【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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42話 予定されていた/いなかった、予定(不)調和 3/6

「応急処置及び準備……終わりました」

「ご苦労……さまです。 すぐに車に乗せてくれ」

「はっ」

 

「……響様、今から動きます。 少々の揺れはご辛抱を」

「玄関を出る際には細心の注意を払……ってくださいね」

「もちろんです」

 

僕の胸に聴診器を当てたり脈を測るみたいなことしたりいろいろされてしばし、僕は運ばれるらしい。

 

……でもどうしよ、なんか元気になってきちゃったんだけど。

元気って言っても「死にそうかも」から「死ななそうかも」ってレベルだけども。

 

ちょっと頭を動かして「あの人」がみんなと話しているのを……焦点を合わせて見てもぜんぜん平気なくらいにはなってるらしい。

 

「………………」

 

「響様……少々待ちますか?」

「………………」

「承知致しました」

 

なんとなくで、さっきから僕の体を調べていたお医者さんの中で1番偉そうな人にじーっと視線を送ってみたらなんか通じたらしい。

 

まぁ体は固定されているから頭を少し向けるくらいだけども。

大きく動いたとたんにまたげぼってなっちゃうかもしれないし、迂闊なことはできないな。

 

「こちらでよろしいでしょうか」

「………………」

 

まだ話せないから「ありがと」って念を送っておく。

届くかは知らない。

 

「さて、響の友人たち。 こんな騒ぎを起こしてしまい、また、心配をかけてしまって済まなかったね」

「い、いえ、当然のことをしたまでで」

「そしてすぐに連絡を『彼』の携帯から取ってくれて本当に助かった。 けれど――」

 

話が尻すぼみになり、さっきまでいた部屋を見回しているらしいあの人。

 

あ――……いろいろと大変なことになっているだろうなぁ……だってこうして全身が血にまみれるくらいなんだから、僕がいたところとか介抱してくれたみんなの服とかも真っ赤なんだろう。

 

畳は張り替えってやつだろうし、こたつは……上に乗ってる布団を替えるだけで済むならいいけど、なによりの問題はみんなの服。

 

巫女ペアはともかくかがりたちは振り袖っていうやつだからなぁ。

いったいどのくらいになるのか見当がつかない。

 

ああ言うのって何十万とかするんじゃなかった?

あ、でもレンタルなら……レンタルでもダメにしたら弁償か。

 

……魔法さんのことが分かってすぐに銀行行ってみてお金が使えるって分かって良かった。

金額が金額だし、早く返さないとみんな困っちゃうだろうし。

 

「……あ――……部屋も酷いが」

 

惨状を改めて見ただろうあの人が、ため息とともに。

 

「そんなにすばらしい一張羅が。 大変に申し訳ない」

「いえっ、急病ですから」

「そ、そーですよ、響のためですもん!」

 

「あ、うちのことならいいです。 畳なんてどうせ余ってますし、毛布とかも洗濯機である程度落ちるでしょうし」

 

「……あの、この服、巫女の服は……」

「バイトの人に支給するものだし、たかが知れているわよ。 普通の服程度だし袴は真っ赤だから上だけで済むかもね」

 

「気遣いは有り難いことだが、こういうものはきちんとしなければな。 ……おい」

 

「は、ここに」

「とりあえずは……そうだな。 3、いや、4だ」

「はっ」

 

「あの人」、でかいおばさんまたはおばあさんにずーっと付き添っていた、さらに年配な人がごそっと取り出したのは、紙袋に入った四角い4つの何か。

 

……え?

 

いや、ないよね?

 

いやいや、日常でそんなものがすぐに出てくるなんてあり得ないでしょ?

 

「これで足りると良いが」

 

めこっと、鈍い音が畳を凹ませる。

 

巫女りんは渡されたらしいその紙袋の中身とあの人の顔……あ、ちゃんとお化粧して隠している……を交互に見て、僕とおんなじ結論に至ったらしい。

 

さっきまでの影響で顔が真っ赤になる巫女りん。

 

「えっ……あ、あの、これって……え?」

「りさりんなにそれなにそれ……え、金? 延べ棒? ほぇー」

「あ、あのっ、こんなもの!」

 

「私には相場がわからないのだがね、タタミやキモノといったものは高価なものなのだろう」

「い、いえ……あ、2人の着物はそうかもですけど、でも!」

 

