【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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49話 「あの日」と、彼が、「響」になった日/春 2/10

 

「……あっ! ちょ、ちょいとちょいとかがりん、時間、時間! 遅れた件はもーいいから、挨拶さっさとしとかんと!」

「あ、そうよね、お車の人も待たせてしまっているものね。 ごめんなさい、響ちゃん」

 

「いや、いいよ。 時間には一応余裕は持たせてあるから」

 

そうして彼女もそっと、手に持っていた紙袋を渡してくるかがり。

 

身構えたけども今度は軽い。

 

「はい、響ちゃん、私からも。 もう春も進んできて少し暑い日も出てきてしまったから、すぐにシーズンが終わってしまうかもしれないけど。 響ちゃんいつも寒そうにしているから、こういうのがいいと思って」

 

僕が寒そう?

あ、いつもの服装か。

 

今の僕を見られたくないからって、幼女だって知られるとまずいからって。

 

そう思い込んでいたから冬まではずっと……かがりにスカートを着せられて連れ回された一部を除いてほとんどはパーカー姿でフードも被ってた。

 

今の僕の体は暑くても平気みたいだからって真夏でも似たような格好で過ごして、みんなには肌が弱いって言ってた。

 

冬も冬でもこもこの多いコートを買ったし、外に出るときはブーツだったから。

 

……肌が弱いって設定のこと、多分この子忘れてるんだろうな。

 

でもいいや。

 

紙袋の中を覗くと薄い色の布。

 

「薄手のマフラーか」

 

「えぇ、ようやくに見つけたのよ! 響ちゃんにぴったりなもの」

「おかげで渡せないとこだったけどね? 反省して、かがりん」

「反省してますってばっ」

 

簡単な包装の中には、今の僕によく映えるマフラーが入っていた。

 

タグも切ってある、そのまま使えるようにしてあるものだったからひと言断って、ふわりと羽織る。

 

「やっぱり! 似合っているわっ!」

「おー、これはもはや主人公。 ヒーローもメインヒロインもいけますな。 つまりはダブルでおトク。 いいねー、そーゆーの」

 

喉に感じる、柔らかい感触が心地よい。

 

うん、春秋とか夏の冷房なところでも使えるストールとは違ってもこもこしている感じ。

 

「ありがとう、かがり。 この体は体温が低いから気がついたら冷えているんだ。 よく考えたらこの先も……移動中なども冷えそうだし、とてもありがたい」

 

これもまた、取り上げられたりはしないだろうもの。

 

……大切にしないとな。

 

「よかったわ、気に入ってもらえて。 お家に置いてきてしまったものに比べたら少し残念だけれども……それもまたよく似合っているわ! 男の子でも女の子でもどちらの格好をしていても合うものだから、よければ使ってちょうだい」

 

「うん、多めに巻けば冬の初めくらいまでは使えそうだし、緩くすれば夏でも。 大切に使わせてもらうよ」

 

喜んだかがりが思わずという感じでゆりかにハイタッチを仕掛ける。

 

かがりがそういうことをするなんて初めてだったからか、ゆりかもびっくりして反応が遅れたのもあって、身長差で上手く行かない。

 

今度はきちんと「ぱんっ」と手のひらを合わせたふたり。

 

そんなふたりを見て、両手で持ち直した本の重みと首を包んでいるふわふわを感じながら僕は言う。

 

「改めて、ありがとう。 ゆりか、かがり。 最初に出会った君たちから最後にこうして話をできて、贈りものまでもらって。 僕は……」

 

なにかを言おうとして、けれどもそれを思いかなくて。

 

けど、もうちょっとでいい感じの言葉が出て来そうになったところで、車からふぁんっと軽いクラクションの音が鳴る。

 

……時間なんだね。

 

多分5分どころじゃなくて10分くらいは待ってくれていたんだろう。

かがりが落ちつくまでに少しかかったし、その後にもけっこう話していたな。

 

その音を聞いてじゃれあいを止めて、とたんに悲しい顔に……けど一瞬でそれを飲み込もうとしてやっぱり無理だった、女の子なふたり。

 

うん。

 

そういう年相応なところはこんなにも。

性格も反対で年齢詐欺さも反対で……でも、やっぱり中学生の女の子たち。

 

「……時間、みたいだね。 僕は行かなきゃ……だから、ふたりとも」

 

運転手さんが出てきて、けど、無言で後ろの座席のドアを開けてくれるのを横目で見ながら、別れを告げる。

 

