【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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43話 「魔法」と「変異」と、そして 4/6

「久しぶりだね、ふたりとも。 あのときは迷惑を……せっかくの年越しだったのに」

 

「だーかーらーひびきー、それもう禁止!」

「そうよ、このあいだからのチャットでその話はたくさんしたでしょう?」

 

あぁ、この感覚。

 

話を最後まで聞いてくれなくて遮ってくるこの感覚。

結構懐かしいと同時に、この子たち特有のものかもしれないって思い始めてきたもの。

 

「……文字でのやりとりと、こうして実際に会って話すのとでは違うだろう? だから分かってはいるけど、でも1回は言っておきたかったんだ。 もちろん、今はいないさよとりさにも別の日にね」

 

「もー、ほんっと生真面目なんだからー響って。 とにかく迷惑じゃないからね! 以上! この話はおしまい!!」

「急病の方がいたら助けるのって当たり前よ。 響ちゃんは私たちの大切なお友達だもの、それに前から病気があると知っていたのだもの。 大変ではあったけど何とも思っていないわよ。 ね?」

 

「もち。 ……そうしてさりげなく恥ずかしいセリフ言えるかがりんマジかがりん」

「???」

 

学生、女の子な感覚としての友人。

 

……そうだな、こういう距離感なのがそういうものだったな。

 

遠慮がないのがいいというか、でももうちょっとだけ遠慮はしてもらいたい感じの。

あのときに勇気を出して男だって言っているっていうのもあるからいくらか気も楽だし。

 

でも、友だちというものがそういうものならそろそろ慣れないといけないんだろうな。

 

「ありがとう。 嬉しいよ」

 

「そーしてさらっと流せる響もすっげ。 で、そーいえば今日の面会ってどのくらい居ていいのかとか聞いてる? なんかドラマとかじゃお医者さんが入ってきて『そろそろ患者様の御体にお差し支えがありまするゆえ……』とかいう場面あるけど」

 

ゆりかがボケ始めた。

少し落ち着いてきたらしい。

 

「いや、特にはないよ。 あれから随分ここにいるし、僕の体もすっかり安定しているし」

「そう、良かったわね。 けれど私たちも響ちゃんを疲れさせたくはないし、ほどほどのところで切り上げるつもりよ?」

 

そう言いながら、僕が指さした先にある折りたたみのイスを引っ張ってくるふたりは制服……冬服らしい格好。

 

……あぁ、学校帰りだよね、夕方に近い昼間だから。

夏服はよく見てたけど冬服は初めてかも。

 

そして当然ながら彼女たちは「ほんとに同い年?」って誰だって思うくらいにいろいろと差があるもんだから、悲しいほどにサイズの違う制服で。

 

「響」

「何も」

「なんかヘンなこと考えてない?」

「ゆりかはいつもそういうことを言うね」

「言ってみただけだよん。 カマかけに反応しないタイプだからホントかどうか……」

 

ゆりかは比べられることには鋭い、気をつけておこう。

 

「てゆーか。 分かってたけど個室ってすごいねぇ」

「そうねぇ……ドラマとかだと個室が定番だけれど普通は何人かだって聞いたわ? さよちゃんに」

 

む、そう言えば今の僕は一応入院してるからさよともあるある話ができるのか。

 

「ねー。 しかもここ、なんだか広い気がするし。 あ、確かここって角っこだから、つまりは特等室ってわけ?」

「響ちゃん、事情があるのだもの。 それに響ちゃんは静かなのが好きなのだし自然じゃない?」

 

「まーね。 もはやなにが起きても驚かねぇ」

「そうねっ、あのお正月以上のことなんてそうそう無いもの」

 

うん……同級生がスプラッターになるとか滅多に、いや、絶対に無いよね。

 

「そうだわ、誰もいないのだし、イス、もうひとつお借りしてコートとカバンを置いてもいいかしら」

「ベッドの足元に置いてもらって構わないよ。 どうせ半分くらい余っているんだ、身長的にね……」

 

「小さくたって良いじゃない。 ねぇゆりかちゃん? 可愛いわよね?」

「私を見て言わないでよ……あ、で、響。 ほんとは今日、みんなで来ようって思ってたんだけどねー? りさりんとさよちんも」

 

「部活なら仕方ないよ。 それに、別に今日じゃなくても僕の方はほとんど毎日大丈夫なんだ。 事前に面会の連絡さえあれば平気だって伝えてほしい」

 

「りょ。 でもやっぱ面会オッケーになりたての今日に来られないのが心残りだったみたいでねー、特にさよちんのほうがさー」

「さよちゃんは、さよちゃん自身のこともあってずーっと心配していたものね」

 

