【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間 作:あずももも
まずは喫茶店。
収録があるらしくって朝一でしか会えないっていうことだったから、こうしてまだほとんどお客さんがいない中、僕たちは会っている。
「……じゃあご病気でご入院っていうことで? いや、びっくりしたけどよく考えたらなんかそんな雰囲気ある気はしていたんだよ、響くんって」
「そうですか」
今朝はいつものポニーテールじゃなくて下ろしたままで、僕としてはこっちの方が年相応……中身に似合っているって感じる髪型になった岩本さん。
サングラスと帽子のセットをしているし、服装も地味。
「屋内でもサングラスとか見えづらくないの?」って聞いたけど、それ用のだからほとんど暗くならずに見えるからいいんだとか。
まぁここまでの格好をしているなんてのはきっと、これまでとは違って個室とかじゃない普通のチェーンの喫茶店だからだろう。
大変そうだな、有名人って。
好き勝手に出歩くことさえできなくなるんだから。
「ということは、しばらく……じゃないんだよね、当分のあいだ会えなくなるんですね?」
「はい。 ……まだなんとも言えませんが、そんなにかからないかもしれませんし、場合によっては……年単位でかかるかもしれないんです。 いろいろと教えていただいたりしましたし、なによりもせっかくお知り合いになったおふたりにもご挨拶をしておこうと思いまして」
片付けをしたとはいえ、僕の性格上すぐにこのあとのことをできるかって考えたら、尻込みしたりめんどくさがったり昼寝しちゃったりお酒飲んじゃったりして「また明日でいいや……」っていうことになりかねない。
だったらいっそのこと今日は予定を詰めちゃって、できるだけ外で過ごす。
そうして帰ったらすぐに連絡してってしたほうが確実に僕自身を動かせるって考えたからこそ、まずはこのふたりへ会いに来たんだ。
人に迷惑かけるって考えると、僕の習性上絶対に遅れたりできないからな。
嫌ってくらいに僕自身のことをわかっているのが功を奏したっていうやつだ。
僕のことは僕がいちばん知っているんだから、それを使わない手はない。
「ご病気、持病ですかにゃあ。 体の線が細いなぁ、中学生にしてはずいぶんと小さいにゃあ、そう思っていたんですけど……そうですか、ご病気でしたかにゃあ。 病院に通ってる子は私の友だちにもいますけど……まぁ響さんほどじゃないでしょうけど、いろいろと大変なんですにゃ? 会えなくなるのは残念ですけど、もう会えなくなるっていうことじゃなさそうですし、なによりもご病気、治るのならそれはとってもいいことですにゃ」
今日はとっても残念だ。
なぜなら島子さんが……収録って言っていたし、予定があるからしょうがないんだろうけども……肝心のねこみみとしっぽが隠されてしまっているから。
しょんぼりだ。
僕はしょんぼりしている。
ねこみみは大きめの帽子……ベレー帽っていうのなんだっけ、その下で恥ずかしがっているときみたいにぺたんってしているんだろうけど、しっぽはどうしているんだろ。
少しダボダボ系なパーカーを羽織っているし、腰とかおなかに巻き付けたりして隠しているんだろうか。
本当に万能だね、パーカーって。
その気になればフードの中におみみもしまえそうだし。
今まで僕もさんざんとお世話になったんだしな。
だから今だってこうして僕も羽織っているわけだし。
……今の僕になったばっかりに出かけた先のかがりに選んでもらったものだっていうのもまた……安心するんだ。
「……あの、それで……」
「あー、ひかりさんですにゃ。 ごめんなさい、ときどきあーなっちゃうんですにゃ」
あいさつを済ませて島子さんと話していたら聞こえてきた、ブツブツ言っている感じの声。
よく聞き取れないけど、なにか良くないことがあったらしい。
なんだろう。
「……ひかりさーん?」
「……………………………………………………………………」
「言っちゃいますにゃー、いいんですかにゃー?」
「……………………………………………………………………」
返事がない。
何かに相当なショックを受けている様子だ。
「よし、イヤだって言わなかったらそれは同意ということでいいですにゃ?」
それってなんか悪徳セールスっぽいけど良いんだろうか。
「……………………………………………………………………」
「沈黙が答え。 よし、許可取れましたにゃっ」
……島子さん、なんか普段とは違う感じで、少しいたずらっぽい目つきになっている。
猫っぽい印象の目に。
一方の岩本さん。
うつむいてなにかを唱えている感じだから控えめに言っても怖いんだけど島子さんも特に気にしてる様子はないし、よくあるのかな、こういうの。
芸能界も大変なんだろう。
そっとしておいてあげない?
「じゃー言っちゃいますにゃ。 あ、響さんも、私が怒られそうになったら擁護、お助けしてくださいにゃ?」
そこまで言うんだったら、人の嫌がることはしないほうがいいと思うんだけど。
「あのですにゃ、ひかりさんったら……本気じゃないのは当然ですけどにゃ、ひかりさんは響さんのこと、けっこーお気に入りでしてにゃ? お顔もそうですけど、なによりも話し方が好きだとか聞き上手だからとかで。 えっと、なんでしたかにゃ? ……あ、あれですにゃ。 あんなに年上って言っても平気そうだったのが嬉しかったって言ってましたにゃ」
お気に入り?
僕が?
何で?
「……ん? ち、ちょっとみさきちゃん!? なに言ってくれちゃってんの!?」
あ、戻って来た。
「ちゃーんと確認しましたにゃ! 『言っていいですかにゃー?』って。 ねっ、響さん?」
がばっと起き上がって詰め寄る岩本さんを軽くいなす島子さん。
「えー、だって私、いい加減うざったいって思ってましたし」
「えっ」
「ヒマさえあれば響さんのこと話してるひかりさん……トシを考えてくださいにゃ。 前のから考えると何歳差になると思ってるんですかにゃ、ショタコンもこじらせたらビョーキですにゃ。 何度も何度も『響くんがー』って同じ話をされる身にもなってくださいですにゃ。 ねぇ響さん?」
女の子との会話に慣れてきた賢い僕は否定も肯定もしない。
「僕が悪い」って流れにさせられたこと、何回あったって言うんだって感じだから。
「え? 私、いいって言ったっけ……それに、そんなに話してなんか」
「いましたってばー、こーいうの、話してるほうはわかりませんけど話されているほうは耳タコになるんですにゃ! あと許可はちゃんと取りましたにゃ。 ウソついてないですにゃ。 ついてたらこんなに強気になれないですにゃ? にゃあ?」
どや顔っていうのを……島子さんがしているのは初めて見たけど、それを見て本当らしいって分かって気の抜けたような顔をしている岩本さん。
力関係が逆転している。
けど、こういうおふざけをして平気な辺り、この子たちも仲良いんだね。
「ずず」
前の僕だったらこういうのも「ギスギスしてる……」って感じて勝手に居心地悪くなってただろうけど、この1年でちょっとだけ経験を積んだからかどんと構えてお茶をすすれる程度にはなったんだ。