【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
「やー、あんときはほんっと、舞い上がっては落ち込んでって忙しかったのよー。 響が本当の存在だって実感するまでさー」
大みそかの……僕があんな風になる前のときのように顔が真っ赤になっていて、走ってきた後のようにぽつぽつと汗がにじんでいるゆりかがヒートアップしている。
「ここまで来たら言いたいこと全部言わせちゃった方が良いな」って思って黙っておく。
かがりが邪魔し出したらおしまいだね。
「だからさ、響にとっては迷惑っていうかうざかったかもしれないしそうだったんだろうけどさ? かんっぜんに私ったら『響を攻略するんだ!』って沸いちゃっててさ――……だからああしてがんがんメッセージ送ってとにかく私のこと知ってもらって、ついでに響のことも教えてもらって仲良くなれそうな話題を探ったりしててさー」
それが、みんなの中でも飛び抜けて多かったメッセージとかの理由。
どうでもいいようなこととかゲームとかアニメとか好きな芸能人とか、とにかくなんでも……今思えば手当たり次第に脈絡もないような会話。
あのかがりでさえまだ一貫性があったくらいだからな。
……そういうことだったのか。
ただ話し好きで、友達みんなと朝から晩までやりとりしていないと気が済まないタイプの子なんだって思っていた。
彼女たちの授業中とかに「だるい」とか「ねむい」とか送ってきていたのもあったくらいだし、適当に流し見しちゃっていたんだけども……そっか、そういう感情があって、だからこそ僕を知りたくって、知ってもらいたくって。
「そーゆー状態がしばらく続いてさ、返ってきたメッセージとか眺めてたら……あることに気がついて、んで自己嫌悪。 だってさ、これじゃあさ……小学校からなんとなく雰囲気変わってきてやだなーって思ってた子たちとおんなじ思考回路じゃんって、気がついちゃったから。 私、そーゆーのとは違うんだって思って、だからこそもやっとしたまま過ごしてたっていうのはさっきまでのとおりなんだけどさ、だからこそこう……ずばっと心に来ちゃったんだよ。 なんてゆーか、その……気がついちゃった。 私、内心バカにしてたって。 そういう子たち。 そのバカにしてたみんなと私も結局はおんなじで、ただ私が……そーゆーのに目覚めるっての? す、すっ……好きな相手を見つけるのが遅かったっていう、ただそれだけなんだってさ」
僕もそういう気持ちは分かる。
みんなよりも気がつくのがだいぶ遅れていて、だからこそみんなからは何年もずれて、遅れて気がついたようなことってたくさんあるから。
「……ふぅ。 ま、それもしばらくはスマホ越しのやりとりで満足してたんだけどね。 なんだかんだでときどきは会ってくれてたしさ? だけど問題はかがりんよ……話聞いたらすでに響とおんなじくらい前から知り合ってて仲良かったってことで、ちょっと焦ってきちゃったのよ」
実際には、ほんの1時間くらいの差で知り合っただけ。
たったのそれだけだったんだ。
前の僕が今の僕になってから30時間も経っていないときに僕はこの子たちと。
「あ、静かにしててくれてありがとねーかがりん。 けど、もーちょい我慢できる? ……ん、ありがと。 でさ、響のことしか頭になかった私にとって、私以外の……それも同級生の女の子の知り合いがいていろいろでっかくて男の子好みな感じのかがりんで、さらにさらに言えばこれまた私とおんなじように一緒に買い物とかカフェとかでデートしてたりしてたって聞いて嫉妬ってヤツしちゃったんだ」
「?」
我慢できているのはえらいけど、このへんになるとあまりピンときていない様子のくるんさん。
このへんはやっぱりくるんさんだなぁ。
なんだか見ていて安心する。
普段から恋愛もの、飽きるほどに飽きずに貪っているのになぁ。
「まーね、響にその気が……今でもたぶん、いやほとんど絶対にないっていうのはもちろん理解してるけどさ? でもね、そのときは……響といっつも距離が近くって頻繁に手とか肩とかでくっついてることが多くって、響もそれを嫌がってなくって。 だから私。 まーそりゃもー焦るよねぇ、そんなの見ちゃったらさ。 私、遅れてるって。 かがりんにまで『先越されてて響が落とされそう!』って相談したりさ。 そんなときに焦っていろいろ恋愛もの読んだりしたら、これってまるで恋する乙女そのものじゃんって気がついて、これまた自己嫌悪して。 で、それもさらに恋愛脳そのものだってわかっちゃって2度ダメージ受けちゃってさ」
とうとうハンカチを取り出してこめかみを軽く拭っているゆりか。
そして隣ではものすっごく楽しそうな顔をしてわくわくしているかがり。
