【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
「……私、これまでに何回か……成功率が低い手術、受けたことがあるんです」
さよが聞いたこともない声の大きさでいきなり僕にNOをつきつけて、僕も含めて5人もいる空間なのにしーんとしてちょっとして……なんかいきなり重い話をし始めた。
つけっぱなしのテレビから音はするし、外からも……囃しっていうのかな、あるいは神事とかかな……くわしくないからよくわからないけれども「とにかく神社といったらあれ」っていう音が響いてくる。
「うん。 ……話す前にとりあえず、少し離れた方が良いんじゃないかな。 僕は平気だけど、君にとっては」
「えっ? ……あ、あの、ごめんなさいっ」
顔と顔、目と目がすごく近くって鼻がくっつきそうだったのに気がついたらしい彼女はあわてて離れる。
目線が下の僕をのぞき込む感じだったから前髪がすだれみたいになってたもんね。
普段の彼女的にもこんな近くで人と視線を合わせるのは大変だろうし……僕もちょっと恥ずかしかったから。
「……ふぅ」
ゆりかか誰かのため息も聞こえる……そうだよね、さよがバランス崩して転ぶんじゃないかって心配だったよね。
ちょっと気まずくなって視線を外した先にいた巫女りんは今のさよの声で飛び起きたらしく、目をぱちくりして……きっとびっくりしたせいで真っ赤だった顔が色づく程度に戻っちゃっている。
きょろきょろとみんなを順に見回してさっきまでの巫女りんみたいな色に染まっている巫女さよさん。
赤くなるのも代わりばんこか。
仲がいいな。
でもなんだかすっごく大変そうな話になってきている気がする……というか本当に唐突だな。
きっといろいろと話す前に考えて、でも口が動き始めると焦っちゃってせっかく順序立てていた話をすっ飛ばしちゃって、いちばん言いたかったことだけを先に言っちゃうんだろう。
わかる。
僕もそういう性格だから。
性格って言うより生まれつきのなにかなんだ。
「……それで?」
だからまずは話させてあげよう。
こういうのだけは得意なんだ。
「あ、はい……それでですね、その手術のたびにですね? 大抵は、手術の前の夜と……白い部屋に運ばれたあとに、必ず言われるんです。 自分たち……先生方は全力は尽くすけど、手術自体は必ず成功させるけど、そのあとにいちばん大事なのは、本人、私の体力と、そして……生きようという、意思だって。 体が治ろうとする力って、そういうものだって」
慣れないことをしたからか、いつのまにか後ろに来ていた巫女りんに勧められてきちんと座らされる黒めがねさん。
なんかわたわたして転びそうだったもんね……着慣れない巫女服だし、普段の何倍もしゃべってるからそうなるよね。
「せっかく話しているのに当の本人が倒れちゃったりしたら困るからね。 落ちついて、ね?」
「はい。 ……それでですね、響さん」
「うん」
「だから、手術の前にはたくさん、したいことを考えたり、リストアップ、したり……私の場合は、その、読みたい本を、たくさん積んでおくことなんですけど……でも、そうして、そのあとにしたいことをたくさん考えておいて。 ……手術が終わったあとに、取っておくように、……と。 そう、言われるんです」
「……そうか」
ほーっ、と息をつくさよ。
多分言いたいことのうち、まとまってる部分だけは言えたんだろう。
大丈夫だ、伝えたいことは僕に届いたから。
……きっと勇気が要ったんだろう、今さらになってさらにあわあわしだす彼女を見ていると胸が締めつけられる気がする。
僕は健康そのものの生活をずーっと続けてきて……むしろひきこもって好き放題して体調を崩せるくらいには体がなんともなくって平気な人生してきて、さらに魔法さんが……たぶんひどい病気とはこの先にもご縁がなさそう、だから病気とかとは無縁かもしれなくって。
ただの想像だけど、でもこの体になってから1回もカゼを引いていないんだ。
普段なら年に何回かは軽くても引くはずのそれを、この1年……半年で1回も。
だからきっと僕はさらに健康体になって。
小指をぶつけてもだえるくらいはするけど、階段から落ちるくらいの危ないのからは守られちゃって。
