【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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48話 彼の、準備 2 5/7

よし、いろいろあったけどねこみみ病&芸能関係の人たちとは良い感じのお別れができた。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待ってください響さん響さん!?」

 

良い感じのお別れって思ったのを早速にぶち壊す今井さん。

 

「響さんがご病気ってどういうことですか! なんでおふたりは知っているみたいなんですか! なんでそれを話してくれなかったんですかあとなんだか今呼び方も変だったような気のせいでしょうか!」

 

躁鬱激しいね……きっと地だよね、これって。

 

「ほらほら、急ぐんですよねー? 話せる部分だけはお話ししますから行きましょ、今井さん」

 

息継ぎもせずに話し始めようとした今井さんを遮るように、岩本さんと島子さんが息をそろえて腕を組んで彼女をホールド。

 

どうやらみんなにとっての今井さんってそういう認識らしい。

 

うん、これからもがんばってみんなで制御して?

 

「ち、ちょっとふたりとも!?」

 

「さー急ぐわよー」

「急ぎますにゃー」

 

「もう! 響さん、それではまたお会いしましょう! ご連絡は、ご連絡が来るの、いつまでも待っていますからね――!!」

「そうですか」

 

あ、最後の会話なのにいつもみたいに適当な返事しちゃった……けどまぁいいや。

 

とうとうドアの外まで引きずられて行った今井さんをぼーっと見ていたら萩村さんと目が合う。

 

「それでは私も失礼します……そして私からも。 ご病気がだそうですが……ご快復を祈っています」

 

「みなさんもどうかお元気で。 そう伝えてください」

 

やっぱり男相手は良いね、楽だから。

 

けどまぁ、あの人たちはみんないい人だったな。

ひとりを除けば。

 

いや、あの人だって「勘」っていうものに惑わされさえしなければ勧誘がうざったい程度の人っていうのは知っているんだけども。

 

だけど今見たようにあいかわらずだったし、やっぱり信用できないかな。

萩村さんっていうストッパーが居なきゃふたりきりになるのは危険。

 

そんなことを思っているうちに元の静かな雰囲気に戻って、お店が完全に静かな状態に戻ってからひと息。

 

……目の前には目を覆いたくなるようなプレートがある。

 

なにかしらのキャラクターが描かれちゃっていて、いかにも「お子さま用ですよ」っていう感じのそれが。

 

今の僕がお店に入ると勧められるそういうものが、目の前に。

 

お子さまランチ。

 

来たばっかりのときに「朝なのにあるんだなー」ってぼーっとしているあいだに岩本さんか島子さん……たぶん岩本さんが勝手に頼んじゃって、しょうがなく少しだけ口をつけただけだったそれ。

 

……やっぱり子供扱い。

 

これだから女の人は苦手なんだ。

 

最後の別れにケチが付いた感じで僕はぷんすかしながら頬張った。

 

……味付けが……味付けが、完全に子供向け……。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「今まで大変お世話になりました。 イワンさん、マリアさん」

 

お子さまランチとの格闘から意識を逸らすため、病室を引き払う……退院するときのことを思い出す。

 

半月ほど前のこと。

 

「もう約束の1ヶ月が経っているし、体もずっと安定しているし、反動……魔法さんのなにかが現れていないでしょ」って説得し続けてようやくに解放された、その日のこと。

 

持って帰るものなんてその何日か前から少しずつ運んでいたから、その日の僕は本当にスマホくらいしか持たない感じであの病院を後にすることになっていた。

 

「教えていただいたこと。 よく考えて、これから結論を出そうと思います……わぷ」

 

目の前が真っ暗になる。

顔が、体が、包まれる。

 

押される。

苦しい。

 

……これまでもよくあった、マリアさんからのハグ。

 

イワンさんもしてくるけど彼の方はおそるおそるって感じだし、なによりもマリアさんから今押しつけられているような圧迫感のあるものがないからずっとマシなんだけど……とにかくこれは苦しいもの。

 

胸もでかすぎると大変だよね……かがりの将来が非常に心配だ。

 

だってブラジャーって意外と硬いもんだからこうして顔に押し付けられると痛いんだもん。

 

あの子もマリアさんと同じように無意識にするからなぁ……。

 

けど、これも愛情表現なんだろうって我慢している。

僕は偉い。

 

けども……結局お金も払わせてくれなかったし、こっそり渡そうとしてもダメだったし。

 

あの後りさに聞いても「響さんのご家族がねー」ってはぐらかされて絶対に教えてもくれなくって、ゆりかとかがりに聞いてもやっぱりダメで、さよをちょっと押し気味にして聞いてみたらもう少しで聞けそうだったのにかがりに怒られてダメで。

 

だから……あのとき血で汚しちゃったお金と検査とかにかかったお金、入院で掛かるはずのお金……これは「お願いだから!」って言われたからまだしも……それをぜんぶ肩代わりされちゃって、どれだけ言っても払わせてくれなかったこのふたりには頭が上がらないっていう状態になっちゃっている。

 

善意とはわかっていても、好意は受けなきゃ相手に悪いってわかっていても、やっぱり不安なものは不安。

 

けどそれを言い始めてもはぐらかされるし、そのうちにいつものような会話に持って行かれちゃうから、もうこのままでいいんだろう。

 

善意は受け取る。

 

今まで全部「大丈夫です」で切り抜けて来ちゃった僕にとっては大変なことだけど、これも10年分のなんだって割り切ることにした。

 

まぁ利息とか付けられなければ返せる……よね?

大丈夫だよね?

 

お金を持っている人にとっては端金なんだってのは嘘じゃないよね?

