【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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7話 ハサミ事件 1/2

僕は膝をつけたまま座っている。

なのに足がおしりより外に出ている。

 

おしりと足の甲と膝で体重を分散している形。

つまりこれは……。

 

「………………………………できた」

 

ベッドの上でごろごろしていたときに、ふと思いついて試してみたらできちゃった。

正座を外に崩したようなマンガやアニメでよく見るこの座り方……通称女の子座り。

 

なんか女の子が当たり前にしているのがたまたま目に入ったからマネしてみた。

そうしたらなんかできた。

 

実際にこの目で見たことはないけど検索したらこうしてる女性の写真とかあったし、する人はするんだろうな。

 

膝がすごい方向に曲がってる気がするのに痛くない。

頭がバグってる感覚がする。

 

なんて言うか曲がっちゃいけない方向に関節が曲がってる感じ。

 

女の子座りは膝を外側にねじれるように回すし正座よりもずっと痛そうだっていう感想しか持てなかったけど、実際にこうしてやってみると別に痛くはないし膝とふとももとで思いのほかバランスがいい気がする。

 

新感覚だ。

 

もちろんあぐらのほうが慣れていることもあって楽なんだけど、スカートを履いている状態で地べたに座るなら脚を広げるのは確かに抵抗あるしなぁ。

 

誰かに見られるとかじゃなくて寒いから。

だって布1枚だもんな、スカートの下って。

 

そう考えると正座よりも楽でだけど「はしたない」っていうのじゃなくなるっていう、わりと合理的な座り方なのかもしれない。

 

おまけにスカートだったり下に穿いていない状態でこうするとふともも全体がべったりと下に触れる。

ベッドや絨毯の上ですると結構柔らかくて気持ちいい。

 

「……………………………………」

 

ぼーっとする。

 

クセになりそう、この感覚。

 

あとふとももの上に直に手を置いたり股のあいだに挟んだりすると……なんていうかこう、とっても落ちつく。

 

………………………………女の子としての本能なんだろうか。

頭の中以外は女の子になってるわけだし、そういうことかも。

 

 

◆◆◆

 

 

顔に朝日の当たる感覚で目が覚めると外はもう明るくなってきている。

最近は日の出るのが早くなってきたから日の光で起こされるのも早い。

 

だけどカーテンを少し開けておいて日の出の光が顔にかかるっていうのがいちばん目が覚めやすいし、まぶしくて寝ていられないから二度寝を防ぎやすいしで都合が良いしな。

 

寝ぼけてカーテンを閉めちゃったら……まぁ、無意味なんだけど。

でもこれのおかげで冬以外は目覚ましいらずだ。

 

けどもともかく眠い。

昨日は寝るのちょっとだけ遅かったからか。

 

「くぁ」

 

遅いって言っても9時台だったし以前と比べれば睡眠時間はかなり延びているんだけどなぁ。

たくさん寝ないとダメらしい。

 

SNSの盛り上がりはこれからだっていう時間なのに僕の体は盛り下がる。

やっぱり成長期だからなんだろうか。

まぁこの体で生きる以上にはちょっとは成長してもらわないと困るわけだけども。

 

目だけを閉じないようにしてぼーっと考えているうちに体が温かくなってきて、目が覚めてくる。

 

指先がじんわりしてくるこの感覚が好き。

体を起こして朝日から顔だけ逃れてベッドの上でまたしばらく、ぼーっとする。

 

……この体になってから寝起きがどうもだるい。

 

前はそんなことなかったのに。

意識ははっきりしているんだけどそれに体が追いつかないっていうか、なんというか。

 

……こういうところは見た目相応なんだろう。

成人と幼児を比べるのが間違いなんだもんな。

 

「……で」

 

今朝はどうだろう。

何か変わったりしたかな。

 

僕はのろのろずりずりとベッドの隅まで這いずって行って枕元に置くようになった鏡をのぞき込む。

 