「……また、いつか。 早いかもしれないし遅いかもしれないけど、でも、きっと」

 

泣きそうだけど、でも精いっぱいの笑顔を作ろうとしてくれている、かがりとゆりか、ふたりの女の子を見上げながら。

 

「……また、もういちど。 今度はきっと……そう。 今度こそは『事情』で伝えられなかった、嘘じゃない、本当の『僕』と」

 

向き合ってほしい。

 

「………………っ!」

 

駆け寄ってきて……普段みたいに遠慮なしのじゃない、包み込むような抱きしめ方をしてくるかがり。

 

「………………また、ね」

 

普段みたいに僕が文句を言うまで離さないのとは違ってすぐに離れて、今度はゆりか。

 

ふたりの柔らかさと匂いを感じて「絶対に覚えておこう」って思って……そのまま振り返らないで車に乗る。

 

抱きしめられたときに上から温かいものがぽつぽつ来ていたし、そのあともあんまり顔を合わせたがらなかったから、これでよかったんだろう。

 

そうして静かに動き出した車の振動を感じながらマフラーをもこもこしたままうつむいていた。

 

「……ロータリーを出ました」

 

少しして見上げた窓の外は、もう駅前から離れていて、人もまばらになってきている。

 

あの子たちは――もう、見えない。

別れは済んだんだ。

 

みんなと……りさとさよ、かがりとゆりかっていうみんなと。

 

それも、とっても良い形で。

 

……うん。

 

ちゃんとした形のお別れができるって、幸せ。

そう思う。

 

 

 

 

運転手さんに頼んで家へ帰るルートからすこし外してもらって、懐かしい場所に降ろしてもらった。

 

そこは、かつての前の僕がよく散歩やジョギングに来ていてなじみ深くって。

 

今の僕になっても、女の子な格好に慣れるために歩いたり体力をつけるためにときどき来ていたりした。

 

けどいつもへばっちゃって帰りが辛くって、その上今井さんとばったり会っちゃったりした、あの運動公園。

 

季節は春、1年前のあの日のあの朝と同じくらいの日付。

 

気温も……今の僕になってから初夏まではまともに外にも出なかったからわからないけど、でも、きっとこうして花の匂いも木々の緑の匂いも、風が吹くたびにひらひらと飛んでくる桜の花びらも、きっと、あのときと同じはず。

 

僕自身は1回も来たことはないけど、でもちょっと遠くを見ればそうした見慣れた景色が広がる公園の駐車場に……僕の家への道にいちばん近いところに止めてくれた運転手さん。

 

「僕は別にもっと離れたところでもいいです」って言ったのに「これが仕事ですし、最後ですから」って言ってくれて、こうしてドアを開けてくれて、いつもみたいに手を取ってくれた。

 

「……本当にこちらでよろしいのですか? お時間が押している、そう伺っていましたが」

「はい、でもここから歩いて帰るくらいの時間はありますから……どうしても見て行きたくって」

 

「しかし私は、お嬢さま……響さまをご自宅までお送りするようにと」

 

たしかにマリアさんたちは「僕の安全が大事だから」とかなんとか言って絶対に反対しそうだけど……でも。

 

「済みません。 マリアさんたちに『僕の気分が急に変わって予定を変えたんだ』って伝えておいてください。 これから……少なくとも当分は帰ってきて見られないだろう見知った風景を歩いて、目に焼き付けて帰りたいんです」

 

「……承知しました」

 

「ここまで送っていただいて本当にありがとうございました。 あのおふたりにも、よろしくと伝えておいてください」

 

ためらいながらも僕の意志を尊重してくれて、本の入った袋を手渡してくれて会釈をする彼。

 

……その姿勢が90°近いのはいい加減に止めてほしいって何回も言ったけど結局止めてくれなかった運転手さんは車の中に入り、僕が手を振るのを見てから静かに駐車場を後にして行った。

 

……ぽつんと、風の音しか聞こえない駐車場に僕ひとり。

 

……これでひとりだな。

こうなる前の僕の、当たり前の時間。

 

最後の最後に、車の中からの眺めをぼーっと見ていたらふと思いついた、こうして懐かしい場所を歩きながら帰るっていうもの。

 

最後かもだもん。

これくらい良いよね。

 

僕は……歩いているうちにほどけちゃわないようにってマフラーを少しきつめに巻き直して、どうせ今晩からは使うこともないだろうから限界までがんばろうって、本の重さを意識しながら歩き出した。

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