【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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42話 予定されていた/いなかった、予定(不)調和 1/6

僕は動けない。

 

だけどみんなの声は聞こえる。

だけれども体の自由が利かない。

 

不思議。

 

「早くご両親に連絡しなきゃ!」

「ごめんなさい、まずは響さんの指を綺麗にしないと指紋が拾えなくて……何回も間違えるとロック、掛かってしまいますから……」

 

体はそうなのに頭はこれ以上ないくらいに冴えていて……呼吸がきちんとできている。

 

どうして?

 

さっきまで苦しくて血を吐いていたのに?

 

分からない。

何もかも分からない。

 

でも、みんなが叫ぶように僕を助けようって大変なことになっているのと。

 

「……げぽっ」

「……大丈夫です、落ち着いてください、響さん」

 

ときどき息が苦しくない程度に血を吐いているっていうのがこれ以上ないくらいにはっきりと理解できているくらい。

 

親指と人差し指が冷たくて気持ちいい感覚で拭われて、今度はそれをスマホの画面に合わせられる感覚。

 

そうしてくれているだろう……さよの、動揺で冷たくなっていて震えている指先もちゃんとわかっている。

 

でもなんで僕はこうして血なんか吐いているんだろう。

今までどこも悪くもなかったし、そういう兆候だってなかったのにね。

 

それに魔法さんがらみでも、こんなこと起きるはずがない。

魔法さんだったら僕をこうして傷つけるはずが……いや。

 

元からこの体が悪かったっていう可能性もなくはない……のかな。

 

それを防ぐための魔法さんでハサミで冬眠だったり?

そういう前提に立って考えてみるとなんだか全部説明できちゃいそうな気が。

 

よく分からないけども今のこれは初めて経験するもの。

 

多分魔法さんの仕業。

魔法さん以外の可能性の方が危ないんだし、とりあえずそう思いたいだけ。

 

でも今回ちりちりとかもしていないし魔法さんの気配も感じない。

今回は何が原因、トリガーになってこうなったのかがこれっぽっちも分からない。

 

僕が男だって言ったから?

 

それならねこみみ病のときにも口にしたし、そのときにはマンガとかだっていう言い訳もしなかったけどこんな風にはならなかったんだし、やっぱり違う。

 

けど何度も、セキをするたびに僕の口から出てくる熱い血のせいであちこちが真っ赤で、体もなんだかぬめぬめしている。

 

生暖かい感じ。

 

やっぱりいくら力を入れようとしても動けない。

喉から口にかけてをどうにかするだけで、もういっぱいいっぱい。

 

……体が動かなくなるっていうのも想定、しておかなきゃだったんだな。

冬眠とか僕が固まったりするので知っていたはずなのに。

 

「っ……また指紋が読み取れなくて……」

 

「……響ちゃんは話せる状態ではないし、ロックも使えなくなるわ。 落ちついて綺麗にしましょう。 充分に水気も吸い取ってて、落ちついて。 指紋はそれから。 さよちゃんも救急車呼んでくれているのだし、どちらにしてもきっと間に合うわ。 だから……ね?」

「………………っ、はい」

 

「げぽっ」

 

どうにか息を整えているのにそれでもこうしてときどき横隔膜が……セキとかしゃっくりとかみたいに勝手に動いて、そしてまた口の中がどろっとして。

 

……あ、誰かがタオルを当ててくれた。

 

口の周りの気持ち悪さがちょっと減ってうれしい。

 

ついでにベロを押し当ててちょっとだけでも口の中から血を出しておく。

 

けど、吐くって気持ち悪いものなんだな。

なにしろ僕はこれまで本当に健康な体で、お酒だって失敗したことなかったせいでこういう経験なかったから。

 

……!

 

ふとももとかおまたあたりが生ぬるいって感じてもしやって慌てて……目で見たり手で触ったりなんてできないからあくまでも感覚で知るしかないんだけど、胸は元よりおなかとかおへその下とかまでぬるっとしてる。

 

下半身が濡れているのはどうやら血の様子。

 

別のものを漏らしたんじゃなくってよかった。

 

……いやいやそれだけの血が出てるっていうのは体にとっては相当まずいことになっているはずで、いくら魔法さんで死ねないだろうっていうのがわかってはいるんだけど、でも良くはないはずで。

 

でも体が動かないからか普段以上に意識だけがまともなもんだから、みんなの前で漏らしちゃった疑惑に必死になっちゃったんだ。

 

ほら、倒れた人とかが漏らしていると危険だって知ってるし。

 

「……ひびき……やだよ死んじゃ」

 

僕の顔の上からゆりかの声。

 

そっか、口の周りを拭ってくれていた……タオルで血を吸い取ってから冷たくて気持ちいいのでもういちど拭いてくれて、最後に乾いてふわふわしたので拭いてくれていたのは君だったんだ。

 

ありがと。

 

でもそれすら言えなくてごめんね。

 

「やだ、響……なんで、こんなはずじゃ、響。 だって、そんな予定はなかったのに……ひっく、……私が、私が……早く、帰らせっ、なかったから……ぐすっ」

 

死んだりなんかしないから大丈夫って言いたいのにな。

 

でもそうだよね、誰だって血だらけで血を吐き続けているのを見たら死んじゃうんじゃないかって心配になるよね。

 

本当は病気なんかなんにもなくて、さらに魔法さんとかいうありがた迷惑な何かにまとわりつかれているだなんて言っていないし言っても信じられないもんね。

 

ちょっと顔を見ようって思って目を思いっ切り開けようとしてちょっとだけ開く。

 

……でもまぶしいだけで焦点が合わないみたい。

 

あれ、僕、もしかして本当にやばい?