廊下にあった鏡は布をかけた。

なんて言うか、こうして不思議なことが起きている以上見えちゃ行けないものが見えるとかゼロじゃなくなったって考えちゃうと怖くなったから。

 

僕はホラーに弱いんだ。

 

で、枕元の鏡の中には……もう僕自身の顔だって感じられるようになってから久しい……寝起きでまぶたとほっぺたが腫れて普段の何割か増しで幼さの感じられる、静脈が透けて見えるくらいの薄い肌を持っていて眼球の奥までがくっきりと見える、大きな目。

 

寝起きで眠気が残っていて厚ぼったくて髪があっちへこっちへとぼさぼさの状態、しかもパジャマはあのときに買わされたガラこそないものの明らかに子ども用のもので。

 

袖とかのふりふりした余計なものが邪魔なやつ。

 

鏡に映っている今の僕に関しては幼女だって呼ばれても文句が言えない。

いつものように服装を整えてどうにか数年はサバを読まないとな。

 

さすがに幼女扱いは勘弁だ。

あのときの地獄が再現されるのもな。

 

「………………………………はぁ……」

 

けど、戻っていなさそうなのは分かってた。

そもそも視力が違うんだし分かってたけど、それでもこの目で見ない限りには、だ。

 

………………………………もう諦めてきているんだけどな、起きたら元に戻ってるっていう素敵な展開を。

 

僕は鏡を置くと、暑くなってきたから横着をし始めたせいで上だけしか着ていないパジャマ姿のままベッドからずりずりと下りてのろのろと机に向かって、適当な雑誌を詰めた即席の踏み台を使ってクッションで高くしたイスに座ってペンを挟んだノートを広げる。

 

「…………ふぅ」

 

おしりが冷たくて気持ちがいい。

じゃなくて…………今日の日付。

 

天気は……たぶん晴れだろう。

朝から暑い。

 

ちっこい手で大きくて重くなったみたいに感じるペンを動かしてゆっくりと字を書いてみる。

 

――僕がこの体へと「変身」してから今日でちょうどひと月。

 

外見、感覚……変わらず。

 

これ以上変わるという変化も、異常も、なし。

 

僕はまだ、いまだに。

 

この少女の体から――――逃れられないでいる。

 

そんな現状確認を、ここ最近の定型句となりつつあるそれをちょっとだけ書いた。

 

 

◇◇

 

 

「……いよいよ大型連休初日です! 観光地はどこも人であふれかえっていて……」

 

「ふーん」

 

テレビはどこも朝からこんな感じ。

もう飽きるくらいに見た光景だな。

 

そんなテレビを見ながら朝食後の洗濯物待ちの手持ち無沙汰な時間を過ごす。

 

…………結局なんにも。

本当に何もなかったんだ。

 

この体になるってこと以上の何かが起きることも……戻ることも。

なんにもまったくこれっぽっちも、その気配さえもない。

 

初めのうちは次はどうなるんだろうって不安で仕方なかったし、逆に次に目が覚めたときには戻っているんじゃないかって毎晩寝るときに躁鬱を繰り返しながら寝付いていたものだけど、そのどちらも起きることはないらしい。

 

だってもう春休みは終わって新年度が始まってからの初夏の大型連休なんだから。

ニートにとっては毎日が変わらないからこそ季節感は大事にしたいところ。

 

つまり僕は3月に幼女になってから4月も終わりだって言うのにまだ幼女してるんだ。

 

「この連休中はお天気が続くということで、どこも……」

 

まさしく人混みってしか表せない光景が画面の向こうから流れてくる。

人のいない時期に来ればそんなに並んだりしなくても済むのになぁ。

まぁ働いていたりしたら到底ムリなんだろうけど。

 

家族とか友人とか恋人なんかと一緒ならなおさらだ。

でもそれが良いって言う人もそれしか無いって人も多いんだろう。

 

僕ならこういうときは家で過ごして別の時期に行くけどな。

ひとりぐらしでぼっちのニートだからこそできる発想だ。

 

「………………………………」

 

