【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
「あー恥ずかし。 もー恥ずかし。 やんなっちゃうくらい恥ずかしいねぇ、告白って。 イヤ、ほんっとマジで。 ……こんなのマンガとかギャルゲーとかのヒロイン特有のカワイイのを見るための演出だって思ってたけど、いざこうして体験してみるとわかる! カオ真っ赤になってたりもじもじしてたりひゃーとか言ってたりしてるの見て悶えてたクチだけども!! めっちゃわかるコレ、すんごいの! ……あ、コレしばらく、いや、もしかしたらけっこー先までギャルゲーでヒロイン攻略とかヒロインが一途な作品とか厳しいかも。 うぁ――――……」
ひととおり言い終わるなり僕から顔を背けつつベッドから腰を上げて歩いて行った先の窓を開け、外を見るようにしながら背を向けているゆりか。
「ふぃー」とか「にゃー」とか、いつもどおりな感じの奇声を上げている。
あれはゆりかが悶えているという状態なんだろうか。
たまにこっちをちらっと見ては「やんっ!」とか言ってくねくねしているし、一見普段通り。
けどこんなことを考えている僕もまた、知識とかでは知っていたけどそれを直接僕自身に向けて言われるのは初めてなわけで、つまりは僕もまた動揺しているんだ。
そんなことを言ってもらう資格なんて、権利なんて……僕にはないのにね。
けども、答えられないのはしかたのないことだけども、それでも返事はしないと。
ゆりかにとっても僕にとってもちゅうぶらりんになっちゃうから。
「……ゆりか」
「ひゅゃいぃぃぃっ!? ……あ」
……いきなり声をかけた僕も悪いけど、それにしたってどんな声……どっから出たんだろ今の声。
初対面のときにも奇声上げてたけどもこれほどじゃなかった気がするし……聞かなかったことにしよう。
「……うわこんな声出るんだ、私の口から。 マジ恥ずかし。 今日1日で何年分の恥ずかしさなんだコレ」
そう冗談っぽくは言ってるけどもさっきからの真っ赤な顔は変わっていないし、僕からは触れないであげたほうがいいだろうな。
「えっと、まずは……その、僕のことを」
なんか気まずい感じが薄れたから口を開く。
……これを見越してわざとおどけたのかな。
「性別のこととかをきちんと言っていなかった僕のことをそこまで好意的に想っていてくれたのが……とても嬉しい。 嬉しいんだけれども」
「嬉しいんだけど」……なんて言おう。
なにか言わなきゃって思ってとりあえずで話しかけてみたけど、その先が出てこない。
だってこの歳になって……今までが今までだったわけで当然ながらこんな経験なんてないし、つまりはどう断ればいいかなんて……かがりに勧められて読んだりしたマンガや本でもこういう場面に興味がなかったから流し読みだったし、今までだってそもそも興味がなくて触れてこなかったからどうすればいいかなんてさっぱりだ。
でも、受け入れるっていうのはあり得ない。
僕はそもそも別の人間の姿になっているわけで、ゆりかはこの体に入っている僕が……好きになったわけで。
同世代って言い張っている幼い体と……元の僕の体とじゃあ全然違う。
いろいろと受け入れられる理由がない。
僕自身もそういう感情を解していないんだし、断る以外の選択肢はないんだ。
僕を好いてくれている、つまりは人として好きで、さらにそれより先の好きって言うわけで、しかも男として……同学年として好きって言ってくれるその気持ちは嬉しい。
それくらいは僕だって感じられる。
「うぉーい、ひびきや、戻ってこーい」
「……あ、うん」
「いーのいーの、それもまた込みで……えーい、恥ずかしいついでだ、今日は遠慮なんてしねぇ! ……それも、響の……み、みりょくってヤツなんだからさ……あ、やっぱ恥ずかし。 ……こほん。 でさ、響。 今のね、答えなくてもいいからね」
「……え」
「今のは告白。 そ、コクハクってやつなんだけどさ、どっちかっていうと気持ちの、私の気持ちをきちっとしておきたかっただけの告白ってやつだから、あんま気にしないで?」
「……ゆりか、それはどういう」
「えっとさ、だって響、もうしばらくしたら遠いとこに行って、あ、この言い回しなんだか不吉っぽい? なら物理的に私たちと離れちゃってさ、それも当分……月単位、年単位なんでしょ? で、恋愛ってさ、現実には遠くで続けたとしても……その、直接触れ合わないと。 あ、やらしい意味じゃなくてね! あ、ごめ、私なに言ってんだろ、今のはナシナシ!」
うん……まぁ中学生、それも女子ならそういう知識もあるよね……。
少し気まずかったから、両手を突き出して顔と一緒にぶんぶんと振り回しているゆりかから目をそらしてみる。
「…………………………」
……ものすごいにやけ顔をして恋愛ものを読んだり語ったりしているときの。
いつもの表情をしているかがりと目が合った。
「…………………………」
ふいって目を逸らして元通り。
この子の今のも見なかったことにしてあげよう。
だってくるんくるんくるんしていたし。