まぁあれを見れば……ただでさえびっくりするのに持病持ちのあの子だったらなおさらねぇ……。

 

改めて申し訳なく思う。

あの後が大変だったってメッセージで聞いたし。

 

でも僕としてはあのときに行ってみて、言ってみて。

それで良かったって思えているんだ。

 

そのあとにこうしてこの病院に来ていろいろ知ったことも含めて。

 

でも……せめて。

せめてもっと穏やかなものだったらよかったのになぁ……なにしろ血の海からの担架だったんだし。

 

あんな経験、確かに人生で1度2度って程度だろうね。

 

「連絡が来たタイミングがね――……私たち学生にとっては先輩とか先生には逆らえないからさ。 ほら、ふたりとも部活と委員会の……えっと、なんて言うんだっけ?」

「できるだけ来なさいっていう日だったのよね」

 

「そだね。 ま、明日とか明後日にでも来たいって言ってたし、そんなに焦らなくて……いいんだよね?」

「あぁ、もちろん」

 

2人とも話しながらもきょろきょろと病室を見回している。

 

うん、ドラマとかで見るのとは結構違うもんね、分かるー。

 

「今日はただ都合が悪かっただけだし、これからいくらでもこちらに来られるものね! それこそ毎日でも響ちゃんとお話して!」

 

「いや、毎日は」

「そだよかがりん、響の方もともかく毎日は私たちも大変でしょ」

「そうかしら? 来るついでにお菓子とか買ってきたら夏のときみたいな感じになるんじゃないかしら?」

 

「……………………」

 

どうしよこの子?

 

そんな目で僕を見てくるゆりか。

 

……うん、君もこの子のことよく知ってるもんね……1回言い出したら聞かないって性格を。

 

「……そのへんは主治医に相談しておくよ」

「ええ!」

 

「……あぁそうだ。 こっちも改めて言っておかないとな」

「こっちって?」

 

「うん。 あの後始末をりさの家の人たちにも手伝わせてしまったんだよね。 ずいぶんとご迷惑をかけたから」

 

「いやー、だーかーらーあれはしょうがないってひびきぃ」

「そうね、りさちゃんのご家族もそういうことなら仕方ないって言っていたわ?」

 

「いや、それはよくない。 ご迷惑をかけてその僕が行かないなんていうのは。 ……退院したらご挨拶に伺わないと……あれだけのことになってしまったんだし、謝るついでに僕がこうして無事だということも伝えておかないと先方も困るだろう」

 

考えてみる。

 

娘のところに泊まりがけ……みんなそのつもりだったらしいし、多分僕も何もなければ普通に寝落ちしてただろうし……来ていた学生たちが騒いでいたと思ったらなんかスーツを着た外人が謝ってきて、行ってみたらその部屋がスプラッターになっていてみんな血まみれの格好をしていて。

 

その渦中の僕とその「両親」がお金だけ置いて居なくなっているって言う状況だったんだ。

僕の家でそういうことがあったら絶対にもやもやするしどうしても行かないといけない気がする。

 

「……マジメさんだねぇ。 あれよ、あの後響の……えっと、家族の人だよね。 家族の人たちがもっかい来て挨拶してたって聞いたけど」

「それでも」

 

「あ、響もそーゆーとこあったねぇ……なら退院したらみんなで遊びに行くついででいいんじゃない?」

「ええ、そうね。 普段は人も居なくてヒマだと言ってたし、そういうときに……お休みの日とかに適当に遊んだりするついで良いと思うわ。 あ、もちろんお医者様が言いと言ったらよ? 今度こそ、体が夏くらいには落ちついてからよ? 響ちゃん」

 

「……うん、そうだね」

 

僕の心は大人だからやらかしたら僕が謝りに行かなきゃって思うんだけども、他の人に取ってみれば僕は病弱でいきなり吐血するほどな子供なんだ。

 

確かに「本人が顔も見せないなんて……」って言うのとはちょっと違うのかもしれない。

 

「ところでさ、響」

「ん?」

 

学校帰りでお腹が空いたからって、たぶんかがりの発案でだろうけども軽いお菓子っていうものを用意していたふたり。

 

もちろん僕は遠慮した、というか入院してるから食事制限あるよねって感じで分かっていたらしく、分かっていたくせに3人ぶんのお菓子を買ってきて僕の分までをむしゃむしゃと食べているかがりのくるんをぼーっと見ていたら、ゆりかが尋ねてきた。

 

いくらでも口に吸い込まれていく。

すごい。

 