このひと月、念のために引きこもってみた。

おかげでこの体に馴染んじゃったんだ。

 

慣れっていうのは恐ろしい。

 

もはや写真を見ないと「僕だった顔」を細かくは思い浮かべられないくらい。

その写真でさえ……確か免許だったかの更新で撮った数年前という体たらく。

 

ちょっとホラーにも思えるけど人の記憶力なんてこんなもんかって納得もしたなぁ。

代わりに今の顔にも馴染んだから案外人って言うのはちょろいもん。

 

写真を撮るのは好きだし旅行のときにはたくさん撮るけど自撮りはしないで風景とか建物とか物とかだけ。

そのおかげで今や前の僕の、男の僕の最新画像は身分証でしかない免許証だ。

 

そういえばこの体になったばかりのころに買った服とかを元に調べてみたら、今の僕の体は身長体重ともに小学生の中ほどから……がんばって高学年の範囲でしかなかった。

 

がんばっても。

さばを読んでとも言う。

 

あくまで平均、それも数あるサイトの中から恣意的に選んだ数字で小学3、4年生。

 

……うん、分かってはいる。

でもまだ認めたくないんだ。

 

時間が経ったら認められるんだろうけど、あと1、2歳は低いのかもしれない。

本当はもっと年は上のはずっていう根拠のない直感があるのが気になるけど、たぶんただの願望。

 

ともあれ個人差の範囲でがんばって2年くらいはサバを読んでおきたいところ。

数字のマジックで小学校高学年ってことにして、内面の充実でさらに2年で中学生って言い張っておく。

 

いくらなんでも小学生扱いは嫌だし。

大の男が子供扱いは嫌なんだ。

……せめて身長さえあればなぁ。

 

「ご覧ください! この美しい景色! これは遠くまでよく晴れていないと見ることのできない……」

 

「おお――……」

 

すごい景色が画面に映る。

なんて言うか綺麗な風景って「きれい」とか「すごい」っていうひと言で片付いちゃうよね。

 

こうなる前には年に2、3回くらい行っていた旅行先に選びたいくらいの、どこかの山の上から町と海を一望にするパノラマ。

 

ロープウェイがあるほどじゃないけど女性でも楽に登れるらしい。

乗り継いで2時間程度の日帰り圏内だしな。

 

意外と近いところには行かないもんだ。

旅行中だと2時間なら往復でも移動できるのに家からだと嫌になっちゃう。

 

どうしてなんだろうな。

 

……もっとも、当分は行けそうにないけども。

 

物理的に行くことはできるけどこの見た目でひとりで行動していたら絶対に見とがめられそうなのと、あと体力的な面で無理なんだ。

 

体力といえば体のサイズが根本的な原因だとも思う。

小さい体のせいで家の中でさえ生活すること自体に苦労したしな。

 

小さいころはよく感じることがあった手や部屋がやたらと大きく感じる現象……アリス症候群だっけ……が最初の数日はよく起きて戸惑ったのを覚えている。

 

この体のせいで起きたのか、それともこの体に変わったことで起きたのかは不明だけど、とにかく空間の認識がおかしなことになっているあいだは強烈な不安感に駆られていた。

 

家具や手すりなんかが高いのは数日で慣れたけど、僕の部屋とか台所とか毎日使うけどどうしても背と足の長さが足りないところ。

そういう場所には小さいころ使っていたような踏み台を置いてようやく前に近い感覚で暮らせるようになったんだ。

 

今では家じゅうの至る所が10個くらいの踏み台に守られている。

踏み台さんたちがいなければ僕は何にもできない。

 

幼女ってこんなにもか弱い存在なんだ。

 

こんな状態で観光地なんて行ったらダンジョンってしか感じないだろう。

 

足のうらが下に着かないから落ち着かないせいでイスから足をプラプラさせていたのや、背伸びをしても高いところに手が届かなかったのを今さらながら思い出す。

 

っていうかこの体になってから無意識にしょっちゅうしているのに気がつくし、直らないし。

 

