【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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48話 彼の、準備 2 4/7

悪魔さん……じゃない、今井さんの印象って最初と今とじゃ別物だ。

 

「おふたりの安全も考えてのことなんですから……」

「で、でも、私たちってば24時間の警護が」

 

「民間人相手だと数でダメって言うのはこの前知ったはずですよね? うちでも警備の人を雇ってるんですからちゃんと……」

「に、にゃあ……」

 

あの今井さんが怒るのも初めて見た。

諭すように静かに怒るっていう感じの人なんだね。

 

淡々と事実を挙げて、やっちゃいけないことをひとつひとつ論理的に問いただして「どれだけの迷惑がかかるか」とか「この前みたいに運がいいとは限らない」とか、終始こんな感じだからヘタに怒るのよりもずっと怖い。

 

女の人って高い声で怒る人が多いって印象。

だからこそ冷静に怒る人って余計に怖いよね。

 

たとえそれが僕に向けてでなくっても、怖いものは怖い。

 

僕はその辺の小学生に絡まれるだけでも怖いメンタルなんだ。

しかも今は小学生な肉体になってるからなおさらに腰が引ける悪循環。

 

だから岩本さんも島子さんもすっかりとしょげている。

 

……岩本さん……今井さんよりも年上なはずなのにね……元、だけども。

 

そのお説教は数分だったのか、それとも10分の大台を超えていたのかはわからない……聞こえないふりしてスマホに熱中するフリしてたから。

 

けどそれが終わった途端に今井さんが声を一瞬で普段のものに変えて話しかけて来る……やっぱり女の人って怖い。

 

あんなに低くて静かな声で起こってたのに、次の会話ではきゃるんってしてるんだもん。

 

「さて、響さんは通報もとい岩本さんたちがここに居ると教えてくださってありがとうございましたぁ!」

 

やめて、告げ口したって言わないで。

 

「……いえ、連絡が取れないということでしたし……萩村さんも心配していましたから……」

 

一応正当な理由を主張してみるけどもねこみみ病ペアは放心したような目で見てくる。

 

やめて、見ないで。

 

「誰がやったのこれ」って先生が聞いたら「この子たちです」って言っちゃったときみたいなことになってるから。

 

僕はたださっき、2人と話してるときに今井さんから「そろそろお迎えの時間なんだけど……もしかして島子さんたちそっちにいない?」って聞かれたからそれにお返事したに過ぎないのに。

 

「…………………………じー」

「…………………………じー」

 

ふたりから凝視されている。

 

「…………………………ふいっ」

 

僕はそっと目を逸らした。

 

「おふたりともぉー、車で待機していても全然来てくれませんしぃー、連絡も何回もしたお電話にも気がついていないみたいで困っていたんですよぉー。 GPSと事前の相談とでおおよその位置はわかっていたんですけどね、けど緊急時以外は政府の護衛の方にも連絡つきませんし……」

 

話しながらだんだんと僕に迫ってくる今井さん。

少しずつおしりを後ろにズリズリしていくのに、どんどんと近づかれる。

 

うん、これは懐かしい感じの今井さん。

 

もう怒っていたときのことは忘れよう。

うん、忘れる。

 

髪の毛を後ろで縛っている彼女はそろそろ僕の顔に前髪がかかってきそうだっていうところまで近づいて……上から迫ってきて、目をのぞき込まれる。

 

かがりみたいな近づき方。

女の子って上からが好きだよね……。

 

「でもー、あいかわらずに響さんって……いえ、なんだか以前お会いしたときよりもずっとずっと輝いていますね……! 輝かしいオーラを感じますっ」

「そうですか」

 

「どうですか? 最近心変わりとかされませんでしたか? ほら、こうして現役アイドルであるこのおふたりともこうして会っていらっしゃいますし、ひょっとしたら」

 

「いえ、それとはこれっぽっちも関係のないお話を聞いただけです」

「そこをなんとか?」

「なりませんね」

 

「しかし私の勘によるとですね……可能性、以前よりもだいぶ高まっているのでこれはもう押したらいけそうな……響さん、ちょっとまたライブ映像でも」

 

「――今井さん?」

「わわっ!? ……はー、萩村さん、脅かさないでくださいよ――……」

 

お化粧の塗り具合がはっきりと見える位置まで近づかれてしまっていた今井さんがぐっと離れて立ち上がり、後ろにいた……相変わらずの大きさだね……萩村さんへ振り向く。

 

「今井さん……以前にも話し合いましたよね……? 覚えていますよね、響さんからのアプローチがない限りはどうするのか」

 

もっと言ってあげて、この人しつこいから。

 