「ちょいちょい、響や。 久しぶりのインパクトで気持ちは分かるけどさ」

「あ、うん」

 

「病気。 今は楽になってるの? いや、あのときと比べると……クリスマスんときの退院のときと比べてもずっと顔色いいし、なによりほっぺとかが元に戻りつつあるからそう思ってるんだけど」

 

「そうよね、だいぶ響ちゃんらしくなってきたわよね!」

「ちょっとかがりん、食べ終わってからにしてよぅ」

「あら、ごめんなさい」

 

ほっぺが膨らんでいるの、今は僕じゃなくってかがりだもんね。

 

しかしあいかわらずの食への執念。

 

それがあるからここまで育っているのか、それともそのせいで中身を置いてきぼりにして育ってしまったのか。

 

実に興味深い。

ゆりかや僕との比較対象としては。

 

「ひびき」

「うん、もう大丈夫。 1ヶ月様子も見たし落ちついているよ」

「なーんかヤな思考が来てた気がするぅ……けど、そっか」

 

……もしかして僕の考えてることってだだ漏れ?

 

かがり?

かがりみたいに?

 

「?」

 

あ、「くるん?」ってされた。

 

……僕ってこの子みたいに見られてるのかなぁ……。

 

「1ヶ月もずっと横になってこうしてモニターされて、味気のない入院食ずっと食べながら過ごしていたからね。 最近では廊下や中庭まで好きに出てよくなっているし、安心してもらってもいいよ」

 

正確には悪いところはあの晩に引っ込んだんだし、魔法さんのせいだし、もうとっくに外出してぶらぶらしても良いんだとは思う。

 

でもこう言っておかないと変に思われるからって、あの人たちに言われているし。

まぁ実際あれだけの血を吐いたりしたら1ヶ月くらいは絶対安静なんだろうし。

 

「……ごくんっ。 本当に良かったわね、響ちゃん」

「かがり」

 

たったのこれだけでもうぺろりと平らげたらしいくるんさん。

 

本当、あっという間に。

……感心するくらいによく食べるなぁ……食べるからこそのかがりではあるんだけど。

 

「実はね? 私も、クリスマスのときからずーっと心配だったの」

「……君がか」

 

すっごく意外。

 

「えぇ。 だって響ちゃんは『元気だ』って……ふらふらしながら言っていたから説得力、なかったもの」

「あー、だよねぇ。 どー見てもヤバい感じだったし。 大みそか誘うかどうかってすっごく悩んだもん」

 

確かにあのときは家から歩いて10分の駅前まででさえタクシーを使わないと動けないくらいだったんだし、がんばって平気そうに見せていたのは筒抜けだったらしい。

 

ま、過ぎたことは仕方がない。

 

それにあのときは魔法さんのせいで冷静な思考……というよりは感情か、が欠けていたんだから。

つまりは判断能力が鈍った状態だったっていうことで本当にしょうがないこと。

だって時間が飛んだんだし、寒かったしガリガリだったし冷蔵庫だったし。

 

……あ、結局冷蔵庫は中身を空にしたままにしていたら無事に使えるようになっていた。

 

もっとも、最近はあんまり使っていないけども。

 

「でも誘っちゃったから私たちもすっごい罪悪感で……ねぇ?」

 

「えぇ……どう見ても顔色も悪くって、顔まで……ずいぶん栄養を取れなかったみたいだって、大変だったんだなって、ひと目でわかるくらいだったもの。 なんと言うのかしらね、生気のような、そういうのがないように感じて不安だったの。 それがお正月のあのときにひどくなってしまって……いえ、ぶり返してしまって」

 

「いやー、クリスマスんときばったり会ったときには一瞬、ゆーれーかとも思いましたぞ。 んで大みそかはちょっと顔色良いからすぐに帰らせなくても良いかなって思ったらあれだったしなー」

 

そんなにひどかった?

 

そう思っていたら、席を立ったかと思ったら近づいてきてほっぺとか腕とかをぷにぷにと触ってくるくるんさん。

 

いきなり触ってくるよね、女の子って。

しょっちゅう触るよね、女の子って。

 

女の子って言うかほとんどかがりなんだけどね。

 

「えぇ、やっぱり! あのときとは全然違うわ!」

「……そうだね」

 

こうして断りもなく気の向くままにべたべた触ってくるのはやっぱり大型犬。

初めのころは嫌だったけど、もう、とっくに諦めているから好きにさせている。

 

位置関係と体のサイズの問題と、その一部の問題で、どうしても顔に迫ってくる圧を感じつつくるんくるんがかかってくるっていうこれはもはや懐かしい感じ。

 

ほんっとうにかがりは気にしていないんだな、男っていうの。

 

流石に忘れてはいない……よね?