とっくに忘れていたと思ってたのに記憶にはきちんと残っているっていうのに感動したけど、できれば二度と経験したくなかったなぁ。

 

あんまりにも子供っぽいって、ふとした瞬間に自覚してめげるから。

 

 

 

 

女物の服。

僕には一生涯縁がないって思ってたそれら。

 

スカートやワンピースっていうものにも……家に籠もっているあいだ2日に1回くらいの頻度で着てみたらさすがに慣れてきた感じ。

 

ふともも周りに空気が来て涼しく感じるのも股ぐらがすーすーするのも、慣れてみたら清涼感と解放感があって過ごしやすいものだ。

 

とりあえず気温が高い季節はありがたい。

冬は寒くなるのかもしれないけど、そんならズボンにすれば良いしな。

 

そう考えると女性は使い分けできて良いよな、便利で。

なってみてから思う。

 

本物の女性からは怒られるかもしれないけど僕も一応肉体的には女だ、文句は言わないでほしい。

でも心は男って言う都合のいいとこ取り。

 

視線を少し落とせばスカートとふとももが見えて何となく嬉しくなる。

 

こういう視覚的な要素で気分がよくなるっていうことは、少なくとも体は見た目通りでも精神、心のほうはまだまだ元の「男」のままでいられている様子。

 

中身まで幼女化……女の子になって幼くなるなんて勘弁だし。

 

そうなったらもはや僕は僕じゃなくなる。

僕って思い込んでいる幼女って言う最初に思い浮かんでいたやつだ。

 

アイデンティティの喪失。

できたら回避したいところ。

 

……どうせなら僕好みに女の子らしい特徴がある体型だったらもうちょっとだけよかったかもしれないけど贅沢だな。

 

うん、贅沢だ。

 

こうして女の子の格好をしていても楽しめるのはあの地獄で着せ替え人形になっていたときに感じたゲームのアバターを着せ替える感覚、あれのおかげもあるかもしれない。

 

つまり僕は元の体のままで一時的にこの子の体に幽霊みたいに憑依しているんだって、あるいは体感型VRゲームをしているんだって思える実感があればよかったんだ。

 

僕は幽体離脱なんて信じていないし最新型のVR機器でもここまでリアルなものはないけど、どうせ不思議なことなんだから不思議で返そう。

 

僕はあくまで僕のままであって、この体は借り物っていうか使っているだけっていうか、そういう感じで過ごすことで心の安寧を図っているともいえる。

 

そういうのを自覚はしているけど、まだ精神的には安定している感じ。

 

……スカートだとちょっと油断したら太ももまでまくれたりパンツが覗いたりするけど、まぁ家の中だし僕しか見ないんだし少女未満だし、あまり気にならない。

 

それどころか気にならなさすぎるのとエアコンをなるべく使わないようにしているのにカーテンごと開けられないっていう制約のせいで、外の暑さがダイレクトに入ってくるようになったから、しょうがなく……しょうがなくパンツの上を履かないことが多くなってきた。

 

つまり上はシャツ、下はパンツだけという格好だ。

シンプルイズベスト。

 

この体になった朝にブカブカシャツ1枚だったときのインパクトが根強い。

 

幼い女の子の下着姿とかは僕の趣味じゃないけどとにかく楽だし、そんな格好でも前の男の体のように視界に入る毛で嫌気が差したりしないからしょうがないよね?

 

どうせ楽にするなら履かないのが一番だしなにより目の保養だし。

ふともも属性はなかったはずだけど、この体にはそれしかないっていうのもあるかも。

 

胸も尻もない寸胴だし、女らしいところといえばそれくらいしかないからなぁ、今の僕は。

 

それが良いのか悪いのかは……今の僕にはよく分からない。

けどとりあえず、このラフすぎる格好で夏を乗り切ろう。

 

……これは、僕の中身が男のままだって言う確認にもなるんだ。

もし、まぶしいふとももを見てもなんとも思わなくなったら……そのときは正真正銘の幼女になったってこと、かもしれない。


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