【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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46話 彼の、準備 1 4/6

「私たちのときのことね……まず私たちはほとんどおんなじ時期になった……みたいなんです」

「みたい?」

 

「そ。 でも私の方はホントじみーなので、先にみさきちゃんのインパクトあるのを先に聞いた方がおもしろいんじゃないかな?」

 

「うぇー、私のからですにゃ? まずはひかりさんの無難な方から行きましょうにゃあ」

「ほーら、響くんがせっかく興味持ってくれてるんだし、どうせ話すんだからいいでしょ。 ほらほらっ」

 

2人は同時期にねこみみ病に……けど、うん。

 

確かに若返るのと生えるのとどっちが派手かって言われたら生える方だよね。

 

「じゃあ私のなんですけどにゃ、その……大変だったんですにゃ」

 

ねこみみとしっぽのへにゃり具合から本当に大変だったんだなって分かる。

 

触りたい。

 

「……えっとですにゃ。 私はもともと、前からこんな感じのコスプレするキャラで……猫のおみみとしっぽをつけて語尾を猫っぽくして……あ、おみみはカチューシャでしっぽは腰周りにつけるっていう、よくあるやつですにゃ。 それがお似合いだって事務所から言われて……もちろん踊っていても取れないようにってきちんと作ってもらったものですにゃ。 カラーリングも形も大きさも今のこれとおんなじだったので、不思議な偶然でおなじのが私の体に生えたからややこしかったんですにゃ」

 

……それは、偶然なんだろうか。

 

たまたま前から付けていたのとおなじに?

そんなのは都合が良すぎるような気がする。

 

「私、これでもアイドル……当時はまだ駆け出しだったけどそれでも女の子だからって、車で送り迎えしてもらっていたんですにゃ。 で、レッスンとか収録の後って疲れてるもんだからそのまま付けて帰って、家でもそのままとかよくあったので……だからねこみみ病になってもしばらくはホンモノがこうして生えていても、だーれも気がついてくれなかったんですにゃ。 『役作りなんだな』って。 学校の友達でさえ、学校の先生でさえ……スタッフさんたちでさえ。 ――お母さんでさえ。 そしてなにより……私自身でさえ、にゃ」

 

……他人ならともかく家族、さらには自分の耳の上にねこみみが生えて、しっぽっていうお尻……尾てい骨辺りなんだろうか……の上から生えているそれがあったら違和感があるはずなのに?

 

「それで……体が本物の猫ちゃんみたいになるって言う、筋力とか瞬発力とか運動神経とかが明らかに変わっているのに気がついたのは……正確な日付がわからないもんですからたぶんなんですけど、ねこみみ病になってからひと月くらい経ったころですにゃ」

 

「自分がそうなってから気が付くまでに1ヶ月かかる」……それはなんでなんだろう。

 

あ。

 

しっぽが90°に近い直角になっている。

なかなか珍しい形だ。

 

「しかもよりにもよって……よりにもよってそれが番組の収録中だったんですにゃ。 いえ、だからこそ分かった日ははっきりしているんですけどにゃ」

 

「……なるほど。 と言うことはカメラが回っていたり?」

 

「そーなんですにゃあ……あー、恥ずかしいですにゃ。 町中で人がたっくさんいて……生放送じゃなかった分まだマシではあったんですけどにゃ、そうしてみんなの前でやらかしちゃったもんですから『さすがになんかおかしくない?』って気が付いてもらえたんですにゃ……いやー、あのときのことを思い出すだけでなにかを引っかきたくなりますにゃ」

 

「引っかく?」

「あ、いえ、ただの衝動的なものなので、気にしないでくださいにゃ」

 

「あれはみさきちゃんもびっくりだし、私たちももっとびっくりだったからねー」

「……その場面には一緒に?」

 

「ええ。 私たちどころかギャラリーの人たちも、すごいこと起きてるのにスマホとかで撮るのも忘れてみーんな口あんぐりしてましたから。 ロケ中だったからね……ほら、普通の商店街を食べ歩きするっていうよくある感じの番組の。 お店とアイドルな私たちの宣伝っていうごくごくありふれたものになる……はずだったんだけど……この子ね? ――通りがかった猫さんとの大げんかってのを始めちゃったの」

 

「……猫と? 猫って動物の?」

 

「えぇ、地域猫っていうのだったらしいの」

「ヤツはタフでしたにゃ。 強敵でしたにゃ」

 

猫と喧嘩。

 

……心まで猫に?