「で、話戻すけどそういう……いろんな意味で遠いとこで想ったままだったり、もしも……ほんっとーに万が一で受け入れてくれたりしてもそれはそれで大変なわけでね? もちろんお互いに。 それに、年単位とか中学生にはつらいよ。 下手すりゃ次会うのとか高校生になっちゃうかもだし。 だからさ、せめて。 答えはいらないからせめて私がずっと感じてて……多分もうしばらくは持ち続けるだろーこの気持ち。 好きだってキモチ。 これだけは……響にとっては迷惑かもって思ったけど、でも伝えておきたいって思っちゃったから。 身勝手でごめんね?」
そう言いながらいつものように雰囲気を悪くしないための笑顔をし始めたゆりか。
……そんな彼女の顔を見た僕の片手が勝手に上がって、僕の口が勝手に開く。
「いや、君の好意なんだ、身勝手っていうことはないよ。 それだけは絶対にないんだよ、ゆりか」
「え? ……あ、あぅ」
「それは人としてとても大切な気持ちなんだ。 少なくともそれを言った君と言われた僕が言っていい言葉じゃない。 身勝手なんかじゃない、大切な言葉だよ」
「……そーゆーこと、さらって言うから、もう……」
なんか心にズキってきたから「告白は悪いことじゃないんだよ」ってことを言いたかっただけなんだけど、変な感じになっちゃった。
「……うふ、うふふふふ…………」
ゆりかはまた赤くなり直したし、かがりからはとうとう奇声が上がり始めた。
もう持たなそう。
「……ありがとね、響。 あ、あとねあとね? 響が良くなるの、良くなって走り回れるようになって背も伸びて、大きくなれるまでのあいだ……たぶん何年も覚えてなんていられないだろうけど、でも、少なくとも本格的に治療っていうのを始めてから2、3年。 あ、いや、そりゃあ私だって短いほうがいいって思ってる、願ってるけどさ、長くなる可能性だってあるわけじゃん? だからさ……少なくとも、今ここに」
頬に少し赤みか残っているけど……普段のゆりかの、ほんのちょっぴり笑顔が浮かんでる表情になって。
「ここにひとり。 私、関澤ゆりかっていうひとりの女の子がこうして、響のこと……事情があってもなくても、私としては男の子だって思ってる響のことを好きな私、っていう女の子がいるってこと。 それを覚えておいてくれたら、あっちに行ってつらい思いしてても少しははげましになるんじゃないかなって、そう思ったのもあるの。 あ、もちろんこれはついでだけど本気だからね」
……多分そのためにわざわざ告白なんてしてきたんだろう。
それくらい……僕にだって分かる。
こんなに年下の女の子なのにこんなに年上の僕が思いも付けない形で勇気づけてくれたんだ。
……そっか。
これが、本当に嬉しいって言う感情。
海外での治療っていう嘘の言い訳を聞いて、信じてくれたから。
「あー死にそ。 もー死にそ。 恥ずくって……んがー!!」
恥ずかしくて死にそう。
……うん、分かる。
だって僕も……さすがにこれだけの好意をぶつけられたら……顔くらい熱くなる。
はたしてこれは顔に、表に出ているんだろうか。
ゆりかは絶賛悶え中だしかがりはそれを観察するので精いっぱいらしくって、ふたりとも僕の方を見ていないからわからないけども。
いつも雰囲気を明るくすることに忙しくって、でもそれを楽しんでいる彼女が突然にこうして長々と……一気に僕のこととゆりか自身のことを語ってくれたのには、僕を……重い病気を治療するんだって思っている僕のことを心配してのことで。
実際にそれに近い感じになるのかもしれないんだし、確かに不安な気持ちはあったんだ。
これからについての決心を固めたときから。
けど今ので少しは楽になった気がする。
……これが、友達。
仲が良くて大切な人から言われる言葉。
今まで考えもしなかったこと。
前の僕のままじゃ多分死ぬまでそういう機会がなくて、だからこそわからずじまいで終わっただろうこと。
そして今の僕になってとっても大変だったけど、でも冬眠も入れてもたったの1年足らずで……前の僕のままだったら適当に過ごして終わっていたはずの1年っていう短かった時間で、僕は。
たくさんのことを、手に入れたんだ。
この後どうなるのかわからないけど、でももしも……いや、連絡はそのうちに取れるかもしれないんだから文字越しにでもこの子たちがこれからどうやって成長していくのかを知って……直接会わない以上にはだんだんと疎遠になっていく、それまでは。
もしも……とっても運が良くって再会できたとしたら、その成長っぷりを見て……また、一緒にこうして話せるかもしれなくって。
そういうって良いなって気持ちが、あのときすでに僕の心の中にあったから。
「あふ。 少し引いてきたかなってかがりん近いよ離れてっ!? なにしてんのてかなにその顔超こわいんだけど!!!」
「あら……ごめんなさい……でもね、でもゆりかちゃんが、響ちゃんが。 うふ、うふふふふ……」
「……ひびきー! へるぷみー!!」
……ゆりかが抱きしめられてはぐばくされて悲鳴を上げている。
感情を抑えられなくなったかがり。
そんな彼女と彼女に抱きつかれたゆりかを見て、ちょっと笑いがこみ上げる。
……彼女もまたきっと、僕にとっては大切な友人なんだろう。