱさりとほっぺに当たる僕の髪の毛。

 

「もちろんまだまだ決まってはいないのよ。 けど、去年ね? ……初めての、こっそりのアルバイトで、そのはじめのはじめで響ちゃんを着飾ってコーディネートしてあげたときにね? 思ったの」

 

あげた?

ほんとうに?

 

「させた」のまちがいじゃ?

 

「響ちゃんのときみたいにね、その人の魅力をその人ができる限界以上に引き出してあげて引き出してみせる……そんなお仕事がしたいわって」

「……そうか」

 

じゃあなんで今僕の髪の毛ふぁさってしたの?

 

まぁ多分意味はないんだろうけども……それはそれとしてコーディネートとかは合っていそうな気がする。

 

服を売るところなんだ、来る人の大半は望んでいるわけでだからなんの問題もないはずなんだ……僕が例外だったというわけで。

 

この子だって普通の男相手なら無難に流行りのを進めたんだろうし。

 

「みんな夢があっていいわねーひっく」

「りさりんだいじょぶ? 酔った席ってヘンなこと言いやすいから気ぃつけて?」

 

真っ赤な顔の巫女りんが……あ、これ完全に場の空気っていうやつにも酔ってるな……お酒で理性が飛びかけたところにみんなで年を越しているっていうイベントでハイになってる。

 

眠気を無理やりにコーヒーとかお茶とかおしゃべりでくぐり抜けているって感じなんだし、場の空気にここまで酔ったとしてもしょうがないだろうけども。

 

みんな多かれ少なかれそうなっているみたいだし。

「なんだか暑いねー」って言いながらごまかしあっているのがほほえましい。

 

それにしても巫女りん。

 

僕を着せ替えし続けたかがりとか、連勝し続けてハイになっているときのゆりかによく似ている。

お酒なんか飲んでいないのにそんな感じになっているあれに。

 

さよは僕と同じでお酒を飲まないとそうはなれないかもな。

 

彼女だけは……あ、ほっぺた赤くなってる。

まぁストーブもついてるし、気がつかなかったことにしよう。

 

「私は、ほぉら。 知ってのとおりここの神主の長女でしょお? 順当に行けばー、なんにもしたいことが見つからなければー、多分お父さんを継ぐことになると思うのよぉ。 女だからそのへんは大変らしいけどぉ、少子化だしで今はその辺緩くなってきたって言うしぃ」

 

たまたま目が合ったって思ったら「どう思う?」って聞かれた僕は、ちょっと考えてみて答える。

 

「……その年なら、まだしたいことが見つかっていないっていうのが普通だよ、りさ」

 

ここに25になってもしたいことが見つからないニートも居るんだし。

 

「そういうものが、方向性だけでもはっきり見つかっているふたりのほうが珍しいんだ。 気にしなくてもいいと思う。 君ならきっと何かを見つけられるよ」

「ありがとー響さーん……うへへぇ、響さんに慰められちゃったー、ねーゆりかー?」

 

適当なこと言ったけど酔っ払いだからそれで満足らしく、ゆりかにまとわりつき始めた。

 

「嬉しーい♡」

 

「響、コイツはもうだめだ、酔っ払っている」

「そんなことないわよー、ちょっとお父さんたちから『りさももう2年なんだしちょっとくらい』って」

「危ない発言禁止!」

「ちょーっとだけ飲んでわぷっ」

「遅かったか……ぬう」

 

びたっと両手でお口チャックされた巫女りんの発言は表には出せないもの。

今どきはスマホで簡単に録音も録画もできちゃうから危ない危ない。

 

この子たちは大丈夫な感じだけど万が一はあるんだ。

 

「むぅー、ゆりかのけち。 けち」

「落ちつくまでこうしておかねば……にしても酒グセ悪いのね、りさりん」

 

本当に飲んでたんだね……お酒。

いいなぁ。

 

家にもよるだろうけど親が飲ませるところだってあるって聞くし中学生な巫女りんだし、こういうときくらいはいいんだろう。

 

家柄が家柄だからバレても「神事のためです」で乗り切れるだろうし、りさりん自身もお酒に溺れる質の子じゃないしな、大丈夫だろうきっと。

 

「……も、大丈夫? やう゛ぁいこと口走ったりしない?」

「あ――……ちょっと醒めてきた気がするかも」

「後悔しないようにね。 や、マジで」

 

少しだけ座っていた目が元に戻った巫女りんが解放された。

 

「ふぅ。 んでさっきの続きだけどね、私もここに愛着があるわけよ……だってちっちゃいころからこの服装楽しんでたし。 一応ね、このへん一帯が昔は家の敷地だったらしいから食べていくのには困らないって言ってたし、お父さんが」

 

「このブルジョワめ」

「聖職者階級ってそのへんどうなのよゆりか」

「あ、いやテキトーに突っ込んだだけだからわかんにゃい」

 

うん、ゆりかって結構適当なワード使って楽しんでるよね。

 

「ま、とりあえず大学までみんなと行ってみていろいろ勉強してみて経験してみて、なにか見つればそっち行って、そうじゃなければって感じかしらね? ……そっか、進路調査とかそのうちあるのよねぇ……どうしよ」

 

話し終わるやいなや、電池が切れたようにぱたりと横になる巫女りん。

 

そんな風に無造作にしていても着崩れないというのが普段の経験を表している。

 

「………………………………………………………………………………………………」

「?」

 

ふと視線が刺さっている感じに反応してみると、さよの目が……片目が前髪に隠れている眼鏡越しのそれが僕に向いていた。

 

「………………………………………………………………………………………………」

「………………………………………………………………………………………………」

 

「多分言いたいこと考えてるんだろうなぁ」って同じ属性のよしみで分かったからじっと受けて立つことしばし。

 

「私……ですね」

「僕でもいいって思うし、決まっていないなら別にいいんじゃないかな」

 

仲良くなったって言ってもこれだけの人数の前だから大変だろうし。

 

「さよちゃん、思い浮かんだことを口にするのでいいのよ? そんなに深く考えなくても」

 

そこへメロンさんがいいことを言う。

 

そうそう、簡単なのでいいと思うよ?