つまりねこみみ病……のケモノ化は、心までが別の動物になるってこと?

 

「初めのうちは……動物の動画とかで観たことある? 猫同士のケンカっての。 ……そう、ならわかるだろうけど、あんな感じでにらみ合ったかって思ったら声上げはじめたの。 通りがかった猫さんと目を合わせたって思ったら、お互いに。 猫さんと、みさきちゃんっていう人間の女の子が。 次のお店に向かうアドリブパートだったから『あー、猫系アイドルのアピールかぁ……』ってことでちょっとの間ほほえましく思ってたんだけどね。 でもほら猫のケンカってだんだんヒートアップしていくでしょ? そんな感じにしていくもんだから『ちょっと役に入り込みすぎかなぁ』って思いながら適当に合わせて実況みたいにしていたんですけどね?」

 

島子さん、気がついたらねこみみとしっぽがぺたんとなっていて顔を背けたままになっていた。

 

……この子、やっぱり恥ずかしがりだよなぁ。

 

それなのにアイドル。

しかもコスプレ系アイドル。

 

なんでそんなものになろうとしたんだろ。

 

事務所?

事務所の意向?

 

逆らえないの?

芸能界って怖いの?

 

「それが発端で……あ、ケンカには勝ったらしいんだけど」

「勝ったんですにゃ」

 

「……謎の対抗心はともかくね、勝ったらしいの。 だけどしっぽ巻いて逃げ出したその猫さんを……みさきちゃんが追いかけ始めちゃってね。 それもものすんごい速さで。 四つん這いでされたらパンツ……ごめん、下着が見えちゃうところだったわねぇ」

 

「んなのしてたら今ごろは引きこもってますにゃ」

 

「そ、だから普通に走る……んだけどものすごく速くてね。 あれがケモノ化の瞬発力なんだって後で知ったけど、そのときは追いかけるので精いっぱいでね……商店街のアーケードを猫っぽい声上げながら全速力で突っ切って、それでひびった猫さんが路地のビルを駆け上り始めて。 これで終わると思ったらこの子、ビルの……配管ですかね、ジャンプしてそれに掴まったかって思ったらそれを使ってすいすい登っていっちゃったんですよ。 あっという間に、手の届かない高いところに」

 

ビルを、登った?

それも、聞いた感じだとロッククライミングみたいに?

 

この島子さんが?

 

それなりの恥ずかしがり屋さんで、なのになんでか人に見られるっていうお仕事についちゃったこの子が?

 

「にゃぁぁぁぁぁ……ぁあぁぁぁ……」

 

「あー、最近は話すの少なくなっていたから忘れてたけどインパクトあるわねぇ、これって。 ……ていうかみさきちゃん、なんでそこまで恥ずかしがってるの? こんなのテレビでも何回もその場面ごとやったじゃない。 あ、パンツは」

 

「言わないでくださいにゃ!!」

「でも一時期そればっかりネタにされてたわよ?」

「うぅ……」

 

……スカートだったとしたらカメラに映っちゃってるんじゃ。

 

そういうのってテレビじゃモザイクかけられるんだろうけども……なんだかいかがわしくなっちゃう気がする。

 

どう処理したんだろ……帰ったら探してみよう。

 

「また話す機会とかあるかもだし、慣れたほうがいいわよー。 配管を伝ってすいすいっと……それも途切れていたりしたらそこからジャンプして別の出っ張り使ったりして登るもんだから肝が冷えたのよ……途中でずり落ちたりしてましたし。 ようやく屋上にたどり着いたと思ったら、みさきちゃんに追い詰められた猫さん、壁伝いにささっと降りて行っちゃったんです。 降参っていうよりも『人間がここまで追いかけてくるのか』って思ったんでしょうねぇ、かわいそうに怯えて。 さすがにもうおしまいかなって思ったらこの子――その猫さん目がけて飛び降りたんですよ。 ビルの屋上から」

 

「……え」

 

「なんのためらいもなくね、『にゃあああ!』とか叫びながら……それはそれはもう勢いよく、ね。 体、広げるみたいにしてさ……あ、今でも思い出すだけで汗がじんわりする」

 

ビルって言うからには3階以上の高さなんだろう。

 

……そこから人が飛び降りて平気。

それが、ねこみみ病のケモノ化?

