【改稿中】銀髪幼女にTSしたニートな僕が過ごした1年間   作:あずももも

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49話 「あの日」と、彼が、「響」になった日/春 4/10

 

 

……今日はあの日みたいに陽の光がぽかぽかと体を温めて、緑の香りがして、気持ちいい風が吹いて、とても気持ちいい――春の穏やかな日。

 

小さくなったからなのか体質なのか前に比べると冷えやすくなった体も、この天気とあの子にもらったマフラーとでちょうどいい感じに温められている。

 

ふだんは青白い印象の今の僕の顔も、きっとほのかに色づいているはず。

 

ぼんやりと、元の体での今までのことと、今の体での今までのこと……そしてこれから先のことを考えて思い出しているうちに、いつの間にか家の前まで来ていた。

 

………………………………早いな。

本当に、時間が過ぎるのは、早い。

 

いざとなると本当に時間が過ぎるのが、早い。

十数分の距離があっという間に感じてしまう。

 

きっといつも通り、半分以上はまた思考に沈んでいたんだろうけど。

……そんなのはニートをしていたこの数年でしっかりと味わってきたことだ。

 

 

 

病気と付き合う。

そういう概念があるって知っていて、そしてあの病院で実感して。

 

だから僕は「気まぐれな魔法さんっていうものに取り付かれちゃった」とでも思って過ごしていくしかないんだろう。

 

そういう病気の人は、いっぱい見た。

 

たとえば昼間でも何をしていても、なんの理由もなしにいきなりに耐えられない眠気が襲ってくる人とか。

 

体が悪くて、あるいは悪くもないのに息苦しくて大変な人とか。

そのせいで体を激しく……ジョギングとかでさえしちゃいけなくて窮屈そうな人とか。

 

それに比べれば僕のこれだって……魔法さんだって、せいぜいがちっこい、見た目が目立つだけ。

 

貧弱、いや、冬眠とか血を吐くこととかを考えると病弱って言ってもいいのかもね……だけども、その程度だ。

 

別に死ぬとかだったりとっても苦しいとかいうものじゃない。

 

ただちょっと、見た目が変わってたまに変なことも起きる。

その程度なんだ。

 

冬眠したり血を吐くのだって説明さえしておけば良い。

 

僕はそういう珍しい病気を抱えてこそいるけど、それで死ぬ訳じゃないんだっていうことさえ周りの人たちが分かっているのならなんとかなる。

 

魔法さんが怒ったりしてもびっくりする程度で済んで……あのときみたいに悲しませるっていうことは、ない。

 

イワンさんたちのように。

 

その範疇に過ぎないんだ。

 

家の中でずーっとうだうだと考えてはいたけど、結局のところ僕に起きていることはとっても単純なことで――。

 

「あ」

 

背伸びをしながらドアの前で鍵をかちゃりと回したところで思い出す。

 

……忘れるところだった……これだから僕は。

 

いくら忙しかったって、なんとなくこうして感傷に浸っているだけだったとしても……さすがにあの人におわかれを言わないで出て行っちゃうのは失礼だもんね。

 

僕は鍵を反対に回して閉めて、それからお隣さんの飛川さんのお家へ。

 

実に何年ぶりだろう……僕の方から敷地に入って、そして、かつては押し慣れたチャイムを鳴らす。

 

「……くっ……」

 

……背伸びしないと押せないそれを。

 

「……あら、響くん? 今日はどうしたの?」

 

すぐに出てきた飛川さんの奥さんは、やっぱりいつ見ても……格好と髪の毛が明らかによそ行きじゃないのに、ほとんどお化粧もしていないのに、前の僕よりもほんの少ししか上じゃないって感じ。

 

この人のことを知ったらきっと、岩本さんが愕然とするだろうこと間違いなしだな。

 

なにしろ彼女よりも数個上のはずなのに、これで中学生のお子さん……さつきちゃんがいるんだから。

 

けど、世の中は不思議に満ちているんだ。

 

この人だって、ひょっとしたら……気がつかないうちにねこみみ病で若返っている可能性だってあるんだ。

 

僕はそもそも人の顔をじっくりと見るのが苦手……だったからよく見ていなかったせいでわからなくって、だからねこみみ病のあのふたりだったり、あるいは僕があの朝を迎えたあたりで自然と若返っていたりしてもおかしくはないんだ。

 

それに飛川家のみんなは……なんていうか、ふんわりとした感じの人しかいないからな。

 

気がつかないか、たとえ気がついたとしても喜ぶだけでおしまいだったのかもしれない。

 

……うん、この人たちならきっとそうだろう。

 

けど、今日話すのはそれについてじゃない。

 

「今日は春らしくていい天気だからお散歩してきたのかしら? でも響くんからうちに来るのは珍しいわねぇ……なにか相談でもあるのかしら? あら、それともお茶していく? ……またまたあいにくと、さつきは夕方にならないと帰って来られないけど」

 

「すみません、飛川さん」

 

 

「……えぇっ!? 海外に?」

「かもしれない、だけです。 まだ相談中で。 でもとりあえず一旦家を」

 

「ひょっとしたら海外で住むことになったり、お仕事も?」

「はい。 これも、もしかしたら……ですけど」

 

帰って来ないかもしれないんだ、多少盛ってそれらしく説明を済ませる。

大丈夫、この人は基本的に疑わない人だから。

 