「ふぃー、一気にしゃべると疲れるねぇ。 けどせっかくだしあとひとこと話させて? ここで言い終えられなかったら……その、困るし。 で、そのあとは私なりに……参考文献、かっこ主にギャルゲーとマンガかっことじだったけど、そーゆーので必死に響に近づこうってがんばった。 『かがりんとそれだけ出かけてるんだから私とだって!』とか言って連れ出したりしたし……ってか、あのとき本当に外で病気悪くしたりしないでよかったよねぇ……。 あと、小学生以来に男の子を部屋にまで上げたり。 これ、ものすっごく覚悟してたんだけどね。 だって、ねぇ? 意識してる子を連れ込むってヤツじゃん? まー、響はちっちゃいから思ったよか緊張しなかったし、それに響だし多分心配なんて必要ないってわかってたからできたんだけどね。 お母さんだってまさか私が……言っちゃ悪いんだけど、小学生、年下に見える響を意識してるだなんて想像すらしてなかったみたいだし」
くるんが収まらなくなってきている。
荒ぶっている。
「あ、あれは焦ったなー。 あ、あれってのはかがりんが。 恋敵だって勝手に思い込んでたかがりんが響を交えてのお泊まりしようとか言い出したりしたときには、めっちゃ、ね。 だからこそ、それからはもっともっと距離を詰めて響に意識させてその先に行こう――そんなこと考えながら夏休みを終えたワケなんだけど。 そこで響が……入院しちゃった。 それも、いきなり」
冬眠。
僕がこの世界に居なかった3ヶ月。
「なんとなくそうかもとは思ってたけど、でもショックだった。 だって急に既読もつかなくなったし、休み明けの最初のおやすみの日に約束してたところにも来なかったし。 ……嫌がられるって知ってたから控えてた電話もダメになってたし。 もちろん病気関係だろーってのはわかってたけどさ、でもそのときの私はね、もしかしたら響に……私視点ではかなり強引に迫ってたせいで嫌われたんじゃないかって思ってもいたりいて」
ふぅ、と、息を吐き出して。
「でも、ずーっと嫌われたかもって落ち込んでた秋も冬の初めも……クリスマスんときの響からの連絡で一気にどーでもよくなって。 でもいざ会ってみたらものすんごく具合悪そうで、つらそうで。 でもでも、これからまた会えるようになって、あと私を嫌ってじゃないっていうのをきちんとわかって『じゃあこれからまた、少しずつ近づこうかなー』なーんて思ってたら……今度は響が女の子、あ、いや、女の子だけど男の子で、男の子だけど女の子でってのを聞いて。 あのとき、みんなと話しながら頭の中はぐるぐるしてたけどさ? 『響がたとえ女の子のカラダ持ってたとしても、中身が響自身が男の子ならこの気持ち、持ち続けていいのかな』……そう思ってたら急に血を吐いて倒れて。 だから、頭の中は完全にぐちゃぐちゃになっちゃって、あのとき私、なんにもできなくって。 改めて響がどんだけ大変なのかってのを知って、でも今日無事な姿見られて、でも今度は……きちんと治すために遠くへ行く。 そう聞いたから……言っちゃった」
ゆりかが話し終えてしんとなる病室。
ゆりかはほっとした顔をしていて……あ、だんだん顔がさらに赤くなってきているな、後ついでにそわそわしてきている……かがりはゆりかのその顔を見て……あれはコイバナというものを話しているときの顔つきだから、まりはものすごく興奮していて、今にも爆発しそうな雰囲気で。
どう答えていいかわからないしどっちかが何かを言い出しそうだから待ちの姿勢でいたら、先に声を上げたのはゆりかだった。
「……はっず! これマジではっずい!! なにこれなにこれ、告白ってこんなにこっぱずかしいもんなの!? いや資料ではさんざ知ってたけど! むしろその場面を見て喜んでたクチってかそれが楽しくてギャルゲーとかハーレムものとかプレイしたり読んだり見たりしてけど!! いやこれマジびっくりするくらいはずいよ!? 一気に話してるときはまだマシだったけど! いや途中からはふんばってただけだけど、でもでも息は苦しくなるし汗かくの止まらなくなるし話そうって思ったことよりも勝手に口が動いてなにがなんだかワカメになってたし!! ごめんね響! あと静かにしててくれてありがとかがりん! でも私、当分アニメとかマンガとかで主人公に恋してるヒロイン見れないじゃん! だって今のこれ思い出しちゃうし! あ――もう!」
「ぬうう」とか「なああ」とかよく分からない悲鳴を上げながら僕の足元の布団に顔をうずめるゆりか。
それが彼女なりの誤魔化し方なんだって知ってるから黙っておく。
……って言うか、これ、ここからどんな返事とかしたら良いのか分からないし……ほら、僕って経験ないから……どうしよ。