「それと迷惑をかけた分だ。 みなで分けてもらいたい。 なにせ血だからな、しかも吸い込んでいるとあって完全に戻すのは難しいだろう」

「え、えと」

 

みんなより頭2つ分くらい背の高いその人は、ポケットからあのときのように紙を取り出してあのときのように鉛筆でさらさらとなにかを書く。

 

たぶんあの、ちょっと読みづらい数字だけを。

 

「これでも足りなければ、ここへ連絡してくれ。 いくらでも払うからね。 『うちの子』のせいだから」

 

「でも! こんなの、いえ……こんな大金……お金なんですよねこれ、受け取れませんっ!」

 

「しかしキモノは」

「これはレンタルですし、そこまでのグレードのものではありません。 ね、ゆりかちゃん?」

「う、うん……」

「家だって古い家ですからこうやって畳とか襖がダメになることくらいよくあります! だから」

 

「……それならば部屋については同等のものに買換える分。 そちらのキモノについては君たちが困らない形で弁償もして、それでも余ったら返してもらえば良いよ」

「でも!」

 

「頼むからそれくらいはさせてくれないか? ……あの子のことをよく知っている君たちなら分かるだろう、これだけの事態を起こしておいてとりあえずでの金すら払わないとしたら、そもそもあの子自身が気に病んでしまう。 何、使い切らない分は後で返してくれたら良いんだ」

 

あ、今僕のことダシにした?

いや、僕が助けてもらってるんだけども。

 

「……たしかに響ちゃんなら……」

「そうです……ね……」

 

「失礼しました、紙幣の方間に合いました」

「む、そうか。 それなら換金する手間が無い分こちらの方が扱いやすいだろう」

 

めこっと置かれていた紙袋と交換するように……多分札束が入っている袋。

 

「今後を願ってくれるなら、うの子が気兼ねなく君たちに会えるようにと想ってくれるのなら。 ぜひ、後顧の憂いがないように……だったかな、遠慮せずにそれを使ってほしい」

 

「……分かりました。 それではこのお金、私たちがお預かりします。 ……早く響さんの治療を……」

 

あ、口に何か被せられてる……いつの間に。

しゅーしゅー言ってるし、酸素マスク的なやつ?

 

「響さんの容態が回復したら、連絡、待っていると伝えてもらえますか?」

「承知した」

 

「また無理しそうなので病室でお見舞いしても平気なくらいになってからで構いません。 でも、お願いします」

 

「……1週間もあればかなり落ちつくとは思うがね。 わかった、必ずあの子から直接連絡させよう。 ……それではこれで失礼させていただく。 ああ、ご両親にも使いをやっている……失礼、連絡はしたよ。 なにしろジンジャの仕事で忙しそうだったからね、あらましと心配は不要とだけお伝えしてある。 ……しまったな、金も直接彼らに渡すべきだった」

 

「……大丈夫です、ちゃんと渡しますから」

「そうか、悪いね」

 

「ではよろしいですか?」

「うん、連れて行ってくれ」

「では動かします、響様」

 

これもまたいつの間にか調べられていたいろいろが外されて服を整えられていて、ふわっと毛布を掛けられたかと思ったらすぐに玄関を出て、とたんに外の寒さが伝わってくる。

 

すっごく寒い。

 

乾いてない血が余計に冷える。

 

「あぁ、見送りはここまでで結構だよ。 後片付けや……今は忙しいだろうご家族への、今の事態の詳しいご説明。 それに君たちの着替えもあるだろうに……私たちが直接にお手伝いできないのが悔やまれるが、これも事情というもので、どうか勘弁願いたい。 ……またこれも家の事情というやつで、車もちょっと特殊でね。 できるならあまり近くで見てもらいたくないのだよ……なにもかも秘密にせねばならず重ね重ね申し訳ない」

 

「……いいえ、響ちゃんのことですから慣れています」

「そうか、悪いね」

 

「大丈夫……ですから。 ……響、ちゃんが、無事ならっ……」

「……かがり、さん」

 

「ねぇ、ゆりかぁ。 ……響さんが、響さんがぁ。 あんなにたくさんの……っ」

「大丈夫だよりさりん、きっと大丈夫なんだよ……」

 

「…………では失礼するよ。 ……出発してくれ」

 

そこまで聞こえてぱたりとドアが閉まって僕はみんなから隔離され、暖房が効いていて少し不思議な香りのする車の中に取り残された。


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