 

やばめ?

 

おだぶつ?

 

幼女の体で?

 

やっぱりこの体、今の僕、実はなにかすんごい病気持ちだったりしていた?

 

つまりみんなに言っていた病弱ってのは嘘じゃなくって?

 

「ゆりかちゃん!」

「……ひっく、かがりぃ」

 

「使えそうなタオルとか洗面器とかいただいてきたから代わるわ! 私は気道を確保して喉が詰まらないように……血が気管に入りにくいようにするから体を支えてあげて。 ゆっくり、ゆっくりとよ? 横を向いた姿勢にしてあげて!」

 

「……ひっく」

「……ゆりかちゃん! このあいだ保健の授業で応急処置、したでしょう?」

 

「……ぐす……無理だよぉ」

「……ゆりかちゃんはこっちに来て。 ほら、私の腕の下におんなじように差し込んで。 ……そう、それでいいの、もう片手もお願い。 私は体の方もするから」

「……うん……」

 

体がぐにぐにと動かされて、明け方に目が覚めたときによくなっているような体勢にさせられている。

 

あ、ちょっと息が楽になった気がする。

 

回復体位とか言うやつだっけ?

あれって本当に効果あるんだね。

 

「……だめだったわ!」

 

ふすまの音とともにりさの声が飛び込んでくる。

 

何とか見ようってしてみるけどやっぱり目は見えていない。

 

なんていうかぼんやりしている。

まるでメガネをつけないでいるときみたいに。

 

あぁそういえば今の僕になってからはご無沙汰していたけど、目が見えない、じゃなくて近眼ってこういう感じだったっけ。

 

今じゃ起きてすぐにメガネをするとかいう習慣がなくなって久しいんだっけ。

 

そういえばメガネ、どこにやっちゃったんだっけ。

ヒゲ剃りと同じくらい触ってなかったから忘れちゃったな。

 

「っ! ……響さん、ひどい血……」

「それで何がダメだったの? りさちゃん」

 

「あ、うん! なんでかはわからないけど、でも今うちの電話、使えないみたい!」

「……そんなぁ、ぐす」

 

「私のスマホでも電波、圏外になってるのよ! 電波塔がこの近くにあるから切れたことなんてなかったのに! ……さよさんはどう? 響さんのスマホ!」

 

「はい、ようやく指紋が通って……」

 

電波。

 

僕のスマホ。

 

……もしかしてこれって、僕がここに来る前に頼んでいたあの人たちの……。

 

「…………あっ、通じました! ……もしもし、響……さんのご家族の方でしょうか! 私、そのっ、響さんの、友人、で……はい、響さん、さっき吐血、いえ、そのまま受け身を取らずに倒れまして。 なんとか反応はしているようなので、かろうじて意識はあるみたい、なんですけれど、でも、その血の量が……」

 

作ったばっかりの「家族」っていう連絡先。

 

もしものことを考えて開いておいた画面。

 

先に救急じゃなくてこっちに繋げてもらえたみたいで良かった。

 

「……わかりました、このままでいいんですね。 ……はい、すぐに用意します。 はい、では」

「さよちゃん! 響ちゃんのご家族と連絡取れたのね? あ、響ちゃんので電波が通じるなら救急車とかも呼ばなくちゃ」

 

「……要らないそうです」

「え? でも、こんな」

 

「……ご家族と病院の方……響さんがこうして外出しているときは、いつもすぐ駆け付けられる状態で待っているんだそうです。 だから準備はできている……って」

 

「……え。 てことは響さんの病気ってやっぱりそんなに悪いものなのよ、ね」

「それは後で……今、神社前の駐車場から車を回してもらって、こちらに直接乗り付けてもらっています」

 

「ここの玄関先、わかるって?」

「はい、ナビですぐに出たそうで」

 

「そう、ならよかったわ」

 

「っ! お医者さんが来るの? わかった、すぐに響を運ばなきゃ」

 

「ゆりかさんだめです!」

「……えっ」

 

「その吐血量だと、肺などの内臓からの出血の可能性が高い……んです……その体勢にしたのは呼吸を安定させて窒息しないためなので仕方がないんですけど、それ以上動かさないで。 最初に頭も打ちましたし」

 

「……ごめん、わかった…………」

「あ……いえ、ごめんなさい」

 

「いいのよふたりとも、みんな、怖くって仕方がないのだから」

「そ……それに、ほら! もうすぐ来るんでしょ響さんの親御さん! なら、あとちょっとだから!」

 

体が下から抱きかかえられそうになる感覚と戻される感覚。

体の上でされている、みんなの会話。

 

……ずっと寝た姿勢になっているからか、ちょっと眠気。

 

でも眠るわけにはいかない。

 

そうじゃないと、次に起きたら何ヶ月後になるかもしれないんだから。

 

「あと必要なものとか、することある? さよさん」

「……玄関からここまでの道も歩きやすいように。 大人2人が広がって、響さんを……ストレッチャーなどで運んでも障害にならないように、片づけてきてもらえますか」

 

「いいわ、みんなは忙しそうだし、ちょっと寄せればいいから私ひとりで大丈夫。 今やってくる!」

「……お願いします」

 

 


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