【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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47話 01/01→06→ 1/6

さて、僕が1月からずっと「入院」しているのには理由がある。

 

あ、いや、もちろんあの強引な外国人のおじさんとおばさんが「心配だから」ってなにかと引き留めてきたって言うのもあるんだけども。

 

それはあの日……元旦の日にみんなに迷惑をかけた後の病院のことからだ。

僕が眠いのに検査を受けさせられてそのまま寝ちゃってたときのこと。

 

「……むう、起きてはくれないか」

「どうやら心から寝ているようだね……世話を頼んだ彼女たちも『全然起きなかった』と」

 

眠すぎるのにしょっちゅう移動させられて子供みたいにぐずりたい気持ちをこらえていた記憶が、彼らの声とともに戻って来ていた僕。

 

「検査も終わったことだし、きちんとした形で眠ったほうがよいと思うのだがのう」

「無理なのではないか? いくらこの子が大人びていようが、この年では眠気にはな。 看護師にでも任せるか…………」

 

怖いかもしれない場所なのに本気で寝ちゃったって慌てて目を開く僕。

 

「……!?」

 

僕はもう1回目を閉じた。

……だって見下ろしてきていた2人の目はすごい至近距離で怖かったんだもん。

 

誰だって起きて目を開けたらしわしわの顔が2個に片方が眼帯な顔が30センチくらいのところにあったらびびるでしょ?

 

こういうのは心の準備ってのが必要なんだ。

 

「……おはようございます……」

 

「おお、起きてくれたかね……起こして済まない、ずいぶんとぐっすり眠っていたから忍びなかったのだがな。 そろそろ髪や肌についた血を流したほうがよいと思ってな……時間が経つとこびりついてしまうものだから」

 

ん。

 

そういえば、あちこちが引っ張られる……乾いた血で……感じがするし、ちょっとヤな臭いもしている。

 

「……首から下の髪の毛も、みんな首に……肌もぱりぱりします」

 

「そうだろうね。 乾かない血も乾いた血も不快なものだからね」

「うむ、人間の本能的な感覚だから仕方ないのだよ」

 

でもなんでこの人たちはよく知ってるようにうんうん頷いてるんだろ……いや、考えないでおこう。

 

裏社会とかは僕知らないし考えない。

怖いのは苦手なんだ。

 

起き上がってみるとベッドに寝かされていたらしいのが判る。

あの検査室じゃないんだなって。

 

どこかわからないけど保健室を思い出させる感じの部屋。

 

「軽く拭いて着替えただけなんだ。 あのときは軽くの説明と、なによりも急いでの検査が必要だったからな。 大丈夫だと君が言っていたとしても不安でね」

 

まぁなんか魔法さんに近いフシギなものについて知ってるとしても、あれだけのスプラッターはそうそうないよね。

 

「……ありがとうございます。 僕自身も心配ではあったので」

 

話しかけた人の認識をいい具合にしてくれる魔法さんがいたとしても、病院で精密検査とかしたら数値とかは変なことになるだろうし。

 

もし「成人男性なのにまるで幼女の体重しかなんですけど!?」とか騒ぎになったら大変だし……そう思うとこの人たちの馴染みのところで調べてもらえたのは有り難いことだって思う。

 

「血は乾ききってしまえばまだ良いのだが……今の君みたいに暖かくして寝かせておいたままだと生乾きの部分もあるやも知れん。 ……事情があるとはいえ乙女の体だ、気になるところもあるだろう?」

 

うん……乙女じゃないけどね。

 

でも髪の毛から鉄っぽくて生臭い臭いだもんね。

いつもならちょっと動かしたらシャンプーとか僕自身のいい匂いで良い気分になるのに。

 

だから多分貰った服で隠れてる体も臭ってるはず。

だってぱんつの中まで真っ赤だったんだからな。

 

犬みたいな臭いを通り越している幼女とか……。

 

「風呂のほうは?」

 

「もう予約は入れてある。 ……あぁ、こんな病院でも介護用のものがちょうどあってな、湯船があるからきちんと暖まれるだろう。 君自身でできそうなら君だけで、必要なら介助の用意もある」

 

お風呂を貸してもらえるってだけでちょっと嬉しい僕。

 

そう言えば昨夜はあんなことがあったからお風呂に入らないで寝ちゃったし……お風呂に入らない日なんて何年に1回ってくらいだもん、そりゃあ気持ち悪い。

 

生理的な気持ち悪さだ。

 

「手伝いは?」って何回か聞かれたけど全部お断り。

 

だって、そもそも前の僕だったころから……男だった頃から裸なんて、同性の人たちにでも見られたくない性分だったんだ。

 

温泉とかでも見られたくないって本気で思うタイプ。

 

なんで平気な人って本当に平気なんだろうね……僕絶対ムリ。

男のときでも男のそれを見られないようにがんばってたもん。

 

「なら入り口まで案内しよう。 ……これからしばらく着てもらう服や、血で汚れてしまった……君が着ていたものと似ている服装も用意しておいたから安心しなさい。 どちらを選ぶも君の自由だ」