……僕がニートしてたときもいろいろすんなりごまかせてたもん。

 

「あらあら、それにしてもいきなりなのねー? もっと早く教えてくれていたら、おわかれ会とかできたのに。 だって、さつきだって響くんに会いたがっていたんだし」

 

「ごめんなさい。 いろいろと……いろいろと、急だったので」

 

ごめんなさい……飛川さんのこと、かんっぜんに忘れていたんです。

 

ゴミ捨てのときにも何回も会っていたし、スーパーの帰りとかにもすれ違って雑談とかもしていたし。

 

それなのに忘れていた。

肝心のお隣さんっていうのを。

 

さっき鍵を回すときに「そういえば後ろから声をかけられたのが魔法さんが認識まで変えちゃうんだって知ったものの発端だったんだっけ」って思い出さなかったらご挨拶すらせずに出ていくところだった。

 

……反対側はずっと空き家だからどうだっていいとしても、昔からの顔なじみでよくお世話もしてくれていたのにね。

 

僕はいつもこうだ。

 

「えっと。 それで、ほとんどの片付けはもう終わっているんですけど、大きなものとかはそのままですし、なによりもこの後どうなるのか、まだわからなくて。 早ければ……そうですね、明日明後日にでも業者の人やや親戚たちが来たりしたり、荷物の出入りがあるかもしれないんです」

 

きっと掛かるだろう迷惑について説明しておく。

 

叔父さんの方にはメールでお願いしておいたけど……何でそこまでしておいて忘れてたんだか。

 

「なので、少しうるさくなるかもしれませんし……えっと、僕のことを聞きに来る人がいるかもしれません」

 

途中からは準備していないことばだったからしどろもどろになっちゃったけど、飛川さんは特に気にしていない……の、かな?

 

「それはいいけど……寂しくなるわねぇ」

「……はい、飛川さんにはとてもお世話になりました」

 

特に、父さんたちがいなくなってからの1年くらいは。

 

「けど、いいことなのよね、きっと」

 

彼女がしゃがんで僕と目線を合わせてくれる。

 

……子供じゃないのに子供になったからしょうがないんだ、うん。

 

「響くん、あれからずっとお母さんたちのことでふさぎ込んじゃってたから。 私たちじゃなんにも助けてあげられなかったけど、でもだんだん元気になってきて……ここのところはお仕事もときどきだったけど、でもようやく見つけられそうでなによりね!」

 

あ、撫でないで……なんかくすぐったいから。

 

……あ、撫でられるとなんか変な感覚。

 

「それにしても、こつこつ外国語をがんばって! それで引っ越して住むだなんて……ときどきふらっと旅をしてきたりしてたから知っていたけど、おとなしそうな顔してワイルドなんだからー。 きっとご近所じゃ、当分のあいだは響くんの話でいっぱいよ!」

 

「……噂、ほどほどにしてくださいね……」

 

魔法さん……病気っていうことは言わなくって「あくまでも長期間いなくなるかもしれない」っていうのと、きっと心配するだろうからって「お仕事が見つかりそうだから」っていう感じにぼかして説明した。

 

嘘ではあるんだけどもここで心配させるのは悪いから。

 

これは必要な嘘。

今ならちゃんと割り切れる。

 

「ねぇねぇ、もっとくわしく聞かせてくれないかしら!」

「! ……すみません、時間が……」

 

撫で撫でしていた腕が僕の腕を掴みそうになって、慌ててすり抜ける。

 

かがり相手に鍛えたすり抜けだけども……飛川さんってばこういうところあったんだよね……うん、女の人だからね……。

 

かがりに鍛えられていなかったら連れ込まれていたところだった。

 

はた迷惑も極まりないあの子だったけど、こういうタイプの女性に対する耐性ができたことについてはありがたく思う。

 

さんざんに振り回されたけども。

本当に大変だったけれども。

 

「あらあらそうなの、今日……って言うか、もうすぐに出ちゃうの?」

「はい、家に戻って支度をしたらすぐに迎えが」

 

「そう……残念ねぇ。 さつきも会いたがっていたのに、よりによってねぇ。 あと1、2時間で帰って来るのに」

「いえ、僕が急すぎるのが悪いんです。 本当なら何日か前には来なければならなかった僕が」

 

「いいのよ、きっと。 ……帰ってきたりはするのよね? なら、そのときに来てくれればいいわ! きっとあの子、成長した響くんにびっくりするわよー? ……ね、響くん?」

 

目の前が暗くなったって思ったらハグされる。

 

「………………」

 

……顔に胸を押し付けられる感覚にも慣れている僕自身がいる。

 

「がんばってきて。 私もさつきもうちの人も、それにご近所の人たちも、みーんな響くんのこと、応援してるから」

「……ありがとう、ございます」

 

そのあともなかなか離してくれなくって、「なにかお菓子でも持って行く?」とか「小さい頃に撮ってある写真とかいる?」とか、そんな感じの、いつもの……僕が中高生だったころにはしょっちゅう聞いていたような、昔懐かしい会話をして、挨拶をして。

 

「またね、響くんっ」

「はい、お元気で」

 

僕は彼女とも別れて、ようやくに家に入った。

最後になるかもしれない帰宅をした。

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