 

「文字通りに飛び降りです。 だから私たち、みんなもう真っ白になって、周りで見ていた人たちも悲鳴を上げてもうダメだって思って。 ……いたのにこの子、くるくる回りながら上手ーく着地できちゃったんです。 両手と両足でしっかりと、こう、しゅたって感じでね。 もっとも、あのときはみんな目をつぶっていたから後で映像を見てから分かったんですけどね」

 

「その節は本当に本当にご迷惑おかけしましたにゃ……」

 

「で。 ぴんぴんしてるから『大丈夫?』って近づいたら……この子、なんか怯えたみたいになっちゃって。 脚ががくがくしてるから大丈夫かなって手を取った途端に暴れ出しちゃって。 それもわけわかんないことうにゃうにゃ言いながら」

 

島子さんはさっきからずっとこっちを見てくれない。

あ、ねこみみも聞きたくないからかぺたんとしたままだ。

 

「そー、まぁ暴れるくらいだから元気だってわかってみんなほっとはしたんだけどね……それからもまた大変で、暴れるっていうか興奮しててねー。 人の話を聞けない感じで抵抗してきて、なんとか足止めするので精いっぱい。 錯乱していて何するか分からないからって、緊急事態だからって男の人のスタッフにも手伝ってもらったのに、それでも落ちつくまで何回かすり抜けてどこかへ行こうとしていましたから」

 

ビルから飛び降りても平気な力の受け流しに、衝撃に耐えられる身体能力。

 

どう見ても普通のJKさんなのに成人男性の腕力を……あ、火事場のってやつで錯乱とかしてたらそれは不可能じゃないかもだけども。

 

「話しかけても通じなくて、手で引っかこうとしてきたり足使ってきたり。 目も私たちの目とぜんぜん合いませんでしたし。 いや、合わそうともしていなかったって感じかな。 ――まるで『みさきちゃんとしての意識がない』っていうか」

 

意志がない。

意識が通常ではなくなる。

 

それは飛川さんや町で実験した人たち、さらにはこの子たちと話していたときの僕とも似たような――。

 

「……今でも思い出せませんのにゃ。 あのときの。 あの映像、観せられたときにはなにかのドッキリかって思ったくらいで……『今度はこういうネタでやるんですかにゃ?』って聞いちゃったくらいですにゃ」

 

「……今までのみさきちゃんとはちがう誰か……ナニカになっちゃったっていうか、中身がほんものの猫さんになっちゃったのかもって、こういうときってどこに連絡したらって大変だったんです。 ほら、キツネ憑きとか聞いたことあるでしょ?」

 

キツネ憑き。

 

自分が自分でなくなっちゃう、あれのこと。

 

「そのとき私もずいぶん引っかかれたんですけどね」

「だからごめんなさいって何度も何度も謝りましたにゃ……」

 

「うん、謝られた。 でも、それはそれ。 今は事実を話す場だから」

「ひどいですにゃあ……」

 

「でね? ぴたって止まったかって思ったら、おめめばちくりして『あれ、もうロケ終わっちゃったんですか?』って聞いてきたもんだから拍子抜けしちゃったわねぇ。 怒ってもピンとこないみたいで、聞いてみたらさっぱり覚えていないっていうからカメラさんのを観せて、それでよーやくに……とりあえずなにか変なことしでかしたってことは納得してくれてね」

 

「……たくさんの人が、通りがかりの人までもありえない動きを見たからですよね。 人をはるかに超えたような、そういうものを」

 

人知を超えた力。

 

魔法さん。

 

もし魔法さんに認識を歪める力がなかったとしたら。

 

「そういうことです。 地上10メートルくらい……いえ、それ以上へ登って自分から落ちて。 下はただの道路、それでなんともない。 せいぜいが手のひらが赤くなった、その程度。 ……それでただの女の子が平気そうにしているのはちょっとどころじゃなくおかしいので、みんなして途方に暮れましたよ。 『これ、どうすればいいの?』って。 ねこみみ病が知られていない頃でしたから手がかりも何もありませんし……まだ白昼夢とかみたいなのだって思った方が納得できるくらいの出来事でしたから」

 


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