だから、めんどくさいからって、誘いを断るのにちょうどいいからってついちゃった、この病弱っていう入院っていう嘘がずっしりと響いてくるんだ。
でも。
でも、タイミングが揃ったら、いずれは言わなきゃいけないんだ。
だからこの苦しい気持ちも、そのときにぜんぶごめんなさいするために取っておく。
「……あの、急に大声。 ほんとうに、ごめんなさい」
「いや、僕の方こそ」
「でも……いえ、だから」
前髪をかき上げて両目が珍しくはっきりと出た状態のさよが、僕を見てくる。
「……だから、そうして手術を乗り越えてこられたからこそ、今、こうして。 みなさんと……友だちなんて、入退院ばっかりで、ろくにできなかった私が、こんなに、仲のいい、友だちと、みなさんと。 ……おはなし……できるようになっている、んだと、思うんです」
ふぅ、と息をつき、ぱらっと落ちてきた前髪をかき上げながら続けるさよ。
「……それで……これは響さんのおかげ、だから」
「僕の? ……いや、僕はなにも」
さよの大変な人生から急に僕の呑気な人生に話が変わってハテナが浮かぶ僕。
「いいえ。 夏のあのときに、響さんが、お友だちを……私と、仲良くしてくれるお友だちを、ゆりかさんとりささんと、そして、響さん自身を、繋げてくれたから。 ……だから、だから、その響さんもって、思ったら……つい、出てしまったんです」
あれは「たまたま」本屋に出向いて、その日が「たまたま」夏休みの中の登校日というやつの下校時刻に重なっていて、「たまたま」ゆりかたちに絡まれて。
そこから「たまたま」どうやって逃げ出したもんかと出口の方を見ていたら、「たまたま」さよと目が合って、それで僕の名前でかがりが呼ばれて。
そうして連行された先で「どういう関係?」ってやったらねちっこく聞かれた、ただの偶然っていうやつが重なっただけだったのに。
だからそれは過大評価っていうもんじゃないんだけど……この子がこんなに一生懸命に話していて、こんなにはっきりと目を輝かせて話しているんだ、無粋な真似は止めておこう。
僕だって空気くらいは読める。
学生らしい青春もこんな夜くらい良いだろう。
「……そうだったんだね。 言ってくれてありがとう、さよ」
「い、いえっ」
これだけのことを真剣に……僕のことを想って言ってくれるんだ。
きっと重度の……心臓とか脳とかの内臓の重い病気なんだろう。
それでも学校に去年から通えているくらいにはよくなっていて……重い病気を乗り越えて学校へ自分から通っているだなんてどのくらいの精神力……心の強さが必要なんだろうか。
僕だったら無理だろうし、多分行かなくても卒業できるんなら行かない。
少なくとも僕がそのときならそうしたはず。
でもこの子は違うんだ。
そんなこの子が僕に言う。
生きる意思。
……この前階段から落ちそうだったときにもこの子たちのことがふと浮かんだんだ。
未練。
しなきゃいけないこと。
したいこと。
「……そうねぇ」
「あぅ、りささん……」
もういっかい真っ赤になっているさよの髪の毛をぽむぽむとしながら、もうすっかり元に戻った巫女りんが言う。
「……その……ね? 私がここで、この格好で言うのもなんなんだけど……きっといいわよね、友だち同士なんだし。 他に誰も聞いてる人なんていないんだし、神様だってお参りに来る人たちの願いを聞くのでいっぱいだろうし。 だから内緒よ? ……で、そのね? 私は、私自身は……だけどね? 神さまの力なんてほんの少しだって思ってる」
「……いいのか、そんなことを言ってしまって」
巫女さんだって言うのになんちゅーことをこの子は。
「いいのよ、だってそんなに神さまがすごいんだったら誰でも好きなだけ願いが叶うはずでしょ?」
うん……まぁ確かにそうだよね。
いるかいないかってのは深くは突っ込まないけど、とりあえずで僕自身が会ったり話したりできない存在のことは信じられないかな、僕は。
「でしょ? たとえばゆりかが響の」
「ち、ちょーっ!? りさりん!?」
「あ。 ……じょ、冗談よ冗談! この先は言わないから安心して?」
「うぅ……りさりんのくせにぃ……」
「?」
「な、何でもないからね響! ほんとーなの!!」