なんかゆりかがすっごくマジメだったからそういう空気なだけだけど、僕は元々「なんかある?」って感じで聞いてみただけなんだから。

 

「…………えっと、私も、まだ、決まってはいないん、です……今まで病院で、本とか……読むくらいしかできなかった、ので。 けど」

 

すぅ、はぁ……と、落ちつくためのひと息。

 

「……私も。 私も、たくさん勉強、して。 なにがいちばん、私に向いて……いるのか。 たくさん、たくさん……試してみてから、決めたいです。 まだ中学生、ですから」

 

「そうか。 えらいな」

 

「……そんな。 本当に何も、分からないので」

「中学生だからそれで良いと思うよ。 君たちの学校は中高一貫だって言うし」

 

特に君は体が弱いんだし焦る必要もないって思う。

 

「……それで響さんは、どうなんですか?」

 

「そーだよ、ひびきん。 トリはもちろん主役じゃない?」

「そうねぇ、そういえば響ちゃんってさよちゃんみたいに病気がちだけど、たくさん本とか読んでいるみたいだしおんなじような感じかしら? あ、でもいろんなことを知っているわけだし夢とかあったり」

 

「かがりんストーップ。 ……かがりんさんや、人のネタを潰して差し上げるでない」

「え? ……あらごめんなさい、つい」

 

「そーよ、響さんならもっとなにか、こー……すうこーな目的があるはずにゃの!」

「あー、いそがし……りさりんや、お水たくさん飲みなさいな。 ほれ、もっともっと」

 

かがりはゆりかの指摘にわたわたしていて、さよは巫女りんのあまりの変わりっぷりに……思考停止中で、巫女りんはゆりかに介抱され直して。

 

まるで飲み会だ。

 

りさりん以外は場の雰囲気と甘酒で酔っていて顔真っ赤だし、話も飛び飛び。

ここにお酒の瓶でも置けば飲み会だとしか思えない雰囲気。

 

まぁ飲み会なんて出たこともないんだけども。

 

出たとしたってきっと、僕からは話しかけられずに……そう、ただお酒を飲みながらぼーっとみんなの話を聞くともなく聞いているだけな気がするし。

 

うん、間違いない。

 

それで「響君は誰とも話さないのー?」とか絡んでくる人が居なければ家でひとりっきりで呑んでいるときと変わらないんだろう。

 

悲しいけど僕のことは僕がいちばんよく知っているんだ。

 

「で、どーなのよ響?」

 

りさりんの介抱が済んだゆりかが……あ、ちょっと着崩れてきてる。

 

「えっと……うん。 僕も特にまだなにも……したいこととかやりたいこととかは。 とりあえずでこのまま療養しながら……」

 

口が勝手に普段のような言い訳をしている。

 

……今までなんにも、本当になんにもしてこなかった僕。

 

こんな状況になってもまだ家にひとりで籠もるだけのつもりで、時間を消費するコンテンツだけは豊富な環境に感謝しながら魔法さんが解けるのを待ちつつ、ただただ生きるだけ。

 

長くても数年でこの子たちともフェードアウトして、そのあとは。

 

……また、きっとこれまで通りのニートな生活で歳だけを取っていくような――――

 

「……ダメですっ!!」

 

さよが唐突に、裏返るような声を上げていた。

 

「っ!?」

「さよちん!? びっくりしたぁ急に」

 

「あ、ごめん、なさい……」

 

それも僕の近くまで……顔同士が、お互いの髪の毛が1本1本見えるくらいまで来ていて。

 

もさっとしている前髪のすき間から、レンズが、目が、まつげが、瞳の奥が、はっきりと見えるくらいに近づいていて……巫女衣装が少し崩れていて、その状態でよつんばいになりながら僕に迫ってきていて。

 

「………………………………………………………………………………………………」

「………………………………………………………………………………………………」

 

そんな自分に今気がついたのか、普段に無く目を見開いていて……あ、だんだん赤くなってきている……固まっちゃったさよ。

 

「あらあら」

「あらあらじゃないよぅかがりん」

「さよさんが響さんに迫ってるぅ、あははっ」

 

……なんかこの子の地雷でも踏んじゃったかな。

 

「……はわ、はわわわ……」

 

唇がぷるぷるしだしたさよが普段のかがりのように押さえ付けているから僕は動けない。

 

……なんで君たちっていつも僕の上に乗っかってこようってするの……?

うん、僕がちっちゃくて肉体的には同性だからだよね……でもちょっとは遠慮してほしいって思う。

 

ほら、着崩れてるから君の胸元も下が見えちゃってるし。

 

もちろん僕はそういうのに興味がないから一瞬で逸らしたけど。


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