 

「……んぷ」

 

そんなことを考えながら「そろそろと息が辛くなってきたなぁ」って考えていたらマリアさんからのハグから解放された。

 

よく見てみると、いつもは結構お堅い感じの服装なのに今日はラフな感じの格好をしているあたり、こうしてぎゅーっとするのを初めから決めて着たんだろうな。

 

いつもの何割か増しで長かったし。

 

ちなみにいつもは上着を脱いでからこうされる。

だから余計に人肌っていうものを感じるっていうか、困るんだ。

 

もう慣れっこだからどうでもいいけど。

 

まぁ銀髪幼女だしね、この見た目がどうしても庇護欲っていうものを引き出すんだろうしなぁ。

 

「うむ、響が元気になってくれてなによりだよ」

 

そういえばこの期間、お互いに呼び捨ての仲になった……僕からは無理だったから向こうからだけだけども。

 

おかげで中庭とかで話しかけて来る他の患者さんとかからは「優しいおじいちゃんとおばあちゃんねー」って言われる。

 

ごめんなさい、僕の祖父母も両親も天の彼方なんです。

 

「君の反動も完全に収まったと思って良く、さらにはそのあいだにたくさん話すことができて私たちは満足だ。 それに、私たちがしたことを君が気にすることはないさ。 我々は結束が固いからな。 同じような変異や変質……もっとも、君の場合は特殊だろうがね……それに悩む同志……じゃないな、仲間を見つけたとしたら、どんなことがあろうとも全力で手助けする。 当然のことなのだよ」

 

相変わらず微妙なアクセントとか語彙の違い、あとはこの人たちの事情ってやつで分からない会話もあったりする。

 

けどスルーして良いっぽいからそうし続けて3月だ。

 

話しながら立ち上がるマリアさんとずっと目を合わせ続けているけど、だんだんと首の後ろのほうに負担がかかってくる。

 

……やっぱりでかいなぁ、ふたりとも。

かといって後ろに下がるとなんだか失礼だし。

 

「響も……いや、外で会うときには響くんと呼んだ方がいいのかね?」

 

「良いですよ。 僕は困りません」

「そうか……ならこれまで通りに」

 

「うむ、嬉しいね。 ……もし、もし君が仲間を目にすることがあったら。 その彼または彼女が、その発現に明らかに戸惑っているようだったなら……ぜひ私たちに連絡を寄こしてほしい。 その後のことは私たちが君にしたように、丁重にもてなすからね」

 

僕がそういう場面に遭遇するとしても多分、よっぽどのことがなければきっと「ねこみみ病」の方に行くだろうけども。

 

「響」

 

今日は少し透けた感じの眼帯をしていて、そんなに違和感のないイワンさんが僕を見下ろしてくる。

 

「この国も……いや、先進国を始めとした多くの地域で、世界はようやく私たちの知る『これのほんの一部』について『ねこみみ病』などというものとして認めるようになった。 ようやく……現代に入ってずいぶん経ってからようやくに認められつつあり、人権も保障されるようになってきたと言えよう」

 

もうすっかり慣れて、どアップで目覚ましに見せられてもそこまではびっくりしなくなってきたイワンさんの顔を見る。

 

「しかしだな。 君もよく承知だろうが、人類が……これだけ暇さえあれば互いを攻撃し、暇がなくなれば人を数としてしか見ない殺し合いもする……そんな人類というものが『彼らとは違う我々』というものを、そう簡単に受け入れられるとは到底思えないのだよ」

 

そういう話になりそうになるたびに「僕怖いのは苦手なので」で回避はしてきた。

 

けど、このふたりは「初期のころにねこみみ病としていろんな国で『保護』された人たち」についてのヤな過去を知ってるらしい。

 

「外見が多少……創作物などで見慣れたものに変わる程度ならあの程度で済むのかも知れぬ。 しかし著しく変わったりしたり、あるいは……変質で特異な力というものを獲得してしまったりして、その制御が困難だったりする場合にはどうなるか。 ……想像は難くないだろう。 君なら理解できるはずだ」

 

うん。

 

だから僕は怖がって、だから徹底的に隠そうとして隠れたんだもんね。

実際にはだだ漏れだったけどね……主にお隣さんとかね。

 

「くれぐれも。 今一度しつこくとも言わせてもらうが、奴らのところには行かぬように。 これは私たちからの、大切な忠告だ。 そこまでの反動を起こすのだ、仮にそれが権力のある者たち、それも己の利益にしか興味のない輩に目をつけられたなら格好の実験材料とされ……ただ生きているだけ、そんな運命にもなりかねん。 くれぐれも気をつけるようにな」

 

そう、諭すように言われる。

入院中に何回も聞いたようなこと。

 

国家とか組織って言うものがいかに残酷か。

システムの中では人なんてただの部品でしかないって。

 

だけど僕は決めたんだ。

 

……まだなにか言いたそうだからじっと待っていたけど、なんだか動く気配がない。

 

「……な、なぁ響」

「なんでしょうか」

 

まだ続くらしい。

 

けど、またこの……孫をあやすような声。

 

……またぁ?

 

「なぁ、そのな? もちっと儂らのところにおることはできないだろうか? のう? だって儂ら、響のことがすっごく気に入っちゃったんだもんっ」

 

「これでさよならです」

「そこをなんとか、響」

 

「それで入院もただの検査から伸びましたよね」

「それはだね、君を助けようと」

 

エンドレスの会話。

 

でも今日だけは無理やりにでも区切って帰るんだ。

 

家から出るために、家に帰るんだ。

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