多分押しに弱い子とかってこういう人に連れたかれちゃうんだろうなってくらいだから。

 

「わかっていますよぅ、今のはかんたんなご挨拶だけで」

 

「今の、どうみても勧誘する気満々だったわよね? それも事務所に連れて行きそうな雰囲気で。 ねぇ?」

「ですにゃ。 ご病気のことも……響さんがいいって言っていましたから後で話しますけど、それを聞いても『じゃあ退院した後ならいいんですよね!』っていう感じで強引に話を進めそうな気配がしましたにゃ」

 

ねこみみ病さんたちは僕の味方になったらしい。

 

四面楚歌になってようやくに諦めてくれたらしい今井さんが離れて、代わりに萩村さんがしゃがみ込んで話してくる。

 

この前もそうだったけども……子役さんとかのお世話とかもしているのかな。

子供の相手になれている印象……僕は子供じゃないけどね。

 

背も高くてガタイもよくって少し顔もごつごつしてるからこそ圧迫感を減らそうとしているんだろう。

 

普段から堂々と上から迫ってくるマリアさんたちとは全然違うもん。

今井さんもイワンさんもマリアさんも萩村さんを見習うべきだ。

 

「クリスマス……の頃以来なので、もう3ヶ月近く前になりますか。 あのときに手を貸していただいたっきりで忙しさでお礼もできず」

「いえ。 お礼ならあのときにもごちそうしてもらいましたから」

 

……二言三言話して、ついでに今来た今井さんと萩村さんにも簡単に、しばらく会えないっていうのを……詳しいことは岩本さんたちから聞いてくださいって伝えて。

 

それを聞いた今井さんが近づいてきそうになったけど、萩村さんに止めてもらって。

 

優秀なボディガードだ。

 

「ではそろそろ行きましょう。 ああ、そういえば2時間後に予定していました収録はキャンセルです」

 

「ほへ?」

「にゃ?」

「あら? なにかあったんですか?」

 

「はい、広報の仕事が……また政府の方から直接、今井さんが出た直後に来たので。 それもこれから出向いた先ですぐに打ち合わせだそうです」

「えー、またですかぁ……スケジュールの調整、忙しそうですねぇ……」

 

目に見えてしょげた感じになる今井さんを見て僕は元気になった。

 

「まーたですか。 嫌ですねぇ」

 

見ていないうちにまとめたのか、いつものようなポニーテールに仕上げている岩本さんが立ち上がる。

 

「これだから広報のお仕事は好きじゃないんです。 もちろん必要なことなんでしょうけど、こっちの都合を無視していっつもこうですもん。 いくら契約しているからとは言っても一方的っていうのはどうかと思いますよ?」

「ですにゃあ……けど、やるからにはがんばらないとですにゃ。 ね?」

 

お別れの雰囲気。

 

僕はゆっくりと体をズラしてイスから滑り降り、ちゃんと着地。

 

「やだ、今のかわいい……!」

「こら、男の子相手ですにゃ」

 

足元を見ていた顔を上げると、いかついけどいちばんまともで話しやすい萩村さんとやっぱり近づいてほしくない今井さん、今日はねこみみさえ見せてもらえなかった島子さんとポニーテールがふわふわしている岩本さんが、僕を見下ろしていた。

 

……あぁ、大人と高校生と高校生になった人に囲まれると、ここまで圧迫感が。

改めて今の僕の小ささを実感する。

 

「それじゃあ響くんっ」

 

いつのまにかお会計の紙をレジに持って行っている今井さんの後ろ姿を見ていたら、岩本さんが上からのぞき込んできていて。

 

「ご病気、よくなったら連絡くださいねっ! ……聞いた感じだと結構かかる大変なものみたいですけど、きっとよくなるって信じていますっ。 何年後でもいいのでまたこうやって元気な顔を見ることができたら、私、とっても嬉しいですっ」

 

「ですにゃあ。 がんばってください……いえ、上手く行くことをお祈りしていますにゃ」

 

島子さんもまたかがんできていて服のあいだからちらっとしっぽが見えて、僕はちょっと満足した。

 

「……あれ? 待って? むしろ何年か経った後なら相対的な年齢っていうものが縮まって、つまりは年の差でもそんなに問題なく……」

 

そんなこと言ってるからショタコンって言われるんじゃない?

いいの?

 

「はいはい行きますよひかりさん。 煩悩をご本人に垂れ流すと嫌われちゃいますにゃ? ましてやこの場面で」

「……あっ!?」

 

変な顔になっていた岩本さんを立ち直らせるついでに、ちょっとだけしっぽをぺろっと出して見せてくれた島子さん。

 

……さすがに触らせてはくれないみたい。

 

だけどこれで満足だ。


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