 

僕がちゃんと男なんだって言ったの。

 

忘れてないよね?

 

いくらかがりでも性別って言う決定的なことを……まぁ肉体が女だっていうのは下着の上から見られているんだし、さんざん着せ替えとか髪の毛いじりとかされたからその印象を引きずっているのかもしれないし、そもそもこの子だし。

 

慣れたし僕はどうでもいいんだけど……でも、やっぱりこの圧が迫ってくるのは勘弁してもらいたい。

 

ほら、ゆりかがすごい目で見てくるし……嫉妬しても胸は育たないって思うよ?

 

そんなダブルメロンさんが僕の髪の毛を手元にとって眺めつつ言う。

 

「……響ちゃん、明らかに具合が悪そうで、退院したって言っても一時的なものだって聞いていたのに……それなのに連れ出してあんなことになってしまって。 だからみんな、もう響ちゃんと……少なくとも外でこうして会うというのを禁止されてしまうのではないかって、ずっと心配していたのよ。 ……そうならなくて良かったわ」

 

僕の髪の毛を触っていたと思ったらさりげなく三つ編みにしながら落ち込むっていう器用なことをしているメロンさんと、座ったままそれをじーっと見つめているレモンさん。

 

なんだか既視感のある光景。

なんでかがりはどこでも髪の毛をいじりたがるんだろうな。

 

まぁ実害はないからいっか。

 

「……今度こそ。 今度こそ、前のような仮の退院じゃなくて、今度病院を出るときは安定してからだとも言われているし、だからこそこうして段階を踏んでいるわけだ。 ……もう、気にする必要はないよ」

 

僕はまた嘘をついた。

 

けれどもこれは意識しての嘘、意図があっての嘘……この子たちのための嘘。

それくらいは冷静に判断できるようになった僕がいる。

 

「そうなの?」

「ちょっと安心だねー。 ……で、かがりん。 いつものことだし、響も気にしていないのがすっごく気になるんだけどさ? とにかく…………ちょっと近すぎない? いちお、君たち男女なのよ?」

 

「え? ……あらごめんなさい、今日は髪留め、持って来忘れちゃったわ」

「ちがう、そうじゃないのよ。 お願いだから意識してよ……中2なんだから」

 

「???」

「あ、ダーメだこりゃ……響も大変ねぇ」

 

「……もう慣れたよ」

「お労しい響上……男子にこのダイナマイトはさぞ毒でしょう」

「そういうものを完全に気にならなくなる程度にはもみくちゃにされたからね」

「おおう……響の男の子が破壊されとる」

 

「???」

 

ゆりかには分かってもらえるこの気持ち。

実は歳が離れすぎていて……胸が大きかったりしてもそんなにどきどきしないんだけどね。

 

「……そうだ、ふたりとも」

 

「なぁに?」

「響ちゃん、この部屋に髪留めは」

「かがり、それは後にできないか?」

「そう? せっかく上手にできたのに。 あ、髪の毛の手入れ、看護師さんとかがしてくださっているのね? とっても綺麗な状態よ!」

 

あぁ、この、自分に興味があること以外はおろそかになるあたりはとてもとても懐かしい……。

 

「いやいやかがりん、今はそーじゃなくてさ……てゆーかかがりん、響から説明あったでしょ、あのインパクトで上書きされちゃったけど。 響、中身は男の子なんだからそーゆーの、そろそろ止めたげたら?」

 

「でも、かわいくしたいし……」

「だーから響ってば男の子で」

「あら、今は多様性の時代だから男の子でもかわいくしても」

「……ひびきー! へるぷみー!! 私ひとりじゃむーりー!」

 

「……かがり、それは今は良いから」

「そうよね、良いのよね!」

「うん。 ……あ、いや違う、今のは」

 

「今度来るときにはいーっぱい! リボンとかヘアピンとか新しい髪型とか試してあげるから!」

 

「すげえ、一切動じてないし通じてない……強引に行こ、それでひびき、どしたん?」

「……君たちにも。 後日来てくれるだろうさよとりさにも説明するけど。 実は僕はね」

 

この子たちのための嘘。

 

僕が……いつどうなるか分からないって言う爆弾を抱えてる僕が。

魔法さんが次はいつどんな感じに暴れるのか分からない僕が。

 

この子たちにとって、最も自然で納得しやすく迷惑の掛からない理由って言う嘘をつく。

 

「――春になったら。 春になったら、海外へ越すんだ」

 

 


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