 

お家帰るって自由はないんだよね。

 

「君が検査を受け始めてから……そして寝始めてからおよそ10……12、いや、15時間ほどと言ったところだ。 ずいぶんと気持ちよさそうに寝ていたから起こすのがためらわれたのだがね」

 

血がついたままでこんな感じにぱさぱさぱりぱりしていているまんまじゃ痛んじゃいそうだし、臭いも染みついちゃいそうだし。

 

せっかく今まで僕が、めんどくさくてもまじめに……調べたり、かがりから教え込まれたりしてからはずっとていねいに整えてきたんだ。

 

それがなにが悲しくて……シャンプー以外にコンディショナーっていうのも使って、タオルでぽんぽんって水気を取ってからドライヤーで長い時間をかけてゆっくりと乾かして、さらには枝毛に警戒して……っていうのを半年以上も続けてきたのにひと晩で台無しになるんだって。

 

あ、なるほど。

これが女の子が髪の毛を大切にする理由。

 

じゃあもちろん洗う。

それもなるべく早くに。

 

……魔法さんのおかげでそこまで痛まないはずとは思うけど、念には念を入れて。

しょうがない、丹精込めて育てた盆栽みたいなものなんだ、手塩に掛けるっていうものなんだからやっぱりしょうがないんだ。

 

「……ではお言葉に甘えて」

 

「うむ、それがいい。 ……ここは肉体的には同性のお前の方がいいだろうな。 儂は先に用事を済ませてくる」

「わかった。 それでは響くん。 ゆっくりと起き上がってくれるかい?」

 

結局この人たち、なんで僕の名前知ってたんだろ。

あと僕が男だって分かってるっぽいし。

 

けどここで聞いて怒らせちゃうと怖いから黙っとこ。

 

今の僕はこの人たちのご機嫌を損ねると居なかったことにされても不思議じゃないんだもんな。

 

 

廊下に出ると、来たときとは全然違って普通に人がたくさん居てちょっと安心。

 

明るい廊下、ひっきりなしの放送の声と音、靴とかスリッパや話し声。

 

どう見ても普通の病院の廊下で順番を待っている感じの人がいっぱい居て、紙切れ片手に迷子になってる感じの人も居るくらい。

 

窓の外はちょっと夕方になりかけ……ほんとにずっと寝てたんだな。

 

看護師さんたちとかお医者さんとかともすれ違うけど、特段僕が見られるわけでもないみたい。

 

本当に秘密ってことで連れてきてくれたんだなって思うとちょっとだけ警戒心が薄れる。

 

でも改めて僕は臭い幼女なんだって意識すると、道を曲がったり立ち止まったりすると自分から臭ってくるのが分かって悲しい。

 

……これが昨日からずっと僕の体から出ていた臭いだって思うと、さっきまで一緒だったあの人たちとか僕を調べてくれた人たちにも嗅がれていたんだって思うだけですっごく恥ずかしい感じがしてきちゃって。

 

男だって汗の臭いとか体臭くらい気にするんだ。

ましてや今の僕は肉体は幼女なんだ。

 

こんな感情が出てくるのは普通だよね。

 

うん。

 

 

あったかいお湯で体を、頭のてっぺんからじゃーっと流す。

 

体は寝起きだからあったかいし、なによりもお湯をこの臭いで染めたくないからってさっきからシャワーを髪の毛にかけている。

 

でもなかなか落ちない。

 

髪の毛のも顔に着いていたのもお肌のも。

 

特に髪の毛はあっちこっちで束になってこんがらがって固まっているせいで、お湯をかけながらゆっくりとほどいていく作業で忙しい。

 

こんなことなら先にお湯に入ってほぐしておけば……いやいやお湯が汚くなるのは僕が生理的にやだし。

 

髪の毛をほぐしてから洗って、痛んじゃうってわかっていてもやっぱり臭いのはやだから2回3回洗って、効果があるかどうかはわからないけどトリートメントとかコンディショナーとか置いてあるものを何回も塗りたくる。

 

体も、特にお腹とお股、ふとももについたペンキみたいな血を落としていく。

置いてあるスポンジでごしごし……すると痛いから優しく優しく。

 

いちばんの難敵はおへそとお股。

だってシワとかへっこんでいるところに血糊みたいにこびりついちゃっているせいでなかなか取れなかったんだから。

 

平べったいところなら簡単に取れるのにね。

 

けど結局お股の汚れは中途半端で終わり。

だって指突っ込むのとか怖いもん。

 

男だったらいくらかマシだったかな。

いや、男のだってしわしわだし大して変わらないのかな。

 

そんなことを考えながら僕は、お湯で固まった血をほぐす作業と掻き出す作業を続けつつ……赤って言うよりはピンク色に染まった水が吸い込まれていく排水口をなんとなくで眺め続けた。

 

あんなに血を吐いたのにこんなにけろりとして体の汚れなんか気にできる余裕があるんだなぁって不思議に思いながら。


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