今度はゆりかがさっきまでの巫女ペアのように真っ赤になるのをぼーっと見る。
「だけどね? ほんの少しのはずだけど、でも違うときがあるの。 それはね、ご家族の病気だとか大切な試験とか、そういうのを真剣に……1回でもだけど、何度も来る人って……これも言っちゃ悪いんだけど、今日みたいになんとなくで来ている人たちとは全然違うのよ。 なにもかも」
「あ―あ―……りさりんが言っちゃいけないこと言ってるー」
「茶化さないの、もう。 それに全員っていうわけじゃないんだから……今までたくさん見てきたからその人を見ていればなんとなくわかるのよ、そういうの。 これでも10年以上お父さんの手伝いとかしてるんだから。 でね? そういう真剣な人たちって……神通力っていうの? そんな才能なんて一切無いか、少なくとも感じられない私でさえね、そういう人たちの迫力っていうのかな……こう、ぶわってしてるのが分かるのよ。 オーラとか迫力とか気とか、うまく説明できないなにかを」
オーラ。
勘。
あの人もそういうのが好きだっけ。
「……たぶんね? 『前に進もう、試練を乗り越えよう』……そういう意思がとっても強いんだなって思うの。 ……なんだか変な顔してるかがりさんにもわかりやすく言ってみると……そうね、マンガとかでよくあるでしょ? オーラとかそういうの。 そういう感じ。 だからさよさんが言ったみたいな気持ちが大切なんじゃないかって私も思うの」
良い話なんだけど、ありがたいんだけど……かがりはやっぱりついて行けてないのか。
ちゃんと聞けば分かるはずなのにあの子は……。
「よく分からないけれど……そうなの?」
「そうなの。 ……かがりさんがこの前貸してくれたマンガでもおキツネさまがーっていうシーンあったでしょ?」
「……そうだったわね?」
ちらっと見たら「くるん?」ってしてる。
「……ちょっと! なんで『このマンガおすすめだからぜひ!』って貸した側が忘れちゃってるのよかがりさん」
「お、覚えているわよ? ……そのページを見ればすぐに」
「あ、かがりんそれ知ってる! 暗記帳に書いておいたのにーって、あのかがりんが中間で嘆いてたやつ! つまりは」
「今それはいいでしょう!?」
今度はかがりが真っ赤になってくるんくるんくるんしていてみんなで騒いで……着物の肩のところを整えたかがりが、まだ顔は赤いけど、でも落ちついた感じになって僕を見てくる。
「……それなら私も。 響ちゃん?」
「かがり」
さすがにお花畑は引っ込めたらしいかがりが言う。
「……私には、みんなみたいに詳しいことはわからないわ。 ……でも、どんなおはなしでも、どれだけ苦しい目に遭っていてもね? 最後まで、最後の最後まで自分の気持ちっていうものを失わない人が必ず目標にたどり着けるの」
……でもそれは、ただの作られた話というものだし、そういうのって主人公たちとか以外のモブとかハッピーエンドじゃなかったりしたら。
「もちろん私だって、おはなしと現実は違って都合のいい話だっていうのはわかっているわ? だけど、それでもね響ちゃん。 ……心の熱さ、意思。 そういうものを持ち続けている方が未来へ向かって……響ちゃんもさよちゃんみたいに、その、体のこと、がんばれるって思うわっ」
くるんっとしながら、……でも普段と違ってもっとはっきりと、僕を気遣っているっていう意思を込めながら言ってくる。
――完全な嘘じゃない。
重い病気になっているのと、原因不明で突然に見知らぬ姿、それも年齢も性別も人種も異なる姿になったのと人知を超える何かに付きまとわれているのとじゃ真剣さ具合は全然違うし、きっと僕なんかよりさよの方が大変な人生なんだろうけど……でも。
こんな状況になって誰にも相談できなくて……しなくて過ごしてきた僕。
お隣さんにさえ結局まだ言ってない、これのことを――――――多分初めて。
初めて心配されて応援されているって……こんな僕でも分かる。
「そんな資格もなにもないんだ」って思う僕と「はげまされるのってこんなに嬉しいんだ」って思っている僕がいる。
ひとまわりも下の子たちにはげまされて……最近凹んでいた気持ちが、ちょっとあったかくなった感じ。
……そっか。
友達が居るって、こういうことなんだ。